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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1130816
異議申立番号 異議2003-72442  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-02-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-03 
確定日 2005-12-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3393879号「複合材料、その製造方法及びそれを用いた樹脂成形材料」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3393879号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許第3393879号の発明は、平成4年7月22日に特許出願され、平成15年1月31日にその特許権の設定登録がなされ、その後、株式会社 豊田中央研究所(以下、「特許異議申立人A」という。)及び玉垣 雅也(以下、「特許異議申立人B」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年8月3日に訂正請求書及び意見書が提出され、これらについて特許異議申立人A、Bに審尋がなされ、これに対して両特許異議申立人から回答書が提出され、特許権者から平成16年10月21日付けで上申書が提出され、特許権者及び特許異議申立人A、Bに再度審尋がなされ、これに対して特許権者及び両特許異議申立人から回答書が提出され、更にその後、特許異議申立人Aから平成17年10月11日付けで上申書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の要旨
(1)訂正事項a
請求項1の
「(A)エチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体及び(B)全重量に基づき0.5重量%以上の平均粒径2μm以下を有する粒子状無機層状物質からなり、該粒子状無機層状物質が層間に有機物カチオン、有機物アニオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした平均粒径2μm以下の微粒子であって、これが(A)成分中に非凝集状態で均質に分散していることを特徴とする複合材料。」を
「(A)エチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体及び(B)全重量に基づき0.5重量%以上の平均粒径2μm以下を有する粒子状無機層状物質からなり、該粒子状無機層状物質が層間に有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした平均粒径2μm以下の微粒子であって、これが(A)成分中に二次凝集を起こすことなく均質に分散しており、加熱分解後、走査電子顕微鏡で観察したとき、灰分中に長径1μm以上の粒子が認められないことを特徴とする複合材料。」と訂正する。

(2)訂正事項b
請求項6の
「有機物カチオン、有機物アニオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質を、有機溶媒中に膨潤分散して有機分散液を調製し、次いでこれにエチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体の有機溶媒溶液を加え混合したのち、有機溶媒を除去することを特徴とする複合材料の製造方法。」を
「有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質を、有機溶媒中に膨潤分散して有機分散液を調製し、次いでこれにエチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体の有機溶媒溶液を加え混合したのち、有機溶媒を除去することを特徴とする複合材料の製造方法。」と訂正する。

(3)訂正事項c
段落【0006】の
「有機物カチオン、有機物アニオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種」(2箇所)を
「有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種」と訂正し、
「これが(A)成分中に非凝集状態で均質に分散している」を
「これが(A)成分中に二次凝縮を起こすことなく均質に分散しており、加熱分解後、走査電子顕微鏡で観察したとき、灰分中に長径1μm以上の粒子が認められない」と訂正する。

(4)訂正事項d
段落【0008】の
「有機物カチオン、有機物アニオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種」を
「有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種」と訂正する。

(5)訂正事項e
段落【0009】の
「前者の例としては、粘土鉱物の結晶層間の金属カチオン又はアニオン(酸アニオン)をイオン性界面活性剤を用いてイオン交換する場合を挙げることができる。」を
「前者の例としては、粘土鉱物の結晶層間の金属カチオンをイオン性界面活性剤を用いてイオン交換する場合を挙げることができる。」と訂正する。

(6)訂正事項f
段落【0010】の
「有機物カチオン、有機物アニオン、アミン類」を
「有機物カチオン及びアミン類」と訂正する。

(7)訂正事項g
段落【0018】の
「凝集することなく均質に分散した」を
「二次凝集することなく均質に分散した」と訂正する。

(8)訂正事項h
段落【0031】の
「二次粒子が多数凝集して」を
「二次凝集粒子が多数凝集して」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aは、実質的に次の3つの訂正を含んでいる。
(a-1)請求項1の「有機物カチオン、有機物アニオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種」を「有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種」とする訂正
(a-2)請求項1の「これが(A)成分中に非凝集状態で均質に分散している」を「これが(A)成分中に二次凝集を起こすことなく均質に分散しており、」とする訂正
(a-3)「加熱分解後、走査電子顕微鏡で観察したとき、灰分中に長径1μm以上の粒子が認められない」を加入する訂正
これらについてみると、
(a-1)は、3者ある選択肢の内の一つである「有機物アニオン」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(a-2)は、訂正前の明細書の「該無機層状物質が二次凝集を起すことなく、高分子化合物中に均質かつ微細に分散した複合材料が得られる」(段落【0005】)及び「本発明の複合材料は・・・凝集することなく均質に分散したものである」(段落【0018】)との記載、更には比較例2の「3〜5μm程度の二次粒子が多数凝集して」(段落【0031】)という好ましくない例についての記載等に基づいて、無機層状物質の集合状態をより明りょうにしたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(a-3)は、訂正前の明細書の「この複合材料を加熱分解し、走査電子顕微鏡(SEM)で灰分観察を行ったところ、平均粒径1μm以下のベントナイト層が独立して存在することを確認した」(段落【0028】)との記載に基づいて、複合材料の特性を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)訂正事項b〜hは訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴って、発明の詳細な説明の対応する記載をこれと整合させようするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(3)そして、訂正事項a〜hはいずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1〜6に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

