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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1134333
異議申立番号 異議2003-73558  
総通号数 77 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2006-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3464730号「アクリルゾル」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3464730号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 [1]手続の経緯等
本件特許第3464730号の発明は、平成7年4月26日に特許出願され、平成15年8月22日にその特許の設定登録がなされたものであり、その後、レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフトより特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年11月8日付けで特許異議意見書と訂正請求書が提出され、さらに、訂正拒絶理由と特許権者に対し審尋がなされ、その指定期間内である平成17年8月23日付けで訂正請求書の手続補正書と特許異議意見書および回答書が提出されたものである。
[2]訂正請求書の手続補正について
(2-1)手続補正の内容
(2-1-1-1)訂正請求書第4頁第1行目〜同第2行目記載の、訂正事項「○3」(「○数字」は、○の中に数字を意味する。以下同様)を削除する。
(2-1-1-2)訂正請求書第5頁第2行目〜同第7行目記載の、請求の原因「○3」を削除する。
(2-1-1-3)訂正明細書における、段落【0043】における「実施例2,3」の記載を、「実施例2,3、比較例1〜4」に補正する。
(2-1-2-1)訂正請求書第4頁第3行目〜同第4行目記載の、訂正事項「○4」を削除する。
(2-1-2-2)訂正請求書第5頁第8行目〜同第14行目記載の、請求の原因「○4」を削除する。
(2-1-2-3)訂正明細書における、段落【0044】の表における「比較例1」を出願時の明細書に従い「比較例5」に、「比較例2」を出願時の
明細書に従い「比較例6」に補正するとともに、比較例1〜4の欄を追加する。
(2-1-3-1)訂正請求書第4頁第5行目記載の、訂正事項「○5」を削除する。
(2-1-3-2)訂正請求書第5頁第15行目〜同第19行目記載の、請求の原因「○5」を削除する。
(2-1-3-3)訂正明細書における、段落【0046】における「比較例1」を「比較例5」に補正する。
(2-1-4-1)訂正請求書第4頁第6行目記載の、訂正事項「○6」を削除する。
(2-1-4-2)訂正請求書第5頁第20行目〜同第24行目記載の、請求の原因「○6」を削除する。
(2-1-4-3)訂正明細書における、段落【0047】における「比較例2」を「比較例6」に補正する。
(2-1-5-1)訂正請求書第4頁第7行目〜同第8行目記載の、訂正事項「○7」を削除する。
(2-1-5-2)訂正請求書第5頁下から第5行目〜同第6頁第2行目記載の、請求の原因「○7」を削除する。
(2-1-5-3)訂正明細書における、段落【0049】の表における「比較例1」を「比較例5」に、「比較例2」を「比較例6」に補正するとともに、比較例1〜4の欄を追加する。
(2-1-6-1)訂正明細書における段落【0050】で削除していた、「比較例1は・…・貯蔵安定性が不良となった。」の部分を追加する。
(2-2)手続補正の適否
本件訂正請求書の手続補正は、訂正請求書の訂正事項「○3」、「○4」、「○5」、「○6」を削除するものであるから、請求の要旨を変更するものとはいえないので、特許法第120条の4第3項により準用する特許法第131条第2項の規定に適合し、当該補正を認める。
[3]補正後の訂正請求について
(3-1)補正後の訂正請求の内容
訂正事項a;特許請求の範囲の請求項1を、
「【請求項1】アクリル重合体粒子(I)、可塑剤(II)および充填剤(III)を含有するアクリルゾルにおいて、該アクリル重合体粒子(I)が、粒子の中心部から最外部に向けて、その構成単位の構成比率が多段階(但し2段階のものを除く)もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有することを特徴とするアクリルゾルであって、アクリル重合体粒子(I)が、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、1-ブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート及びtert-ブチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種のくメタ)アクリレート単位(a-1)、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のメタクリレート単位(b-1)、及びメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸から選ばれる少なくとも一種の不飽和カルボン酸単位(b-2)とから少なくとも構成され、該(メタ)アクリレート単位(a‐1)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に減少し、該メタクリレート単位(b-1)及び不飽和カルボン酸単位(b-2)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に増加することを特徴とするアクリルゾル。」と訂正する。
