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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1134323
異議申立番号 異議2003-72833  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-20 
確定日 2006-01-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3409441号「脂肪族ポリエステルの製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3409441号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許3409441号の発明は、平成6年6月21日に出願され、平成15年3月20日にその特許権の設定登録がなされ、その後、金子しの(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、それに基づく取消理由通知がなされ、それに対して、その指定期間内である平成16年7月15日に特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、さらに、取消理由通知がなされ、それに対して、その指定期間内である平成17年7月28日に、特許異議意見書及び新たな訂正請求書が提出されるとともに、先の訂正請求を取り下げられたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、訂正の内容
訂正事項a:特許請求の範囲の訂正
請求項1の
「【請求項1】 脂肪族オキシ酸を触媒存在下、脱水重縮合することにより脂肪族ポリエステルを製造する方法において、反応温度を150℃以上であって該脂肪族ポリエステルの分解温度以下とし、反応時の圧力を下記式(1)の範囲内として脱水重縮合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【数1】
反応温度(℃)/圧力(mmHg)≦25 (1)」を、
「【請求項1】 脂肪族オキシ酸を触媒存在下、水溶液状態で脱水重縮合することにより脂肪族ポリエステルを製造する方法において、反応温度を180℃以上であって該脂肪族ポリエステルの分解温度以下とし、反応時の圧力を50mmHg以下であって下記式(1)の範囲内とし、反応時間を8〜15時間として脱水重縮合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【数1】
反応温度(℃)/圧力(mmHg)≦25 (1)」と訂正する。
訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正
訂正b-1:特許明細書の段落【0005】の
「【課題を解決するための手段】本発明は上述の問題を解決するためになされたものであり、その要旨は、脂肪族オキシ酸を触媒存在下、脱水重縮合することにより脂肪族ポリエステルを製造する方法において、反応温度を150℃以上であって該脂肪族ポリエステルの分解温度以下とし、反応時の圧力を下記式(1)の範囲内として脱水重縮合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法に存する。」を、
「【課題を解決するための手段】本発明は上述の問題を解決するためになされたものであり、その要旨は、脂肪族オキシ酸を触媒存在下、水溶液状態で脱水重縮合することにより脂肪族ポリエステルを製造する方法において、反応温度を180℃以上であって該脂肪族ポリエステルの分解温度以下とし、反応時の圧力を50mmHg以下であって下記式(1)の範囲内とし、反応時間を8〜15時間として脱水重縮合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法に存する。」と訂正する。
訂正b-2:特許明細書の段落【0006】の
「【数2】
反応温度(℃)/圧力(mmHg)≦50 (1)」を、
「【数2】
反応温度(℃)/圧力(mmHg)≦25 (1)」と訂正する。
イ、訂正の適否
訂正事項aは、特許請求の範囲の訂正であり、特許請求の範囲の請求項1において、脱水重縮合について、「水溶液状態で」を付け加え(a-1)、反応温度を、「150℃以上」から、「180℃以上」に限定し(a-2)、反応時の圧力について、「50mmHg以下であって」を付け加え(a-3)、脱水重縮合について、「反応時間を8〜15時間として」を付け加え(a-4)る訂正であり、a-1については、段落【0008】の記載に基づき、a-2とa-3については、段落【0011】の記載の基づき、a-4については、段落【0014】の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正と認められる。
