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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 特39条先願 C22C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 発明同一 C22C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C |
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管理番号 | 1134357 |
異議申立番号 | 異議2003-73514 |
総通号数 | 77 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-02-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-26 |
確定日 | 2006-01-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3449166号「希土類磁石用合金及びその製造方法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3449166号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3449166号は、平成9年4月10日(優先権主張 平成8年4月10日)の特許出願に係るものであって、平成15年7月11日に請求項1〜7に係る発明について特許権の設定の登録がされたものであり、その後、請求項1〜7に係る特許について片山誠より特許異議の申立てがなされた。 そこで、当審より特許取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年1月14日に訂正請求がなされ、当審より特許異議申立人に対して審尋がなされ、回答書が提出されたものである。 2.訂正請求について 2-1.訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は、次のとおりである。 (1)訂正事項A 本件特許の願書に添付した明細書(以下、単に「明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の末尾の「希土類磁石用合金」を、「希土類磁石用合金(ただし、Rを27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%を含み、2合金法に使用するための希土類磁石用合金を除く)」と訂正する。 (2)訂正事項B 明細書の特許請求の範囲の請求項6の末尾の「希土類磁石用合金の製造方法」を、「請求項1乃至5のいずれか1項に記載の希土類磁石用合金の製造方法」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項Aは、特許請求の範囲の請求項1において、先願発明との重複を避けるために、訂正前の記載事項を残したままで、その中の一部の範囲を除く訂正であるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、かつ、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。 訂正事項Bは、製造方法の対象となる希土類磁石用合金が、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の合金であることを明りょうにするためのものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、かつ、願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内のものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでもない。 2-3.まとめ 以上のとおり、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項において準用する同法第126条第2〜3項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1〜7に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜34wt%、Bを0.7〜1.4wt%含み、残部がT(TはFeを必須とする遷移金属)から成る組成を有し、R-リッチ相以外の相の体積率V(%)が(138-1.6r)以上(ただしrはRの含有量)で、R2T14B相の平均結晶粒径が10〜100μm、Rリッチ相の間隔が3〜15μmであることを特徴とする希土類磁石用合金(ただし、Rを27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%を含み、2合金法に使用するための希土類磁石用合金を除く)。 【請求項2】合金組成がR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を28〜33wt%、Bを0.95〜1.1 wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成であり、R2T14B相の体積率V’(%)が138-1.6r<V’<95であり、R2T14B相の平均結晶粒径が10〜50μmで、Rリッチ相の間隔が3〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石用合金。 【請求項3】合金組成がR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を30〜32wt%、Bを0.95〜1.05wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成であり、R2T14B相の体積率V’(%)が138-1.6r<V’<95であり、R2T14B相の平均結晶粒径が15〜35μmで、Rリッチ相の間隔が3〜8μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石用合金。 【請求項4】合金組成がR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜30wt%、Bを0.7 〜1.4wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成であり、R2T14B相の体積率V’(%)が91以上であり、R2T14B相の平均結晶粒径が15〜100μm、Rリッチ相の間隔が3〜15μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石用合金。 【請求項5】合金組成がR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を28〜29.5wt%、Bを1.1〜1.3wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成であり、R2T14B相の体積率V’(%)が93以上であり、R2T14B相の平均結晶粒径が20〜50μm、Rリッチ相の間隔が5〜12μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石用合金。 【請求項6】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜34wt%、Bを0.7〜1.4wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成を有する合金溶湯をストリップキャスティング法で鋳造し、該合金の融点から1000℃迄の平均冷却速度を300℃/秒以上とし、800℃から600℃間の平均冷却速度を1.0℃/秒以下とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の希土類磁石用合金の製造方法。 【請求項7】融点から1000℃迄の平均冷却速度を500℃/秒以上とし、800℃から600℃間の平均冷却速度を0.75℃/秒以下とすることを特徴とする請求項6に記載の希土類磁石用合金の製造方法。」 (以下、請求項1〜請求項7に係る発明を、それぞれ順に本件発明1〜本件発明7という。) 4.特許異議の申立てについての判断 4-1.特許異議申立ての概要 特許異議申立人は、証拠方法として甲第1〜4号証を提示し、 (1)訂正前の本件特許の請求項1〜7に係る発明は、甲第1号証の特許出願(以下、先願1という。)