訂正事項b:明細書【0008】段落の、「すなわち、本発明は、アクリル重合体粒子(I)、可塑剤(II)および充填剤(III)を含有するアクリルゾルにおいて、該アクリル重合体粒子(I)が、粒子の中心部から最外部に向けて、その構成単位の構成比率が多段階もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有するアクリルゾルにある。」の記載を、「すなわち、本発明は、アクリル重合体粒子(I)、可塑剤(II)および充填剤(III)を含有するアクリルゾルにおいて、該アクリル重合体粒子(Dが、粒子の中心部から最外部に向けて、その構成単位の構成比率が多段階(但し2段階のものを除く)もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有することを特徴とするアクリルゾルであって、アクリル重合体粒子(I)が、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート及びtert-ブチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリレート単位(a‐1)、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のメタクリレート単位(b‐1)、及びメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸から選ばれる少なくとも一種の不飽和カルボン酸単位(b‐2)とから少なくとも構成され、該(メタ)アクリレート単位(a‐1)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に減少し、該メタクリレート単位(b-1)及び不飽和カルボン酸単位(b-2)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に増加することを特徴とするアクリルゾルにある。」と訂正する。
(3-2)補正後の訂正請求の適否
訂正事項aは、訂正前の請求項1おいて、「多段階」としていた記載を、先行技術と区別するために「多段階(但し2段階のものを除く)」とするとともに、訂正前の請求項2の構成要件を請求項1に加えることにより、特許請求の範囲を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項bは、訂正事項aの特許請求の範囲の減縮に伴って、発明の詳細な説明を整合させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項a、bは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号、以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
[4]当審の取消理由
当審が通知した取消理由の[理由1]は、「本件訂正前の請求項1、2及び特許明細書の記載は不備なので、その特許は、特許法第36条第4項、第5項及び6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」
[5]当審の判断
(本件特許発明)
訂正後の請求項1に係る本件特許発明(以下、「訂正後の本件発明」という。)は、本件訂正後の明細書の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「アクリル重合体粒子(I)、可塑剤(II)および充填剤(III)を含有するアクリルゾルにおいて、該アクリル重合体粒子(I)が、粒子の中心部から最外部に向けて、その構成単位の構成比率が多段階(但し2段階のものを除く)もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有することを特徴とするアクリルゾルであつて、
アクリル重合体粒子(I)が、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート及びtert-ブチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリレート単位(a‐1)、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のメタクリレート単位(b‐1)、及びメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸から選ばれる少なくとも一種の不飽和カルボン酸単位(b-2)とから少なくとも構成され、該(メタ)アクリレート単位(a‐1)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に減少し、該メタクリレート単位(b‐1)及び不飽和カルボン酸単位(b-2)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に増加することを特徴とするアクリルゾル。」
(判断)
訂正後の本件請求項1において、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項として、「アクリル重合体粒子(I)が、粒子の中心部から最外部に向けて、その構成単位の構成比率が多段階もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有すること」そして、「アクリル重合体粒子(I)」が、「限定されたモノマー単位(aー1)、モノマー単位(b-1)、モノマー単位(b-2)から構成され、それらの構成比率の変化を特定したもの」として記載されている。
