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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01J
管理番号 1132612
異議申立番号 異議2003-73863  
総通号数 76 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-08-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-12-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3471465号「プレス性及びエッチング性に優れたシャドウマスク用材料」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3471465号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3471465号の請求項1に係る発明についての出願は、平成7年1月27日に出願され、平成15年9月12日にその特許権の設定がなされたものである。
これに対して、芝 町子より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年10月12日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正請求の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至cのとおりに訂正するものである。
(1)訂正事項a:特許明細書の段落【0010】の「Cr:0〜3重量%」を「Cr:3重量%以下」と、また「有効な合金元素であり、必要に応じて添加される。」を「有効な合金元素である。」と、さらに「欠点をもつことから、Crを添加する場合、Cr添加量」を「欠点をもつことから、Cr添加量」と、それぞれ訂正する。
(2)訂正事項b:特許明細書の段落【0010】の「Si:0〜1重量%」を「Si:1重量%以下」と訂正する。
(3)訂正事項c:特許明細書の段落【0010】の「Mn:0〜1重量%」を「Mn:1重量%以下」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項a乃至cは、Cr、Mn及びSiの含有量の規定振りを特許請求の範囲の規定振りと一致させると共に、これら成分が本件発明の必須成分であることを明確にするものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
そして、上記訂正事項a乃至cは、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

2-3.まとめ
したがって、上記訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)は、特許明細書の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】Ni:34〜39重量%、Cr:3重量%以下、Si:1重量%以下、Mn:1重量%以下を含み、残部が実質的にFeの組成をもち、軟化焼鈍後において{111}の面強度比が30〜45%、{200}の面強度比が30〜45%の集合組織をもち、伸びが20%以上で、200℃での0.05%耐力が120N/mm2以下であるプレス性及びエッチング性に優れたシャドウマスク用材料。」

4.特許異議申立てについて
4-1.特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第3号証を提出して、次のとおり主張している。
(1)本件発明1は、その出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
(2)本件発明1は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を参照すれば、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(3)本件特許明細書は、本件発明1の集合組織の面強度比を得るための手段について当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載するものではないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4-2.証拠の記載内容