に係る発明と同一であるから、それらの発明に係る特許は、特許法第39条の規定に違反してされたものであり、 (2)同じく請求項1〜7に係る発明は、本件特許の出願の日前の他の特許出願である甲第2号証に係る特許出願(以下、先願2という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、本件発明の発明者が上記先願2に係る前記発明をした者と同一であるとも、また本件特許に係る出願の時において、その出願人が先願2の出願人と同一であるとも認められないから、それらの発明に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、また、 (3)訂正前の本件特許の請求項1〜7に係る発明は、優先権主張の基礎となった出願の明細書に記載されていない事項を含んでおり、優先権主張の効果が得られないものであるから、本件特許の上記請求項1〜7に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、さらに、 (4)本件明細書の記載は特許法第36条第4項の規定を充足していないか若しくは本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項1号又は2号の規定を充足していない。 4-2.特許異議申立人の提出した証拠の記載について (1)先願1:特願平7-348844号(特許第3267133号公報) 特願平7-348844号は、特許第3267133号として登録され、確定しており、その特許請求の範囲の記載は次のとおりである。 (1a):「【請求項1】 R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)からなる組成を有し、R2T14B相の体積率が93%以上で平均結晶粒径が20〜100μm、Rリッチ相の間隔が15μm以下であり、Rリッチ相は結晶粒界と主相粒内に点在することを特徴とする2合金法に使用するための希土類磁石用合金。 【請求項2】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)からなる組成を有する合金溶湯をストリップキャスト法で鋳造し、該合金の融点から800℃迄の平均冷却速度を300℃/秒以上とし、800〜600℃間の平均冷却速度を10℃/秒以下とすることを特徴とする2合金法に使用するための請求項1記載の希土類磁石用合金の製造方法。 【請求項3】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)からなる組成を有する合金溶湯をストリップキャスト法で鋳造した後、800〜600℃間の温度で真空又は不活性雰囲気中で1時間以上3時間以下加熱することを特徴とする2合金法に使用するための請求項1記載の希土類磁石用合金の製造方法。 【請求項4】 請求項1に記載の希土類磁石用合金70〜95重量部と、R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)、B及びT(Feを必須成分とする遷移金属)からなる組成を有し、R2T14B相の体積率が30%以下である希土類磁石用合金5〜30重量部とを、組成がR:28〜32wt%、B:0.9〜1wt%、残部がT(Feを必須成分とする遷移金属)となるように混合し、不活性雰囲気中で微粉砕した後、磁場成形することを特徴とする永久磁石の製造方法。」(特許請求の範囲) (2)先願2:特願平7-97726号及び甲第2号証(特開平8-269643号公報) 甲第2号証及び甲第2号証に係る先願2の出願当初の明細書又は図面(以下、「先願2明細書」という。)には、以下の記載がある。 (2a):「【請求項1】R10〜25at%、B2〜15at%、Fe60〜88at%を主成分とし、短軸結晶粒径が1.0μm未満の微細結晶を10%以下含有する平均短軸結晶粒径3μm〜15μmのR2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶と、5μm以下のR-リッチ相とが、微細に分散した均質組織からなり、鋳片厚みが0.01mm〜1.0mmからなることを特徴とするR-Fe-B系磁石合金用鋳片。 【請求項2】 R10〜25at%、B2〜15at%、Fe60〜88at%を主成分とする磁石合金溶湯を、合金の液相線温度(凝固開始温度)+5℃〜+300℃の温度より、急冷ロールにて2×103℃/sec〜7×103℃/secの1次冷却速度にて鋳片温度700℃〜1000℃に冷却後、ロール離脱後に前記鋳片を合金の固相線温度に(凝固完了温度)以下に50℃/min〜2×103℃/minの2次冷却速度にて冷却し、短軸結晶粒径が1.0μm未満の微細結晶を10%以下含有する平均短軸結晶粒径3μm〜15μmのR2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶と、5μm以下のRリッチ相とが、微細に分散した均質組織からなり、鋳片厚みが0.01mm〜1.0mmからなる磁石合金用鋳片を得ることを特徴とするR-Fe-B系磁石合金用鋳片の製造方法。」(特許請求の範囲) (2b):「【0023】この発明の磁石合金用鋳片において、短軸結晶粒径は樹枝状もしくは柱状結晶の長軸方向に対して垂直な方向の短軸の長さを意味する。磁石合金用鋳片のR2Fe14B型樹枝状もしくは柱状結晶の平均短軸結晶粒径を3μm〜15μmに限定した理由は、3μm未満では粉末化した時に酸化しやすくなり、磁気特性の劣化を招来し、また粉末化した合金粉末が多結晶体となり、プレス成形時の配向度が乱れ、磁石のBrの低下を招来し、さらに、15μmを超えると焼結磁石の結晶粒径が大きくなり、保磁力が低下するため、好ましくない。」 (2c):【0025】この発明の磁石合金用鋳片の微細に分散した均質組織における、R2Fe14B型樹枝状結晶、柱状結晶、Rリッチ相の各量比率は、R2Fe14B型樹枝状結晶もしくは柱状結晶は90%以上が好ましく、更に好ましくは95%以上であり、又Rリッチ相は3〜10%が・好ましい。この発明において、固相線温度はR-Fe-B系磁石組成による変動するが、磁石組成が14Nd-79Fe-7Bat%磁石の場合は、固相線温度は665℃である。」 (2d):「【0034】【実施例】実施例1 …31Nd-1.0Dy-1.1B-3.0Co-残Fe(wt%)組成(液相線温度1170℃)の合金溶湯を、…1次冷却速度5×103℃/secにて鋳片温度800℃に冷却後、…鋳片を600℃(固相線温度660℃)まで200℃/minの2次冷却速度にてガス冷却して厚み0.38mmの鋳片を得た。 【0035】得られた鋳片の断面を鏡面研摩して光学顕微鏡(倍率400倍)で観察し、結晶500個について短軸結晶粒径を線分法にて測定した結果、…平均短軸結晶粒径4.5μmのR2Fe14B型樹枝状結晶と5μm以下のR-リッチ相が微細に分散した均質組織を有していた。 …得られた試験片の磁気特性及び平均結晶粒径を表1に示す。 【0036】比較例1 実施例1と同一組成の合金溶湯を用い、…1次冷却速度7500℃/secにて冷却し、…さらに、ロール離脱後の鋳片を200℃/minの2次冷却速度にてガス冷却して鋳片厚0.30mmの鋳片を得た。 得られた鋳片の…短軸結晶粒径を測定した結果、…平均短軸結晶粒径3.2μmのR2Fe14B型樹枝状結晶を得た。 …磁気特性及び平均結晶粒径の測定結果を表1に示す。 【0037】比較例2 実施例1と同一組成の合金溶湯を用い、実施例1と同一ロールを使用し、1次冷却速度1600℃/secで冷却し、鋳片温度は1100℃であった。さらに、ロール離脱後の鋳片を600℃まで100℃/minの2次冷却速度でガス冷却して鋳片厚0.43mmの鋳片を得た。実施例1と同一方法にて短軸結晶粒径を測定した結果、…平均短軸結晶粒径は32μmであった。得られた鋳片を平均粉末粒径3.2μmに微粉砕する以外は実施例1と同1条件にて焼結磁石を得た。磁気特性及び平均結晶粒径の測定結果を表1に示す。 【0038】比較例3 実施例1と同一組成の合金溶湯を用い、実施例1と同一のロールを使用し、2次冷却速度を20℃/minにする以外は実施例1と同一の製造条件にて鋳片厚0.38mm(μmは明らかな誤記である)の鋳片を得た比較例3を測定した結果、短軸結晶粒径1μm以下の微細結晶は0.5%であったが、平均短軸結晶粒径21μmであった。」(【0034】〜【0038】) (3)甲第3号証:特開平7-176414号公報 (3a):「【特許請求の範囲】【請求項1】…実質的にR2T14Bから構成される主相を有する永久磁石を、主相用母合金の粉末と粒界相用母合金の粉末との混合物を成形した後、焼結することにより製造する方法であって、前記主相用母合金が、実質的にR2T14Bから構成され平均径が3〜50μm である柱状結晶粒と、R2T14BよりもRの含有率が高いRリッチ相を主体とする結晶粒界とを有し、かつ、Rを26〜32重量%、Bを0.9〜2重量%含み、残部が実質的にTであり、…前記混合物中における主相用母合金の比率が60〜95重量%である永久磁石の製造方法。」