ところで、本件特許明細書の詳細な説明では、このグランジェント型構造を有するアクリル重合体粒子(I)について、用いるモノマー、その量比、製造方法等は一応記載はされてはいるが、その実施例を含めて製造された本件のアクリル重合体粒子(I)がグランジェント型構造を有することが何ら確認されていない。
しかも、比較例5だけは、グランジェント型構造を有しないと明記されてはいるものの、それ以外の実施例、比較例ともグランジェント型構造に関する記載はなく、仮に、実施例だけがグランジェント型構造を有し、比較例がグランジェント型構造を有さないのであれば、その裏付けと理由、また、いずれもグランジェント型構造を有するのであれば、その裏付けと両者の効果の差異の理由等が少なくとも明らかにならなければ、訂正後の本件発明を把握することはできない。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、モノマー単位(aー1)には、モノマー単位(aー2)、モノマー単位(aー3)を混合してもよい、また、モノマー単位(b-1)、モノマー単位(b-2)には、モノマー単位(b-3)を混合してもよい、旨の記載がある。そして、これらの混合比率の好ましい範囲が記載されている。
しかし、モノマー単位(aー3)とモノマー単位(b-1)、モノマー単位(b-3)とは、例えばメチルメタクリレートでものとして重複一致しており、モノマー単位(aー2)とモノマー単位(b-2)も一致しているのであるから、それらの混合比率が本件発明の特定のグランジェント型構造を有するアクリル重合体粒子(I)の製法にとって、意味をもつものとは直ちにいえない。
しかも、実施例、比較例において、MMA(メチルメタクリレート)が、モノマー成分(A)、モノマー成分(B)の両方に用いられており、(A)/(B)の重量比が個々のモノマー成分比とかならずしも一致しない以上、この重量比による相違や限定と訂正後の本件発明の製造されたアクリル重合体粒子(I)の構造との関係を明らかにするものとはいえない。
したがって、訂正後の本件発明の構成要件である特定のアクリル重合体粒子(I)は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえないし、また、当業者が容易に実施しうる程度に記載されているともいえない。
尚、特許権者は、平成16年11月8日付けの特許異議意見書、平成17年8月23日付け回答書において、訂正後の本件発明のアクリル重合体粒子(I)がグランジェント型構造を有するものであることを説明するために次のように概略主張している。
本件特許明細書の実施例1〜3,比較例1〜4について、仕込み量から計算した、各段における(aー1)、(b-1)、(b-2)の重量比を計算した結果、及び各段における保持終了後のラテックスを採取し、各段における単量体の重合率を測定するとともに、得られたラテックスに含まれる粒子の体積平均粒子径を光散乱法により測定した結果を示し、訂正後の本件発明について、各段における保持終了後の単量体の重合率は、各段ともほぼ100%に至っていることから、各段において添加した単量体のほぼすべてが保持終了後には重合していること、各段における保持終了後における粒子の粒子径の測定結果から、その粒子径は重合とともに増大しており、各段で重合した単量体がそれぞれ粒子の外側に被覆されることにより、粒子径が増大していることから、実施例1〜3におけるアクリル重合体の粒子は、中心部から最外部に向けて、(メタ)アクリレート単位(a-1)の構成比率が多段階に減少するとともに、メタクリレート単位(b-1)と不飽和カルボン酸単位(b-2)の構成比率が多段階に増加するアクリル重合体となっている、すなわちグランジェント型構造を有するものである旨の主張をしている。
しかしながら、単量体により重合速度などは異なるので、このような説明だけでは、実施例1〜3におけるアクリル重合体の粒子が、中心部から最外部に向けて、(メタ)アクリレート単位(a-1)の構成比率が多段階に減少するとともに、メタクリレート単位(b-1)と不飽和カルボン酸単位(b-2)の構成比率が多段階に増加するグランジェント型構造を有するものであるとの立証とはいえない。
これについて、特許権者は、平成17年8月23日付け回答書において、さらに、実施例1の各段において、単量体の滴下開始後15分経過した時点(即ち単量体を全滴下量に対して半分滴下した時点)での重合率の測定結果を示し、単量体滴下の途中段階においても重合率がほぼ100%を保っていることから、単量体の滴下速度よりも重合速度の方が速く、滴下された単量体は速やかに重合反応に消費され、重合体として粒子を被覆していることを意味するとの理由で、実施例1のものがグランジェント型構造を有するものであると主張している。
しかし、これだけでは、単量体により重合速度などが異なることによる要因について説明されているとはいえないし、実施例1のものがグランジェント型構造を有するものであることを十分に立証しているものとはいえないし、いわんや他の実施例、比較例についてはなんらの立証もなされていない。
しかも、この特許権者の主張はそもそも特許明細書の記載に基づかないものであり、あらたな実験結果による推察を基にしたもので、しかも、生成したアクリル重合体粒子の構造を直接測定したものでもない。
さらには、モノマー単位の混合比率そのものが、訂正後の本件発明の特定のグランジェント型構造を有するアクリル重合体粒子(I)の製法にとって、意味をもつものとは直ちにいえない点について特許権者の釈明はなく、なんら解消されていない。
したがって、特許権者の主張は採用できない。
[6]むすび
以上のとおりであるから、本件特許明細書は、その特許請求の範囲が、特許を受けようとする発明が詳細な説明に記載したものとも、また発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してあるともいえず、さらに、発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえないので、訂正後の本件発明の特許は、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
