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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23G
管理番号 1130855
異議申立番号 異議2002-73159  
総通号数 75 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-12-27 
確定日 2005-11-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3309064号「下穴さらい刃および雌ねじ内径さらい刃を具える盛上げタップ」の請求項1乃至6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3309064号の請求項1乃至6に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3309064号の請求項1乃至6に係る発明についての出願は、平成9年7月3日の特許出願であって、平成14年5月17日にその発明について特許権の設定の登録がされ、その後、平成14年12月27日に特許異議申立人オーエスジー株式会社より全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、全請求項に係る特許に対して取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月16日に特許異議意見書が提出されるとともに訂正請求がされたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
前記訂正請求による訂正の内容は、次のとおりのものである。
(1)訂正事項a
設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下「特許明細書等」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「ねじ部に、先端部分の食付き部と、その食付き部に連なるねじ山加工部とを具える盛上げタップにおいて、
前記ねじ部の先端部分から後端部分まで延在する少なくとも一本の溝と、
前記食付き部に前記溝の側壁を用いて形成された、ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃と、
前記ねじ山加工部に前記溝の側壁を用いて形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う雌ねじ内径さらい刃と、
を具えることを特徴とする、盛上げタップ。」
を、
「ねじ部に、先端部分の食付き部と、その食付き部に連なるねじ山加工部とを具える盛上げタップにおいて、
前記ねじ部の先端部分から後端部分まで延在する少なくとも一本の溝と、
前記食付き部に前記溝の側壁を用いて形成された、ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃と、
前記ねじ山加工部に前記溝の側壁を用いて形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う雌ねじ内径さらい刃と、
を具え、
前記雌ねじ内径さらい刃が、前記ねじ下穴さらい刃よりも小さい直径を持つことを特徴とする、盛上げタップ。」
と訂正する。(下線は、訂正個所を明確にするために当審で付したものである。)
(2)訂正事項b
特許明細書等の発明の詳細な説明の段落【0010】に記載された「内径さらい刃と、を具えることを特徴としている。」を、「内径さらい刃と、を具え、前記雌ねじ内径さらい刃が、前記ねじ下穴さらい刃よりも小さい直径を持つことを特徴としている。」と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、「内径さらい刃」と「ねじ下穴さらい刃」との直径が相違することを限定するものであるので特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、明らかに特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。
(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、訂正事項aで訂正された特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるためのものであるので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、明らかに特許明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものである。
(3)また、訂正事項a及びbの訂正によって発明の目的が変更されるのものでもないので、訂正事項a及びbは、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおりであるので、前記訂正は、特許法第120条の4並びに同条第3項で準用する同法第126条第2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについての判断
1 特許異議の申立て及び取消しの理由の概要
