• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C11D
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C11D
管理番号 1131620
審判番号 訂正2005-39071  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-10-21 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-04-28 
確定日 2006-01-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2838347号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2838347号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 I.手続の経緯

特許第2838347号の請求項1に係る発明についての出願は、平成5年4月9日に特許出願され、平成10年10月16日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立てがなされ、取消理由の通知がなされ、その指定期間内に訂正請求がなされ、訂正拒絶理由の通知がなされ、その指定期間内に意見書が提出されたところ、平成16年12月13日付けで「請求項1に係る特許を取り消す。」旨の異議の決定がなされた。これに対して本件審判の請求人より平成17年2月4日に当該異議の決定の取消しを求める訴えが東京高等裁判所に提起され(平成17年(行ケ)第10377号)、平成17年4月28日に本件審判請求がなされたところ、平成17年9月20日付けで訂正拒絶理由の通知がなされ、その指定期間内である平成17年10月21日に意見書が提出されたものである。

II.審判請求の要旨

本件審判請求の要旨は、本件特許明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、即ち、以下の訂正事項a、bのとおりに訂正することを求めるものである。

訂正事項a:特許請求の範囲の請求項1において「フェノール類」とあるのを、「0.0005〜5重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモール」と訂正する。
訂正事項b:特許請求の範囲の請求項1において「洗浄剤組成物」とあるのを、「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、洗浄装置を用いて加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の、オゾン層を破壊しない環境汚染の心配のない洗浄剤組成物」と訂正する。

III.当審の判断

1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

訂正事項aは、訂正前の「フェノール類」を、特許明細書の段落【0025】に記載されている、フェノール類に包含されるところの「2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモール」に限定し、かつその量割合を、同段落【0026】に記載されている「0.0005〜5重量%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項bは、上記したものであるところ、これは、「洗浄剤組成物」に「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、」、「洗浄装置を用いて加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の、」、「オゾン層を破壊しない環境汚染の心配のない」の事項を加えるものであるから、これらの事項を順に(b-1)〜(b-3)とし、検討する。
(b-1)について
特許明細書の段落【0005】以下には、本件発明が解決しようとする課題について記載されている。すなわち、同段落【0005】に「1,1,1-トリクロロエタンとフロン113は、成層圏のオゾン層を破壊する物質として規制され、1995年末までに全廃しなければならないことになり、他の溶剤への転換が急がれている。」ことが、同段落【0006】に「トリクロロエチレンやパ-クロロエチレン等の他のハロゲン系溶剤も、毒性問題や、地下水汚染等の大きな環境問題を有しており、将来が危惧されている。」ことが記載され、従来より用いられてきた溶剤の問題点が指摘されている。次いで同段落【0007】に「1,1,1-トリクロロエタン等の代替洗浄剤候補として、従来、・・・等の種々の溶剤の検討が試みられている。」ことが、同段落【0008】に「しかし、これらの代替洗浄剤候補は、いずれにおいても大きな欠点があり、洗浄力、安全性、経済性等のすべての要求項目を満たすものはない。すなわち、HCFC-225等のハイドロクロロフルオロカ-ボン類は、非水系の不燃性溶剤として扱えるが、毒性がいまだに明らかとなっておらず、しかも、オゾン層破壊物質としても追加指定されており、将来的な代替洗浄剤にはなり得ない。また、石油系溶剤やアルコ-ル系溶剤等の他の非水系溶剤はいずれも引火の危険性があり、加えて、脱脂力、安定性、毒性、臭気等のいずれかの問題要因を含んでいる。さらに、水系洗浄剤は、引火性はないが、脱脂力が弱く、かつ金属部品に対してしみや腐食問題を起こしやすく、すすぎ、乾燥、廃水処理等の付帯設備やそのための広いスペ-スが必要である等の多くの問題点がある。」ことが指摘され、代替洗浄剤を見出すのは困難であることが記載され、そして同段落【0010】に記載される「このように、いずれの代替洗浄剤候補も種々の問題点があるが、近い将来に望ましい代替品が開発される見込みもなく、早急に、いずれかの代替洗浄剤候補に転換せざるを得ない」という状況の中で、本件発明がなされたものである。
こういう状況を見据えて検討すると、「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、」とは、これにより、従来の代替洗浄剤候補では不満足であった、上記段落【0008】で指摘されるような、洗浄力、安全性、経済性、オゾン層破壊性、引火性、脱脂力、安定性、毒性、臭気、金属部品に対するしみや腐食問題、すすぎ、乾燥、廃水処理等の付帯設備等の問題が基本的には解決され、1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤を使用する場合と同様の態様で用いられることを意味するものと考えられる。すなわち、「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、」を特許請求の範囲に加える訂正は、本件洗浄剤組成物のひとつの使用態様を特定する訂正と認められるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(b-2)について
これは、洗浄剤組成物が、「洗浄装置を用いて加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下」においても「安定」であって「非水系」である、という、当該洗浄剤組成物の性質を特定しているものであって、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の洗浄剤組成物を使用するときに、「洗浄装置を用いる」ことを要件として特定するものでも、「加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下」で用いることを要件として特定するものでもないところ、「洗浄装置を用いて」は特許明細書の段落【0017】、【0028】に、また、「加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の」は、同段落【0018】にそれぞれ記載されているから、このような洗浄組成物の性質を特定する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(b-3)について
これも当該洗浄剤組成物の性質を特定するものであって、(b-1)で摘記した特許明細書の段落【0005】、【0006】にも記載されていると同時に、同段落【0040】にも「本発明の洗浄剤組成物は、・・・環境汚染の心配もなく」と記載されているから、このような洗浄剤組成物の性質を特定する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2.独立特許要件