訂正事項bは、発明の詳細な説明の訂正であり、訂正b-1は、特許請求の範囲の訂正である訂正事項aに伴い、発明の詳細な説明において整合性を保つための訂正であり、また、訂正b-2は、特許請求の範囲の記載との整合性を保つための訂正であるから、いずれも明りょうでない記載の釈明と認められ、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正と認められる。
また、上記訂正事項a及びb(b-1及びb-2)は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア、訂正明細書の請求項1〜5に係る発明
訂正明細書の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 脂肪族オキシ酸を触媒存在下、水溶液状態で脱水重縮合することにより脂肪族ポリエステルを製造する方法において、反応温度を180℃以上であって該脂肪族ポリエステルの分解温度以下とし、反応時の圧力を50mmHg以下であって下記式(1)の範囲内とし、反応時間を8〜15時間として脱水重縮合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【数1】
反応温度(℃)/圧力(mmHg)≦25 (1)
【請求項2】 反応時の圧力が5mmHg以上であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】 脂肪族オキシ酸が乳酸及び/又はグリコール酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】 触媒がゲルマニウム化合物またはチタン化合物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】 触媒の使用量が脂肪族オキシ酸に対して、0.01〜3重量%であることを特徴とする請求項4に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。」
イ、引用した刊行物等に記載された事項
当審において第2回目の取消理由通知に引用した刊行物等は次のとおりである。
刊行物1:特開平6-65360号公報
(特許異議申立人提出甲第1号証)
刊行物2:特開平5-105745号公報
(同甲第2号証)
刊行物3:特開平5-43655号公報
(同甲第3号証)
参考資料1:「工業材料大辞典」、株式会社工業調査会、1997年11月20日、第699頁、第724頁、第725頁
(同甲第5号証)
上記のうち、刊行物1〜3には次のとおりの記載が認められる。
a、刊行物1
「【請求項1】 実質的に水の非存在下で、ヒドロキシカルボン酸類またはそのオリゴマーを、有機溶媒を含む反応混合物中で脱水縮合反応し、重量平均分子量が約15,000以上であるポリヒドロキシカルボン酸の製造方法。」(特許請求の範囲請求項1)
「本発明は、ヒドロキシカルボン酸の直接脱水縮合反応により、ポリヒドロキシカルボン酸およびそれらを製造する方法を提供するものである。すなわち、本発明は、ヒドロキシカルボン酸類またはそのオリゴマーを、有機溶媒中、実質的に水の非存在下に縮合することを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の製造方法、および該製造方法で製造したポリヒドロキシカルボン酸並びに、平均分子量50,000以上、または対数粘度数(η)が0.40dl/g以上で、………D-乳酸単位とL-乳酸単位からなるポリヒドロキシカルボン酸である。」(段落【0012】)
「本発明の製造方法における反応温度は、ポリマーの生成速度および生成したポリマーの熱分解速度を考慮して、好ましくは80〜200℃であり、より好ましくは、110〜170℃である。縮合反応は、通常、常圧下に使用する有機溶媒の留出温度で行われる。反応温度を好ましい範囲にするために高沸点の有機溶媒を用いる場合には、減圧下で行っても良いし、低沸点の有機溶媒を用いる場合には、加圧下で行っても良い。」(段落【0020】)
「本発明に使用するヒドロキシカルボン酸は、分子内にヒドロキシ基を有する脂肪族カルボン酸類であり、例えば、乳酸、グリコール酸、………等が挙げられる。分子内に不斉炭素を有する場合はD体、L体、それぞれ単独であっても良いし、D体とL体の混合物すなわちラセミ体であってもよい。また、例えば乳酸とグリコール酸とを混合使用してコポリマーを製造するように、一つのヒドロキシカルボン酸に他のヒドロキシカルボン酸を混合しても良い。」(段落【0021】)
「本発明の反応においては、触媒を使用しても使用しなくても良いが、触媒を用いるばあいには、反応速度を上げることができる。使用する触媒としては、周期表II、III、IV、V族の金属、その酸化物あるいはその塩等が挙げられる。具体的には、……金属、……酸化チタン等の金属酸化物、……金属ハロゲン化物、……硫酸塩、……炭酸塩、……有機カルボン酸塩、……有機スルホン酸塩が挙げられる。」(段落【0022】)
「その使用量は、使用するヒドロキシカルボン酸、または、それらのオリゴマーの0.0001〜10重量%が良く、経済性を考えると、0.001〜2重量%が好ましい。」(段落【0023】)
