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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1133864
審判番号 不服2003-12134  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-01-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-30 
確定日 2006-03-30 
事件の表示 特願2000-192722「窒化物系半導体レーザ素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月18日出願公開、特開2002- 16312〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年6月27日の出願であって、平成15年5月28日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年6月30日付で拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成15年7月30日付で特許法第17条の2第1項第3号の規定による手続補正がなされたものである。

2.平成15年7月30日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年7月30日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】n型窒化ガリウムからなる基板の結晶成長面上にn-クラッド層、発光層、および、ストライプ状のリッジ部が形成されるp-クラッド層が順に成長される窒化物系半導体レーザ素子の製造方法であって、
前記基板の結晶成長面と反対側の面上の電極形成領域の表面に凹凸形状を形成する工程と、前記凹凸形状を形成した電極形成領域上にオーミック電極を形成する工程とを備え、
前記凹凸形状を形成する工程は、研磨により前記電極形成領域の表面にランダムに凹部および凸部を形成する工程を含むことを特徴とする窒化物系半導体レーザ素子の製造方法。」
とする補正を含むものである。

上記補正は、窒化物系半導体レーザ素子の製造方法の前提構成を限定するとともに、電極形成領域及び凹部および凸部を形成する領域をより具体的に限定しようとするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(2)刊行物記載の発明
原査定の拒絶理由に引用したこの出願前公知の引用例1:特開平10-65213号公報には、下記の事項が記載されている。
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)等の発光素子、太陽電池、光センサー等の受光素子に使用される窒化物半導体(lnXAIYGa1-X-YN(「InXAlYGa1-X-YN」の誤記:審決註。以下同様。)、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)よりなる素子に関する。・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】半導体素子の発熱は、素子寿命にとって非常に重要である。特に窒化物半導体よりなるLDを連続発振させるためには、まず発振時にVfの低い素子を実現して、発熱量を最小限に抑える必要がある。従って、・・・Vfの低い窒化物半導体素子を実現して、発熱量の少ない素子を提供し、・・・ことにある。
【0008】【課題を解決するための手段】本発明の窒化物半導体素子は、負電極が表面に形成されたn型コンタクト層と、正電極が表面に形成されたp型窒化物半導体よりなるp型コンタクト層とを有する窒化物半導体素子において、前記負電極と、n型コンタクト層との界面には凹凸が設けられていることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】図1は本発明の窒化物半導体素子の一構造を示す模式的な断面図であり、具体的には、LD素子の構造を示すものである。この素子も、基本的には、基板10の上に、n型コンタクト層11、n型クラッド層12、活性層13、p型クラッド層14、p型コンタクト層15が順に積層されたダブルヘテロ構造を示している。この窒化物半導体素子ではp型コンタクト層15の表面にはストライプ状の正電極20が形成され、さらに、n型コンタクト層11の表面には凹凸面が設けられ、その凹凸面に正電極と平行な方向でストライプ状の負電極22が形成されている。なお、30は正電極20と負電極22との間にある室化物(「窒化物」の誤記:審決註。以下同様。)半導体層表面に設けられた例えばSiO2よりなる絶縁膜である。