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審決分類 審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 一部申し立て 2項進歩性  B01D
管理番号 1130823
異議申立番号 異議2003-70211  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-06-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-23 
確定日 2005-11-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3306813号「擬似移動床クロマト分離法」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3306813号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3306813号の請求項1ないし6に係る発明は、平成4年12月9日に出願され、平成14年5月17日にその発明についての特許権の設定登録がされ、その後、穂積忠(以下、「申立人」という。)より請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てがされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年10月24日に特許異議意見書の提出と共に訂正請求がされ、その特許異議意見書及び訂正請求について申立人に審尋がされ、回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
本件訂正請求は、本件明細書を、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、次のとおりである。
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を、「多糖エステル誘導体若しくは多糖カルバメート誘導体の粒子、又はこれらを担体に担持させた光学異性体分離用充填剤が充填された複数のカラムを無端状に連結して循環流路を形成し、この循環流路内で流体を一方向に強制循環させ、循環している流体の流れ方向に沿ってカラム内に超臨界流体を導入する第1導入口、カラムから吸着質に富む流体を抜き出す第1抜き出し口、分割するべき光学異性体混合物からなる原料を含んだ流体をカラム内に導入する第2導入口及び非吸着質に富む流体をカラム内から抜き出す第2抜き出し口をこの順に配置し、かつ循環流路内を循環している流体の流れ方向に沿って前記第1導入口、第1抜き出し口、第2導入口及び第2抜き出し口を間欠的に移動させることにより、光学異性体混合物からなる原料を吸着質と非吸着質とにそれぞれ分離することを特徴とする擬似移動床クロマト分離法。」と訂正する。
イ.訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2ないし6において、請求項2及び3を削除し、以下項数を繰り上げそれぞれ「請求項2ないし4」と訂正する。
ウ.訂正事項c
訂正後の特許請求の範囲の請求項2を、「前記超臨界流体は、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種が加えられたものである前記請求項1に記載の擬似移動床クロマト分離法。」と訂正する。
エ.訂正事項d
段落番号【0006】及び【0017】に「固体吸着剤」とあるのを、「多糖エステル誘導体若しくは多糖カルバメート誘導体の粒子、又はこれらを担体に担持させた光学異性体分離用充填剤」と訂正する。
オ.訂正事項e
段落番号【0027】、【0058】、【0060】、【0062】、【0063】、【0064】、【0065】、【0067】、【0074】に「固体吸着剤」とあるのを、それぞれ「光学異性体分離用充填剤」と訂正する。
カ.訂正事項f
段落番号【0006】に、「光学異性体混合物又はジアステレオマー混合物」とあり、段落番号【0016】に「光学異性体の混合物、又はジアステレオマーの混合物」とあるのを、「光学異性体混合物」と訂正する。
キ.訂正事項g
段落番号【0007】及び【0008】に、「請求項2に記載の発明は、固体吸着剤が光学異性体分離用充頃剤である前記請求項1に記載の擬似移動床クロマト分離法である。請求項3に記載の発明は、固体吸着剤が、セルロースエステル誘導体若しくはセルロースカルバメート誘導体の粒子、又はこれらを担体に担持させた充填剤である前記請求項1に記載の擬似移動床クロマト分離法である。」とあるのを削除する。
ク.訂正事項h
段落番号【0009】に、「請求項4」、「請求項5」、「請求項6」、「請求項5」とあるのを、それぞれ「請求項2」、「請求項3」、「請求項4」、及び「請求項3」と訂正する。
ケ.訂正事項i
段落番号【0009】に「少なくとも一種」とあるのを、「少なくとも一種が加えられたもの」と訂正する。
コ.訂正事項j
段落番号【0013】に「、アミン類の光学活性なカンファースルホン酸エステル等のジアステレオマー」とあるのを削除する。
サ.訂正事項k
段落番号【0028】に「この発明においては、前記固体吸着剤として、光学異性体分離用充填剤を好ましく用いることができる。」とあるのを削除する。
シ.訂正事項l
段落番号【0033】に「β-1,4-キトサンキチン」とあるのを、「β-1,4-キトサン、キチン」と訂正する。
ス.訂正事項m
段落番号【0040】の化4式に「・・・(2)」とあるのを、「・・・(4)」と訂正する。
セ.訂正事項n
段落番号【0074】及び【0076】に「CHIPALCEL」とあるのを、「CHIRALCEL」と訂正する。
ソ.訂正事項o
段落番号「【0010】ないし【0013】」を「【0008】ないし【0011】」と訂正し、段落番号「【0015】ないし【0027】」を「【0012】ないし【0024】」と訂正し、段落番号「【0029】ないし【0078】」を「【0025】ないし【0074】」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、拡張・変更の有無
ア.訂正事項aは、特許請求の範囲1に記載された「固体吸着剤」を、「多糖エステル誘導体若しくは多糖カルバメート誘導体の粒子、又はこれらを担体に担持させた光学異性体分離用充填剤」と限定し、さらに「光学異性体混合物又はジアステレオマー混合物」との記載を「光学異性体混合物」に限定しようとするものである。