(1)本件訂正発明

訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明1」という。)はその特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 炭素数10〜13の飽和脂肪族系炭化水素に0.0005〜5重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモールを含有することを特徴とする1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、洗浄装置を用いて加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の、オゾン層を破壊しない環境汚染の心配のない洗浄剤組成物。」

(2)訂正拒絶理由通知の概要

平成17年9月20日付け訂正拒絶理由通知の概要は、訂正発明1は、特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明であって特許法第29条第1項第2号に該当するので、出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、当該訂正は認められない、というものである。

(3)刊行物等及び刊行物等に記載された事項

刊行物1:米国エクソン社のカタログ「ISOPAR」
(1984年9月21日)
(本件訂正審判請求の対象である特許第2838347号に対しての特許異議第11-72341号において、特許異議申立人エクソン化学株式会社が甲第5号証として提出したもの;本件訂正審判請求人が審判請求書に添付した参考資料1と同じ)
刊行物2:米国エクソン社のカタログ「Performance Fluids for
maintenance cleaning、FOR IMPROVED WORKING CONDITIONS」
(1988年10月)
(同甲第6号証として提出したもの;同参考資料2と同じ)
証拠1:株式会社リコーに対する商品代請求書
(1991年3月5日作成)
(同甲第4号証として提出したもの)
証拠2:Dr.GUYOMAR氏による宣誓供述書とその添付資料
(本件訂正審判請求の対象である特許第2838347号に対しての特許異議第11-72341号において、特許異議申立人エクソン化学株式会社が平成13年11月9日付け上申書において提示したもの;同参考資料3と同じ)

刊行物1には、アイソパー(ISOPAR)について記載され、アイソパー溶剤が、極めて高いイソパラフィン含量を有する溶剤であること(第3頁左欄の「Purity」の項第1〜4行)、高温下における酸化劣化が小さいこと、また、アイソパーLには、少量の酸化防止剤が添加されていて、酸化安定性が強化されていること(第5頁左欄の「Oxidation Stability」の項第1〜6行)が記載されており、さらに、アイソパーの用途として「洗浄」が記載され(第3頁左欄の「Low Oder」の項末行)、「その他の用途」の項には「シリコンチップ及びその他の電子機器製造及び洗浄」が(第12頁右欄の「Other Applications」の項)、それぞれ記載されている。
刊行物2には、アイソパー(Isopar)、ナッパー(Nappar)、エクソール(Exxsol)について用途と性能が記載され、これらの製品が工業利用を目的とする汚れの除去や保守洗浄に使用されること、具体的には容器、タンク、タンカー、熱交換器、電機モーター、タービンブレード、原子炉等に付着したグリース等の汚れの除去、定期的な保守洗浄に使用されることが記載され(第2頁)、また、アイソパー溶剤製品が金属を腐食させず、このことがある種の装置の洗浄にとって重要な特徴であることが記載され(第3頁)、さらに、アイソパーLについてその洗浄効果が○と記載されている(第9頁)。
証拠1はアイソパー溶剤の購入先への商品代請求書であり、本件特許の出願日前に、アイソパーLが日本の顧客に向けて出荷されていた事実が開示されている。
証拠2はDr.GUYOMAR氏による宣誓供述書及びその添付資料であり、宣誓供述書及びその添付資料であるSPEC.1、SPEC.2、doc.A1〜doc.A8の内容は、平成11年異議第72341号の異議の決定書のII.3.(3)の「証拠2」の項及び同II.3.(4)(4-2)に記載のとおりである。

