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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B01D 審判 全部申し立て 特174条1項 B01D |
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管理番号 | 1130877 |
異議申立番号 | 異議2003-73577 |
総通号数 | 75 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-02-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-26 |
確定日 | 2006-01-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3473202号「中空糸膜の製造方法」の請求項1〜4に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3473202号の請求項1〜4に係る発明の特許を取り消す。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3473202号は、平成7年8月17日に出願され、平成15年6月23日に手続補正書が提出され、平成15年9月19日に設定登録されたものであり、その後、酒井征男より特許異議の申立がなされ、その後、当審において、以下の手続きを経たものである。 取消理由通知書 平成16年10月18日 特許異議意見書 平成16年12月 8日 訂正請求書 平成16年12月 8日 訂正拒絶理由通知書 平成17年 9月 6日 II.訂正請求の適否 II-1.訂正事項 平成16年12月8日付け訂正請求は、本件明細書の記載を、その訂正請求書に添付した訂正明細書に記載されるとおりに訂正するものであって、次の(a)の訂正を含むものである。 (a)本件明細書の請求項1における 「中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気することを特徴とする中空糸膜の製造方法。」を、 「中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を60〜80℃で15分以上加温して脱気する中空糸膜の製造方法であって、前記注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設け、かつ、前記注入液を口金に注入される時点で紡糸温度の±20℃以内とすることを特徴とする中空糸膜の製造方法。」に訂正する。 II-2.平成17年9月6日付け訂正拒絶理由の概要 上記(a)の訂正は、具体的には、 (a-1)請求項1における「注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する」を「注入液を60〜80℃で15分以上加温して脱気する」に訂正し、 (a-2)請求項1における「中空糸膜の製造方法」につき、「前記注入液を口金に注入される時点で紡糸温度の±20℃以内とする」との事項を付加し、 (a-3)請求項1における「中空糸膜の製造方法」につき、「前記注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設け」との事項を付加するものである。 以下に検討する。 上記(a-1)の訂正について 上記(a-1)の訂正によれば、注入液を脱気する際の温度条件を「60〜80℃」と限定するものの、注入液を脱気する際の温度条件である「紡糸温度の±20℃以内」との事項を、実質上、削除するものである。 なお、上記(a-2)により付加された「紡糸温度の±20℃以内」との事項は、注入液を口金に注入される時点における温度条件に外ならず、上記脱気の際に必ず具備するところの温度条件とはなりえないものである。 そうすると、請求項1が上記(a-1)のように訂正された場合には、請求項1の発明は、その注入液を脱気する際の温度条件として、「紡糸温度の±20℃」の範囲を超える態様、例えば、紡糸温度が30℃の場合に60〜80℃に加熱する態様、を含むことになる。 そうであれば、上記の(a-1)及び(a-2)の訂正は権利者が主張するように誤記の訂正を意図したものであるとしても、上記(a-1)の訂正をなすことは、注入液を脱気する際の温度条件につき、実質上特許請求の範囲を拡張するものであるといわざるを得ない。 (上記の(a)の訂正については、訂正請求書の「訂正の趣旨」及び「訂正の原因」の項の記載内容からみて本件明細書の請求項1につきなされたものであるとして説示したが、仮に、この(a)の訂正が同請求項2につき訂正請求されたものとしても、その訂正は、上記した理由と同じ理由により、実質上特許請求の範囲を拡張することになる。) したがって、上記の(a-1)の訂正を含む上記(a)の訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第3項の規定を満たし得ない。 よって、上記(a)の訂正を含む平成16年12月8日付け訂正請求は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正を認めることができない。 II-2.訂正拒絶理由に対する当審の判断 本件特許第3473202号の明細書に対する平成16年12月8日付け訂正請求については、上記するとおり、平成17年9月6日付けで訂正拒絶理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もない。 