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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1131656
審判番号 不服2003-17065  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-11-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-04 
確定日 2006-02-15 
事件の表示 平成 8年特許願第112411号「インクジェット記録ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年11月18日出願公開、特開平 9-295402〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成8年5月7日の出願であって、平成15年8月4日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年9月4日付けで本件審判請求がされるとともに、同日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年9月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
本件補正は、【請求項1】及びこれと実質同文を記載した段落【0004】のみを補正するものであり、本件補正前後の【請求項1】の記載は次のとおりである(下線部が補正箇所。なお、段落【0004】の補正についても、補正内容は実質的に同一である。)
本件補正前の【請求項1】
「ノズルよりインクを吐出して記録を行うためのインクジェット記録ヘッドであって、
平面状に分布する大径ノズル群と、該大径ノズル群とは異なる領域に設けられた平面状に分布する小径ノズル群とを備え、
上記大径ノズル群および上記小径ノズル群は、それぞれ、直線状のノズル列を複数有し、
上記大径ノズル群と上記小径ノズル群とが異なる部材に形成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。」
本件補正後の【請求項1】
「ノズルよりインクを吐出して記録を行うためのインクジェット記録ヘッドであって、
第1の部材に形成され平面状に分布する大径ノズル群と、前記第1の部材とは異なる第2の部材に設けられ平面状に分布する小径ノズル群とを備え、
上記大径ノズル群および上記小径ノズル群は、それぞれ、直線状のノズル列を複数有したものであることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。」

本件補正前の【請求項1】においても、大径ノズル群と小径ノズル群とが異なる部材に形成されていることは限定されているから、本件補正は、大径ノズル群が形成された部材を「第1の部材」と、及び小径ノズル群が形成された部材を「第2の部材」とそれぞれ命名しただけである。これが、請求項削除(特許法17条の2第4項1号)、「特許請求の範囲の減縮」(同2号)又は「誤記の訂正」(同3号)のいずれにも該当しないことは明らかである。
また、本件補正前の【請求項1】において、大径ノズル群及び小径ノズル群が形成された部材に命名していないからといって、本件補正前の【請求項1】の記載が明りようでないとか、命名することによってより明りようになると認めることもできない。百歩譲って、部材を命名することでより明りようになると解する余地があるとしても、特許法17条の2第4項4号は、明りようでない記載の釈明を目的とする補正を無条件に認めているのではなく、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」としているところ、補正前請求項1の記載が明りようでない旨の拒絶理由は通知されていない。したがって、本件補正は特許法17条の2第4項4号規定の「明りようでない記載の釈明」を目的とするものと認めることもできない。
この点、請求人も「第3回手続補正(審決注;本件補正))においては請求項1の体裁上の補正を加えたに過ぎない。」(審判請求書2頁28〜29行)と述べており、体裁上の補正を加えることは、特許法17条の2第4項所定の補正目的を逸脱していることは明らかである。
以上のとおり、本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反しているから、特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年6月26日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるとおりのものであり、「第2[理由]」において「本件補正前の【請求項1】」として記載したものである。

