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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 D21H |
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管理番号 | 1132619 |
異議申立番号 | 異議2003-72745 |
総通号数 | 76 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-09-03 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-11-07 |
確定日 | 2006-02-13 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第3453624号「製紙方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3453624号の請求項1に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3453624号の請求項1に係る発明についての出願は、平成 7年 2月17日に出願され、平成15年 7月25日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、荒川化学工業株式会社(以下、「第1申立人」という。)より特許異議の申立て(以下、「第1異議申立て」という。)がされ、また、星光PMC株式会社(以下、「第2申立人」という。)より特許異議の申立て(以下、「第2異議申立て」という。)がされ、その後、取消理由が通知され、その指定期間内の平成17年 7月25日付けで意見書が提出されたものである。 2.本件特許明細書の記載 本件特許査定時の明細書(以下、「本件特許明細書」ということがある。)の特許請求の範囲の請求項1には、次のとおり記載されている。 「【請求項1】 パルプスラリーに両性、カチオン性およびアニオン性ポリアクリルアミド系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を添加して抄紙するにあたり、 パルプスラリーに添加する希釈された両性、カチオン性およびアニオン性ポリアクリルアミド系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の0.2〜3重量%の希釈液に、水溶性アルミニウム化合物を希釈した水溶液を予めアルミニウムイオン換算でポリマーに対し10〜100モル%添加して混合する工程と、該混合希釈液を混合後10時間以内にパルプスラリーに添加する工程とからなることを特徴とする製紙方法。」 3.特許異議の申立て及び取消理由の概要 (1)第1異議申立ての概要 第1申立人は、下記甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、または、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、取り消されるべきものである旨主張している。 記 甲第1号証:特開昭55-1308号公報 甲第2号証:特開昭62-299599号公報 (2)第2異議申立ての概要 第2申立人は、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提出して、(イ)願書に最初に添付した明細書に記載された発明とは異なる趣旨の補正がされているから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第17条の2第2項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである旨、(ロ)本件請求項1に係る発明は、甲第1ないし第3号証のいずれかに記載された発明に基づいて、又は甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、取り消されるべきものである旨、また、(ハ)本件特許明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載には不備があるから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第5項第2号及び第6項並びに同法同条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである旨、主張している。 記 甲第1号証:特公平6-11956号公報 甲第2号証:特開昭55-122099号公報 甲第3号証:特開昭55-1308号公報 (3)通知した取消理由の概要 当審が、平成17年 5月13日付けで通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。 本件特許明細書の請求項1の記載において、「アルミニウムイオン換算でポリマーに対し10〜100モル%」を規定している点は、発明が特定できず、不明である。 したがって、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 4.通知した取消理由についての当審の判断 (1)本件特許明細書の請求項1には、上記「2.本件特許明細書の記載」のとおり記載されており、「両性、カチオン性およびアニオン性ポリアクリルアミド系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種」に、「水溶性アルミニウム化合物」を「アルミニウムイオン換算」で「ポリマーに対し10〜100モル%添加して混合する」ことが記載されていると認められる。 上記「ポリマーに対し10〜100モル%添加」との記載によれば、添加量をモル%で表記していることから、「ポリマー」の1モル量に対して、上記「水溶性アルミニウム化合物」を「アルミニウムイオン換算」で10〜100モル%、即ち0.1〜1モル量の割合で使用すると解される。 しかし、高分子化合物分子単位で考えた場合、その個々の分子量の違いにより、同一重量であっても高分子化合物のモル数は異なることから、また、高分子化合物は、通常、分子量が異なる分子の集合体であって分子量分布を有することから、事実上、高分子化合物分子単位を基準として、これに対して添加する量を「モル%」で規定することは技術的意味内容が不明であり、本件発明が明確ではない。 そして、高分子化合物の分子量分布を考慮して、高分子化合物の分子量は、通常、平均分子量で表記されることから、仮に、上記記載が、「ポリマー」の平均分子量を基準とした「モル%」の意味であると解した場合、平均分子量には、重量平均分子量、数平均分子量、粘度平均分子量等があり、通常、それぞれ異なった値をとることは、当業者に周知の技術的事項であり、やはり、「ポリマーに対し」とは如何なることか一義的に定まらず、特許請求の範囲の記載は明確ではない。また、ポリマーの平均分子量を基準とする意味とするには、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項、例えば、実施例、比較例等を精査してみても、上記「ポリマー」の平均分子量について、また、その平均分子量の種別について、何ら記載されておらず示唆もなく、規定されていないのであるから、明細書の記載に基づかないものであり、この場合においても、やはり、「ポリマーに対し」添加する量を「モル%」で一律に規定することは記載として明確ではない。 