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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B32B
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する B32B
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B32B
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B32B
管理番号 1131621
審判番号 訂正2005-39078  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-10-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-05-11 
確定日 2006-01-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3359813号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3359813号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3359813号は、平成8年4月16日に特許出願され、平成14年10月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 東レ株式会社により特許異議の申立て(異議2003-71596号)があり、その後、取消理由通知がされ、特許異議意見書が提出され、平成15年4月1日付けで、本件請求項1ないし4,6,9,12に係る発明は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであることを理由として、「特許第3359813号の請求項1ないし4,6,9,12に係る特許を取り消す。同請求項5,7,8に係る特許を維持する。」旨の異議の決定がされ、平成17年4月7日付けで当該取消決定の取消を求める訴えが、知的財産高等裁判所に提起され(平成17年(行ケ)第10409号)、取消訴訟が提起された日から起算して90日以内である平成17年5月11日付け審判請求書により本件訂正審判が請求され、その後、訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内の平成17年9月22日付けで審判請求書の手続補正書及び意見書が提出されたものである。


2.審判請求書の補正の適否についての判断
平成17年9月22日付け手続補正書の補正の内容は、下記のとおりのものである。
(1)審判請求書の「6.請求の理由」、「(3)訂正の要旨」の「5)訂正事項e(審判請求書の第3頁第39行〜第4頁第7行)」を削除する。
(2)審判請求書の「6.請求の理由」、「(3)訂正の要旨」の「6)訂正事項f(審判請求書の第4頁第9行〜第4頁第20行)」を削除する。
(3)審判請求書の「6.請求の理由」、「(4)訂正の原因」の「5)(審判請求書の第5頁第35行〜第6頁第1行)」を削除する。
(4)審判請求書の「6.請求の理由」、「(4)訂正の原因」の「6)(審判請求書の第6頁第3行〜第5頁第11行)」を削除する。

注1)補正の内容(1)ないし(4)中の、5)、6)という番号は、手続補正書では丸付き数字で記載されているが、審決で使用できる字体の制限上、丸付き数字が使用できないため、上記のように表記している。
注2)補正の内容(4)の「〜第5頁第11行)」という記載は、「(4)訂正の原因」の「6)」を削除するという記載内容からして、「〜第6頁第11行)」と記載すべきものの誤記であることは明らかであるので、(4)「6)(審判請求書の第6頁第3行〜第6頁第11行)」を削除するものと認定して、補正の適否の判断をしている。

上記補正事項(1)及び(2)は、審判請求書の訂正事項を削除するものである。また上記補正事項(3)及び(4)は、それぞれ上記の訂正事項を削除する補正に伴い、「6.請求の理由 (4)訂正の原因」の対応する記載箇所を削除するものであるから、いずれも審判請求書の要旨を変更するものではない。
したがって、上記補正は、特許法第131条の2第1項の規定に適合するから、補正を認める。


3.訂正の内容
平成17年9月22日付けで手続補正がされた平成17年5月11日付けの訂正審判の請求は、次の訂正事項を含むものである。

訂正事項a
特許請求の範囲請求項1を
「【請求項1】 ポリエステルB層の片面に、滑剤を含有するポリエステルA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、
(イ)フィルム全体の厚みが2〜10μmであり、
(ロ)フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ450〜2000kg/mm2 で、両者の比(横/縦)が1.0〜3.0であり、
(ハ)フィルムを60℃×55%RHで72時間、無加重下に保持したときの縦方向の熱収縮率が0.5%以下であり、
(ニ)ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104 個/mm2 以上で、突起数が30個/mm2 以上の領域で求めた突起数(YA :個/mm2 )と突起高さ(HA :nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差せず、そして
(ホ)ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102 個/mm2 以上で、突起数が30個/mm2 以上の領域で求めた突起数(YB :個/mm2 )と突起高さ(HB :nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しないこと、そして
(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる
ことを特徴とする高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【数1】
log10YA =-0.15×HA +5 ……(1)
log10YA =-0.05×HA +5 ……(2)
log10YB =-0.15×HB +5 ……(3)」
と訂正する。

訂正事項b
特許請求の範囲請求項3を削除する。

訂正事項c-1
特許請求の範囲請求項4を
「【請求項3】 ポリエステルA層が含有する滑剤が、耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子を少なくとも含んでいる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。」と訂正する。

訂正事項c-2
特許請求の範囲請求項5を
「【請求項4】 ポリエステルB層が外部添加の不活性粒子を含まない請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。」と訂正する。

訂正事項c-3
特許請求の範囲請求項6を
「【請求項5】 ポリエステルB層が耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子の滑剤を含んでいる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。」と訂正する。

訂正事項c-4
特許請求の範囲請求項7を
「【請求項6】 ポリエステルフィルムをロール状に巻いたとき、ロール表面の1円周上での2mmφ 以上の大きさのブツが10個/m以下であり、かつ縦シワの総幅がフィルム幅に対し30%以下である請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。」と訂正する。

訂正事項c-5
特許請求の範囲請求項8を
「【請求項7】 ポリエステルるA層および/又はポリエステルB層がポリエチレンテレフタレートからなる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。」と訂正する。

訂正事項c-6
特許請求の範囲請求項9を
「【請求項8】 ポリエステA層および/又はポリエステルB層がポリエチレン―2,6―ナフタレートからなる請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。」と訂正する。

訂正事項c-7
特許請求の範囲請求項10を
「【請求項9】 フィルムがデジタル記録型磁気記録媒体用である請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。」と訂正する。

訂正事項c-8
特許請求の範囲請求項11を
「【請求項10】 請求項1に記載の積層二軸配向ポリエステルフィルムをベースとする高密度磁気記録媒体。」と訂正する。

訂正事項c-9
特許請求の範囲請求項12を
「【請求項11】 請求項9に記載の積層二軸配向ポリエステルフィルムをベースとするデジタル記録型磁気記録媒体。」と訂正する。

なお、訂正事項c-1ないしc-9の項番は、整理のため当審において付与したものである。

訂正事項d
発明の詳細な説明の段落【0012】を
「【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明はポリエステルB層の片面に、滑剤を含有するポリエステルA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、
(イ)フィルム全体の厚みが2〜10μmであり、
(ロ)フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ450〜2000kg/mm2 で、両者の比(横/縦)が1.0〜3.0であり、
(ハ)フィルムを60℃×55%RHで72時間、無加重下に保持したときの縦方向の熱収縮率が0.5%以下であり、
(ニ)ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104 個/mm2 以上で、突起数が30個/mm2 以上の領域で求めた突起数(YA :個/mm2 )と突起高さ(HA :nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差せず、そして
(ホ)ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102 個/mm2 以上で、突起数が30個/mm2 以上の領域で求めた突起数(YB :個/mm2 )と突起高さ(HB :nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しないこと、そして
(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる
ことを特徴とする高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルムである。」
と訂正する。

4.当審の判断
4-1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aについて
訂正事項aは、訂正前の請求項1に、「(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる」という発明特定事項を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、これは願書に添付した明細書の段落【0036】中の「ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径の異なる少なくとも2種以上の不活性粒子からなることが好ましい。」、 段落【0037】中の「上記ポリエステルA層に含まれる滑剤のうち、粒子I(大〜中粒子)の平均粒径は0.2〜1.0μm、さらに0.3〜0.8μm、特に0.4〜0.6μmであることが好ましい。また粒子II(小粒子)の平均粒径は粒子Iの平均粒径より小さくかつ0.05〜0.3μm、さらに0.1〜0.2μm、特に0.1〜0.15μmであることが好ましい。そして、粒子Iの含有量は0.005〜0.2重量%、さらに0.01〜0.1重量%、特に0.01〜0.05重量%であることが好ましい。また粒子IIの含有量は0.15〜1.0重量%、さらに0.2〜0.5重量%、特に0.25〜0.3重量%であることが好ましい。」との記載に基づくから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

訂正事項bについて
請求項の削除は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

訂正事項c-1について
訂正事項c-1は、訂正により請求項を削除したことに伴い、訂正前の請求項4を繰り上げて請求項3として、引用する請求項が「請求項1または3」であったのを、「請求項1」とするものであるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

訂正事項c-2ないしc-5、c-7ないしc-9について
これらの訂正は、上記訂正事項bにて請求項3を削除したことに伴い、請求項を繰り上げて連続する番号としたものだから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

訂正事項c-6
訂正事項c-6は、上記訂正事項b.により請求項3を削除したことに伴い、訂正前の請求項9を繰り上げて連続する番号としたものと、訂正前の請求項8「ポリエステA層」との記載を「ポリエステルA層」と訂正することを含むものである。そして、前者の請求項番号の繰り上げは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、後者の「ポリエステルA層」と訂正することは、願書に添付した明細書の「A層」に関する記載は、特許請求の範囲請求項1をはじめとしてすべて「ポリエステルA層」と記載されていることから、訂正前の「ポリエステA層」という記載は、本来「ポリエステルA層」と記載すべきものの誤記であることは明らかであるので、誤記の訂正を目的とするものである。