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-58075号公報(以下「引用例」という。)には、次のア〜コの記載又は図示がある。
ア.「インクを吐出するためのインクジェットヘッドにおいて、
異なる種類のインクを吐出する複数の吐出口と、
該複数の吐出口の各々にそれぞれ連通し、インク吐出に利用されるエネルギーを作用させるためのエネルギー作用部と、
該エネルギー作用部に連通し、当該作用部に供給されるインクを前記異なる種類のインク毎に貯留する複数の液室と、
前記複数の吐出口から1回の吐出で吐出されるインク量を、異なる種類のインクに対応した吐出口ごとにそれぞれ異ならせる手段と、
を具え、前記複数の液室の体積は、それぞれインクの種類によって対応する吐出口の前記吐出インク量に応じて異なることを特徴とするインクジェットヘッド。」(【請求項1】)
イ.「前記手段は少なくとも前記複数の吐出口それぞれの面積を異ならせることによって構成されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド。」(【請求項2】)
ウ.「前記異なる種類のインクは、濃度によって当該種類を異ならせるものであり、前記吐出口の面積は、濃度が低いインクを吐出する吐出口程大きいことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッド。」(【請求項3】)
エ.「本発明は、・・・その目的とするところは濃,淡インクを吐出する構造を1つのヘッド内に有したインクジェットヘッドにおいて、それぞれのインクの特性やプリント画像設計に応じた良好なインクジェットヘッドおよびインクジェットプリント装置を提供することにある。」(段落【0016】)
オ.「記録ヘッドの吐出口形成面1には複数の吐出口が設けられる。すなわち、濃インクを吐出する吐出口2Kおよび淡インクを吐出する吐出口2Uがそれぞれ複数設けられる。いずれの吐出口にも、これを開口端とする液路3が接続し、この液路3にはインクを吐出するのに利用される熱エネルギーを発生する発熱素子4が各々配置される。」(段落【0030】)
カ.「各々の液路3は、吐出口2k(2u)とは反対側の端部で共通のインク室5に連通している。記録ヘッド12は、前述の通り、1つのヘッド内で濃インクの吐出部と淡インク吐出部に分かれているためこの共通インク液室は濃度の異なるインク毎に仕切られた構造を有している。各共通インク液室はインク供給路2200を介してインクタンクITと接続される。」(段落【0031】)
キ.「C(シアン),M(マゼンタ),Y(イエロー),Bk(ブラック)の4色の記録ヘッドのそれぞれは濃色インクを吐出する吐出口列と淡色インクを吐出する吐出口列とを有しており、キャリッジに所定距離をおいて装着される。」(段落【0044】)
ク.【図2】、【図4】及び【図6】等から、濃インクを吐出する吐出口及び淡インクを吐出する吐出口は直線状の1列からなっていることが読み取れる。
ケ.【図2】【図4】、【図5】、【図7】及び【図10】等から、1つの記録ヘッドには濃淡各インク用の供給管2200が設けられ、濃淡各インク用の共通インク液室に連通するとともに、各供給管には個別のインクタンクから濃淡各インクが供給されることが読み取れる。
コ.【図6】には、Bk,C,M及びYの4色につき、濃淡インクの吐出口等は1つの記録ヘッドに形成されているとともに、別色の吐出口等は個別の記録ヘッドとして形成されていることが図示されている。

3.引用例記載の発明の認定
上記記載又は図示を含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例には次の発明が記載されていると認めることができる。
「インクを吐出するためのインクジェットヘッドにおいて、
濃度の異なるインクを吐出する複数の吐出口と、
該複数の吐出口の各々にそれぞれ連通し、インク吐出に利用されるエネルギーを作用させるためのエネルギー作用部と、
該エネルギー作用部に連通し、当該作用部に供給されるインクを前記濃度の異なるインク毎に貯留する複数の共通インク液室と、
前記濃度の異なるインク毎の供給管とを備え、
前記供給管は前記共通インク液室に連通しており、
濃度の異なるインクに対応した吐出口の面積を、濃度が低いインクを吐出する吐出口程大きく形成し、
同一濃度のインクを吐出する吐出口は直線状1列からなっており、
すべての吐出口は単一の吐出口形成面に形成されているインクジェットヘッド。」(以下「引用発明」という。)

4.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「インクジェットヘッド」と本願発明の「インクジェット記録ヘッド」は同義であり、どちらも「ノズルよりインクを吐出して記録を行うための」ものである。
引用発明において、淡インク(濃度が低い)用の吐出口(直線状の1列)は、濃インク(濃度が高い)用の吐出口(直線状の1列)よりも吐出口面積が大きいから、淡インク用の吐出口及び濃インク用の吐出口は、それぞれ本願発明の「大径ノズル群」及び「小径ノズル群」に相当し、当然淡インク用の吐出口と濃インク用の吐出口は異なる領域に設けられている。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「ノズルよりインクを吐出して記録を行うためのインクジェット記録ヘッドであって、
大径ノズル群と、該大径ノズル群とは異なる領域に設けられた小径ノズル群とを備え、
上記大径ノズル群及び上記小径ノズル群は、それぞれ、直線状のノズル列を有するインクジェット記録ヘッド。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉本願発明では、大径ノズル群及び小径ノズル群が「直線状のノズル列を複数有」する「平面状に分布する」ノズル群であるのに対し、引用発明のそれらは直線状1列からなっており、平面状に分布するとはいえない点。
〈相違点2〉本願発明では、大径ノズル群と小径ノズル群が異なる部材に形成されているのに対し、引用発明ではそれらが単一の吐出口形成面に形成されている点。

