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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F28F
管理番号 1130804
異議申立番号 異議2003-73050  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-07-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-16 
確定日 2005-10-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3417825号「内面溝付管」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3417825号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯

特許第3417825号の請求項1に係る発明についての出願は、平成10年1月12日に出願され、平成15年4月11日にその特許の設定登録(同年6月16日特許掲載公報発行)がなされたが、同年12月16日に住友軽金属工業株式会社より、当該請求項1に係る発明についての特許異議の申立てがなされ、当審により平成16年4月13日付けの取消理由通知書がなされた(同年4月23日発送)のち、同年6月22日付けで訂正請求書及び意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求について

平成16年6月22日付けの訂正請求書(以下「本件訂正」という)は、本件の願書に添付した明細書を以下のとおり訂正することを請求するものである。

1.訂正請求の内容

・訂正事項a
特許請求の範囲請求項1の「Hf/Diは0.01乃至0.02」の記載を[Hf/Diは0.01以上0.020以下」と訂正する。

・訂正事項b
訂正事項aの訂正に伴い、発明の詳細な説明中の段落【0012】の「Hf/Diは0.01乃至0.02」の記載を[Hf/Diは0.01以上0.020以下」と訂正する。

2.本件訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

・訂正事項aについて
訂正事項aに係る訂正は、Hf/Diの値の上限値を、「0.02」から「0.020」に訂正するものであり、当該上限値の有効数字を2桁から3桁にすることにより構成要件を限定するものと認められるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして、本件の願書に添付した明細書の段落【0032】の【表1】にはHf/Diの値を有効数字3桁で表示しており、当該【表1】の実施例及び比較例のHf/Diの値を参酌すれば、当該Hf/Diの値を有効数字3桁で表示したとしても何らその記載内容に矛盾を生じるようなものではないから、この訂正は、願書に添付した明細書および図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

・訂正事項bについて
訂正事項bに係る訂正は、特許請求の範囲請求項1の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。また、この訂正にかかる構成は、訂正事項aに係る構成同様、願書に添付した明細書の段落【0032】の記載に基づくものと認められるから、この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび

したがって、本件訂正は、特許法第120条の4第2項並びに同条第3項で準用する同法第126条第2項及び第3項の各規定に適合するので、これを認容する。

第3 特許異議の申立てについて

1.本件発明

上記第2において本件訂正が認められた結果、本件の特許請求の範囲請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。

【請求項1】 管内面に管軸方向に傾斜する一の方向に延びる螺旋状の複数の平行溝を形成した内面溝付管において、前記溝間にはこの溝により相互に離隔されたフィンが形成されており、管の最大内径をDi、前記溝間に形成されたフィンの高さをHf、このフィンの基部の幅をWf、前記溝が形成された方向と管軸方向とがなすねじれ角をθ、前記溝の管周方向における溝ピッチをPとしたとき、Hf/Diは0.01以上0.020以下、θ/Diは2.0乃至4.5、Hf/Wfは1.6未満、Pは0.35乃至0.45(mm)であることを特徴とする内面溝付管。(以下「本件発明」という)

2.特許異議の申立ての理由の概要

(1)本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)本件発明1は、甲第1、2号証及び甲第3号に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平8-5278号公報
甲第2号証:特開平9-101093号公報
甲第3号証:特開平5-1891号公報

3.甲第1号証の記載事項

甲第1号証には次の記載がある。

ア.「本発明は、熱交換器等に用いられる内面溝付伝熱管に関し、特に凝縮効率を高めるための改良に関する。」(段落【0001】)

イ.「この種の内面溝付伝熱管は、空調装置や冷蔵庫等の熱交換器において蒸発管または凝縮管として主に使用されるもので、最近では内面の全面に亙って螺旋状の溝を形成することにより、溝同士の間に螺旋状のフィンを形成した伝熱管が広く市販されている。
現在主流となっている伝熱管は、引き抜きまたは押し出し加工により得られたシームレス(継ぎ目のない)管の内部に、外周面に螺旋溝が形成されたフローティングプラグを通すことにより、金属管の内周面の全面に亙って螺旋溝を転造する方法により製造されており、一般に使用されている外径10mm程度の伝熱管では、図18に示すように、フィンの高さHは0.15〜0.20mm、フィンのピッチP(隣接するフィンの頂点間の距離)は0.45〜0.55mm、フィン間に形成された溝の底幅Wは0.2〜0.3mm、フィンの両側面のなす角度βは50〜60゜程度とされている。」(段落【0002】〜【0003】)

