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審決分類 |
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 D02G 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D02G 審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) D02G 審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 D02G 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 D02G 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) D02G |
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管理番号 | 1132620 |
異議申立番号 | 異議2003-73557 |
総通号数 | 76 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-12-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-26 |
確定日 | 2006-02-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3464385号「ポリエステル多様性混繊糸」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3464385号の請求項1ないし11に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3464385号の請求項1ないし11に係る発明についての出願は、平成10年 6月 9日に特許出願され、平成15年 8月22日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対して、東レ株式会社(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、取消理由が通知され、その指定期間内の平成17年 3月22日付けで訂正請求書が提出され、次いで、訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成17年 9月20日付けで手続補正書(訂正請求書)が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 2-1.訂正請求に対する補正の適否について 前記平成17年 9月20日付け手続補正書(訂正請求書)の「6.補正の内容」の項の項番(1)ないし(5)に記載されている補正事項は、それぞれ、順に、平成17年 3月22日付け訂正請求書に記載されている訂正事項a.、訂正事項e.、訂正事項h.、訂正事項i.、及び訂正事項j.の内容を補正するものである。 、前記項番(1)ないし(5)に記載の補正事項について検討するに、補正事項は、何れも、補正前の訂正請求書に記載の訂正事項に係る訂正の内容を「6.補正の内容」のとおり訂正事項に係る訂正の内容を変更する補正をするもので、当該補正の内容は、訂正事項を削除するものに該当せず、また、誤記を訂正するものにも該当しない。 したがって、平成17年 9月20日付け手続補正書でした訂正請求に係る補正は、訂正請求書の要旨を変更するものである。 よって、当該補正は、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合しないので、当該補正は認められない。 2-2.訂正の内容 前記2-1.のとおり、前記訂正請求に対する補正は認められないので、訂正請求に係る訂正の内容は、特許査定時の本件明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載について、平成17年 3月22日付け訂正請求書に記載された、以下のとおりのものである。 (なお、訂正請求書に記載の訂正事項i.及び訂正事項j.を、訂正事項の整理及び内容の区別を図るために、それぞれ、下記のとおり、「i-1」、「i-2」及び「i-3」、並びに、「j-1」及び「j-2」と、当審が便宜上分割した。また、下記下線は、訂正箇所を明らかにするために、当審が便宜上付したものである。) ・訂正事項a. 本件特許明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の 「2種以上のポリエステルマルチフィラメントから構成された混繊糸において、両方のフィラメントは共に中間配向糸であり、その際一方のフィラメント(FY-A)は配向結晶抑制剤を含み、そして他方のフィラメント(FY-B)に比べて沸水収縮率は低いが伸度又は自然延伸倍率が大きいことを特徴とする多様性混繊糸。」との記載を、 「2種のポリエステルマルチフィラメントFY-AおよびFY-Bで構成された混繊糸において、両方のフィラメントは共に中間配向糸であり、一方のフィラメント(FY-A)はポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいは、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体を含み、他方のフィラメント(FY-B)に比べて沸水収縮率は低いが伸度又は自然延伸倍率が大きいことを特徴とする多様性混繊糸。」と訂正する。 ・訂正事項b. 本件特許明細書の特許請求の範囲の【請求項4】の 「FY-Bの沸水収縮率が50〜65%の範囲にあり、且つ、FY-Aのそれよりも少なくとも5%大きい、請求項1〜3いずれかに記載の多様性混繊糸。」との記載を、 「FY-Bの沸水収縮率が57〜65%の範囲にあり、且つ、FY-Aのそれよりも少なくとも5%大きい、請求項1〜3いずれかに記載の多様性混繊糸。」