「固体吸着剤」として、光学異性体分離用充填剤を好ましく用いることができること(段落番号【0028】)、また、この光学異性体分離用充填剤としては、例えば、光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、又は蛋白質若しくはその誘導体等を、シリカゲル等の担体に担持させた固体吸着剤、あるいはそのまま粒状にした固体吸着剤を挙げることができること(段落番号【0029】)、さらに、前記光学活性な化合物としては、多糖エステル誘導体、多糖カルバメート誘導体等が挙げられること(段落番号【0030】)が記載されている。
したがって、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
イ.訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項2及び3を削除し、以下項数を繰り上げるものであり、請求項の削除は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、項数の繰り上げは、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
ウ.訂正事項cは、「前記超臨界流体は、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種が加えられたもの」と記載すべきところ、「前記超臨界流体は、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種である」としたものを正しい記載に訂正することを目的とする訂正に該当する。
エ.訂正事項d、e、fは、明細書の発明の詳細な説明の記載を、訂正事項aにより減縮された特許請求の範囲1と整合性させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
オ.訂正事項gは、訂正事項bによる特許請求の範囲の請求項の削除に伴い、発明の詳細な説明の記載から前記請求項に係る記載を削除するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
カ.訂正事項hは、訂正事項bによる特許請求の範囲の請求項の削除に伴う請求項4-6の項数の繰り上げと、発明の詳細な説明に記載された請求項の項数との整合性をとるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
キ.訂正事項iは、訂正事項cと同様に、「前記超臨界流体は、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種が加えられたもの」と記載すべきところ、「前記超臨界流体は、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種である」としたものを正しい記載に訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
ク.訂正事項j、kは、訂正事項aにより減縮された特許請求の範囲1との整合性をとるための発明の詳細な説明の訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
ケ.訂正事項lは、「β-1,4-キトサン、キチン」と記載すべきところ、「β-1,4-キトサンキチン」としたものを正しい記載に訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
コ.訂正事項mは、化1〜化4の化学式に付された符号について、化4式において(4)と付されるべきところ、(2)としたものを正しい記載に訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
サ.訂正事項nは、「CHIRALCEL」と記載すべきところ、「CHIPALCEL」としたものを正しい記載に訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
シ.訂正事項oは、記載事項が削除された段落を消去し、順次段落番号を繰り上げるもので、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、訂正事項aないしoは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについての判断
(1)申立ての理由の概要
ア.特許法第29条第2項について
訂正前の本件の請求項1ないし4に係る発明は、出願前に頒布された下記刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[刊行物]
刊行物1:特開平4-211021号公報(甲第1号証)
刊行物2:日本化学会編「光学異性体の分離」(季刊化学総説、No.6)、1989年10月10日、学会出版センター発行、p.140(甲第2号証)
刊行物3:J.Chromatography,447(1988)p.287-296(甲第3号証)
刊行物4:J.Chromatography,371(1986)p.153-158(甲第4号証)

イ.特許法第36条第5項について
訂正前の本件の請求項4に係る発明は、平成14年3月12日付けの手続補正書により加えられた新規事項であり、さらに明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、特許法第36条第5項の要件を満たしていない。

(2)甲号各証の記載事項
刊行物1(甲第1号証)には、次の事項が記載されている。
「内部に光学分割用充填剤を収容し、かつ前端と後端とが流体通路で結合されて無端状になっていて液体が一方向に循環している充填床に、光学異性体混合物含有液及び脱離液を導入し、同時に充填床から分離された1種類の光学異性体を含有する液ともう一方の種類の光学異性体を含有する液を抜き出すことからなり、充填床には、脱離液導入口、吸着されやすい光学異性体を含有する液(エクストラクト)の抜出口、光学異性体混合物含有液導入口、吸着されにくい光学異性体を含有する液(ラフィネート)の抜出口を流体の流れ方向に沿ってこの順序で配置し、かつこれらを床内の流体の流れ方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動することによりなる擬似移動床方式を用いることを特徴とする光学異性体の分離方法。」(特許請求の範囲)