「【請求項1】(A)エチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体及び(B)全重量に基づき0.5重量%以上の平均粒径2μm以下を有する粒子状無機層状物質からなり、該粒子状無機層状物質が層間に有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした平均粒径2μm以下の微粒子であって、これが(A)成分中に二次凝集を起こすことなく均質に分散しており、加熱分解後、走査電子顕微鏡で観察したとき、灰分中に長径1μm以上の粒子が認められないことを特徴とする複合材料。
【請求項2】無機層状物質が粘土鉱物である請求項1記載の複合材料。
【請求項3】請求項1又は2記載の複合材料と合成樹脂との溶融混練物から成る樹脂成形材料。
【請求項4】合成樹脂がビニル系高分子化合物である請求項3記載の樹脂成形材料。
【請求項5】前記無機層状物質の含有量が0.5〜70重量%である請求項3又は4記載の樹脂成形材料。
【請求項6】有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質を、有機溶媒中に膨潤分散して有機分散液を調製し、次いでこれにエチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体の有機溶媒溶液を加え混合したのち、有機溶媒を除去することを特徴とする複合材料の製造方法。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議申立人の主張
4-1-1.特許異議申立人Aの主張
特許異議申立人Aは、甲第1〜3号証を提出し、概略、つぎの理由により訂正前の請求項1〜6に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)訂正前の本件請求項1〜6に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件明細書の記載には不備があるから、本件特許出願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4-1-2.特許異議申立人Bの主張
特許異議申立人Bは、甲第1号証を提出し、概略、つぎの理由により訂正前の請求項1〜5に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)訂正前の本件請求項1〜3及び5に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は、本件出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。
(3)訂正前の本件明細書の記載には不備があるから、本件特許出願は特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。(註:特許異議申立人Bは「特許法第36条第6項第2号」違反を主張しているが、平成4年7月22日の出願である本件に適用される特許法の規定からみて、実質的に特許法第36条第5項第2号違反を主張するものと認められる。)

4-2.合議体の判断
4-2-1.取消理由
当審において通知した取消理由及び引用した刊行物は以下のとおりである。
(1)訂正前の本件請求項1〜5に係る発明は本件出願前に頒布された刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件明細書の記載には不備があるから、本件特許出願は特許法第36条第4項、5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない。

<刊行物>
刊行物1:特開昭63-215775号公報(特許異議申立人Aが提出した甲第1号証、特許異議申立人Bが提出した甲第1号証)
刊行物2:R.T.Morrison,R.N.Boyd著 中西,黒野,中平訳「モリソン ボイド 有機化学(上)第5版」,(株)東京化学同人,1989.7.1,p.32-37、表紙、奥付(特許異議申立人Bが提出した甲第2号証)
刊行物3:東京・工学院大学「微粒子複合材料による高機能材料の展開」、第1回高分子ABC研究会講座 講演要旨集,(社)高分子学会,1992.9.9,p.25-30
なお、刊行物3は本件の出願後に頒布されたものであるから、以下の特許法第29条第2項違反の判断においては、証拠として採用しない。

4-2-2.刊行物1及び2の記載事項
刊行物1
(1-1)「(1)ビニル系高分子化合物を含む樹脂と、該樹脂中に分子状に分散した層状の粘土鉱物とからなり、該粘土鉱物は層厚さが7〜12Åで層間距離が30Å以上であることを特徴とする複合材料。
(2)上記粘土鉱物は、樹脂100重量部に対して0.5〜150重量部含有してなる特許請求の範囲第(1)項記載の複合材料。
(3)陽イオン交換容量が50〜200ミリ当量/100gの層状の粘土鉱物を、末端にビニル基を有するオニウム塩によりイオン交換するイオン交換工程と、該イオン交換された粘土鉱物とビニル系高分子化合物のモノマーとを混合する混合工程と、上記混合物中の上記モノマーを重合させる重合工程とからなることを特徴とする複合材料の製造方法。」(特許請求の範囲)

(1-2)「ここで、ビニル系高分子化合物とは、ビニル基を有するモノマーの重合体の総称であり、・・・。上記モノマーの具体的なものとしては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、・・・等が挙げられそれらのうちの1種または2種以上を使用する。」(第2頁右下欄8行〜第3頁左上欄末行)

(1-3)「ここで、ビニル系高分子化合物のモノマーは、重合後、ビニル系高分子化合物とそれ以外の重合体との混合物になる原料であり、複合材料の基体をなすものである。該モノマーとしては、前記に示したごとく、エチレン、プロピレン等のビニル基を有するものである。」(第4頁左下欄2〜7行)