訂正事項dについて
訂正事項dは、発明の詳細な説明中の記載を、特許請求の範囲の記載に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、上記した訂正事項b、c-1ないしc-9、dに係る訂正は、いずれも願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又変更するものでもない。

4-2.独立特許要件の判断
訂正事項aに係る請求項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正後の請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし11に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

4-2-1.訂正後の特許請求の範囲に係る発明
訂正後の請求項1ないし11に係る発明(以下、「本件訂正発明1ないし11」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定された次のとおりのものである。
「【請求項1】 ポリエステルB層の片面に、滑剤を含有するポリエステルA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、
(イ)フィルム全体の厚みが2〜10μmであり、
(ロ)フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ450〜2000kg/mm2 で、両者の比(横/縦)が1.0〜3.0であり、
(ハ)フィルムを60℃×55%RHで72時間、無加重下に保持したときの縦方向の熱収縮率が0.5%以下であり、
(ニ)ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104 個/mm2 以上で、突起数が30個/mm2 以上の領域で求めた突起数(YA :個/mm2 )と突起高さ(HA :nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差せず、そして
(ホ)ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102 個/mm2 以上で、突起数が30個/mm2 以上の領域で求めた突起数(YB :個/mm2 )と突起高さ(HB :nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しないこと、そして
(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる
ことを特徴とする高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【数1】
log10YA =-0.15×HA +5 ……(1)
log10YA =-0.05×HA +5 ……(2)
log10YB =-0.15×HB +5 ……(3)」
【請求項2】 ポリエステルA層の厚みが0.2〜2μmである請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】 ポリエステルA層が含有する滑剤が、耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子を少なくとも含んでいる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】 ポリエステルB層が外部添加の不活性粒子を含まない請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】 ポリエステルB層が耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子の滑剤を含んでいる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】 ポリエステルフィルムをロール状に巻いたとき、ロール表面の1円周上での2mmφ 以上の大きさのブツが10個/m以下であり、かつ縦シワの総幅がフィルム幅に対し30%以下である請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】 ポリエステルA層および/又はポリエステルB層がポリエチレンテレフタレートからなる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】 ポリエステルA層および/又はポリエステルB層がポリエチレン―2,6―ナフタレートからなる請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項9】 フィルムがデジタル記録型磁気記録媒体用である請求項1
に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項10】 請求項1に記載の積層二軸配向ポリエステルフィルムをベースとする高密度磁気記録媒体。
【請求項11】 請求項9に記載の積層二軸配向ポリエステルフィルムをベースとするデジタル記録型磁気記録媒体。」

4-2-2.甲各号証の記載事項
特許異議申立人東レ株式会社の異議申立書に記載された下記の甲第1ないし4号証には以下の事項が記載されている。

甲第1号証:特開平8-90648号公報
甲第2号証:東レ株式会社 田中和典による平成15年6月12日付けの実 験報告書
甲第3号証:特開平7-326044号公報
甲第4号証:特開平5-212789号公報

(1)甲第1号証の記載事項
(A)
「【請求項1】 ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートからなるフィルムであって、フィルム厚み10μm換算で波長550nmにおける光線透過率が70%以上かつ波長250nmにおける光線透過率が10%以下、横方向のヤング率が700kg/mm2以上、フィルム厚みが7μm以下であることを特徴とする磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。
【請求項2】 フィルムがA層及びB層の少なくとも2層構造からなり、A層厚みが0.01〜3.0μmである請求項1記載の磁気記録媒体用ポリエステルフィルム。」(特許請求の範囲請求項1,2)
(B)
「従来の磁気記録媒体用フィルムでは積層厚みと含有粒子粒径の関係を規定してフィルム表面突起高さの均一化をはかり、磁気記録媒体としての電磁変換特性とベ-スフィルム表面の耐摩耗性が向上したが、さらなる高密度磁気記録媒体とした場合に、横方向の強度についてより高強度が求められるようになってきており、該用途においては出力特性が不足するという問題が生じてきている。・・・本発明はかかる課題を解決し、特に出力特性に優れる磁気記録媒体用ポリエステルフィルムを提供することを目的とする。」(段落【0003】抜粋)
(C)
「本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムはポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(以下PENと記載する場合がある)を構成成分とするのが好ましい。なお、本発明の目的を阻害しない範囲内で、2種以上のポリマを混合してもよいし、共重合ポリマを用いてもよい。また、本発明の目的を阻害しない範囲内で酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、紫外線吸収剤などの添加剤が通常添加される程度添加されていてもよい。
本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムは特に限定されないが、出力特性の点からA層/B層の少なくとも2層構造からなるのが好ましい。A層厚みは特に限定されないが、出力特性の点から0.01〜3.0μm、好ましくは0.02〜2.0μm、さらに好ましくは0.03〜1.0μmである。積層構成の場合、少なくとも1層の主たる成分がPENであればよく、他の層は特に限定されないが、ポリエステルが好ましく例示される。ポリエステルとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレ-トを主たる成分とするポリマ(以下PETと記載)またはPENが好ましい。
本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムが積層構成の場合、A層/B層はそれぞれPEN/PET、PEN/PEN、PET/PENのいずれでもとり得る。」(段落【0005】〜【0007】)
(D)
「本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムのA層には特に限定されないが、出力特性の点から0.01〜1.0μm、好ましくは0.02〜0.5μm、さらに好ましくは0.03〜0.3μmの粒径の粒子を、0.01〜3.0重量%、好ましくは0.02〜2.0重量%含有するのが光線透過率を本願範囲とする上で好ましい。粒子としては特に限定されないが、出力特性の点から有機粒子、なかでも架橋型有機粒子、特にポリジビニルベンゼン粒子が好ましい。ポリジビニルベンゼン粒子とは、架橋成分としてジビニルベンゼンを主体とするものをいう。・・・他の成分としては、特に限定されないが、例えばエチルビニルベンゼン、ジエチルベンゼン等の架橋しない成分があげられる。また、シリコーン粒子も好ましく例示される。・・・その他粒子として、結晶形がα型、γ型、δ型、θ型、η型のアルミナ、ジルコニア、シリカ、酸化チタン等の凝集粒子、または、炭酸カルシウム、コロイダルシリカ、酸化チタン等の単分散粒子もポリマ中での適切な粒子分散により用いることも可能である。これらの粒子を複数併用して用いてもよい。」(段落【0008】抜粋)
(E)
「A層以外のフィルム層、つまりB層等を構成するポリマ中に粒子を含有していてもかまわない。この場合、粒径は0.05〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.5μm、含有量は0.05〜1.0重量%である炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、酸化チタン、有機粒子等から選ばれる粒子を含有するのが好ましい。」(段落【0010】)
(F)
「本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムのフィルム厚みは、出力特性の点から7μm以下、好ましくは6μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。」(段落【0014】)
(G)
「本発明の磁気記録媒体用ポリエステルフィルムはデジタル磁気記録媒体用ポリエステルフィルムとして好ましく用いられる。さらに特に高出力が要求されるHDTV(ハイディフィニションテレビジョン、例えばNHKのハイビジョン等)用磁気記録媒体用ポリエステルフィルムとしても好ましく用いられる。」(段落【0016】)
(H)
「(1)粒子の平均粒径
フィルム断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、10万倍以上の倍率で観察する。TEMの切片厚さは約100nmとし、場所を変えて100視野以上測定する。粒子の平均径は重量平均径(等価円相当径)から求める。(2)粒子の含有量
ポリマは溶解し粒子は溶解させない溶媒を選択し、粒子をポリマから遠心分離し、粒子の全体重量に対する比率(重量%)をもって粒子含有量とする。場合によっては赤外分光法の併用も有効である。」(段落【0025】〜【0026】)
(I)
「(6)光線透過率
市販の分光光度計にて220〜730nmの波長におけるフィルムの光線透過率を測定した。フィルム厚みが10μmでない場合には、透過率とexp(フィルム厚み)が比例するとして、10μmの場合の透過率に換算した。」(段落【0032】)
(J)
「実施例1(表1)
粒子組成がジビニルベンゼン81%であるポリジビニルベンゼン粒子の水スラリーをベント式の2軸混練押出機を用いて直接PENに練り込み、PENの粒子ペレットを得た。
この粒子ペレットと実質的に粒子を含有しないPENポリマペレットを適当量混合し、180℃で8時間減圧乾燥(3Torr)した後、ポリマA:0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.6重量%、0.8μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.05重量%含有ポリマ、ポリマB:0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.1重量%含有ポリマをそれぞれ押出機1、押出機2に供給し290℃、295℃で溶融した。これらのポリマを高精度瀘過した後、矩形合流部にて2層積層とした(A/B)。
これを静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティング・ドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、口金スリット間隙/未延伸フィルム厚さの比を10とした。また、それぞれの押出機の吐出量を調節し総厚さ、およびA層の厚さを調節した。
この未延伸フィルムを温度145℃にて長手方向に4.5倍延伸した。この延伸は2組ずつのロ-ルの周速差で、4段階で行なった。この一軸延伸フィルムをテンターを用いて140℃で幅方向に4.0倍延伸した。さらに、テンターを用いて170℃で幅方向に1.55倍延伸した。このフィルムを定長下で210℃にて3秒間熱処理し、総厚さ4.5μm、A層厚さ0.4μmの二軸配向フィルムを得た。」(段落【0037】〜【0040】)
(K)
表1には、実施例1について、光線透過率は、550nmにおいて85%、250nmにおいて5%、ヤング率は縦方向600kg/mm2、横方向900kg/mm2と記載されている。(【表1】の抜粋)