(4)対比・判断

(4-1)刊行物1、2に記載された「アイソパーL」について

刊行物1に記載されているようにアイソパーLは少量の酸化防止剤が添加されている洗浄剤組成物であるところ、証拠2の宣誓供述書及びその添付資料であるSPEC.1、SPEC.2、doc.A1〜doc.A8の記載内容によれば、アイソパーLは、ヨーロッパで製造されたものであり、炭素数11〜15の飽和脂肪族系炭化水素にフェノール類である2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHTともいう。本件発明における2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールに同じ。)を0.00039〜0.00078重量%含有するものであって、飽和脂肪族系炭化水素中の炭素数10〜13のものを、90%以上含んでいるものである。(証拠2、Dr.GUYOMAR氏の宣誓供述書の翻訳第2頁1行〜第4頁6行参照)
刊行物1には上記したとおり少量の酸化防止剤が添加されている非水系のアイソパーLが記載されるところ、これらアイソパー溶剤の用途として、「シリコンチップ及びその他の電子機器製造及び洗浄」が挙げられ、刊行物2にはアイソパーLの洗浄効果が良好である旨記載されているのであるから、刊行物1、2に記載されたアイソパーLは、「その組成が、炭素数11〜15の飽和脂肪族系炭化水素に0.00039〜0.00078重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを含有するものである、洗浄剤組成物」である。
そして、証拠1より、ヨーロッパで製造された「アイソパーL」は日本に輸入されたものと認められ、日本においてそれが販売されていたと解せられる。

(4-2)上記「アイソパーL」と本件訂正発明1との対比

上記組成を有するアイソパーLと、本件訂正発明1とを対比すると、両者ともに飽和脂肪族系炭化水素に2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを含有する洗浄剤組成物であって、上記2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールの含有量も、0.0005〜0.00078重量%の範囲で一致しているが、両者は次の(i)〜(v)の点で相違している。
(i)飽和脂肪族系炭化水素が、本件訂正発明1においては「炭素数10〜13」であるのに対し、アイソパーLにおいては「炭素数11〜15」である点、
本件訂正発明1においては、洗浄剤組成物に関して、
(ii)1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、
(iii)洗浄装置を用いて
(iv)加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の、
(v)オゾン層を破壊しない環境汚染の心配のない、
という(ii)〜(v)の要件がさらに加えられたものであるのに対し、アイソパーLにおいてはこれらの要件については、不明である点。

