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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60R
管理番号 1130852
異議申立番号 異議2003-73379  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-10-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-24 
確定日 2005-11-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3467114号「エアバッグ装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3467114号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3467114号の発明についての出願は、平成7年3月29日に特許出願され、平成15年8月29日に特許の設定登録(請求項の数:1)がされた。
これに対して、表記異議申立人より請求項1に係る特許について異議の申立てがあったので、当審において審理のうえ取消理由を通知したところ、その指定期間内に特許異議意見書と共に訂正請求書が提出されたものであるが、さらに審理して再度の取消理由を通知したところ指定期間内に特許異議意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1.訂正の内容
<訂正事項a>
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1 を、以下のとおり訂正する。
「【請求項1】
被取付部材に、エアバッグと、このエアバッグを覆うカバー体とを取り付けたエアバッグ装置において、
前記カバー体は、脆弱なテアラインを形成した上板部を備え、 前記エアバッグは、帯状に折り畳まれ、次いで、両側部を中心側に向かって巻回するようにして、折り畳んだ端部同士が中央部で近接した状態で折り畳まれ、
前記カバー体の内側に位置して、折り畳んで収納された前記エアバッグを前記カバー体の上板部から離間させて覆うとともに、前記エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けたシート状のラッピング部材を備え、
前記エアバッグの展開時には、前記エアバッグは、両側に折り畳まれた部分の端部がそれぞれ起き上がるように展開し、前記破断部に張力を集中的に加えて、この破断部に沿って前記ラッピング部材を両側に開裂することを特徴とするエアバッグ装置。」
<訂正事項b>
特許明細書の段落【0008】を、以下のとおり訂正する。
「【課題を解決するための手段】
本発明のエアバッグ装置は、被取付部材に、エアバッグと、このエアバッグを覆うカバー体とを取り付けたエアバッグ装置において、前記カバー体は、脆弱なテアラインを形成した上板部を備え、前記エアバッグは、帯状に折り畳まれ、次いで、両側部を中心側に向かって巻回するようにして、折り畳んだ端部同士が中央部で近接した状態で折り畳まれ、前記カバー体の内側に位置して、折り畳んで収納された前記エアバッグを前記カバー体の上板部から離間させて覆うとともに、前記エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けたシート状のラッピング部材を備え、前記エアバッグの展開時には、前記エアバッグは、両側に折り畳まれた部分の端部がそれぞれ起き上がるように展開し、前記破断部に張力を集中的に加えて、この破断部に沿って前記ラッピング部材を両側に開裂するものである。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、拡張・変更の存否
<訂正事項a>について
訂正事項aの訂正は、特許明細書の請求項1に記載された「カバー体」及び「ラッピング部材」に関する事項を限定するもので、当初明細書の【0016】 段落の「折り畳まれたエアバッグ24は、図4などに示すように、シート状をなすラッピング部材31により上部表面を覆われて形状が保持されている。」との記載、【0019】段落の「このカバー体34の上板部36の裏面側には、上板部36の他の部分より脆弱なテアライン44が平面略H字状をなして凹設され、エアバッグ24の膨張時に前後に展開する前後一対の扉片部が形成されている。」との記載、【0022】段落の記載、【0009】 段落の「本発明のエアバッグ装置では、エアバッグは、ラッピング部材により折り畳まれた形状に保持された状態で、カバー体によって覆われており、エアバッグが自己復元しようとしても、安定して形状が保持され、カバー体の外観に影響を与えることがない。」との記載及び【図4】の記載に基づくものである。特に、【図4】の記載から、ラッピング部材がカバー体の上板部から離間しているものと認められる。