(2)甲第2号証の記載事項
1)「3.実験の目的」として、特開平8-90648号公報、即ち上記甲第1号証の実施例1に記載された方法に従い追試実験を行い、特許第3359813号公報、即ち本件特許に係る特許公報に記載されている熱収縮率、突起分布曲線、ブツ及び縦シワの要件を満たす二軸配向ポリエステルフィルムが得られているか確認すること。
2)「4.実験の方法」として、特開平8-90648号公報の実施例1に記載された方法に従いポリエステルフィルムを作成したこと、及び実験方法の詳細。
3)「5.測定方法」として、「4.実験の方法」で得られたポリエステルフィルムを特許第3359813号公報記載の方法で測定したこと。
4)「6.実験結果」として、以下の4-a)〜4-e)であること。
4-a)フィルムの光線透過率を甲第1号証記載の方法により測定したところ、甲第1号証記載の実施例1と同一の結果になったこと(6.実験結果の(1)の項)。
4-b)フィルムを本件特許公報記載の方法で測定した結果、60℃×55%RHで72時間、無荷重下に保持したときの縦方向の熱収縮率は0.13%であったこと(6.実験結果の(2)の項)。
4-c)フィルムを本件特許公報記載の方法で測定した結果、ポリエステルA層の表面での総突起数は、1.7×104個/mm2であり、突起分布曲線は、図1のA面突起高さ分布のようになったこと。図1は、A面突起高さ分布を、横軸を突起高さ[nm]、縦軸を個数[個/mm2]として突起分布曲線により表しており、突起分布曲線は、2本の直線のうちの一方と交差し、他方とは交差せず、その突起高さの高い側は2本の直線の間に収まるようになっていること(6.実験結果の(2)の項及び図1を参照)。
4-d)フィルムを本件特許公報記載の方法で測定した結果、ポリエステルB層の表面での総突起数は、3.5×103個/mm2であり、突起分布曲線は、図1のB面突起高さ分布のようになったこと。図1は、B面突起高さ分布を、横軸を突起高さ[nm]、縦軸を個数[個/mm2]として突起分布曲線により表しており、突起分布曲線は直線と交差していないこと(6.実験結果の(2)の項及び図1を参照)。
4-e)フィルムを本件特許公報記載の方法で測定した結果、フィルムを300mm幅で、5000mロール状に10本巻いた時の2mmφ以上の大きなブツは0ケ/m、縦シワは0%であったこと(6.実験結果の(2)の項)。

(3)甲第3号証の記載事項
(L)
「【請求項1】 ポリエステルからなる基体フィルムの少なくとも片面に磁性層を有する磁気テープであって、該磁性層が2層以上の重層塗布型からなり、テープ縦方向と横方向のヤング率の差(横-縦)が200〜1500kg/mm2、体積記録密度が50μm3/bit以下であることを特徴とする磁気テープ。
【請求項2】 基体フィルムがポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレートからなる請求項1記載の磁気テープ。」(特許請求の範囲請求項1,2)
(M)
「しかし上記従来の磁気記録媒体、特に磁気記録媒体用フィルムでは積層厚みと含有粒子粒径の関係を規定してフィルム表面突起高さの均一化をはかり、磁気記録媒体としての電磁変換特性とベ-スフィルム表面の耐摩耗性が向上したが、さらなる高密度磁気記録媒体とした場合に、テープ化した後の縦方向および横方向の強度についてより高強度が求められるようになってきており、該用途においては出力特性が不足するという問題が生じてきている。本発明はかかる課題を解決し、特に出力特性に優れる磁気テープを提供することを目的とする。」(段落【0003】)
(N)
「本発明の磁気テープの基体フィルムのA層には、特に限定されないが出力特性の点から0.02〜1.0μm、好ましくは0.05〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.3μmの粒径の粒子を0.01〜3.0重量%、好ましくは0.02〜2.0重量%、さらに好ましくは0.1〜1.0重量%含有するのが好ましい。粒子としては特に限定されないが、出力特性の点から有機粒子、なかでも架橋型有機粒子、特にポリジビニルベンゼン粒子が好ましい。ポリジビニルベンゼン粒子とは、架橋成分としてジビニルベンゼンを主体とするものをいう。なかでもジビニルベンゼンが粒子成分の51%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは75%以上のものが好ましい。他の成分としては、特に限定されないが、例えばエチルビニルベンゼン、ジエチルベンゼン等の架橋しない成分があげられる。また、シリコーン粒子も好ましく例示される。シリコーン粒子とは2次元的に架橋されたオルガノポリシロキサン(CH3 Si O3/2 )を主たる成分とするものが好ましい。その他粒子として、結晶形がα型、γ型、δ型、θ型、η型のアルミナ、ジルコニア、シリカ、チタン等の凝集粒子、または、炭酸カルシウム、コロイダルシリカ、チタン等もポリマ中での適切な粒子分散により用いることも可能である。これらの粒子を複数併用して用いてもよい。」(段落【0007】)
(O)
「実施例1(表1)
粒子組成がジビニルベンゼン81%であるポリジビニルベンゼン粒子の水スラリーをベント式の2軸混練押出機を用いて直接PENに練り込み、PENの粒子ペレットを得た。
この粒子ペレットと実質的に粒子を含有しないPENポリマペレットを適当量混合し、180℃で8時間減圧乾燥(3Torr)した後、ポリマA:0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子1.0重量%含有ポリマ、ポリマB:0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.1重量%含有ポリマをそれぞれ押出機1、押出機2に供給し290℃、295℃で溶融した。これらのポリマを高精度瀘過した後、矩形合流部にて2層積層とした(A/B)。」(段落【0037】【0038】)
(P)
「実施例2〜5、比較例1〜2(表1)
実施例1と同様にして、粒子の種類、粒径、含有量、積層厚み、フィルム強度等を変更した磁気テープを得た。表1に示すように本発明範囲の磁気テープは出力特性が良好であるが、そうでないものは出力特性が良好でないことがわかる。」(段落【0045】1〜6行))