「本発明では内部に充填剤として光学活性な高分子化合物、例えば多糖誘導体(セルロース、アミロースのエステルやカルバメート)、ポリアクリレート誘導体、ポリアミド誘導体をシリカゲルに担持させたもの、又はポリマーそのものを粒状にしたもの、更に光学分割能を有する低分子化合物、例えばクラウンエーテル、シクロデキストリン誘導体をシリカゲルに担持させたものなど、いわゆる光学分割用充填剤を収容し、かつ前端と後端とが流体通路で結合された無端状になっていて液体が一方向に循環している充填床に、光学異性体混合物含有液及び脱離液として有機溶剤、例えばメタノール、イソプロパノール等のアルコール類やヘキサン等の炭化水素類、及び/又は塩を含む水溶液、例えば硫酸銅水溶液や過塩素酸塩水溶液等を導入し、同時に充填床から1種類の光学異性体を含有する液とその他の種類の光学異性体を含有する液を抜き出すことからなり、充填床には脱離液導入口、吸着されやすい光学異性体を含有する液(エクストラクト)の抜出口、光学異性体混合物含有液導入口、吸着されにくい光学異性体を含有する液(ラフィネート)の抜出口を流体の流れ方向に沿ってこの順序で配置し、かつこれらを床内の流体の流れ方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動することによりなる擬似移動床方式を用いる。」(段落番号【0006】)
「図1に示した吸着室1〜12と各ライン13〜16の配置の状態では、吸着室1〜3で脱着操作、吸着室4〜6で濃縮操作、吸着室7〜9で吸着操作、吸着室10〜12で脱離液回収操作がそれぞれ行われている。このような擬似移動床では、一定時間間隔ごとにバルブ操作により各供給液及び抜出ラインを液流れ方向に吸着室1室分だけそれぞれ移動させる。従って、次の吸着室の配置状態では、吸着室2〜4で脱着操作、吸着室5〜7で濃縮操作、吸着室8〜10で吸着操作、吸着室11〜1で脱離液回収操作がそれぞれ行われるようになる。このような操作を順次行うことによって光学異性体の混合物の分離処理が連続的に効率よく達成される。また図2に示した吸着室1〜8と各ライン13〜16の配置の状態では、吸着室1で脱離液回収操作、吸着室2〜5で吸着操作、吸着室6〜7で濃縮操作、吸着室8で脱着操作がそれぞれ行われている。このような擬似移動床では、一定時間間隔ごとにバルブ操作により各供給液及び抜出ラインを液流れ方向に吸着室1室分だけそれぞれ移動させる。従って、次の吸着室の配置状態では、吸着室2で脱離液回収操作、吸着室3〜6で吸着操作、吸着室7〜8で濃縮操作、吸着室1で脱着操作がそれぞれ行われるようになる。このような操作を順次行うことによって光学異性体の混合物の分離処理が連続的に効率よく達成される。」(段落番号【0010】〜【0011】、【図1】、【図2】参照)
「実施例3 吸着室1室が内径2cm、長さ15cmであるカラムを8本連結して、その中に光学異性体分取用充填剤(ダイセル化学工業(株)製CHIRALCELOB,粒径45μm)を収納した図2に示すような擬似移動床装置に、α-フェニルエチルアルコールのラセミ体4200ppmを含む光学異性体の混合溶液を5.9ml/分で供給した。また、脱離液はn-ヘキサン/イソプロパノール=90/10V/V%の混合溶液を24.2ml/分で供給した。25℃で一定時間、間隔3分ごとに、8方ロータリーバルブの自動切換操作により、各供給液及び抜出ラインを液流れ方向に吸着室1室分だけ、それぞれ移動させて連続的に処理した。」(段落番号【0023】)
刊行物2(甲第2号証)には、クロマトグラフィーによる光学分割に関し、次の事項が記載されている。
「4.2 SFCによる分割
移動相が液体と気体の中間的な性質を有するSFCは、いろいろな特徴を有する新しいクロマトグラフィーである。常温に近い臨界温度を有する二酸化炭素に少量のアルコールなどの極性物質を添加して移動相に用いることが多い。HPLC用のキラルカラムをそのまま分割に使用することができる。移動相としての二酸化炭素の特性はヘキサンに近い。」(第140頁8〜14行)
刊行物3(甲第3号証)には、超臨界流体を用いたクロマトグラフィ(SFC)は、「移動相がより高い拡散性と低粘度を有するため、より好ましい反応動力学条件下で機能する。このため、HPLCで得られるよりも高い流速で顕著に良好な分解能を得ることができる。」旨(第287頁INTRODUCTIONの欄)、超臨界流体として二酸化炭素にトリエタノールアミン(TEA)を添加すること(第290頁4〜7行)が記載されている。
刊行物4(甲第4号証)には、SFCで、超臨界流体として二酸化炭素にジエチルエーテルを添加すること(第157頁表II参照)が記載されている。

(3)本件発明
上記のとおり訂正が認められ、訂正前の請求項2、3が削除され、訂正前の請求項4が訂正後の請求項2となるから、異議申立てがされた特許に係る発明である訂正後の本件の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1ないし2」という。)は、上記訂正明細書及び図面の記載からみて、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 多糖エステル誘導体若しくは多糖カルバメート誘導体の粒子、又はこれらを担体に担持させた光学異性体分離用充填剤が充填された複数のカラムを無端状に連結して循環流路を形成し、この循環流路内で流体を一方向に強制循環させ、循環している流体の流れ方向に沿ってカラム内に超臨界流体を導入する第1導入口、カラムから吸着質に富む流体を抜き出す第1抜き出し口、分割するべき光学異性体混合物からなる原料を含んだ流体をカラム内に導入する第2導入口及び非吸着質に富む流体をカラム内から抜き出す第2抜き出し口をこの順に配置し、かつ循環流路内を循環している流体の流れ方向に沿って前記第1導入口、第1抜き出し口、第2導入口及び第2抜き出し口を間欠的に移動させることにより、光学異性体混合物からなる原料を吸着質と非吸着質とにそれぞれ分離することを特徴とする擬似移動床クロマト分離法。
【請求項2】 前記超臨界流体は、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種が加えられたものである前記請求項1に記載の擬似移動床クロマト分離法。」

(4)判断
ア.特許法第29条第2項について
[本件発明1について]
本件発明1でいう「超臨界流体」と刊行物1に記載された発明でいう「脱離液」は、循環流路(リサイクルライン)及び超臨界流体供給ライン(脱離液供給ライン)を通して、最上流の脱着工程(脱着操作)に導入され、その後、一部は吸着質を伴ったエクストラクト分として、エクストラクト抜き出しラインから抜き出され、残りは濃縮工程(濃縮操作)に移行する点で、両クロマト分離プロセスで同じ機能を有している。(以下、上記「超臨界流体」と「脱離液」を総称して、「溶離流体」という。)
そこで、本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、溶離流体として、本件発明1では、「超臨界流体」を用いるのに対して、刊行物1に記載された発明では、「脱離液」を用いる点でのみ相違し、他の点では一致する。
その相違する点を検討する。