そして、上記訂正拒絶理由は妥当なものと認められるので、この訂正請求は、この訂正拒絶理由により認められない。 III.本件発明 上記II.で記載したとおり、訂正請求は認められない。 本件請求項1〜4に係る発明(以下、適宜、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明4」という)は、特許査定時の明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。 【請求項1】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気することを特徴とする中空糸膜の製造方法。 【請求項2】注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設ける、請求項1に記載の中空糸膜の製造方法。 【請求項3】注入液に対して空気よりも低溶解性の気体を吹き込む、請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。 【請求項4】注入液に対してヘリウムおよび/または窒素を吹き込む、請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。 IV.特許異議申立及び取消理由について IV-1.特許異議申立の概要 (1)特許異議申立人〈酒井征男〉は、証拠として、 甲第1号証:特開平7-96152号公報 甲第2号証:特開昭55-148211号公報 甲第3号証:特開平6-190254号公報 甲第4号証:特開平6-165926号公報 甲第5号証:特開昭59-202040号公報 甲第6号証:特開平5-184811号公報 を提示し、 【理由-1】本件明細書につき平成15年6月23日に提出された手続補正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされなかった補正事項を含んでおり、したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2〜4は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである、 【理由-2】本件発明1は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項第3号の記載に該当する、 【理由-3】本件発明1〜4は甲第1〜6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、 したがって、本件発明1〜4の特許は特許法第113条第1号及び第2号の規定に該当し取り消されるべきものである。 IV-2.取消理由の概要 【理由-イ】 上記理由-1と同じ。 【理由-ロ】 上記理由-2と同じ。 【理由-ハ】 上記理由-3と同じ 【理由-ニ】 本件明細書につき平成15年6月23日に提出された手続補正は、以下の(i)及び(ii)の補正事項を含むものであるが、これらの補正事項は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされたものとはいえず、本件発明1〜4の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである。 (i)当初明細書の特許請求の範囲の記載を、 「【請求項1】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気することを特徴とする中空糸膜の製造方法。 【請求項2】注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設ける、請求項1に記載の中空糸膜の製造方法。 【請求項3】注入液に対して空気よりも低溶解性の気体を吹き込む、請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。 【請求項4】注入液に対してヘリウムおよび/または窒素を吹き込む、請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。」に補正する。 (ii)当初明細書の段落0012における記載を、 「・・・。脱気の方法としては、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温するもので、さらに凝固浴に溶存性の低い気体をバブリングする方法、凝固液を減圧する方法も好ましい。」に補正する。 以上のとおり、上記理由-イ〜理由-ニにより、本件発明1〜4の特許は特許法第113条第1号及び第2号の規定に該当し取り消されるべきものである。 V.取消理由に対する当審の判断 V-1.理由-ニについて V-1-1.補正の内容 平成15年6月23日に提出された手続補正は、願書に最初に添付した明細書(以下、必要に応じて、「当初明細書」という)の記載を次のとおり補正することを含むものである。 (イ)特許請求の範囲の項における、 「【請求項1】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を脱気して用いることを特徴とする中空糸膜の製造方法。 【請求項2】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を室温より高い温度に加温して用いることを特徴とする中空糸膜の製造方法。 【請求項3】注入液を環状口金の中心パイプに注入する前に泡溜まりを設けることを特徴とする中空糸膜の製造方法。 