まず、上記相違点(ii)について検討する。
「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、」が、本件洗浄剤組成物のひとつの使用態様を特定するものであることは、上記III.1.訂正事項bの(b-1)についての項で述べたところであるが、「代替する」の部分の技術的意味をさらに詳しく検討すると、本件特許明細書の段落【0011】に、「1,1,1-トリクロロエタンは、中小企業における金属部品等の洗浄に多く使用されているため、洗浄工程の拡張や廃水処理設備等を含めた多額の設備投資を伴う水系洗浄剤は敬遠されがちである」と記載され、これから、「代替する」とは「洗浄工程の拡張をする必要がなく、また、廃水処理設備等を含めた多額の設備投資もする必要のない範囲でなされるもの」であると解することができる。
また、同段落【0012】には、「種々の可燃性溶剤対応の洗浄器も提案されている」と記載され、同段落【0015】には「油が多く付着している金属部品、精密部品及び多数の部品を洗浄籠に入れて洗うような条件下では、従来、石油系溶剤等の可燃性溶剤が使用されていた分野のような単なる常温浸漬洗浄では脱脂できず、多槽式による加温洗浄や超音波洗浄、シャワ-洗浄等の併用が必要となる。」と記載され、さらに、平成17年10月21日付け意見書には、「求められた代替品は、単にオゾン層を破壊しない或いはフロンを含まないというだけのものではなく、フロンと同等の洗浄力、洗浄特性を有するものであることが求められる。」(第10頁28〜30行)、「石油系洗浄剤がフロンの代替洗浄剤の1種と認められるには、石油系洗浄剤用の加温洗浄、蒸気洗浄や高温度での繰り返し蒸留回収できるような防爆機能を持った洗浄装置の開発と石油系洗浄剤の安定化特性、耐劣化特性の向上とがなされて初めて可能となったものである。」(第11頁9〜12行)とされ、「アイソパーLのような石油系溶剤を用いる洗浄は、もともとは、洗浄装置を使用しない手作業として拭き取り洗浄、あるいは浸漬するために槽の使用に相当する程度の装置を用いた浸し洗浄であったとされる」(第4頁23〜25行)、「脂肪族炭化水素からなる石油系溶剤は洗浄剤として用いられるものではあるが、それを用いる洗浄は洗浄装置を使用しない手作業としての拭き取り洗浄、あるいは浸漬するための槽の使用に相当する程度の装置を用いた浸し洗浄であったとされる」(第7頁下から1行〜第8頁2行)と記載されている。
これらのことからすると、本件訂正発明1において「代替する」とは、「基本的にフロンに用いられていた従来の洗浄工程を使用するものであり、加温洗浄、蒸気洗浄や高温度での繰り返し蒸留回収できるような防爆機能を持った洗浄装置による洗浄、あるいは多槽式による加温洗浄や超音波洗浄、シャワー洗浄等の特殊な方法に用いる」ものであって、従来の石油系溶剤による洗浄で用いられている「拭き取り洗浄あるいは浸漬洗浄」に用いることまで意味しているものではない。
上記相違点(ii)はこのような使用態様の特定を含むものであるところ、上記刊行物1及び2に記載され、上記証拠2によってその組成が明らかにされ、さらに上記証拠1によって日本国内において公然実施(輸入又は輸入及び譲渡)をされた発明であると解される「アイソパーL」について、その用途については、刊行物1にアイソパーLの用途として「シリコンチップ及びその他の電子機器製造及び洗浄」とあるのみで、「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する 」という使用態様、すなわち、「基本的にフロンに用いられていた従来の洗浄工程を使用し、加温洗浄、蒸気洗浄や高温度での繰り返し蒸留回収できるような防爆機能を持った洗浄装置による洗浄、あるいは多槽式による加温洗浄や超音波洗浄、シャワー洗浄等の特殊な方法に用いる」という使用態様までもが特定されていたとすることはできないし、そのような使用態様によって公然実施されたものと認めることもできない。
そうしてみると、そのような使用態様を特定する本件訂正発明1と、そのような使用態様を何ら特定していない刊行物1、2に記載された「アイソパーL」との間に差異があることは、明らかである。
以上のとおり、本件訂正発明1は刊行物1、2に記載された「アイソパーL」とは相違しているから、相違点(i)、(iii)〜(v)を検討するまでもなく、本件訂正発明1は、特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明ではない。

したがって、本件訂正発明1は、出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

なお、念のため、上記相違点(iii)及び(iv)について、これらの相違点である「洗浄装置を用いて加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の、」は、上記III.1.訂正事項bの(b-2)についての項で述べたとおり、本件洗浄剤組成物の性質を特定するものであって当該洗浄剤組成物の使用態様を特定するものではないから、これらの相違点は実質的な相違点とはならないことを付言しておく。