(1)特許異議申立人オーエスジー株式会社は、証拠として、甲第1号証:「機械と工具」,第41巻第4号,工業調査会,平成9年4月1日、オーエスジーの広告欄(資料請求番号0015)の頁、甲第2号証:実公昭60-15623号公報、甲第3号証:実願昭62-82058号(実開昭63-189526号)のマイクロフィルム、甲第4号証:実公平2-14904号公報、甲第5号証:特開平9-155640号公報及び甲第6号証:「Vイージーニューロールタップ」のパンフレットを提出し、本件の請求項1、2、4及び5に係る発明は、上記刊行物1に記載された発明と同一であり、また、本件の請求項1乃至6に係る発明は、上記刊行物1乃至5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1乃至6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから取り消されるべきものである旨主張している。
(2)当審で通知した取り消しの理由は、上記特許異議の申立ての理由と同様の趣旨のものである。
2 本件発明
前記第2のとおり訂正が認められたので、本件特許第3309064号の請求項1乃至6に係る発明(以下「本件発明1」、・・・、「本件発明6」という。)は、平成16年3月16日付訂正請求書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項請求項1乃至6に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】ねじ部に、先端部分の食付き部と、その食付き部に連なるねじ山加工部とを具える盛上げタップにおいて、
前記ねじ部の先端部分から後端部分まで延在する少なくとも一本の溝と、
前記食付き部に前記溝の側壁を用いて形成された、ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃と、
前記ねじ山加工部に前記溝の側壁を用いて形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う雌ねじ内径さらい刃と、
を具え、
前記雌ねじ内径さらい刃が、前記ねじ下穴さらい刃よりも小さい直径を持つことを特徴とする、盛上げタップ。
【請求項2】前記雌ねじ内径さらい刃は、前記ねじ山加工部の、少なくとも前記食付き部の直後の部分に形成されていることを特徴とする、請求項1記載の盛上げタップ。
【請求項3】前記ねじ部は、盛り上げ作用をつかさどる突部を周方向の三箇所に持ち、
前記溝は、互いに隣り合う前記突部の間にそれぞれ配設されていることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の盛上げタップ。
【請求項4】前記ねじ部は、盛り上げ作用をつかさどる突部を周方向の四箇所に持ち、
前記溝は、互いに隣り合う前記突部の間にそれぞれ配設されていることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の盛上げタップ。
【請求項5】前記溝は、当該タップの軸線に平行に直線状に延在するものである、請求項1から請求項4までの何れか記載の盛上げタップ。
【請求項6】前記溝は、当該タップの軸線に沿ってスパイラル状に延在するものである、請求項1から請求項4までの何れか記載の盛上げタップ。」
3 甲各号証記載事項
前記甲第1乃至3号証には、次の事項が記載されていると認める。
(1)甲第1号証
Vイージーニューロールタップの項
「正転時に内径をさらうため、下穴径がばらついても過転造になりません。鋳抜き穴にもそのままタッピングできます。」
「めねじ山頂の割れ込みは、内径仕上げ刃により除去します。ニューロールタップの特長であった高精度なめねじとタッピングの安定性を残しながら切削タップのねじ山形が可能となりました。」
上記記載事項より、Vイージーニューロールタップとは、盛り上げタップであることが明らかであるので、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されていると認める。
盛り上げタップにおいて、下穴径がばらついても過転造にならないように正転時に内径をさらうこと、及び、盛り上げたねじ山の山頂を内径仕上げ刃によりさらうこと。(以下「甲第1号証記載の技術的事項」という。)
(2)甲第2号証
ア 第1欄第8-12行
「この考案は、展延性のある被削材質に設けた下穴に塑性加工してめねじを盛り上げる転造タップにおいて要求精度以上に盛り上げためねじの山頂部分を溝部の切刃により切削してめねじの内径を仕上げるようにした転造タップに関する。」
イ 第3欄第2-18行
「溝部11はタップの谷径の最高部を切刃17として従来の転造タップの油溝6よりも大きく設けてある。
本考案の転造タップのめねじの成形は第3図の食付部と第1完全山部部のねじ山12,13.14,15,16で順次盛り上げて行く作用は従来の転造タップと同様であり、溝部11の切刃17で盛り上がっためねじの山頂部分を切削するまでは第5図に示すように凹凸なめねじの山頂が出来る。
要求精度以上に盛り上がる下穴で得ためねじの山頂の要求精度以上の部分はタップのねじの第1完全山と第2完全山の外径の最高部の間にある逃げ部7に設けた溝部11を第1番目として1つ以上の溝部11の切刃17により切削して第6図に示すような平らなめねじの山頂にし、めねじの内径を要求精度に仕上げる。」
ウ 第4欄第35-43行
「以上のように本考案の転造タップは従来の転造タップが最も問題としていた下穴の管理の困難さや被削材質の違いにより下穴径を変更しなければいけない煩わしさを解決し・・・
尚、上記説明は、便宜上タップのねじ山頂の最高部が軸心に平行なタップについて行なったが、軸心に対しこれをねじった転造タップについても同様である。」