よって、この訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、この訂正により、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。
<訂正事項b>について
訂正事項bの訂正は、訂正事項aの訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるために訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

3.訂正の容認
以上のとおり、前記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証〜甲第7号証を提示して、本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの(異議理由1)であり、また、本件特許の請求項1に係る発明は、仮に、運転席用エアバッグ装置に限定されても甲第4号証〜甲第7号証を参酌することにより甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの(異議理由2)であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨、それぞれ主張している。

2.取消理由の概要
平成16年10月14日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
本件の請求項1に係る発明は、刊行物1(甲第4号証:独国特許出願公開第4313616号明細書)及び刊行物2(甲第5号証:特開平6-199202号公報)に記載された発明と各周知例(実開平1-63561号公報、米国特許第5162035号明細書、米国特許第5391137号明細書)に示された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
また、平成17年4月11日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
本件の請求項1に係る発明は、引用発明(刊行物1である甲第4号証)に刊行物2〜7(以下の4.参照)に記載の技術事項を採用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、<付記>として、カバー体の上板部とシート状のラッピング部材とを離間させることの技術的意義と、「離間」という用語の根拠について釈明を求めた。

3.本件発明
前述のとおり、平成16年12月21日付けの訂正請求は認められたので、本件特許の請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】
被取付部材に、エアバッグと、このエアバッグを覆うカバー体とを取り付けたエアバッグ装置において、
前記カバー体は、脆弱なテアラインを形成した上板部を備え、 前記エアバッグは、帯状に折り畳まれ、次いで、両側部を中心側に向かって巻回するようにして、折り畳んだ端部同士が中央部で近接した状態で折り畳まれ、
前記カバー体の内側に位置して、折り畳んで収納された前記エアバッグを前記カバー体の上板部から離間させて覆うとともに、前記エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けたシート状のラッピング部材を備え、 前記エアバッグの展開時には、前記エアバッグは、両側に折り畳まれた部分の端部がそれぞれ起き上がるように展開し、前記破断部に張力を集中的に加えて、この破断部に沿って前記ラッピング部材を両側に開裂することを特徴とするエアバッグ装置。
(以下、請求項1に係る発明を本件発明という)

4.刊行物とその記載事項
当審で通知した平成17年4月11日付けの取消理由に引用した本件特許出願前に頒布された刊行物は、以下のとおりである。
[刊行物1] 独国特許出願公開第4313616号明細書
(平成6年10月27日公開) <<甲第4号証>>
(和訳は、特開平7-132789号公報参照)
[刊行物2] 独国特許出願公開第4137691号明細書
(平成4年11月12日公開)
[刊行物3] 特開平6-199202号公報 <<甲第5号証>>
[刊行物4] 実願昭62-160249号(実開平1-63561号)
のマイクロフィルム
[刊行物5] 特開平2-303949号公報
[刊行物6] 実願平1-59175号(実開平2-149346号)
のマイクロフィルム
[刊行物7] 実願昭63-140533号(実開平2-60652号)
のマイクロフィルム
[刊行物8] 特開平2-310140号公報

[刊行物1]