(4)甲第4号証の記載事項
(Q)
「【請求項1】 粒子を含有する熱可塑性樹脂Aよりなる層(A層)を、熱可塑性樹脂Bよりなる層(B層)の少なくとも片面に積層してなる二軸配向熱可塑性樹脂フィルムであって、A層の厚さtと熱可塑性樹脂Aに含有される粒子の平均粒径dの比t/dが0.1〜5であり、A層表面に存在する突起のうち突起径が0.7μm以上2.6μm以下の突起数が100〜10000個/mm2 であり、さらに0.2μm以上0.7μm未満の径を有する突起数Sと、0.7μm以上2.6μm以下の径を有する突起数Lとの比L/Sが1/50〜1/10000であることを特徴とする二軸配向熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】 A層表面の総突起数が10万〜200万個/mm2であることを特徴とする請求項1記載の二軸配向熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】 熱可塑性樹脂Aが平均粒径の異なる少なくとも2種類の粒子を含有してなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の二軸配向熱可塑性樹脂フィルム。」(特許請求の範囲請求項1、2、4)
(R)
「【発明が解決しようとする課題】・・・従来の二軸配向熱可塑性樹脂フィルムは、例えば、磁気記録媒体用途においてはテープとしての高出力特性を得るために、フィルム表面はますます平坦になり、製膜時、スリット時、テープ製造時の巻取り工程でロール状に巻取る時に縦じわや巻ずれが発生するという欠点があった。また巻取り易くするためにフィルム表面を粗くすると、できたビデオテープ等をダビングする時の画質低下のために、ビデオテープにした時の画質、すなわち、S/N(シグナル/ノイズ比)も不十分という欠点があった。
本発明はかかる課題を解決し、特に高速巻取り時の縦じわ、巻ずれが起きない(以下巻特性に優れるという)、しかもダビング時の画質低下の少ない(以下耐ダビング性に優れるという)フィルムを提供することを目的とする。」(段落【0003】【0004】)
(S)
「本発明の熱可塑性樹脂A中には少なくとも2種類の粒子P(平均粒径の最も小さい粒子)、Q(平均粒径の最も大きい粒子)を含有することが望ましい。ただし、巻特性を良好とするために、多くとも5種類以下が望ましい。上記のフィルムを満足するには粒子Pは、アルミナ珪酸塩、1次粒子が凝集した状態のシリカ、内部析出粒子などは好ましくなく、コロイダルシリカに起因する実質的に球形のシリカ粒子、架橋有機粒子などである場合に巻特性、耐ダビング性がより一層良好となるので特に望ましい。」(段落【0008】第1〜10行)
(T)
「熱可塑性樹脂A中の粒子の平均粒径dは特に限定されないが0.02〜1.0μm、特に0.05〜0.8μmの範囲である場合に巻特性、耐ダビング性がより一層良好となるので望ましい。」(段落【0010】)
(U)
「さらに熱可塑性樹脂Aが結晶性ポリエステルであり、その表面の全反射ラマン結晶化指数が20cm-1 以下、好ましくは18cm-1 以下、さらに17cm-1 以下の場合に巻特性、耐ダビング性がより一層良好となるのできわめて望ましい。」(段落【0017】)
(V)
「本発明はA層表面に存在する突起径の分布を特定範囲とし、かつ、層の厚さと平均粒径の関係を特定範囲としたので、突起高さと数をコントロールでき、かつ、粒子の分散性を良くできた結果、本発明の効果が得られたものと推定される。」(段落【0037】)
(W)
「(10)巻特性
フィルムを幅1000mm,長さ18000mのロールに巻き上げ(速度300m/分)、この巻き上げロールの端面ずれ、縦皺の発生状態を詳細に検査し、次のとおり判定した。端面ずれ(幅方向のずれの距離)が0.5mm未満であり、縦皺が全くなく24時間以上放置後も縦皺等の欠点が全くないもの:優、ロール巻き上げ直後は端面ずれが0.5mm未満であり、縦皺が全くなかったが24時間以上放置後に目視で、かすかに縦皺がみられるもの:良、端面ずれが0.5mm以上であるか、ロール巻き上げ直後に、かすかに縦皺がみられるもの:不良。優が望ましいが、良でも実用的には使用可能である。」(段落【0052】)
(X)
段落【0067】の【表1】には、実施例1に、熱可塑性樹脂A層中の粒子Pの粒子種シリカ、粒径0.3μm、粒子Qの粒子種シリカ、粒径0.6μmであるものの巻特性が「優」、耐ダンピング性が「優」であることが、実施例3に、熱可塑性樹脂A層中の粒子Pの粒子種炭酸カルシウム、粒径0.3μm、粒子Qの粒子種シリカ、粒径0.6μmであるものの巻特性が「優」、耐ダンピング性が「良」であることが、実施例4に、熱可塑性樹脂A層中の粒子Pの粒子種シリカ、粒径0.3μm、粒子Qの粒子種架橋ポリジビニルベンゼン、粒径0.6μmであるものの巻特性が「優」、耐ダンピング性が「優」であることが、実施例8に、熱可塑性樹脂A層中の粒子Pの粒子種シリカ、粒径0.1μm、粒子Qの粒子種シリカ、粒径0.5μmであるものの巻特性が「優」、耐ダンピング性が「優」であることが記載されている。

4-2-3.対比・判断
4-2-3-1.本件訂正発明1についての判断
A)特許法第29条第1項第3号について
甲第1号証には、上記摘示(J)、(K)によれば、
「PENポリマから形成されたB層の片面に、滑剤を含有するPENポリマから形成されたA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、
(イ)フィルム全体の厚みが4.5μmであり、
(ロ)フィルムの、縦方向のヤング率は600kg/mm2、横方向のヤング率は900kg/mm2であって、両者の比(横/縦)は1.5である、高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム」
の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されていると認められる。
本件訂正発明1と甲第1号証発明とを対比すると、後者における2層積層されたPENの二軸配向フィルムは、前者における積層二軸配向ポリエステルフィルムに相当し、後者におけるポリジビニルベンゼン粒子は、前者における滑剤に相当し、後者におけるフィルム全体の厚みは4.5μmであって前者における2〜10μmの範囲内であり、後者における縦方向のヤング率は600kg/mm2、横方向のヤング率は900kg/mm2であって、前者における450〜2000kg/mm2の範囲内であり、後者における(横/縦)の比は1.5であって、前者における1.0〜3.0の範囲内であるから、両者は、
「ポリエステルB層の片面に、滑剤を含有するポリエステルA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、
(イ)フィルム全体の厚みが2〜10μmであり、
(ロ)フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ450〜2000kg/mm2で、両者の比(横/縦)が1.0〜3.0である、
高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム」
の点で一致し、
後者には、以下の(ハ)〜(ヘ)の点について明示されていないことで一応相違している。
(ハ)フィルムを60℃×55%RHで72時間、無加重下に保持したときの縦方向の熱収縮率が0.5%以下である点。
(ニ)ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YA:個/mm2)と突起高さ(HA:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差しない点。
(ホ)ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YB:個/mm2)と突起高さ(HB:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しない点。
(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる点。
log10YA=-0.15×HA+5 ……(1)
log10YA=-0.05×HA+5 ……(2)
log10YB=-0.15×HB+5 ……(3)

甲第1号証発明に明示されていない上記(ハ)〜(ヘ)の点に関し、申立人が提出した甲第2号証の実験報告書には、上記(ハ)に関して上記(2)の4-b)で摘示した実験の結果が記載されており、上記(ニ)に関して上記(2)の4-c)で摘示した実験の結果が記載されており、上記(ホ)に関して上記(2)の4-d)で摘示した実験の結果が記載されている。 そして、この実験の結果は、実施例1に記載された方法に従い追試した結果であって、上記摘示(K)に係る光線透過率について再現を確認している等、少なくとも実験結果において矛盾点は見当たらないものであるので、甲第1号証発明に係るものであると認められる。
よって、甲第1号証発明に係るフィルムは、本件訂正発明1の発明特定事項の内、(イ)〜(ホ)を有したものであると認められる。
しかし、本件訂正発明1は、「(へ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる」のに対して、甲第1号証発明には、ポリエステルフィルムA層中の滑剤については、摘示(D)に「0.01〜1.0μm、好ましくは0.02〜0.5μm、さらに好ましくは0.03〜0.3μm」とあり、また摘示(J)によれば、0.3μm径ポリジビニルベンゼン粒子0.6重量%、0.8μm径ポリジビニル粒子0.05重量%含有ポリマを使用することが開示されるにとどまり、本件訂正発明1の発明特定事項(ヘ)に相当する記載はなく、この点を相違点として有するものである。
そして、上記相違点は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明ではなく、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとはいえない。

B)特許法第29条第2項について
本件訂正発明1と甲第1号証発明とを対比すると、両者は、上記A)において検討したとおりの一致点(イ)ないし(ホ)、及び実質的な相違点である「(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる点。」(以下、相違点(へ)という。)を有するものである。
そこで、上記相違点(ヘ)について検討する。
甲第3号証には、上記摘示(L)(M)によれば、本件訂正発明1と同じく高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルムに関する事項が記載され、滑剤に相当するものとして上記摘示(N)(O)(P)によると、出力特性の点から粒径範囲を規定した粒子が記載されている。しかし、甲第3号証には、本件訂正発明1のように平均粒径0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIとを用いることの記載も示唆もないから、当業者が甲第3号証をみても、上記相違点(へ)について、容易になし得たものとはいえない。
甲第4号証には、上記摘示(Q)(R)(U)からみて磁気記録媒体用途の二軸配向熱可塑性樹脂フィルムに関する事項が記載され、上記摘示(S)(V)(X)によれば、ポリエステルA層には少なくとも2種類の粒子P(平均粒径の最も小さい粒子)、Q(平均粒径の最も大きい粒子)を含有することが望ましいとあり、平均粒径0.3μmの粒子と平均粒径が0.6μmの粒子とを併用した実施例も記載され、ポリエステルA層表面に存在する突起径の分布を特定範囲とすること等により、突起高さと数をコントロールして、巻特性と耐ダビング性が優れたフィルムを得られるとしている。
しかし、甲第4号証には、ポリエステルA層について本件訂正発明1の発明特定事項(ニ)に相当する記載はなく示唆もないものである。さらに、ポリエステルA層と積層するB層の表面について、本件訂正発明1の発明特定事項(ホ)に相当する記載はなく、そもそもB層表面の突起数や突起分布が磁気記録媒体の性能に影響すると認識していたとは認められない。
また、甲第1号証には、ポリエステルA層が含有する滑剤として、異なる平均粒径の粒子を組み合わせて使用することについて示唆する記載もなく、甲第4号証に磁気記録媒体用途の二軸配向熱可塑性樹脂フィルムにおいて、ポリエステルA層に上記相違点(へ)に記載された平均粒径の範囲の粒子を組み合わせて用いることが記載されているとしても、甲第1号証発明に対して、この平均粒径の範囲の粒子の組み合わせを適用する動機付けも見いだせないから、当業者が甲第4号証をみても、上記相違点(へ)について、容易になし得たものであるとはいえない。
そして、本件訂正発明1は、高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、ポリエスエテルA層及びB層について、それぞれ表面の総突起数、突起分布曲線をその発明特定事項(ニ)(ホ)のように規定し、これらを同時に満たすことで、はじめて優れた電磁変換特性、巻取り性、搬送性を達成することを見いだしたものであり、格別の効果を奏するものである。
したがって、本件訂正発明1は、当業者が甲第1ないし4号証に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

