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審決分類 審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する G02B
管理番号 1131622
審判番号 訂正2005-39206  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-03-04 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-11-11 
確定日 2006-01-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3327410号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3327410号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
本件特許3327410号は、平成4年8月10日に特許出願され、平成14年7月12日に特許権の設定登録がなされ、その後、異議申立が平成15年3月20日に古川佳靖から、同年3月24日に尾崎聡美からなされ、平成17年6月24日付で特許を取り消すとの異議の決定がなされたところ、平成17年8月16日に該異議の決定を取り消す旨の訴え(平成17年(行ケ)第10637号)が知的財産高等裁判所に提起され、提起があった日から90日以内である平成17年11月11日に、本件訂正審判が請求されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正事項
1)訂正事項a
特許明細書における特許請求の範囲の請求項1の「8nm以下の位相差を示す」の記載を、「5nm以下の位相差を示す」と訂正する(訂正箇所に下線を付した)。

2)訂正事項b
特許明細書における特許請求の範囲の請求項3の「8nm以下の位相差を示す」の記載を、「5nm以下の位相差を示す」と訂正する(訂正箇所に下線を付した)。

3)訂正事項c
特許明細書における段落【0005】の「8nm以下の位相差を示す」の記載を、「5nm以下の位相差を示す」と訂正する(訂正箇所に下線を付した)。

4)訂正事項d
特許明細書における段落【0007】の「8nm以下の位相差を示す」の記載を、「5nm以下の位相差を示す」と訂正する(訂正箇所に下線を付した)。

5)訂正事項e
特許明細書における段落【0008】の「8nm以下の位相差を示す」の記載を、「5nm以下の位相差を示す」と訂正する(訂正箇所に下線を付した)。

6)訂正事項f
特許明細書における段落【0009】の「8nm以下の位相差を示す透明保護層において、好ましい位相差は5nm以下」、「かかる位相差が8nmを超える場合、」の記載を、「、透明保護層の好ましい位相差は5nm以下」、「かかる位相差が5nmを超える場合、」と訂正する(訂正箇所に下線を付した)。

7)訂正事項g
特許明細書における段落【0017】の「8nm以下の位相差を示す」の記載を、「5nm以下の位相差を示す」と訂正する(訂正箇所に下線を付した)。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)各訂正事項について
1)訂正事項a,bについて
訂正事項a,bは、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において示す位相差の範囲を「8nm以下」から「5nm以下」とするものであって、「特許請求の範囲の減縮」に該当する。そして、特許明細書の段落【0009】に、「好ましい位相差は5nm以下」と記載されており、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

2)訂正事項c乃至gについて
訂正事項c乃至gは、特許請求の範囲の記載と整合を図るため、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(2)むすび
したがって、本件審判請求に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮、または明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書に記載された事項の範囲内でなされたものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

2-3.独立特許要件の判断
(1)訂正発明
訂正請求された請求項に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のものである。(以下、「訂正発明1」〜「訂正発明3」という。)
【請求項1】 偏光フィルムの少なくとも片側に、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において5nm以下の位相差を示す厚さが20〜200μmの透明保護層を有してなり、可視光透過率が35%以上で、偏光度Pが式:P=√({Tp-Tc}/{Tp+Tc})≧0.990(ただし、Tpは平行透過率、Tcは直交透過率である。)を満足して、前記の位相差を示す透明保護層が液晶セルの外側に、かつそのセル側に位置するように用いるものであることを特徴とする偏光板。
【請求項2】 請求項1に記載の偏光板の片側に、少なくとも1枚の位相差フィルムを積層してなることを特徴とする偏光板。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の偏光板を、その自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において5nm以下の位相差を示す透明保護層を介して液晶セルの外側の少なくとも片側に配置してなることを特徴とする液晶表示装置。

(2)引用例
独立特許要件を判断するに当たり、本件特許に対する異議申立事件である2003-70727号において提示された以下の文献を引用例として検討する。

・引用例1(特許異議申立人古川佳靖(以下、「申立人古川」という。) 甲第1号証);「Japan Display ’89」、1989年、Society for Information Display and The Institute of Television Engineers of Japan共同発行、第682〜685頁
・引用例2(申立人古川 甲第2号証);「偏光フィルムの応用」、1986年2月10日、株式会社 シーエムシー発行、第35〜36頁及び第70〜73頁
・引用例3(申立人古川 甲第3号証);特開昭60-159704号公報
・引用例4(申立人古川 甲第4号証);特開平2-262616号公報
・引用例5(特許異議申立人 尾崎聡美(以下、「申立人尾崎」という。) 甲第1号証);特開平2-256003号公報
・引用例6(申立人尾崎 甲第2号証);特開平2-125202号公報
・引用例7(申立人尾崎 甲第3号証);特開平4-204803号公報
・引用例8(申立人尾崎 甲第4号証);「日東技報」第27巻第1号(1989年5月)第46〜53頁(表1の構成図により周知の技術事項を提示するもの)