特許異議申立人が提出した上記甲第1号証乃至甲第3号証には、それぞれ次の事項が記載されている。
(1)甲第1号証:特開平3-267320号公報
(1a)「Fe及びNiを主成分とした低熱膨張合金を原板として、冷間圧延とこれに引続く再結晶焼鈍を行ったのち、圧延率が5〜20%の範囲で仕上冷間圧延することを特徴とするシャドウマスク用素材の製造方法。」(特許請求の範囲)
(1b)「本発明は温間プレス前の軟化焼鈍を800℃未満の温度で行い、プレス成形性に優れた低強度のシャドウマスク用素材の製造方法を提供しようとするものである。」(第2頁左上欄11〜14行)
(1c)「このように、750℃軟化焼鈍材の200℃引張試験における0.2%耐力は、仕上冷延率が5%未満あるいは20%を超えると10kg/mm2を超えるため温間プレス時に問題となる。仕上冷延率が5〜20%の範囲では0.2%耐力は10kg/mm2以下となり、830℃軟化焼鈍材と同等に軟化してプレス成形性の良好なシャドウマスク用材料が得られる。」(第2頁右下欄8〜14行)
(1d)「以下、本発明の具体的実施例について説明する。
C:0.0018%、Si:0.19%、Mn:0.27%、P:≦0.002%、 S:≦0.0005%、Ni:36.43%、Cr:≦0.01%、Al:0.00 5%、N:0.0018%、O:0.0025%、B:0.0020%
残部Feからなる熱延板を用いて冷間圧延し、板厚0.3mmの冷延板とした後、Arガス雰囲気中で850℃×1分の再結晶焼鈍を施した。その後、軟化焼鈍をそれぞれ700℃、730℃、750℃、830℃、930℃で各々60分の処理を90%N2+10%H2の混合ガス雰囲気中(露点+6℃)で行った。当該試料から引張試験片を採取して200℃にて試験を行い、0.2%耐力を求めた結果を第1表に示す。」(第3頁左上欄4行〜末行)
(1e)「製造方法Bは、本発明範囲にある仕上冷延率15%のものである。製造方法Bにおいては、軟化焼鈍温度が730℃以上で0.2%耐力が10kg/mm2以下になり、プレス成形性の良好なレベルまで強度が低下している。」(第3頁右上欄1〜5行)
(2)甲第2号証:特開昭60-251227号公報
(2a)「Ni:30〜45%、Co:0.05〜1.0%、Cr:0.10〜5.0%を含有するFe-Ni系鋼の熱延板を冷間圧延して薄鋼板を製造するに際し、最終冷間圧延前および最終冷間圧延後の焼鈍温度を800℃以上1200℃以下でかつ第1図ABCDAの範囲内の温度とすることを特徴とする低熱膨張Fe-Ni系鋼板の製造方法。」(特許請求の範囲)
(2b)「本発明は、テレビ受像管用シャドウマスクやICリードフレーム等の各種の機能材料として用いられる低熱膨張鋼板の製造法に関するものである。」(第1頁左欄14〜16行)
(2c)「本発明者は以上の問題点を改善すべくNi30〜45%から成るFe-Ni鋼板をベースとして合金添加の効果及び冷間圧延製造条件の影響に注目して種々の実験を試みた結果、ベース成分に微量のCoとCrを含有させたうえ、更に最終冷間圧延前後の焼鈍温度を適正範囲に制御することにより熱膨張が小さくて耐銹性に優れると同時に軟質で加工性に優れたFe-Ni系薄鋼板が得られることを見い出し、本発明に到達した。」(第2頁左上欄6〜14行)
(3)甲第3号証:特開昭61-113747号公報
(3a)「(1)重量%でC:0.030%以下、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、Ni:35.0〜37.0%、残部Fe及び不可避不純物からなるエッチング穿孔性に優れたシャドウマスク材。
(2)重量%でC:0.030%以下、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.1〜1.0%、Cr:0.1〜1.0%、O:0.005%以下、Ni:35.0〜37.0%、残部Fe及び不可避不純物からなるエッチング穿孔性に優れたシャドウマスク材。」(特許請求の範囲)
(3b)「本発明者らはかかる点に鑑み、種々の研究を行った結果、低Cのインバー合金に微量Crを添加し、さらにO含有量を制御することでエッチング速度が改良され、エッチング穿孔性が改善されることを見いだしたものであり」(第2頁左上欄1〜5行)
(3c)「Cr:Crが0.1%より少ないとエッチング速度が遅い。又Crが1.0%を超えると熱膨張係数が大きくなり色ずれの原因となる。よって、その成分範囲を0.1〜1.0%とする。」(第2頁右上欄下から2行〜左下欄2行)

4-3.当審の判断
(1)上記(1)の主張について
