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審決分類 審判 全部申し立て 4号2号請求項の限定的減縮  H01F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01F
審判 全部申し立て 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明  H01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
管理番号 1132605
異議申立番号 異議2003-72749  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-03-17 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-12 
確定日 2005-12-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3404618号「電磁干渉抑制体」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3404618号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3404618号の請求項1ないし2に係る発明の手続きの経緯は、以下のとおりである。
出願(特願平8-231957号) 平成8年9月2日
設定登録 平成15年3月7日
特許異議の申立て 平成15年11月12日
(三品徳子)
取消理由通知 平成16年10月8日(起案日)
意見書、訂正請求書 平成16年12月20日
取消理由通知 平成17年11月17日(起案日)
平成16年12月20日付け訂正請求の取下書 平成17年11月18日
意見書、訂正請求書 平成17年11月18日


2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている、平成17年11月18日付け訂正請求書に添付された訂正明細書における訂正の内容は以下のとおりである。
訂正事項a.
特許明細書の請求項1「【請求項1】 軟磁性体粉末と有機結合剤とから実質的になる電気的に非良導性の複合磁性体からなる電磁干渉抑制体であって、前記電磁干渉抑制体は、互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴を有し、異方性磁界(Hk)によって生じるマイクロ波周波数領域に出現する複数の磁気共鳴のうち少なくとも2つの磁気共鳴を備え、前記有機結合剤は、塩素化ポリエチレンであり、前記軟磁性体粉末は、表面に酸化物層を備えている金属磁性体であり、前記互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴は、互いに異なる大きさを有する複数の異方性磁界(Hk)によってもたらされ、前記複合磁性体は複数の磁気共鳴を備え、前記複数の磁気共鳴の内の夫々は、異なる大きさの異方性磁界に対応して互いに異なる周波数領域に出現し、前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあることを特徴とする電磁干渉抑制体。」を、
「【請求項1】 軟磁性体粉末と有機結合剤とから実質的になる電気的に非良導性の複合磁性体からなる電磁干渉抑制体であって、
前記電磁干渉抑制体は、互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴を有し、異方性磁界(Hk)によって生じるマイクロ波周波数領域に出現する複数の磁気共鳴のうち少なくとも2つの磁気共鳴を備え、
前記有機結合剤は、塩素化ポリエチレンであり、
前記軟磁性体粉末は、表面に酸化物層を備えている金属磁性体であり、
前記互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴は、
互いに異なる大きさを有する複数の異方性磁界(Hk)によってもたらされ、
前記複合磁性体は前記複数の磁気共鳴を備え、前記複数の磁気共鳴の内の夫々は、異なる大きさの異方性磁界に対応して互いに異なる周波数領域に出現し、
前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあり、且つ、
前記複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、単一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものであること
を特徴とする電磁干渉抑制体。」と訂正する。

訂正事項b.
特許明細書の請求項2を削除する。

訂正事項c.
特許明細書の「発明の詳細な説明」の段落【0018】の記載を、
「 【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、軟磁性体粉末と有機結合剤とから実質的になる電気的に非良導性の複合磁性体からなる電磁干渉抑制体であって、
前記電磁干渉抑制体は、互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴を有し、異方性磁界(Hk)によって生じるマイクロ波周波数領域に出現する複数の磁気共鳴のうち少なくとも2つの磁気共鳴を備え、
前記有機結合剤は、塩素化ポリエチレンであり、
前記軟磁性体粉末は、表面に酸化物層を備えている金属磁性体であり、
前記互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴は、
互いに異なる大きさを有する複数の異方性磁界(Hk)によってもたらされ、
前記複合磁性体は前記複数の磁気共鳴を備え、前記複数の磁気共鳴の内の夫々は、異なる大きさの異方性磁界に対応して互いに異なる周波数領域に出現し、
前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあり、且つ、
前記複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、同一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものであること
を特徴とする電磁干渉抑制体が得られる。」と訂正する。