したがって、訂正後の本件発明についての特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アクリルゾル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル重合体粒子(I)、可塑剤(II)および充填剤(III)を含有するアクリルゾルにおいて、該アクリル重合体粒子(I)が、粒子の中心部から最外部に向けて、その構成単位の構成比率が多段階(但し2段階のものを除く)もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有することを特徴とするアクリルゾルであって、
アクリル重合体粒子(I)が、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート及びtert-ブチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリレート単位(a-1)、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のメタクリレート単位(b-1)、及びメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸から選ばれる少なくとも一種の不飽和カルボン酸単位(b-2)とから少なくとも構成され、該(メタ)アクリレート単位(a-1)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に減少し、該メタクリレート単位(b-1)及び不飽和カルボン酸単位(b-2)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に増加することを特徴とするアクリルゾル。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、アクリル重合体粒子、可塑剤および充填剤からなるアクリルプラスチゾル、およびこれに有機溶剤を加えたアクリルオルガノゾルに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、工業的に広く用いられているプラスチゾルは、ポリ塩化ビニルパウダーと充填剤を可塑剤に分散させて得られる塩ビゾルを主成分とし、さらに、用途により顔料、熱安定剤、発泡剤、希釈剤などを含むものが一般的である。
このプラスチゾルは、自動車、カーペット、壁紙、床等の種々の分野で用いられている。
【0003】
一方、環境問題の点から、焼却時に塩化水素ガスを発生させる塩ビゾル関連製品は、オゾン層の破壊、酸性雨の原因となるばかりでなく、焼却炉を著しく損傷させ、さらにダイオキシンという有害物質を発生するという深刻な問題点を有しており、各種商品分野で塩ビゾルに替わるプラスチゾルの出現が待たれていた。
【0004】
この要求に対し、焼却時に塩化水素ガスを発生しないプラスチゾルとして、特公昭55-16177号公報に、アクリルゾル組成物が提案されている。
これは均一組成系のアクリルポリマー粒子を用いたものであり、ジオクチルフタレートのような汎用可塑剤を用いた場合、前記粒子への溶解性が高く、混合後数分間でアクリルゾルの粘度上昇が起きて塗工不能となるため、実用上使用することができない。また、アクリルゾルの塗工安定性および貯蔵安定性を向上するために、アクリルポリマーに溶解性の低いモノマー成分を共重合させたものが提案されているが、これは、硬化後の塗膜表面に可塑剤がブリードアウトしやすいという問題点を有している。
このように、従来のアクリルゾルでは、焼却時に塩化水素ガスを発生しないものの、塗工特性と貯蔵時に増粘しないといった貯蔵安定性等の実用性能を満足できないのが現状である。
【0005】
また、特開平6-25365号公報では、可塑剤と良好な相溶性を有するスチレンポリマーをコア層に、可塑剤と非相溶性を有するメチルメタクリレート、不飽和カルボン酸及び不飽和アルコールの共重合ポリマーをシェル層とすることを特徴としたプラスチゾルが開示されている。
しかしながら、このようにコア層とシェル層が、可塑剤との相溶性の異なる2種類のモノマー単位から構成された複層構造を有している場合には、高温度、短時間加熱というゲル化条件で形成した硬化塗膜は、本質的に可塑剤との相溶性が不足し、且つコア・シェル構造のポリマーの相溶性も不足するため該ポリマー内で層分離現象を起こしやすく、脆くなる。
特に、発泡剤により成膜時に気泡セルを形成させる場合には、ゲル化膜の不良は顕著となり、塩ビゾル製品に比べ、極めて可撓性が不足した塗膜となる。
さらに、このようなプラスチゾルでは、可塑剤としてリン酸エステル系を使用し、且つエステル部に芳香環を有するような限られた条件下でのみ、良好な硬化塗膜を形成できるというものであり、塩ビゾルで汎用されている安価なジオクチルフタレートやジイソノニルフタレート等の可塑剤は、塗膜上に可塑剤のブリードアウトが発生するため使用することができなかった。
【0006】
そこで、可塑剤のブリードアウトの対策として、本発明者らは可塑剤と相溶性の高いポリマーをコア部に多く配合したプラスチゾルを試みたが、可塑剤によりポリマーが膨潤・溶解し、ゾル粘度が増加するため、長期分散安定性が不十分であり、未だ十分に満足できるものではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、焼却時に塩化水素ガスを発生することなく、かつジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート等の安価で工業的に有利な汎用のジアルキルフタレート系可塑剤の使用が可能であり、室温条件下では可塑剤に対する分散安定性が良く粘度変化が少なく、高温条件下では容易に溶解・ゲル化するとともに、可塑剤のブリードアウトがなく可撓性の良好な硬化塗膜を形成できるプラスチゾルを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、特定のモノマー単位の構成比率が粒子中心部から最外部に向けて多段階もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有するアクリル重合体粒子とすることにより、上記課題を解決できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