本件発明1は、本件特許明細書の記載から明らかなように、軟化焼鈍後において「{111}の面強度比が30〜45%、{200}の面強度比が30〜45%の集合組織」に制御して、伸びが20%以上で、200℃での0.05%耐力が120N/mm2以下であるプレス性及びエッチング性に優れた「シャドウマスク用材料」とした点に特徴を有するものである。これに対し、甲第1号証に記載されている「シャドウマスク用材料」は、甲第1号証の特に上記(1a)及び(1c)の記載から明らかなように、「再結晶焼鈍後において「仕上冷延率を5〜20%の範囲」に制御して、0.2%耐力が10kg/mm2以下であるプレス成形性の良好な「シャドウマスク用材料」に関するものであるから、両者は、そのプレス成形性の改善手段が別異のものである。
してみると、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではないと云うべきである。
特許異議申立人は、本件特許明細書に記載された実施例の製造条件と甲第1号証に記載された製造条件とが一致するから、甲第1号証に記載された「シャドウマスク用材料」も、本件発明1のような集合組織を有していると主張している。
しかしながら、シャドウマスク用材料の集合組織の制御は、分塊、熱延、焼鈍、冷延、仕上焼鈍、仕上冷延及び軟化焼鈍等一連の製造工程の各条件を調整してなされることは周知の事実であるところ、甲第1号証に記載された製造条件がこれら条件の点で完全に一致しているとは云えないし、甲第1号証には、集合組織の制御について示唆する何らの記載もない。そして、本件発明1の「シャドウマスク用材料」と甲第1号証に記載された「シャドウマスク用材料」とは、前示のとおり、そのプレス成形性の課題を解決するための技術思想や具体的な手段が全く別異のものであるから、製造条件の一部が一致しているだけでは甲第1号証に記載された「シャドウマスク用材料」も本件発明1のような集合組織を有しているとまでは云うことができない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。

(2)上記(2)の主張について
特許異議申立人が提出したその余の甲第2号証及び甲第3号証にも、本件発明1の集合組織の制御と伸びやプレス成形性との関係について何ら記載されていないから、本件発明1は、甲第2号証及び甲第3号証の記載を参酌しても、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは云えない。
したがって、特許異議申立人の上記主張(2)も、採用することができない。

(3)上記主張(3)について
本件特許明細書の段落【0011】には、本件発明1の集合組織の面強度比とするための焼鈍条件が記載され、また段落【0013】乃至【0015】には、シャドウマスク用素材とするための一連の具体的な製造条件が記載されているから、これら条件をその範囲内で集合組織に係る技術常識に基づいて適宜組み合わせれば本件発明例と比較例とを造り分けて当業者が容易に実施することができたと云うべきである。そして、このことは、表2に具体的なデータを示す試験番号1乃至3の本発明例と試験番号4乃至9の比較例がそれぞれ記載されていることからも明らかである。
したがって、特許異議申立人の上記主張(3)も、採用することができない。

5.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由によっては本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
プレス性及びエッチング性に優れたシャドウマスク用材料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】Ni:34〜39重量%,Cr:3重量%以下,Si:1重量%以下,Mn:1重量%以下を含み、残部が実質的にFeの組成をもち、軟化焼鈍後において{111}の面強度比が30〜45%,{200}の面強度比が30〜45%の集合組織をもち、伸びが20%以上で、200℃での0.05%耐力が120N/mm2以下であるプレス性及びエッチング性に優れたシャドウマスク用材料。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、エッチング性及びプレス性に優れた高品質のシャドウマスク用材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
カラーテレビ用ブラウン管,OA機器用ディスプレイ等の受像管には、多数の電子ビーム通過孔が形成されたシャドウマスクが組み込まれている。電子銃から射出された電子ビームは、特定の電子ビーム通過孔を通過し、各色調に応じてそれぞれの蛍光部にビームスポットを投影する。