訂正事項d.特許明細書の段落番号【0022】の記載内容を削除する。


(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
ア.訂正事項aについては、「前記複合磁性体は複数の磁気共鳴を備え、」を「前記複合磁性体は前記複数の磁気共鳴を備え、」と訂正する点(以下、「訂正事項a1」という。)、及び「前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にある」を「前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあり、且つ、
前記複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、単一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものである」と訂正する点(以下、「訂正事項a2」という。)があるが、
訂正事項a1については、請求項1中において、電磁干渉抑制体が複数の磁気共鳴を有しているとの記載を受け、当該電磁干渉抑制体の磁気共鳴が複合磁性体に起因することを明記したものであり、電磁干渉抑制体の複数の磁気共鳴と、複合磁性体の複数の磁気共鳴との関係を明らかにした点で、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、
訂正事項a2については、請求項1に係る「複数の磁気共鳴」の発生原因を特定することにより、請求の範囲を限定するものであり、この訂正事項a2は、本件明細書の【0030】段落の「第2に粉体の粉砕・展延加工に用いる粉砕メディアをスチール球の様な軟磁性メディアとすることで、メディアの磨耗により軟磁性の磨耗粉が混入するいわゆる汚染現象を積極的に利用する方法がある。また、第3には、単一種粉末の複合体中での存在形態の違いを利用する方法がある。例えば、粒子群間において、磁気的相互作用や配向挙動が異なるために異方性磁界が分散する。一つの粒子群は、同一マトリクス中に一次粒子として存在する。もう一つの粒子群は、凝集してその内部のぬれが不十分でその為に粒子間が極めて接近或いは接触しているものである。」という記載に基づくものである。
したがって、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ.上記訂正事項bは、特許時の特許請求の範囲の請求項2を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ.上記訂正事項cについては、訂正事項aにより特許明細書の請求項1が訂正されたことに伴い、明細書の記載内容を訂正後の特許請求の範囲と対応させるものである。
したがって、上記訂正事項cは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ.上記訂正事項dについては、上記訂正事項bにより特許明細書の請求項2が削除されたことに伴い、明細書の記載内容を対応させるものである。
したがって、上記訂正事項dは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。


3.特許異議の申立てについて
(1)申立の理由及び取消理由通知
ア.申立の理由の概要について
特許異議申立人は、証拠として本件出願前国内において頒布された甲第1号証(日本応用磁気学会誌 Vol.20,No.2,1996年4月 p.421-424)、甲第2号証(特開昭58-219249号公報)、甲第3号証(特開平2-235396号公報)、甲第4号証(特開昭51-93146号公報)を提出し、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。また、本件請求項1に係る発明は、その明細書の記載が当業者が容易に実施できる程度に記載されておらず、特許法第36条第4項の規定に違反しているので特許を受けることができないものである。
したがって、本件請求項1及び請求項2に記載の発明の特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。

イ.取消理由通知について
当審で2度通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
「1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1.日本応用磁気学会誌 Vol.20,No.2,1996年4月 p.421-424(申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2.特開昭58-219249号公報(申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3.特開平2-235396号公報(申立人の提出した甲第3号証)
刊行物4.特開昭51-93146号公報(申立人の提出した甲第4号証)

本件の請求項1、2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるとおりである。
上記刊行物1〜4には、特許異議申立書第5頁第17行〜第6頁第26行記載の発明が記載されており(ただし、「甲第1号証」〜「甲第4号証」は、それぞれ「刊行物1」〜「刊行物4」と読み替える。)。
そして、請求項1、2に係る発明は、特許異議申立書第6頁第27行〜第10頁第8行記載の理由(ただし、「甲第1号証」〜「甲第4号証」は、それぞれ「刊行物1」〜「刊行物4」と読み替える。)により、上記刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


2)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



特許異議申立書第10頁第9行〜第11頁第20行に記載の理由により、請求項1に係る発明の記載は、明確であるとは認められず、また、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない。」


(2)本件請求項1に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 軟磁性体粉末と有機結合剤とから実質的になる電気的に非良導性の複合磁性体からなる電磁干渉抑制体であって、
前記電磁干渉抑制体は、互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴を有し、異方性磁界(Hk)によって生じるマイクロ波周波数領域に出現する複数の磁気共鳴のうち少なくとも2つの磁気共鳴を備え、
前記有機結合剤は、塩素化ポリエチレンであり、
前記軟磁性体粉末は、表面に酸化物層を備えている金属磁性体であり、
前記互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴は、
互いに異なる大きさを有する複数の異方性磁界(Hk)によってもたらされ、
前記複合磁性体は前記複数の磁気共鳴を備え、前記複数の磁気共鳴の内の夫々は、異なる大きさの異方性磁界に対応して互いに異なる周波数領域に出現し、
前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあり、且つ、
前記複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、単一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものであること
を特徴とする電磁干渉抑制体。」