このように同一面側に正と、負の電極が設けられた素子は、電極間でショートしやすい傾向にあるため、この絶縁膜30を設けることにより、電極間のショートを防止することができる。またレーザチップにした際に、半導体層表面に傷が付くことを防止して、素子の信頼性を向上させる作用もある。21は、正電極20の上に設けられたパッド電極である。LD素子の場合、正電極20のストライプ幅が、例えば数μm以下と非常に狭い。このため正電極20に直接ワイヤーポンディングすることが困難であるため、パッド電極21を設けることにより正電極20を外部電源と接続することを容易にしている。正電極20はp型コンタクト層と好ましいオーミック接触を得る必要があるが、パッド電極21は正電極20を電気的に接続でき、表面にワイヤーポンディングできる材料であればどのような材料を使用しても良い。
【0010】このようにn型コンタクト層11の表面に凹凸を設けることにより、負電極22とn型コンタクト層との接触面積が大きくなるため、負電極がn型層と好ましいオーミック接触が得られた状態で、素子全体に係る電力あたりのn型コンタクト層に係る抵抗が小さくなるので、素子のVfを低下させることができる。特に、窒化物半導体よりなるLD素子の場合、n電極の面積が大きい程、Vfが低下する傾向にある。このため、図に示すようにn型コンタクト層の表面に凹凸を設け、実質的に負電極の接触面積を大きくすると、凹凸を設けないものに比較して格段にVfが低下する。
【0011】n型コンタクト層の表面に凹凸を設けるには、所定の形状のマスクを電極を形成すべきn型コンタクト層の表面に形成した後、エッチングすることにより実現できる。凹凸の平面形状はどのような形状でも良く、例えばドット状、碁盤目状、ストライプ状にすることができる。エッチング手段としては、ウェットエッチング、ドライエッチングいずれの手段を用いても良く、・・・エッチング可能である。
【0012】凹凸段差は特に規定しないが、例えば0.01μm以上の凹凸差で形成することが望ましく、0.01μmよりも少ないと、Vfの低下が顕著に現れない傾向にある。・・・
【0013】【実施例】以下、実施例により本発明の具体例について述べる。なお、図2は本発明の実施例を説明するために示す窒化物半導体LD素子の構造を示す模式的な断面図である。
【0014】まず、サファイア(C面)よりなる基板11を反応容器内にセットし、容器内を水素で十分置換した後、水素を流しながら、基板の温度を1050℃まで上昇させ、基板のクリーニングを行う。基板11にはサファイアC面の他、R面、A面を主面とするサファイア、その他、スピネル(MgA12O4)、SiC(6H、4H、3Cを含む)、ZnS、ZnO、GaAs、GaN等、窒化物半導体を成長させるために提案されている従来の材料が使用できる。SiC、ZnS、ZnO、GaAs、GaN等の半導体材料を基板として用いた場合、負電極は窒化物半導体が形成されていない側の基板の主面に設けられることが多い。この場合は、基板がn型コンタクト層に相当する。つまり、n型コンタクト層は負電極を形成して、電子を注入する層であるので、その層は基板でも、n型窒化物半導体層でも良い。しかし、本発明の素子は図1及び図2に示すように、基板に絶縁性の材料を使用して、同一面側にある窒化物半導体層に正電極と、負電極とを設けた素子の方が、凹凸の効果が顕著に現れる。なぜなら、負電極が正電極と同一面側に設けられていると、上下に電極が形成された素子と比較して、電極間の距離が実質的に長くなり、抵抗が大きくなるからである。従って、負電極の接触面積を少しでも大きく取ることにより、電極間の不利をカバーできる。
・・・
【0026】反応終了後、温度を室温まで下げ、再度反応容器中、窒素雰囲気中で、700℃でウェーハのアニーリングを行い、p型層をさらに低抵抗化する。次に最上層のp型コンタクト層15からn型コンタクト層11の表面が露出するまで、RIE装置を用いて、ストライプ状にエッチングする。
【0027】次に、露出させたn型コンタクト層11の表面に、線間隔5μmの碁盤目状のマスクを形成して、再度エッチングを行い、露出させたn型コンタクト層の表面全体に5μm角の碁盤目状、深さ1μmの凹凸を形成する。・・・
【0030】【発明の効果】このように本発明によると、n型コンタクト層の表面に凹凸を設けることにより、窒化物半導体よりなるLDのVfを低下させることができる。そのため、LDの寿命も長くなり。非常に好ましいLDを実現することができる。また実施例ではLDについて説明したが、本発明の窒化物半導体素子はLDだけではなく、LEDにも適用でき、太陽電池、光センサー等の受光素子についても適用可能である。さらに、n型コンタクト層は電流を注入する層であるため、室化物半導体の成長基板に導電性材料を使用した場合、その成長基板の裏面に凹凸を設け、その面に負電極を形成することもできる。」