アクリル重合体粒子(I)、可塑剤(II)および充填剤(III)を含有するアクリルゾルにおいて、該アクリル重合体粒子(I)が、粒子の中心部から最外部に向けて、その構成単位の構成比率が多段階(但し2段階のものを除く)もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有することを特徴とするアクリルゾルであって、
アクリル重合体粒子(I)が、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート及びtert-ブチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリレート単位(a-1)、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のメタクリレート単位(b-1)、及びメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸から選ばれる少なくとも一種の不飽和カルボン酸単位(b-2)とから少なくとも構成され、該(メタ)アクリレート単位(a-1)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に減少し、該メタクリレート単位(b-1)及び不飽和カルボン酸単位(b-2)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に増加することを特徴とするアクリルゾルにある。
【0009】
以下、本発明のアクリルゾルについて、詳細に説明する。
本発明のアクリルゾルは、アクリル重合体粒子(I)、可塑剤(II)および充填剤(III)からなる。
この(I)成分のアクリル重合体粒子は、少なくとも可塑剤と相溶性が良好な(メタ)アクリレート単位(a-1)と可塑剤との相溶性が低いメタアクリレート単位(b-1)及びメチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートから選ばれる少なくとも一種のメタクリレート単位(b-1)、及びメタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸から選ばれる少なくとも一種のカルボン酸単位(b-2)とから構成され、これらの構成単位の構成比率が粒子中心部から最外部に向けて、多段的もしくは連続的に変化するグランジェント型構造を有する。
具体的には、(メタ)アクリレート単位(a-1)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に減少し、該メタクリレート単位(b-1)及び不飽和カルボン酸単位(b-2)の構成比率がアクリル重合体粒子(I)の中心部から最外部にむけて多段階もしくは連続的に増加する、グランジェント型構造を有する。
このような構造にすることにより、100℃以上の加熱で可塑剤が拡散してゲル化し、硬化塗膜を形成することができるアクリルゾルを得ることができる。
【0010】
本発明の(I)成分であるアクリル重合体粒子の分子量は、用途によって異なるが、重量平均分子量で10,000〜2,000,000が好ましい。
これは、重量平均分子量が10,000より小さい場合には、得られたアクリル重合体粒子は可塑剤に溶解しやすくなる傾向にあり、重量平均分子量が2,000,000より大きい場合には、乳化重合でアクリル重合体粒子を製造することが難しくなる傾向にあるためである。
【0011】
この(I)成分の粒子径は、加熱成膜性と貯蔵安定性のバランスの点から、一次粒子及び/又は一次粒子が凝集した二次粒子で0.1〜100μmであることが好ましく、さらに好ましくは3〜30μmである。
この粒子径が大き過ぎると、加熱成膜時に可塑剤の拡散が不良となり、完全なゲル化が起こらない傾向にある。また、粒子径が小さすぎるとアクリルゾルの貯蔵安定性が不十分となる傾向にある。そこで要求性能に合わせ、粒子径を最適化することが好ましい。
【0012】
本発明に用いるアクリル重合体粒子(I)の製造方法は、その粒子構造が中心部から最外部に向けて特定のモノマーからなる構成単位の構成比率が多段階もしくは連続的に変化する構造となるものであれば特に限定されるものではないが、アクリル重合体粒子(I)を含むエマルションが効率よく得られる点では、乳化重合法が特に好ましい。
得られたアクリル重合体粒子(I)を含有するエマルションは、例えばスプレードライ法、もしくは酸又は塩析により凝固・乾燥させることによって、本発明のアクリル重合体粒子(I)が得られる。
【0013】
本発明に用いるアクリル重合体粒子(I)を構成する(メタ)アクリレート単位(a-1)は、可塑剤との親和性が高い成分であり、この具体例としては、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、Tert-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、及びtert-ブチルアクリレート等が挙げられる。
これらは1種又は2種以上を併用して用いても良い。
【0014】