(3)引用刊行物に記載された発明
当審で通知した取消理由で引用した刊行物1(日本応用磁気学会誌 Vol.20,No.2,1996年4月 p.421-424(申立人の提出した甲第1号証))には、「扁平状センダスト・ポリマー複合体の透磁率と電磁波吸収特性」(第421頁第1行)に関して、「携帯電話などの移動無線機器の急速な普及に伴い,準マイクロ波帯での電磁波障害(EMI)がクローズアップされ、不要輻射による障害を抑止できる高周波透率特性に優れた軟磁性材料が求められている.
そこで,準マイクロ波帯領域で磁気損失体として有効であり,また薄くて割れにくい磁性材料を開発するため,センダスト・ポリマー複合磁性体を作製し,その高周波透磁率特性を調べた結果,球状の粉末を用いた場合と比較し磁気損失体として興味ある特性が得られた.またシート状のセンダスト・ポリマー複合体を作製し,近傍界での電磁干渉抑制効果を調べたところ,準マイクロ波帯において磁気損失材料として有効であることが示唆されたので以下に述べる.」(第421頁左欄下から第12〜1行)こと、「準マイクロ波帯(300MHz〜3GHz)のような高い周波数領域で優れた複素透磁率を得るためには,大きな異方性と高い電気抵抗の実現が必要である.さらに,電磁干渉抑制体として空間の不要輻射対策に利用するためには,空間とのインピーダンス不整合を極力抑える必要がある.これらの条件を踏まえ,磁性粉として,機械的に延伸・偏平化が可能で,粉末が高充填された状態でも複合磁性体の非良導性を確保できる強固な酸化被膜が容易に得られるセンダスト粉末に着目し,以下の指針で偏平状磁性粉とそれをポリマーと混練・分散した複合磁性体を作製した.
磁性粉の設計指針としては,
○1高いアスペクト比を有する.
○2粉末の厚さが表皮深さ程度(サブミクロン)である.
○3表面が酸化皮膜に被われている.
また,複合磁性体の設計指針としては,以下の点に重点を置いた.
○4粒子が高い配向度で面内に配向・配列されている.
○5磁性粉が高密度に充填されている.」(第421頁右欄第3〜20行)こと、「得られた偏平状の粉末とポリマーを混合有機溶剤とともに混練し,ドクターブレード法により塗工〜乾燥し,これを繰り返して塗工体試料を得た.」(第421頁右欄第28〜30行)こと、「アトライタ処理時間の異なるセンダスト粉からなる複合磁性体の複素透磁率をFig.3(a)に示す.出発原料であるほぼ球状のセンダスト粉複合体(充填率45vol%)の透磁率μ’は,約11で20MHz付近から単調に減少する傾向を示しているが,偏平化されたセンダスト粉複合体では,数10MHzに磁気共鳴が観察され,さらに一桁高い数100MHzにも共鳴によるものと思われる透磁率μ’の変化がみられる.ここで数10MHzにある磁気共鳴周波数は,アトライタ処理時間とともに増加する傾向が認められ,偏平化に伴う形状異方性の増大化がその一因として推定される.」(第422頁左欄最終行〜同頁右欄第10行)こと、「一方,虚数部透磁率μ’’は,実数部透磁率μ’の特異的な周波数特性を反映する双峰型の分散を示しており,偏平化されたセンダスト粉末を配向し多層塗工することにより,立上がりの良い広帯域に亘るμ’’特性の得られることが示された.」(第422頁右欄第20〜23行)こと、「この結果より,偏平状センダスト複合体のμ-f特性には,形状異方性に加えて,磁気弾性効果も明らかに寄与しているといえる.」(第423頁左欄第14〜16行)こと、「○2さらに,数100MHzの領域に共鳴によるものと思われるμ’の変化が現れ,その結果,μ’’の分散は双峰性を示し広帯域なものとなった.
○3アトライタ摩砕により得られる偏平状センダストのμ-f特性には,形状異方性のみならず,磁気弾性効果の寄与も認められた.」(第424頁右欄第10〜15行)ことが、Fig.3とともに記載されている。
以上の記載から、刊行物1には、「センダスト粉末の偏平状磁性粉とそれをポリマーと混練・分散した複合磁性体からなる電磁干渉抑制体であって、偏平化されたセンダスト複合磁性体では,数10MHzに磁気共鳴が観察され,さらに一桁高い数100MHzにも共鳴によるものと思われる透磁率μ’の変化がみられるものであり、磁性粉は、高いアスペクト比を有し、表面が酸化被膜に被われており、虚数部透磁率μ’’は,実数部透磁率μ’の特異的な周波数特性を反映する双峰性の分散を示しており、偏平状センダストのμ-f特性には,形状異方性のみならず,磁気弾性効果の寄与も認められる電磁干渉抑制体。」が示されている。

同刊行物2(特開昭58-219249号公報(申立人の提出した甲第2号証))は、「塩素化ポリエチレン組成物」(発明の名称)に関して、「(A)塩素化ポリエチレン
および
(B)軟質磁性粉末
から本質的になり、100重量部の塩素化ポリエチレンに対する軟質磁性粉末の配合割合が700〜2000重量部である塩素化ポリエチレン組成物。」(第1頁特許請求の範囲)であり、「本発明の組成物は上記のごとき効果を有するために他方面にわたつて使用することができる。その用途の代表例を下記に示す、
(1) キヤツシユカード、磁気定期券などの磁気記録材料の保存用ケース
(2) 磁気デイスク、磁気テープなどの磁気記録材料の保存用ケース
(3) スピーカー、コイル使用電子機器、磁気ヘツドなどの直流・交流漏洩磁界の遮蔽成形物
(4) 直流、交流磁界遮蔽用ペイント」(第2頁右上欄第6〜15行)、「得られたそれぞれのシートを成形し、直流磁気遮蔽効果、交流磁気遮蔽効果および曲げ試験の測定用試料を作成し、それぞれの試験を行つた。得られた結果を第1表に示す。」(第5頁左上欄第7〜11行)こと、「以上の実施例および比較例の結果から、本発明によつて得られる塩素化ポリエチレン組成物は、金属製の磁気遮蔽材に近い良好な直流・交流磁気遮蔽効果を有しているだけでなく、曲げ強度についてもすぐれていることが明らかである。」(第6頁左下欄第1〜5行)こと、第1表において、実施例1、2等は、曲げ試験結果が「○」であること、が記載されている。