ウ.「フィンを高くするとフィンの体積が増し、伝熱管の重量および材料コストが増すという欠点があった。」(段落【0005】)

エ.「市販の内面溝付伝熱管(シームレス管)と本発明に係る内面溝付伝熱管(電縫管)を用意し、これらの蒸発性能および凝縮性能を図8および図9に示す装置を用い、図中「測定部」に各伝熱管をセットして測定を行った。各伝熱管の形状および評価方法は、以下の通りである。
・・・・・・中略・・・・・・
従来品: 外径:8.05mm 内径:7.15mm
フィン高さ:0.17mm 底肉厚:0.28mm
溝底幅:0.19mm リード角:18゜
フィン頂角:40゜ フィン数:55
重量:68.3g/m 」(段落【0023】〜【0024】)

4.甲第3号証の記載事項

甲第3号証には次の事項が記載されている。

オ.「本発明は空気調和機、冷凍機、ボイラー等の熱交換器の中で、管内流体が相変化を行う用途に適した内面溝付伝熱管(以下単に内面溝付管という)の改良に関する。」(段落【0001】)

カ.「内面溝付管は、その概略を図10に示すように、銅管の如き金属管の内面に多数のらせん状の溝を設けたものである。
・・・・・・中略・・・・・・
従来から実用に供されている内面溝付管の代表的な形状を図11に示す。
しかし、かかる内面形状をもった溝付管は以下に述べるような理由で性能/コスト比が低い。
まず第1に、溝深さ(Hf)と性能が比例的な関係にあることは従来から衆知であるが、圧力損失が平滑管に比べて大幅に増大する限界は、溝深さ(Hf)と内径(Di)との比(Hf/Di)が0.02〜0.03付近にあるにも拘らず、従来品はHf/Di=0.018以下であるので、溝深さ(Hf)が圧力損失上の限界にまで達していなかった点にある。これはまた、従来形状のままで溝深さ(Hf)を大きくすることが即、単位重量(以下単重という)の増加につながるというコスト的な理由にも起因している。」(段落【0002】〜【0006】)

5.甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づく本件発明の容易想到性の検討

(1)甲第1号証記載の発明

上記「エ.」の記載に基づき、甲第1号証記載の従来品の「Hf/Di」、「θ/Di」、「Hf/Wf」及び「P」の値を計算すれば、それぞれ「0.023」、「2.40」、「0.71」及び「0.43」となる。
(ここで、Hf=フィン高さ=0.17、Di=外径-底肉厚×2=8.05-0.28×2=7.49、θ=18、P=π×Di/フィン数=3.14×7.49/55=0.43、Wf=P-溝底幅=0.43-0.19=0.24)
したがって、上記「イ.」の記載及び上記「エ.」の記載に基づく数値及び図面の記載を参酌すれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「管内面に管軸方向に傾斜する一の方向に延びる螺旋状の複数の平行溝を形成した内面溝付管において、前記溝間にはこの溝により相互に離隔されたフィンが形成されており、管の最大内径をDi、前記溝間に形成されたフィンの高さをHf、このフィンの基部の幅をWf、前記溝が形成された方向と管軸方向とがなすねじれ角をθ、前記溝の管周方向における溝ピッチをPとしたとき、Hf/Diは0.023、θ/Diは2.40、Hf/Wfは0.71、Pは0.43(mm)であることを特徴とする内面溝付管。」

(2)対比・判断

本件発明と甲第1号証記載の発明を対比すると、両者は、以下の一致点及び相違点を有する。
【一致点】
管内面に管軸方向に傾斜する一の方向に延びる螺旋状の複数の平行溝を形成した内面溝付管において、前記溝間にはこの溝により相互に離隔されたフィンが形成されており、管の最大内径をDi、前記溝間に形成されたフィンの高さをHf、このフィンの基部の幅をWf、前記溝が形成された方向と管軸方向とがなすねじれ角をθ、前記溝の管周方向における溝ピッチをPとしたとき、θ/Diは2.0乃至4.5、Hf/Wfは1.6未満、Pは0.35乃至0.45(mm)であることを特徴とする内面溝付管。
【相違点】
本件発明は、Hf/Diは0.01以上0.020以下であるのに対し、甲第1号証記載の発明は、Hf/Diは0.023である点