本件発明1の溶離流体である「超臨界流体」について本件明細書には、次の記載がある。
「-超臨界流体-
前記超臨界流体とは、気体と液体とが共存することができる臨界温度及び臨界圧力以上における、気体とも液体とも言えない臨界状態の流体をいう。この超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、亜酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄、ハロゲン化水素、硫化水素、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ハロゲン化炭化水素等を用いることができる。
これらの中でも、爆発性、人体への有害性等を考慮すると、二酸化炭素を用いるのが好ましい。二酸化炭素を超臨界流体として用いる場合には、二酸化炭素の臨界温度31.3℃よりも高い温度、かつ臨界圧力79.9気圧よりも高い圧力の条件下で使用する。
なお、前記超臨界流体には、少量の溶剤を加えることができる。
前記溶剤としては、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール等のアルコール類、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、テトラヒドロフラン、エチルエーテル等のエーテル類を挙げることができる。」(訂正請求に添付された明細書の段落番号【0020】〜【0023】)、
「【発明の効果】
この発明によると、濃縮工程を省くことができると共にカラムの段数を向上させることができ、分離効率及び運転効率に優れる擬似移動床クロマト分離法を提供することができる。」(同段落番号【0074】)
一方、刊行物1記載の発明の溶離流体である「脱離液」について刊行物1には、次の記載がある。
「脱離液として有機溶剤、例えばメタノール、イソプロパノール等のアルコール類やヘキサン等の炭化水素類、及び/又は塩を含む水溶液、例えば硫酸銅水溶液や過塩素酸塩水溶液等」(段落番号【0006】)
上記の記載を参酌すると、本件発明1では、溶離流体として、「超臨界流体」を用いるために、エクストラクトの濃縮工程を実質的に省くことができるのに対して、刊行物1記載の発明では、有機溶剤等の脱離液を用いるために、エクストラクトの濃縮工程が必要となるものである。
また、特許異議意見書に添付された乙第2号証(2003年10月3日付け、実験報告書)をみると、本件発明1の方法(SFC-SMB法)は、刊行物1記載の発明の方法(SMB法)よりも生産性が6.4倍向上するという効果も確認されている。
また、甲第2号証ないし甲第4号証の記載をみても、回分式のクロマト分離法に「超臨界流体」を適用した例があるのみで、本件発明1のような擬似移動床クロマト分離法に「超臨界流体」を適用することが、示唆されているということはできない。
したがって、本件発明1は、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1の「超臨界流体」をさらに限定して、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種が加えられたものにするものであるから、本件発明1と同様に、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ.特許法第36条第5項について
上記訂正後の本件発明2は、訂正された明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるから、特許法第36条第5項の不備は解消された。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
したがって、本件発明1ないし2に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して付与されたものと認められないから、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
擬似移動床クロマト分離法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】多糖エステル誘導体若しくは多糖カルバメート誘導体の粒子、又はこれらを担体に担持させた光学異性体分離用充填剤が充填された複数のカラムを無端状に連結して循環流路を形成し、この循環流路内で流体を一方向に強制循環させ、循環している流体の流れ方向に沿ってカラム内に超臨界流体を導入する第1導入口、カラムから吸着質に富む流体を抜き出す第1抜き出し口、分割するべき光学異性体混合物からなる原料を含んだ流体をカラム内に導入する第2導入口及び非吸着質に富む流体をカラム内から抜き出す第2抜き出し口をこの順に配置し、かつ循環流路内を循環している流体の流れ方向に沿って前記第1導入口、第1抜き出し口、第2導入口及び第2抜き出し口を間欠的に移動させることにより、光学異性体混合物からなる原料を吸着質と非吸着質とにそれぞれ分離することを特徴とする擬似移動床クロマト分離法。
【請求項2】前記超臨界流体は、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種が加えられたものである前記請求項1に記載の擬似移動床クロマト分離法。
【請求項3】前記各カラムそれぞれは、その出口側に逆止弁を装着してなる前記請求項1に記載の擬似移動床クロマト分離法。
【請求項4】前記循環流路は、その循環流路内を循環している流体の流れ方向に沿って前記第1導入口、第1抜き出し口、第2導入口及び第2抜き出し口を間欠的に移動させるロータリーバルブを備えて成る前記請求項1又は請求項3に記載の擬似移動床クロマト分離法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、擬似移動床クロマト分離法に関し、更に詳しくは、濃縮工程の省略及び単位カラム段数を実質的に増大させることができ、分離効率及び運転効率に優れた擬似移動床クロマト分離法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、異性体混合物等の複数成分を含有する原料溶液から特定の成分を工業的に分離する手段として、クロマト分離法が一般に用いられていた。クロマト分離法には回分方式及び擬似移動床方式があり、いずれの場合にも、通常、イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカゲル等の吸着剤及び水系又は有機溶媒系の溶剤である溶離液が用いられる。このクロマト分離法に従い、吸着剤が充填されている単位カラム中に原料溶液を溶離液と共に通過させると、原料溶液に含まれる特定の成分及び他の成分と吸着剤との吸着性の差を利用して、前記特定の成分を含有する液と含有しない液とを分離することができる。そして、前記特定の成分を含有する液を回収し濃縮すると前記特定の成分を得ることができる。