同刊行物3(特開平2-235396号公報(申立人の提出した甲第3号証))は、「絶縁性マイクロ波輻射吸収体」(発明の名称)に関して、「本発明は誘導性結合材中に埋め込まれる磁性金属フィラメントを含む電磁輻射吸収体に関する。」(第2頁左下欄第3〜4行)こと、「各試料について0.1から20.1GHzまでの201ステップモード測定をした。試料による透過率および反射率を、第1-4図中に示すように、入射周波数の関数として誘電率および透過率の実および虚部分を計算するために使用した。誘電率および透過率の虚部分の計算における誤差は典型的には測定の5%である。第1-4図はフィラメント長さが誘電率の実および虚部分双方に強く作用することを示す。誘電率の実の部分は虚部分よりも著しく早く減少し、従って虚部分対実の部分の比(複合体の吸収能力の尺度)はフィラメント長さの減少と共に増加する。測定される吸収体透過率に対して変化するフィラメント長さの効果は一般に弱いが、試料Dにおける透過率の虚の部分は試料A-Cのものと比べると、特に低周波数において著しい減少を示す。」(第6頁左上欄第6行〜同頁右上欄第1行)こと、「添付した図面において、
第1図から第4図は入射輻射周波数の関数として、本発明の4つの具体化例の誘電率および透磁率の実および虚部分のグラフである。
第5図は入射輻射周波数の関数として本発明の一具体化の予報した吸収応答、および本発明のいま一つの具体化の実際の吸収応答の大きさである。」(第7頁右下欄第16行〜第8頁左上欄第2行)ことが、第1図〜第6図と共に記載されている。

同刊行物4(特開昭51-93146号公報(申立人の提出した甲第4号証))は、「複合電波吸収材料」(発明の名称)に関して、「本発明の一実施例を説明すると、Ni-Zn系フエライト粉末とカーボニル鉄粉末をクロロプレン系ゴムに混合させた複合材料(Ni-Zn系フエライト粉末:カーボニル鉄粉末:クロロプレン=1.5:1.5:1)の材料定数の周波数特性を第6図に示す。第6図は複素透磁率のμ’項が、フエライト、カーボニル鉄の両方の特徴を有する双峰特性を表わしている。第7図はこの複合電波吸収材料の電波吸収特性を示す。μ’の双峰特性に対応して、電波吸収特性(反射減衰量にて表わす。)も双峰特性を示し、厚み3mmで極めて広帯域になる。しかし、厚みdは、ほぼ3mmが限度で、これ以上薄くすることはできなかつた。それは、これ以上薄くすると、電波吸収特性が悪化し、帯域が狭くなるからである。」(第2頁右下欄第3〜18行)こと、「分散特性の異なる強磁性体粉末を混合し、或は、これら強磁性体粉末と非磁性金属粉末を混合し、これを非磁性金属粉末中に分散硬化した複合電波吸収体は、極めて薄形かつ広帯域化が計られ」(第3頁左上欄第6〜10行)ることが、第6図、第7図と共に記載されている。


(4)対比・判断
ア.特許法第36条についての判断
a)訂正前の請求項1には、「前記複合磁性体は複数の磁気共鳴を備え、前記複数の磁気共鳴の内の夫々は、異なる大きさの異方性磁界に対応して互いに異なる周波数領域に出現し、前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にある」という記載があるが、「電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域」とは何を指すのか、具体的な説明がないので不明確である旨の、特許異議申立人の主張について
本件発明に係る電磁干渉抑制体は、所定の周波数帯域にわたる誘導性ノイズのような不要輻射を、当該電磁干渉抑制体にフィルター特性を持たせることにより、抑制するものであることは、本件明細書の記載から明らかである。また、本件発明は、磁気損失特性を利用して、即ち、虚数部透磁率によって定まる磁気損失項を利用して、電磁波を抑制するものであることは、本件明細書【0037】段落の記載からも明らかである。また、「電磁干渉抑制周波数帯域の下限」は、本件発明に係る電磁干渉抑制体によって抑制しようとする不要輻射の周波数帯域の下限を意味していることは、文言上明らかである。
そして、本件発明に係る電磁干渉抑制体が、不要輻射を抑制するためには、複数の磁気共鳴の内最も低いものは、電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあることが必要であることは、当業者にとって自明である。
このように、複数の磁気共鳴の生じる周波数のうちの最も低い周波数と、電磁干渉抑制周波数帯域の下限との関係は、単に、電磁気学的な事実を説明しているのではなく、新しい技術思想に基づき、それを実現するためにどの様な関係を持たせるべきかを検討した結果によるものである。
したがって、訂正前の請求項1における「電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域」の記載は明確であり、単なる電磁気学的事実を述べているのではないことは明らかである。