(1-4)「本発明の製造方法では、交換性カチオンを有する層状鉱物において高分子を構成する基本単位となるユニット分子をその層間に結合させておき、高分子を重合させるのが原理となる。これにより、層状鉱物の層間において重合が進行し、その重合のエネルギーで層間が広がり、鉱物層が高分子と結合すると共に、高分子中で均一に分散した複合材料が得られる。
以上の様にして得られた複合材料は、直接射出成形や加熱加圧成形などで成形して利用してもよいし、予め他の高分子と混合して所定の混合割合としてもよい。」(第4頁右下欄16行〜第5頁左上欄7行)

(1-5)「実施例1
粘土鉱物としてクニミネ工業製〔クニピアF〕(高純度Na型モンモリロナイト:層厚さ9.6Å)を用い、末端にビニル基を有するアンモニウム塩として
CH2 =C(CH3)COOCH2 CH2 N+ (CH3 )3 Cl- で表されるものを用いた。両者を水中で攪拌・混合することにより、上記粘土鉱物をイオン交換した。
このイオン交換した粘土鉱物5重量部をN,N’-ジメチルホルムアミド中に分散させ、これにビニル系高分子化合物モノマーとしてのメチルメタクリレート(MMA)100重量部と、ラジカル重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5重量部と、水10重量部を添加し、60℃において5時間加熱攪拌した。-中略-
得られたポリマーは、IR,NMR,元素分析により、ポリメチルメタクリレート中にモンモリロナイトを5.7%含有した複合材料であることが判明した。X線回折の結果はモンモリロナイトのd(001)面が完全に消失し、ポリマー中へモンモリロナイトの一層一層が均一に分散していることを示していた。」(第5頁右下欄7行〜第6頁左上欄12行)

刊行物2
(2-1)「1・16 分子と極性
負電荷中心と正電荷中心が一致しなければ、分子は極性を帯びる。このような分子は双極子を構成する。すなわち、ここには大きさが等しく、符号が反対である電荷が2個一定の間隔を保って存在している。」(第32頁下から5〜2行)

4-2-3.特許法第29条2項違反について
(1)本件発明1
刊行物1には、その特許請求の範囲に
「(1)ビニル系高分子化合物を含む樹脂と、該樹脂中に分子状に分散した層状の粘土鉱物とからなり、該粘土鉱物は層厚さが7〜12Åで層間距離が30Å以上であることを特徴とする複合材料。
(2)上記粘土鉱物は、樹脂100重量部に対して0.5〜150重量部含有してなる特許請求の範囲第(1)項記載の複合材料。
(3)陽イオン交換容量が50〜200ミリ当量/100gの層状の粘土鉱物を、末端にビニル基を有するオニウム塩によりイオン交換するイオン交換工程と、該イオン交換された粘土鉱物とビニル系高分子系化合物のモノマーとを混合する混合工程と、上記混合物中の上記モノマーを重合させる重合工程とからなることを特徴とする複合材料の製造方法。」(摘示記載(1-1))
が記載されている。
この「層状の粘土鉱物」とは「無機層状物質」に外ならず、複合材料の全重量に対する該粘度鉱物の重量比は、0.5/(0.5+100)〜150/(150+100)=0.005〜0.6、即ち、0.5%〜60%である。
また、「末端にビニル基を有するオニウム塩」は本件発明1における「有機物カチオン」に該当するものであり、このような化合物が極性を帯び、双極子モーメントをもつ化学種であることはその構造から明らかであるから、刊行物1に記載された上記工程において、末端にビニル基を有するオニウム塩によりイオン交換した層状の粘土鉱物は「インターカレーションした」ものということができる。
そうすると、刊行物1には「(A)ビニル系モノマーの重合体及び(B)全重量に基づき0.5〜60重量%の無機層状物質からなり、無機層状物質が層間に双極子モーメントをもつ化学種である有機物カチオンをインターカレーションしたものである複合材料」である点で本件発明1と一致する発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものということができるが、本件発明1の以下の構成要件を刊行物1発明は備えていない点で、これらの発明の間には相違が認められる。

(あ)ビニル系モノマーの重合体が「エチレン及びプロピレンの中から選ばれたビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体」である点、
(い)無機層状物質が「平均粒径2μm以下の微粒子」である点、
(う)無機層状物質が「(A)成分中に二次凝集を起こすことなく均質に分散して」いる点、及び、
(え)「加熱分解後、走査電子顕微鏡で観察したとき、灰分中に長径1μm以上の粒子が認められない」点