【0003】
しかしながら、かかるクロマト分離法には、用いる溶離液の単位カラム中における拡散速度の向上に限界があるので、単位カラム段数を増加させて分離効率の向上を図るというのが困難である。また、分離した液に含まれる目的成分の濃度が低いので、この液を濃縮しなければならず、したがって目的成分を含有する希薄溶液を一時的に貯留するタンクを必要とし、又、この希薄溶液を濃縮する濃縮装置を必要とするなど、工業的見地からすると効率的でなく、大規模な分離を行なうには、大規模かつ大型の装置群を必要とするという問題がある。
【0004】
この発明は、前記問題を解決すると共に、濃縮工程の省略及び単位カラム段数の向上を図ることができ、分離効率及び運転効率に優れる擬似移動床クロマト分離法を提供することを目的とする。
【0005】
【前記課題を解決するための手段】
前記問題を解決すべくこの発明者らが鋭意検討した結果、擬似移動床方式のクロマト分離法により複数成分を含有する原料から分離対象成分の分離を行なう際に、溶離液として超臨界流体を用いると、濃縮工程の省略及び単位カラム段数の実質的増大を図ることができ、効率よく分離を行なうことができることを見出し、この発明に到達した。
【0006】
すなわち、前記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、多糖エステル誘導体若しくは多糖カルバメート誘導体の粒子、又はこれらを担体に担持させた光学異性体分離用充填剤が充填された複数のカラムを無端状に連結して循環流路を形成し、この循環流路内で流体を一方向に強制循環させ、循環している流体の流れ方向に沿ってカラム内に超臨界流体を導入する第1導入口、カラムから吸着質に富む流体を抜き出す第1抜き出し口、分割するべき光学異性体混合物からなる原料を含んだ流体をカラム内に導入する第2導入口及び非吸着質に富む流体をカラム内から抜き出す第2抜き出し口をこの順に配置し、かつ循環流路内を循環している流体の流れ方向に沿って前記第1導入口、第1抜き出し口、第2導入口及び第2抜き出し口を間欠的に移動させることにより、光学異性体混合物からなる原料を吸着質と非吸着質とにそれぞれ分離することを特徴とする擬似移動床クロマト分離法である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記超臨界流体は、アルコール類、有機酸、アミン類、アルデヒド類及びエーテル類から選択される少なくとも一種が加えられたものである前記請求項1に記載の擬似移動床クロマト分離法であり、請求項3に記載の発明は、前記各カラムそれぞれは、その出口側に逆止弁を装着してなる前記請求項1に記載の擬似移動床クロマト分離法であり、請求項4に記載の発明は、前記循環流路は、その循環流路内を循環している流体の流れ方向に沿って前記第1導入口、第1抜き出し口、第2導入口及び第2抜き出し口を間欠的に移動させるロータリーバルブを備えて成る前記請求項1又は請求項3に記載の擬似移動床クロマト分離法である。
【0008】
以下、この発明に係る擬似移動床クロマト分離法つき詳細に説明する。
【0009】
この発明の方法においては、分割するべき複数成分を含有する原料を含んだ流体(A)から目的成分を、擬似移動床(B)を用いて分離する。
【0010】
(A)複数成分を含有する原料を有する溶液
前記複数成分を含有する原料溶液としては、特に制限がなく、例えば医薬、農薬、食品、飼料、香料等の分野で使用される各種の化合物、例えば医薬品のサリドマイド、クロロキン、有機リン系の農薬であるEPN、化学調味料であるグルタミン酸モノナトリウム塩、香料であるメントール等、を含有する溶液を挙げることができる。
【0011】
また、例えば光学活性なアルコール類、エステル類、アミン類、アミド化合物、カルボン酸類、アミノ酸等の光学異性体の混合物、例えばアミノ酸の光学活性な酒石酸エステルの混合物などを含有する溶液を挙げることができる。
【0012】
又、「医薬品名登録」(US Pharmacopeial Dictionary of Drug Names)の1980年版に記載された医薬品、あるいは「農薬便覧」(The Pesticide Manual,1979)に記載の農薬なども光学分割するべき原料として挙げることができる。
【0013】
この発明においては、これらの中でも、光学異性体の混合物等を含有する溶液を、好ましい複数成分を含有する原料の流体として挙げることができる。
【0014】
(B)擬似移動床
この発明の方法で用いられる前記擬似移動床は、多糖エステル誘導体若しくは多糖カルバメート誘導体の粒子、又はこれらを担体に担持させた光学異性体分離用充填剤を充填した複数の単位カラムを無端状に連結して循環流路を形成すると共にこの循環流路内で超臨界流体を一方向に強制循環させ、前記循環流路に、前記単位カラム内に溶離流体としての超臨界流体を導入する第1導入口と前記単位カラム内から吸着質に富む流体(以下、エクストラクトと称する。)を抜き出す第1抜出口都、複数成分を含有する原料を含有する流体を超臨界流体と共に導入する第2導入口と、非吸着質に富む流体(以下、ラフィネートと称する。)を抜き出す第2抜出口とをこの順に配置し、前記超臨界流体の流れ方向に前記第1及び第2導入口及び前記第1及び第2抜出口の位置を間欠的に移動させると共に、前記原料を超臨界流体と共に前記第2導入口から前記循環流路に導入し、同時に前記ラフィネート及び前記エクストラクトを前記第1及び第2抜出口から抜き出すことからなる。
【0015】
前記単位カラムの連結及び数については、特に制限はなく、実施スケールや反応工学的見地等から適宜選定することができる。例えば、図1に示すような8基の単位カラム(2a〜2h)を用い、これを直列に連結してもよい。
【0016】
前記導入口としては、溶離流体としての超臨界流体を導入する第1導入口及び原料を導入する第2導入口があり、前記抜出口としては、エクストラクトを抜き出す第1抜出口及びラフィネートを抜き出す第2抜出口がある。
【0017】
前記擬似移動床には、超臨界流体の流れの方向に沿って、第1導入口、第1抜出口、第2導入口及び第2抜出口がこれらの順に設けられると共に、これらを前記超臨界流体の流れの方向にそれらの位置を間欠的に逐次移動することができるようになっている。例えば、図1に示す擬似移動床においては、8基の単位カラム(2a〜2h)毎に前記第1導入口、第1抜出口、第2導入口、及び第2抜出がこの順に設けらると共に、これらを第1〜5ロータリーバルブA〜E及び電磁弁である逆止弁(7a〜7h)により、これらの位置を超臨界流体の流れの方向に間欠的に逐次移動することができるように設計されている。