(特許請求の範囲) 4-3.当審の判断 4-3-1.特許法第39条違反について (本件発明1〜5について) 本件発明1は、「【請求項1】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜34wt%、Bを0.7〜1.4wt%含み、残部がT(TはFeを必須とする遷移金属)から成る組成を有し、R-リッチ相以外の相の体積率V(%)が(138-1.6r)以上(ただしrはRの含有量)で、R2T14B相の平均結晶粒径が10〜100μm、Rリッチ相の間隔が3〜15μmであることを特徴とする希土類磁石用合金(ただし、Rを27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%を含み、2合金法に使用するための希土類磁石用合金を除く)」であるのに対し、先願1の請求項1に係る発明は、「【請求項1】 R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)からなる組成を有し、R2T14B相の体積率が93%以上で平均結晶粒径が20〜100μm、Rリッチ相の間隔が15μm以下であり、Rリッチ相は結晶粒界と主相粒内に点在することを特徴とする2合金法に使用するための希土類磁石用合金」(1a)であり、両者を対比すると、先願1の請求項1に係る発明が、Rを27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%を含み、2合金法に使用するための希土類磁石用合金であるのに対し、本件発明1は、Rを27〜34wt%、Bを0.7〜1.4wt%含む希土類磁石用合金の中から上記先願1の請求項1に係る発明の磁石合金を除くものであるから、少なくとも両者はこの点で相違する。 そうすると、本件発明1は、先願1の請求項1に係る発明と同一ではない。 また、本件発明2〜5は、請求項1を引用して特定されるものであるから、それらの発明も先願1の請求項1に係る発明と同一ではない。 (本件発明6、7について) 本件発明6は、「【請求項6】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜34wt%、Bを0.7〜1.4wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成を有する合金溶湯をストリップキャスティング法で鋳造し、該合金の融点から1000℃迄の平均冷却速度を300℃/秒以上とし、800℃から600℃間の平均冷却速度を1.0℃/秒以下とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の希土類磁石用合金の製造方法」であって、請求項1を引用する発明である。 これに対し、先願1の請求項2に係る発明は、「【請求項2】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)からなる組成を有する合金溶湯をストリップキャスト法で鋳造し、該合金の融点から800℃迄の平均冷却速度を300℃/秒以上とし、800〜600℃間の平均冷却速度を10℃/秒以下とすることを特徴とする2合金法に使用するための請求項1記載の希土類磁石用合金の製造方法。」(1a)であり、先願1の請求項3に係る発明は、「【請求項3】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)からなる組成を有する合金溶湯をストリップキャスト法で鋳造した後、800〜600℃間の温度で真空又は不活性雰囲気中で1時間以上3時間以下加熱することを特徴とする2合金法に使用するための請求項1記載の希土類磁石用合金の製造方法」(1a)であって、いずれも請求項1を引用する発明である。 そうすると、本件発明6及び先願1の請求項2、3に係る発明は、いずれも請求項1を引用する発明であり、かつ、上記のように本件発明1と先願1の請求項1に係る発明は同一ではないから、本件発明6と先願1の請求項2、3に係る発明が同一であるとすることはできない。 また、本件発明7は、請求項6を引用する発明であるから、その発明も先願1の請求項2、3に係る発明と同一ではない。 さらに先願1の請求項4に係る発明は、「【請求項4】請求項1に記載の希土類磁石用合金70〜95重量部と、・・・R2T14B相の体積率が30%以下である希土類磁石用合金5〜30重量部とを、組成がR:28〜32wt%、B:0.9〜1wt%、残部がT(Feを必須成分とする遷移金属)となるように混合し、不活性雰囲気中で微粉砕した後、磁場成形することを特徴とする永久磁石の製造方法」であって、先願の請求項1に係る発明の希土類磁石用合金を用いて永久磁石を製造する方法の発明であるから、本件発明6,7は、先願1の請求項4に係る発明と同一とすることはできない。 したがって、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第39条の規定に違反してされたものとはいえない。 4-3-2.特許法第29条の2違反について (本件発明1について) 先願2明細書には、「【請求項1】R10〜25at%、B2〜15at%、Fe60〜88at%を主成分とし、短軸結晶粒径が1.0μm未満の微細結晶を10%以下含有する平均短軸結晶粒径3μm〜15μmのR2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶と、5μm以下のR-リッチ相とが、微細に分散した均質組織からなり、鋳片厚みが0.01mm〜1.0mmからなることを特徴とするR-Fe-B系磁石合金用鋳片」(2a)に係る発明において、「磁石合金用鋳片の微細に分散した均質組織における…Rリッチ相は3〜10%が好ましい」(2i)ことが記載されており、その「R」は、Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種であることは明白であるから、先願2明細書には、「R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)10〜25at%、B2〜15at%、Fe60〜88at%を主成分とする組成を有し、R-リッチ相以外の相の体積率が90〜97%で、短軸結晶粒径が1.0μm未満の微細結晶を10%以下含有する平均短軸結晶粒径3μm〜15μmのR2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶と、5μm以下のR-リッチ相とが、微細に分散した均質組織からなり、鋳片厚みが0.01mm〜1.0mmからなることを特徴とする希土類磁石用合金」の発明(以下、先願2発明という。)が記載されているといえる。 そこで、本件発明1と先願2発明とを対比する。 両者は、主成分とその含有量の表現手法がwt%とat%で、一致していないので、先願2のat%をwt%に換算する。原子量はFe:55.5,B:10.8,R(Yを含む):88.9〜175.0であるから、先願2に係る発明の、R10〜25at%、B2〜15at%、Fe60〜88at%は、重量に換算すると、R:8.89〜43.75,B:0.216〜1.62,Fe:33.3〜48.84となり、それぞれの含有量wt%は最大限広く見積もって、R:15.0〜21.0,B:0.2〜3.7wt%、Fe:42.3〜84.3の範囲となるので、両者は、主成分のR,B及びTの含有量において一致している。 次に、R-リッチ相以外の相の体積率V(%)についてみると、本件発明1の体積率Vは、(138-1.6r)以上で、rは27〜34であるから、83.6〜94.8%であるのに対して、先願2発明では、R-リッチ相以外の相の体積率が90〜97%(2c)とされているから、両者はR-リッチ相以外の相の体積率V(%)においても一致している。 さらに、本件発明1ではR2T14B相の体積率が93%以上で、平均結晶粒径が10〜100μmであるのに対して、先願2発明では、R2T14B相に対応するR2Fe14B相の平均短軸結晶粒径が3〜15μm(2b)とされているから、両者は、R2T14BあるいはR2Fe14Bと記載される磁性を担う相の体積率及び平均結晶粒径においても一致する部分を有している。 次に、本件発明1の「Rリッチ相の間隔が15μm以下であり、R-リッチ相は結晶粒界と主相粒内に点在する」点について、考察する(以下、「Rリッチ相」と「R-リッチ相」の表記は、引用部分を除き、「Rリッチ相」に統一する。)。 先願2発明には、「…R2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶と、5μm以下のRリッチ相とが、微細に分散した均質組織」(2a)であることは記載されているが、Rリッチ相の間隔、及び、Rリッチ相が主相粒内に点在することについて言及されていない点で、本件発明1とは相違しているから、両者が同一の発明であるとはいえない。 