そこで、上記相違点について検討する。
本件発明において、Hf/Diの値に上限及び下限を設けた理由について検討すると、明細書の段落【0018】および図3の記載によれば、その下限値を0.01にした点については、それ未満では、フィンの高さが著しく低い場合、毛細管現象が起こらず冷媒液の拡散効果がほとんどなくなって、冷媒液が管の上部にまでは濡れ広がらなくなるため、蒸発熱伝達率が極めて低いためであるのに対し、上限値を0.020にした点については、図3の記載からみて上限値を変更することにより、下限値を変更したときのように、蒸発熱伝達率に顕著な変化は認められないから、段落【0018】に記載されているように、専ら、Hf/Diが0.020を超えると、従来品と比して、単重量を軽減することができないためであると認められる。
しかし、単重量を低減するという課題及びその解決手段としてHf(すなわち、フィンの高さ)を低くすることは、上記「ウ.」で摘示した甲第1号証記載や、上記「カ.」で摘示した甲第3号証の記載にあるように、本件発明の出願前において周知の課題及びその解決手段であるから、当該周知の課題に照らして、甲第1号証記載の従来品の単重量を低減すること、及びそのための手段としてHfの値を小さくすること(すなわち、Hf/Diの値を0.023より小さくすること)は、当業者であれば容易に想到できたことと認められ、具体的構成としてHf/Diの値を0.020より小さくすることに何ら困難性を認めることはできない。