<引用例の記載事項>
1)引用例1
ア.VHC(超高コントラスト)は視認性が良好で、そのコントラストは1000:1を超える。その他にも、色の角度依存性が小さいこと、スイッチング速度が速いこと、固定パターンの形成が容易なことなど、いくつかの利点がある。本報では、VHCセルのセルパラメータと光学的性質の関係、及び偏光板の重要な役割について報告する。これらのパラメータは、表面反射に起因する”ウォッシュ・アウト”を防止するため、パネルが斜めに配置されるときには、より厳密に最適化されなければならない。この場合、偏光板の保護フィルムが持つ光学的異方性も考慮しなければならない。(文献第682頁左欄第4,5段落)

イ.文献第683頁左欄表1には、VHCの主要部材の特性として、偏光板の偏光度が99.9%超で、透過率が40%(高いほどよい)である点が記載されている。

ウ.偏光板の保護フィルムの補償効果 ・・・図10に示すように、偏光板のシートは保護フィルムにラミネートされており、保護フィルムとしては、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが通常使用されている。上記の方向(θ=30°)におけるTACの位相差を測定すると、約6nmである。 これの2倍の値は、コントラスト比の極大値を与える条件下での液晶層の位相差と正確に合致しており、これら二つの位相差の符号は互いに異なっている。我々は、TACフィルムの残留位相差が液晶層の位相差に対する光学補償板として作用していることを見出した。
・・・
まとめ・・・技術的な観点からは、液晶層の位相差と偏光板の保護フィルムの位相差の補償効果が見出された。保護フィルムの位相差は数nmであるとはいえ、著しく高いコントラスト比を得るために考慮しなければならない事項である。(文献第685頁左欄第2、第4段落)

エ.文献第685頁左欄図10には、偏光板のシート(PVA)の両面に保護フィルム(TAC)がラミネートされ、一方の保護フィルムの外面には粘着剤が施され、文献第682頁左欄図1には、液晶の外側に偏光板を設けた点が記載されている。

したがって、引用例1には、「偏光板のシートの両側に、観察角度が30度において約6nmの位相差を示す透明保護フィルムを有してなり、光透過率が35%以上で、偏光度が99.9%超で、前記の位相差を示す透明保護層が液晶セルの外側に、かつそのセル側に位置するように用いるものであることを特徴とする偏光板。」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2)引用例2
オ.偏光子と位相子(1/4波長板)を一体化した円偏光フィルムが市販されていることが、「図2.4.9 円偏光子の応用」とともに記載されている。(文献第35頁)
・・・・
(2)保護層
偏光子の耐環境性の安定のために偏光子の両面に保護層として透明な高分子フィルムが貼合される。保護フィルムに要求される特性は、
1(丸付き数字) 透明率が高いこと、光の反射損失が小さいこと
2(丸付き数字) 環境変化に対し安定な物性を持つこと
3(丸付き数字) 欠点(異物、欠陥)がないこと
4(丸付き数字) 光学的に等方性であること
5(丸付き数字) 厚みムラによる光のゆるぎがないこと
があげられる。(文献第70頁)

カ.表4.2.4 MgF2による無反射処理効果(文献第70頁)には、無反射処理(蒸着処理)をしない場合と、した場合の透過率44.8%(46.0%(した場合))、及び偏光度が99.2%(99.5%(した場合))が記載されている。

キ.文献第72頁には、偏光フィルムが液晶セルの表裏両面に位置することが、図4.2.6と共に記載されている。

3)引用例3
ク.実施例3(公報第3頁左上欄)には、PVAフィルムに流延法により作成したリターデーション値がほぼ0で、厚みが60μmのポリメチルメタクリレートフィルムを貼り合わせて偏光板とした点が記載されている。

4)引用例4
ケ.実施例2(公報第7頁左上欄)には、ポリビニルアルコールヨウ素偏光素膜の両面にレターデーション値が2mμで、厚さが50μmのセルロース・トリアセテートフィルムに積層して偏光シートとした点が記載されている。