そこでこれらの相違点の内、まず(あ)、(い)及び(う)の点について以下に検討する。
刊行物1には「ビニル系高分子化合物」について、「ここで、ビニル系高分子化合物とは、ビニル基を有するモノマーの重合体の総称であり、・・・。上記モノマーの具体的なものとしては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、・・・等が挙げられそれらのうちの1種または2種以上を使用する」(摘示記載(1-2))及び「ここで、ビニル系高分子化合物のモノマーは、重合後、ビニル系高分子化合物とそれ以外の重合体との混合物になる原料であり、複合材料の基体をなすものである。該モノマーとしては、前記に示したごとく、エチレン、プロピレン等のビニル基を有するものである」(摘示記載(1-3))と記載されており、ビニル系高分子化合物の具体例として、エチレン及びプロピレンの重合体が例示されていることは認められる。
しかしながら、刊行物1の請求項3には、複合材料の製造方法について、「・・・該イオン交換された粘土鉱物とビニル系高分子化合物のモノマーとを混合する混合工程と、上記混合物中の上記モノマーを重合させる重合工程とからなる」(摘示記載(1-1))と記載されており、ビニル系高分子化合物のモノマーとして通常気体であるエチレンやプロピレンを用いるとすれば、それらと固体である粘土鉱物とを「混合」させ該「混合物」中の上記モノマーを重合させる、とは具体的にどのような操作を意味するものか、直ちには理解し得ない。そこで、刊行物1の実施例の記載をみると、ビニル系高分子化合物のモノマーとして用いられているのはメチルメタクリレート(実施例1)、イソプレン(実施例2)、スチレン(実施例3)、α-メチルスチレン(実施例4)及びアクリロニトリル(実施例5)であって、いずれも常温で液体の化合物であり、気体のモノマーを用いた実施例は皆無である。
この点について、特許異議申立人Aが平成17年10月11日付けで提出した上申書に添付した実験報告書には、「刊行物1(特開昭63-215775号公報)に記載された実施例1に準拠した方法によってエチレン又はプロピレンを用いた場合であっても複合材料を製造することができることを立証し、更に、それによって得られた複合材料におけるクレイの分散状態を確認し、加熱分解後における灰分(クレイ)中に直径1μm以上の粒子が認められないことを立証する」(第1頁「実験の目的」の項)ことを目的とした実験について報告されている。同報告書には複合材料の作成方法について、「・・・得られた有機化モンモリロナイト5gを250mlの丸底フラスコに入れ、拡散ポンプ付きの真空ラインにつなぎ、ゆっくりと減圧した。完全に減圧した後、50℃にフラスコを加温し、6時間放置した。これにより、有機化モンモリロナイトに吸着した水分を除去した。次いで、1リットルの耐圧ガラス容器を用意し、蒸留精製した300mlのトルエンと乾燥した0.50gの有機化モンモリロナイトを入れた。系内の酸素等を除去するため減圧し、そこに高純度窒素ガスを導入した。この操作を5回繰り返し、窒素ガスで系内を置換した。そして、四塩化チタンの1mol/Lトルエン溶液(Aldrich Chemical Co.製)を系内に3.0ml添加し、更にトリエチルアルミニウムの25wt%トルエン溶液(Aldrich Chemical Co.製)を2.5ml添加した。四塩化チタン及びトリエチルアルミニウムを添加した後、30分間撹拌を続け、チタンを活性化せしめた。そして、エチレンを5kg/cm2の流量で供給し、重合を開始させた。一時間重合反応を続け、エチレンガスの供給を停止し、エチレンガスを系外に放出した。重合を完全に停止するために、希塩酸のメタノール溶液に上記の重合溶液を添加した。得られた反応物を濾別し、メタノールで洗浄し、さらに乾燥することにより目的のモンモリロナイトとポリエチレンとの複合材料(ナノコンポジット)10.2gを得た。」(第3頁「(2)モンモリロナイトとポリエチレンとの複合材料の作製」の項)と記載されており、これにより得られた複合材料をプレス成形して約0.5mmの薄板を作製し、この薄板を凍結した後、ミクロトームで超薄切片を切り出して観察試料とし、電子顕微鏡で観察したところ、「シリケート層の一層一層がポリエチレンマトリックス中に均一に分散しており、加熱分解後における灰分(クレイ)中に直径1μm以上の粒子が発生するような複合材料ではないことが確認された。」(第3-4頁「複合材料におけるクレイの分散状態の確認」)との結果が示されている。
しかしながら、この実験報告書には「刊行物1に記載された実施例1に準拠した方法による」としていながら、刊行物1の実施例1とは、用いるモノマーはもとより、触媒の種類、モノマーとモンモリロナイトとの量割合、モノマーの供給手段その他の反応条件全般にわたって全く異なる方法がただ一例示されているのみであり、この一例が、実施例1においてモノマーをメチルメタクリレートからエチレンに代える際に、当業者が必然的に採用するような条件であると解すべき根拠は見出せない。
現に、特許権者が提出した平成16年10月21日付け上申書に添付された実験報告書では、メタロセン系触媒(主触媒:ジルコノセン,拘束型Ti,インデニルZr、助触媒:なし)を用いてエチレン及びプロピレンの重合を試みた実験Aでは、重合体が生成せず、メタロセン系触媒(主触媒:ジルコノセン,インデニルZr、助触媒:MAO)を用いてエチレン及びプロピレンの重合を試みた実験Bでは、MAOを過剰あるいは大過剰とした場合に重合体が生成したが、重合体中にモンモリロナイトは分散せず、メタロセン系触媒(主触媒:インデニルZr、助触媒:ボレート)を用いてプロピレンの重合を試みた実験Cでは、重合体が生成したが、重合体中にモンモリロナイトは分散せず、さらに、チーグラー・ナッタ系触媒(主触媒:Ti、担体:Mg モンモリロナイト)を用いてエチレン及びプロピレンの重合を試みた実験Dでは、重合体が生成せず、との多様な実験結果が示されており、同上申書には、「刊行物1の実施例1に記載された方法においてメチルメタクリレートの代りにエチレン又はプロピレンを用いた場合は、通常の重合条件下では、刊行物1に記載されている複合材料を得ることができないのであります」(第3頁第1〜3行)と記載されている。
そうすると、刊行物1の実施例1においてメチルメタクリレートの代りにエチレン又はプロピレンを用いる場合には、重合体を得るために多くの試行錯誤を要するものであり、仮に特殊な方法を採用することによって重合体が得られたとしても、必ずしもモンモリロナイト微粒子が均一に分散した複合材料が得られるわけではないと解するのが相当である。
したがって、刊行物1発明において、本件発明1における(あ)のようにエチレン及びプロピレンの中から選ばれたビニル系モノマーの使用を試みること自体は当業者が容易になし得たものとしても、それにより、本件発明1の(い)及び(う)のように、平均粒径2μm以下の微粒子の無機層状物質が重合体中に二次凝集を起こすことなく均質に分散した複合材料が得られることまでをも、容易に予測し得たものとすることはできない。
また、刊行物2は「分子と極性」について開示するのみであり、本件発明1の上記の構成を予測させる記載はない。
よって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜5
本件発明2〜5は、本件発明1において技術的限定を付した発明であるか、あるいはそのような発明にさらに技術的限定を付した発明であり、前提となる本件発明1が上記のように、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2〜5も本件発明1と同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明6
刊行物1には、その特許請求の範囲の請求項3に「(3)陽イオン交換容量が50〜200ミリ当量/100gの層状の粘土鉱物を、末端にビニル基を有するオニウム塩によりイオン交換するイオン交換工程と、該イオン交換された粘土鉱物とビニル系高分子化合物のモノマーとを混合する混合工程と、上記混合物中の上記モノマーを重合させる重合工程とからなることを特徴とする複合材料の製造方法」(摘示記載(1-1))が記載されている。
本件発明6と刊行物1に記載されたこの製造方法の発明とを対比すると、刊行物1に記載された方法は、末端にビニル基を有するオニウム塩によりイオン交換された粘土鉱物の存在下でビニル系高分子系化合物のモノマーを重合させて複合材料を製造する方法であるのに対して、本件発明6は、既に重合しているビニル系モノマーの単独重合体又共重合体を有機溶媒に溶解し、これとは別に有機カチオンなどをインターカレーションした粒状無機層状物質を有機溶媒に分散させ、両者を混合して複合材料を製造するものであり、複合材料を得るための手段を全く異にしている。
そして、刊行物1に記載された方法に基づいて、本件発明6のような方法を容易に想到し得たものとする合理的根拠も見出せない。
また、刊行物2は上記のように「分子と極性」について開示するのみである。
よって、本件発明6は刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4-2-4.特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項違反について
取消理由において、「訂正前の本件明細書の記載には不備があるから、本件特許出願は特許法第36条第4項、5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない。」とした記載不備は、特許異議申立人A及びBが申し立てた以下のようなものである。