シャドウマスク用材料としては、電子ビーム通過孔が高精度で形成されるようにエッチング性に優れていることが要求される。この点で、低炭素Alキルド鋼がシャドウマスク用材料として従来から使用されている。しかし、シャドウマスクは、電子ビームの衝突によって加熱され、熱膨張する。熱膨張は、電子ビーム通過孔を変位させ、電子ビームが所定の蛍光面に当らなくなるドーミング現象の原因となる。
【0003】
ドーミング現象は、テレビ,ディスプレイ等の高精密化や高輝度化に伴って大きな問題となっている。ドーミング現象を抑制するために、発生原因である熱膨張に起因した電子ビーム通過孔の変位を小さくする低熱膨張特性をもつ材料の使用が検討されている。たとえば、特開昭61-78033号公報,特公平4-56107号公報等では、シャドウマスク用材料としてFe-36%Ni系アンバー合金が紹介されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
Fe-36%Ni系アンバー合金は、多量のNiを含んでいることから低炭素Alキルド鋼に比較して素材価格が高いことは勿論、高強度のためプレス成形性に劣っている。また、ヤング率が低く、シャドウマスクに必要な剛性が不足し、エッチング速度が遅く、エッチング穿孔性にも問題がある。
プレス成形性は、0.2%耐力の低下,結晶粒径の適正化等で向上する。たとえば、Cr,Mnの添加により0.2%耐力を低下させる方法(特開昭61-78033号公報),結晶粒度を規制する方法(特開昭61-157662号公報,特開昭62-112759号公報,特開平2-305941号公報)等が知られている。また、更にC含有量を低減することによってプレス成形性を改善することも試みられている。
【0005】
しかし、フラット化が進行している近年のブラウン管画面に適したシャドウマスクに関しては、これらの方法でプレス成形性が改善された材料であっても依然として要求特性を満足しない。そのため、シャドウマスクのプレス成形不良を完全に無くすことはできず、形状不良に起因して歩留まりの低下や品質の低下を引き起こす原因となっている。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、成分が特定されたFe-Ni系合金を軟化焼鈍した後の集合組織を制御することにより、Fe-Ni系合金のエッチング性及びプレス成形性を向上させ、高品質のシャドウマスク用材料を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のシャドウマスク用材料は、その目的を達成するため、Ni:34〜39重量%,Cr:3重量%以下,Si:1重量%以下,Mn:1重量%以下を含み、残部が実質的にFeの組成をもち、軟化焼鈍後において{111}の面強度比が30〜45%,{200}の面強度比が30〜45%の集合組織をもち、伸びが20%以上で、200℃での0.05%耐力が120N/mm2以下であることを特徴とする。
【0007】
【作用】
シャドウマスクは、通常、次の工程を経て製造されている。
溶製→分塊→熱延→酸洗→冷延→光輝焼鈍→冷延→エッチング→軟化焼鈍→プレス加工→黒化処理
黒化膜の形成に先立って行われるプレス加工において、Fe-36%Ni系合金は、200℃前後の温度に加熱され、所定形状の金型を使用してシャドウマスク形状に成形される。プレス不良は、プレス成形時にシャドウマスクの湾曲面の一部に陣笠状のヘコミとして発生するものであり、被加工材料の伸びが低く耐力が高いことに原因があると考えられている。
しかし、フラット化の進展が著しい近年のブラウン管画面に組み込まれるシャドウマスクに対しては、従来からプレス成形性の評価として使用されている0.2%耐力では十分に評価することができない。本発明者等の調査・研究によるとき、0.2%耐力に替えて歪み量0.05%での耐力を使用すると、プレス成形性を正確に評価できることが判った。0.05%耐力は、歪み量が極めて小さく、すなわち弾性領域に近い塑性領域での変形挙動を表し、曲率の大きなシャドウマスクの成形を考慮したプレス成形性の評価指標として有効である。
【0008】
本発明者等は、更に調査・研究を進め、0.05%耐力,伸び及び金属組織の面から、200℃前後の温間におけるプレス成形性について詳細に検討した。その結果、軟化焼鈍材において、伸びが20%未満で、且つ200℃での0.05%耐力が120N/mm2を超えると、プレス不良が発生することを見い出した。また、調査過程で、伸びと集合組織との間に相関関係があることを解明した。