【請求項4】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液に対して低溶解性の気体をパージして用いることを特徴とする中空糸膜の製造方法。 【請求項5】低溶解性の気体がヘリウムおよび/または窒素であることを 特徴とする請求項4記載の中空糸膜の製造方法。」を、 「【請求項1】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気することを特徴とする中空糸膜の製造方法。 【請求項2】注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設ける、請求項1に記載の中空糸膜の製造方法。 【請求項3】注入液に対して空気よりも低溶解性の気体を吹き込む、請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。 【請求項4】注入液に対してヘリウムおよび/または窒素を吹き込む、請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜の製造方法。」(以下、「補正事項イ」という)に補正するものである。 (ロ)発明の詳細な説明の項の段落0012における、 「・・・。脱気の方法としては特に限定される物ではなく、例えば、注入液を室温より高い温度に加温する方法、凝固液に溶存性の低い気体をバブリングする方法、凝固液を減圧する方法などが挙げられるが、簡便性や経済性を考慮すると、加温する方法が好ましい。」を、 「・・・。脱気の方法としては、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温するもので、さらに凝固浴に溶存性の低い気体をバブリングする方法、凝固液を減圧する方法も好ましい。」(以下、「補正事項ロ」という)に補正するものである。 V-1-2.理由-ニについての判断 V-1-2-1.補正事項イについて 上記補正事項イによれば、補正後の請求項3が同請求項1又は同請求項2を引用し、更に、同請求項2では同請求項1を引用することから、補正後の請求項3においては、実質上、 「中空糸膜を紡糸するに際して、注入液に対して空気よりも低溶解性の気体を吹き込み、かつ、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する中空糸膜の製造方法」(同請求項1を引用する場合の補正事項、以下、「補正事項イ-1」という)及び 「中空糸膜を紡糸するに際して、注入液に対して空気よりも低溶解性の気体を吹き込み、かつ、注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設け、かつ、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する中空糸膜の製造方法」(同請求項2を引用し、更に、同請求項1を引用した場合の補正事項、以下、「補正事項イ-2」という)との事項が付加されたことになる。 また、上記補正事項イによれば、補正後の特許請求の範囲の請求項4が同請求項1又は同請求項2を引用し、更に、同請求項2では同請求項1を引用することから、同請求項4においては、実質上、 「中空糸膜を紡糸するに際して、注入液に対してヘリウムおよび/または窒素を吹き込み、かつ、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する中空糸膜の製造方法」(同請求項1を引用する場合の補正事項、以下、「補正事項イ-3」という)及び 「中空糸膜を紡糸するに際して、注入液に対してヘリウムおよび/または窒素を吹き込み、かつ、注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設け、かつ、注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する中空糸膜の製造方法」(同請求項2を引用し、更に、同請求項1を引用した場合の補正事項、以下、「補正事項イ-4」という)との事項が付加されたことになる。 そこで、上記補正事項イ-1〜補正事項イ-4が、当初明細書に記載した事項の範囲内でなされたものであるか否かにつき検討する。 当初明細書の記載中、注入液の脱気に関する記載を抽出して摘示すると、以下のとおりとなる。 (1)「【請求項1】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を脱気して用いることを特徴とする中空糸膜の製造方法。【請求項2】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を室温より高い温度に加温して用いることを特徴とする中空糸膜の製造方法。【請求項3】注入液を環状口金の中心パイプに注入する前に泡溜まりを設けることを特徴とする中空糸膜の製造方法。【請求項4】中空糸膜を紡糸するに際して、注入液に対して低溶解性の気体をパージして用いることを特徴とする中空糸膜の製造方法。【請求項5】低溶解性の気体がヘリウムおよび/または窒素であることを特徴とする請求項4記載の中空糸膜の製造方法。」(特許請求の範囲) (2)「・・・。脱気の方法としては特に限定される物ではなく、例えば、注入液を室温より高い温度に加温する方法、凝固液に溶存性の低い気体をバブリングする方法、凝固液を減圧する方法などが挙げられるが、簡便性や経済性を考慮すると、加温する方法が好ましい。」(段落0012) (3)「・・・そこで注入液体の供給ラインに、気泡のトラップを設けて、紡糸安定性を調べたところ、中空糸膜の欠点が著しく減少し、糸切れの発 生を防止できることが見出された。