IV.むすび

以上のとおりであるから、この訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、同法による改正前の特許法第126条第1項第1ないし3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
洗浄剤組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】炭素数10〜13の飽和脂肪族系炭化水素に0.0005〜5重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモールを含有することを特徴とする1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、洗浄装置を用いて加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の、オゾン層を破壊しない環境汚染の心配のない洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、各種金属の脱脂洗浄等に使用される洗浄剤組成物に関する。さらに詳しくは、自動車、電機、電子、機械、精密機器等の加工部品類に付着する機械油、グリ-ス、ワックス等の油類に対する脱脂能力に優れ、低毒性で、かつ加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の洗浄剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種工業分野で使用される脱脂洗浄剤は、非水系洗浄剤と水系洗浄剤に大別されており、従来使用されてきた非水系洗浄剤としては、1,1,1-トリクロロエタン,フロン113,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,メチレンクロライド等のハロゲン系溶剤、ガソリン,灯油等の石油系溶剤、メチルアルコ-ル,イソプロピルアルコ-ル等のアルコ-ル系溶剤等があげられ、一方、水系洗浄剤としては、種々の酸、アルカリ、界面活性剤等が配合されたもの等があげられる。
【0003】
これらの洗浄剤は、各分野で使い分けられているが、特に多岐に亘る洗浄分野、例えば、鉱物性の油脂分が多量に付着した加工部品、精密部品、しみや錆びの発生しやすい金属部品、洗浄籠に多数の部品を入れて扱う小物部品等の脱脂洗浄については、非水系で高脱脂力、不燃性等の優れた特性を備えた1,1,1-トリクロロエタンを中心とするハロゲン系溶剤が主体に使用されている。
【0004】
他の石油系溶剤やアルコ-ル系溶剤等は、引火性があるため、ごく一部の小規模な使用分野での常温浸漬洗浄や手拭き洗浄等に限定され、また、水系洗浄剤は、水溶性の汚れの除去や、しみや腐食性の心配のない部品、脱脂度や乾燥性等が重要視されない分野等を対象として使用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、近年、地球環境問題がクロ-ズアップされ、優れた脱脂洗浄剤として大量に使用されてきた1,1,1-トリクロロエタンとフロン113は、成層圏のオゾン層を破壊する物質として規制され、1995年末までに全廃しなければならないことになり、他の溶剤への転換が急がれている。
【0006】
また、トリクロロエチレンやパ-クロロエチレン等の他のハロゲン系溶剤も、毒性問題や、地下水汚染等の大きな環境問題を有しており、将来が危惧されている。
【0007】
そこで、1,1,1-トリクロロエタン等の代替洗浄剤候補として、従来、一部の分野で使用されていた石油系溶剤、アルコ-ル系溶剤及び水系洗浄剤等に加え、HCFC-123,HCFC-225等のハイドロクロロフルオロカ-ボン類、エステル類、ケトン類、テルペン類、グリコ-ルエ-テル類、N-メチルピロリドン等の種々の溶剤の検討が試みられている。
【0008】
しかし、これらの代替洗浄剤候補は、いずれにおいても大きな欠点があり、洗浄力、安全性、経済性等のすべての要求項目を満たすものはない。
すなわち、HCFC-225等のハイドロクロロフルオロカ-ボン類は、非水系の不燃性溶剤として扱えるが、毒性がいまだに明らかとなっておらず、しかも、オゾン層破壊物質としても追加指定されており、将来的な代替洗浄剤にはなり得ない。また、石油系溶剤やアルコ-ル系溶剤等の他の非水系溶剤はいずれも引火の危険性があり、加えて、脱脂力、安定性、毒性、臭気等のいずれかの問題要因を含んでいる。さらに、水系洗浄剤は、引火性はないが、脱脂力が弱く、かつ金属部品に対してしみや腐食問題を起こしやすく、すすぎ、乾燥、廃水処理等の付帯設備やそのための広いスペ-スが必要である等の多くの問題点がある。
【0009】
また、前記溶剤の中でも、界面活性剤や水等を併用して脱脂力や安全性を高める提案がなされているものも多いが、この場合、水によるすすぎ洗浄が必要であり、一般的に準水系洗浄剤として扱われ、水系洗浄剤と同様な問題点を含む。
【0010】
このように、いずれの代替洗浄剤候補も種々の問題点があるが、近い将来に望ましい代替品が開発される見込みもなく、早急に、いずれかの代替洗浄剤候補に転換せざるを得ない状況にある。
【0011】
また、洗浄工程は被洗浄物の最終製品の品質、寿命等を左右するため極めて重要であり、さらに、1,1,1-トリクロロエタンは、中小企業における金属部品等の洗浄に多く使用されているため、洗浄工程の拡張や廃水処理設備等を含めた多額の設備投資を伴う水系洗浄剤は敬遠されがちである。
【0012】
そのため、自ずと腐食性のない非水系洗浄剤が着目され、種々の可燃性溶剤対応の洗浄器も提案されている。
【0013】
これらの洗浄器の中には、水中下での低沸点アルコ-ルによる蒸気洗浄システム等の特殊な方式もあるが、大半は引火点が21℃以上の第二石油類や70℃以上の第三石油類等の高沸点溶剤を対象としたもので、洗浄は浸漬洗浄が主体となり、自然乾燥が難しいため、温風乾燥や真空乾燥等が用いられている。
【0014】
従って、使用される溶剤については、脱脂力に優れ、低毒性、かつ高引火点で安全性が高く、乾燥性の良いものが望まれている。