C)本件訂正発明1についてのまとめ
以上みてきたように、本件訂正発明1に係る特許は、特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
また、他に本件訂正発明1に係る特許が、独立して特許を受けることができないとする理由も発見しない。

4-2-3-2.本件訂正発明2ないし11についての判断
本件訂正発明2ないし11は、本件訂正発明1である請求項1を引用する形式で記載されているから、これらの発明は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらにそれぞれの請求項において発明特定事項を付加された発明である。
そして、上記4-2-3-1.にて検討したように本件訂正発明1は、特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件訂正発明2ないし11も、同様の理由により、独立して特許を受けることができない発明とすることはできない。
また、他に本件訂正発明1に係る特許が、独立して特許を受けることができないとする理由も発見しない。

4-2-4.独立特許要件についてのまとめ
上記4-2-3-1.及び4-2-3-2.にて検討したように、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許できるものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件審判請求は、特許法第126条第1項第1ないし3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3ないし5項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
積層二軸配向ポリエステルフィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ポリエステルB層の片面に、滑剤を含有するポリエステルA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、
(イ)フィルム全体の厚みが2〜10μmであり、
(ロ)フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ450〜2000kg/mm2で、両者の比(横/縦)が1.0〜3.0であり、
(ハ)フィルムを60℃×55%RHで72時間、無加重下に保持したときの縦方向の熱収縮率が0.5%以下であり、
(ニ)ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YA:個/mm2)と突起高さ(HA:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差せず、
(ホ)ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YB:個/mm2)と突起高さ(HB:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しないこと、そして
(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径が0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる
ことを特徴とする高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【数1】
log10YA=-0.15×HA+5 ・・・・・(1)
log10YA=-0.05×HA+5 ・・・・・(2)
log10YB=-0.15×HB+5 ・・・・・(3)
【請求項2】ポリエステルA層の厚みが0.2〜2μmである請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】ポリエステルA層が含有する滑剤が、耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子を少なくとも含んでいる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】ポリエステルB層が外部添加の不活性粒子を含まない請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】ポリエステルB層が耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子の滑剤を含んでいる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】ポリエステルフィルムをロール状に巻いたとき、ロール表面の1円周上での2mmφ以上の大きさのブツが10個/m以下であり、かつ縦シワの総幅がフィルム幅に対し30%以下である請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】ポリエステルA層および/又はポリエステルB層がポリエチレンテレフタレートからなる請求項1に記載の高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】ポリエステルA層および/又はポリエステルB層がポリエチレン-2,6-ナフタレートからなる請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項9】フィルムがデジタル記録型磁気記録媒体用である請求項1に記載の磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項10】請求項1に記載の積層二軸配向ポリエステルフィルムをベースとする高密度磁気記録媒体。
【請求項11】請求項9に記載の積層二軸配向ポリエステルフィルムをベースとするデジタル記録型磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は積層二軸配向ポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは、フィルムの巻取り性、ハンドリング性に優れ、かつ高密度磁気記録媒体、特にデジタル記録型磁気記録媒体のベースフィルムとして用いたときに優れた電磁変換特性を付与する積層二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレートフィルムに代表される二軸配向ポリエステルフィルムは、その優れた物理的、化学的特性の故に広い用途に、特に磁気記録媒体のベースフィルムとして用いられている。
【0003】
近年、磁気記録媒体においては、高密度化、高容量化が進められており、それに伴ってベースフィルムの平坦性、及び厚みの薄膜化が要望されている。しかしながら、優れた電磁変換特性を維持するために、ベースフィルムの表面を平坦化すると、滑り性が不足し、例えばロール状に巻き上げる場合にシワが入ったり、ブロッキングを起こし、フィルムロールの表面が凹凸になって製品の歩留りを下げたり、巻き上げる時の張力、接圧、速度の適性範囲が狭くなり、巻き上げることが非常に難しくなる。また、フィルム加工工程においても滑り性が悪いと接触する金属ロールとの摩擦が増加し、削れ粉が発生して磁気記録信号の欠落、即ちドロップアウトの原因になる。
【0004】
一般に、ポリエステルフィルムの滑り性の改良には、(i)原料ポリマー中にその製造過程で触媒残渣から不活性粒子を析出させる方法や、(ii)不活性粒子を添加する方法等によってフィルム表面に微細凹凸を付与する方法が採用されている。これらフィルム中の粒子は、その大きさが大きい程、また、その含有量が多い程、滑り性の改良が大きいのが一般的である。
【0005】
一方、前述のように、電磁変換特性向上の点よりベースフィルムの表面はできるだけ平坦であることが求められている。ベースフィルムの表面粗さが粗いと、磁気記録媒体に加工する場合、ベースフィルムの表面凹凸が磁性層形成後にも磁性層面に突き出し、電磁変換特性を悪化させる。この場合、ベースフィルム中の粒子の大きさが大きい程また、その含有量が多い程、表面の粗さが粗くなり、電磁変換特性は悪化する。
【0006】
この滑り性の改良と電磁変換特性の向上という相反する特性を両立させる手段として、積層フィルムにすることによって、磁性層を塗布する面は平坦にして電磁変換特性を改善し、反対面は粗面化して滑り性を向上させる手段が知られている。
【0007】
しかしながら、上記のような積層二軸配向ポリエステルフィルムを用い、磁性層を塗布する面の反対面(以下、粗面と称する)を粗化した場合でも、滑り性、耐削れ性の問題、さらにベース厚が薄いが故に、粗面側に添加する滑剤の量、種類、粒径によっては、磁性層を塗布する面にまで影響をおよぼし、平坦な面にうねり等を生じさせ、その平坦性を悪くするという問題を生じる。
【0008】
特に、最近の高密度磁気記録媒体では、磁性層の更なる平坦化が求められ、線圧の高いメタルカレンダーが使用される様になり、粗面側から、平坦面の突起の突き上げによる表面性への悪影響が大きくなってきている。
【0009】
粗面側からの、平坦面の突起の突き上げを少なくするためには、粗面側に含有させる滑剤の粒径を小さくする方法、あるいは粒径の大きいものを少し含有させる方法が提案されている。しかし、前者の場合には形成される突起の高さが低いが故に、十分なエアースクイズ性が得られず、また後者の場合には形成される突起頻度が少ないが故に十分なフィルムの滑り性が得られない。さらにフィルムをロール状に巻いたとき、前者の場合は縦シワが入り、また後者の場合はブツが発生し、十分な製品歩留りが得られない、という問題が生じている。
【0010】
また一方、電磁変換特性向上のため、磁性層面側のフィルム表面の更なる平坦化が求められる様になり、実質的に滑剤を含まない平坦層が提案されているが、この場合テープ加工時の平坦面側の搬送性が不良となり、その工程でシワが入り、製品歩留りが大きく低下するという新たな問題が生じている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、かかる問題を同時に解決するフィルムを開発すべく鋭意検討した結果、フィルムを積層二軸配向ポリエステルフィルムとし、かつ、走行面および磁性層面の表面突起数および突起分布を特定の範囲に特定することによって、高密度磁気記録媒体用ベースフィルムとして優れた電磁変換特性を有し、かつベースフィルムとしての巻取り性、搬送性にも優れた積層二軸配向ポリエステルフィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明はポリエステルB層の片面に、滑剤を含有するポリエステルA層を積層してなる積層二軸配向ポリエステルフィルムであって、
(イ)フィルム全体の厚みが2〜10μmであり、
(ロ)フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ450〜2000kg/mm2で、両者の比(横/縦)が1.0〜3.0であり、
(ハ)フィルムを60℃×55%RHで72時間、無加重下に保持したときの縦方向の熱収縮率が0.5%以下であり、
(ニ)ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YA:個/mm2)と突起高さ(HA:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差せず、
(ホ)ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YB:個/mm2)と突起高さ(HB:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しないこと、そして