(1)特許異議申立人Aが申し立てた記載不備の理由
特許請求の範囲では、粒子状無機層状物質をインターカレーションする物質について「有機カチオン・・・の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種」としているが、発明の詳細な説明には「ベンザルコニウムカチオン」のみが記載され、それ以外にどのようなものが使用できるか不明であり、発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施し得る程度に発明の目的、構成及び効果が記載されていない。

(2)特許異議申立人Bが申し立てた記載不備の理由
本件発明は「有機カチオンをインターカレーションした平均粒径2μm以下の微粒子」を使用することを構成要件としているが、発明の詳細な説明の実施例には「この複合材料を加熱分解し、走査電子顕微鏡(SEM)で灰分観察を行ったところ、平均粒径1μm以下のベントナイト層が独立して存在することを確認した」(段落【0028】)とされているのみであり、「平均粒径2μm以下を有する上記特定の微粒子が(A)成分中に非凝縮状態で均質に分散していること」が十分明確に示されておらず、特許請求の範囲の記載からは、発明の構成に欠くことのできない事項が不明瞭である。

そこで、これらの点について以下に検討する。
(1)の点について
本件訂正明細書には「有機カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントもつ化学種」の具体的化合物としてベンザルコニウムカチオンを用いた実施例が記載されており、「有機カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントもつ化学種」に含まれる他の化合物のうち、発明を実施し得ないものが存在することが明らかであるとはいえないから、発明の詳細な説明の記載に基づいて発明を実施することができない、とすることはできない。

(2)の点について
本件訂正明細書の実施例には「平均粒径2μm以下の微粒子が均質に分散していること」を直接示すデータは記載されていないが、発明の詳細な説明には「平均粒径2μm以下の粒子が・・・ビニル系高分子化合物中に二次凝集することなく均質に分散したものである」(段落【0018】)と記載されており、実施例に記載された灰分観察の結果がそれと矛盾するものということはできないから、特許請求の範囲に記載された「平均粒径2μm以下の微粒子が均質に分散していること」という構成が、不明瞭であるとまではいえない。