【0015】
さらに、油が多く付着している金属部品、精密部品及び多数の部品を洗浄籠に入れて洗うような条件下では、従来、石油系溶剤等の可燃性溶剤が使用されていた分野のような単なる常温浸漬洗浄では脱脂できず、多槽式による加温洗浄や超音波洗浄、シャワ-洗浄等の併用が必要となる。
【0016】
また、可燃性溶剤は、危険物の指定数量としての制約や安全性問題から、洗浄槽の液容量をできるだけ少なくすることが要求される。そのため、持ち込まれる油分量に対して十分な液容量がとれず、頻繁な液交換を強いられ、作業効率や経済性等を考慮すれば、洗浄液に混入した油分を強制的に排除するための蒸留回収が不可欠となる。
【0017】
これらの溶剤の蒸留回収は、引火性と高沸点の問題から減圧下で行なうことが試みられているが、100〜150℃程度まで加熱する必要があり、このような条件下で継続使用していると、本来安定と思われていた溶剤も劣化して酸分が上昇し、洗浄装置や被洗浄物の腐食問題を引き起こすことがわかった。
【0018】
本発明は、上述のような従来技術の持つ欠点を改良し、金属加工部品等に付着する機械油,グリ-ス,ワックス等の油類に対する脱脂能力に優れ、低毒性で安全性が高く、かつ加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下でも安定な非水系の洗浄剤組成物を提供することを目的とするものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
かかる事情をふまえ、本発明者らは、前述の問題点を解決すべく種々の検討を重ねた結果、目的の洗浄剤組成物を見い出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、炭素数10〜13の飽和脂肪族炭化水素にフェノ-ル類を含有することを特徴とする洗浄剤組成物である。
【0020】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0021】
本発明で使用される炭化水素は、飽和脂肪族炭化水素であることが必要である。不飽和炭化水素や芳香族炭化水素等の他の炭化水素は、安定性、毒性、臭気等のいずれかの問題があり、一方、従来から知られている灯油等の石油系溶剤は脱脂力も弱く、液切れ性や乾燥性にも問題があり、しみが発生しやすく、好ましくない。
【0022】
また、使用される飽和脂肪族炭化水素は、炭素数が10〜13であることが必要である。炭素数9以下の場合は、引火点が40℃以下で使用中に引火の危険性が高く、炭素数14以上の場合は、沸点が250℃以上となり、油脂分との分離性や乾燥性が悪くなり、良好な洗浄効果も得られなくなる。
【0023】
このような炭素数10〜13の飽和脂肪族炭化水素としては特に限定するものではなく、例えば、n-デカン、イソデカン、n-ウンデカン、イソウンデカン、n-ドデカン、イソドデカン、n-トリデカン、イソトリデカン等があげられる。
【0024】
また、本発明で使用されるフェノール類は、かかる飽和脂肪族炭化水素の加熱、汚れ、蒸留回収等における高温使用時の劣化を防ぐために必要な成分であり、溶剤に悪影響を与えず、被洗浄物表面で乾燥後にしみ等の影響を与えないものが選ばれる。
【0025】
このようなフェノール類としては特に限定するものではなく、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、チモール、ピロカテキン、4-メトキシフェノール、没食子酸n-プロピル、2-t-ブチルヒドロキノン等があげられる。
【0026】
これらのフェノール類の添加量は、使用条件等により異なり、かなり広範囲に変えることが可能であるが、安定性,洗浄力,経済性等を考慮すると、本発明の洗浄剤組成物に対して、概ね0.0005〜5重量%であることが好ましい。
【0027】
本発明における洗浄剤組成物には、他の炭化水素類、エステル類、アルコ-ル類、エ-テル類、界面活性剤、防錆剤等を配合することも可能であるが、高洗浄性や安全性及び安定性等を確保するためには、本発明で使用する炭素数10〜13の飽和肪族炭化水素は50%以上含有することが好ましく、さらに80%以上含有することが好ましい。
【0028】
また、これらの飽和脂肪族炭化水素は、単一成分においても脱脂洗浄効果があり、50℃以下の温度で短期間に使い捨てるような条件下では、使用可能であるが、本発明の目的とする1,1,1-トリクロロエタン等の代替洗浄剤として適用させるための、さらに高温度での使用や、繰り返し蒸留回収する使用条件下では、液が劣化して生成した酸分が蓄積し、被洗浄物や洗浄装置の腐食問題を引き起こすため好ましくない。
【0029】
すなわち、炭素数10〜13の飽和脂肪族炭化水素とフェノ-ル類を組み合わせて使用することにより初めて高脱脂力で安定性に優れた洗浄剤組成物が得られることにある。
【0030】
本発明の洗浄剤組成物を用いて、金属部品等の脱脂洗浄を行なう方法は特に限定するものではないが、例えば、浸漬洗浄、超音波洗浄、加温洗浄、シャワ-洗浄方式等が有効であり、その後に、温風又は真空乾燥を行ない、洗浄液は断続的又は連続的に蒸留回収しながら使用する方法等が、効率のよい洗浄方法としてあげられる。
【0031】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0032】
実施例1〜10,比較例1〜8
予め一定量のマシン油を注入したSUSパイプ(1mmφ×60mmL)を、表1に示すそれぞれの洗浄剤組成物(実施例1〜10,比較例1〜8)500mlを入れて25℃に保持したビ-カ-中に、水平にして浸漬した。40分後にSUSパイプを引き上げ、SUSパイプ中のマシン油の除去率を測定し、下記の評価基準で脱脂力評価を行なった。これらの結果をあわせて表1に示す。その結果、飽和脂肪族炭化水素単独又は飽和脂肪族炭化水素にフェノール類を含有するものは脱脂力に優れていることがわかる。
【0033】
(評価基準)
マシン油の除去率の評価を以下の通り表示する。
【0034】
◎;90%以上 ○;70〜89%
◇;50〜69% △;30〜49%
×;29%以下
【0035】
【表1】