と訂正する。 ・訂正事項c. 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項7、請求項9、及び請求項11を削除する。 ・訂正事項d. 本件特許明細書の特許請求の範囲の【請求項8】との記載を【請求項7】と、また、【請求項10】との記載を【請求項8】と訂正する。 ・訂正事項e. 本件特許明細書の段落【0018】の 「一方、本発明でいう“紡糸時の配向結晶抑制剤”とは、ポリメタクレート(メタクリル)またはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、ポリオクタデイセン‐1またはポリビニルベンジルまたはその誘導体等が例示される。その中でも、特にポリメチルメタクリレートあるいはポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)は好ましい例である。」との記載を、 「一方、ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体等の中でも、特にポリメチルメタクリレートあるいはポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)は好ましい例である。」と訂正する。 ・訂正事項f. 本件特許明細書の段落【0019】及び段落【0046】中の「クラペット」との記載を、「パラペット」と訂正する。 ・訂正事項g. 本件特許明細書の段落【0001】中の 「2種以上の中間配向ポリエステルマルチフィラメントからなる」との記載を、 「2種の中間配向ポリエステルマルチフィラメントからなる」と訂正する。 ・訂正事項h. 本件特許明細書の段落【0009】の 「かくして、本発明によれば、2種以上のポリエステルマルチフィラメントから構成された混繊糸において、両方のフィラメントは共に中間配向糸であり、その際一方のフィラメント(FY-A)は紡出糸の配向結晶抑制剤を含み、そして他方のフィラメント(FY-B)に比べて沸水収縮率は低いが伸度又は自然延伸倍率が大きいことを特徴とする多様性混繊糸が提供される。」との記載を、 「かくして、本発明によれば、2種のポリエステルマルチフィラメントFY-AおよびFY-Bで構成された混繊糸において、両方のフィラメントは共に中間配向糸であり、一方のフィラメント(FY-A)はポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいは、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体を含み、他方のフィラメント(FY-B)に比べて沸水収縮率は低いが伸度又は自然延伸倍率が大きいことを特徴とする多様性混繊糸が提供される。」と訂正する。 ・訂正事項i.: ・訂正事項i-1. 本件特許明細書の段落【0007】、段落【0008】、段落【0011】、段落【0020】、段落【0021】、及び段落【0022】中の 「配向結晶抑制剤」との記載を、 「ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいは、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」と訂正する。 ・訂正事項i-2. 本件特許明細書の段落【0019】中の 「配向結晶抑制剤は一種の重合体であり、」との記載を、 「ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいは、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体は、」と訂正する。 ・訂正事項i-3. 本件特許明細書の段落【0074】中の 「配向結晶化抑制剤」との記載を、 「ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいは、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」と訂正する。 ・訂正事項j.: ・訂正事項j-1. 本件特許明細書の段落【0029】中の 「例えばFY-Aとして、配向結晶抑制剤としてメタクリル樹脂をポリマーに対して1.5重量%含有させ、」との記載を、 「例えばFY-Aとして、メタクリル樹脂をポリマーに対して1.5重量%含有させ、」と訂正する。 ・訂正事項j-2. 本件特許明細書の段落【0046】中の 「紡糸直前に、これに配向結晶抑制剤としてメタクリル樹脂」との記載を、 「紡糸直前に、メタクリル樹脂」と訂正する。 ・訂正事項k. 本件特許明細書の段落【0061】の【表1】、段落【0063】の【表2】、及び段落【0073】の【表3】中の 「配向結晶抑制剤」との記載を、何れも 「メタクリル樹脂」と訂正する。 ・訂正事項l. 本件特許明細書の段落【0023】の 「FY-Bの沸水収縮率(BWS)が45〜65%になるのに対して」との記載を、 「FY-Bの沸水収縮率(BWS)が57〜65%になるのに対して」と訂正する。 2-3.訂正拒絶理由の概要 当審が通知した訂正拒絶理由(起案日:平成17年 7月 7日)の概要は、前記平成17年 3月22日付けの訂正請求に係る訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書、並びに、同法同条第3項において準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合しないから、当該訂正は認められないというものである。 2-4.当審の判断 (1)訂正事項a.について (1-1)訂正前の「2種以上のポリエステルマルチフィラメントから構成された混繊糸」との記載において、「2種以上の」との記載を「2種の」と訂正し、訂正前の「ポリエステルマルチフィラメント」の後に「FY-AおよびFY-B」との語句を挿入し、「から構成された」との記載を「で構成された」と訂正するもので、第一に、「2種以上の」を「2種の」とすることで、2種以上あるポリエステルマルチフィラメントを2種に限定するものであり、特許請求の範囲を減縮するものといえる。 