・・・」(段落0014) (4)「したがって、注入液体を槽から紡糸口金部までに受ける温度変化より高い温度に一旦加温すれば、過剰な溶存気体が脱気されるので、加温した注入液体を用いた場合の効果が理解される。 注入液体の加温方法は、例えば該注入液を熱媒の通るジャケットを設けたステンレス製のガス抜き用ベント付き容器に入れて所定の温度に加温し、保持する。この際注入液の脱気効果を上げるため撹拌を行っても良い。加温する温度は、前述の考察から、室温より高い温度にすればよい。つまり、注入液槽から口金までの間に受ける温度変化より高い温度に加温すれば良い。・・・。」(段落0015及び0016) (5)「本発明では、また注入液に対して溶解性の低い気体を吹き込むことで溶解性の大きい気体と置換し事実上の脱気を行うことができる。ここで溶解性の低い気体としてはヘリウムあるいは窒素が好ましく用いられる。例えばヘリウムを注入液にバブリングすると、溶解している空気が追い出されて代わりにヘリウムが溶解する。・・・。本発明の低溶解性の気体を用いた脱気方法としては、例えばヘリウムの場合、まず初期に0.2〜1.0kgf/cm2の圧力下で10分以上、2時間以下流して注入液中から空気を追い出す。次いで排気バルブを閉じて注入液容器内を少し加圧状態にする。以後ポンプの送液により注入液が減った分だけヘリウムガスが供給される。」(段落0018) (6)「本発明の紡糸では、注入液が口金に入る直前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設けると、発生した泡が口金内に入り込まないためさらに紡糸性を向上させることができる。トラップを設ける位置は口金に近い程効果が大きいが、作業性などを考慮して決める必要がある。大きさは、紡糸環境や紡糸時間などによって適宜決めれば良いが、トラップされた気泡が口金に入らないことが必要条件である。」(段落0019) (7)「実施例1 アクリロニトリルを・・・中で重合して・・・重合体を得た。これを希釈して重合体濃度13.5重量%の紡糸原液とした。次いで・・・芯鞘型中空糸用環状口金を用いて鞘部よりこの紡糸原液を・・・吐出し、芯部より・・・凝固液(注入液)として注入した。なお、該注入液は容器に入れて50℃に加温し1時間脱気して用いた。口金温度は50℃で、吐出した糸条を・・・後、50℃のDMSO15重量%水溶液からなる凝固浴中へ導いて凝固させ、・・・処理し巻き取った。・・・。」(段落0025) (8)「実施例2 ・・・。溶解した原液を・・・環状口金(55℃)から、予め60℃に加温し1時間脱気した注入液(NMP60重量%水溶液)とともに押し出し、乾式長30mmで凝固浴(25℃の水)に浸漬し中空状に成形し、水洗(25℃)、熱処理(90℃)した後、巻取り機で巻取りPPSS中空糸膜を得た。・・・。」(段落0027) (9)「実施例3 注入液を加温する代わりにヘリウムガスでバブリングする以外は、実施例1と同様にして紡糸した。バブリングは、ボンベに充填した高純度ヘリウムガス(99.99%)を・・・の圧力、流量300ミリリットルで注入液に導入し、20分間バブリングした。・・・。」(段落0028) (10)「 実施例4 注入液を加温する代わりに窒素ガスでバブリングする以外は、実施例2と同様にして紡糸した。バブリングは、ボンベに充填した高純度窒素ガス(99.99%)を・・・の圧力、流量350ミリリットルで注入液に導入し、30分間バブリングした。この時注入液タンクの排気バルブは解放にした。紡糸中は排気バルブを閉めて、・・・に注入液タンクを保持した。」(段落0029) (11)「実施例5 実施例2で、口金に導入される直前の注入液ラインに泡をトラップするため、約20ミリリットルの円筒状容器(テフロン製)を設けて紡糸を行なった。」(段落0031) 上記(1)〜(11)の摘示事項からみて明らかなとおり、当初明細書には、中空糸膜の製造方法において注入液を脱気する手段(又は方法)としては、加温する旨、泡溜まり(トラップ)を設ける旨、及び、低溶解性の気体を用いる旨が、個別に、独立して、記載され、また、これに加えて、上記(4)及び(11)によれば、「注入液を加温して脱気する場合に、口金に導入される直前の注入液ラインに泡をトラップするための円筒状容器(テフロン製)を設けること」が実質上記載されているといえるものの、当初明細書では、中空糸膜の製造方法において注入液を脱気する手段として、上記補正事項イ-1〜イ-4を採択することが記載されず、また、そこでは、上記補正事項イ-1〜イ-4の如く、「上記低溶解性の気体をパージして用いること」と「上記加温すること」とを組み合わせて用いること、及び、「上記低溶解性の気体をパージして用いること」と「上記泡溜まり(トラップ)を設けること」と「上記加温すること」とを組み合わせて用いることにつき示唆する記載は何もない。 そうすると、上記補正事項イ-1〜イ-4については当初明細書に記載されたものであるということはできず、また、それら事項が当初明細書の記載から自明なこととして導き出せるるものでもない。 したがって、本件発明3及び4の特許は、上記補正事項イ-1〜イ-4を付加した点で、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされたものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである。 また、本件発明1及び2は、その特許請求の範囲において請求項3及4が請求項1及び2の従属項として記載されていることからみても明らかなとおり、本件発明3及び4を、本件発明1及び2の下位概念の一態様、ないしは、技術的裏付けとして含むものである。