刊行物1には、固定板14に、ガスバッグ12と、このガスバッグ12を覆うカバー体10とを取り付けた車両ガスバッグ拘束装置において、前記カバー体10の内側に位置して、折り畳んで収納された前記ガスバッグ12を覆うプラスチックフィルム40を備えた車両ガスバッグ拘束装置が記載されている。
[刊行物2]
刊行物2には、エアバッグ5 を覆う収縮性スリーブ6及びその外側を覆う蓋9とを含み、収縮性スリーブ6及び蓋9には、それぞれ予定破断部11及び分割線10が設けられているエアバッグユニット3が記載されている。
[刊行物3]
刊行物 3 には、エアバッグ16aを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に近接して、モジュールカバー22aのテアライン26aを設けた構成が示されている。そして、この刊行物には、プレート44によりエアバッグ16aを押し上げ、テアライン26aに切目を形成する構成が示されている。
[刊行物4]
刊行物4には、袋体1を折り畳んだ端部同士を近接させた部分に近接して、カバー3の破断部7 を設けた構成が示されている。
[刊行物5]
刊行物5には、エアバッグ10を覆うカバー体21について、エアバッグ10の膨張に伴い破断される肉薄部25を裏面の被断溝部24により形成した構成が示されている。
[刊行物6]
刊行物6には、エアバッグ装置2のカバー部材であるリッド24について、エアバッグ22の展開時に破断される脆弱部30を形成した構成が示されている。
[刊行物7]
刊行物7には、エアバッグ27を収納するエアバッグカバー体11について、エアバッグ27の膨張により破断する破断部を形成した構成が示されている。
[刊行物8]
刊行物8 には、エアバッグ装置2について、第4図に示されるように、エアバッグユニット40が、エアバッグ22を収容するケーシング21及びカバー部材41を備えるとともに、インストルメントパネル1に連続するカバー部材であるリッド24を備え、カバー部材41によりエアバッグユニット40の取り扱いを容易にすることを図った構成が記載されている。

5.対比、当審の判断
本件発明と刊行物1に記載の発明とを対比すると、刊行物1に記載の発明では、本件発明の重要な構成要件である、シート状のラッピング部材について、エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けた構成(平成17年4月11日付けの取消理由通知における相違点3)を有しておらず、また、カバー体の上板部とラッピング部材とを離間した構成(同じく相違点4)を有していない。
そして、これらの構成の相違により、刊行物1に記載の発明では、エアバッグの展開時に、エアバッグが、両側に折り畳まれた部分の端部がそれぞれ起き上がるように展開し、ラッピング部材の破断部に張力を集中的に加えて、この破断部に沿ってラッピング部材を両側に開裂するとの本件発明の作用効果(同じく相違点5)を奏し得ないものである。

相違点3及び相違点4の構成を併せ備えたことにより、本件発明の技術的意義として、エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿ってラッピング部材の破断部を設けた構成と相まって、離間の存在により、エアバッグの展開時にエアバッグの端部が起き上がろうとする力をラッピング部材の破断部に集中させて、ラッピング部材の破断部に効果的に張力を加えて破断し、続いて、カバー体のテアラインを瞬時に破断できるという格別な効果を奏するものと思料される。

この点に関して、刊行物2に記載の発明についてみても、ラッピング部材に単に破断部を設けているだけであって、ラッピング部材について、エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けた構成を有しておらず、また、図面を参酌しても収縮性スリーブ6(ラッピング部材に相当)とその外側を覆う蓋9(カバー体に相当)とは離間しているとまでは読み取ることはできない。
また、刊行物3〜刊行物8にも、前記相違点3及び相違点4の構成を併せ備えたものは記載されていない。

したがって、刊行物1に記載の発明に刊行物2〜8に記載の技術事項を組み合わせたとしても、本件発明のシート状のラッピング部材が、エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けた構成を備えると共に、ラッピング部材がカバー体の上板部と離間した構成を備えたものを容易に想到し得るものではない。

また、異議申立書に添付の他の証拠(甲第1,2,3,6,7号証)並びに平成16年10月14日付けの取消理由に引用した周知例(実開平1-63561号公報、米国特許第5162035号明細書、米国特許第5391137号明細書)にも、前記相違点3及び相違点4の構成を併せ備えたものは見当たらない。