「水分離器(例えばDean Stark trap)を備えた反応器に、溶媒および所定量の90%のL-乳酸と所定量の触媒を装入し、反応器を加熱し、共沸により溶媒と水を留出させ水分離器に導く。最初は、原料L-乳酸中に含まれる水が大量に溶媒と共に留出する。」(段落【0027】)
「実施例15
90%L-乳酸40.2gを150℃/50mmHgで3時間、系外に水を留出しながら加熱撹拌し、オリゴマー28.0gを得た。これに、錫末0.098gを加え、150℃/30mmHgで、さらに、2時間撹拌した。これに、錫末0.378gとジフェニルエーテル84.0gを加え、150℃/35mmHgで共沸脱水反応を行い、この際、モレキュラーシーブ3A、20gが充填された管を取り付け、還流により留出する溶媒がモレキュラーシーブを通って再び系内に戻るようにして15時間反応した。なお、モレキュラーシーブ通過後の溶媒中の水分量は、2ppmであった。この反応液を加熱濾過し錫末を除去した後、減圧下濃縮し、白色のポリ乳酸27.2g(収率94%)を得た。得られたポリ乳酸の平均分子量は、133,000であった。」(段落【0050】)
b、刊行物2
「【請求項1】 トリフルオロメタンスルホン酸錫の存在下、乳酸を加熱脱水することを特徴とするポリ乳酸の製造法。」(特許請求の範囲請求項1)
「TFS錫を用いて乳酸からポリ乳酸を合成する際の温度は、TFS錫の分解が起こらず、脱水が容易に進行する300℃以下が良い。特に、減圧度とも関係するが乳酸やラクチド等が留出しない温度である100〜200℃が好ましい。」(段落【0012】)
「TFS錫を用いて乳酸からポリ乳酸を合成する際の圧力は、脱水が効率的に進行する1〜100mmHgが良い。好ましくは、反応温度とも関係するが、乳酸やラクチドが留出しないよう10〜50mmHgの間で調整して行う。」(段落【0013】)
「使用するTFS錫の量は、乳酸の0.01〜5重量%以下で十分であり、特に経済的に0.01〜1重量%が好ましい。」(段落【0014】)
「実施例1
TFS錫0.36gを90%L-乳酸100gに添加し、200℃,30mmHgで3時間攪拌後、200℃,10mmHgで約1時間加熱攪拌し、51.0gの平均分子量7000であるポリ乳酸を得た。」(段落【0024】)
c、刊行物3
「【請求項1】 オキシ酸を脱水重縮合することにより、脂肪族ポリエステルを製造する際に、ゲルマニウム化合物存在下で、不活性ガス気流下または減圧下で加熱脱水することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。」(特許請求の範囲請求項1)
「【発明が解決しようとする課題】そこで本発明者らは、オキシ酸から直接脱水重縮合により、高分子量の脂肪族ポリエステルを得るべく検討を行ったところ、オキシ酸の直接脱水重縮合は、逐次反応であり、反応時間とともに分子量は増大するが、この反応は平衡反応であり、その平衡定数が小さいために、高分子量体を得るには触媒が必要となることを見出し、さらに通常金属酸化物、金属塩等、特に錫化合物が触媒として用いられるが、高分子量体を得るためには、反応温度、減圧度を高めて反応条件を厳しくしていくと、解重合を伴い、環状二量体の副生やポリマーの劣化、着色がおこり、高分子量体を得ることは困難であることが判った。」(段落【0004】)
「本発明において出発原料として使用するオキシ酸は、1分子中に各々1個のヒドロキシ基とカルボン酸基を有しているものであり、例えばグリコール酸、乳酸、……等が挙げられるが、これに限定されるものではない。それらは単独でも、あるいは混合物で使用しても差し支えがない。また不斉炭素を有するものは、D体、L体、ラセミ体のいずれでもよく、更にその形状は固体、液体あるいは水溶液であっても問題はない。水溶液を用いる場合は、反応開始前にあらかじめ適当に、濃縮を行うことが望ましい。」(段落【0006】)
「触媒使用量は0.005〜0.50mol%が好ましく、特に0.03〜0.10mol%が望ましい。0.005mol%以下では、触媒効果が殆ど認められず、また0.5mol%以上用いると、重合中に副反応および着色を伴うので好ましくない。」(段落【0007】)
「実施例4
実施例1と同様の反応容器にDL-乳酸(90%水溶液)50gを投入し、撹拌および窒素気流下で、180℃に昇温し濃縮した。この時点で酸化ゲルマニウム0.026gを投入し、200℃で2時間反応を続けた後、30分間で20mmHgまで減圧して1時間、更に5mmHg、1mmHgで各々2時間反応を行った。溶融状態のポリマーを取り出すことにより、無色透明のポリ乳酸を得た。このポリマーは融点が認められず、非晶性であり、ガラス転移温度54℃、還元粘度0.74であった。また反応中に水と共に、少量の副反応物の生成が認められ、この物質は乳酸の環状二量体であるラクチドであった。」(段落【0015】)
ウ、対比・判断
本件発明1と刊行物2の実施例1に記載された発明とを対比する。
刊行物2の実施例1には、「TFS錫0.36gを90%L-乳酸100gに添加し、200℃,30mmHgで3時間攪拌後、200℃,10mmHgで約1時間加熱攪拌し、51.0gの平均分子量7000であるポリ乳酸を得た。」とあり、反応温度(℃)/圧力(mmHg)は、200/30及び200/10であるから、いずれも25以下となり、本件発明1の式(1)を満たし、また、反応時間は3時間と約1時間であるから、合計約4時間と認められる。