そして、本件発明3及び4は、上記補正事項イ-1〜イ-4を付加した点で、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされたものとはいえないことは上記したとおりである。そうであれば、本件発明1及び2の特許は、補正事項イ-1〜イ-4を付加した本件発明3及び4をその発明の一態様、ないしは、技術的裏付けとして含むことから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである。 V-1-2-2.補正事項ロについて 上記補正事項ロによれば、脱気の方法として、「注入液を紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温する」うえに更に「凝固浴に溶存性の低い気体をバブリングする方法」又は「凝固液を減圧する方法」を組合せるとの事項が、実質上、付加されたことになる。 しかし、当該付加された事項については、上記V-1-2-1.における摘示(1)〜(11)からみても明らかなとおり、当初明細書に記載されず、また、そのことが、自明なこととして導き出されるものではない。 そして、訂正事項ロは、本件発明1〜4の技術的裏付けとなる、ないしは、本件発明1〜4の下位概念の一態様となる事項に該当するものである。 したがって、本件発明1〜4の特許は、上記補正事項ロを付加した点で、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものである。 V-1-3.理由-ニについての結論 平成15年6月23日に提出された手続補正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内でなされたものとはいえず、本件発明1〜4の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してなされたものであり、したがって、本件発明1〜4の特許は特許法第113条第1号の規定に該当し取り消されるべきものである。 V-2.理由ハについて V-2-1.甲号各証の記載 V-2-1-A.甲第1号証(特開平7-96152号公報) (A-1)「【請求項1】中空糸膜の形状を傾斜的に変化させることにより、該中空糸膜の長さ方向における該膜の単位面積当たりの透過水量の格差を少なくさせたことを特徴とする傾斜型中空糸膜。 〈中 略〉 【請求項18】請求項1乃至16記載の傾斜型中空糸膜の製造方法。」(特許請求の範囲第1〜18項) (A-2)「中空糸膜を製糸する方法としては、高分子溶液から紡糸するいわゆる溶液紡糸法、すなわち湿式紡糸法または乾湿式紡糸法で有利に製造することができる。溶融紡糸のような製糸方法では、紡糸速度が著しく高いこと、紡糸技術上口金を吐出された高分子の糸状体が著しく引伸されるので、中空糸に数十センチ〜数百センチの一定の間隔で中空糸の太さを変化させることが困難である。しかし、溶液紡糸法では、比較的低速度で凝固によって糸状を形成することが可能であり、よって、口金から吐出された直後の引伸される度合いを小さく微小な形状変化に対応することができる。」(段落0032) (A-3)「具体的には、環状の口金を用いて、高分子溶液を外側の環状スリットから、中心の孔から注入流体を気相中でに吐出させたのちに凝固液に紡出する乾湿式紡糸、又は、高分子溶液を外側の環状スリットから、中心の孔から注入流体を直接凝固液に紡出する湿式紡糸によって製造することができる。 注入流体としては気体、液体が使用できる。通常、凝固性の溶液、好ましくは紡糸溶液と共通の溶媒を含む凝固液を使用する。」(段落0034及び0035) (A-4)「例えば、ポリアクリロニトリル系原液を乾湿式紡糸する際、精密ギャーポンプと環状口金を用いて、環状の口金の外側スリットからポリアクリロニトリル系の紡糸溶液を、中心の孔から注入液のジメチルスルホキシド(DMSO)の水溶液を注入しつつ、温度及び湿度を調整された雰囲気中に一定量を吐出させた後、ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む凝固液に紡出する。この際、予め駆動系を制御するシーケンサーに中空糸膜の引取速度の変化をプログラム化して組込み、該中空糸膜を凝固浴から引出し、水洗浴で脱溶媒を繰返した後に巻取り、モジュールサイズに切断して使用する。」(段落0045) (A-5)「また、注入液が低い温度で環状口金を通過する際、環状口金を組み込んだ紡糸パック内で温度上昇が起こり、注入液の溶存気体が口金から吐出後の放圧下に膨張して、膜内に気泡を含み紡糸トラブルになることがある。よって、口金から吐出する際に注入液・吐出原液ラインの温度差を設けない紡糸パックの構造が望ましい。口金近傍の温度を注入液・吐出原液ラインあるいは各タンクにフィードバックして温度管理すれば良い。」(段落0050) (A-6)「注入液に溶存気体を含まない状態が好ましいが、溶存気体を除くには、減圧脱泡があるが、注入液濃度が変化することや注入液ラインに背圧を掛ける必要性がある場合などでは使用できない。」(段落0051) (A-7)「吐出原液粘度に関して、吐出原液ラインに原液粘度の差圧を検出する細管式粘度計を設けて、温度管理で粘度補正する。吐出原液粘度は、0.1〜1000ポイズの範囲で好ましく、1〜500ポイズで原液粘度と圧力差の間に比例関係があれば良い。」(段落0052) V-2-1-B.甲第2号証(特開昭55-148211号公報) (B-1)「本発明は、エチレン-ビニルアルコール(EVA)系共重合体よりなる中空糸膜の製法に関し、さらに詳しくは乾湿式防止法により非対称型中空糸膜を製造する方法に関する。」