(ヘ)ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径が0.2〜0.6μmの粒子Iと、粒子Iよりも平均粒径の小さい平均粒径が0.05〜0.3μmの粒子IIからなる
ことを特徴とする高密度磁気記録媒体用積層二軸配向ポリエステルフィルムである。
【0013】
【数2】
log10YA=-0.15×HA+5 ・・・・・(1)
log10YA=-0.05×HA+5 ・・・・・(2)
log10YB=-0.15×HB+5 ・・・・・(3)
【0014】
本発明におけるポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とし、脂肪族グリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルである。このポリエステルは実質的に線状であり、そしてフィルム形成性特に溶融成形によるフィルム形成性を有する。芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、アンスラセンジカルボン酸等を挙げることができる。脂肪族グリコールとしては、例えばエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール等の如き炭素数2〜10のポリメチレングリコールあるいは1,4-シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等を挙げることができる。
【0015】
本発明においては、ポリエステルとしてはアルキレンテレフタレートおよび/又はアルキレン-2,6-ナフタレートを主たる構成成分とするものが好ましい。
【0016】
これらポリエステルのうちでも特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレートはもちろんのこと、例えば全ジカルボン酸成分の80モル%以上がテレフタル酸および/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸であり、全グリコール成分の80モル%以上がエチレングリコールである共重合体が好ましい。その際全酸成分の20モル%以下はテレフタル酸および/又は2,6-ナフタレンジカルボン酸以外の上記芳香族ジカルボン酸であることができ、また例えばアジピン酸、セバチン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等であることができる。また全グリコール成分の20モル%以下はエチレングリコール以外の上記グリコールであることができ、また例えばハイドロキノン、レゾルシン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の如き芳香族ジオール;1,4-ジヒドロキシジメチルベンゼンの如き芳香環を有する脂肪族ジオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の如きポリアルキレングリコール(ポリオキシアルキレングリコール)等であることもできる。
【0017】
また、本発明におけるポリエステルには、例えばヒドロキシ安息香酸の如き芳香族オキシ酸、ω-ヒドロキシカプロン酸の如き脂肪族オキシ酸等のオキシカルボン酸に由来する成分を、ジカルボン酸成分及びオキシカルボン酸成分の総量に対し20モル%以下で共重合あるいは結合するものも包含される。
【0018】
さらに本発明におけるポリエステルには、実質的に線状である範囲の量、例えば全酸成分に対し2モル%以下の量で、3官能以上のポリカルボン酸又はポリヒドロキシ化合物、例えばトリメリット酸、ペンタエリスリトール等を共重合したものも包含される。
【0019】
上記ポリエステルは、それ自体公知であり、かつそれ自体公知の方法で製造することができる。上記ポリエステルとしては、o-クロロフェノール中の溶液として35℃で測定して求めた固有粘度が0.4〜0.9のものが好ましく、0.5〜0.7のものがさらに好ましく、0.55〜0.65のものが特に好ましい。
【0020】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルA層とポリエステルB層の2層より構成される。2層のポリエステルは同じものでも違ったものでもよいが、同じものが好ましい。
【0021】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムは、全体の厚みが2〜10μmである。好ましくは3〜7μm、さらに好ましくは4〜6μmである。この厚みが10μmを超えるとテープ厚みが厚くなり、例えばカセットに入れるテープ長さが短くなり、十分な磁気記録容量が得られない。一方、2μm未満ではフィルム厚みが薄いが故に、フィルム製膜時にフィルム破断が多発し、またフィルムの巻取り性が不良となり、良好なフィルムロールが得られない。また平坦層の厚みが薄くなり、粗面側からの平坦面への表面性の影響が大きくなり、満足し得る平坦面の表面性も得られなくなる。
【0022】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムの縦方向および横方向のヤング率は、それぞれ450〜2000kg/mm2で、かつ両者の比(横/縦)が1.0〜3.0である。この縦方向および横方向のヤング率は、好ましくは500〜1500kg/mm2、さらに好ましくは500〜1300kg/mm2であり、また両者の比(横/縦)は好ましくは1.0〜2.5、さらに好ましくは1.0〜2.2である。
【0023】
縦方向のヤング率が450kg/mm2未満であると、磁気テープの縦強度が弱くなり、記録・再生時縦方向に強い力がかかると、容易に破断してしまう。また横方向のヤング率が450kg/mm2未満であると、磁気テープの横強度が弱くなり、該テープと磁気ヘッドとの当たりが弱くなり、満足し得る電磁変換特性が得られない。一方、縦方向あるいは横方向のヤング率が2000kg/mm2を超えると、フィルム製膜時、延伸倍率が高くなり、フィルム破断が多発し、製品歩留りが著しく悪くなる。
【0024】
横ヤング率と縦ヤング率の比(横/縦)が1.0未満であると十分な磁気テープの横強度が得られず、該テープと磁気ヘッドとの当たりが弱くなり、満足し得る電磁変換特性が得られない。一方横ヤング率と縦ヤング率の比(横/縦)が3.0を超えると、十分な磁気テープの縦強度が得られなくなり、記録・再生時縦方向に強い力がかかるとテープ切断が多発する。
【0025】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムの60℃×55%RH×72hr、無荷重下保持したときの縦方向の熱収縮率は0.5%以下である。好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは0.15%以下である。縦方向の熱収縮率が0.5%を超えると、磁気テープ加工時、該テープの熱収縮率を小さくするためのエージング処理がむずかしくなり、コストアップにつながるばかりでなく、満足し得る熱収縮率が得られず、磁気テープを記録して高温高湿条件下で保管した後、再生した時、該テープの縮みでトラックずれが生じ、満足し得る電磁変換特性が得られなくなる。
【0026】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムは、さらに、ポリエステルA層の表面での総突起数が1.4×104個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YA:個/mm2)と突起高さ(HA:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(1)の直線と交差し、下記式(2)の直線と交差しない特性を有する。
【0027】
【数3】
log10YA=-0.15×HA+5 ・・・・・・(1)
log10YA=-0.05×HA+5 ・・・・・・(2)
【0028】
この突起分布曲線は、上記式(1)の直線と交差する代りに、下記式(1-1)の直線と交差し、特に下記式(1-2)の直線と交差するのが好ましい。
【0029】
【数4】
log10YA=-0.12×HA+5 ・・・・・・(1-1)
log10YA=-0.10×HA+5 ・・・・・・(1-2)
【0030】
ポリエステルA層の表面の総突起数が1.4×104個/cm2未満であると、フィルムをロール状に巻いたとき、フィルム間の滑りが悪くなり、ブツが多発し、製品歩留りが大きく低下する。また、ポリエステルA層の突起分布曲線が上記式(1)の直線と交差しないと、高突起成分が少なくなり、十分なエアースクイズ性が得られなくなり、フィルムをロール状に巻いたとき、縦シワ発生の原因となり、製品歩留りが大きく低下する。また、この突起分布曲線が上記式(2)の直線と交差すると、高突起成分が多くなり、粗面側からの平坦面の突起の突き上げがテープ加工工程、特にメタルカレンダー工程等で大きくなり、平坦面の表面を粗してしまい十分な電気変換特性が得られなくなる。
【0031】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムは、さらに、ポリエステルB層の表面での総突起数が1.4×102個/mm2以上で、突起数が30個/mm2以上の領域で求めた突起数(YB:個/mm2)と突起高さ(HB:nm)との関係を表す突起分布曲線が下記式(3)の直線と交差しない特性を有する。
【0032】
【数5】
log10YB=-0.15×HB+5 ・・・・・・(3)
【0033】
ポリエステルB層の表面の総突起数が1.4×102個/mm2未満であると、テープ加工時、フィルム平坦面とパスロール、また未塗布端部のフィルム平坦面とカレンダーロール間での滑りが悪くなり、搬送性不良に基づくシワが発生し、テープ加工時の製品不留りを大きく低下させる。また、ポリエステルB層の突起分布曲線が上記式(3)の直線と交差すると、表面の高突起成分が多くなり、磁性層を設けたとき磁性層面が粗れ、十分な電磁変換特性が得られなくなる。
【0034】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムロールに巻いたとき、例えば外径が167mmφの巻芯にフィルムロール系(直径)が170〜500mmφになるように巻いたとき、2mmφ以上の大きさのブツの数がフィルムロール幅1m当り換算で、ロールの1円周上に10ケ以下、さらには5ケ以下、特に2ケ以下であることが好ましい。2mmφ以上の大きさのブツが10ケより多くなると、テープ化したとき磁性層表面に突起あるいは凹の発生原因となり、ドロップアウトが多くなり、製品歩留りが大きく低下するので好ましくない。
【0035】
また、縦シワの総幅はフィルム幅に対し30%以下であることが好ましい。さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下である。この縦シワの総幅の割合が30%を超えると、磁性層塗布時、縦スジ状の凹凸発生原因となり電磁変換特性が悪化し、製品歩留りが大きく低下するので好ましくない。
【0036】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルA層が含有する滑剤が、平均粒径の異なる少なくとも2種以上の不活性粒子からなることが好ましい。さらに好ましくは電磁変換特性を悪化させない範囲で中粒子を少量添加し、かつ滑り性を付与するため小粒子を該中粒子より多く添加した系がさらに好ましい。すなわち、小粒子の単成分系では十分なエアースクイズ性が得られ難い。また中〜大粒子の単成分系では添加量が多くなると、電磁変換特性が悪化し、また少ないとフィルムの滑り性が悪くなり、両者を両立させることがむずかしくなるので好ましくない。
【0037】