b)実施例の記載が極めて不完全で、本件発明の実施例とは認めることができないとする特許異議申立人の主張について
・「磁性体粉末としてFe-Al-Si合金粉を挙げているが、組成が開示されておらず、軟磁性体であるか否か不明である。」という主張については、本件明細書の【0033】段落には、「本発明に於いて用いることの出来る軟磁性粉末としては、高周波透磁率の大きな鉄アルミ珪素合金(センダスト)」と記載されており、センダスト自身、軟磁性体であることは周知の事実であり、かつ、センダストの組成、機能、作用等は当業者間では、周知である。
してみると、実施例に記載の「軟磁性体粉末(Fe-Al-Si合金・・・)」が、上記センダストを意味することは、明らかであり、格別に不明確な記載ではない。
・「実施例に記載された電磁干渉抑制体がどのような特性を有するものかについて何等記載が無く、発明の効果が確認できない。」という主張については、「実施例」は、「発明の実施の形態」を具体的に示したものであり、「発明の実施の形態」に電磁干渉抑制体の特性、異方性磁界、磁気共鳴等が明確に記載されているので、当業者は、本件明細書の「発明の実施の形態」および出願時の技術常識に基づいて、本件発明に係る電磁干渉抑制体を実施することができる。したがって、「実施例」に記載された電磁干渉抑制体がどのような特性を有するものかについて記載がないからといって、明細書の記載が不明確であるとは認められない。
以上のことから、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしているものである。

イ.特許法第29条第2項についての判断
本件請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、上記刊行物1に記載の「センダスト粉末の偏平状磁性粉」、「ポリマー」は、本件請求項1に係る発明の「軟磁性体粉末」、「有機結合剤」に相当し、上記刊行物1に記載の「数10MHzに磁気共鳴が観察され,さらに一桁高い数100MHzにも共鳴によるものと思われる透磁率μ’の変化がみられるものであ」ることは、本件請求項1に係る発明の「マイクロ波周波数領域に出現する複数の磁気共鳴のうち少なくとも2つの磁気共鳴」に相当し、上記刊行物1に記載の「偏平状センダストのμ-f特性には,形状異方性のみならず,磁気弾性効果の寄与も認められる」ことは、本件請求項1に係る発明の「互いに異なる大きさを有する複数の異方性磁界(Hk)」を有することに相当しているので、本件請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とは、次の点で一致している。
「軟磁性体粉末と有機結合剤とから実質的になる電気的に非良導性の複合磁性体からなる電磁干渉抑制体であって、
前記電磁干渉抑制体は、互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴を有し、異方性磁界(Hk)によって生じるマイクロ波周波数領域に出現する複数の磁気共鳴のうち少なくとも2つの磁気共鳴を備え、前記軟磁性体粉末は、表面に酸化物層を備えている金属磁性体であり、
前記互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴は、
互いに異なる大きさを有する複数の異方性磁界(Hk)によってもたらされ、
前記複合磁性体は前記複数の磁気共鳴を備え、前記複数の磁気共鳴の内の夫々は、異なる大きさの異方性磁界に対応して互いに異なる周波数領域に出現すること
を特徴とする電磁干渉抑制体。」
また、次の点で、相違している。
・相違点1
本件請求項1に係る発明では、有機結合剤は、塩素化ポリエチレンであるのに対して、上記刊行物1に記載の発明では、有機結合剤に相当するものの組成は記載されていない点、
・相違点2
本件請求項1に係る発明では、複数の磁気共鳴の内最も低いものは、複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあるのに対して、上記刊行物1に記載の発明では、そのような記載はない点、
・相違点3
本件請求項1に係る発明では、複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、単一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものであるのに対して、上記刊行物1に記載の発明では、そのような記載はない点、

そこで、上記相違点1〜3について、検討する。
・相違点1について、
上記刊行物2には、「(A)塩素化ポリエチレン、および(B)軟質磁性粉末」からなり、「キヤツシユカード、磁気定期券などの磁気記録材料の保存用ケース、磁気デイスク、磁気テープなどの磁気記録材料の保存用ケース、スピーカー、コイル使用電子機器、磁気ヘツドなどの直流・交流漏洩磁界の遮蔽成形物、直流、交流磁界遮蔽用ペイント」等に用いて、「交流磁気遮蔽効果」を得ることができる組成物が記載されている。そして、上記「交流磁気遮蔽効果」に関する交流が、どのような周波数であるかは不明であるが、上記刊行物1において、センダスト粉末の偏平状磁性粉とそれをポリマーと混練・分散した複合磁性体からなる電磁干渉抑制体がマイクロ波に適用できることが示されているので、上記刊行物1に記載のポリマーとして、上記刊行物2に記載のような公知の塩素化ポリエチレンを用いることは、当業者が適宜なしえたことと認められる。
・相違点2について
「複数の磁気共鳴の内最も低いものは、複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にある」ことは、上記刊行物1〜4のいずれにも、記載されていないが、所定の周波数帯域にわたる誘導性ノイズのような不要輻射を、上記刊行物1に記載のような電磁干渉抑制体にフィルター特性を持たせることにより抑制するにあたり、不要輻射を抑制するために、磁気共鳴の内最も低いものを不要輻射の周波数よりも低い周波数に設定することは、当業者が、フィルターの設計上、適宜設計できた程度のことと認められる。
・相違点3について
「複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、単一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものである」ことは、上記刊行物1〜4のいずれにも、記載されていないし、示唆もない。