6.むすび

以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証及び甲第3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反したなされたものである。
したがって、本件特許請求の範囲請求項1記載の発明(本件発明)に係る特許は、特許法第113条第1項第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
内面溝付管
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】管内面に管軸方向に傾斜する一の方向に延びる螺旋状の複数の平行溝を形成した内面溝付管において、前記溝間にはこの溝により相互に離隔されたフィンが形成されており、管の最大内径をDi、前記溝間に形成されたフィンの高さをHf、このフィンの基部の幅をWf、前記溝が形成された方向と管軸方向とがなすねじれ角をθ、前記溝の管周方向における溝ピッチをPとしたとき、Hf/Diは0.01以上0.020以下、θ/Diは2.0乃至4.5、Hf/Wfは1.6未満、Pは0.35乃至0.45(mm)であることを特徴とする内面溝付管。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はルームエアコン等の熱交換器に好適な、例えば、銅又は銅合金製の内面溝付管に関し、特に、軽量化を図った内面溝付管に関する。
【0002】
【従来の技術】
近時、ルームエアコンとして冷暖房兼用型のヒートポンプ式エアコンが主流となっている。そして、このヒートポンプ式エアコン等に使用される銅又は銅合金製伝熱管には蒸発性能及び凝縮性能が優れていることが要求される。伝熱管の蒸発性能を高めるためには、冷媒液を伝熱面である管内面全体に広めて管内面全体で冷媒の蒸発が生じるような構造が必要とされる。一方、伝熱管の凝縮性能を高めるためには、管内面が凝縮した冷媒液で覆われることを防止するために、冷媒液が管内面全体に広がることを防止するような構造が必要とされる。従って、蒸発性能及び凝縮性能が優れている伝熱管を得るためには、前述の相反する特性を満たす構造が必要とされる。
【0003】
そこで、かかる伝熱管には、管内面に螺旋状の複数の平行溝を形成して熱伝達効率を向上させた内面溝付管が使用されている。そして、この内面溝付管の管軸方向の単位長さあたりの重量(以下、単重量という)を軽減して熱交換器のコストを低下させることが進められている。例えば、軽量化を図った内面溝付管が特開平5-1891号公報及び特開平5-79783号公報に提案されている。特開平5-1891号公報に記載された内面溝付管においては、管内径に対する溝深さの比、溝の管軸に対するねじれ角、溝深さに対する溝断面積及びフィンの山頂角を規定することにより、内面溝付管の高性能化及び軽量化を図っている。
【0004】
一方、特開平5-79783号公報に記載された内面溝付管においては、管外径、溝の管軸に対するねじれ角、管内径に対する溝深さの比、管の肉厚、溝深さに対する溝底部の幅及びフィンの山頂角を規定することにより、内面溝付管の高性能化及び軽量化を図っている。
【0005】
また、管内面に相互に交差する複数の平行溝が形成された内面溝付管が提案されている(実開昭63-148078号公報)。この公報に記載された内面溝付管においては、管内面に相互に交差する溝が形成されているので、管内面には四角錘状の複数個の凸部が形成されている。このような形状とすることにより、それまでの内面溝付管よりも伝熱性能を向上させている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述の従来の内面溝付管よる単重量の軽減及び伝熱性能の維持は十分なものではないという問題点がある。
【0007】
特開平5-1891号公報に記載された内面溝付管においては、管内径に対する溝深さの比を0.02乃至0.03と規定しており、フィンが高く単重量の軽減が十分ではない。
【0008】
また、特開平5-79783号公報に記載された内面溝付管においては、管内径に対する溝深さの比を0.023乃至0.025と規定しており、フィンが高く単重量の軽減が十分ではない。
【0009】
一方、単に管内径に対する溝深さの比を小さく設定したのでは、フィンが低くなって伝熱性能が低下してしまう。
【0010】
また、実開昭63-148078号公報に記載された内面溝付管においても、単重量の軽減は十分ではない。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、伝熱性能を低下させることなく単重量を軽減することができる内面溝付管を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る内面溝付管は、管内面に管軸方向に傾斜する一の方向に延びる螺旋状の複数の平行溝を形成した内面溝付管において、前記溝間にはこの溝により相互に離隔されたフィンが形成されており、管の最大内径をDi、前記溝間に形成されたフィンの高さをHf、このフィンの基部の幅をWf、前記溝が形成された方向と管軸方向とがなすねじれ角をθ、前記溝の管周方向における溝ピッチをPとしたとき、Hf/Diは0.01以上0.020以下、θ/Diは2.0乃至4.5、Hf/Wfは1.6未満、Pは0.35乃至0.45(mm)であることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、管内面に形成される溝の形状を適切なものに規定しているので、従来品と比して、蒸発性能及び凝縮性能を低下させることなく単重量を低減することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本願発明者等が前記課題を解決するために鋭意実験研究を重ねた結果、管の最大内径Diに対するフィンの高さHfの比Hf/Di、最大内径Diに対する螺旋溝の管軸に対するねじれ角θの比θ/Di、フィンの基部の幅Wfに対するフィンの高さの比Hf/Wf及び溝ピッチPを適切な値に規定することにより、伝熱性能を低下させることなく銅又は銅合金製の内面溝付管の単重量を軽減することができることを見い出した。