次に、「ポリエステルマルチフィラメント」の後に「FY-AおよびFY-B」との符号を挿入し、「から」を「で」とする訂正をしているが、マルチフィラメントの後に符号を付すことで、2種のと限定されたポリエステルマルチフィラメントが具体的に何からなるか、文言上、明確にしており、2種の「FY-A及びFY-B」に特定したことに伴い、その点を字句上、より明りょうにするため「から」を「で」に訂正したものであるから、当該訂正は、訂正前の記載を明りょうにするものといえる。 してみると、訂正前の前記「2種以上の・・・から構成された混繊糸」との記載を前記のとおり訂正することは、特許請求の範囲を減縮する目的でするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。。 (1-2)訂正前の「一方のフィラメント(FY-A)は配向結晶抑制剤を含み」との記載について、当該訂正は、前記「配向結晶抑制剤」との語句を削除し、これに代えて「ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいは、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」(以下、前記ポリマー群をまとめて「ポリメタクリレート等の重合体」という。)と訂正するものである。 したがって、訂正後の請求項1に係る発明は、前記「一方のフィラメント(FY-A)」が、配向結晶抑制剤を含むものであったものが、単なる「ポリメタクリレート等の重合体」を含むことを、発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)とすることとなる。即ち、当該訂正に係る前記「ポリメタクリレート等の重合体」としては、「配向結晶抑制剤」であるか否かを含め、機能・性質を問われるものでなく、また、分子量、共重合成分・共重合組成等の構造についても何ら限定されるものではない。 一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明でいう“紡糸時の配向結晶抑制剤”とは、ポリメタクレート(メタクリル)またはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、ポリオクタデイセン‐1またはポリビニルベンジルまたはその誘導体等が例示される。その中でも、特にポリメチルメタクリレートあるいはポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)は好ましい例である。」(段落【0018】)及び「上述の配向結晶抑制剤は一種の重合体であり、平均分子量が1000以上であることが好ましい。(以下、略)」(段落【0019】)と記載されている。 前記段落【0018】の「本発明でいう“紡糸時の配向結晶抑制剤”とは」との記載ぶりからみて、引き続き、「配向結晶抑制剤」の定義が記載されるべきと解されるが、前記のとおり、重合体が例示・列記して記載されているのみであり、また、前記段落【0019】には、前記のとおり、「配向結晶抑制剤」は「一種の重合体」である旨記載されているのみである。 そして、前記本件特許明細書の記載からみて、「配向結晶抑制剤」の範疇には、一応、前記「ポリメタクレート(メタクリル)またはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、ポリオクタデイセン‐1またはポリビニルベンジルまたはその誘導体」が包含されると解されるから、訂正前の「配向結晶抑制剤」を「ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいはポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」と訂正することは、一見、あたかも特許請求の範囲の減縮を目的としているかのようにみえる。 しかし、訂正前の請求項1に係る発明は、「配向結晶抑制剤」を用いることを発明特定事項としており、該「配向結晶抑制剤」が、特定の機能・性質で限定された物を意味することは、文理上、明らかである。 してみると、「配向結晶抑制剤」との語句を削除し、「配向結晶抑制剤」との限定がないものとすることは、前記「フィラメント(FY-A)」が、該「配向結晶抑制剤」に代えて、前記特定の機能・性質を保有しているか否かを問わない、また、分子量、共重合成分・共重合組成等の構造についても何ら限定されない「ポリメタクリレート等の重合体」を含むことを、請求項1に係る発明の発明特定事項として新たに規定するものであるから、本件特許明細書に記載された事項とはいえない。 また、当該訂正は、特定の機能・性質で限定されていた物を、前記限定のない物に置換している点から、実質上特許請求の範囲を変更し、又は拡張するものである。 (1-3)訂正後の「ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」との記載に関し、本件特許明細書の段落【0018】には、前記のとおり、「ポリメタクレート(メタクリル)またはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、ポリオクタデイセン‐1またはポリビニルベンジルまたはその誘導体等」と記載されているように、前記各重合体は並列的に列記されている。そして、前記記載の意味するところは、文理上、「ポリメタクレート(メタクリル)またはその誘導体」、「ポリアクリレートまたはその誘導体」、「ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)」、「ポリオクタデイセン‐1」または「ポリビニルベンジルまたはその誘導体」、「等」であると解するのが妥当であるから、当該段落に「ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)」の「誘導体」については本件特許明細書に記載された事項とはいえない。 (1-4)以上のことから、訂正事項a.に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものとも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも、また、誤記の訂正を目的とするものともいえない。 また、当該訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではない。 さらには、当該訂正は、特定の機能・性質で限定されていた物を、前記限定のない物に置換している点から、実質上、特許請求の範囲を変更し又は拡張するものである。 (2)訂正事項b.について 訂正事項b.は、「FY-Bの沸水収縮率」について「50〜65%の範囲」を、「57〜65%の範囲」と訂正するものであるが、本件特許明細書には、「このようにして得られる多様性混繊糸にあって、(略)又、熱特性的には、FY-Bの沸水収縮率(BWS)が45〜65%になるのに対して、FY-Aのそれは5%以上低くなることである。」(段落【0023】)と記載されているものの、前記「57」%との下限値は記載されていない。 一方、本件特許明細書、段落【0019】には、「配向結晶抑制剤」の一例として「『クラペットSH-N』(クラレ)」が挙げられているにすぎず、また、段落【0063】の【表2】、「実施例4」の欄には、「FY-B BWS(%)」が「57」(%)との記載があるが、該「実施例4」は、本件特許明細書段落【0046】及び段落【0055】の記載から明らかなように、「配向結晶抑制剤としてメタクリル樹脂(クラペットSH-N 色番1000)」を使用した一具体例についての特定条件下における「沸水収縮率」の値であるから、訂正後の「57%」の数値的根拠は、特定のクラペットを使用した特定条件下におけるものにすぎない。 そして、本件請求項4に係る発明は、株式会社クラレの一製品である前記「クラペットSH-N 色番1000」と特定された「メタクリル樹脂」以外の樹脂を含む場合をも当然に包含するものである。 しかしながら、本件特許明細書には、その「クラペット」以外の何れの樹脂の場合においても、FY-Bの沸水収縮率が57〜65%の範囲にあることが明らかであるとする根拠となる記載もなければ、示唆もない。 したがって、当該訂正に係る「FY-Bの沸水収縮率」の下限を「57」%とし、57〜65%の範囲とする訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではない。 (3)訂正事項e.について (3-1)訂正前の段落【0018】の「一方、本発明でいう“紡糸時の配向結晶抑制剤”とは、ポリメタクレート(メタクリル)またはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、ポリオクタデイセン‐1またはポリビニルベンジルまたはその誘導体等が例示される。その中でも、特にポリメチルメタクリレートあるいはポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)は好ましい例である。」との記載は、その文章全体の記載からみて、「配向結晶抑制剤」には如何なる材料が包含されるものかを規定していると解される。そして、前記記載自体は、文理上、明りょうであり、誤記も認められない。 しかし、訂正前の記載を、「一方、ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体等の中でも、特にポリメチルメタクリレートあるいはポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)は好ましい例である。」とする訂正は、訂正前の紡糸時の「配向結晶抑制剤」という語句を削除していることから、訂正前の「配向結晶抑制」という特定の機能・性質を有することに限定されていた材料に代えて、前記特定の機能・性質を保有するか否かを問われない、一般的な前記「ポリメタクリレート等の重合体」を用いるように訂正することとなるから、当該訂正は、本件特許明細書に記載された事項とはいえない。 (3-2)訂正後の同段落の「ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」との記載に関し、前記「誘導体」の点において、当該訂正は、前記(1-3)に記載した理由と同様の理由により、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項とはいえない。 (3-3)訂正前の「ポリメタクレート(メタクリル)」との記載は、当該技術分野における技術常識からみて、「ポリメタクレート」との記載は誤記であると認められるが、前記「(メタクリル)」との記載表記の意味が明らかでないために、本来記載しようとしたところのことを直ちに認識ないし把握することができない。しかも、本件特許権者は、前記「ポリメタクレート(メタクリル)」との記載の意味等について、何らの説明ないし釈明もしていない。 したがって、単に「ポリメタクレート」を「ポリメタクリレート」と訂正する場合とは異なり、前記「ポリメタクレート(メタクリル)」を「ポリメタクリレート」とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも、また、誤記の訂正を目的とするものともいえない。 (3-4)訂正事項e.は特許請求の範囲の請求項1についての訂正事項a.に係る訂正に伴い、発明の詳細な説明に記載の事項を特許請求の範囲の記載に整合させるためにする訂正であるという意味において、一応、明りょうでない記載の釈明を目的とするとも解することができる。しかし、前記(1)(特に(1-2)及び(1-3))に記載した理由により、訂正事項a.に係る訂正は認められないのであるから、結局、該訂正事項e.