そして、本件請求項1に係る発明は、上記「前記複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、単一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものである」点により、優れた電磁干渉抑制効果が現れるという明細書記載の顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことができない。
そして、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電磁干渉抑制体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】軟磁性体粉末と有機結合剤とから実質的になる電気的に非良導性の複合磁性体からなる電磁干渉抑制体であって、
前記電磁干渉抑制体は、互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴を有し、異方性磁界(Hk)によって生じるマイクロ波周波数領域に出現する複数の磁気共鳴のうち少なくとも2つの磁気共鳴を備え、
前記有機結合剤は、塩素化ポリエチレンであり、
前記軟磁性体粉末は、表面に酸化物層を備えている金属磁性体であり、
前記互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴は、
互いに異なる大きさを有する複数の異方性磁界(Hk)によってもたらされ、
前記複合磁性体は前記複数の磁気共鳴を備え、前記複数の磁気共鳴の内の夫々は、異なる大きさの異方性磁界に対応して互いに異なる周波数領域に出現し、
前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあり、且つ、
前記複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、単一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものであること
を特徴とする電磁干渉抑制体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機結合剤中に軟磁性体粉末を混練・分散させた複合磁性体に関し、詳しくは、高周波電子回路/装置において問題となる電磁干渉の抑制に有効である複素透磁率特性の優れた複合磁性体から成る電磁干渉抑制体に関する。
【0002】
特に、本発明は、可撓性に富み、例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)、FFC(Flexible Flat Cable)、電子機器の筐体に貼着可能で、しかも難燃性に優れた複合磁性体から成る電磁干渉抑制体に関する。
【0003】
【従来の技術】
近年普及の著しいデジタル電子機器として、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、マイクロプロセッサ(MPU)、中央演算処理装置(CPU)又は画像プロセッサ算術論理演算装置(IPALU)等の論理回路及び論理素子等がある。これらの論理回路及び論理素子は、能動素子である多数の半導体素子で構成されたLSI及びICから構成され、プリント配線基板上に実装されている。これらの論理回路及び論理素子において、演算速度の高速化、信号処理速度の高速化が図られている。このような論理回路等において高速に変化する信号は電圧、電流の急激な変化を伴うために、能動素子は誘導性ノイズを発生し高周波ノイズ発生の原因ともなっている。この高周波ノイズは、クロストークノイズやインピーダンスの不整合によるノイズと相乗的に作用する。また、高周波ノイズは、能動素子の発生した誘導性ノイズによることが多い。この誘導性ノイズによって配線基板の素子実装面と同一面及び反対面には高周波磁界が誘導される。
【0004】
また、電子機器や電子装置の軽量化、薄型化、及び小型化も急速に進んでいる。それに伴い、プリント配線基板への電子部品実装密度も飛躍的に高くなってきている。前述の誘導された高周波磁界によって、過密に実装された電子部品類や信号線等のプリント配線、或いは、モジュール間配線等が互いに極めて接近することになり、前述のように、信号処理速度の高速化も図られているため、配線基板において電磁結合による線間結合が増大するばかりでなく放射ノイズによる干渉等が生じる。
【0005】
更に、放射ノイズが発生すると、外部接続端子を経て外部に放射され、他の機器に悪影響を及ぼすことがある。このような、電磁波による電子機器の誤動作及び他の機器への悪影響は一般に電磁障害と呼ばれる。
【0006】
このように、放射された電磁障害に対して従来、電子機器において誘導性ノイズを発生する回路にフィルタを接続することや、問題となる回路(誘導性ノイズを発生する回路)を影響を受ける回路から遠ざけることや、シールディングを行うことや、グラウンディングを行うこと等の対策が一般に採られている。
【0007】
ここで、能動素子を含む電子部品が高密度実装されたプリント配線基板等において、上述の電磁障害を効率的に処置しようとする場合、従来の対策(ノイズ抑制方法)では、ノイズ対策の専門的知識と経験を必要とすることや、対策に時間を要するという欠点を有した。
【0008】
特に、上記フィルタ実装においては、使用するフィルタが高価であること、フィルタを実装するスペースに制約のあることが多いこと、フィルタの実装作業に困難性を伴うこと、フィルタ等を用いるので電子装置を組み立てるための所要工程数が多くなってコストアップとなってしまうという欠点を有した。
【0009】
ここで、同一回路内の電子部品間で発生する信号線間の電磁誘導及び不要電磁波による相互干渉の抑制方法は、従来ではそれが充分でない。
【0010】
更に、電子装置の小型軽量化を図る際には、上記問題となる回路を遠ざける方法は不都合であるとともに、フィルタ及びその実装スペースの排除を行う必要がある。
【0011】
また、電子装置に使用される一般的なプリント配線基板は、低周波の場合には基板内部から発生する電磁誘導等の信号線間の電磁結合が比較的小さく問題とならないが、動作周波数が高周波になるにつれて信号線間の電磁結合が密となるため前記したような問題点を生じる。
【0012】
また、上記シールディングのうちで、導体シールドは空間とのインピーダンス不整合に起因する電磁波の反射を利用する電磁障害対策であるために、遮蔽効果は得られても不要輻射源からの反射による電磁結合が助長され、その結果二次的な電磁障害を引き起こす場合が少なからず生じている。
【0013】
この二次的な電磁障害対策として、磁性体の磁気損失を利用した不要輻射の抑制が有効である。即ち、前記シールド体と不要輻射源の間に磁気損失の大きい磁性体を配設する事で不要輻射を抑制することが出来る。ここで、磁性体の厚さdは、μ″>μ′なる関係を満足する周波数帯域にてμ″に反比例するので、前記した電子機器の小型化及び軽量化要求に迎合する薄い電磁干渉抑制体、即ち、シールド体と磁性体からなる複合体を得るためには、虚数部透磁率μ″の大きな磁性体が必要となる。また、前記した不要輻射は、多くの場合その成分が広い周波数範囲にわたっており、電磁障害に係る周波数成分の特定も困難な場合が少なくない。従って、前記電磁干渉抑制体についてもより広い周波数の不要輻射に対応できるものが望まれている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の一の目的は、高周波電子装置、特に、移動通信装置の内部で電磁干渉抑制に効果のある電磁波干渉抑制体において、優れた可撓性及び難燃性を有する複合磁性体から成る電磁干渉抑制体を提供することにある。