5)引用例5
コ.偏光板の保護フィルム等の光学フィルムとして用いる場合は概ね100nm以下の範囲でむしろ無配向であるものがよく(公報第2頁右下欄〜第3頁左上欄)

サ.実施例1 溶剤キャスト法により厚さ180μmで、第2図に示したように押出方向の連続的な厚み変化に正弦波状の厚み変動が現われない透明ポリカーボネートフィルム(加熱変形温度185°C)を作成した。該フィルムは、R(レターデーションの平均値)が400nm、△R(レターデーションの振れ幅)が6.8%で光学的に均質な光学フィルムであった。
実施例2 実施例1で得た光学フィルムを190°Cで10分間熱処理を行いR<10nmの光学的にほぼ無配向である光学フィルムを得た。(公報第6頁右上欄)

6)引用例6
シ.実施例の結果を表す第1表には、偏光フィルムの透過率(%)が、39.9〜40.7で、偏光度(%)が、99.1〜99.5である点が記載されている。

7)引用例7
ス.実施例の結果を表す第1表には、偏光板の単体透過率(%)が、41.1〜44.2で、偏光度(%)が、98.9〜99.7である点が記載されている。

8)引用例8
セ.第48頁表1の真ん中の図には、液晶表示パネルの片側の面に、偏光板の片側に位相差フィルムを積層したものが配置されている点が記載されている。

(3)引用発明との対比
上記認定事項から、引用発明の「偏光板のシートの両側に」は、本件訂正発明1の「偏光フィルムの少なくとも片側に」に相当し、以下同様に、「観察角度が30度」は「自平面に対する法線から30度の視角」に、「透明保護フィルム」は「透明保護層」に、「偏光度が99.9%超」は「偏光度Pが式:P=√({Tp-Tc}/{Tp+Tc})≧0.990(ただし、Tpは平行透過率、Tcは直交透過率である。)」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明、及び訂正発明1ともに、「自平面に対する法線から30度の視角に位相差を示す」点で共通する。

また、引用発明、及び訂正発明1ともに、透過光を人間が観察することを前提としているものであり、透過光が可視光であることは明らかであるので、引用発明の「光透過率が40%以上」は、本件発明1の「可視光透過率が35%以上」に相当する。

したがって、両者は、「偏光フィルムの少なくとも片側に、自平面に対する法線から30度の視角において位相差を示す透明保護層を有してなり、可視光透過率が35%以上で、偏光度Pが式:P=√({Tp-Tc}/{Tp+Tc})≧0.990(ただし、Tpは平行透過率、Tcは直交透過率である。)を満足して、前記の位相差を示す透明保護層が液晶セルの外側に、かつそのセル側に位置するように用いるものであることを特徴とする偏光板。」である点で一致し、以下の各点で相違する。

相違点1;視野範囲と位相差について、訂正発明1では、「30度以内の視角範囲において5nm以下」としているのに対し、引用発明では、「30度において約6nm」としている点。

相違点2;透明保護層の厚さが、訂正発明1では、「20〜200μm」であるのに対して、引用発明では、その点の記載がない点。

(4)当審の判断
以下、相違点について検討する。
相違点1について
引用例1の上記記載事項ウ.には、「30度において約6nm」の位相差を示す保護フィルムを用いた場合のコントラスト比について、「6nmの2倍の値は、コントラスト比の極大値を与える条件下での液晶層の位相差と正確に合致しており」と記載されているが、5nm以下の場合については言及がなく、また、「TACフィルムの残留位相差が液晶層の位相差に対する光学補償板として作用している」の記載から、必ずしも、「5nm以下」が好ましいと理解することもできない。

引用例2の上記記載事項オ.に「4(丸付き数字) 光学的に等方性であること」、引用例5の上記記載事項コ.に「むしろ無配向であるものがよく」と記載されているが、これらの記載だけでは、「30度以内の視角範囲において5nm以下」の構成が記載されているとはいえず、示唆されているともいえない。他の引用例にも、この点についての記載、乃至示唆はない。

したがって、訂正発明1と引用発明との相違点1にかかる構成については、引用例1〜8のいずれにも記載も、示唆もされておらず、また、そのような構成にしたことにより、明細書に記載された特有の効果を奏するものであり、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

よって、相違点2について検討するまでもなく、相違点1を含む訂正発明1は、引用例1〜8から容易といえるものではない。

(5)訂正発明2、3について
訂正発明2、3は、訂正発明1をさらに限定するものであり、訂正発明1で検討した理由と同様の理由で引用例1〜8から容易といえるものではない。