(第1頁右下欄第3〜6行) (B-2)「またポリマー溶液の温度は0〜120℃、好ましくは20〜80℃がよい。これより高温ではポリマーが変質するおそれがあり、またこれより低温では溶液粘度がが高くなりすぎるかポリマーのゲル化が起こり紡糸が難しくなるので望ましくない。」(第2頁右下欄第16〜末行) (B-3)「実施例1 エチレン含有量33モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体をジメチルスルホキシドに加熱溶解し、濃度22重量%の溶液を得た。これを70℃で1晩放置して脱泡した。・・・円環ノズルを凝固液面上20mmに設置し、その内側より・・・混合溶媒を・・・注入しながら、その外側部より上記脱泡後原液を・・・押し出し・・・混合溶液の凝固浴中(19℃)に垂直下方に紡糸し、・・・。」(第4頁右下欄第7〜末行) V-2-1-C.甲第3号証(特開平6-190254号公報) (C-1)「請求項2】二重管構造の中空糸製造用ノズルを用い、外側の環状口から紡糸原液を吐出させ乾湿式紡糸法により中空糸を製造する場合において、該紡糸原液がポリマー濃度30重量%以上であり、かつ2種類以上の極性有機溶剤の混合液を含み、また芯部から気体を吐出させることにより得られることを特徴とする請求項1記載のポリスルホン系中空糸膜の製造方法。」(特許請求の範囲第2項) (C-2)「【実施例】・・・。つまり、紡糸原液を100℃で12時間溶解攪拌し、紡糸原液が均一溶解できていることを確認後、100℃で1時間脱泡を行い、紡糸原液を40℃に冷却した後、・・・二重管構造の中空糸製造用ノズルから紡糸原液および窒素を吐出させ、乾湿式紡糸を行った。・・・。」(段落0017) V-2-1-D.甲第4号証(特開平6-165926号公報) (D-1)「【産業上の利用分野】本発明はポリスルホン系中空繊維膜およびその製造方法、特に中空繊維膜の内表面の緻密層にビニルピロリドン系ポリマーを多量に存在させた、血液処理に適したポリスルホン系中空繊維膜およびその製造方法に関するものである。」(段落0001) (D-2)「以上の系からなる原液を用いてポリスルホン系中空繊維膜を得る。製膜操作は公知の乾湿式法を用いることができ、一定の温度に保温された上記原液及び内部凝固液が2重管構造の環状ノズルより同時に吐出され、凝固浴に導入される。・・・。」(段落0031) (D-3)「実施例1 ポリスルホン(・・・「PS」と略称する)17重量%、ポリエチレングリコール(・・・以下「PEG」と略称する)12.75重量%、ポリビニルピロリドン(・・・以下「PVP」と略称する)2.55%、ジメチルアセトアミド(以下、「DMA」と略称する)67.7%を混合し、加熱攪拌して均一透明な原液を調製した。 この原液を45℃にて16時間静置し、脱泡した後、・・・環状ノズルより、内部凝固液としてDMA40重量%、PVP0.5重量%、水59.5重量%で構成される溶液と同時に50℃で吐出し、相対湿度80%、50℃に調整した空気中に押し出した。・・・空中走行後、・・・水中に導いて凝固させた。・・・。」(段落0055) (D-4)「実施例6 PS17重量%、PEG22.0重量%、PVP1.7重量%、ジメチルホルムアミド59.3重量%を混合加熱攪拌して均一透明な原液を調製した。45℃にて16時間静置し、脱泡した後、・・・環状ノズルより、ジメチルホルムアミド59.5重量%、PVP0.5重量%、水40重量%からなる内部凝固液とともに30℃で吐出し、相対湿度80%、50℃に調整された空中に押し出した。・・・空中走行後、・・・水中に導いて凝固させた。・・・。」(段落0066) V-2-1-E.甲第5号証(特開昭59-202040号公報) (E-1)「本発明は液体のサンプリング容器に関し、より詳細にはエアクリフト,真空吸引等によつて気液混相状態で移送されてきた放射性溶液や有害物質溶液から気相を分離したのちに、液相を安全かつ高精度で採取できるようにした溶液のサンプリング容器に関する。」(第1頁左下欄第15〜末行) (E-2)「エアリフト等によつて貯蔵(図示せず)から連続的に移送されてきた気液混合相は、液体供給口11から容器本体10内に矢印Bに沿つて気液分離部24に流入する。すると、この気液混合相は邪魔板12に衝突して気液分離され、空気は上方の間隙13を経て溢流部20へ流れ、又溶液は下方の間隙14を経て、液溜部18に至り、同じく溢流部20へ流れる。・・・。なお、ジャグ22への溶液サンプリングは従来と同様に行なわれ・・・。 このように液体流入口11に対抗して邪魔板12を設け、上部間隙13を気体が、下部間隙14を溶液が流れるようにしたので、気液混合相で供給される溶液の十分な気液分離が行なわれ、液留部18への気泡の巻き込みを防止することができる。 したがって、サンプリングの際に気体が針19を通つてジャグに流入することがなく、サンプリング流量が増大し、分析に必要な一定量の溶液を常に高精度でジャグに採取することができる。」(第3頁左上欄第19行〜左下欄第6行) V-2-1-F.甲第6号証(特開平5-184811号公報) (F-1)「【産業上の利用分野】本発明は、食品加工や化学工業分野で使用されるプロセス液から溶存酸素を除去する方法には関する。」(段落0001) (F-2)「【従来技術】プロセス液から溶存酸素を除去する方法として、真空脱気方法、加熱脱気方法、脱酸剤による脱気方法、ガス置換脱気方法などが従来から用いられている。真空脱気方法は、プロセス液を密閉容器に収容し、この密閉容器内を減圧することにより、プロセス液に溶存している酸素を除去するようにしたものであり、加熱脱気方法はプロセス液を煮沸することにより、プロセス液中の酸素を除去するようにしたものである。