この点について、特許異議申立人は、本件特許明細書の【0019】に記載されているRリッチ相及びその間隔の測定が、先願2明細書の【0023】及び【0035】に記載されるものと同様であること、更に、本件特許明細書の【0017】に記載されたR2T14B相の平均結晶粒径の測定が、偏光顕微鏡で観察されるものであり、このような測定法で観察される平均結晶粒径については先願2に直接的に記載されていないから、先願2の請求項1に記載された「平均短軸結晶粒径3〜15μmのR2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶」という要件は、本件発明1の「Rリッチ相の間隔3〜15μm」なる要件に相当する旨主張しているので、検討する。 本件発明1においては、明細書の【0017】に記載された偏光顕微鏡による観察によって区別される境界をR2T14B相(R2Fe14B相)の外縁として平均結晶粒径を算出し、【0019】に記載された走査型電子顕微鏡による観察で明るく観察される部分をRリッチ相として、その間隔を算出しているのに対して、先願2では、【0035】に、「得られた鋳片の断面を鏡面研摩して光学顕微鏡(倍率400倍)で観察し、結晶500個について短軸結晶粒径を線分法にて測定した結果、…平均短軸結晶粒径4.5μmのR2Fe14B型樹枝状結晶と5μm以下のR-リッチ相が微細に分散した均質組織を有していた。」(2d)旨記載されている。すなわち、本件発明1においては、偏光顕微鏡で観察した際に区別される境界を結晶粒界として、該結晶粒界によって画定される範囲をR2T14B相の1個の結晶粒とし、その平均結晶粒径を算出しているのに対し、Rリッチ相の間隔測定については、走査型電子顕微鏡観察において明るく観察される部分をRリッチ相として、隣接する同相同士の間隔を測定している。 これに対して、先願2の明細書では、【0035】に前記のとおりの平均短軸結晶粒径測定結果が記載されているに過ぎない。 特許異議申立人の上記主張は、「R2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶」が、Rリッチ相に挟まれているから、「R2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶」の短軸結晶粒径が、そのままRリッチ相同士の間隔になることを意味していると推測されるが、含有量で「3〜10%が好ましい」(2i)とされているRリッチ相が、「R2Fe14B型樹枝状あるいは柱状結晶」を常に挟持するように合金中に分散しているとは到底考えられないので、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 特許異議申立人は、上記の主張とともに、先願2の明細書には、本件明細書の【0017】に記載された「R2T14B相の平均結晶粒径の測定」に相当する平均結晶粒径の測定について記載されていないとした上で、「一般に、該平均結晶粒径は、ストリップキャスティング法、特に通常の単ロール法においては、ロール上での冷却速度に起因して変化する。そして、その冷却速度の相違は通常、得られる鋳片の厚さに表われるものであり、単ロール法で製造された鋳片の厚さによりR2Fe14B相の平均結晶粒径が略特定できるものである。この点は、例えば、本件明細書の【0039】に示される表1の主相平均粒径(μm)と、各例で製造した鋳片の厚さを比較することにより容易に理解できるものである。」とも主張している。 しかしながら、本件明細書の表1を見ると、比較例3以外の単ロール法で製造した7例中、主相平均粒径が35μmである実施例4と比較例4とはストリップ(鋳片)厚さが0.35mmで一致しているものの、ストリップ厚さが0.33mmで一致する実施例1〜3と比較例1のうち、実施例3は主相平均粒径が、25μmで、他の例の値である28μmとは相違しているから、「単ロール法で製造した鋳片の厚さによりR2Fe14B相の平均結晶粒径が略特定できる」旨の特許異議申立人の主張は採用できない。 なお、単ロール法による鋳片の製造時の冷却速度については、先願2の明細書中の実施例と比較例によれば、同一ロールを使用して、同一厚みの鋳片を同一冷却速度にて製造しても、鋳片がロールから離脱した後の2次冷却速度の違いにより、平均短軸結晶粒径は4.5μmから21μmにまで変化することが明記(2d)されているから、特許異議申立人の上記主張は失当である。 したがって、先願2には、「Rリッチ相の間隔が15μm以下であり、R-リッチ相は結晶粒界と主相粒内に点在する」点について記載されていないから、本件発明1と同一であるとすることはできない。 (本件発明2〜5について) 本件発明2〜5は、本件発明1を引用して特定されるものであるから、本件発明1と同様に、先願2に記載された発明と同一であるとすることはできない。 (本件発明6,7について) 本件発明6は、本件発明1乃至5のいずれか1項に記載の希土類磁石用合金の製造方法に係る発明であるから、該希土類磁石用合金とは異なる磁石用合金の製造方法が開示されているに過ぎない先願2に記載の発明と同一とすることはできない。 本件発明7については、本件発明6を引用して特定されるものであるから、本件発明6と同様の理由により、先願2に記載された発明と同一とすることはできない。 4-3-3.特許法第29条第1項第3号又は同条第2項違反について (刊行物2について) 刊行物2は、先願2の公開公報であるから、前項4-3-2ですでに検討したとおり、刊行物2には、「Rリッチ相の間隔が15μm以下であり、R-リッチ相は結晶粒界と主相粒内に点在する」点について記載されていない。 したがって、刊行物2に記載された発明が、本件発明1及び本件発明1を引用して特定される本件発明2〜5、及び本件発明1〜5に係る希土類磁石用合金の製造方法である本件発明6及び7と同一であるとすることはできない。 また、前項において検討した以外の事項から、「Rリッチ相の間隔が15μm以下であり、R-リッチ相は結晶粒界と主相粒内に点在する」点を当業者が容易に想到し得るものとも認められないから、本件発明1〜7が、刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。 (刊行物3について) 刊行物3の特許請求の範囲の請求項1には、「…実質的にR2T14Bから構成される主相を有する永久磁石を、主相用母合金の粉末と粒界相用母合金の粉末との混合物を成形した後、焼結することにより製造する方法であって、前記主相用母合金が、実質的にR2T14Bから構成され平均径が3〜50μm である柱状結晶粒と、R2T14BよりもRの含有率が高いRリッチ相を主体とする結晶粒界とを有し、かつ、Rを26〜32重量%、Bを0.9〜2重量%含み、残部が実質的にTであり、…前記混合物中における主相用母合金の比率が60〜95重量%である永久磁石の製造方法。」(3a)に係る発明が記載されているものの、本件発明1が構成要件とする、「Rリッチ相の間隔が15μm以下であり、Rリッチ相は結晶粒界と主相粒内に点在する」点については、何ら記載も示唆もなされていないから、刊行物3に記載の発明が、本件発明1と同一であるということはできないし、刊行物3に記載の発明に基づいて、当業者が本件発明1を容易に発明をすることができたとすることもできない。 4-3-4.特許法第36条違反について 特許異議申立人が主張する本件明細書の特許法第36条違反は、要するに、甲第2号証(特開平7-176414号公報:その出願は先願2である)の実施例1で得られた組織は、2次冷却速度に相当する800℃から600℃への冷却速度が200℃/min(3.33℃/sec)で、本件発明6,7で規定する同冷却速度が1.0℃/秒以下、あるいは0.75℃/秒以下を満たさないにもかかわらず、本件発明に係る合金が得られている一方、同号証の比較例3では、本件発明6,7に記載された製造方法の発明の要件を満たしているにもかかわらず、得られた合金は、本件発明に係る合金とは異なる合金が得られている(2d)から、明らかな矛盾が生じており、本件発明1〜7は、発明の詳細な説明において、当業者が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないか、若しくは特許請求の範囲の発明特定事項が本件発明を実施し得る範囲を越えて広すぎるか、さらには、特許請求の範囲において発明を特定する要件が欠けており、各請求項において特許を受けようとする発明が明確に規定されていない、というものである。 特許異議申立人による上記主張は、甲第2号証に記載された発明が、本件発明に係る合金と同一であることを前提とするものであるが、すでに、4-3-2及び4-3-3において検討したとおり、甲第2号証には本件発明に係る希土類磁石用合金及びその製造方法は記載されていないのであるから、特許異議申立人の主張は、その前提が誤ったものであるので、採用できない。 