したがって、両者は、脂肪族オキシ酸を触媒存在下、脱水重縮合することにより脂肪族ポリエステルを製造する方法において、反応温度を180℃以上であって該脂肪族ポリエステルの分解温度以下とし、反応時の圧力を50mmHg以下であって式(1)の範囲内として脱水重縮合する脂肪族ポリエステルの製造方法である点で一致し、本件発明1では、水溶液状態で脱水重縮合するのに対し、刊行物2では、「90%L-乳酸」と記載されるものの、このものが水溶液であるかどうか不明である点(以下、「相違点1」という。)、及び、本件発明1では、反応時間を8〜15時間とするのに対し、刊行物2では、反応時間が約4時間である点(以下、「相違点2」という。)で相違するものと認められる。
そこで、まず相違点1について検討する。
刊行物1においても「90%L-乳酸」が用いられ、最初は原料L-乳酸中に含まれる水が留出すると記載されるように、刊行物1の「90%L-乳酸」は水溶液であることは明らかであり、刊行物3でも、その実施例4に、90%水溶液のDL-乳酸を用いることが記載され、さらに、本件発明1の実施例でも、90重量%水溶液の乳酸が使用されていることから、刊行物2に記載の「90%L-乳酸」というのは水溶液状態のものとみるのが相当であるから、刊行物2においても、水溶液状態で脱水重縮合を行うものと認められ、相違点1は実質的な相違点とは認められない。
相違点2について、刊行物3には、「オキシ酸の直接脱水重縮合は、逐次反応であり、反応時間とともに分子量は増大する」との記載があり、刊行物2において、ポリ乳酸の分子量を増大させるために、反応時間を多くすることは容易なことといえ、そういった反応時間を設定することは、当業界で通常行われていることに過ぎず、反応時間を8〜15時間とすることに格別困難性は見いだせないし、そのことによる作用効果も予測し得たところと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2は、本件発明1を引用し、反応時の圧力を5mmHg以上とするものであるが、刊行物2でも、5mmHg以上とすることが記載されているから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明3は、本件発明1又は2を引用し、脂肪族オキシ酸を乳酸及び/又はグリコール酸に限定するものであるが、刊行物1及び3には、乳酸及びグリコール酸が記載され、また、刊行物2には乳酸が記載されているから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明4は、本件発明1〜3を引用し、触媒をゲルマニウム化合物またはチタン化合物に限定するものであるが、刊行物1にはチタン化合物、刊行物3には、ゲルマニウム化合物が記載されているから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明5は、本件発明4を引用し、触媒の使用量を限定するものであるが、刊行物1〜3に記載される触媒の使用量と格別な差異はなく、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)むすび
以上のとおり、本件発明1〜5は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜5についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜5についての特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
脂肪族ポリエステルの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】脂肪族オキシ酸を触媒存在下、水溶液状態で脱水重縮合することにより脂肪族ポリエステルを製造する方法において、反応温度を180℃以上であって該脂肪族ポリエステルの分解温度以下とし、反応時の圧力を50mmHg以下であって下記式(1)の範囲内とし、反応時間を8〜15時間として脱水重縮合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法。
【数1】
反応温度(℃)/圧力(mmHg)≦25 (1)
【請求項2】反応時の圧力が5mmHg以上であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項3】脂肪族オキシ酸が乳酸及び/又はグリコール酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項4】触媒がゲルマニウム化合物またはチタン化合物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【請求項5】触媒の使用量が脂肪族オキシ酸に対して、0.01〜3重量%であることを特徴とする請求項4に記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、脂肪族オキシ酸の直接重縮合により高分子量の脂肪族ポリエステルを製造する方法に関する。