エ 第3図及び第4図
ねじが設けられている部分の先端部分から後端部分までタップの軸線に平行に直線状に延在する四本の溝部11が配設されていること、ねじが設けられている部分は、盛り上げ作用をつかさどる最高部9を周方向の四箇所に持ち、互いに隣り合う最高部9の間に溝部11がそれぞれ配設されていること、及び、切刃17が溝部11の側壁を用いて形成されていること。
上記記載事項より、甲第2号証には、次の「転造タップ」の発明及び技術的事項が記載されていると認める。
ねじが設けられている部分に、先端部分の食付部と、その食付部に連なるねじ山を加工する部分とを具える転造タップにおいて、
前記ねじが設けられている部分の先端部分から後端部分までタップの軸線に平行に直線状に延在する四本の溝部11と、
前記ねじ山を加工する部分に前記溝部11の側壁を用いて形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う切刃17と、
を具え、
前記ねじが設けられている部分は、盛り上げ作用をつかさどる最高部9を周方向の四箇所に持ち、前記溝部11は、互いに隣り合う前記最高部9の間にそれぞれ配設されている転造タップ。(以下「甲第2号証記載の発明」という。)
転造タップにおいて、タップのねじ山頂の最高部9を軸心に対してねじること。(以下「甲第2号証記載の技術的事項」という。)
(3)甲第3号証
ア 明細書第1頁実用新案登録請求の範囲
「ネジ山の角度・・・塑性変形によりネジを成形するロールタップにおいて、不完全ネジ部(完全ネジ部に掛かる場合もある。)の範囲に・・・切削刃、および、・・・チップポケットを設けたことを特徴とする切削ロールタップ。」
イ 明細書第3頁第2-7行
「不完全ネジ部に設けられた切削刃が、予め完成ネジ形状に対し均一に塑性変形代が残るように除去されて完全ネジ部に設けられている塑性刃により完成ネジ形状を成形する時の塑性変形量を少なくすることができる切削ロールタップを開発したのである。」
ウ 明細書第5頁第13-18行
「第2段階(第3図(b))は、切削ロールタップSの不完全ネジ部4に設けられた最先端部の切削刃1が被削材Mと接触し、切削を開始する。この切削刃1は完全ネジ形状に対し、均一に荒加工することにより塑性変形代を軽減し、ネジ口元、出口のフクレを防止するものである。」
エ 明細書第7頁第13-17行
「第4段階(第3図(c))は、完全ネジ部3に設けられた塑性刃5は、切削刃1により完全ネジ形状に対し、均一に塑性変形代が残された面に接触し、その時の摩擦トルクにより被削材Mを空洞部7に押し出し、ネジを完成形状に成形する。」
上記記載事項及び第1図(a)、(b)より、甲第3号証には、次の技術的事項が記載されていると認める。
先端部分に不完全ネジ部4と、その不完全ネジ部4に連なる完全ネジ部とを具える切削ロールタップにおいて、不完全ネジ部4に設けられた三本のチップポケット2と、前記不完全ネジ部4に前記チップポケット2の側壁を用いて形成された塑性変形代が残るように切削加工をする切削刃1とを具えること。(以下「甲第3号証記載の技術的事項」という。)
4 対比・判断
本件発明1乃至6と甲第2号証記載の発明とを対比すると、甲第2号証記載の発明の「ねじが設けられている部分」は、本件発明1の「ねじ部」に相当しており、以下同様に、「食付部」は「食付き部」に、「ねじ山を加工する部分」は「ねじ山加工部」に、「転造タップ」は「盛上げタップ」に、「溝部」は「溝」に、及び、「切刃」は「雌ねじ内径さらい刃」にそれぞれ相当していることが明らかであり、また、甲第2号証記載の発明の「最高部」が本件発明3及び4の「突部」に相当していることも明らかである。
以上のとおりであるので、甲第2号証記載の発明は次のとおりのものとなる。
ねじ部に、先端部分の食付き部と、その食付き部に連なるねじ山加工部とを具える盛上げタップにおいて、
前記ねじ部の先端部分から後端部分までタップの軸線に平行に直線状に延在する四本の溝と、
前記ねじ山加工部に前記溝の側壁を用いて形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う雌ねじ内径さらい刃と、
を具え、
前記ねじ部は、盛り上げ作用をつかさどる突部を周方向の四箇所に持ち、前記溝は、互いに隣り合う前記突部の間にそれぞれ配設されている盛上げタップ。
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、次の一致点及び相違点を有している。
ア 一致点
ねじ部に、先端部分の食付き部と、その食付き部に連なるねじ山加工部とを具える盛上げタップにおいて、
前記ねじ部の先端部分から後端部分まで延在する少なくとも一本の溝と、
前記ねじ山加工部に前記溝の側壁を用いて形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う雌ねじ内径さらい刃と、
を具えた盛上げタップの点。
イ 相違点
本件発明1では、食付き部に溝の側壁を用いて形成された、ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃を具えているのに対し、甲第2号証記載の発明では、ねじ下穴さらい刃を具えていない点。(以下「相違点1」という。)
本件発明1では、雌ねじ内径さらい刃が、ねじ下穴さらい刃よりも小さい直径を持つのに対し、甲第2号証記載の発明では、そのようなものではない点。(以下「相違点2」という。)
ウ 相違点についての検討