(3)まとめ
したがって、本件訂正明細書に記載不備があるとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜6についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜6についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
複合材料、その製造方法及びそれを用いた樹脂成形材料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)エチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体及び(B)全重量に基づき0.5重量%以上の平均粒径2μm以下を有する粒子状無機層状物質からなり、該粒子状無機層状物質が層間に有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした平均粒径2μm以下の微粒子であって、これが(A)成分中に二次凝集を起すことなく均質に分散しており、加熱分解後、走査電子顕微鏡で観察したとき、灰分中に長径1μm以上の粒子が認められないことを特徴とする複合材料。
【請求項2】無機層状物質が粘土鉱物である請求項1記載の複合材料。
【請求項3】請求項1又は2記載の複合材料と合成樹脂との溶融混練物から成る樹脂成形材料。
【請求項4】合成樹脂がビニル系高分子化合物である請求項3記載の樹脂成形材料。
【請求項5】前記無機層状物質の含有量が0.5〜70重量%である請求項3又は4記載の樹脂成形材料。
【請求項6】有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質を、有機溶媒中に膨潤分散して有機分散液を調製し、次いでこれにエチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体の有機溶媒溶液を加え混合したのち、有機溶媒を除去することを特徴とする複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ビニル系高分子化合物中に無機層状物質の微粒子が凝集することなく、均質かつ微細に分散した新規な複合材料、その製造方法及びその複合材料を含有する樹脂成形材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、合成樹脂の機械物性や耐熱性などを向上させる目的で、該合成樹脂に各種フィラーを配合することが行われている。しかしながら、混合機や混練機を用いてフィラーを合成樹脂中に分散させる通常の方法では、該フィラーを均質かつ微細に分散させることが困難であるため、得られるフィラー強化樹脂は、光沢低下などの外観不良を生じたり、透明性が低下したり、あるいは成形性が悪いなど、好ましくない事態を招来する上、通常のフィラーを用いると高比重のものになるのを避けられない。
【0003】
ところで、無機層状物質の1種である粘土鉱物は比較的安価で軽量であることから、フィラーとしての使用が古くから試みられている。しかしながら、微細な粘土鉱物をフィラーとして用いた場合、二次凝集を生じて樹脂中への均質分散が困難になるし、また、吸湿性によって溶融混練時に発泡を生じ、成形品の外観不良をもたらすなどの欠点があるため、この微細粘土鉱物はフィラーとして使用されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、比較的安価で軽量な無機層状物質、例えば粘土鉱物をフィラーとして用いて、低比重で良好な外観を示し、かつ引張強度や曲げ強度の優れた成形品を与える樹脂成形材料を提供することを目的としてなされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、無機層状物質をフィラーとして含む樹脂成形材料について、鋭意研究を重ねた結果、無機層状物質の層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションしたものを膨潤分散させた有機分散液と、ビニル系高分子化合物を溶解させた有機溶液とを混合したのち、脱溶媒することにより、該無機層状物質が二次凝集を起すことなく、高分子化合物中に均質かつ微細に分散した複合材料が得られること、そしてこの複合材料と合成樹脂とを溶融混練することにより、低比重で良好な外観を有し、かつ引張強度や曲げ強度の優れた成形品を与える樹脂成形材料が得られることを見出し、このような知見に基づいてなされたものである。
【0006】
すなわち、本発明は、(A)エチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体及び(B)全重量に基づき0.5重量%以上の平均粒径2μm以下を有する粒子状無機層状物質からなり、該粒子状無機層状物質が層間に有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした平均粒径2μm以下の微粒子であって、これが(A)成分中に二次凝集を起すことなく均質に分散しており、加熱分解後、走査電子顕微鏡で観察したとき、灰分中に長径1μm以上の粒子が認められないことを特徴とする複合材料、有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質を、有機溶媒中に膨潤分散して有機分散液を調製し、次いでこれにエチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体の有機溶媒溶液を加え混合したのち、有機溶媒を除去することを特徴とする複合材料の製造方法、及び前記の複合材料と合成樹脂との溶融混練物から成る樹脂成形材料を提供するものである。
【0007】
本発明において用いられる無機層状物質とは層状結晶構造をもつ無機物質のことであり、このようなものとしては、例えばモンモリロナイト、サポナイト、ハイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、スティブンサイトなどのスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト、ハロサイト、その他天然又は人工の粘土鉱物、雲母、ハイドロタルサイト、グラファイトなどが挙げられるが、これらの中で粘土鉱物が好適である。これらの無機層状物質はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、これらの無機層状物質は平均粒径2μm以下の微粒子として用いられる。
【0008】