また、本発明に用いるアクリル重合体粒子(I)を構成するメタクリレート単位(b-1)は、可塑剤との相溶性の低い成分であり、具体例として、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートが挙げられ、これらのいずれか一方あるいは両方を使用することができる。
(b-2)成分である不飽和カルボン酸単位としては、具体例として、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸が挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
本発明に用いるアクリル重合体粒子(I)においては、前述のようなグランジェント構造を形成させるために、前記(メタ)アクリレート成分(a-1)を含むモノマー混合物(I-a)と、前記メタクリレート成分(b-1)及び前記不飽和カルボン酸成分を含むモノマー混合物(I-b)とを、その配合割合を多段的または連続的に変化させながら重合を行うことが好ましい。
【0016】
モノマー混合物(I-a)としては、(a-1)成分の他に、可塑剤との相溶性が良好な成分として不飽和カルボン酸成分(a-2)を混合してもよい。また、可塑剤との相溶性及び貯蔵安定性のバランスを調整するために、成分(a-1)成分および(a-2)成分以外のモノマー成分(a-3)を混合してもよい。
【0017】
この(a-2)成分である不飽和カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等から選ばれる少なくとも一種の不飽和カルボン酸が挙げられる。
【0018】
また(a-3)成分である(a-1)成分と(a-2)成分以外のモノマーの具体例としては、炭素数1〜13のアルコールの(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアクリルアミド、N-ジメチルメタクリルアミド、N-ジメチルアミノエチルメタアクリレート、N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、酢酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリシジルメタクリレート、アリルメタクリレートなどが挙げられる。
これらは一種又は2種以上を併用して用いても良い。
【0019】
これら(a-1)成分、(a-2)成分及び(a-3)成分の比率は、硬化塗膜の可撓性の点から(a-1)/(a-2)/(a-3)=50〜100/0〜40/0〜40(重量%)であることが好ましい。
特に好ましくは、(a-1)/(a-2)/(a-3)=70〜90/0〜5/0〜5(重量%)である。
【0020】
また、モノマー混合物(I-b)としては、(b-1)成分の他に、可塑剤との相溶性が低い成分として不飽和カルボン酸単位(b-2)を混合してもよい。また、可塑剤との相溶性及び貯蔵安定性のバランスを調整する目的で(b-1)成分と(b-2)成分以外のモノマー単位(b-3)を混合して用いてもよい。
【0021】
(b-2)成分の具体例としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0022】
また、(b-3)成分の具体例としては、炭素数1〜13のアルコールの(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアクリルアミド、N-ジメチルメタクリルアミド、N-ジメチルアミノエチルメタアクリレート、N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、酢酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、グリシジルメタクリレート、アリルメタクリレートなどが挙げられる。
これらは一種又は2種以上を併用して用いても良い。
【0023】
これら(b-1)成分、(b-2)成分、及び(b-3)成分の比率は、アクリルゾルの貯蔵安定性の点で、(b-1)/(b-2)/(b-3)=60.5〜99.5/0.5〜10/0〜29.5(重量%)であることが好ましい。
特に好ましくは、(b-1)/(b-2)/(b-3)=75〜99/1〜5/0〜20(重量%)である。
【0024】
本発明のアクリル重合体粒子(I)において、モノマー混合物(I-a)とモノマー混合物(I-b)の混合比率は、混合するモノマーの選択により異なるが、可塑剤との相溶性、本発明のアクリルゾルの造膜性、貯蔵安定性、等の目的性能を考慮すると、(I-a)/(I-b)=30/70〜70/30が好ましい。
【0025】
本発明の(II)成分である可塑剤は、特に限定されないが、通常塩ビゾルで汎用されているジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレートなどの溶解力の高いジアルキルフタレート系可塑剤を使用することができる。
特にジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート等が、安価で工業的にも好ましい。
【0026】
本発明に用いる可塑剤(II)の使用量は、アクリル重合体粒子(I)100重量部に対して50〜500重量部であることが好ましい。
この可塑剤の使用量が(I)成分100重量部に対して50重量部より少ないと、アクリルゾルの粘度が高くなり塗工不能となる場合があり、500重量部より多い場合には、可塑剤の含有量が多くなりすぎて、ゲル化させた硬化被膜は可塑剤がブリードアウトしやすくなる傾向にある。
【0027】
本発明に用いる充填剤(III)は、アクリルゾルを増量し、着色することにより隠蔽性を付与できる成分であれば、特に限定しない。