【0018】
前記擬似移動床における流路内の圧力としては、溶離流体が超臨界状態を維持することのできる圧力であり、通常60気圧以上であり、好ましくは70気圧以上である。また、流路内における超臨界流体の温度は、通常30℃以上であり、好ましくは40℃以上である。
【0019】
前記圧力が前記圧力範囲よりも低いと、溶離流体を超臨界状態に維持することができなくなり、気体を循環させることになって分離効率が低下することがある。また、温度が、前記範囲よりも低いとこれまた分離効率が低下することがある。
【0020】
-超臨界流体-
前記超臨界流体とは、気体と液体とが共存することができる臨界温度及び臨界圧力以上における、気体とも液体とも言えない臨界状態の流体をいう。この超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、亜酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄、ハロゲン化水素、硫化水素、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ハロゲン化炭化水素等を用いることができる。
【0021】
これらの中でも、爆発性、人体への有害性等を考慮すると、二酸化炭素を用いるのが好ましい。二酸化炭素を超臨界流体として用いる場合には、二酸化炭素の臨界温度31.3℃よりも高い温度、かつ臨界圧力79.9気圧よりも高い圧力の条件下で使用する。
【0022】
なお、前記超臨界流体には、少量の溶剤を加えることができる。
【0023】
前記溶剤としては、例えば、エタノール、メタノール、2-プロパノール等のアルコール類、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、テトラヒドロフラン、エチルエーテル等のエーテル類を挙げることができる。
【0024】
-光学異性体分離用充填剤-
前記光学異性体分離用充填剤としては、複数成分を含有する原料溶液中の特定の成分との吸着性があれば特に制限はなく、例えば、シリカゲル、イオン交換樹脂、ゼオライト、シリカゲル等の担体の表面に化学修飾したもの、あるいはポリマーをコーティングしたものなどを挙げることができる。前記シリカゲル等の担体の表面に化学修飾した固体吸着剤としては、例えばODS等を挙げることができる。
【0025】
前記光学異性体分離用充填剤としては、例えば、光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、又は蛋白質若しくはその誘導体等を、シリカゲル等の担体に担持させた固体吸着剤、あるいはシリカゲル等の担体を使用せずにこれらをそのまま粒状にした固体吸着剤を挙げることができる。
【0026】
前記光学活性な化合物としては、例えば、多糖エステル誘導体、多糖カルバメート誘導体、ポリアクリレート誘導体、又はポリアミド誘導体を挙げることができる。
【0027】
前記多糖エステル誘導体及び多糖カルバメート誘導体における多糖としては、天然多糖、天然物変性多糖及び合成多糖、又はオリゴ糖のいずれかを問わず、光学活性であれば特に制限がない。
【0028】
前記多糖の具体例としては、α-1,4-グルカン(アミロース、アミノペクチン)、β-1,4-グルカン(セルロース)、α-1,6-グルカン(デキストラン)、β-1,3-グルカン(カードラン、ジソフィランなど)、α-1,3-グルカン、β-1,2-グルカン(Crawn Gall多糖)、α-1,6-マンナン、β-1,4-マンナン、β-1,2-フラクタン(イヌリン)、β-2,6-フラクタン(レバン)、β-1,4-キシラン、β-1,3-キシラン、β-1,4-キトサン、β-1,4-N-アセチルキトサン(キチン)、プルラン、アガロース、アルギン酸等を挙げることができる。
【0029】
これらの中で好ましいのは、セルロース、アミロース、β-1,4-キシラン、β-1,4-キトサン、キチンである。
【0030】
これら多糖の数平均重合度(1分子中に含まれるピラノースあるいはフラノース環の平均数)の上限は2,000、好ましくは500以下であることが、取り扱いの容易さにおいて、好ましい。
【0031】
前記オリゴ糖としては、マルトース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、イソマルトース、エルオース、パラチノース、マルチトール、マルトトリイソトール、マルトテトライトール、イソマルチトール、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等を挙げることができる。
【0032】
前記多糖エステル誘導体又は多糖カルバメート誘導体は、多糖の有する水酸基又はアミノ基上の水素原子の一部又は全部を下記の式(1)、(2)、(3)及び(4)のいずれかで示される原子団の少なくとも一種と置換してなる化合物である。
【0033】
【化1】

【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
ただし、式中、Rはヘテロ原子を含んでもよい芳香族炭化水素基であり、非置換であっても、又は炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、シアノ基、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアシル基、炭素数1〜8のアシルオキシ基、ヒドロキシル基、炭素数1〜12のアルコキシカルボニル基、ニトロ基、アミノ基及び炭素数1〜8のジアルキルアミノ基よりなる群から選択される少なくとも一種の基あるいは原子によって置換されていてもよい。
【0038】
前記芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラシル基、インデニル基、インダニル基、フリル基、チオニル基、ピリル基、ベンゾフリル基、ベンズチオニル基、インジル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基などを挙げることができる。これらの中でも特に好ましいのは、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基である。
【0039】
Xは炭素数1〜4の炭化水素基であり、二重結合又は三重結合を含んでいてもよい。Xとしては、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、エテニレン基、エチニレン基、1,2-又は1,3-プロピレン基、1,1-又は2,2-プロピリジン基等を挙げることができる。
【0040】