(6)まとめ
上記のとおり、訂正発明1〜3は、独立して特許を受けることができるものである。
また、他に独立して特許を受けることができない理由を発見しない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定により「なお従前の例による」とされる、改正前の特許法第126条第1ただし書、第2項及び3項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
偏光板及び液晶表示装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】偏光フィルムの少なくとも片側に、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において5nm以下の位相差を示す厚さが20〜200μmの透明保護層を有してなり、可視光透過率が35%以上で、偏光度Pが式:P=√({Tp-Tc}/{Tp+Tc})≧0.990(ただし、Tpは平行透過率、Tcは直交透過率である。)を満足して、前記の位相差を示す透明保護層が液晶セルの外側に、かつそのセル側に位置するように用いるものであることを特徴とする偏光板。
【請求項2】請求項1に記載の偏光板の片側に、少なくとも1枚の位相差フィルムを積層してなることを特徴とする偏光板。
【請求項3】請求項1又は2に記載の偏光板を、その自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において5nm以下の位相差を示す透明保護層を介して液晶セルの外側の少なくとも片側に配置してなることを特徴とする液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、偏光特性に優れる偏光板、及びそれを用いたコントラストに優れる液晶表示装置に関する。
【0002】
【発明の背景】TFT型や階調表示のFSTN型の如き高コントラストを実現した液晶表示装置に、そのコントラストを実質的に低下させることなく適用できる偏光板が求められている。偏光度が95%程度の従来の偏光板では(特開昭55-35325号公報、特開昭60-191204号公報)、コントラストの低下を招いてかかる高コントラストを充分に活かすことができない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従って本発明は、液晶セルの高コントラストを実質的に損なうことなく適用できる偏光板の開発を課題とする。本発明者らは前記課題を克服するため鋭意研究する中で、従来の偏光板における問題は、偏光フィルムと透明保護層との作業上避けることができない光軸のズレと、透明保護層の微小な光学異方性(複屈折等)に基づくことを究明した。
【0004】すなわち、水分の侵入防止等による耐久性の向上を目的として偏光フィルムには透明保護層が設けられ、その透明保護層は正面に基づく位相差で15〜20nmの微小な光学的異方性を示す程度であり、それを用いて偏光度が95%程度の偏光板としTN型等の液晶表示装置に適用してもコントラストの低下問題なく充分に実用できる。しかし、偏光度が99%以上の高精度な偏光フィルムに適用すると、かかる透明保護層の微小な光学的異方性が誘発する偏光の乱れが液晶表示装置のコントラストを大幅に低下させる原因となり、その偏光の乱れの防止ないし抑制には、透明保護層の光学的異方性を平面方向に厚さ方向を加えた三次元レベルで高度に制御する必要のあることを究明した。厚さ方向の光学特性は、斜めからの視点の場合に特に影響する。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、偏光フィルムの少なくとも片側に、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において5nm以下の位相差を示す厚さが20〜200μmの透明保護層を有してなり、可視光透過率が35%以上で、偏光度Pが式:P=√({Tp-Tc}/{Tp+Tc})≧0.990(ただし、Tpは平行透過率、Tcは直交透過率である。)を満足して、前記の位相差を示す透明保護層が液晶セルの外側に、かつそのセル側に位置するように用いるものであることを特徴とする偏光板、及びその偏光板の片側に少なくとも1枚の位相差フィルムを積層してなることを特徴とする偏光板、並びに前記の偏光板を当該位相差を示す透明保護層を介して液晶セルの外側の少なくとも片側に配置してなることを特徴とする液晶表示装置を提供するものである。
【0006】
【作用】前記の三次元レベルで光学特性を制御した透明保護層とすることにより、従来の接着積層技術を用いても偏光フィルムの偏光特性を高度に維持し、偏光度が99%以上の高精度な偏光板を得ることができる。またその偏光板を用いてコントラストの高さ、視野角の広さ、表示品位に優れる液晶表示装置を得ることができる。
【0007】
【実施例】本発明の偏光板は、偏光フィルムの少なくとも片側に、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において5nm以下の位相差を示す透明保護層を有するものである。その例を図1〜図3に示した。1,3が透明保護層、2が偏光フィルムである。
【0008】図1に例示の如く、透明保護層を偏光フィルム2の片側のみに設ける場合、その透明保護層1は自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において5nm以下の位相差を示すもので形成される。透明保護層を偏光フィルム2の両側に設ける場合、その両側の透明保護層は図2に例示の如く前記の位相差特性を示すもの1とすることもできるし、図3に例示の如くその一方3を前記位相差特性を示さないものとすることもできる。
【0009】自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において、透明保護層の好ましい位相差は5nm以下、就中3nm以下である。かかる位相差が5nmを超える場合、偏光フィルムの吸収軸と透明保護層の光軸とのズレにより偏光度が著しく低下する。なお前記の位相差は、波長550nmの光に基づく複屈折光のセナルモン法により求めた値による。自平面に対する法線から30度以内の視角範囲における位相差は、測定試料を傾斜配置して前記に準じ測定することができる。
【0010】前記の位相差特性を示す透明保護層の形成は、例えば偏光フィルムにポリマー溶液を塗工する方式や、キャスティング法等の光学歪が発生しにくい方式でフィルムを形成し、それを偏光フィルムに接着する方式などがあげられる。透明保護層の厚さは、20〜200μmとされる。
【0011】透明保護層の形成材としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性などに優れるものが好ましく用いうる。その代表例としては、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、アセテート系樹脂の如きポリマーなどがあげられる。なお位相差に特に制約がない透明保護層(3)については、一軸や二軸等で処理した延伸フィルムなどで形成することもできる。また防眩処理層、反射防止層、電磁波シールド層、帯電防止層、ハードコート層等の機能層を設けることもできる。