上記相違点1について検討すると、甲第1号証には、前記3の(1)のとおりの技術的事項が記載されており、甲第1号証記載の技術的事項の「盛り上げタップにおいて、下穴径がばらついても過転造にならないように正転時に内径をさらうこと」とは、切削加工を行う切削刃によりねじ下穴をさらうことを意味するものであることが技術常識より明らかであり、また、同技術的事項の「内径仕上げ刃」が本件発明1の「雌ねじ内径さらい刃」に相当することが明らかであるので、結局、甲第1号証記載の技術的事項は、次のとおりのものとなる。
盛り上げタップにおいて、ねじ下穴さらい刃によりねじ下穴をさらう切削加工を行うこと及び雌ねじ内径さらい刃により盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行うこと。
また、甲第3号証には、前記3の(3)のとおりの甲第3号証記載の技術的事項が記載されており、甲第3号証記載の技術的事項の「不完全ネジ部」は、本件発明1の「食付き部」に相当しており、以下同様に、「完全ネジ部」は「ねじ山加工部」に、「切削ロールタップ」は「盛上げタップ」に、「チップポケット」は「溝」にそれぞれ相当していることが明らかであり、また、甲第3号証記載の技術的事項の「塑性変形代が残るように切削加工をする切削刃」は、その技術的意義からみて、本件発明1の「ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃」に相当するものであるので、結局、甲第3号証記載の技術的事項は、次のとおりのものとなる。
ねじ部に、先端部分の食付き部と、その食付き部に連なるねじ山加工部とを具える盛上げタップにおいて、食付き部に設けられた三本の溝と、前記食付き部に前記溝の側壁を用いて形成された、ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃とを具えること。
そうすると、甲第2号証記載の発明、甲第1号証記載の技術的事項及び甲第3号証記載の技術的事項は、いずれも盛上げタップであることで、その技術分野が共通しているので、甲第1号証記載の技術的事項を参酌し、雌ねじ内径さらい刃を具えている甲第2号証記載の発明において、その食付き部に甲第3号証記載の技術的事項を採用し、相違点1に係る本件発明1のように発明を特定することに、格別の困難性は見当たらない。
次に、上記相違点2について検討すると、甲第3号証記載の技術的事項のねじ下穴さらい刃で切削加工をされた被加工物(被削材M参照。)の下穴の部分は、盛上げタップの突部により雌ねじの谷が成形されると共に雌ねじの山を成形すべく盛り上げられるものであることから、甲第3号証記載の技術的事項のねじ下穴さらい刃の直径が、雌ねじの内径よりも大ききことは、当然のことである。
したがって、上記相違点1について検討した食付き部に甲第3号証記載の技術的事項を採用するに際し、雌ねじの内径をさらう雌ねじ内径さらい刃をねじ下穴さらい刃よりも小さい直径を持つものとすることは、当然になされる事項にすぎない。
(2)本件発明2について
本件発明2と甲第2号証記載の発明とを対比すると、既に検討した前記相違点1及び2の他に、本件発明2では、雌ねじ内径さらい刃は、ねじ山加工部の、少なくとも食付き部の直後の部分に形成されているのに対し、甲第2号証記載の発明では、ねじ山加工部に形成されている雌ねじ内径さらい刃が、ねじ山加工部の食付き部の直後の部分であるか否か明らかではない点(以下「相違点3」という。)で、両者は相違している。
上記相違点3について検討すると、雌ねじ内径さらい刃をねじ山加工部のどの位置に設けるかは、必要に応じて適宜決定する設計的事項であって、雌ねじ内径さらい刃を食付き部の直後の部分に形成することに、格別の困難性は見当たらない。
(3)本件発明3について
本件発明3と甲第2号証記載の発明とを対比すると、既に検討した前記相違点1及び2の他に、本件発明3では、突部が周方向の三箇所であるのに対し、甲第2号証記載の発明では、突部が周方向の四箇所である点(以下「相違点4」という。)で、両者は相違している。
上記相違点4について検討すると、突部を周方向に何箇所設けるかは、必要に応じて適宜決定する設計的事項であって、突部を周方向の三箇所に設けることに、格別の困難性は見当たらない。
(4)本件発明4及び5について
本件発明4において特定されている「前記ねじ部は、盛り上げ作用をつかさどる突部を周方向の四箇所に持ち、前記溝は、互いに隣り合う前記突部の間にそれぞれ配設されている」という事項及び本件発明5において特定されている「前記溝は、当該タップの軸線に平行に直線状に延在するものである」という事項は、甲第2号証記載の発明が既に具えている事項である。
(5)本件発明6について
本件発明6と甲第2号証記載の発明とを対比すると、既に検討した前記相違点1及び2の他に、本件発明6では、溝がタップの軸線に沿ってスパイラル状に延在するものであるのに対し、甲第2号証記載の発明では、そのようなものではない点(以下「相違点5」という。)で、両者は相違している。
上記相違点5について検討すると、甲第2号証には、前記3の(2)のとおり、転造タップにおいて、タップのねじ山頂の最高部を軸心に対してねじるという技術的事項、換言すると、溝をタップの軸線に沿ってスパイラル状に延在するという技術的事項が記載されていることになるので、溝がタップの軸線に平行に直線状に延在している甲第2号証記載の発明に甲第2号証記載の技術的事項を採用し、溝をタップの軸線に沿ってスパイラル状に延在するように変更することに、格別の困難性は見当たらない。
(6)本件発明1乃至6の作用効果について