【0015】
【0016】
【0017】
また、本発明の他の目的は、可撓性に富み、例えば、FPC、FFC、電子機器の筐体の曲面にも貼着可能で、しかも優れた難燃性を有する電磁波干渉抑制体を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、軟磁性体粉末と有機結合剤とから実質的になる電気的に非良導性の複合磁性体からなる電磁干渉抑制体であって、
前記電磁干渉抑制体は、互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴を有し、異方性磁界(Hk)によって生じるマイクロ波周波数領域に出現する複数の磁気共鳴のうち少なくとも2つの磁気共鳴を備え、
前記有機結合剤は、塩素化ポリエチレンであり、
前記軟磁性体粉末は、表面に酸化物層を備えている金属磁性体であり、
前記互いに異なる周波数領域に出現する複数の磁気共鳴は、
互いに異なる大きさを有する複数の異方性磁界(Hk)によってもたらされ、
前記複合磁性体は前記複数の磁気共鳴を備え、前記複数の磁気共鳴の内の夫々は、異なる大きさの異方性磁界に対応して互いに異なる周波数領域に出現し、
前記複数の磁気共鳴の内最も低いものは、前記複合磁性体層によって生じる電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域にあり、且つ、
前記複数の磁気共鳴は、軟磁性の磨耗粉の混入による汚染現象の利用、又は、同一種軟磁性体粉末の複合体中での存在形態の違いの利用によりもたらされたものであること
を特徴とする電磁干渉抑制体が得られる。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係る複合磁性体及びその製造方法並びに電磁干渉抑制体の実施形態について説明する。
【0028】
所望の磁気損失特性に対応する必要な大きさの異方性磁界(Hk)を与える複合磁性体を得るには、形状磁気異方性、結晶磁気異方性、誘導磁気異方性或いは磁気弾性効果(磁歪)による異方性のいずれか若しくはその複数を有する軟磁性粉末を用いれば良い。即ち、本発明において、複数の互いに異なる周波数の磁気共鳴及びそれに対応する帯域拡張された磁気損失を得るためには、互いに異なる大きさの異方性磁界(Hk)を有する複数の磁性粉末を混合すればよい。
【0029】
これ以外に複数の磁気共鳴を得る手段として、以下に述べる粉末及び粉末複合体特有の性質或いは粉末の粉砕・展延プロセスを積極的に利用することも可能である。
【0030】
即ち、第1に単一原料種を特定の条件下で加工することにより得られる粉体特性の分化を利用する方法がある。第2に粉体の粉砕・展延加工に用いる粉砕メディアをスチール球の様な軟磁性メディアとすることで、メディアの磨耗により軟磁性の磨耗粉が混入するいわゆる汚染現象を積極的に利用する方法がある。また、第3には、単一種粉末の複合体中での存在形態の違いを利用する方法がある。例えば、粒子群間において、磁気的相互作用や配向挙動が異なるために異方性磁界が分散する。一つの粒子群は、同一マトリクス中に一次粒子として存在する。もう一つの粒子群は、凝集してその内部のぬれが不十分でその為に粒子間が極めて接近或いは接触しているものである。
【0031】
更には、試料の形状が薄膜状、シート状であれば実効的異方性磁界は試料形状による反磁界との代数和となるので、原料磁性粉末の配向制御も積極的に利用できる。
【0032】
本発明に於いて利用する複数の異方性磁界を得る手段としては、これらのいずれの方法を用いても良い。所望の磁気損失帯域が得られるように複数の異方性磁界を与えることが重要である。特に、その内最も低周波数側に出現する磁気共鳴を与える異方性磁界については、虚数部透磁率(磁気損失)の分散が実数部透磁率の減少に伴って生じる事を踏まえて、所望する電磁干渉抑制周波数帯域の下限よりも低い周波数領域に磁気共鳴を与える値に設定する必要がある。
【0033】
ここで、本発明に於いて用いることの出来る軟磁性粉末としては、高周波透磁率の大きな鉄アルミ珪素合金(センダスト)、鉄ニッケル合金(パーマロイ)或いはアモルファス合金等の金属軟磁性材料を粉砕、延伸〜引裂加工或いはアトマイズ造粒等により粉末化したものを代表として挙げることが出来るが、本発明の必要要素である複合磁性体の非良導性を軟磁性粉の高充填状態においても確保出来る様少なくともその表面が酸化され、それによって個々の粒子が電気的に隔離されることが望ましい。
【0034】
【0035】
一方、本発明の副材料として用いる有機結合剤としては、本発明の意図する効果を得るために、即ち、優れた可撓性及び難燃性を得るために、塩素化ポリエチレンを用いている。
【0036】
以上述べた本発明の構成要素を混練、分散し複合磁性体を得る手段には特に制限はなく、用いる結合剤の性質や工程の容易さを基準に好ましい方法を選択すればよい。
【0037】
また、本発明の電磁干渉抑制体は、互いに異なる大きさの複数の異方性磁界(Hk)を有し、それに伴い相異なる周波数領域に複数の磁気共鳴が出現する。その為、該複数の磁気共鳴に伴って相異なる周波数領域に現れる虚数部透磁率μ″が重畳され、その結果広帯域なμ″分散特性を得ることが出来る。ここで、虚数部透磁率μ″は、電磁波の吸収に必要な磁気損失項であり、μ″の値が大きく且つ広帯域に亘っている事により優れた電磁干渉抑制効果が現れる。
【0038】
また、本発明に用いられる軟磁性粉末は、少なくともその表面が酸化されているために、粉末の充填率が高い場合に於いても個々の粒子が電気的に隔離された状態で存在することになり、良導性のバルク体にみられるような渦電流損失による周波数特性の劣化が少ないばかりでなく、空間とのインピーダンス不整合による表面での電磁波の反射が起こりにくくなり、高周波領域にて優れた電磁干渉抑制効果を発揮する事が出来る。
【0039】
【実施例】
以下、本発明の複合磁性体及びその製造方法並びに電磁干渉抑制体の実施例について説明する。
【0040】
先ず、下記の表1に示すように、軟磁性体粉末(Fe-Al-Si合金で、平均粒径が35μm、アスペクト比が5以上)80重量部と、チタネート系カップリング処理剤0.8重量部とをミキサーで撹拌し、軟磁性体粉末を予めカップリング処理しておく。次に、表1に示すように、このカップリング処理を施した軟磁性体粉末80重量部と、有機結合剤(塩素化ポリエチレン)20重量部とをニーダーで混練することにより、複合磁性体が得られる。
【0041】
そして、得られた複合磁性体を平行に配置したロールに間に通して圧延し、シート状にする。このような複合磁性体を利用すれば優れた可撓性及び難燃性を有する電磁干渉抑制体が得られる。
【0042】
【表1】