【0012】本発明においては、可視光透過率が35%以上、就中35〜48%で、偏光度が0.990以上、就中0.995以上の偏光フィルムが用いられる。偏光度Pは、式:P=√({Tp-Tc}/{Tp+Tc})(ただし、Tpは平行透過率:一対の偏光板の吸収軸を平行状態で合わせた場合の光線透過率、Tcは直交透過率:一対の偏光板の吸収軸を直交状態で合わせた場合の光線透過率である。)に基づいて算出される。
【0013】なお前記において、透過率(T)は、JIS Z 8701に基づいて、T=K∫S(λ)y(λ)τ(λ)dλで定義され、ここに、K=100/∫S(λ)y(λ)dλ、
S(λ):色の表示に用いる標準の光の分光分布、
y(λ):XYZ系における等色関数、
τ(λ):分光透過率
である。
【0014】偏光フィルムの材質については特に限定はない。一般には、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムの如き親水性高分子フィルムにヨウ素及び/又は二色性染料を吸着させて延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物の如きポリエン配向フィルムなどからなる偏光フィルムが用いられる。偏光フィルムの厚さは通例5〜80μmであるが、これに限定されない。
【0015】透明保護層の形成材としてキャスティングフィルムなどを用いる場合には、例えば透明な接着剤ないし粘着剤等により偏光フィルムと接着される。その接着剤等の種類については特に限定はないが、偏光フィルムや透明保護層の光学特性の変化防止の点より、硬化や乾燥の際に高温のプロセスを要しないものが好ましく、長時間の硬化処理や乾燥時間を要しないものが望ましい。
【0016】なお偏光板には、その偏光フィルムや透明保護層を紫外線吸収剤、例えばサリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等で処理する方式などにより紫外線吸収能をもたせることもできる。
【0017】本発明の偏光板は、可視光透過率が35%以上で、偏光度が0.990以上のものであり、例えばSTNセル、TFTセル、TNセル、FLCセル、SHセル等を用いた液晶表示装置に適用するものである。その場合、自平面に対する法線から30度以内の視角範囲において5nm以下の位相差を示す透明保護層側が視認側の反対側となるように、従って当該透明保護層側が液晶セル側となるように偏光板を図5〜7の例の如く液晶セル6の外側に配置することにより、高コントラストで視角特性に優れるものとすることができる。
【0018】なお液晶表示装置などにあっては複屈折等を補償するため位相差フィルムが配置される場合もあるがその場合、本発明においてはその位相差フィルムを必要に応じて予め偏光板と接着し、積層体として用いることもできる。図4に、偏光板4の片側に位相差フィルム5を積層してなるタイプの偏光板を例示した。位相差フィルムは、位相差等の光学特性を制御するため2種以上の位相差フィルムを積層することもでき、従って1枚又は2枚以上の位相差フィルムを積層することができる。
【0019】位相差フィルムとしては、熱可塑性ポリマー等からなるフィルムを一軸や二軸(完全二軸を含む)、さらにはそれ以上の多軸で延伸処理したもの、熱可塑性ポリマーをプレス法で面内配向させたもの、三次元方向の屈折率を制御したもの、液晶ポリマーを垂直ないし水平方向に配向させたものや捩じれ配向させたものなどの適宜なフィルムを用いることができる。
【0020】位相差フィルムを形成する液晶ポリマー以外の一般的なポリマーとしては、例えばポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アモルファスポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アセテート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂の如きポリマーなどがあげられるが、これらに限定するものでない。
【0021】本発明の液晶表示装置は、上記した偏光板を液晶セルの片側又は両側に配置したものである。かかる液晶表示装置を図5〜図7に例示した。4が偏光板、5が位相差フィルム、6が液晶セルである。図例より明らかな如く、偏光板や位相差フィルムは適宜な組合せで必要な枚数を液晶セルの片側又は両側に用いることができる。また液晶セルとしても、例えば表示用と補償用を組合せたものなど、2枚以上を用いることもできる。なお偏光板の吸収軸と位相差フィルムの光軸は、任意な交差角度、例えば0〜180度の範囲に設定してよい。
【0022】実施例1
トリアセチルセルロースの塩化メチレン溶液を、鏡面加工したステンレス板の上に均一塗布し、50℃で5分間予備乾燥させた後ステンレス板より剥離し、フィルムに応力がかからない状態にて150℃で10分間乾燥させて厚さ50μmの透明な保護フィルムを得た。次に、厚さ30μmのヨウ素・ポリビニルアルコール系偏光フィルムの両側に厚さ20μmのアクリル系粘着層を介して前記の保護フィルムをその光軸が偏光フィルムの吸収軸に対して45度となるように接着して偏光板を得た。
【0023】実施例2
実施例1に準じて、保護フィルムの光軸が偏光フィルムの吸収軸に対して0度となるように接着した偏光板を得た。
【0024】比較例1
保護フィルムとして、厚さ50μmの市販のトリアセチルセルロースフィルムを用いたほかは実施例1に準じて偏光板を得た。
【0025】比較例2
保護フィルムとして、厚さ50μmの市販のポリカーボネートフィルムを用いたほかは実施例1に準じて偏光板を得た。
【0026】比較例3
保護フィルムとして、厚さ80μmの市販のトリアセチルセルロースフィルムを用いたほかは実施例2に準じて偏光板を得た。
【0027】評価試験
実施例、比較例で得た保護フィルム又は偏光板について下記の特性を調べた。
【0028】位相差
保護フィルムに対してセナルモン法により波長550nmの光を垂直入射させた場合の位相差を測定し、それを正面位相差とした。一方、保護フィルムを自平面に対する法線が光線に対し30度の角度となるよう傾斜させた状態で前記に準じ位相差を測定した。この位相差については、保護フィルムをその光軸方向に対し0度又は90度の二方向に傾斜させた場合について測定し、その大きい値の方を30度位相差とした。
【0029】透過率、偏光度
偏光板について分光光度計により380〜700nmの領域において10nm毎に単体透過率(Ts)、平行透過率(Tp)、直交透過率(Tc)を求め、それより上記した式に基づいて偏光度Pを算出した。
【0030】前記の結果を表1に示した。なお表1には、保護フィルムを有しない偏光フィルムそのものについての特性をブランクとして示した。
【表1】