本発明の複合材料を製造するには、まず、前記無機層状物質の層間に有機物カチオン及びアミン類の中から選ばれた双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションしたものを有機溶媒中に膨潤分散させた有機分散液、及びエチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体を溶解した有機溶液を調製することが必要である。このように、その層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーション(層間挿入)したものを用いることにより、無機層状物質を有機溶媒中に良好に膨潤分散させることができる。
【0009】
このように、無機層状物質の層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションするには、層自体の構造欠陥又は非化学量論性により、層自体が電荷を帯びている無機層状物質の場合は、通常その電荷を打ち消すためにその反対の電荷をもつ化学種が層間に存在して電気的に中性を保持しているので、この化学種に対して所望の化学種を配位させたり、交換させることにより行うか、あるいは単に電荷を打ち消すために所望の化学種を挿入することにより行う。前者の例としては、粘土鉱物の結晶層間の金属カチオンをイオン性界面活性剤を用いてイオン交換する場合を挙げることができる。
【0010】
そして、本発明においては、無機層状物質の層間にインターカレーションさせる双極子モーメントをもつ化学種として、有機物カチオン及びアミン類が用いられる。
【0011】
該有機分散液の調製に用いられる有機溶媒については、使用する双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質を膨潤分散させる能力と、併用するビニル系高分子化合物を溶解させる能力とを有するものであればよく、特に制限はない。このような有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、ベンゼン、スチレン、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられるが、これらの中で芳香族溶媒が好ましい。これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、膨潤度を向上させるために、メチルアルコールのような極性添加剤を、該溶媒に対して0.5〜5重量%程度添加することもできる。
【0012】
有機分散液中における層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質の濃度は10重量%以下が好ましく、10重量%を超えると該無機層状物質が分散不良を生じる場合がある。また、混合温度や混合時間については特に制限はなく、混合により粘度が上昇することにより、無機層状物質が膨潤分散した有機分散液が生成したことを判断する。
【0013】
一方、これと併用されるビニル系高分子化合物を溶解させた有機溶液の調製に用いられるビニル系高分子化合物は、エチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体である。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
また、該有機溶液の調製に用いられる有機溶媒については、前記ビニル系高分子化合物を溶解する能力と前記層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質を分散させる能力とを有するものであればよく、特に制限はない。先に有機分散液の調製の際に例示した有機溶媒を挙げることができるが、これらの中で芳香族溶媒が特に好適である。該有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記の無機層状物質の有機分散液の場合に用いる有機溶媒とそれぞれ相溶性をもつものであれば、必ずしもそれと同じものを用いる必要はない。さらに、該有機溶液中のビニル系高分子化合物の濃度については特に制限はなく、適宜選ばれる。
【0015】
本発明においては、このようにして調製された前記ビニル系高分子化合物を溶解させた有機溶液と前記の層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質を膨潤分散させた有機分散液とを適当な割合で混合したのち、溶媒を除去すれば複合材料が得られる。混合温度については、前記ビニル系高分子化合物が固体として析出しない温度であればよく、特に制限はなく、また、混合時間についても特に制限はない。
【0016】
有機溶媒を除去するには、前記混合液に、層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質及び前記ビニル系高分子化合物に対してそれぞれ貧分散媒及び貧溶媒となる化合物を加え、層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質と前記ビニル系高分子化合物から成る複合材料を析出させ、遠心分離やろ過などの手段により溶媒を除く方法や、該混合液から蒸発などの手段により溶媒を除く方法を挙げることができる。
【0017】
該貧分散媒及び貧溶媒となる化合物としては、混合液中の有機溶媒と相溶性を有し、かつ層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質に対する膨潤能力及び前記ビニル系高分子化合物に対する溶解能力を有しない化合物が用いられる。このような化合物としては、例えばメチルアルコールやエチルアルコールなどのアルコール類を挙げることができる。
【0018】
このようにして得られた本発明の複合材料は、層間に所定の双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした平均粒径2μm以下の無機層状物質微粒子が、エチレン及びプロピレンの中から選ばれた少なくとも1種のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体であるビニル系高分子化合物中に二次凝集することなく均質に分散したものである。複合材料中の前記無機層状物質の含有量は、0.5重量%以上である。
【0019】