結局、本件発明は、刊行物1〜8に記載されたもの及び前記した他の証拠並びに周知例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び提出された証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エアバッグ装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】被取付部材に、エアバッグと、このエアバッグを覆うカバー体とを取り付けたエアバッグ装置において、
前記カバー体は、脆弱なテアラインを形成した上板部を備え、
前記エアバッグは、帯状に折り畳まれ、次いで、両側部を中心側に向かって巻回するようにして、折り畳んだ端部同士が中央部で近接した状態で折り畳まれ、
前記カバー体の内側に位置して、折り畳んで収納された前記エアバッグを前記カバー体の上板部から離間させて覆うとともに、前記エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けたシート状のラッピング部材を備え、
前記エアバッグの展開時には、前記エアバッグは、両側に折り畳まれた部分の端部がそれぞれ起き上がるように展開し、前記破断部に張力を集中的に加えて、この破断部に沿って前記ラッピング部材を両側に開裂する
ことを特徴とするエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、エアバッグを折り畳んで収納したエアバッグ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車のステアリングホイールなどに設けられるエアバッグ装置が用いられている。このエアバッグ装置は、ステアリングホイール本体に取り付けられる金属製のベースプレートを備え、このベースプレートに、ガスを噴射するインフレータと、このガスにより膨張するエアバッグと、このエアバッグを覆うカバー体とが取り付けられている。そして、エアバッグは、小さく折り畳まれた状態でカバー体の内部に収納され、自動車の衝突などに際してインフレータから噴射されるガスの圧力により膨張してカバー体を開裂させ、乗員の前面に展開されるようになっている。
【0003】
しかしながら、エアバッグは、小さく折り畳まれた状態で収納されるため、自発的に形状を復元しようとする作用があり、特に、熱などによりカバー体の復元力が助長され、膨張しようとすると、このエアバッグがカバー体を内側から押圧して、カバー体が膨らむ、テアライン等の段差が露見する等、外観を悪化させるなどの問題を有している。また、カバー体の裏面側にホーンスイッチを設ける場合には、エアバッグとホーンスイッチとを内側から押圧するので、ホーンスイッチの誤動作の原因になるとの問題を有している。
【0004】
この点、例えば、実公昭54-3486号公報に記載されたエアバッグ装置が知られている。このエアバッグ装置では、両端部がエアバッグとともにベースプレートに固定されたベルト状の部材を用い、このベルト状の部材によりエアバッグを締め付けて、折り畳んだ形状を保持するようになっているとともに、ベルト状の部材の中央部に菱形状の切欠部が形成され、エアバッグの展開時に、この切欠部の近傍の破断部から破断するようになっている。
【0005】
しかしながら、上記実公昭54-3486号公報記載の構成では、エアバッグの展開初期において、ベルト状の部材の破断部の近傍が膨張するまで、ベルト状の部材が破断しにくいため、エアバッグを迅速に展開させることが困難になる問題を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、エアバッグを、小さく折り畳んで収納する構成では、自発的に形状を復元しようとする作用により、特に、熱などによりカバー体の復元力が助長され、膨張しようとすると、このエアバッグがカバー体を内側から押圧して、カバー体が膨らむ、テアライン等の段差が露見する等、外観を悪化させるなどの問題を有している。また、カバー体の裏面側にホーンスイッチを設ける場合には、エアバッグとホーンスイッチとを内側から押圧するので、ホーンスイッチの誤動作の原因になるとの問題を有している。そして、実公昭54-3486号公報記載の構成では、エアバッグの展開初期において、ベルト状の部材の破断部の近傍が膨張するまで、ベルト状の部材が破断しにくいため、エアバッグを迅速に展開させることが困難になる問題を有している。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、折り畳んだエアバッグの形状を安定して保持できるとともに、エアバッグを円滑に展開できるエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のエアバッグ装置は、被取付部材に、エアバッグと、このエアバッグを覆うカバー体とを取り付けたエアバッグ装置において、前記カバー体は、脆弱なテアラインを形成した上板部を備え、前記エアバッグは、帯状に折り畳まれ、次いで、両側部を中心側に向かって巻回するようにして、折り畳んだ端部同士が中央部で近接した状態で折り畳まれ、前記カバー体の内側に位置して、折り畳んで収納された前記エアバッグを前記カバー体の上板部から離間させて覆うとともに、前記エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けたシート状のラッピング部材を備え、前記エアバッグの展開時には、前記エアバッグは、両側に折り畳まれた部分の端部がそれぞれ起き上がるように展開し、前記破断部に張力を集中的に加えて、この破断部に沿って前記ラッピング部材を両側に開裂するものである。