5.むすび 以上のとおり、特許異議申立ての理由によっては本件発明1乃至7についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1乃至7についての特許を取り消すべき理由を発見しない。」 よって、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 希土類磁石用合金及びその製造方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜34wt%、Bを0.7〜1.4wt%含み、残部がT(TはFeを必須とする遷移金属)から成る組成を有し、R-リッチ相以外の相の体積率V(%)が(138-1.6r)以上(ただしrはRの含有量)で、R2T14B相の平均結晶粒径が10〜100μm、Rリッチ相の間隔が3〜15μmであることを特徴とする希土類磁石用合金(ただし、Rを27〜30wt%、Bを1.0〜1.3wt%含み、2合金法に使用するための希土類磁石用合金を除く)。 【請求項2】合金組成がR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を28〜33wt%、Bを0.95〜1.1wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成であり、R2T14B相の体積率V’(%)が138-1.6r<V’<95であり、R2T14B相の平均結晶粒径が10〜50μmで、Rリッチ相の間隔が3〜10μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石用合金。 【請求項3】合金組成がR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を30〜32wt%、Bを0.95〜1.05wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成であり、R2T14B相の体積率V’(%)が138-1.6r<V’<95であり、R2T14B相の平均結晶粒径が15〜35μmで、Rリッチ相の間隔が3〜8μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石用合金。 【請求項4】合金組成がR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜30wt%、Bを0.7〜1.4wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成であり、R2T14B相の体積率V’(%)が91以上であり、R2T14B相の平均結晶粒径が15〜100μm、Rリッチ相の間隔が3〜15μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石用合金。 【請求項5】合金組成がR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を28〜29.5wt%、Bを1.1〜1.3wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成であり、R2T14B相の体積率V’(%)が93以上であり、R2T14B相の平均結晶粒径が20〜50μm、Rリッチ相の間隔が5〜12μmであることを特徴とする請求項1に記載の希土類磁石用合金。 【請求項6】R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)を27〜34wt%、Bを0.7〜1.4wt%含み、残部がT(Feを必須とする遷移金属)から成る組成を有する合金溶湯をストリップキャスティング法で鋳造し、該合金の融点から1000℃迄の平均冷却速度を300℃/秒以上とし、800℃から600℃間の平均冷却速度を1.0℃/秒以下とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の希土類磁石用合金の製造方法。 【請求項7】融点から1000℃迄の平均冷却速度を500℃/秒以上とし、800℃から600℃間の平均冷却速度を0.75℃/秒以下とすることを特徴とする請求項6に記載の希土類磁石用合金の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は希土類元素を含む永久磁石の原料用合金とその製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 希土類磁石は電子機器の小型高性能化に伴い、生産量は増加の一途をたどっている。特にNdFeB系材料はSmCoを凌ぐ高特性と原料面での優位性から、生産量は増加し続けており、その中でも磁気特性をさらに向上させた磁石へのニーズが高まりつつある。R-T-B系磁石では磁性を担う強磁性相R2T14B相の他に、非磁性でNd等の希土類元素の濃度の高い相(Rリッチ相と呼ぶ)が存在し、次の様な重要な役割を果たしている。 ▲1▼融点が低く、磁石化工程の焼結時に液相となり、磁石の高密度化、したがって磁化の向上に寄与する。 ▲2▼粒界の凹凸をなくし、逆磁区のニュークリエーションサイトを減少させ保磁力を高める。 ▲3▼Rリッチ相は非磁性であり主相を磁気的に絶縁することから、保磁力を高める。 したがって、Rリッチ相の分散状態が悪いためにRリッチ相に覆われていない界面が存在すれば、その部分では局所的な保磁力低下によって角型性が悪化するとともに、焼結不良によって磁化も低下するため最大磁気エネルギー積の低下をもたらすことが知られている。 【0003】 ところが、高特性磁石になるほど強磁性相であるR2T14B相の体積率を高める必要があるため、必然的にRリッチ相の体積率が減少し、部分的なRリッチ相不足を生じ、十分な特性が得られない場合が多い。そこで高特性材においてRリッチ相不足による特性低下の防止方法に関する多くの研究が報告されており、それらは大きく2つのグループに分けられる。 【0004】 1つは主相R2T14B相とRリッチ相を別々の合金から供給するものであり、一般に2合金法と呼ばれている。2合金法は最終的な磁石組成は似通ったものでも、2つの合金の組成の選択幅が広いこと、Rリッチ相を供給する合金の組成、製法にも自由度が高いことから幾つか興味深い結果が報告されている。 【0005】 例えば、粒界相合金として焼結温度において液相となる組成の非晶質合金を使用すれば、通常の一合金法で作成した原料合金よりも、粒界相がFeリッチになっただけその粒界相の体積率を増加させることができるため、磁石製作時のRリッチ相の分散性が良好となり、磁気特性向上に成功している。また、非晶質合金の使用による粉末酸化の抑制も非常に有効に機能している(E.Otsuki,T.Otsuka and T.Imai,11th International Workshop on Rare Earth magnets and theirApplications,vol.1,p328(1990))。その他、Rリッチ相を供給する合金を高Co組成として粉末酸化の抑制に成功した研究も報告されている(M.Honshimaand K.Ohashi,Journal of Materials Engineering and Performance P.218-222 vol.3(2)April 1994)。 【0006】 もう一つは最終組成の合金をストリップキャスティング法により、従来の金型鋳造法よりも早い冷却速度で凝固させることで組織を微細化し、Rリッチ相が微細に分散した組織を有する合金を生成させるものである。合金内のRリッチ相が微細に分散しているため、粉砕、焼結後のRリッチ相の分散性も良好となり、磁気特性向上に成功している(特開平5-222488、特開平5-295490)。 一方、R2T14B相は初晶α-Feと液相との包晶反応で生成するため、R含有量が低下すると、α-Feが生成しやすくなる。α-Feは磁石製造時の粉砕効率の悪化を招き、焼結後の磁石に残存すれば特性の低下をもたらす。そこで、通常の金型鋳造法で溶製したインゴットの場合、高温で長時間にわたる均質化熱処理によるα-Feの消去が必要となる。しかし、ストリップキャスティング法により凝固速度を増加させ、包晶反応温度以下に過冷却できれば、α-Fe析出の抑制が可能となる。 また、2合金法で一方の合金のR含有量を比較的少なくして、主にR2T17相からなる組織を生成する場合でも、ストリップキャティング法によりα-Fe生成抑制、粉砕性向上が認められている。この際、主相系合金は前例よりもR含有量が増加するため、従来の鋳造法でもα-Feの生成量は少ないものと考えられるが、ストリップキャスティング法によりRリッチ相の分散性が非常に良好な組織を生成し、粉砕性、粒度分布の向上がもたらされている(特開平7-45413)。