【0031】実施例2又は比較例3で得た偏光板の一対をその吸収軸が直交するように重ね合わせ、迎角(自平面の法線からの角度)60度、方位角(吸収軸からの角度)45度での分光透過率を測定して視角特性を調べた。その結果を図8に示した。
【0032】
【発明の効果】本発明によれば、透明保護層による偏光の乱れを防止できて偏光フィルムの偏光特性を高度に維持する高偏光度の偏光板を得ることができ、コントラストに優れて視角特性に優れる液晶表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】偏光板例の断面図。
【図2】他の偏光板例の断面図。
【図3】さらに他の偏光板例の断面図。
【図4】位相差フィルムを積層した偏光板例の断面図。
【図5】液晶表示装置例の断面図。
【図6】他の液晶表示装置例の断面図。
【図7】さらに他の液晶表示装置例の断面図。
【図8】視角特性を示したグラフ。
【符号の説明】
1,3:透明保護層 2:偏光フィルム 4:偏光板
5:位相差フィルム 6:液晶セル
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-12-16 
出願番号 特願平4-235415
審決分類 P 1 41・ 832- Y (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 末政 清滋
特許庁審判官 鹿股 俊雄
上野 信
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3327410号(P3327410)
発明の名称 偏光板及び液晶表示装置  
代理人 籾井 孝文  
代理人 籾井 孝文  

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