前記複合材料はそのまま成形材料として用いてもよいが、該複合材料と合成樹脂との溶融混練物として用いるのが好ましい。複合材料との混練に用いられる合成樹脂については、該複合材料と溶融混練しうるものであればよく特に制限はないが、特にビニル系高分子化合物、例えばビニル系モノマーの単独重合体又は2種以上を共重合させて得られた共重合体が好適である。この合成樹脂は、該複合材料中のビニル系高分子化合物と同一のものが好適であるが、異なるものであってもよく、また、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
前記複合材料と合成樹脂との溶融混練物は、公知の混練機、例えばヘンシェルミキサー、単軸又は二軸押出機、バンバリミキサー、ロールなどを用いて製造することができる。また、この混練に際して、所望により酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤などの公知の添加剤を配合することができる。
【0021】
このようにして得られた樹脂成形材料中の層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質の含有量は0.5〜70重量%の範囲にあるのが望ましい。この含有量が0.5重量%未満ではフィラーの配合効果が十分に発揮されないし、70重量%を超えると成形性が低下する傾向がみられる。
【0022】
【発明の効果】
本発明によると、層間に双極子モーメントをもつ化学種をインターカレーションした無機層状物質がビニル系高分子化合物中に均質かつ微細に分散した複合材料が容易に得られる。またこの複合材料と合成樹脂とを溶融混練して成る樹脂成形材料は、低比重で外観に優れ、かつ引張強度や曲げ強度の高い成形品を与え、例えば自動車部品、家電音響製品、家庭日用品、包装資材、水産資材、その他一般工業資材などに好適に用いられる。
【0023】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0024】
なお、樹脂組成物の物性は次のようにして求めた。
(1)引張強度
ASTM D638に準拠して求めた。
(2)曲げ強度、曲げ弾性率
ASTM D790に準拠して求めた。
(3)外観
射出成形プレート(100×100×1mm)の表面外観を目視にて観察し、次の記号に従って評定した。
○:フィラーが均質に分散している
△:異物状のフィラー凝集物が点在している
×:目視判定可能な粒子(0.1mm以上)が分散している
(4)灰分の大きさ
走査電子顕微鏡により長径を測定した。また、符号aは3〜5μmの粒子が多数凝集した状態を、bは3〜5μmの塊状粒子が存在している状態を、cは3〜5μmの板状粒子が存在している状態を示す。
【0025】
実施例1
層間にベンザルコニウムカチオンをインターカレーションしたモンモリロナイト[商品名S-BEN、豊順鉱業(株)製]100gとキシレン2000mlとを、常温(約20℃)で20分間混合して、S-BENの膨潤分散液を調製した。
【0026】
一方、粉末状のポリプロピレン[H2000 M117、出光石油化学(株)製]50gをキシレン1000ml中に溶解してポリプロピレンのキシレン溶液を調製した。
【0027】
このようにして得られたS-BENの膨潤分散液とポリプロピレンのキシレン溶液とを130℃で10分間かきまぜて混合したのち、これに大過剰のメタノールを加え析出させた。析出物はろ過分離後、80℃で温風乾燥してポリプロピレンとS-BENとから成る複合材料を得た。
【0028】
この複合材料を加熱分解し、走査電子顕微鏡(SEM)で灰分観察を行ったところ、平均粒径1μm以下のベントナイト層が独立して存在することを確認した。
【0029】
比較例1
実施例1において、S-BENの代りにモンモリロナイトを用い、実施例1と同様な操作を行ったが、モンモリロナイトはキシレン中では分散せず極めて不均質な分散形態の混合物が得られたにすぎない。
【0030】
実施例2〜7
実施例1で得られた複合材料と各種合成樹脂とを、表1に示す割合で45mmφの二軸押出機を用いて230℃で溶融混練を行い樹脂成形材料を調製した。その物性を表1に示す。
【0031】
比較例2
モンモリロナイトとポリプロピレンとを、表1に示す割合で45mmφの二軸押出機を用いて230℃で溶融混練を行ったが、混練物は目視可能な大きさ(0.1mm以上)の凝集物の分散形態となっていた。また、熱分解灰分の観察を行ったところ、3〜5μm程度の二次凝集粒子が多数凝集して0.1mm程度の凝集体を形成していた。このものの物性を表1に示す。
【0032】
比較例3
S-BENとポリプロピレンとを、表1に示す割合で用い、比較例2と同様な方法で溶融混練した結果、見掛け上は均質に分散していたが、その熱分解灰分は3〜5μm程度の二次凝集粒子であった。このものの物性を表1に示す。
【0033】
比較例4、5
タルクとポリプロピレンとを、表1に示す割合で用い、比較例2と同様な方法で溶融混練した結果、見掛け上は均質に分散していたが、その熱分解灰分は3〜5μm程度のタルク粒子であった。このものの物性を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
注1)J2000G:出光石油化学(株)製ポリプロピレン
2)120J:出光石油化学(株)製高密度ポリエチレン
3)PP/S-BEN:実施例1の複合材料
4)S-BEN:豊潤鉱業(株)製ベントナイト(1μm程度の粒子が凝集して3〜5μmの塊状粒子を形成している)
5)モンモリロナイト:クニミネ工業(株)製クニピアF(S-BENと同様の形態)
6)タルク:市販タルク(3〜5μmの板状粒子)
【0036】
表1から分かるように、実施例2においては、核剤的なS-BEN配合効果が認められ、実施例3〜7においては、強化充填材的なS-BEN配合効果が認められる。
【0037】
また、実施例3と比較例2、3、4とを、実施例6と比較例5とを比較した場合、同一フィラー重量(ほぼ同一の比重)での樹脂中のフィラー分散形態の違いにより発生する物性差が認められる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-11 
出願番号 特願平4-215741
審決分類 P 1 651・ 531- YA (C08L)
P 1 651・ 534- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 平塚 政宏
船岡 嘉彦
登録日 2003-01-31 
登録番号 特許第3393879号(P3393879)
権利者 カルプ工業株式会社
発明の名称 複合材料、その製造方法及びそれを用いた樹脂成形材料  
代理人 長濱 範明  
代理人 阿形 明  
代理人 阿形 明  
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