【0015】
以下、本発明に係る内面溝付管に関する数値限定理由について説明する。図1は内面溝付管の最大内径Di、フィンの高さHf、フィンの基部の幅Wf及び溝ピッチPに該当する位置を説明する模式的断面図である。内面溝付管1の内面には、管軸方向に対して傾斜する一の方向に延びる螺旋状の溝2が一定の間隔で形成されている。これにより、隣り合う溝2間には、山形状のフィン3が形成されており、このフィン3は溝2により相互に離隔されている。即ち、隣り合うフィン3の基部同士は相互に接触せず、溝2の底部4により相互に離隔されている。ここで、最大内径Diとは、溝2の底部4から管軸(図示せず)までの距離を2倍したものである。また、フィンの高さHfとは、フィン3の頂部5から管軸を中心とし(Di/2)を半径とする円柱面までの距離である。フィンの基部の幅とは、フィン3の基部における両側面6の間隔である。そして、溝ピッチPとは、前記円柱面における隣り合うフィン3間の間隔であり、管周方向の溝数をmとしたとき、(π×Di/m)で表わされる。
【0016】
図2(a)は内面溝付管のねじれ角θに該当する位置を説明する模式的斜視図であり、(b)は同じく模式的断面図である。螺旋溝の管軸に対するねじれ角θとは、内面溝付管1を管軸に平行な切開部7に沿って切開き展開したとき、管軸方向と溝2が延びる方向とがなす角度である。
【0017】
最大内径Diに対するフィンの高さHfの比Hf/Di:0.01乃至0.02
本願発明者等は、最大内径Diに対するフィンの高さHfの比Hf/Diと蒸発熱伝達率との関係を調査した。この結果を図3に示す。図3は横軸に比Hf/Diをとり、縦軸に蒸発時の管内熱伝達率をとって両者の関係を示すグラフ図である。なお、管内熱伝達率の測定では、外径が7mm又は9.52mmの2種類の内面溝付管を使用し、冷媒にはR22を使用した。R22とは、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)における呼称であって、化学式CHF2Clで示されるフロン系冷媒である。内面溝付管の長さは、外径が7mmのもので3m、外径が9.52mmのもので4mである。また、外径が7mmの内面溝付管を使用したときの冷媒流量は30kg/hであり、外径が9.52mmの内面溝付管を使用したときの冷媒流量は冷媒流量は40kg/hである。更に、蒸発温度は7.5℃、膨張弁前温度は40℃、出口過熱度は5℃である。図3において、実線は外径が7mmの内面溝付管の結果を示し、破線は外径が9.52mmの内面溝付管の結果を示している。
【0018】
最大内径Diに対するフィンの高さHfの比Hf/Diが0.01未満であると、図3に示すように、蒸発熱伝達率が極めて低い。これは、フィンの高さが著しく低い場合、毛細管現象が起こらず冷媒液の拡散効果がほとんどなくなって、冷媒液が管の上部にまでは濡れ広がらなくなるためである。一方、比Hf/Diが0.02を超えると、従来品と比して、単重量を軽減することができない。従って、最大内径Diに対するフィンの高さHfの比Hf/Diは0.01乃至0.02とする。
【0019】
最大内径Diに対する螺旋溝の管軸に対するねじれ角θの比θ/Di:2.0乃至4.5
本願発明者等は、最大内径Diに対する螺旋溝の管軸に対するねじれ角θの比θ/Diと蒸発熱伝達率、凝縮熱伝達率及び圧力損失との関係を調査した。この結果を図4(a)及び(b)並びに図5に示す。図4(a)及び(b)は横軸に比θ/Diをとり、縦軸に管内熱伝達率をとった図であって、(a)は比θ/Diと蒸発時の管内熱伝達率との関係を示すグラフ図、(b)は比θ/Diと凝縮時の管内熱伝達率との関係を示すグラフ図である。蒸発時の管内熱伝達率の測定条件は前述のものと同様である。また、凝縮時の管内熱伝達率の測定では、前述と同様の内面溝付管及び冷媒を使用し、凝縮温度を45℃、入口温度を70℃、出口過冷却度を5℃とした。なお、図4(a)及び(b)において、実線は外径が7mmの内面溝付管の結果を示し、破線は9.52mmの内面溝付管の結果を示している。
【0020】
図4(a)に示すように、比θ/Diが約2.0であるときに蒸発熱伝達率は最大となっている。冷媒を管内面全体に容易に濡れ広がらせるために、溝は管軸方向に対して傾斜する方向に延びて螺旋状に形成されている。しかし、ねじれ角θが過度に大きくなると、冷媒に作用する力のうち重力成分が大きくなり、冷媒は管の上部には濡れ広がりにくくなって、却って蒸発熱伝達率が低下する。
【0021】
また、図4(b)に示すように、比θ/Diの増加に伴って凝縮熱伝達率は向上するが、比θ/Diが4.5近傍に達したところでほとんど飽和する。凝縮熱伝達率を向上させるためには、蒸発熱伝達率の場合とは逆に、冷媒の濡れ広がり性を低下させる必要がある。内面溝付管内に流入した気体冷媒は管の内壁に熱を奪われ凝縮されて液体となるものであるが、濡れ広がり性が高い場合、液化した冷媒が管内面を覆う。そして、冷媒そのものが熱抵抗として作用し凝縮熱伝達率が低下してしまう。このため、管の上部は常に乾いた状態であって気体の冷媒を凝縮させ、液化した冷媒は管底部を流れる状態であることが望ましい。