本件発明1乃至6の奏する作用効果は、甲第2号証記載の発明及び甲第1乃至3号証記載の技術的事項から当業者が予測できる程度のものであって、格別のものではない。
5 むすび
以上のとおり、本件発明1乃至6は、甲第2号証記載の発明及び甲第1乃至3号証記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1乃至6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件の請求項1乃至6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
下穴さらい刃および雌ねじ内径さらい刃を具える盛上げタップ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ねじ部に、先端部分の食付き部と、その食付き部に連なるねじ山加工部とを具える盛上げタップにおいて、
前記ねじ部の先端部分から後端部分まで延在する少なくとも一本の溝と、
前記食付き部に前記溝の側壁を用いて形成された、ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃と、
前記ねじ山加工部に前記溝の側壁を用いて形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う雌ねじ内径さらい刃と、
を具え、
前記雌ねじ内径さらい刃が、前記ねじ下穴さらい刃よりも小さい直径を持つことを特徴とする、盛上げタップ。
【請求項2】前記雌ねじ内径さらい刃は、前記ねじ山加工部の、少なくとも前記食付き部の直後の部分に形成されていることを特徴とする、請求項1記載の盛上げタップ。
【請求項3】前記ねじ部は、盛り上げ作用をつかさどる突部を周方向の三箇所に持ち、
前記溝は、互いに隣り合う前記突部の間にそれぞれ配設されていることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の盛上げタップ。
【請求項4】前記ねじ部は、盛り上げ作用をつかさどる突部を周方向の四箇所に持ち、
前記溝は、互いに隣り合う前記突部の間にそれぞれ配設されていることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の盛上げタップ。
【請求項5】前記溝は、当該タップの軸線に平行に直線状に延在するものである、請求項1から請求項4までの何れか記載の盛上げタップ。
【請求項6】前記溝は、当該タップの軸線に沿ってスパイラル状に延在するものである、請求項1から請求項4までの何れか記載の盛上げタップ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ねじ山を盛り上げる塑性加工によって雌ねじを形成する盛上げタップに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図6(a)は、従来の盛上げタップの一例を示す側面図、そして同図(b)はその盛上げタップのねじ山に沿った断面図であり、図示のように盛上げタップは通常、そのねじ部1に、ねじ下穴への食付きを良くするべく尖った山頂を持ちつつテーパー状に縮径する先端部分の食付き部2と、その食付き部2の後方に連なり、ねじ下穴内壁にねじ山を盛り上げる塑性加工を施して所定寸法の雌ねじを形成するねじ山加工部3と、を具えている。そして、そのねじ部1の断面形状は通常、ねじ山の盛上げの際のタッピングトルクを減少させるべく、盛り上げ作用をつかさどる突部4を周方向の複数箇所に持つように多角形(図示例では三角形)に近い形状とされている。
【0003】
かかる盛上げタップは、切削加工を行わないため切り屑が出ず、しかもそれで成形すると雌ねじの精度が安定するとの理由から、展延性の良いアルミ合金等の非鉄合金および軟鋼へのねじ立てに広く使用されている。
【0004】
しかしながら盛上げタップは、ねじ山を盛り上げて雌ねじを形成するので、被加工物の形状や材質もさることながら、ねじ下穴の寸法精度によって、ねじ山の盛り上がり具合が大きく異なったものとなって、雌ねじ内径寸法が大きく変化してしまう。それゆえ、盛上げタップでねじ立てする場合のねじ下穴径には、切削加工によって雌ねじを形成する切削タップでねじ立てする場合のねじ下穴径と比べるとかなり厳しい寸法公差が要求される。
【0005】
従って盛上げタップでねじ立てする場合のねじ下穴の加工は、ドリル加工後にリーマ加工を行うのが通常であり、このことが盛上げタップの使用を選択しない理由に挙げられる場合もある。またねじ下穴径の寸法公差が厳しいため、鋳抜き穴に対しては通常、前加工なしに盛上げタップを使用することはできない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、盛上げタップを使用する場合にはねじ下穴径にかなり厳しい寸法公差が要求され、その数値は経験上、加工する雌ねじのピッチの5%以内とされている。例えば雌ねじピッチが1mmの場合には、ねじ下穴径の公差は0.05mmという極めて小さい値になる。
【0007】
そしてねじ下孔径が適切でない場合には、ねじ山の盛り上がり具合が不適切なものとなって、以下のような問題が生ずる。
(1)ねじ下穴径が小さ過ぎる場合には、雌ねじの山頂が高く盛り上がり過ぎて、雌ねじの内径寸法が許容寸法の下限を越えて小さくなってしまったり、加工した雌ねじの山頂が盛上げタップの谷底に当たってタッピングトルクが増大することで盛上げタップの寿命が短くなったりすることになり、そのトルク増大が甚だしい場合には、盛上げタップの折損が生ずることもある。