詳しくは、高分子量の脂肪族ポリエステルを容易に効率よく製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリ乳酸、ポリグリコール酸あるいはこれらの共重合体に代表される脂肪族オキシ酸から製造される脂肪族ポリエステルは、生分解性の高分子として注目され、例えば、縫合糸等の医用材料、医薬、農薬、肥料等の徐放性材料等多方面に利用されている。更には生分解性汎用プラスチックとして容器やフィルム等の包装材料としても期待されている。これら用途のためには一般的に機械的物性が高いことが好ましい。そのため、高分子量のこれらポリマーを得るために、従来は乳酸、グリコール酸からラクチド、グリコリドを製造し、これらを開環重合して高分子量のポリラクチド、ポリグリコールを製造していた。この方法では高分子量のポリマーが得られるが2段反応であり、ラクチド、グリコリドを得るために多大の労力がかかり、経済的とはいえなかった。一方、乳酸、グリコール酸を直接重縮合反応させる方法は、経済的であるが、その反面、高分子量化できないという欠点があり、工業化されていない。例えば、高分子量化の試みとして重縮合触媒としてスズ化合物を用い、重縮合時に流動パラフィンを添加する方法(特開昭62-64823号公報)等も提案されているが、工業的利用を考えた場合には充分な分子量とはいえず、また、GeO2等の無機ゲルマニウム化合物を触媒とすることも提案されているが(特開平5-43665号公報)、得られるポリマーの分子量の点では必らずしも充分とは言えなかった。
【0003】
また、直接重縮合法によるポリオキシ酸の重合では、高分子量体を得るために、反応温度を高くする、減圧度を大きくするなどの反応条件が検討されているが、乳酸、グリコール酸等の場合にはラクチド、グリコリド等の環状二量体が副生し、ポリマーの収率を低下させるという問題もあった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、実用レベルの機械的物性、即ち高分子量の脂肪族ポリエステルを直接重縮合反応により容易に収率よく製造する方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は上述の問題を解決するためになされたものであり、その要旨は、脂肪族オキシ酸を触媒存在下、水溶液状態で脱水重縮合することにより脂肪族ポリエステルを製造する方法において、反応温度を180℃以上であって該脂肪族ポリエステルの分解温度以下とし、反応時の圧力を50mmHg以下であって下記式(1)の範囲内とし、反応時間を8〜15時間として脱水重縮合することを特徴とする脂肪族ポリエステルの製造方法に存する。
【0006】
【数2】
反応温度(℃)/圧力(mmHg)≦25 (1)
【0007】
以下、本発明につき、詳細に説明する。
本発明で使用する出発原料の脂肪族オキシ酸は分子中に少なくとも1個の水酸基とカルボン酸基を有する脂肪族化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、乳酸、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸あるいはカプロラクトン等のラクトン類を開環させたもの、あるいはこれらの混合物等が挙げられるが、乳酸又はグリコール酸が好ましい。更にはクエン酸、酒石酸等の多官能のオキシ酸を添加することもできる。これらの光学異性体が存在する場合にD体、L体、ラセミ体のいずれでもよく、形状としては固体、液体、あるいは水溶液であってもよい。
【0008】
反応は溶液状態で行うことが好ましく、そのため、脂肪族オキシ酸濃度が高い水溶液がより好ましい。
使用する触媒としては、通常のゲルマニウム系、チタン系、アンチモン系、スズ系触媒等のポリエステルの重合触媒が使用可能であるが、ゲルマニウム系触媒、チタン系触媒が反応性が高く、好ましい。具体的には、酸化ゲルマニウムあるいはテトラエトキシゲルマニウム、テトラブトキシゲルマニウム等のゲルマニウムアルコキシド、テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン等のチタンアルコキシド、アセチルアセトンチタン等が挙げられる。重合速度、ポリマーの着色の観点から特に好ましくは、ゲルマニウム系触媒である。
【0009】
触媒の反応系への添加は重縮合反応以前であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは原料仕込み時に原料中に分散させた状態で、あるいは原料仕込み後、減圧開始時に分散処理した状態で添加する方法である。
触媒の使用量は使用するモノマー量に対して0.01〜3重量%、より好ましくは0.05〜1.5重量%である。
【0010】
反応の条件としては通常のポリエステルの重縮合条件に準じて選択可能であるが、重縮合温度と反応系の圧力、即ち、減圧度を特定の範囲にすることが必要である。脂肪族オキシ酸の直接脱水重縮合反応は逐次反応であり、反応時間と共に分子量は増大するが、その平衡定数が小さいため、触媒を存在させることが必要であり、更に、反応系における重縮合温度と反応系の圧力とをそれぞれ特定の範囲にすることが得られる脂肪族ポリエステルの分子量を高くし、環状二量体の副生成を少なくするために必要である。