集合組織に関しては、Fe-Ni系合金のエッチング性に影響することが従来から知られている。たとえば、特開昭62-243782号公報は、圧延面に{100}結晶面を集合させ、表面粗さを規制するとき、エッチングスピードが向上することを報告している。特公平2-9655号公報は、{100}結晶面を35%以上集合させるとき、高精度で且つ均一なエッチングが可能になることを開示している。しかし、シャドウマスク用Fe-Ni系合金について、プレス成形性の観点から集合組織を調査した例は、今までのところ知られていない。
【0009】
本発明者等は、この集合組織が機械的性質に影響を及ぼす因子であることに着目し、集合組織と機械的性質との相関関係を詳細に調査した。そして、{111}の面強度比が30〜45%,{200}の面強度比が30〜45%の集合組織が形成されたとき、伸びが20%以上になることを見い出した。そして、この場合の200℃での0.05%耐力が120N/mm2以下になると、プレス成形性が改善されるとの知見を得た。本発明は、このような0.05%耐力,伸び及び金属組織等に関する調査・研究の結果として完成されたものである。
以下、本発明シャドウマスク用材料に含まれる合金元素等を説明する。
Ni:34〜39重量%
Fe-Ni系合金の熱膨張係数を低く維持する上で重要な合金元素である。Ni含有量が34〜39重量%の範囲を外れると、熱膨張係数が増大し、シャドウマスクとして使用したときに熱変形に起因するドーミング現象が現れ易くなる。また、39重量%を超える多量のNiが含まれると、耐力が上昇し、成形性が低下する。
【0010】
Cr:3重量%以下
Fe-Ni系合金のエッチング速度を増大させる有効な合金元素である。Crの効果は、0.001重量%以上の含有量で顕著になる。しかし、熱膨張係数を増加させる欠点をもつことから、Cr添加量の上限を3重量%に設定した。
Si:1重量%以下
脱酸剤として添加される元素であり、所望の脱酸効果を得るためには0.001重量%以上のSiを含有させることが好ましい。しかし、1重量%を超えるSi含有量は、Fe-Ni系合金の熱膨張係数を大きくすると共に、仕上げ焼鈍された合金素材の表面に酸化物を形成し、エッチング性や黒化膜特性を劣化させる。
Mn:1重量%以下
脱酸剤として添加される元素であり、所望の脱酸効果を得るためには0.01重量%以上のMnを含有させることが好ましい。しかし、1重量%を超えるMn含有量では、Fe-Ni系合金の熱膨張係数が大きくなり、ドーミング現象が生じ易くなる。
【0011】
集合組織
以上に規制した合金元素を含有するFe-Ni系合金を冷間圧延した後、還元雰囲気中での光輝焼鈍を施し、引き続き仕上げ圧延する。そして、焼鈍後に集合組織の{111}の面強度比が30〜45%,{200}の面強度比が30〜45%となるように軟化焼鈍する。焼鈍条件としては、温度700〜100℃,好ましくは750〜950℃の温度範囲,1気圧の大気下での露点-20〜+30℃の範囲が好適である。その結果、軟化焼鈍された材料は、伸びが29%以上,200℃での0.05%耐力が120N/mm2以下となり、エッチング性及びプレス成形性に優れたシャドウマスク用材料となる。
【0012】
集合組織の{111}面強度比及び{200}面強度比は、図1の(a)及び(b)にそれぞれ示すように、伸びとの間に相関関係を持っている。{111}面強度比が30%以上で{200}面強度比が45%以下のとき、20%以上の伸びが得られており、プレス成形性が向上する。また、伸びと0.05%耐力との間には図2に示す相関関係が成立しており、伸びが20%以上で0.05%耐力が120N/mm2以下となり、プレス成形性が向上する。
集合組織は、エッチング性にも影響する。図1における黒丸は、エッチング性が不良のものを示す。図1(a)に示されるように{111}面強度比が45%以下であれば、良好なエッチング性が得られている。また、図1(b)から、{200}面強度比が30%以上で良好なエッチング性が得られている。これらの点から、本発明では、{111}面強度比を30〜45%,{200}面強度比を30〜45%の範囲に定めた。
【0013】
【実施例】
表1に示すFe-Ni系合金をVODプロセスで溶製し、分塊工程を経て板厚6mmの熱延コイルを製造した。熱延コイルを更に冷延し、板厚0.3mmの冷延板を得た。
【0014】
【表1】

【0015】
冷延板に対し、還元雰囲気中で750〜1050℃に加熱する仕上げ焼鈍を施し、次いで圧下率5〜25%の仕上げ圧延を行った。得られた板材をエッチングした後、650〜800℃の軟化焼鈍を施した。