(2)ねじ下穴径が大き過ぎる場合には、雌ねじの山頂の盛り上がりが不足して、雌ねじの内径寸法が許容寸法の上限を越えて大きくなってしまう。
(3)ねじ下穴が鋳抜き穴の場合には、その内径がテーパー状に変化しているので雌ねじ内径もテーパー状に変化するものとなり、それゆえこの場合もタッピングトルクが増大して、場合によっては盛上げタップの折損が生ずる。
【0008】
この一方、前述した切削タップを使用する場合のねじ下穴径の寸法公差は、加工する雌ねじの内径の許容寸法の上下限に等しいので、盛上げタップの場合の下穴径の寸法公差に比べるとかなり大きな数値である。
【0009】
この発明は、上記課題を有利に解決すべく、切削タップの下穴径の寸法公差と同程度の寸法公差の下穴径でも問題なく使用できる盛上げタップを、そして鋳抜き穴に前加工なしで使用できる盛上げタップを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段およびその作用効果】
上記目的の達成のためこの発明の盛上げタップは、ねじ部の先端部分の食付き部と、その食付き部に連なるねじ山加工部とを具えるものであって、前記ねじ部の先端部分から後端部分まで延在する少なくとも一本の溝と、前記食付き部に前記溝の側壁を用いて形成された、ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃と、前記ねじ山加工部の、少なくとも前記食付き部の直後の部分に前記溝の側壁を用いて形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う雌ねじ内径さらい刃と、を具え、前記雌ねじ内径さらい刃が、前記ねじ下穴さらい刃よりも小さい直径を持つことを特徴としている。
【0011】
かかる盛上げタップにあっては、ねじ部の先端部分の食付き部がねじ下穴に食い付いて当該タップをねじ下穴の奥へ進入させるのに伴って、先ず、その食付き部のねじ下穴さらい刃がねじ下穴をさらう切削加工を行ってねじ下穴を所定の内径に仕上げ、次いでねじ山加工部、特にはその一山目のねじ山がその所定内径のねじ下穴にねじ山を盛り上げて雌ねじを形成するとともに、そのねじ山加工部の雌ねじ内径さらい刃が、その盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行って雌ねじの内径を所定の寸法にする。そしてねじ部の先端部分から後端部分まで延在してねじ下穴さらい刃および雌ねじ内径さらい刃の形成に用いられている少なくとも一本の溝が、それらの刃による切削加工で生じた少量の切粉をその溝内に収容する。
【0012】
従ってこの発明の盛上げタップによれば、以下の顕著な効果が得られる。
(1)従来の盛上げタップを使用する場合のねじ下穴径の寸法公差の下限値よりもねじ下穴径が小さい場合でもねじ下穴さらい刃がねじ下穴をさらって所定の内径に仕上げることから、ねじ下穴径の寸法公差を下限側について従来よりも拡張し得るので、ねじ下穴の加工を容易ならしめることができるとともに、その寸法公差の中央のねじ下穴径を従来よりも小さく設定し得て、ねじ山の盛り上がり不足によって雌ねじ内径寸法が過大になる雌ねじ内径不良を有効に防止することができ、また雌ねじの有効径も安定させることができる。
(2)ねじ下穴径が小さい場合でも、ねじ下穴さらい刃がそれをさらって適正な内径に仕上げた後に、ねじ山加工部がねじ山を盛り上げて雌ねじを形成するので、ねじ山の盛り上がり過ぎを確実に防止でき、ひいてはタッピングトルクの増大による盛上げタップの寿命短縮および折損を確実する防止することができる。
(3)ねじ山加工部がねじ山を盛り上げて雌ねじを形成するのに伴って、そのねじ山加工部の雌ねじ内径さらい刃が、盛り上げたねじ山の山頂をさらって雌ねじの内径を所定寸法にするので、目標の雌ねじ内径寸法を安定して得ることができ、しかもその雌ねじ内径さらい刃の形状を適宜選択することで、そのねじ山の山頂を所要に応じて所定の丸み持つ形状や平坦な形状に加工することができる。
(4)ねじ下穴がテーパー状の鋳抜き穴の場合でも、ねじ下穴さらい刃がさらって適正な内径に仕上げたねじ下穴に、ねじ山加工部がねじ山を盛り上げて雌ねじを形成し、それに伴ってそのねじ山加工部の雌ねじ内径さらい刃が、盛り上げたねじ山の山頂をさらって雌ねじの内径を所定寸法にするので、テーパーのつかない雌ねじ内径を得ることができるとともに、ねじ山の盛り上がり過ぎを確実に防止でき、ひいてはタッピングトルクの増大による盛上げタップの寿命短縮および折損を確実する防止することができる。
【0013】
なお、この発明の盛上げタップにおいては、好ましくは、前記雌ねじ内径さらい刃は、前記ねじ山加工部の、少なくとも前記食付き部の直後の部分に形成される。かかる構成によれば、ねじ山加工部の、食付き部の直後の部分がねじ山を盛り上げるのと並行して、前記部分に形成された雌ねじ内径さらい刃が、その盛り上げたねじ山を一山目からさらってゆくので、加工した雌ねじの山頂がねじ山加工部の谷底に当たってタッピングトルクが増大するのを、確実に防止することができる。
【0014】
また、この発明の盛上げタップにおいては、前記ねじ部が、盛り上げ作用をつかさどる突部を周方向の三箇所あるいは四箇所に持ち、前記溝が、互いに隣り合う前記突部の間にそれぞれ配設されていても良い。かかる構成によれば、その溝の周方向位置により、突部で盛り上げたねじ山の山頂をさらう雌ねじ内径さらい刃をその溝を用いて容易に形成することができる。
【0015】