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 以上のように2合金法とストリップキャスティング法、又はこれらの併用によって焼結後のRリッチ相の良好な分散がもたらされ、磁気特性の向上がなされたが、まだ充分に要求特性が満たされていない。本発明では、それら従来法にさらに改良を加える事で、残留磁化(Br)が高い高磁気特性を安定して発現することを目的とする。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明者はR-T-B系合金の組織と磁気特性の関連について検討した結果、ストリップキャスティング時の冷却条件を制御することにより、Rリッチ相の体積率を減少させることによって、残留磁化が大きくなることを見出した。あるいはまた、鋳造後の熱処理により、Rリッチ相の体積率を減少させることによって、磁石化して評価した際に、残留磁化が大きくなる事実を見出した。この事実は2合金法の主相系合金をストリップキャスティング法で作製した際にも確認された。 【0009】 また本発明者は、ストリップキャスト材も含めて、R-T-B系磁石合金インゴットではRリッチ相は結晶粒界に存在し、Rリッチ相の均一微細分布のためにはRリッチ相の間隔を小さくすること、すなわち結晶粒径を小さくすることが重要であるとされてきた従来の解析結果と異なり、Rリッチ相と結晶粒界とは必ずしも対応していないこと。また、良好な磁気特性を得るためには結晶粒径は大きく、かつRリッチ相の間隔は細かいことが必要であることも見出した。そして、鋳造時のインゴットの冷却条件を制御することによって、Rリッチ相の間隔を細かくする一方で、結晶粒径を大きめにすることが可能であることを見出している。 【0010】 すなわち、本発明はR(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)、T(Feを必須とする遷移金属)及びBを基本成分とする永久磁石の原料用合金と原料用合金の製造方法に於て、凝固速度の制御により、あるいは凝固後の冷却速度の制御によってRリッチ相の体積率、さらにはRリッチ相の間隔を適正化させること、さらにR2T14B相結晶粒径を制御することによって、残留磁化の増加をもたらすものである。 【0011】 ここで、本発明の構成を詳細に記す前にR2T14B化学量論組成よりも若干Rリッチである一般的な主相系合金の凝固、熱処理による組織変化に関してNd-Fe-B3元系を例に説明する。 通常の鋳型を使用した凝固の場合、特に冷却速度が遅くなるインゴットの厚さ方向の中央部近傍では、まず初晶α-Feが生成し、液相との2相共存状態となる。次に1155℃の包晶反応によって、α-Feと液相からNd2Fe14B相を生成するが、反応速度が冷却速度と比較して遅いため、α-FeはNd2Fe14B相内部に残存する。その後、温度低下に従い液相からNd2Fe14B相が排出され、液相は体積率が減少すると共に、組成もNdリッチ側に変化し、最終的に液相は665℃の3元共晶反応でNd2Fe14B相、Ndリッチ相、Bリッチ相の3相に凝固する。 【0012】 しかし、ストリップキャスティング法等により凝固速度を増加した際には、先に触れたように合金溶湯を包晶反応温度以下まで過冷却可能となるため、α-Feの生成を抑制し、液相からNd2Fe14B相を直接生成可能となる。また、その後の冷却も速く、液相からNd2Fe14B相が十分生成される以前に凝固するため、平衡状態図で予想されるよりもNd2Fe14B相の体積率は少なく、高温域での液相に相当するNdリッチ相のNdの濃度は低く、Ndリッチ相の体積率は増加する。 以上、Nd-Fe-B3元系を例に説明したが、一般のR-T-B系に拡張しても反応温度等の多少の相違は存在するものの同様に変化することが知られている。 【0013】 次に本発明の構成を以下に詳細に記す。 (1)Rリッチ相以外の相の体積率 本発明は、Rリッチ相以外の相の体積率V(%)が138-1.6r以上(rは重量%で示したR含有量)であることを特徴とする。ここで、Rリッチ相以外の相とは、主相であるR2T14B相、Bリッチ相、その他合金組成によって出現するR2T17相等の主相R2T14B相よりも希土類含有量の少ない相を総称して示す。 先に説明したようにストリップキャスティング法等により凝固速度を増加した際には、平衡状態図で予想されるよりも、Rリッチ相が増え、R2T14B相の体積率は減少する。 本発明の合金ではストリップキャスティング法を採用しさらに鋳造後の冷却条件を最適化することにより、α-Feの生成を防止し、かつRリッチ相の体積率を減少させ、主相の体積率を増加させると同時に、微細なRリッチ相が分布した組織としていることを特徴とする。 【0014】 本発明は原料合金のRリッチ相の体積率が磁石の残留磁化向上に寄与する点に着目した。Rリッチ相不足で焼結性が低下しない範囲内で、R2T14B相の体積率が大きく、Rリッチ相の体積率が小さいほど、磁石の残留磁化は増加する。ここでR含有量が低いほどRリッチ相は減少し、R2T14B相を主体としたRリッチ相以外の相の体積率が増加する。平衡状態図から主相R2T14B相の体積率を推定して、実験に於いて画像解析装置を用いて確認した結果、本発明の効果をもたらすRリッチ相以外の相の体積率Vは、重量%で示したRの含有量rに対して変化し、残留磁化が高くなり好ましいVの範囲はV≧(138-1.6r)となることが判明した。また、rが30(wt%)程度以上と比較的大きい場合には、残留磁化と焼結性とのバランスから、主相R2T14B相の体積率をV’(%)とすると、V’としては(138-1.6r)<V’<95であることが好ましいことが判明した。また、2合金法に於いては主相系合金の希土類量は、希土類量の多い粒界相系合金と混合して使用するために、一般に30(wt%)以下と小さい。その場合でもV’≧91が好ましい。さらに好ましくはV’≧93である。一方、粒界相系合金は、本特許に記す合金よりも希土類量が大きく、組織も大きく異なるため、特にここで規定するものではない。 【0015】 先に従来の技術で取り上げた特開平7-176414では主相系合金のRリッチ相の減少は、単に焼結性の低下による残留磁化の低下をもたらすとしているが、本発明では、焼結性の低下をもたらすほど、Rリッチ相の体積率が減少しない範囲内であれば、残留磁化が増加することを確認している。 【0016】 (2)R2T14B相の平均結晶粒径 R2T14B相の短軸方向の平均結晶粒径が10〜100μmであることを特徴とする。なお、本明細書でR2T14B相の平均結晶粒径とは、短軸方向の平均結晶粒径を意味する。 主相の結晶粒径が10μmより小さいと、磁場成形用の粉末粒径3〜5μmに微粉砕したとき粉砕粒径の中に結晶粒界が存在する粉末粒子の割合が多くなる。したがって、そのような粉末粒子には方位の異なる2つ以上の主相が存在することになり、配向性を低下させ残留磁化の低下を招く。そのため、平均結晶粒径は大きい方が都合が良い。一方、100μmを越えるとストリップキャスティング法の高冷却速度の効果が薄れ、α-Fe析出等の弊害を招く。より好ましくは、rが30程度以上と比較的大きい場合には、10〜50μm、さらに好ましくは15〜35μmである。一方、rが比較的少ない2合金法の主相系合金としては、20〜50μmが最も好ましい。 【0017】 主相の各結晶粒は合金をエメリー紙で研磨した後、アルミナ、ダイヤモンド等を使用してバフ研磨した面を偏光顕微鏡で観察することにより容易に識別可能である。偏光顕微鏡では磁気Kerr効果により、入射した偏光が強磁性体表面の磁化方向に応じた偏光面の回転を生じて反射するため、各結晶粒から反射する偏光面の相違が明暗として観察される。 【0018】 (3)Rリッチ相の間隔 Rリッチ相の間隔が3〜15μmであることを特徴とする。 Rリッチ相の間隔が15μmを越えると、Rリッチ相の分散状態が悪くなり、磁場成形用の粉末粒径3〜5μmに微粉砕したとき、Rリッチ相が存在する粉末粒子の割合が減少する。したがって、磁場成形後のRリッチ相の分散状態も悪化して、焼結性の低下を招き、磁石化後の磁化、保磁力の低下をもたらす。また、Rリッチ相の偏在は部分的な保磁力の低下をもたらし、磁石化後の角型性の低下をもたらす。一方、3μmより小さい場合は、凝固速度が速すぎる場合に相当し、結晶粒の微細化といった弊害をもたらす。より好ましくは、rが30程度以上と比較的大きい場合には、3〜10μm、さらに好ましくは3〜8μmである。一方、rが比較的少ない2合金法の主相系合金としては、5〜12μmが最も好ましい。 【0019】 Rリッチ相は、合金をエメリー紙で研磨した後、アルミナ、ダイヤモンド等を使用してバフ研磨した面を走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子線像により観察できる。