なお、上記原子団による置換度は30%以上であり、好ましくは50%以上であり、更に好ましくは80%以上である。
【0041】
上記の置換基を有することのある多糖誘導体は、糖の水酸基あるいはアミノ基に酸クロライド、あるいはイソシアネートを反応させる方法により製造することができる。
【0042】
前記光学分割能を有する低分子化合物としては、例えばクラウンエーテル又はその誘導体やシクロデキストリン又はその誘導体を挙げることができる。
【0043】
前記蛋白質又はその誘導体としては、例えば、各種の抗体蛋白、α1-酸性糖蛋白、種々の血清アルブミン、卵蛋白、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0044】
この発明の方法では、前記光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、又は蛋白質若しくはその誘導体の粒子を、光学異性体分離用充填剤として使用することができる。この場合、光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、又は蛋白質若しくはその誘導体の粒子の大きさとしては、使用するカラムの大きさによって相違するが、通常1μm〜1mmであり、好ましくは5μm〜300μmである。
【0045】
前記光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、又は蛋白質若しくはその誘導体の粒子は、無孔質であってもよいが、多孔質であるのが好ましい。多孔質である場合、その細孔径は、10Å〜100μmであり、好ましくは10Å〜5,000Åである。
【0046】
この発明の方法では、前記光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、又は蛋白質若しくはその誘導体を担体に担持した粒子を光学異性体分離用充填剤として使用することもできる。
【0047】
前記担体としては、前記光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、又は蛋白質若しくはその誘導体を担持することができるのであれば有機担体及び無機担体のいずれであってもよい。
【0048】
前記有機担体としては、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート等などの高分子物質を挙げることができる。
【0049】
前記無機担体としては、シリカゲル、アルミナ、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ケイソウ土などを挙げることができる。
【0050】
これらの中でも好ましいのは、シリカゲル、アルミナ、ケイ酸塩等である。
【0051】
これらの担体は、担体自身の表面を改質するための適当な処理が施されていてもよい。
【0052】
これら担体は、通常1μm〜1mmであり、好ましくは5μm〜300μmである。この担体は無孔質であってもよいが、多孔質であるのが好ましい。多孔質である場合、その細孔径は、10Å〜100μmであり、好ましくは100Å〜5,000Åである。
【0053】
担体に担持させる前記光学活性な化合物、光学分割能を有する低分子化合物、蛋白質又はその誘導体の担持量は、担体に対して通常1〜100重量%であり、好ましくは5〜50重量%である。担持量が1重量%未満では、複数成分を含有する原料溶液の光学分割を有効に行えないことがあり、また、100重量%を越えても多く担持させるに見合う技術的効果を奏することのできないことがある。
【0054】
この発明においては、これらの中でも、セルロースエステル誘導体、セルロースカルバメート誘導体の粒子又はこれらをシリカゲルに担持させた光学異性体分離用充填剤が好ましい。
【0055】
具体的には、市販品であるダイセル化学工業(株)製CHIRALCEL OA(登録商標)、CHIRALCEL OB(登録商標)、CHIRALCEL OC(登録商標)、CHIRALCEL OD(登録商標)、CHIRALCEL OJ(登録商標)、CHIRALCEL OG(登録商標)、CHIRALCEL OF(登録商標)、CHIRALPAK AS(登録商標)、CHIRALPAK AD(登録商標)、CROWNPAK CR(+)(登録商標)、CHIRALCEL CA-1(登録商標)、CHIRALCEL OK(登録商標)、CHIRALPAK WH(登録商標)、CHIRALPAK WM(登録商標)、CHIRALPAK WE(登録商標)、CHIRALPAK OT(+)(登録商標)、CHIRALPAK OP(+)(登録商標)等を好適例として挙げることができる。
【0056】
前記光学異性体分離用充填剤の平均粒径としては、分離しようとする成分の種類、擬似移動床内に流通する溶媒の体積流通速度等に応じて様々に変化するのであるが、通常1〜100μmであり、好ましくは5〜100μmである。もっとも、擬似移動床内での圧損を小さく抑制するのであれば、20〜100μmに光学異性体分離用充填剤の平均粒径を調整しておくのが好ましい。前記平均粒径が上記範囲内にあると擬似移動床における圧損を少なくすることができ、例えば10kgf/cm2以下に抑制することもできる。一方、前記平均粒径が大きくなればなるほど吸着理論段数は低下する。したがって、実用的な吸着理論段数が達成されることだけを考慮するなら、前記光学異性体分離用充填剤の平均粒径は、通常20〜50μmである。
【0057】
--擬似移動床方式によるクロマト分離--
この発明においては、擬似流動床方式による複数成分を含有する原料溶液の吸着分離は、基本工程として、以下に示す吸着工程(1)、濃縮工程(2)、脱着工程(3)及び溶離液回収工程(4)を連続的に循環して行う。
【0058】
(1)吸着工程
複数成分を含有する原料が光学異性体分離用充填剤と接触し、光学異性体分離用充填剤に吸着容易な光学活性体(吸着質)が吸着され、吸着困難な一方の光学活性体(非吸着質)がラフィネート分として超臨界流体と共に回収される。
【0059】
(2)濃縮工程
吸着質を吸着した光学異性体分離用充填剤は後述するエクストラクトの一部と接触し、光学異性体分離用充填剤上に残存している非吸着質が追い出され、吸着質が濃縮される。
【0060】
(3)脱着工程
濃縮された吸着質を含む光学異性体分離用充填剤は溶離流体としての超臨界流体と接触させられ、吸着質が光学異性体分離用充填剤から追い出され、超臨界流体を伴ってエクストラクト分として擬似流動床から排出される。
【0061】
(4)溶離液回収工程
実質的に超臨界流体のみを吸着した光学異性体分離用充填剤は、ラフィネート分の一部と接触し、光学異性体分離用充填剤に含まれる超臨界流体の一部が超臨界流体回収分として回収される。
【0062】