【0009】
【作用】
本発明のエアバッグ装置では、エアバッグは、ラッピング部材により折り畳まれた形状に保持された状態で、カバー体によって覆われており、エアバッグが自己復元しようとしても、安定して形状が保持され、カバー体の外観に影響を与えることがない。そして、ラッピング部材には、エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けたので、エアバッグが膨張展開する際には、両側に折り畳まれた部分の端部が起き上がるように展開して破断部に張力が加わり、このエアバッグが起き上がろうとする力が破断部に集中して、ラッピング部材が破断部にて迅速に破断される。
【0010】
【実施例】
以下、本発明のエアバッグ装置の一実施例の構成を図面を参照して説明する。
【0011】
図2において、11は自動車のステアリングホイールで、このステアリングホイール11は、ステアリングホイール本体12と、このステアリングホイール本体12の乗員側となる上側に装着されたエアバッグ装置14となどから構成されている。
【0012】
そして、ステアリングホイール本体12は、環状をなすリム部15と、このリム部15の内側に位置するボス部16と、これらリム部15およびボス部16を連結した複数のスポーク部17とから構成されている。また、ステアリングホイール本体12の車体側となる下側には、図示しないステアリングシャフトに嵌着されるボスが配置されているとともに、このボスにボスプレートが溶接などして固着されている。また、このボスプレートに、スポーク部17の芯金が接続され、このスポーク部17の芯金に、リム部15の芯金が接続されている。そして、これらリム部15の芯金の外周部と、スポーク部17の芯金のリム部15側の部分の外周部とに、軟質の合成樹脂などからなる表皮部18が形成されている。
【0013】
また、エアバッグ装置14は、図1、図3および図4に示すように、被取付部材としての金属製のベースプレート21を備え、このベースプレート21が、ステアリングホイール本体12のボスプレートにブラケットなどを介して取り付けられるようになっている。そして、このベースプレート21には、略平板状をなす上板部21aと、この上板部21aの周縁部から下方に向かって屈曲された周壁部21bとが形成されている。そして、上板部21aには、円孔状のインフレータ取付孔21cが形成され、このインフレータ取付孔21cに下側から嵌合して、ガスを噴射する略円柱状のインフレータ22が取り付けられている。さらに、この上板部21aの上面には、このインフレータ22の上側を覆うようにして、袋状のエアバッグ24が折り畳んだ状態で取り付けられている。
【0014】
そして、エアバッグ24は、図5に示すように、円形の布材を上下に2枚突き合わせ、外周部同士を縫合して、袋状に形成されている。また、下側の布材には、インフレータ22に嵌合するインフレータ挿入口24aが形成されているとともに、充填されたガスを排出するための一対のベントホール24bが開口形成されている。そして、このエアバッグ24は、図6に示すように、前側部を後側に、後側部を前側に、それぞれベースプレート21の前後方向の寸法より僅かに小さい帯状に折り畳まれ、続いて、両側部を中心側に向かって巻回するようにして折り畳むことにより、図1、図4および図7に示すように、折り畳んだ端部24c同士が中央部で近接した状態で、小さく折り畳まれている。
【0015】
さらに、このエアバッグ24は、図3および図4に示すように、環状のリテーナ26を用いて、インフレータ挿入口24aの近傍がベースプレート21の上板部21aに押し付けられているとともに、リテーナ26から下方に突設したボルト27を、エアバッグ24、ベースプレート21、およびインフレータ22のフランジ部22aを挿通させて、このフランジ部22aの下面からナット28を螺合することにより、インフレータ22とともにエアバッグ24がベースプレート21に固定されている。また、ベースプレート21の周壁部21bには、リベット用通孔21dと、係合用通孔21eとがそれぞれ複数形成されているとともに、両側の周壁部21bには、それぞれブラケット取付部21fが形成されている。
【0016】