に係る訂正が、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。 (3-5)以上のとおりであるから、当該訂正事項e.に係る訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでも、また、誤記の訂正を目的とするものでもなく、さらには、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでもない。 (4)訂正事項g.及びh.について 前記(1)に記載した理由により、前記訂正事項a.に係る訂正は認められないから、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合を図るためにする、本件特許明細書の段落【0001】及び段落【0009】に係る訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも、また、誤記の訂正を目的とするものともいえない。 (5)訂正事項i.について (5-1)当該訂正事項i-1.ないしi-3.は、要するに、訂正前の発明の詳細な説明の「配向結晶抑制剤」又は「配向結晶化抑制剤」との記載を削除し、これに代えて、「ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいは、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」と訂正するものである。この根拠となる記載は、発明の詳細な説明段落【0018】の記載に基づくものであると解される。 そして、前記した訂正は、訂正事項a.に関し、前記(1-2)に記載した理由と同様の理由により、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでも、また、誤記の訂正を目的とするものでもなく、さらには、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでもない。 (5-2)また、当該訂正において、「ポリメタクリレートまたはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、あるいは、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」との記載の訂正後の前記「ポリメタクリレート」との訂正事項の記載に関し、前記(3-3)において記載したとおり、「ポリメタクレート(メタクリル)」を「ポリメタクリレート」とする当該訂正を前提とした上での訂正事項と解されるが、当該訂正事項に関しては、前記(3-3)に記載した理由と同じ理由により、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないし、誤記の訂正を目的とするものでもない。 (5-3)訂正後の前記「ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)またはその誘導体」との記載に関し、前記「誘導体」の点において、当該訂正は、前記(1-3)に記載した理由と同じ理由により、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではない。 (5-4)以上のとおりであるから、訂正事項iに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもなく、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでも、また、誤記の訂正を目的とするものでもなく、さらには、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでもない。 (6)訂正事項j (6-1)訂正事項j-1.について 訂正前の発明の詳細な説明の段落【0029】「配向結晶抑制剤としてメタクリル樹脂を」との記載自体は、文理上、明りょうであり、誤記があるともいえない。そして、前記記載から、「配向結晶抑制剤として」を削除する訂正は、訂正前の「配向結晶抑制」という特定の機能・性質を有することに限定されていた「メタクリル樹脂」に代えて、前記特定の機能・性質を保有するか否かを問われない、一般的な「メタクリル樹脂」を用いるように訂正することとなるから、当該訂正は訂正事項a.に関し、前記(1-2)において記載した理由と同様の理由により、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでもない。 (6-2)訂正事項j-2.について 訂正前の発明の詳細な説明段落【0046】の「[実施例1]・・・これに配向結晶抑制剤としてメタクリル樹脂(クラペットSH-N 色番1000)を、・・・」との記載自体は、文理上、明りょうであり、誤記があるともいえない。そして、前記記載から、「これに配向結晶抑制剤として」との語句を削除する訂正は、訂正前の「配向結晶抑制」という特定の機能・性質を有することに限定された「メタクリル樹脂」を、「配向結晶抑制」という特定の機能・性質に着目しない商品名クラペットなる「特定のメタクリル樹脂」を用いるように訂正することとなるとともに、発明の詳細な説明から「配向結晶抑制」との記載が削除されることから、実施例1の特定の機能・性質を有するものとして添加される「特定のメタクリル樹脂」であった実施例をメタクリル樹脂の意味するところが特定されない、メタクリル樹脂ブレンドあるいは添加成分としてのメタクリル樹脂を含有させるという意味合いの実施例とするもので、実施例としての意味合いが変わるものであり、又は実施例としてメタクリル樹脂を添加する意味合いを曖昧とするもので、当該訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも、また、誤記の訂正を目的とするものでもない。 (6-3)以上のとおりであるから、当該訂正事項jに係る訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでも、また、誤記の訂正を目的とするものでもなく、さらに、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでもない。 (7)訂正事項k.について 当該訂正は、発明の詳細な説明の実施例及び比較例に係る【表1】等に記載の「配向結晶抑制剤」との語句を「メタクリル樹脂」と訂正するものであるが、訂正前の「配向結晶抑制剤」との記載自体は、文理上、明りょうであり、誤記があるとも認められない。また、前記「配向結晶抑制剤」は、訂正前の段落【0046】等の記載からみて、特定の「メタクリル樹脂(クラペットSH-N 色番1000)」に他ならないと解される。 したがって、単に「メタクリル樹脂」と訂正することは、特定のメタクリル樹脂であるものを一般的なメタクリル樹脂でもよいように、記載自体の意味するところを曖昧にするものである。 よって、当該訂正事項kに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでも、また、誤記の訂正を目的とするものでもない。 (8)訂正事項l.について 訂正前の記載自体は、文理上、明りょうであり、誤記があるともいえない。そして、前記(2)に記載した理由により、前記訂正事項b.に係る訂正は認められないので、当該訂正は、特許請求の範囲の記載と整合を図るためにするものではなく、明りょうでない記載の釈明を目的とするものではない。 よって、当該訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとも、また、誤記の訂正を目的とするものともいえない。 (9)訂正事項c.、d.及びf.について 訂正事項c.は、請求項を削除するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、また、訂正事項d.は、前記訂正事項c.に係る訂正に伴い、請求項番号を訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。 次に、訂正事項f.に係る「クラペット」を「パラペット」と訂正することは、「クラペット」が株式会社クラレの製品情報からみて、「パラペット」の誤記と解されるので、誤記の訂正を目的としたものである。 2-5.むすび 以上のとおりであるから、前記平成17年 3月22日付けの訂正請求に係る訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書、並びに、同法同条第3項において準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 3.本件発明 前記2.のとおり、本件特許明細書の訂正は認められないから、本件請求項に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 2種以上のポリエステルマルチフィラメントから構成された混繊糸において、両方のフィラメントは共に中間配向糸であり、その際一方のフィラメント(FY-A)は配向結晶抑制剤を含み、そして他方のフィラメント(FY-B)に比べて沸水収縮率は低いが伸度又は自然延伸倍率が大きいことを特徴とする多様性混繊糸。 【請求項2】 混繊糸がコスパン(Co-spun)糸である、請求項1記載の多様性混繊糸。 【請求項3】 混繊糸が紡糸引揃糸である、請求項1記載の多様性混繊糸。 【請求項4】 FY-Bの沸水収縮率が50〜65%の範囲にあり、且つ、FY-Aのそれよりも少なくとも5%大きい、請求項1〜3いずれかに記載の多様性混繊糸。 【請求項5】 FY-Aの伸度が200〜370%の範囲にあり、且つ、FY-Bのそれよりも少なくとも50%大きい、請求項1〜4のいづれかに記載の多様性混繊糸。 【請求項6】 請求項1に記載の多様性混繊糸に熱延伸・熱固定処理を施す ことを特徴とする、潜在的な膨らみ特性を有する異収縮混繊糸の製造方法。 【請求項7】 熱延伸・熱固定処理時の加熱条件が、それぞれ75〜120℃で0.3〜0.7秒、および100〜120℃で、0.1〜0.5秒の範囲にある、請求項6記載の異収縮混繊糸の製造方法。 【請求項8】 請求項1記載の多様性混繊糸を、FY-Aの自然延伸倍率以下で且つFY-Bの自然延伸率を超える延伸倍率で延伸し、引き続き弛緩状態におくことを特徴とする嵩高糸の製造方法。 【請求項9】 延伸倍率が1.70〜1.80倍の範囲にある、請求項8記載の嵩高糸の製造方法。 【請求項10】 請求項1に記載の多様性混繊糸に同時延伸仮撚加工を施すことを特徴とする複合仮撚糸の製造方法。 【請求項11】 延伸倍率および仮撚の熱固定温度が、夫々1.65〜1.75、および150〜170℃の範囲にある、請求項10記載の複合仮撚糸の製造方法。」 4.特許異議申立ての概要 申立人は、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提出して、概略、(a)本件請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、その請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである旨、(b)本件請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に基づいて、又は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨、並びに、(c)本件請求項4、7及び11に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件請求項1ないし11に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨、主張している。 記 甲第1号証:特開昭57-61716号公報 甲第2号証:特表平7-504717号公報 甲第3号証:特開昭58-54035号公報 5.