【0043】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の電磁干渉抑制体は、互いに異なる大きさの複数の異方性磁界(Hk)を有し、それに伴い相異なる周波数領域に複数の磁気共鳴が出現するので、広帯域なμ″分散特性が得られる。この虚数部透磁率μ″は、電磁波の吸収に必要な磁気損失項であり、μ″の値が大きく且つ広帯域に亘っている事により優れた電磁干渉抑制効果が現れる。即ち、移動体通信機器をはじめとする高周波電子機器類内部での電磁波の干渉抑制に有効な薄厚の電磁干渉抑制体を提供することが出来る。
【0044】
更に、本発明の電磁干渉抑制体は、有機結合剤として塩素化ポリエチレンを用いた結果、優れた可撓性及び難燃性を具備することに成り、従って、本発明の電磁干渉抑制体は、例えば、FPC、FFCへの貼着が可能と成り、また、例えば、電子機器の複雑な形状の筐体にも貼着が可能と成り、しかも厳しい耐火要求にも対応できるように成った。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-12-09 
出願番号 特願平8-231957
審決分類 P 1 651・ 537- YA (H01F)
P 1 651・ 572- YA (H01F)
P 1 651・ 574- YA (H01F)
P 1 651・ 536- YA (H01F)
P 1 651・ 121- YA (H01F)
最終処分 維持  
特許庁審判長 松本 邦夫
特許庁審判官 浅野 清
橋本 武
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3404618号(P3404618)
権利者 NECトーキン株式会社
発明の名称 電磁干渉抑制体  
代理人 池田 憲保  
代理人 山本 格介  
代理人 山本 格介  
代理人 池田 憲保  

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