また、折り畳まれたエアバッグ24は、図4などに示すように、シート状をなすラッピング部材31により上部表面を覆われて形状が保持されている。そして、このラッピング部材31は、合成紙、紙、布、不織布、またはこれらの製造後または製造工程中において樹脂を添加、含浸、混紡、コーティング等の方法により組み合わせたもの、あるいはポリエステル等の樹脂シートから形成され、本実施例では、合成紙「タイベック」(商品名)が用いられている。また、このラッピング部材31は、図3および図8に示すように、折り畳まれたエアバッグ24に当接する本体部31aを有するとともに、この本体部31aの両端部に、この本体部31aよりも僅かに幅寸法の小さい取付部31b,31bが形成されている。そして、本体部31aの長手方向の中央部には、他の部分よりも脆弱なスリットなどからなる破断部としてのテアライン31cが本体部31aの幅方向の全長にわたって形成されている。また、各取付部31bには、それぞれ円孔状をなすリベット用通孔31dが複数形成されている。
【0017】
そして、このラッピング部材31は、エアバッグ24を所定の形状に折り畳んだ状態で、本体部31aがこのエアバッグ24を包み込むようにして、各取付部31bを両面テープなどを用いてベースプレート21に接着し、仮固定されるようになっている。
【0018】
さらに、図3および図4に示すように、ベースプレート21には、このラッピング部材31に覆われたエアバッグ24をさらに覆うようにして、カバー体34が取り付けられている。そして、このカバー体34は、熱可塑性エラストマーなどの合成樹脂にて一体に形成され、ステアリングホイール本体12のボス部16およびスポーク部17の一部を覆う上板部36と、この上板部36の裏面から下側に突設された略角筒状をなす取付壁部37とを有している。そして、この取付壁部37には、円孔状をなすリベット用通孔37aが形成されているとともに、図示しない複数の係合突部が内側に突設されている。
【0019】
また、このカバー体34の上板部36の裏面側には、上板部36の他の部分より脆弱なテアライン44が平面略H字状をなして凹設され、エアバッグ24の膨張時に前後に展開する前後一対の扉片部が形成されている。
【0020】
そして、このカバー体34は、取付壁部37をベースプレート21の周壁部21bの外側に嵌合し、この取付壁部37から突設した係合突部を周壁部21bに形成した係合用通孔21eに係合するとともに、取付壁部37のリベット用通孔37aと周壁部21bのリベット用通孔21dとを挿通するリベット61により、取付壁部37と周壁部21bとを固着して、ベースプレート21に固定されるようになっている。
【0021】
また、この状態で、カバー体34の取付壁部37と、ベースプレート21の周壁部21bとの間に、ラッピング部材31の取付部31bが挟持されるとともに、このラッピング部材31のリベット用通孔31dにリベット61が挿通されて、ベースプレート21にラッピング部材31が強固に固定されている。
【0022】
そして、自動車が衝突した際などには、図示しない衝突診断ユニットからの信号によりインフレータ22の点火器が起動され、充填した推進薬を燃焼させることにより、インフレータ22の周面に形成されたガス噴射孔22bからエアバッグ24の内部に窒素ガスなどが急速に噴射される。すると、図9に示すように、折り畳まれたエアバッグ24は、膨張を開始するととともに、両側に折り畳まれた部分の端部24c,24cがそれぞれ矢印A、A方向に起き上がるように展開しようとする。この状態で、エアバッグ24はラッピング部材31のテアライン31cに直接接触していないが、折り畳まれたエアバッグ24の頂面部分24d,24dに支持されるようにして、テアライン31cに矢印B、B方向に張力が加わり、ラッピング部材31のテアライン31cは、エアバッグ24の端部24c,24c間で両端を支持されつつ、ラッピング部材31の張力印加による弾性抗張力がすべてテアライン31cに集中する。そこで、図10に示すように、インフレータ22の起動時において瞬時に、ラッピング部材31がテアライン31cに沿って両側に開裂するとともに、カバー体34の上板部36がテアライン44に沿って開裂し、前後一対の扉片部が形成され、さらに、これら扉片部が前後に回動してエアバッグ24の突出口が形成され、この突出口から、乗員の前側にエアバッグ24が膨張するようになっている。
【0023】
そして、本実施例によれば、カバー体34の内側に位置するラッピング部材31により、折り畳んで収納されたエアバッグ24を覆ったため、エアバッグ24が自己復元しようとしても、安定して折畳形状を保持し、カバー体34の外観を良好に保持することができる。
【0024】
また、エアバッグ24は、端部24c,24c同士が突き合わせられるように折り畳み、ラッピング部材31には、これらエアバッグ24を折り合わせた端部24c,24cに沿ってテアライン31cを設けたため、エアバッグ24が膨張展開する際には、エアバッグ24が起き上がろうとする力をテアライン31cに集中させて、ラッピング部材31をテアライン31cにて瞬間的に破断させ、エアバッグ24を迅速、円滑に膨張展開させることができる。