5.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点1について
本願出願当時、解像度向上を目的として単一色の吐出口を直線状複数列とすることは周知である(例えば、特開平7-285220号公報、特開平6-171084号公報、特開平7-81069号公報又は特開平6-24005号公報を参照。)から、引用発明においても同目的のもとに上記周知技術を採用することは当業者にとって想到容易である。その場合、引用発明では、淡インク用の吐出口と濃インク用の吐出口があるのだから、それぞれを直線状複数列とすることは当然である。
そして、淡インク用の吐出口(大径ノズル群)と濃インク用の吐出口(小径ノズル群)それぞれを直線状複数列とすれば、「平面状に分布する」ノズル群であるといえる(本願明細書全体を精査しても、「平面状に分布する」との意味が、直線状複数列を超える何らかの意味を有するとは解し得ない。)。
したがって、相違点1に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(2)相違点2について
引用発明では、吐出口、エネルギー作用部、共通インク液室及び供給管は、濃淡各インク用に個別に形成されており、個別のインクタンクから濃淡各インクが供給される仕組みになっている。吐出口、エネルギー作用部、共通インク液室及び供給管が濃淡インクごとに個別に形成されているということは、インク吐出に関与する機構すべてが個別であるということである。また、インク色が異なる場合にも、吐出口、エネルギー作用部、共通インク液室及び供給管(インク吐出機構すべて)は個別に形成され、当然個別のインクタンクから供給を受ける。そうであれば、同系色で濃度が異なるインクであるのか、それとも異色のインクであるのかは、インク吐出機構としてみた場合には何の関係もないことが明らかである。
そして、引用例には異色のインク吐出機構を個別のヘッドとすることが記載されている(記載又は図示コ参照。)のだから、濃度の異なるインクの場合にも、個別のヘッドとすることに困難性があると認めることはできない。そのことは、例えば特開平6-270421号公報に【図9】として引用例【図6】と同一視できる図が図示されるとともに、【図2】として「濃インクヘッド」と「淡インクヘッド」が個別のヘッドとして図示されていることからも明らかである。そして、個別ヘッドであれば、ヘッドごとの吐出口は異なる部材に形成されるのが通例である(引用例でも、異色ヘッドの吐出口は異なる部材に形成されていると認める。)。
したがって、引用発明を出発点として、淡インク用の吐出口、エネルギー作用部、共通インク液室及び供給管を含むインク吐出機構と濃インク用の吐出口、エネルギー作用部、共通インク液室及び供給管を含むインク吐出機構を個別ヘッドとして形成することにより、相違点2に係る本願発明の構成に至ることは当業者にとって想到容易といわざるを得ない(引用発明では、淡インク用の吐出口が大径ノズル群であり、濃インク用の吐出口が小径ノズル群であるから、淡インク用の吐出口と濃インク用の吐出口を異なる部材に形成すれば、自然と大径ノズル群と小径ノズル群が異なる部材に形成されることになる。)。
なお、淡インク用のインク吐出機構と濃インク用のインク吐出機構を個別ヘッドとして形成した場合には、「インクジェット記録ヘッド」ではなく「インクジェット記録ヘッド群」であるとの主張があるかもしれないので検討を加えておく。本願明細書には「大径用集合ヘッド14」(段落【0008】ほか)、「小径用集合ヘッド16」(段落【0009】ほか)及び「集合ヘッド14にはイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックのインクをそれぞれ吐出する4つのヘッド30が主走査方向に重ねてある。」(段落【0008】)等の記載があるから、本願発明が、大径ノズル群を備えたインク吐出機構と小径ノズル群を備えたインク吐出機構を個別ヘッドとして形成したものを包含することは明らかであって、引用発明の淡インク用のインク吐出機構と濃インク用のインク吐出機構を個別ヘッドとして形成した場合も「インクジェット記録ヘッド」ということに何の問題もない。
請求人(出願人)は「引用文献A,B(審決注;引用文献Aが審決の引用例である。)のインクジェット記録ヘッドは、クロストークの問題を内在している。」(平成15年6月26日付け意見書1頁22〜23行)及び「引用文献A,Bは、本願明細書の従来の技術の欄に記載の構成と変るところがなく、高集積化は可能であっても小径ノズル側から誤ってインクが吐出する虞が多大にあり、高画質化の要望に応えられる構成ではない。」(審判請求書4頁13〜15行)と主張している。ここでいう「クロストーク」とは「大径ノズル20(Y1,2)からインク46を吐出するとき、このノズル20に対応する圧電アクチュエータ36を振動しても、その振動が、対応する小径ノズル28(Y2、2)からのインクの飛翔に及ぼす影響は小さく」(本願明細書の段落【0010】)との記載からみて、圧電アクチュエータの振動に起因するものと考えられるが、本願発明は圧電アクチュエータの存在を発明特定事項としておらず、他方引用発明の「エネルギー作用部」には「発熱素子」(記載オ参照)はあるが、圧電アクチュエータは存在しないから、クロストークの問題と相違点1,2に密接な関係があると認めることはできない。したがって、請求人のこれら主張を採用することはできない。

(3)本願発明の進歩性の判断
相違点1,2に係る本願発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-29 
結審通知日 2005-12-06 
審決日 2005-12-20 
出願番号 特願平8-112411
審決分類 P 1 8・ 56- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤本 義仁
藤井 勲
発明の名称 インクジェット記録ヘッド  

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