上記ポリエステルA層に含まれる滑剤のうち、粒子I(大〜中粒子)の平均粒径は0.2〜1.0μm、さらに0.3〜0.8μm、特に0.4〜0.6μmであることが好ましい。また粒子II(小粒子)の平均粒径は粒子Iの平均粒径より小さくかつ0.05〜0.3μm、さらに0.1〜0.2μm、特に0.1〜0.15μmであることが好ましい。そして、粒子Iの含有量は0.005〜0.2重量%、さらに0.01〜0.1重量%、特に0.01〜0.05重量%であることが好ましい。また粒子IIの含有量は0.15〜1.0重量%、さらに0.2〜0.5重量%、特に0.25〜0.3重量%であることが好ましい。
【0038】
上記ポリエステルA層に含有される滑剤は、耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子を少なくとも一種含んだものがより好ましい。さらには、中粒子は耐熱性高分子粒子、小粒子は球状シリカ粒子とするのが好ましい。
【0039】
この耐熱性高分子粒子を中粒子として用いると、該粒子が無機粒子に比べ軟かい故に、例えばカレンダー工程での平坦層への突起の突き出しの影響が少なくなる。また小粒子に球状シリカ粒子を用いることにより、ポリエステルとの親和性の良い比較的揃った突起が形成され、フィルムの滑り性、耐削れ性が良くなる。
【0040】
上記耐熱性高分子粒子としては、例えば架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等があげられる。この中でも架橋ポリスチレン樹脂粒子や架橋シリコーン樹脂粒子を用いると、本発明の効果がより一層顕著となるので好ましい。
【0041】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルB層の表面特性を該B層中に外部から不活性粒子(滑剤)を添加することなく、粗面側(A層側)からの突起の突き上げで形成される小突起で調整するのが好ましいが、耐熱性高分子粒子および/又は球状シリカ粒子を、電磁変換特性を悪化させない範囲で、B層中に添加して調整しても良い。特に耐熱性高分子粒子や球状シリカ粒子は粒子の大きさの均一性、分散性に優れ、均一な小突起を形成させる上で好ましい。
【0042】
上記ポリエステルB層に不活性粒子を添加する場合、該不活性粒子(粒子III)の平均粒径は0.05〜0.3μm、さらに0.1〜0.2μm、特に0.1〜0.15μmであることが好ましい。そしてこの含有量は0.005〜0.2重量%、さらに0.01〜0.1重量%、特に0.01〜0.05重量%であることが好ましい。
【0043】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムのポリエステルA層の厚みは0.2〜2μmであることが好ましい。この厚みが0.2μm未満であると、ポリエステルA層の層形成がむずかしくなり、一方厚みが2μmを超えると粗面側からの平坦面への突起の突き上げが多くなり、平坦面が粗くなるので好ましくない。
【0044】
本発明におけるポリエステルA層および/又はポリエステルB層は、好ましくはポリエチレンテレフタレート又はポリエチレン-2,6-ナフタレートからなり、さらに好ましくはポリエチレン-2,6-ナフタレートからなる。
【0045】
特にフィルム全体の厚みが6μm以上の場合はポリエチレンテレフタレートからなっても良いが、6μm未満になるとヤング率をより高くできるポリエチレン-2,6-ナフタレートが好ましい。
【0046】
本発明における積層二軸配向ポリエステルフィルムは、従来から知られている、あるいは当業界に蓄積されている方法で製造することができる。例えば、先ず未配向積層フィルムを製造し、次いで該フィルムを二軸配向させることで得ることができる。この未配向積層フィルムは、従来から蓄積された積層フィルムの製造法で製造することができる。例えば、ポリエステルA層と、反対面を形成するポリエステルB層とを、ポリエステルの溶融状態又は冷却固化された状態で積層する方法を用いることができる。さらに具体的には、例えば共押出、エクストルージョンラミネート等の方法で製造できる。上述の方法で積層されたフィルムは、更に従来から蓄積された二軸配向フィルムの製造法に準じて行ない、二軸配向フィルムとすることができる。例えば、融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度でポリエステルを溶融・共押出して未延伸積層フィルムを得、該未延伸積層フィルムを一軸方向(縦方向又は横方向)に(Tg-10)〜(Tg+70)℃の温度(但し、Tg:ポリエステルのガラス転移温度)で2.5倍以上、好ましくは3倍以上の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向と直角方向にTg〜(Tg+70)℃の温度で2.5倍以上、好ましくは3倍以上の倍率で延伸するのが好ましい。さらに必要に応じて縦方向および/又は横方向に再度延伸してもよい。このようにして全延伸倍率は、面積延伸倍率として9倍以上が好ましく、12〜35倍がさらに好ましく、15〜30倍が特に好ましい。さらにまた、二軸配向フィルムは、(Tg+70)℃〜(Tm-10)℃の温度で熱固定することができ、例えば180〜250℃で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
【0047】
本発明の積層二軸配向ポリエステルフィルムは、優れた平坦性、滑り性、巻き取り性等を有し、高密度磁気記録媒体、特にデジタル記録型磁気記録媒体のベースフィルムが好ましく用いられる。
【0048】
本発明の積層二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステルB層の表面に、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の方法により、鉄、コバルト、クロム又はこれらを主成分とする合金もしくは酸化物より成る強磁性金属薄膜層を形成し、またその表面に、目的、用途、必要に応じてダイアモンドライクカーボン(DLC)等の保護層、含フッ素カルボン酸系潤滑層を順次設け、更にポリエステルA層側の表面に公知のバックコート層を設けることにより、特に短波超長領域の出力、S/N,C/N等の電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用蒸着型磁気記録媒体とすることができる。この蒸着型電磁記録媒体は、アナログ信号記録用Hi8、ディジタル信号記録用ディジタルビデオカセットレコーダー(DVC)、データ8ミリ、DDSIV用テープ媒体として極めて有用である。
【0049】
本発明の積層二軸配向ポリエステルフィルムは、また、ポリエステルB層の表面に、鉄又は鉄を主成分とする針状微細磁性粉をポリ塩化ビニール、塩化ビニール・酢酸ビニール共重合体等のバインダーに均一分散し、磁性層厚みが1μm以下、好ましくは0.1〜1μmとなるように塗布し、特に短波長領域での出力、S/N,C/N等の電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用メタル塗布型磁気記録媒体とすることができる。また、必要に応じて該メタル粉含有磁性層の下地層として微細な酸化チタン粒子等を含有する非磁性層を磁性層と同様の有機バインダー中に分散し、塗設することもできる。このメタル塗布型磁気記録媒体は、アナログ信号記録用8ミリビデオ、Hi8、βカムSP、W-VHS、ディジタル信号記録用ディジタルビデオカセットコーダー(DVC)、データ8ミリ、DDSIV、ディジタルβカム、D2、D3、SX等用テープ媒体として極めて有用である。
【0050】
本発明の積層二軸配向ポリエステルフィルムは、また、ポリエステルB層の表面に、酸化鉄又は酸化クロム等の針状微細磁性粉、又はバリウムフェライト等の板状微細磁性粉をポリ塩化ビニール、塩化ビニール・酢酸ビニール共重合体等のバインダーに均一分散し、磁性層厚みが1μm以下、好ましくは0.1〜1μmとなるように塗布し、特に短波長領域での出力、S/N,C/N等の電磁変換特性に優れ、ドロップアウト、エラーレートの少ない高密度記録用塗布型磁気記録媒体とすることができる。また、必要に応じてB層の上に、該メタル粉含有磁性層の下地層として微細な酸化チタン粒子等を含有する非磁性層を磁性層と同様の有機バインダー中に分散、塗設することもできる。この酸化物塗布型磁気記録媒体は、ディジタル信号記録用データストリーマー用QIC等の高密度酸化物塗布型磁気記録媒体として有用である。
【0051】
上述のW-VHSはアナログのHDTV信号記録用VTRであり、またDVCはディジタルのHDTV信号記録用として適用可能なものであり、本発明のフイルムはこれらHDTV対応VTR用磁気記録媒体に極めて有用なベースフイルムと言うことができる。
【0052】
なお、本発明における種々の物性値及び特性は、以下の如く測定されたものである。
【0053】
(1)粒子の平均粒径(DP)
島津製作所製CP-50型セントリフュグル パーティクル サイズ アナライザー(Centrifugal Particle Size Analyzer)を用いて測定する。得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径を読み取り、この値を上記平均粒径とする(Book「粒度測定技術」日刊工業新聞社発行、1975年、頁242〜247参照)。
【0054】
(2)層厚み
2次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、表層から深さ3000nm迄の範囲のフイルム中の粒子の内もっとも高濃度の粒子に起因する元素とポリエステルの炭素元素の濃度比(M+/C+)を粒子濃度とし、表面から深さ3000nmまで厚さ方向の分析を行なう。表層では表面という界面のために粒子濃度は低く表面から遠ざかるにつれて粒子濃度は高くなる。そして一旦極大値となった粒子濃度がまた減少し始める。この濃度分布曲線をもとに表層粒子濃度が極大値の1/2となる深さ(この深さは極大値となる深さよりも深い)を求め、これを表層厚さとする。
【0055】
条件は次の通りである。
▲1▼測定装置
2次イオン質量分析装置(SIMS)
▲2▼測定条件
1次イオン種:O2 +
1次イオン加速電圧:12KV
1次イオン電流:200nA
ラスター領域:400μm□
分析領域:ゲート30%
測定真空度:6.0×10-3Torr
E-GUN:0.5KV-3.0A
【0056】
なお、表層から深さ3000nm迄の範囲にもっとも多く含有する粒子が有機高分子粒子の場合はSlMSでは測定が難しいので、表面からエッチングしながらXPS(X線光電子分光法)、IR(赤外分光法)などで上記同様のデブスプロファイルを測定し表層厚さを求めてもよい。
【0057】
(3)ヤング率
フィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mmにして、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件でインストロンタイプの万能引張試験装置にて引張る。得られる荷重-伸び曲線の立上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0058】
(4)熱収縮率
温度60℃、相対湿度55%RHに設定された恒温恒湿室の中にあらかじめ正確な長さを測定した長さ約30cm、幅1cmのフィルムを無荷重で入れ、72hr保持処理した後取出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L0)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、次式で熱収縮率を求める。
【0059】
【数6】