取消理由の概要 当審が通知した取消理由(起案日:平成17年 1月 6日)は、概略、本件特許明細書の記載が不備であり、本件特許出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないというものである。 6.取消理由に対する当審の判断 (1)特許法第36条第6項第2号違反について (1-1)請求項1に記載の「配向結晶抑制剤」に関し、本件特許明細書、発明の詳細な説明には、「本発明でいう“紡糸時の配向結晶抑制剤”とは、ポリメタクレート(メタクリル)またはその誘導体、ポリアクリレートまたはその誘導体、ポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)、ポリオクタデイセン‐1またはポリビニルベンジルまたはその誘導体等が例示される。その中でも、特にポリメチルメタクリレートあるいはポリ(4‐メチル‐1‐ペンテン)は好ましい例である。」(段落【0018】)、「上述の配向結晶抑制剤は一種の重合体であり、平均分子量が1000以上であることが好ましい。(以下、略)」(段落【0019】)、及び「これらの配向結晶抑制剤はポリエステルの紡糸に先立ち添加される(中略)0.5重量%では所望の伸度向上効果が得られず(以下、略)」(段落【0020】)と記載されている。 しかし、前記「配向結晶抑制剤」が、当業者に周知の標準的な技術用語であるとは認められない。また、本件特許明細書の前記記載事項を参酌しても、「配向結晶抑制剤」とは、「一種の重合体」であることが把握できるのみであって、その定義が明りょうでない。 したがって、前記「配向結晶抑制剤」は明りょうではなく、また、該「配向結晶抑制剤」に、どのような種類の「重合体」が包含されるものか、その範囲が明らかでない。 (1-2)請求項1の「2種以上のポリエステルマルチフィラメントから構成された混繊糸において、両方のフィラメントは」との記載に関し、「2種以上の」との記載との対比において、「両方の」との記載の意味、即ち、「両方のフィラメント」との記載が何を指すのか、明りょうでない。 (1-3)請求項1の「その際一方のフィラメント(FY-A)は配向結晶抑制剤を含み、そして他方のフィラメント(FY-B)に比べて沸水収縮率は低いが伸度又は自然延伸倍率が大きいことを特徴とする」との記載に関し、「その際一方の」と「そして他方の」との記載は、あたかもプロセスにおける時点ないし工程の順序を表現しているとも解される。また、前記「2種以上の」との記載との対比において、前記「一方」及び「他方」の記載は明りょうではない。 したがって、前記「その際一方の」及び「そして他方の」の記載は、明りょうではない。 (2)特許法第36条第6項第1号違反について (2-1)請求項4について 請求項4に記載の「FY-Bの沸水収縮率が50〜65%の範囲」であるとの数値範囲について、本件特許明細書、発明の詳細な説明には、「又、熱特性的には、FY-Bの沸水収縮率(BWS)が45〜65%になるのに対して、」(段落【0023】)と記載されているが、「FY-Bの沸水収縮率(BWS)」の範囲の下限を50%と特定すること、及び、前記下限値の技術的ないし臨界的意義については、何ら記載されていない。 したがって、請求項4に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められない。 (2-2)請求項7について 請求項7に係る「熱延伸・熱固定処理時の加熱条件が、それぞれ75〜120℃で0.3〜0.7秒、および100〜120℃で、0.1〜0.5秒の範囲にある」との数値範囲について、本件特許明細書、発明の詳細な説明には、その根拠となる技術的事項が何ら記載されていない。 したがって、請求項7に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められない。 (2-3)請求項9について 請求項9に係る(嵩高糸に関し)「延伸倍率が1.70〜1.80倍の範囲にある」との数値範囲について、本件特許明細書、発明の詳細な説明には、その根拠となる技術的事項が何ら記載されていない。 したがって、請求項9に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められない。 (2-4)請求項11について 請求項11に係る「延伸倍率および仮撚の熱固定温度が、夫々1.65〜1.75、および150〜170℃の範囲にある」との数値範囲について、本件特許明細書、発明の詳細な説明には、その根拠となる技術的事項が何ら記載されていない。 したがって、請求項11に係る発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められない。 7.むすび 以上のとおり、本件請求項1ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1項第4号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-12-20 |
出願番号 | 特願平10-160650 |
審決分類 |
P
1
651・
832-
ZB
(D02G)
P 1 651・ 852- ZB (D02G) P 1 651・ 841- ZB (D02G) P 1 651・ 853- ZB (D02G) P 1 651・ 537- ZB (D02G) P 1 651・ 851- ZB (D02G) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
澤村 茂実 野村 康秀 |
登録日 | 2003-08-22 |
登録番号 | 特許第3464385号(P3464385) |
権利者 | 帝人ファイバー株式会社 |
発明の名称 | ポリエステル多様性混繊糸 |
代理人 | 小川 信一 |
代理人 | 野口 賢照 |
代理人 | 斎下 和彦 |
代理人 | 三原 秀子 |