さらに、この発明の盛上げタップにおいては、前記溝が、当該タップの軸線に平行に直線状に延在するものであっても良く、あるいは当該タップの軸線に沿ってスパイラル状に延在するものであっても良い。溝を直線状にすれば、溝の加工を容易に行うことができ、溝をスパイラル状にすれば、切粉を後方に排出することができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、この発明の盛上げタップの一実施例を示す側面図、そして図2〜図4は、図1に示す実施例の盛上げタップのII部、III部およびIV部におけるねじ山に沿った断面をそれぞれ示す断面図であり、図中従来例と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。
【0017】
すなわち、図1に示す如くこの実施例の盛上げタップも、図6に示す従来例と同様、そのねじ部1に、ねじ下穴への食付きを良くするべく尖った山頂を持ちつつテーパー状に縮径する先端部分の食付き部2と、その食付き部2の後方に連なり、ねじ下穴内壁にねじ山を盛り上げる塑性加工を施して所定寸法の雌ねじを形成するねじ山加工部3と、を具えている。そして、そのねじ部1は、図2〜図4にその軸線方向に沿う三箇所の断面について示すように、盛り上げ作用をつかさどる突部4を周方向の三箇所に持っている。
【0018】
しかして、この実施例の盛上げタップはさらに、図2〜図4に示すように、ねじ部1の先端部分から後端部分まで当該タップの軸線に平行に直線状に延在する三本の溝5を、互いに隣り合う上記突部4の間にそれぞれ配置されて具えるとともに、図1〜図4に示すように、それらの三本の溝5の側壁を用いて上記食付き部2に形成された、ねじ下穴をさらう切削加工を行うねじ下穴さらい刃6と、それらの三本の溝5の側壁を用いて上記ねじ山加工部3に形成された、盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行う雌ねじ内径さらい刃7とを具えている。そして、その雌ねじ内径さらい刃7は、図1から明らかなように、ねじ山加工部3の、食付き部2の直後の部分から中央付近の部分まで形成されている。
【0019】
図5は、上記実施例の盛上げタップを用いて被加工材に雌ねじを加工している状態を示す断面図であり、図示のように上記実施例の盛上げタップにあっては、ねじ部1の先端部分の食付き部2が被加工物8のねじ下穴9に食い付いて当該タップをねじ下穴9の奥へ進入させるのに伴って、先ず、その食付き部2のねじ下穴さらい刃6がその台形の形状によってねじ下穴9をらせん状にさらう切削加工を行って、元の内径がd1のねじ下穴9の、ねじ山加工部3のねじ山がその後に辿るらせん状の部分を、そのねじ下穴さらい刃6の外径に等しい所定の内径に仕上げ、次いで、ねじ山加工部3がその所定内径となったねじ下穴9にねじ山を盛り上げて雌ねじ10を形成するとともに、そのねじ山加工部3の雌ねじ内径さらい刃7が、その盛り上げたねじ山の山頂をさらう切削加工を行って、雌ねじ10の内径d2をその雌ねじ内径さらい刃7の外径に等しい所定の寸法にする。そしてねじ部1の先端部分から後端部分まで延在してねじ下穴さらい刃6および雌ねじ内径さらい刃7の形成に用いられている三本の溝5が、それらの刃による切削加工で生じた少量の切粉をそれらの溝内に収容する。なお、溝5は、ねじ部1の各ねじ山に潤滑油を供給してタッピングトルクを減少させる機能も果たす。
【0020】
従って上記実施例の盛上げタップによれば、以下の顕著な効果が得られる。
(1)従来の盛上げタップを使用する場合のねじ下穴径の寸法公差の下限値よりもねじ下穴径d1が小さい場合でもねじ下穴さらい刃6がねじ下穴9をさらって所定の内径に仕上げることから、ねじ下穴径d1の寸法公差を下限側について従来よりも拡張し得るので、ねじ下穴9の加工を容易ならしめることができるとともに、その寸法公差の中央のねじ下穴径d1を従来よりも小さく設定し得て、ねじ山の盛り上がり不足によって雌ねじ内径寸法が過大になる雌ねじ内径不良を有効に防止でき、また雌ねじの有効径も安定させることができる。
(2)ねじ下穴径d1が小さい場合でも、ねじ下穴さらい刃6がそれをさらって適正な内径に仕上げた後に、ねじ山加工部3がねじ山を盛り上げて雌ねじ10を形成するので、ねじ山の盛り上がり過ぎを確実に防止でき、ひいては、タッピングトルクの増大による盛上げタップの寿命短縮および折損を確実に防止できる。
(3)ねじ山加工部3がねじ山を盛り上げて雌ねじ10を形成するのに伴って、そのねじ山加工部3の雌ねじ内径さらい刃7が、盛り上げたねじ山の山頂をさらって雌ねじ10の内径d2を所定寸法にするので、目標の雌ねじ内径寸法を安定して得ることができ、しかもその雌ねじ内径さらい刃7の形状を適宜選択することで、雌ねじのねじ山の山頂を所要に応じて、所定の丸み持つ形状や、図示例の場合のような平坦な形状に加工することができる。
(4)ねじ下穴9がテーパー状の鋳抜き穴の場合でも、ねじ下穴さらい刃6がさらって適正な内径に仕上げたねじ下穴9に、ねじ山加工部3がねじ山を盛り上げて雌ねじ10を形成し、それに伴ってそのねじ山加工部の雌ねじ内径さらい刃が、盛り上げたねじ山の山頂をさらって雌ねじ10の内径を所定寸法にするので、テーパーのつかない雌ねじ内径d2を得ることができるとともに、ねじ山の盛り上がり過ぎを確実に防止でき、ひいては、タッピングトルクの増大による盛上げタップの寿命短縮および折損を確実する防止することができる。
【0021】
しかも上記実施例の盛上げタップによれば、雌ねじ内径さらい刃7が、ねじ山加工部3の、食付き部2の直後の部分から形成されているので、ねじ山加工部3の、食付き部2の直後の部分がねじ山を盛り上げるのと並行して、その部分に形成された雌ねじ内径さらい刃7が、その盛り上げたねじ山を一山目からさらってゆき、それゆえ、加工した雌ねじ10の山頂がねじ山加工部3の谷底に当たってタッピングトルクが増大するのを、確実に防止することができる。