ところで、 本件特許権者は、平成15年 3月 7日付けで提出した審査段階における意見書において、「アルミニウム化合物はポリマー中の各単量体と反応しますので、本願発明では、その量はアルミニウムイオン換算でポリマー単量体単位に対するモル%で特定しています。」、「アルミニウム化合物のポリマーへの添加割合をモル%で規定するときにはポリマーの単量体単位に対してでないと特定できず、本願発明の『・・・アルミニウムイオン換算でポリマーに対し10〜100モル%・・・』の記載が『アルミニウム化合物の単量体に対する割合』を意味していることは当業者には自明の事項であり」等と主張しているが、上記「ポリマー」は、専ら、アクリルアミド等のアクリルアミド系単量体と、アクリル酸等のアニオン性単量体及び/又はジメチルアミノエチルメタクリレート等のカチオン性単量体と、場合により(メタ)アクリロニトリル等のノニオン性単量体とを、共重合させることにより得られる共重合体である。そして、「アルミニウム化合物」と、アクリルアミド系単量体に由来する繰り返し単位、及びノニオン系モノマーに由来する繰り返し単位を含め、「ポリマー」を構成する全繰り返し単位である各単量体と反応することは想定できず、また、上記主張に係る「ポリマーの単量体単位」ないし「単量体」が、上記共重合体において具体的に何を指すものかも、不明であるから、特許権者の主張は根拠がないものである。 また、本件特許権者は、平成17年 7月25日付けで提出した特許異議意見書において、「請求項1における『ポリマーに対し10〜100モル%』を、ポリマー分子に対するモル数と解することは当業者の技術常識に反し、到底採用できないこと」(第2頁10〜12行)であると反論した上で、「本件特許発明では水溶性アルミニウム化合物はアルミニウムイオンとしてポリマー中のアニオン基と反応し、イオン的に架橋化すると理解され」(第2頁22〜23行)るとし、上記「アルミニウム化合物はポリマー中の各単量体と反応します」との主張とは、基本的に整合しない見解を示しつつ、「ポリアクリルアミド系ポリマーを構成する単量体(アニオン性単量体を含む単量体)を1つの単位として想定し、水溶性アルミニウム化合物の混合量を規定している、つまり単量体の平均分子量を基準として水溶性アルミニウム化合物の混合量を算出していると理解するのが相当であります。」(第3頁4〜7行)と主張している。しかし、アニオン性単量体の使用量(使用割合)及び価数(即ち、用いるアニオン性単量体の1分子中に含まれるカルボキシル基のアニオン性基の数)を全く無視し、しかも、アクリルアミド系単量体、アニオン性単量体、カチオン性単量体及びノニオン性単量体を何ら区別することなく、「単量体の平均分子量」を基準にすべきことには、技術的にみて論理的な根拠も論理的な一貫性もない。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項、例えば、実施例、比較例等を精査してみても、特許請求の範囲に「ポリマー」と明記されているものが、当然に「単量体単位」ないし「単量体」を意味するものであるとの記載もなければ、記載されているに等しいとするべき記載も示唆もなく、何ら根拠のない主張であるから、そのように記載されているものと解することはできない。また、上記「単量体の平均分子量」についてみても、同様に、ポリマーを構成する各単量体、それぞれの分子量ではなく、単量体の平均分子量という概念を形成し、それを基準にするということが、特許明細書に記載されていた事項であるともいえないし、示唆されている事項であるともいえず、さらには、技術常識であるともいえず、何ら根拠のない主張であるから、そのように記載されているものと解することはできない。 したがって、上記のとおり、上記請求項1に「ポリマー」と記載されているものを、「単量体単位」ないし「単量体」と読み替えるべきであるとする旨の本件特許権者の主張は、本件特許明細書の記載事項に基づくものでなく、前記主張には採用すべき理由が全くない。 よって、上記請求項1において、「ポリマー」に対し「モル%」を規定している点は文意不明であり、当該記載では、本件請求項1に係る発明を特定することができず、該発明が明確ではない。 (2)上記請求項1に記載の「アルミニウムイオン換算」に関し、換算すべきものが、「水溶性アルミニウム化合物」に含まれる3価の「アルミニウムイオン」、即ち、「Al3+」の量の意味であると解することもできるし(この場合、「アルミニウム原子換算」と同じ結果となる)、また、3価の「アルミニウムイオン」が、カルボキシル基等に由来する3個のアニオンと3個のイオン対を形成するとの理解に基づき、「Al3+」の量の1/3(1価カチオン相当量)の意味であると解することもできる。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項、例えば、実施例、比較例等を精査してみても、上記「アルミニウムイオン換算」の意味するところが明らかであるとはいえないし、また、特許請求の範囲に「イオン換算」と記載されているものが、当然に「原子換算」を意味するものであるとの記載もなければ、そのように記載されているに等しいとするべき記載も示唆もない。 一方、本件特許権者は、上記特許異議意見書において、「アルミニウムイオンの価数が使用条件により変化するため、ポリアクリルアミド系ポリマー(PAM)と混合した時にアルミニウムイオンが何価として作用しているか明確に把握することはできず、「アルミニウムイオン換算」が電荷量ではなく、アルミニウム原子で把握していることは明らかであります。」(第4頁18〜21行)と主張している。しかし、前記したとおり、「アルミニウムイオン換算」と明記されているものを、「原子換算」として把握すべきであることが明らかであるとするに足る明細書の記載は認められないから、そのように記載されているものと解することはできない。 したがって、上記のとおり、上記請求項1に「アルミニウムイオン換算」と記載されているものを「アルミニウム原子換算」と読み替えるべきとする旨の本件特許権者の主張は、本件特許明細書の記載事項に基づくものでなく、前記主張には採用すべき理由が全くない。 よって、上記請求項1において、「アルミニウムイオン換算」との記載は意味不明であり、該記載では、本件請求項1に係る発明を特定することができず、該発明が明確ではない。 5.むすび 上記4.に記載したとおり、本件特許明細書の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものではないから、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第36条第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていないため、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。 したがって、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-12-12 |
出願番号 | 特願平7-53572 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
Z
(D21H)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 山崎 利直 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
石井 克彦 野村 康秀 |
登録日 | 2003-07-25 |
登録番号 | 特許第3453624号(P3453624) |
権利者 | ハリマ化成株式会社 |
発明の名称 | 製紙方法 |
代理人 | 手島 孝美 |