また、脱酸剤による脱気方法は、プロセス液に化学薬品を作用させてプロセス液中の酸素を除去するようにしたものであり、ガス置換脱気方法はプロセス液に炭酸ガスや窒素を吹き込んでバブリングにより気液接触させてプロセス液中の酸素を除去するようにしたものである。」(段落0002) V-2-2.対比・検討 V-2-2-1.本件発明1 甲第1号証には、その(A-1)によれば、傾斜型中空糸膜の製造方法に関するものが記載され、そして、その前記(A-3)及び(A-4)によれば、その製造方法は、「環状の口金を用いて、環状の口金の外部スリットから紡糸溶液を、かつ中心の孔から水溶液からなる注入液を注入しつつ、雰囲気中に吐出させた後、凝固液に紡出する紡糸法」を含むものである。 したがって、甲第1号証には、「傾斜型中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を環状の口金から注入し、雰囲気中に吐出する、傾斜型中空糸膜の製造方法」に関する発明(以下、必要に応じて、「甲第1号証発明」という)が記載されているということができる。 そこで、本件発明1と甲第1号証発明とを対比する。 甲第1号証発明の「傾斜型中空糸膜」、「注入液」は、それぞれ、本件発明1の「中空糸膜」、「注入液」に相当し、よって、両者は、 「中空糸膜を紡糸するに際して、注入液を用いる中空糸膜の製造方法」の点で一致し、以下の点で相違する。 【相違点】当該注入液につき、本件発明1では、「紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する」との特定事項を具備するのに対して、甲第1号証発明ではそのことが明示されない点 以下、上記相違点に関する特定事項が当業者が容易に想到できるか否かにつき検討する。 甲第1号証の前記(A-5)及び(A-6)によれば、その紡糸に際して、注入液に溶存気体を含まない状態が好ましく、溶存気体を除く必要があることが教示される。 そして、液体に溶存している気体成分を除去する手段として加熱(ないしは加温)による脱気は本件出願前に周知・慣用の手段〔必要ならば、例えば、特開昭61-268306号公報の第3頁左上欄第6行〜右上欄第16行、特開昭64-30686号公報の第3頁左下欄第9〜18行、甲第6号証の前記摘示(F-2)、等を参照〕となっている。 してみれば、甲第1号証発明において、その注入液の溶存気体を除去するために、上記周知・慣用の加熱脱気手段を適用して、注入液を加熱(ないしは加温)することは当業者が困難なく適宜実施できることに過ぎない。 この場合、その脱泡の加熱温度及び加熱時間は脱泡を実現するための実施条件に外ならず、このうち、加熱温度については、甲第1号証発明において加熱脱泡した後の注入液は紡糸されるものであるから、その紡出条件を乱さないように「紡糸温度の±20℃」程度に設定し、また、加熱時間については実験等により脱泡が実現できるように加熱時間を「15分以上」と設定して、本件発明1のようにすることは、当業者であれば、適宜なし得る。 また、脱泡の加熱温度については、甲第1号証発明では、その前記(A-5)によれば、「注入液が低い温度で環状口金を通過する際、環状口金を組み込んだ紡糸パック内で温度上昇が起こり、注入液の溶存気体が口金から吐出後の放圧下に膨張して、膜内に気泡を含み紡糸トラブルになることがある。よって、口金から吐出する際に注入液・吐出原液ラインの温度差を設けない紡糸パックの構造が望ましい。口金近傍の温度を注入液・吐出原液ラインあるいは各タンクにフィードバックして温度管理すれば良い。」と、環状口金に供給する注入液の温度と環状口金の温度との間に温度差を設けないようにすることが実質上教示されることから、注入液の上記加熱温度を、「紡糸温度の±20℃」程度に設定することは直ちになし得るものであるし、他方、脱泡の加熱時間については、甲第2号証に記載のエチレン-ビニルアルコール系共重合体よりなる中空糸膜の製造方法において、前記(B-3)によれば、該共重合体の溶液を70℃で1晩放置して脱泡したこと、甲第3号証に記載のポリスルホン系中空糸膜の製造方法において、前記(C-2)によれば、紡糸原液を100℃で1時間脱泡を行ったこと、更に、甲第4号証に記載のポリスルホン系中空糸膜の製造方法において、前記(D-3)及び(D-4)によれば、原液を45℃にて16時間静置し脱泡したことにが記載されており、このように、中空糸膜の製造に用いられる原液(高分子溶液)の加熱脱泡に1時間以上の時間を要していることからみて、同じく中空糸膜の製造に用いられる注入液の上記加熱時間を、1時間以上を含む「15分以上」と設定することは直ちになし得るものである。このように、甲第1号証発明において溶存気体を除去するための加熱温度及び加熱時間を本件発明1のように設定することは甲第1〜4号証に記載の発明からみても、困難なく、容易になし得るものに外ならない。 なお、本件発明1は、上記相違点に関する特定事項を具備することにより格別予想し難い効果を奏したものであるということもできない。 したがって、本件発明1は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1〜4及び6号証に記載された発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 V-2-2-2.本件発明2 本件発明2は、本件発明1に対して、「注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設ける」との特定事項を付加するものである。 