この具体例としては、炭酸カルシウム、パライタ、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、硅藻土、カオリン、タルク、ペントナイト、ガラス粉末、砂、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、二酸化チタン、カーボンブラック、金属石けん、染料、顔料等が挙げられる。
特に好ましくは、アクリルゾルを増量する目的で、炭酸カルシウム、二酸化チタン等が挙げられる。
【0028】
本発明に用いる(III)成分の使用割合は、アクリル重合体粒子(I)100重量部に対して50〜500重量部であることが好ましい。
この使用量がアクリル重合体粒子100重量部に対して50重量部より少ない場合には、アクリルゾルの各種性能が発現しにくくなる傾向にあり、500重量部より多い場合には、アクリルゾルの粘度が高くなりすぎる傾向にある。
【0029】
本発明のアクリルゾルには、前記(I)〜(III)成分の他に、希釈剤として例えば、ミネラルターベン等を加えてオルガノゾルとすることもできる。
更に目的に応じて、接着促進剤、レベリング剤、タック防止剤、離型剤、消泡剤、発泡剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃剤、香料等の各種の添加剤を配合することができる。
【0030】
本発明のアクリルゾルは各種用途で適用することができ、例えば刷毛塗り法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、カーテンフローコーティング法、静電コーティング法等で用いられるコーティング材料や、ディップモールディング法、キャストモールディング法、スラッシュモールディング法、ローテーショナルモールディング法等で用いられる成型用材料として用いることができる。
【0031】
本発明のアクリルゾルを用いてゲル化させて得られる硬化塗膜は、ゲル形成温度が70〜260℃の範囲であれば処理時間が30秒〜90分の範囲で形成することができ、アクリルゾルの組成により適宜この範囲の条件を適宜選択して行えばよい。
また、用途によっては、得られた硬化塗膜に、印刷、エンボス加工、発泡処理を行うこともできる。
【0032】
本発明のアクリルゾルは、塗料、インキ、接着剤、粘着剤、シーリング剤等に応用でき、雑貨、玩具、工業部品、電気部品等の成型品にも応用できる。
また、例えば紙や布等に適用すると、人工皮革、敷物、医療、防水シート等を得ることができ、金属板に適用すれば防蝕性金属板とすることができる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
但し、実施例中の部は重量部を示す。
【0034】
[評価方法]
【0035】
〈ゾル性能〉
粘度変化:
6日間放置後の粘度(25℃)/初期粘度(25℃)を、東京計器(株)のE型粘度計により測定した。
○…<2.0
△…2.0〜3.0
×…>3.0
貯蔵安定性;
アクリルゾルを調製して25℃で6日間放置した後に、基材に塗布し塗工性を評価した。
○…塗工可能
△…部分ゲル化により増粘し、塗工が困難
×…ゲル化が進行し、増粘が激しく塗工不可能
【0036】
〈塗膜性能〉
非ブリードアウト性:
硬化塗膜を形成した後、10℃、1週間保持後の該塗膜表面を指触にて評価した。
○…ブリードアウトなし
×…ブリードアウトあり
塗膜均一性:
200℃で焼き付けを45秒間行った後の硬化塗膜の状態を目視にて評価した。
○…ポリマーの熱融着が良好で平滑な塗膜
△…ポリマーの熱融着が一部不良で凹凸のある塗膜
×…ポリマーの熱融着が不良で凹凸の多い塗膜
可撓性:
硬化塗膜を形成した後、180度折り曲げて、該塗膜の状態を目視にて評価した。
○…クラックなし
×…クラックあり
【0037】
[実施例1]
[モノマー混合物(A1)の調製]
イソブチルメタクリレート120部、ブチルアクリレート60部、メチルメタクリレート120部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王(株)製;商品名:エマルゲン905)6.0部を混合してモノマー混合物(A1)306部を調製した。
【0038】
[モノマー混合物(B1)の調製]
メチルメタクリレート550部、メタクリル酸7.2部、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製;商品名:ペレックスOTP)6部を混合し、モノマー成分(B1)563.2部を調製した。
【0039】
[アクリル重合体粒子の製造(6分割滴下重合)]
5リットルの4つ口フラスコに、純水1294部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王(株)製、;商品名:エマルゲン910)7.8部、過硫酸カリウム1.8部、を投入し、窒素雰囲気中、130rpmで攪拌しながら70℃に昇温した。
次に、予め調製したモノマー混合物(A1)の5/12量とモノマー混合物(B1)の1/12量を混合したモノマー混合物を、前記フラスコ中に30分間かけて滴下し、30分間保持し、第一段目の乳化重合を行った。
次に、第一段目に重合した粒子をシード粒子として、表1に示す条件で第2段目〜第6段目まで滴下・保持を繰り返して乳化重合を行い、1時間保持した。
さらに、80℃に昇温して1時間保持後、乳化重合を終了し、乳白色エマルション(固形分40.1%)を得た。
【0040】
【表1】

【0041】
得られたエマルションをスプレードライヤー(大川原化工機社製;商品名:L-8型)を用いてチャンバー入口温度120℃、チャンバー出口温度80℃、アトマイザー回転数25000rpmに設定し、噴霧乾燥を行い粉体化し、平均粒径18μmのアクリル重合体粒子を得た。
そこで、この得られた粒子を電子顕微鏡(日本電子(株)製)にて観察した結果、1μm以下の一次粒子が凝集し、18μm前後の球状粒子を形成していた。