Rリッチ相は主相よりも平均原子番号が大きいため、反射電子線像では、主相よりも明るく観察される。そしてRリッチ相の間隔は、例えばストリップ断面の観察において、ロール面あるいは自由面に平行に線分を引き、その線分が横切ったRリッチ相の数で、線分の長さを割ることにより求めることができる。 【0020】 (4)製造方法 第1は、ストリップキャスト法で作製したことを特徴とする。 特に、ストリップキャスト後、融点から1000℃までの平均冷却速度を300℃/秒以上とし、800〜600℃での冷却速度を1.0℃/秒以下とすることを特徴とする。 ストリップキャスティング法によれば、α-Feの存在しない薄片状合金の作製が可能であり、最近、装置の改良も進み生産性も向上してきた。 結晶粒径とα-Feの生成有無に影響するのは、凝固速度や包晶温度近傍までの高温域での冷却速度と考えられる。結晶粒径を大きくするためにはこれらの冷却速度が遅い方が望ましく、一方α-Feの生成を防止するためには速い方が望ましい。また、Rリッチ相の間隔はこれら高温域での冷却速度とさらに共晶温度域に近いより低温域までの冷却速度に依存し、これらの冷却速度が速いほどより小さく、微細に分布することになる。以上から最適な組織を得るためには、最適な冷却条件が存在することになる。 【0021】 広範囲の実験を行った結果、融点から1000℃までの平均冷却速度は300℃/秒以上、より好ましくは500℃/秒以上とすれば良いことが知られた。300℃/秒以下ではα-Feが生成し、またRリッチ相の間隔も広く、微細な組織とならない。 ロールから離脱する前のストリップの冷却速度に最も大きく影響する要因としてストリップ厚さが挙げられる。融点から1000℃までの平均冷却速度を300℃/秒以上とし、かつ最適な結晶粒径とRリッチ相の間隔を有した組織とするためには、ストリップ厚さは0.15〜0.60mmとするのが良い。より好ましくは0.20〜0.45mmである。ストリップの厚さが0.15mm以下では、凝固速度が速くなりすぎてしまい、結晶粒径が好ましい範囲よりも小さくなってしまう。冷却速度の正確な測定は困難であるが、簡易的には次のようにして求められる。ロールから離脱した直後のストリップの温度は、簡単に測定可能であり、700〜800℃程度である。そこで、温度降下値を溶湯がロールに供給されてから、離脱、温度測定するまでの時間で割れば、その温度範囲での平均冷却速度を求めることができる。この方法により融点から800℃までの平均冷却速度が求められる。本方法を含めて、通常の凝固、冷却過程に於いては、高温域ほど冷却速度は大きい。そのため、前記した方法によって、融点から800℃までの平均冷却速度が、300℃/秒以上であることが確認できれば、融点から1000℃での冷却速度も300℃/秒以上であると言える。なお、冷却速度の上限を正確に規定するのは困難であるが、104℃/秒程度以下であることが好ましいと思われる。 【0022】 ストリップキャスティング法では冷却速度が数百〜数千℃/秒と速いため、先に説明したように、Rリッチ相の体積率が平衡状態図で予想されるよりも高い組織が得られ、従来はそのような組織は好ましいものとして受入れられてきた。しかし、本発明ではRリッチ相以外の相の体積率を高めるため、800〜600℃の冷却速度を1.0℃/秒以下、好ましくは0.75℃/秒以下として液相からのR2T14B相の生成を促進することとした。800〜600℃の冷却速度が1.0℃/秒を越えると、液相のRリッチ相からR2T14B相が十分に生成しきらない内に凝固してしまい、結果としてRリッチ相の体積率が多くなるため、本発明の主旨から外れる。また、この冷却速度の制御により、Rリッチ相の間隔を適度に大きくする効果ももたらされる。 【0023】 本発明ではロールから落下する際の温度を700℃以上として、その後に適度に保温可能な工程を有することで800〜600℃での冷却速度の制御が可能となる。 【0024】 また、本発明の合金を得る他の方法として、ストリップキャスティング法により鋳造冷却した後に、800〜600℃で熱処理することによっても同様の効果が得られる。この熱処理はα-Fe消去を目的とした均質化熱処理よりも低温短時間であるため、装置的、生産効率面での弊害は少ない。鋳造片が薄いため熱処理時間は通常10分以上あれば良く、3時間を超える必要はない。熱処理雰囲気は酸化を防止するため、真空又は不活性雰囲気とする必要がある。熱処理後の冷却は600℃程度までを徐冷とするのが好ましい。 【0025】 なお、最近ストリップキャスト材に関する発明が幾つか報告されている。 一つは、やはり特定の冷却速度により、所望の組織を生成するものである(特開平8-269643)。それは、溶湯をロールにて2×103℃/sec〜7×103℃/secの1次冷却にて鋳片温度700〜1000℃に冷却後、ロール離脱後に前記鋳片を合金の固相線温度以下に50〜2×103℃/minの2次冷却速度にて冷却し、平均短軸結晶粒径3〜15μmのR2T14B相と5μm以下のRリッチ相とが、微細に分散した組織を形成し、配向度の低下及び磁石化の際の粉砕時の微粉化、粉末の酸化を防止し、磁気特性の向上に成功したものである。 【0026】 一方、本発明も鋳造時の冷却速度を高温域と低温域に分けて規定して、所望の組織を生成し、磁気特性の向上をもたらしている。しかし、本発明の合金組織は、R2T14B相の平均結晶粒径は10〜100μmで、特開平8-269643の3〜15μmとは異なる。また、Rリッチ相についても、本発明では、その間隔を3〜15μmとしたのに対し、特開平8-269643ではその大きさのみにしか触れていない。そして、特開平8-269643では低温域にあたる2次冷却速度が遅いと、結晶粒が成長し、焼結磁石のiHcの低下を招くとしている。そして、好ましい2次冷却速度は、50℃/min〜2×103℃/minであり、この冷却速度の上限も量産性の面から設定されたものであり、特性面から規定されたものではない。一方、本発明では、高温域、低温域のそれぞれの冷却速度を制御して、R2T14B相の結晶粒径は大きく、Rリッチ相はその間隔を狭く、体積率を小さくしたものであり、例えば800から600℃での低温域の冷却速度は、特開平8-269643の50℃/min〜2×103℃/min(0.83〜33.3℃/sec)とは反対に遅くして、1.0℃/sec以下、好ましくは0.75℃/sec以下としたもので、鋳造後の熱処理の有効性にも触れており、全く異なったものである。 【0027】 もう一つはストリップキャスト法で得た薄板を800〜1100℃で熱処理し、表層部の硬化除去、次工程での水素吸蔵処理における合金の崩壊性を速め微細化を促進するものである(特開平8-264363)。しかし、合金組織についての規定はなく、好ましい熱処理の範囲も本発明の600から800℃とは異なる。 【0028】 【作用】 本発明は、R(Yを含む希土類元素のうち少なくとも1種)、T(Feを必須とする遷移金属)及びBを基本成分とする永久磁石用の原料用合金と原料用合金の製造方法に於て、合金中のRリッチ相以外の相の体積率を凝固速度、または凝固後の熱処理によって増加すること、またR2T14B相結晶粒径の制御によって、さらにRリッチ相の間隔を制御することにより、焼結磁石化後の残留磁化の増加をもたらしたものである。 【0029】 ここで各合金中のRリッチ相の体積率が、磁石の残留磁化に影響を及ぼす原因について考察する。 Rリッチ相の体積率が大きい時は、Rリッチ相が非平衡状態で多量に存在する。そして一般的に磁石の製造工程で一般的に採用されている水素解砕を行う際、Rリッチ相は優先的に水素を吸収し、脆化し、そのような作用によりRリッチ相がクラックの優先的な発生伝播経路となる。したがって、結果として、Rリッチ相の体積率と分布状態が微粉砕後の粉末の形状、粒度分布に影響し、結果として磁場成形時の配向度に影響すると推定することも可能である。 実際にRリッチ相の間隔が3μm程度以下になると、粉末の形状が角ばったものとなる傾向を確認している。 【0030】 【実施例】 (実施例1) 合金組成が、Nd:30.7重量%、B:1.00重量%、Co:2.00重量%、Al:0.30重量%、Cu:0.10重量%、残部鉄になるように、鉄ネオジム合金、金属ディスプロシウム、フェロボロン、コバルト、アルミニウム、銅、鉄を配合し、アルゴンガス雰囲気中で、アルミナるつぼを使用して高周波溶解炉で溶解し、ストリップキャスティング法により、厚さ約0.33mmのストリップを生成した。この際、キャスティングロールから離脱した高温のストリップを、保温効果の大きい断熱材で作製した箱の中に1時間保持した後、水冷構造を有する箱の中に入れて常温まで急冷した。断熱箱中でのストリップの温度変化を箱に設置した熱電対で測定した結果、断熱箱に落下した時の温度は710℃であった。その後、600℃に到達するまでに8分が経過した。したがって、800℃から710℃までの冷却に要する時間を無視しても、800〜600℃の平均冷却速度は毎秒0.56℃であり、実際にはこれより低くなる。