甲第1号証発明において、注入液の溶存気体を除去する観点から、「紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する」との構成を設けた場合には、注入液中の溶存気体は加温により液中から遊離することになり(必要ならば、「改訂第二版用水廃水便覧」,昭和48年10月30日,丸善株式会社,第243頁第14行〜第244頁末行における表3・1気体の水に対する溶解度の記載、等を参照)、その結果、液の内外に気泡が出現することは当業者にとって自明のこととして把握できるものである。 そして、液体から気泡を除去する場合においては、その液体の供給路に気泡を溜めるところのトラップを設けることは、本件出願前に周知・慣用の事項(必要ならば、例えば、特開平5-228355号公報の段落0013及び第2図の記載、特開平6-277279号公報の段落0008及び図1の記載、甲第5号証の前記(E-2)の邪魔板12と上部間隙13に関する記載、等を参照)となっている。 してみれば、甲第1号証発明において、注入液の溶存空気を除去する観点から、「紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する」との特定事項を設けた場合に、注入液のその気泡を除去する観点から、上記周知技術のトラップを取付けることは当業者が困難なく適宜なし得るものであるし、その際、該トラップを気泡を除去するに有効な箇所である、「注入液を口金に注入する前の送液ライン上に」設けることとして、本件発明2の上記特定事項のようにすることには何の困難も伴わない。 なお、このように注入液の溶存気体を除去した後に、それにより生じた気泡を更に除去すれば、甲第1号証発明の前記(A-5)で問題とする膜内に気泡を含むトラブルをより一層防止できることは容易に予測できることから、「注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設ける」との特定事項を付加することで格別予想し難い効果を奏したものであるということはできない。 そして、本件発明1は、甲第1〜4及び6号証に記載された発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、このことは上記したとおりである。 したがって、本件発明2は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1〜6号証に記載された発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 V-2-2-3.本件発明3及び4 本件発明3及び4は、本件発明1又は2に対して、「注入液に対して空気よりも低溶解性の気体を吹き込む」との特定事項を付加するものである。 液体に溶存している気体成分を除去する手段としては、ヘリウムガス等の低溶解性の気体を吹き込むことは本件出願前に周知・慣用の手段〔必要ならば、例えば、実願昭61-118259号(実開昭63-23647号)のマイクロフィルム第1頁下から第2行〜第3頁第3行の記載、特開昭51-149873号公報の第2頁左上欄第16行〜右上欄第9行の記載、甲第6号証の前記摘示(F-2)、等を参照〕となっている。 そして、前記したとおり、甲第1号証発明においては注入液の溶存空気除去する必要があるものである。 そうであれば、甲第1号証発明において、注入液の溶存空気を除去する観点から、「紡糸温度の±20℃以内で15分以上加温して脱気する」及び「注入液を口金に注入する前の送液ライン上に気泡を溜めるトラップを設ける」との特定事項を設けるだけでなく、併せて、注入液に上記周知のヘリウムガス等の低溶解性の気体を吹き込むこととして、本件発明3又は4のようにすることは当業者が困難なく適宜実施できるものである。 なお、そのことによって、格別予想し難い効果を奏したものとはいえない。 そして、本件発明1及び2は、甲第1〜6号証に記載された発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、このことは上記したとおりである。 したがって、本件発明3及び4は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1〜6号証に記載された発明及び周知・慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 VI. まとめ 以上のとおり、本件請求項1〜4に係る発明に関し本件明細書にした平成15年6月23日の手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、また、本件請求項1〜4に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第113条第1号及び第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-12-13 |
出願番号 | 特願平7-209740 |
審決分類 |
P
1
651・
55-
ZB
(B01D)
P 1 651・ 121- ZB (B01D) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 中野 孝一 |
特許庁審判長 |
多喜 鉄雄 |
特許庁審判官 |
板橋 一隆 鈴木 毅 |
登録日 | 2003-09-19 |
登録番号 | 特許第3473202号(P3473202) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 中空糸膜の製造方法 |