次に、得られたアクリル重合体粒子100部に、ジオクチルフタレート80部、炭酸カルシウム(竹原化学工業(株)製;商品名:ネオライトSP)70部、ミネラルターペン20部を加えてアクリルゾルを得た。
【0042】
このゾルの物性評価をした結果、初期粘度は3200cps、25℃で6日間放置した後の粘度(25℃)は3900cpsであり、貯蔵安定性は実用上十分なものであった。
このゾルをブリキ板にナイフコーターを用いて50μm厚に塗布し、200℃で45秒間加熱してゲル化させ、均一な硬化塗膜を得た。
この硬化塗膜は10℃で1週間保持した後も可塑剤のブリードはなく、可塑剤との相溶性は良好であった。
また、この硬化塗膜は180度折り曲げてもクラックの発生はなく、十分な可撓性を有していた。
【0043】
[実施例2,3、比較例1〜4]
実施例1と同じ方法で表2に示す6種類のアクリル重合体粒子を得た。
【0044】
【表2】

【0045】
表中の略号は、以下の通りである。
iBMA:イソブチルメタクリレート
nBMA:ノルマルブチルメタクリレート
nBA:ノルマルブチルアクリレート
EMA:エチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
MAA:メタアクリル酸
AA:アクリル酸
次に、可塑剤としてジイソノニルフタレートを用いる以外は、実施例1と同様にして、アクリルゾル及びこれを用いて硬化塗膜を得た。
これらの評価結果は、表3に示す。
【0046】
[比較例5]
モノマー混合物(A1)1/6量と、モノマー混合物(B1)1/6量とを混合したモノマー混合物を、第1段目から第6段目までそれぞれ均等に滴下する以外は、実施例1と同様な手段で重合し、グランジェント型組成構造を持たない重合体粒子を得て、アクリルゾルを調製した。
そして、実施例1と同様にして、得られたアクリルゾル、及びこれを用いて硬化塗膜を得た。この評価結果は表3に示す。
【0047】
[比較例6]
5リットルの4つ口フラスコに、純水1251部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王(株)製;商品名:エマルゲン910)8.5部、過硫酸カリウム1.0部を投入し、窒素雰囲気中、150rpmで攪拌しながら70℃に昇温した。
この中に、第1段目の滴下モノマーとして、n-ブチルメタクリレート140部、n-ブチルアクリレート41.4部、エチルメタクリレート40部、メチルメタクリレート20部、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株)製;商品名:ペレックスOTP)5部を混合したモノマー混合物(A6)を2時間かけて全量滴下し、さらに1時間保持して、シード粒子を重合した。
次に最外部のモノマー混合物として、メチルメタクリレート445部、メタクリル酸6部、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王(株);商品名:ペレックスOTP5部を混合したモノマー混合物(B5)を2時間かけて全量滴下し、さらに2時間保持し、80℃に昇温し1時間保持してシード重合を終了し、コア・シェル型の2層構造を有する重合体粒子含有のエマルションを得た。
得られたエマルションを、実施例1と同様に粉体化して得たアクリル重合体粒子を実施例1と同様の可塑剤などを配合して、アクリルゾルを作成した。
【0048】
得られたアクリルゾルは、貯蔵安定性は良好なものの、ゲル化膜が不透明で完全に均一な膜にならず、部分的に層剥離していた。
また、ゲル化膿を180度に折り曲げた場合、細かなクラックが発生し、可撓性不足であった。
【0049】
【表3】

【0050】
比較例1は、モノマー成分(A)のトータル量が少ないため、アクリルゾルの貯蔵安定性は良好なものの、ゲル化した硬化塗膜は可塑剤のブリードアウトが発生した。
比較例2は、モノマー成分(B)のトータル量が少ないためアクリル重合体粒子の耐可塑剤性が不足しているため、室温でアクリル重合体粒子の溶解が始まり、アクリルゾルの粘度が上昇し、貯蔵安定性が不良となった。
比較例3は、モノマー成分(A)中のMMAの量が多すぎるため、アクリル重合体粒子と可塑剤との相溶性が不足し、ゲル化した硬化塗膜は可塑剤のブリードアウトが発生した。
また、比較例4では、モノマー成分(B)中のMMA量が少なすぎたため、室温でアクリル重合体粒子の溶解が始まり、アクリルゾルの粘度が上昇し、貯蔵安定性が不良となった。
【発明の効果】
このように、本発明のアクリルゾルは、焼却時に塩化水素ガスを発生することがなく、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレートなど汎用の安価で工業的に有利な可塑剤を用いて、実用に耐えうるプラスチゾルおよびオルガノゾルを得ることができ、その工業的意義は大である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-11-22 
出願番号 特願平7-102628
審決分類 P 1 651・ 531- ZA (C09J)
P 1 651・ 534- ZA (C09J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中島 庸子  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 佐野 整博
船岡 嘉彦
登録日 2003-08-22 
登録番号 特許第3464730号(P3464730)
権利者 三菱レイヨン株式会社
発明の名称 アクリルゾル  
代理人 山崎 利臣  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
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