軟化焼鈍された板材から試験片を切り出し、集合組織,引張り特性,プレス性及びエッチング性を調査した。調査結果を表2に示す。
集合組織はX線回折装置で観察し、次式に従って測定データから{111}面強度比及び{200}面強度比を算出した。ただし、I(hkl)は、X線回折による結晶面(hkl)の積分強度とした。
{111}面強度比=I(111)/[I(111)+I(220)+I(311)+I(200)]
{200}面強度比=I(200)/[I(111)+I(220)+I(311)+I(200)]
【0016】
引張り特性は、室温及び200℃で引張り試験を行い、引張り試験後の室温での伸び及び200℃での0.05%耐力を測定した。
プレス成形性は、素材をシャドウマスクに成形した後、マスク形状に発生した不良の有無を目視観察することにより判定した。そして、プレス設計曲率に対してズレが±5%以内のものを○,へこみの発生によりズレが±5%を超えたものを×として評価した。
エッチング性は、シャドウマスクパターンを用いて穿孔加工した後、穿孔径の精度,テーパー部のがさつき等を検査し、穿孔径の精度が5%以下で、テーパ部のがさつきがないものを○,精度が5%を超えたもの又はがさつきのあるものをを×として評価した。
【0017】
【表2】

【0018】
表2から明らかなように、集合組織が{111}面強度比30〜45%,{200}面強度比30〜45%の条件下で製造された試験番号1〜3の板材は、伸びが20%以上,200℃での0.05%耐力が120N/mm2以下となり、良好なプレス成形性及びエッチング性を示していた。
これに対し、試験番号4,5の比較例では、{200}面強度比が30%未満であり、伸びが大きく、0.05%耐力が120N/mm2以下であることから、良好なプレス成形性を呈したものの、エッチング時に孔精度が悪くがさつきのある孔が穿孔された。試験番号6〜8の比較例では、{200}面強度比が45%を超えており、板材の伸びが20%以下と小さく、0.05%耐力も130N/mm2と高い値を示した。そのため、エッチング性が良好であったものの、プレス成形性に劣っていた。試験番号9の比較例では、集合組織が{111}面強度比30%未満,{200}面強度比45%以下の条件下で板材が製造されており、伸びが20%未満,0.05%耐力が121N/mm2で、プレス成形性及びエッチング性の双方に劣っていた。
この対比から明らかなように、{111}面強度比30〜45%,{200}面強度比30〜45%の集合組織を持つ材料は、伸びが大きく、温間の0.05%耐力が120N/mm2以下の低い値になっており、良好なプレス成形性及びエッチング性を備えていることが判る。
【0019】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のシャドウマスク用材料は、軟化焼鈍後の集合組織を{111}面強度比30〜45%,{200}面強度比30〜45%とすることにより、板材が軟質化され、プレス成形性及びエッチング性の双方に優れている。しかも、黒化膜密着性も良好で、高精密化,高輝度化,大型化,フラット化が著しい傾向にあるテレビ用ブラウン管やOA機器用ディスプレイ等に使用される低熱膨張特性を活用したシャドウマスク用材料となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】軟化焼鈍材の伸びと集合組織の面強度比との関係
【図2】軟化焼鈍材の伸びと0.05%耐力との関係
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-16 
出願番号 特願平7-31553
審決分類 P 1 651・ 536- YA (H01J)
P 1 651・ 113- YA (H01J)
P 1 651・ 121- YA (H01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 堀部 修平  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 高木 康晴
平塚 義三
登録日 2003-09-12 
登録番号 特許第3471465号(P3471465)
権利者 日新製鋼株式会社
発明の名称 プレス性及びエッチング性に優れたシャドウマスク用材料  
代理人 小倉 亘  
代理人 岡田 萬里  
代理人 小倉 亘  
代理人 岡田 萬里  

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