【0022】
また上記実施例の盛上げタップによれば、ねじ部1が、盛り上げ作用をつかさどる突部4を周方向の三箇所に持ち、三本の溝5が、互いに隣り合う突部4の間にそれぞれ配設されているので、溝5のその周方向位置により、突部4で盛り上げたねじ山の山頂をさらう雌ねじ内径さらい刃7をその溝5を用いて容易に形成することができる。
【0023】
さらに上記実施例の盛上げタップによれば、三本の溝5が、当該タップの軸線に平行に直線状に延在するものであるので、それらの溝5の加工を容易に行うことができる。
【0024】
以下に、呼びサイズがM6×1の場合の具体例について説明すると、上記実施例の盛上げタップの全長、ねじ部1の長さ、シャンク部の外径等の一般的な寸法については、それと同一の呼びサイズの従来の盛上げタップと同一であるが、この実施例で特に設けられているねじ下穴さらい刃6および雌ねじ内径さらい刃7の寸法についてはそれぞれ、直径5.4mmおよび直径5.0mmとされている。
【0025】
かかる具体例の寸法を持つ上記実施例の盛上げタップで本願発明者が雌ねじ加工を行った結果、従来の盛上げタップの場合はねじ下穴径が5.50mm〜5.55mmで、その公差が0.05mmという小さな値であったのに対し、上記実施例の盛上げタップの場合は、ねじ下穴径が5.30mm〜5.55mmで、その公差が0.25mmという大きな値であっても、ねじ下穴9の内径(ねじ下穴径)が食付き部2のねじ下穴さらい刃6の直径5.4mmよりも小さければ、その食付き部2のねじ下穴さらい刃6がねじ下穴9をらせん状にさらって、その後にねじ山加工部3のねじ山が辿るらせん状の部分をねじ下穴さらい刃6の外径に等しい所定の内径に仕上げ、次いで、ねじ山加工部3の、ねじ下穴さらい刃6よりも回転方向で後方に位置する突部4が、その所定内径となったねじ下穴9にねじ山を盛り上げて雌ねじ10を形成し、それと並行してそのねじ山加工部3の直径5.0mmの雌ねじ内径さらい刃7が、その盛り上げたねじ山の山頂をさらうので、内径寸法5.0mmの雌ねじ10を安定して得ることができた。また、ねじ下穴9が鋳抜き穴の場合も、その入口(大径端)と出口(小径端)との寸法がともに5.30mm〜5.55mmの範囲内であれば、上記の場合と同様に加工でき、前加工なしに盛上げタップを使用することができた。
【0026】
ちなみに、切削タップの場合はねじ下穴径が4.917mm〜5.153mmで、その公差が0.236mmであるから、上記具体例における上記実施例の場合は、ねじ下穴径の公差を切削タップと同等以上の広さにし得るといえる。
【0027】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、例えば、前記ねじ下穴さらい刃は、上記実施例では台形の形状によりねじ下穴をらせん状にさらうものとしたが、直線的な形状によりねじ下穴を全面的にさらうものとしても良く、また前記ねじ部は、盛り上げ作用をつかさどる突部を周方向の四箇所またはそれ以上に持っていても良く、さらに前記溝も、当該タップの軸線に沿ってスパイラル状に延在するものであっても良い。そしてこの発明の盛上げタップは、上記具体例の呼びサイズ以外のものにも適用し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明の盛上げタップの一実施例を示す側面図である。
【図2】
図1に示す実施例の盛上げタップのII部(食付き部)における、ねじ下穴さらい刃を含む、ねじ山に沿った断面を示す断面図である。
【図3】
図1に示す実施例の盛上げタップのIII部(ねじ山加工部)における、雌ねじ内径さらい刃を含む、ねじ山に沿った断面を示す断面図である。
【図4】
図1に示す実施例の盛上げタップのIV部(ねじ山加工部)における、ねじ山に沿った断面を示す断面図である。
【図5】
上記実施例の盛上げタップを用いて被加工材に雌ねじを加工している状態を示す断面図である。
【図6】
(a)は、従来の盛上げタップの一例を示す側面図、そして同図(b)はその盛上げタップのねじ山に沿った断面図である。
【符号の説明】
1 ねじ部
2 食付き部
3 ねじ山加工部
4 突部
5 溝
6 ねじ下穴さらい刃
7 雌ねじ内径さらい刃
8 被加工物
9 ねじ下穴
10 雌ねじ
d1 ねじ下穴の元の内径
d2 雌ねじ内径
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-14 
出願番号 特願平9-178157
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B23G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 和田 雄二  
特許庁審判長 宮崎 侑久
特許庁審判官 鈴木 孝幸
上原 徹
登録日 2002-05-17 
登録番号 特許第3309064号(P3309064)
権利者 株式会社彌満和製作所
発明の名称 下穴さらい刃および雌ねじ内径さらい刃を具える盛上げタップ  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 杉村 興作  
代理人 杉村 興作  
代理人 徳永 博  
代理人 池田 治幸  
代理人 徳永 博  

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