【0022】
前述のように、ねじれ角θが大きくなると、冷媒は管の上部に濡れ広がりにくくなるため、管上部に乾いた領域を形成することが可能となる。しかし、ねじれ角θを大きくしても、管軸に直交する断面における冷媒が流れ得る領域の面積が大きくなるわけではないので、乾いた領域の面積には上限が存在する。このため、図4(b)に示すように、比θ/Diの向上が飽和するねじれ角θが存在する。
【0023】
図5は横軸に比θ/Diをとり、縦軸に蒸発時の圧力損失をとって両者の関係を示すグラフ図である。なお、測定条件は前述のものと同様である。図5において、実線は外径が7mmの内面溝付管の結果を示し、破線は9.52mmの内面溝付管の結果を示している。内面溝付管において、ねじれ角θを大きくすると、図5に示すように、それに連れて圧力損失が増加する。圧力損失が増加すると、蒸発時に熱交換器入口温度が上昇して空気と冷媒との温度差が小さくなる。このため、蒸発熱伝達率が低下する。
【0024】
以上より、蒸発性能を重視する場合には、比θ/Diを約2.0に、凝縮性能を重視する場合には、比θ/Diを約4.5に設定すると、夫々の最適な性能を得ることができる。しかし、最近のルームエアコンにおいては、冷暖房兼用型が主流であるので、内面溝付管には高い蒸発性能及び高い凝縮性能が要望される。従って、最大内径Diに対する螺旋溝の管軸に対するねじれ角θの比θ/Diは2.0乃至4.5とする。
【0025】
フィンの基部の幅Wfに対するフィンの高さHfの比Hf/Wf:1.6未満
本願発明者等は、フィンの基部の幅Wfに対するフィンの高さHfの比Hf/Wfと拡管後のフィンの傾斜角との関係を調査した。この結果を図8に示す。図8は横軸に比Hf/Wfをとり、縦軸に拡管後のフィンの傾斜角をとって両者の関係を示すグラフ図である。また、図9はフィンの傾斜角ξを説明する模式的断面図である。なお、拡管後のフィンの傾斜角の測定では、先ず、マンドレルの先端に取付けられた拡管ブリットを内面溝付管内に挿入し、内面溝付管を押し拡げて内面溝付管をフィン材に密着させた。次に、図9に示すように、拡管により傾斜したフィンが突出する方向8と半径方向9とがなす角度を傾斜角ξとして測定した。
【0026】
フィンの基部の幅Wfに対するフィンの高さHfの比Hf/Wfが1.6以上であると、図8に示すように、傾斜角ξが著しく高くなる。また、拡管によりフィンが潰れやすくなる。このように、傾斜角ξが高くなったりフィンが潰れると、内面溝付管の伝熱性能が発揮されないことがある。従って、フィンの基部の幅Wfに対するフィンの高さHfの比Hf/Wfは1.6未満とする。
【0027】
溝ピッチP:0.35乃至0.45(mm)
本願発明者等は、溝ピッチPと蒸発熱伝達率、凝縮熱伝達率及び単重量との関係を調査した。この結果を図6(a)及び(b)並びに図7に示す。図6(a)及び(b)は横軸に溝ピッチPをとり、縦軸に管内熱伝達率をとった図であって、(a)は溝ピッチPと蒸発時の管内熱伝達率との関係を示すグラフ図、(b)は溝ピッチPと凝縮時の管内熱伝達率との関係を示すグラフ図である。管内熱伝達率の測定条件は前述のものと同様である。また、図7は横軸に溝ピッチPをとり、縦軸に単重量をとって両者の関係を示すグラフ図である。なお、図6(a)及び(b)並びに図7において、実線は外径が7mmの内面溝付管の結果を示し、破線は9.52mmの内面溝付管の結果を示している。
【0028】
溝ピッチPが0.35mm未満であると、溝部の幅が極めて狭くなるので、図6(a)に示すように、蒸発熱伝達率が極めて低い。また、図7に示すように、単重量が増加する。一方、溝ピッチが0.45mmを超えると、管内面の表面積が減少するため、図6(b)に示すように、凝縮熱伝達率が極めて低くなる。従って、溝ピッチPは0.35乃至0.45(mm)とする。
【0029】
なお、内面溝付管の素材は銅又は銅合金に限定されるものではない。例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金製内面溝付管としてもよい。
【0030】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
【0031】
先ず、下記表1及び2に示す形状の溝を有する内面溝付管を作製した。なお、各内面溝付管の溝部における肉厚は0.28mm、外径は9.52mm、長さは4mである。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
次に、各実施例及び比較例について、冷媒としてR22を使用し、この冷媒の流量を40kg/hとして蒸発熱伝達率及び凝縮熱伝達率を測定した。また、単重量及び拡管後のフィンの傾斜角ξも測定した。なお、測定用の供試材は、拡管率105%の拡管を施されたものである。なお、拡管率は、(拡管後の外径)/(拡管前の外径)×100で算出されるものである。これらの結果を下記表3に示す。
【0035】
蒸発熱伝達率を測定する際には、蒸発温度を7.5℃、膨張弁前温度を40℃、出口過熱度を5℃とした。
【0036】
一方、凝縮熱伝達率を測定する際には、凝縮温度を45℃、入口温度を70℃、出口過冷却度を5℃とした。これらの結果を下記表3に示す。なお、表3において、蒸発熱伝達率及び凝縮熱伝達率は従来品である比較例3の値を基準値1.00として、換算した値である。
【0037】
【表3】