【0025】
またラッピング部材31は、ベースプレート21とカバー体34との間に狭持して固定されるため、インフレータ22の発する熱がベースプレート21からカバー体34の取付壁部37に伝わることを抑制し、カバー体34への熱的影響を低減することができる。
【0026】
さらに、ラッピング部材31は、折り畳んで収納されたエアバッグ24の上部表面のほぼ全面を覆うため、エアバッグ24の折畳形状を安定して確実に保持することができる。
【0027】
そして、ラッピング部材31を、紙、特に、合成紙により形成したため、断熱効果を高めることができるとともに、ラッピング部材31の追加による重量の増加はほとんどない。
【0028】
また、上記の実施例では、ラッピング部材31のテアライン31cは前後方向を長手方向とし、カバー体34のテアライン44の中央部分は両側方向を長手方向として、これらテアライン31c,44同士がカバー体34の上板部36のほぼ中央部で直交するように構成したが、これらテアライン31c,44は、互いに平行に形成することもできる。
【0029】
さらに、エアバッグ24は、例えば、4か所の端部を形成するように折り畳み、本体部の中央部に十文字状のテアラインを形成したラッピング部材を組み合わせることもできる。
【0030】
また、上記の実施例では、ラッピング部材31を両面テープを用いてベースプレート21に仮固定したが、ラッピング部材31は、例えば、接着、溶着、縫製などの手段により、ベースプレート21あるいはカバー体34などに取り付けることもできる。
【0031】
そして、ベースプレート21をカギ状に切り起こして係合部を形成し、この係合部に取付部31bを係止させてもよく、またラッピング部材31の取付部31bを袋状に形成してベースプレート21あるいはカバー体34などに係止させてもよい。
【0032】
【発明の効果】
本発明のエアバッグ装置によれば、エアバッグを、ラッピング部材により折り畳まれた形状に保持した状態で、カバー体によって覆ったため、エアバッグが自己復元しようとしても、安定して折畳形状を保持し、カバー体の外観を良好に保持することができる。そして、ラッピング部材には、エアバッグを折り畳んだ端部同士を近接させた部分に沿って破断可能な破断部を設けたため、エアバッグが膨張展開する際には、両側に折り畳まれた部分の端部が起き上がるように展開して破断部に張力が加わり、このエアバッグが起き上がろうとする力が破断部に集中して、ラッピング部材を破断部にて迅速に破断し、エアバッグを迅速、円滑に膨張展開させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明のエアバッグ装置の一実施例を示す斜視図である。
【図2】
同上エアバッグ装置を備えたステアリングホイールの平面図である。
【図3】
同上エアバッグ装置の分解斜視図である。
【図4】
同上エアバッグ装置の断面図である。
【図5】
同上エアバッグ装置のエアバッグの展開状態の平面図である。
【図6】
同上エアバッグ装置のエアバッグの折り畳み動作の説明図である。
【図7】
同上エアバッグ装置のエアバッグの折り畳み動作の説明図である。
【図8】
同上エアバッグ装置のラッピング部材の展開図である。
【図9】
同上エアバッグ装置のエアバッグの展開動作の説明図である。
【図10】
同上エアバッグ装置のエアバッグの展開動作の説明図である。
【符号の説明】
14 エアバッグ装置
21 被取付部材としてのベースプレート
24 エアバッグ
24c 端部
31 ラッピング部材
31c 破断部としてのテアライン
34 カバー体
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-08 
出願番号 特願平7-72055
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B60R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 三澤 哲也  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 鈴木 久雄
平瀬 知明
登録日 2003-08-29 
登録番号 特許第3467114号(P3467114)
権利者 日本プラスト株式会社
発明の名称 エアバッグ装置  
代理人 樺澤 襄  
代理人 山田 哲也  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 聡  
代理人 樺澤 襄  
代理人 樺澤 聡  

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