(3)対比
本願補正発明と引用例1に記載された発明とを対比する。
(ア)引用例1の「n-クラッド層12」,「活性層13」,「窒化物半導体素子からなるLD素子」,「凹凸」は、それぞれ本願補正発明の「n-クラッド層」,「発光層」,「窒化物系半導体レーザ素子」,「凹凸形状」に相当する。
(イ)引用例1には、「【0026】・・・次に最上層のp型コンタクト層15からn型コンタクト層11の表面が露出するまで、RIE装置を用いて、ストライプ状にエッチングする。」と記載されており、これは、引用例1が「ストライプ状のリッジ部が形成されるp-クラッド層」に相当する技術的事項を有することを示すものである。
(ウ)引用例1には、「【0010】このようにn型コンタクト層11の表面に凹凸を設けることにより、・・・負電極がn型層と好ましいオーミック接触が得られた状態で、素子全体に係る電力あたりのn型コンタクト層に係る抵抗が小さくなるので、素子のVfを低下させることができる。」と記載されており、これは、引用例1が「電極形成領域の表面に凹凸形状を形成する工程」,「前記凹凸形状を形成した電極形成領域上にオーミック電極を形成する工程」に相当する技術的事項を有することを示すものである。
(エ)引用例1には、「【0014】・・・基板11にはサファイアC面の他・・・GaN等、窒化物半導体を成長させるために提案されている従来の材料が使用できる。・・・GaN等の半導体材料を基板として用いた場合、負電極は窒化物半導体が形成されていない側の基板の主面に設けられることが多い。この場合は、基板がn型コンタクト層に相当する。つまり、n型コンタクト層は負電極を形成して、電子を注入する層であるので、その層は基板でも、n型窒化物半導体層でも良い。」、「さらに、n型コンタクト層は電流を注入する層であるため、室化物半導体の成長基板に導電性材料を使用した場合、その成長基板の裏面に凹凸を設け、その面に負電極を形成することもできる。」と記載されており、これは、引用例1が「n型窒化ガリウムからなる基板」,「前記基板の結晶成長面と反対側の面上の電極形成領域の表面に凹凸形状を形成する工程」に相当する技術的事項を有することを示すものである。
そして、n型窒化ガリウムからなる基板の結晶成長面上にn-クラッド層〜p-クラッド層が「順に成長される」点も、引用例1に記載されている。

よって、引用例1には、「n型窒化ガリウムからなる基板の結晶成長面上にn-クラッド層、発光層、および、ストライプ状のリッジ部が形成されるp-クラッド層が順に成長される窒化物系半導体レーザ素子の製造方法であって、前記基板の結晶成長面と反対側の面上の電極形成領域の表面に凹凸形状を形成する工程と、前記凹凸形状を形成した電極形成領域上にオーミック電極を形成する工程とを備える窒化物系半導体レーザ素子の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認めることができるから、両者は、上記の点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
本願補正発明は、「前記凹凸形状を形成する工程は、研磨により前記電極形成領域の表面にランダムに凹部および凸部を形成する工程を含む」のに対して、引用発明は、研磨により形成するものではなく、また凹凸がランダムとは限らない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
拒絶査定及び審尋において示された特開昭50-141973号公報、特開昭59-9914号公報、特開昭52-94070号公報に見られるように電極のオーミック性・接着性向上のために、研磨を行うことは周知のことである。
そして、特開平11-238913号公報、特開平10-312971号公報、特開2000-82867号公報にも見られるように、窒化ガリウムを研磨することは出願時においてよく知られたことであるから、上記周知技術を引用発明に適用する困難性はなんら存在しない。
また、引用例1には、「【0011】・・・凹凸の平面形状はどのような形状でも良く、例えばドット状、碁盤目状、ストライプ状にすることができる。・・・【0012】凹凸段差は特に規定しないが・・・」と記載されており、これは、凹凸の形状に任意性があることを示すものであるから、引用発明の凹凸を「ランダム」なものとすることは、引用例1の記載から当業者が適宜設定し得る程度のことである。
(なお、この点は、研磨を適用したことにより必然的に生ずる構成でもある。)

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用例1記載の事項及び周知技術から予測し得る程度のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成15年7月30日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成15年5月6日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は次のものである。
「【請求項1】III族窒化物系半導体からなる基板上の電極形成領域の表面に凹凸形状を形成する工程と、前記凹凸形状を形成した電極形成領域上にオーミック電極を形成する工程とを備え、
前記凹凸形状を形成する工程は、研磨により前記基板の表面にランダムに凹部および凸部を形成する工程を含むことを特徴とする窒化物系半導体レーザ素子の製造方法。」(以下、「本願発明」という。)

(2)刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用したこの出願前公知の引用例1:特開平10-65213号公報には、上記2.(2)刊行物記載の発明に摘記した事項がそれぞれ記載されている。

(3)対比・判断
本願発明は、本願補正発明に比べて、窒化物系半導体レーザ素子の製造方法の前提構成を欠くとともに、電極形成領域及び凹部および凸部を形成する領域に関する具体的な限定を欠くものである。
したがって、本願発明は、上記本願補正発明に対するとほぼ同様の理由により当業者が容易に想到し得たものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-01-18 
結審通知日 2006-01-24 
審決日 2006-02-07 
出願番号 特願2000-192722(P2000-192722)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01S)
P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 樋口 信宏
鈴木 俊光
発明の名称 窒化物系半導体レーザ素子の製造方法  
代理人 寺山 啓進  
代理人 ▲角▼谷 浩  

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