【0060】
(5)総突起数および突起分布
WYKO社製非接触式三次元粗さ計(TOPO-3D)を用いて測定倍率40倍、測定面積242μm×239μm(0.058mm2)の条件にて、少なくともn=10以上で測定を行ない、同粗さ計に内蔵され表面突起解析ソフトにより、各突起高さHi(μm)における、同高さ以上の1mm2当たりの平均突起個数を求め、Yi(ケ/mm2)とし、累積突起分布曲線を求める。
【0061】
また総突起数は累積突起分布曲線が飽和したところ最大突起数Ymax(ケ/mm2)を総突起数とする(図1、2参照)。
【0062】
(6)巻取り性
フィルムを300mm幅で、5000mロール状に巻いたときの2mmφ以上の大きさのブツの発生個数(図3参照)および縦シワの発生状況(図4参照)を測定し、ブツの個数については製品幅1m当りに比例換算する。なお評価は10本以上巻いた時の1本当りの平均値を求め、下記のように評価する。
(A)ブツ
◎:0〜2ケ/m
○:3〜5ケ/m
△:6〜10ケ/m
×:11ケ/m以上
(B)縦シワ
◎:0〜10%未満
○:10〜20%未満
△:20〜30%未満
×:30%以上
【0063】
(7)フィルム厚み
ゴミが入らないようにフィルムを10枚重ね、打点式電子マイクロメータにて厚みを測定し、1枚当りのフィルム厚みを計算する。
【0064】
(8)搬送性
磁性層塗布工程あるいはカレンダー工程でのフィルム平坦性と金属ロールとのすべり性不良による工程シワの発生を下記のように判定する。
◎:シワの発生が全くなし
○:シワの発生は少しあるが工程上問題なし
△:シワの発生はあるが工程上、使いこなせる
×:シワの発生が、強く使いこなせない
【0065】
(9)電磁変換特性
下記市販の機器を用いて、周波数7.4MHZの信号を記録し、その再生信号の6.4MHZと7.4MHZの値の比をそのテープのC/Nとし、比較例1のC/NをOdBとし、相対値で表す。
◎:+3dB以上
○:+1〜+3dB
×:+1dB未満
[使用機器]
8mmビデオレコーダー:ソニー(株)製EDV-6000C/N測定:シバソク(株)製ノイズメータ
【0066】
【実施例】
以下、実施例をあげて本発明をさらに説明する。
【0067】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
ジメチル-2,6-ナフタレートとエチレングリコールとを、エステル交換触媒として酢酸マンガンを、重合触媒として三酸化アンチモンを、安定剤として亜燐酸を、更に滑剤として表1に示す添加粒子を添加して常法により重合し、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.61のA層用及びB層用ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)を得た。
【0068】
これらポリエチレン-2,6-ナフタレートのペレットを170℃で6時間乾燥後、2台の押出機ホッパーに供給し、溶融温度280〜300℃で溶融し、マルチマニホールド型共押出ダイを用いてB層の片側にA層を、二軸積層フィルムで表1に示すような層厚み構成になるよう積層させ、表面仕上げ0.3S程度、表面温度60℃の回転冷却ドラム上に押出し、厚み105μmの積層未延伸フイルムを得た。
【0069】
このようにして得られた積層未延伸フイルムを120℃に予熱し、更に低速、高速のロール間で15mm上方より900℃の表面温度のIRヒーターにて加熱して4.0倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、145℃にて横方向に5.0倍に延伸した。得られた二軸延伸フイルムを210℃の熱風で4秒間熱固定し、厚み5.2μmの積層二軸配向ポリエステルフイルムを得た。これらのフイルムのヤング率は縦方向600kg/mm2、横方向900kg/mm2であった。
【0070】
なお、磁気テープの製造法は次のとおり行なった。下記に示す組成物をボールミルに入れ、16時間混練、分散した後、イソシアネート化合物(バイエル社製のデスモジュールL)5重量部を加え、1時間高速剪断分散して磁性塗料とする。
【0071】
磁性塗料の組成:
針状Fe粒子 100重量部
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(積水化学製エスレック7A) 15重量部
熱可塑性ポリウレタン樹脂 5重量部
酸化クロム 5重量部
カーボンブラック 5重量部
レシチン 2重量部
脂肪酸エステル 1重量部
トルエン 50重量部
メチルエチルケトン 50重量部
シクロヘキサノン 50重量部
【0072】
この磁性塗料を二軸配向積層ポリエステルフィルムの片面(B層)に、塗布厚0.5μmとなるように塗布し、次いで2500ガウスの直流磁場中で配向処理を行ない、100℃で加熱乾燥後、スパーカレンダー処理(線圧300kg/cm、温度80℃)を行ない、巻き取った。この巻き取ったロールを55℃のオーブン中に3日間保持した後、8mm巾に裁断して磁気テープを得た。
【0073】
[実施例5、比較例4]
表1に示す添加粒子をポリエステルA層およびポリエステルB層に添加し、またフィルムのヤング率が縦方向550kg/mm2、横方向1200kg/mm2になるように縦方向および横方向の延伸倍率を変える以外は実施例1と同じように行って、積層二軸配向ポリエステルフィルムを得、その後実施例1と同様な方法にて磁気テープを得た。
【0074】
[実施例6、比較例5]
表1に示す粒子を使用し、ジメチル-2,6-ナフタレートの代りにジメチルテレフタレートを使用した以外は実施例1と同様の方法でポリエステルA層、B層用のポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。
【0075】
これらポリエチレンテレフタレートのペレットを170℃で3時間乾燥後、実施例1と同様にして未延伸積層フィルムを得た。(但し、回転冷却ドラムの表面温度を20℃とした。)
【0076】
このようにして得られた未延伸積層フィルムを78℃にて予熱し、更に低速、高速のロール間で15mm上方より850℃の表面温度のIRヒーターにて加熱して2.3倍に延伸し、急冷し、続いてステンターに供給し、110℃にて横方向に3.6倍に延伸した。さらに引き続いて、110℃にて予熱し、低速・高速のロール間で2.0倍に縦方向に延伸し、更にステンターに供給し、90℃にて横方向に1.5倍延伸し、得られた二軸延伸フィルムを220℃の熱風で4秒間熱固定し、二軸配向積層ポリエステルフィルムを得た。
【0077】
その後、実施例1と同様な方法にて、磁気テープを得た。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から明らかなように、本発明によるものは、優れた電磁変換特性を示しつつ、優れた巻取り性、搬送性の特性を有している。
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、優れた電磁変換特性を有し、かつ優れた巻取り性、搬送性等の特性を有した積層二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができる。このポリエステルフィルムは、磁気記録媒体のベースフィルムとして、特に1/2インチビデオテープ、8mmビデオテープ、データカートリッジテープ、デジタル方式のビデオテープ等の磁気テープのベースフィルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
積層二軸配向ポリエステルフィルムのA層表面の突起分布を示すグラフである。
【図2】
積層二軸配向ポリエステルフィルムのB層表面の突起分布を示すグラフである。
【図3】
フィルムをロール状に巻いたときのブツの発生状況を模式的に示す説明図である。
【図4】
フィルム縦シワの発生状況とこの比率を求める模式的説明図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-12-20 
出願番号 特願平8-94226
審決分類 P 1 41・ 851- Y (B32B)
P 1 41・ 852- Y (B32B)
P 1 41・ 856- Y (B32B)
P 1 41・ 853- Y (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 芦原 ゆりか  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 澤村 茂実
石井 克彦
登録日 2002-10-11 
登録番号 特許第3359813号(P3359813)
発明の名称 積層二軸配向ポリエステルフィルム  
代理人 三原 秀子  
代理人 三原 秀子  

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