【0011】
脱水重縮合における反応温度は150℃以上、好ましくは160℃以上更に好ましくは180℃以上である。重縮合温度の上限は脂肪族ポリエステルの分解温度以下、具体的には250℃以下、好ましくは230℃以下、更に好ましくは210℃以下である。上記温度範囲以下では副生物が少ないが、反応速度が非常に遅くなり、高分子量のポリマーが得られない。また、逆に上記温度範囲以上ではポリマーの分解、あるいは副生物の留出が多くなる。反応時の圧力については50mmHg以下、好ましくは40mmHg以下、より好ましくは30mmHg以下である。圧力の下限としては3mmHg以上、好ましくは5mmHg以上より好ましくは10mmHg以上である。この場合に例えばポリ乳酸を製造する場合では副生するラクチドの飽和蒸気圧以上で行うことが好ましい(200℃で20mmHg程度)。これ以下ではラクチドの留出が多くなる可能性がある。50mmHg以上であれば、重縮合時に発生する水を効率よく除去できず、また、3mmHg以下では、副生物の留出の問題、あるいは工業的コストの増大を招き好ましくない。
上記の重縮合温度と圧力を下記式(1)を満たすようにすることで、比較的高分子量の脂肪族ポリエステルを収率よく製造することができる。
【0012】
【数3】
重縮合温度(℃)/圧力(mmHg)≦50 (1)
【0013】
上記の重縮合温度(℃)/圧力(mmHg)は通常50以下であり、好ましくは25以下、より好ましくは15以下である。重縮合温度(℃)/圧力(mmHg)が50を越えると、副生物の留出が多くなり、あるいは重合度が低くなり好ましくない。
【0014】
上記反応は例えば、窒素ガス等の不活性ガスの減圧雰囲気下で行う。
また、反応時間としては2時間以上、好ましくは4時間以上、更には重合度を上げるためにはより長時間例えば8時間以上が好ましい。ただし、必要以上に長時間反応を行うとポリマーの着色の問題が生じるため、4〜15時間が好ましい。
更に、高分子量の脂肪族ポリエステルを得るために固相重合反応等を行うことも可能である。
【0015】
本発明の脂肪族ポリエステルは、生分解性材料として有用であり、その具体的な用途としては、繊維では釣り糸、漁網、不織布等また容器では使い捨てのカップ、トレーや飲料、化粧品類のボトル、フィルムでは包装用フィルム、ショッピングバック、また農業用として植木鉢や育苗庄、農業用マルチフィルム、医療用として縫合糸、人工骨、人工皮膚、マイクロカプセルなどのDDS、創傷被覆材などが挙げられる。さらにトナーバインダー、熱転写用インキバインダー等の情電分野での用途も期待される。
【0016】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれら実施例に限定されるものではない。
尚、ポリマーの還元粘度(ηsp/C)はポリマー0.125gをフェノール/テトラクロロエタン(1/1wt%)混合溶媒25mlに溶解し、30℃で測定した。
留出物の生成率は反応系外から留出し、反応器具に付着した白色結晶の重量を測定して求めた。
GCによる同定の結果、大部分がラクタイドであった。
【0017】
【実施例】
実施例1
撹拌装置、窒素導入管を備えた反応容器にL-乳酸(濃度90重量%の水溶液)103.5gおよびテトラn-ブトキシゲルマニウム133μl(0.15重量%)を仕込み、窒素置換を行った後、窒素気流下、180℃、2時間、常圧で撹拌し、その後、1時間かけて、20mmHgまで減圧し、2時間反応させた。続いて1時間かけて昇温を行い、200℃、20mmHgの条件で8時間重縮合反応させた。得られたポリマーはやや黄色味であるが、ほぼ無色であり、還元粘度は0.56であった。
【0018】
実施例2〜3および比較例1〜2
表-1に示すように重縮合条件を変更した以外は実施例1と同様にしてポリマーを製造した。その結果を表1に示す。
実施例4
触媒をアセチルアセトンチタン(TiO(AcAc)2)とし、触媒濃度を0.052重量%とした以外実施例1と同様にしてポリマーを製造した。その結果を表-1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、生分解性で高分子量の脂肪族ポリエステルを、比較的マイルドな条件で、収率よく製造できるため、工業的に極めて有用である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-08-23 
出願番号 特願平6-139022
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 藤原 浩子
佐野 整博
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3409441号(P3409441)
権利者 三菱化学株式会社
発明の名称 脂肪族ポリエステルの製造方法  
代理人 長谷川 曉司  
代理人 長谷川 曉司  

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