【0036】
実施例11〜25,比較例9〜13
還流冷却器を取り付けた100mlの試験管に、表2に示すそれぞれの洗浄剤組成物(実施例11〜25,比較例9〜13)30mlと軟鋼試験片(3×13×65mm)1枚を入れ、空気雰囲気中で150℃のオイルバスで加熱した。50時間経過後、試験片を取り出して以下の評価基準で腐食状態を観察し、同時に洗浄剤中の生成酸分を測定した。これらの結果をあわせて表2に示す。その結果、飽和脂肪族炭化水素単独のものは腐食問題を生ずるのに対し、飽和脂肪族炭化水素にフェノール類を含有するものは腐食性が少ないことがわかる。
【0037】
(評価基準)
試験片の腐食状態の評価を以下の通り表示する。
【0038】
◎;変化なし ○;少し変色 ×;腐食
【0039】
【表2】

【0040】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明の洗浄剤組成物は、油脂分の溶解力に優れ、安全性が高く、環境汚染の心配もなく、かつ安定で、繰り返し蒸留回収ができる効果を有するため、従来ハロゲン化炭化水素溶剤等が主体に使用されてきた分野の各種金属加工部品等の脱脂洗浄剤として有利に使用できるものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2005-12-14 
結審通知日 2005-12-16 
審決日 2005-12-28 
出願番号 特願平5-83415
審決分類 P 1 41・ 851- Y (C11D)
P 1 41・ 856- Y (C11D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大久保 元浩  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 井上 彌一
原田 隆興
原 健司
脇村 善一
登録日 1998-10-16 
登録番号 特許第2838347号(P2838347)
発明の名称 洗浄剤組成物  
代理人 岸田 正行  
代理人 水野 勝文  
代理人 小花 弘路  
代理人 高野 弘晋  
代理人 岸田 正行  
代理人 高野 弘晋  
代理人 水野 勝文  
代理人 小花 弘路  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