【0038】
上記表3に示すように、実施例1においては、内面溝付管の溝形状が適切なものであるので、従来品と同等の性能を維持しながら単重量を著しく低減することができた。また、実施例2においては、内面溝付管の溝形状が適切なものであるので、単重量を軽減することができると共に、蒸発熱伝達率及び凝縮熱伝達率を著しく向上させることができた。
【0039】
一方、比較例4においては、溝ピッチPが本発明範囲の下限未満であるので、蒸発熱伝達率が低かった。
【0040】
比較例5においては、溝ピッチPが本発明範囲の上限を超えているので、熱伝達率、特に凝縮熱伝達率が低かった。
【0041】
比較例6においては、比Hf/Diが本発明範囲の下限未満であるので、単重量は低減されているものの、蒸発熱伝達率及び凝縮熱伝達率が著しく低かった。
【0042】
比較例7においては、比θ/Diが本発明範囲の下限未満であるので、凝縮熱伝達率が低かった。
【0043】
比較例8においては、比Hf/Wfが本発明範囲の上限を超えているので、拡管後のフィンの傾斜角ξが著しく大きくなった。このため、熱伝達率、特に蒸発熱伝達率が低かった。
【0044】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、管内面に形成される溝の形状を適切なものに規定しているので、従来品と比して、伝熱性能を低下させることなく単重量を低減することができる。これにより、熱交換器のコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
内面溝付管の最大内径Di、フィンの高さHf、フィンの山頂角α及び溝ピッチPに該当する位置を説明する模式的断面図である。
【図2】
(a)は内面溝付管のねじれ角θに該当する位置を説明する模式的斜視図であり、(b)は同じく模式的断面図である。
【図3】
横軸に比Hf/Diをとり、縦軸に蒸発時の管内熱伝達率をとって両者の関係を示すグラフ図である。
【図4】
(a)は比θ/Diと蒸発時の管内熱伝達率との関係を示すグラフ図、(b)は比θ/Diと凝縮時の管内熱伝達率との関係を示すグラフ図である。
【図5】
比θ/Diと蒸発時の圧力損失との関係を示すグラフ図である。
【図6】
(a)は溝ピッチPと蒸発時の管内熱伝達率との関係を示すグラフ図、(b)は溝ピッチPと凝縮時の管内熱伝達率との関係を示すグラフ図である。
【図7】
横軸に溝ピッチPをとり、縦軸に単重量をとって両者の関係を示すグラフ図である。
【図8】
比Hf/Wfと拡管後のフィンの傾斜角ξとの関係を示すグラフ図である。
【図9】
フィンの傾斜角ξを説明する模式的断面図である。
【符号の説明】
1;内面溝付管
2;溝
3;フィン
4;底部
5;頂部
6;側面
7;切開部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-07-16 
出願番号 特願平10-4280
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (F28F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 佐野 遵丸山 英行  
特許庁審判長 岡 千代子
特許庁審判官 原 慧
井上 哲男
登録日 2003-04-11 
登録番号 特許第3417825号(P3417825)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 内面溝付管  
代理人 中島 正博  
代理人 中島 三千雄  
代理人 藤巻 正憲  
代理人 藤巻 正憲  

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