前記各工程(1)〜(4)につき図面を参照しながら更に詳述すると以下の通りである。
【0063】
図2において1〜12で示すのは、光学異性体分離用充填剤が充填された単位カラムであり、相互に液体通路で連結されている。13で示されるのは第1導入口に結合された超臨界流体供給ライン、14で示されるのは第1抜出口に結合されたエクストラクト抜き出しライン、15で示されるのは複数成分を含有する原料を含有する流体を供給するための、第2導入口に結合された供給ライン、16で示されるのは第2抜出口に結合されたラフィネート抜き出しライン、17で示されるのは循環流路、18で示されるのは循環ポンプである。
【0064】
図2に示される単位カラム1〜12と各ライン13〜16の配置状態では、単位カラム1〜3により脱着工程、単位カラム4〜6により濃縮工程、単位カラム7〜9により吸着工程、単位カラム10〜12により超臨界流体回収工程がそれぞれ行われる。
【0065】
かかる擬似移動床では、一定時間間隔毎に例えばバルブ操作により超臨界流体供給ライン、複数成分を含有する原料溶液の供給ライン及び各抜き出しラインを溶媒の流通方向に単位カラム1基分だけ移動させる。
【0066】
したがって、第2段階では、単位カラム2〜4により脱着工程、単位カラム5〜7により濃縮工程、単位カラム8〜10により吸着工程、単位カラム11〜1により超臨界流体回収工程がそれぞれ行われるようになる。このような動作を順次に行うことにより、各工程が単位カラム1基づつずれていき、複数成分を含有する原料溶液の分離処理が連続的に効率よく達成される。
【0067】
上記した擬似移動床方式により抜き出されたエクストラクトには、分離対象たる成分が90%以上の高い割合で含有される。また、具体的には、例えば光学活性体混合物の分離の場合、分離対象たる光学活性体を95%以上あるいは98%以上もの高い光学純度でエクストラクト中に含有し、ラフィネートにおいても前記と同様の高い光学純度で他の光学活性体を溶媒中に含有している。
【0068】
なお、この発明の方法で使用される擬似移動床としては、前記図2に示されるものに限定されず、種々の擬似移動床を使用することができる。
【0069】
【実施例】
以下にこの発明の実施例について説明するが、この発明はこれら実施例に何ら限定されるものではなく、この発明の目的を害しない範囲で適宜に変形して実施することができる。
【0070】
(実施例1)光学異性体分離用充填剤として、セルロース トリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を担体としてシリカゲルに担持させてなる光学異性体分離用充填剤(ダイセル化学工業(株)製、CHIRALCEL OD(登録商標);粒子径20μm)を内部に充填した内径1cm、長さ25cmの単位カラム8本を直列に連結してなる擬似移動床装置に、トランス-スチルベンオキシドを1.5ml/min(ラセミ体濃度10mg/ml)で供給し、以下の条件にて擬似移動床装置を運転した。
【0071】
超臨界流体;二酸化炭素とエタノールとの混合液 二酸化炭素/エタノール(容量比)=3/0.2 超臨界流体の供給速度;50ml/min エクストラクトの抜出口の流量;35ml/min ラフィネートの抜出口の流量;16.5ml/min 単位カラムの切り替え時間;2.5min 擬似移動床装置内の温度;60℃ 擬似移動床装置内の圧力(抜出口の背圧);100kg/cm2結果としては、エクストラクト抜出口からは(+)-トランス-スチルベンオキシドが5.1mg/min(光学純度96%ee)で、またラフィネート抜出口からは(-)-トランス-スチルベンオキシドが4.9mg/min(光学純度99%ee)で得ることができた。
【0072】
(実施例2)光学異性体分離用充填剤として、セルロース トリ(P-メチルベンゾエート)を担体としてシリカゲルに担持させてなる光学異性体分離用充填剤(ダイセル化学工業(株)製、CHIRALCEL OJ(登録商標);粒子径20μm)を内部に充填した内径1cm、長さ25cmの単位カラム8本を直列に連結してなる擬似移動床装置に、α-トリチルベンジルアルコールを2.5ml/min(ラセミ体濃度12mg/ml)で供給し、以下の条件にて擬似移動床装置を運転した。
【0073】
超臨界流体;二酸化炭素と2-プロパノールとの混合液 二酸化炭素/2-プロパノール(容量比)=3/0.2 超臨界流体の供給速度;50ml/min エクストラクト抜出口の流量;32ml/min ラフィネート抜出口の流量;20.5ml/min 単位カラムの切り替え時間;11min 擬似移動床装置内の温度;60℃ 擬似移動床装置内の圧力(抜出口の背圧);100kg/cm2結果としては、エクストラクト抜出口からは(+)-α-トリチルベンジルアルコールが6.3mg/min(光学純度90.5%ee)で、またラフィネート抜出口からは(-)-α-トリチルベンジルアルコールが5.7mg/min(光学純度99%ee)で得ることができた。
【0074】
【発明の効果】
この発明によると、濃縮工程を省くことができると共にカラムの段数を向上させることができ、分離効率及び運転効率に優れる擬似移動床クロマト分離法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、8本の単位カラムを有する擬似移動床を用いる、この発明の擬似移動床クロマト分離法を示す概略説明図である。
【図2】図2は、12本の単位カラムを有する擬似移動床を用いる、この発明の擬似移動床クロマト分離法を示す概略説明図である。
【符号の説明】
1〜12 単位カラム
13 超臨界流体供給ライン
14 エクストラクト抜き出しライン
15 光学異性体混合物含有液供給ライン
16 ラフィネート抜き出しライン
17 循環流路
18 循環ポンプ
19 超臨界流体供給ライン
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-01 
出願番号 特願平4-329192
審決分類 P 1 652・ 534- YA (B01D)
P 1 652・ 121- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村守 宏文  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 佐藤 修
野田 直人
登録日 2002-05-17 
登録番号 特許第3306813号(P3306813)
権利者 ダイセル化学工業株式会社
発明の名称 擬似移動床クロマト分離法  
代理人 川口 嘉之  
代理人 遠山 勉  
代理人 遠山 勉  
代理人 川口 嘉之  

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