一方、融点から800℃までの冷却速度は、断熱箱に落下するまでに要する時間より毎秒400℃以上であった。また、ロール上のストリップの温度を放射温度計で測定した結果から、融点から1000℃までの冷却速度は毎秒1000℃以上であることが判った。得られたストリップの断面組織を偏光顕微鏡で観察した結果、主相R2Fe14B相の平均結晶粒径は約28μmであった。また、走査型電子顕微鏡の反射電子線像を観察した結果、Rリッチ相は結晶粒界と主相粒内に筋状、あるいは一部粒状となって存在し、その間隔は約5μmであった。その他Bリッチ相と思われる比較的希土類含有量の少ない相が少量存在していた。Rリッチ相以外の相の体積率Vと主相R2Fe14B相の体積率V’を画像処理装置を用いて測定した結果、それぞれ、92%、91%であった。 【0031】 次に同合金に室温にて水素を吸蔵させ、600℃にて水素を放出させた。この混合粉をブラウンミルで粗粉砕し、粒径:0.5mm以下の合金粉末を得、次にジェットミルで微粉砕し、3.5μmの平均粒径からなる磁石粉を得た。得られた微粉末を15kOeの磁場中にて1.5ton/cm2の圧力で成形した。得られた成形体を真空中1050℃で4時間焼結した後、1段目の熱処理を850℃で1時間、2段目の熱処理を520℃で1時間行なった。得られた磁石の磁気特性を表1に示す。 【0032】 (比較例1) 実施例1と同じ組成となるように、実施例1と同様にストリップキャスティング法により、厚さ約0.33mmの合金ストリップを生成した。この際、キャスティングロールから離脱した高温のストリップを直接、水冷構造を有する箱の中に入れて常温まで急冷した。箱中でのストリップの温度変化を箱に設置した熱電対で測定した結果、箱に落下した時の温度は710℃であった。その後、600℃に到達するまでに要した時間は15秒であった。一方、800℃から710℃の冷却に要した時間は、ストリップが箱に落下するまでに要した時間よりも短くなるため、最大でも2秒程度である。したがって、それを加えても800〜600℃の平均冷却速度は毎秒12℃であり、実際にはこれよりも大きくなる。一方、融点から800℃までの冷却速度は、実施例1と相違ない。その断面の組織を偏光顕微鏡で観察した結果、主相R2Fe14B相の平均結晶粒径は約28μmであった。また、走査型電子顕微鏡の反射電子線像を観察した結果、Rリッチ相は結晶粒界と主相粒内に筋状、あるいは一部粒状となって存在し、その間隔は約2μmであった。Rリッチ相以外の相の体積率Vと主相R2Fe14B相の体積率V’を画像処理装置を用いて測定した結果、ともに87%であった。次にこの合金を用いて、実施例1と同様の方法で焼結磁石を作製し、その磁気特性を表1に示す。 【0033】 (実施例2) 実施例1と同じ組成となるように、実施例1と同様にストリップキャスティング法により、厚さ約0.33mmの合金ストリップを生成した。ロールから離脱したストリップは実施例1と同様の断熱材で作製した箱の中に薄く広げるように堆積させた。その状態で1時間保持した後、水冷構造を有する箱の中に入れて常温まで急冷した。断熱箱中でのストリップの温度変化を箱に設置した熱電対で測定した結果、断熱箱に落下した時の温度は710℃であった。その後、600℃に到達するまでに要した時間は4分10秒であった。したがって、800〜600℃の平均冷却速度は毎秒0.80℃以下である。一方、融点から800℃までの冷却速度は、実施例1と相違ない。その断面の組織を偏光顕微鏡で観察した結果、主相R2Fe14B相の平均結晶粒径は約28μmであった。また、走査型電子顕微鏡の反射電子線像を観察した結果、Rリッチ相は結晶粒界と主相粒内に筋状、あるいは一部粒状となって存在し、その間隔は約4μmであった。その他Bリッチ相と思われる比較的希土類含有量の少ない相が少量存在していた。Rリッチ相以外の相の体積率Vと主相R2Fe14B相の体積率V’を画像処理装置を用いて測定した結果、それぞれ、91%、90%であった。次にこの合金を用いて、実施例1と同様の方法で焼結磁石を作製し、その磁気特性を表1に示す。 【0034】 (比較例2) 実施例1と同じ組成となるように、実施例1と同様にストリップキャスティング法により、主相系合金のストリップを生成した。この際、注湯速度を減少させたため、ストリップの厚さは約0.13mmであった。ロールから離脱したストリップは実施例1と同様に断熱材で作製した箱の中に1時間保持した後、水冷構造を有する箱の中に入れて常温まで急冷した。断熱箱中でのストリップの温度変化を箱に設置した熱電対で測定した結果、断熱箱に落下した時の温度は630℃であった。その後、600℃に到達するまでに要した時間は3分であった。したがって、800〜600℃の平均冷却速度は毎秒1.1℃以下である。一方、融点から800℃までの冷却速度は、毎秒500℃以上であった。その断面の組織を偏光顕微鏡で観察した結果、主相R2Fe14B相の平均結晶粒径は約12μmであった。また、走査型電子顕微鏡の反射電子線像を観察した結果、Rリッチ相は結晶粒界と主相粒内に筋状、あるいは一部粒状となって存在し、その間隔は約4μmであった。Rリッチ相以外の相の体積率Vと、主相R2Fe14B相の体積率V’を画像処理装置を用いて測定した結果、それぞれ、91%、90%であった。 【0035】 (比較例3) 実施例1と同じ組成となるように、水冷機構を有する鉄製鋳型を用いて、厚さ25mmのインゴットを作製した。その断面の組織を偏光顕微鏡で観察した結果、主相R2Fe14B相の平均結晶粒径は約150μmであった。しかし、走査型電子顕微鏡の反射電子線像を観察した結果、インゴット全体に多量のα-Feが存在していたため、磁石は作製しなかった。 【0036】 (実施例3) 合金組成として、NdとDyの含有量がそれぞれ30.8重量%、1.2重量%であり、その他の成分及び含有量は実施例1と同じ組成となるように、実施例1と同様の条件でストリップキャスティング法により、約0.33mmの合金ストリップを生成し、実施例1と同様の方法で焼結磁石を作製した。この際の冷却速度、合金組織、焼結磁石の特性を併せて表1に示す。 【0037】 (実施例4) 2合金法に於いて、主相系合金は組成がNd:28.0重量%、B:1.09重量%、Al:0.3重量%、残部鉄になるように、実施例1と同様にしてストリップキャスティング法で、厚さ約0.35mmのストリップを生成した。この際の冷却速度、合金組織を表1に示す。一方、粒界相系合金は組成がNd:38.0重量%、Dy:10.0重量%、B:0.5重量%、Co:20重量%、Cu:0.67重量%、Al:0.3重量%、残部鉄になるように、鉄ネオジム合金、金属ディスプロシウム、フェロボロン、コバルト、銅、アルミニウム、鉄を配合し、アルゴンガス雰囲気中で、アルミナるつぼを使用して高周波溶解炉で溶解し、遠心鋳造法により、厚さ約10mmのインゴットを生成した。次に主相系合金85重量%と粒界相系合金15重量%を混合し、室温にて水素を吸蔵させ、600℃にて水素を放出させた。この混合粉をブラウンミルで粗粉砕し、粒径0.5mm以下の合金粉末を得、次にジェットミルで微粉砕し、3.5μmの平均粒径からなる磁石粉を得た。得られた微粉末を15kOeの磁場中にて1.5ton/cm2の圧力で成形した。得られた成形体を真空中1050℃で4時間焼結した後、1段目の熱処理を850℃で1時間、2段目の熱処理を520℃で1時間行なった。得られた磁石の磁気特性を表1に併せて示す。 【0038】 (比較例4) 実施例4と同じ組成となるように、実施例4と同様してにストリップキャスティング法により、厚さ約0.35mmの主相系合金のストリップを生成した。この際、キャスティングロールから離脱した高温のストリップを直接、水冷構造を有する箱の中に入れて常温まで急冷した。この際の冷却速度、合金組織を表1に示す。次にこの主相系合金と実施例4で作製した粒界相系合金を用いて、実施例4と同様の方法で焼結磁石を作製し、その磁気特性を表1に併せて示す。 【0039】 【表1】 【0040】 【発明の効果】 本発明によれば、最大磁力積((BH)MAX)が40MGOe級以上の強力な永久磁石を容易に得ることが可能となる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-12-19 |
出願番号 | 特願平9-108109 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C22C)
P 1 651・ 536- YA (C22C) P 1 651・ 4- YA (C22C) P 1 651・ 537- YA (C22C) P 1 651・ 161- YA (C22C) P 1 651・ 121- YA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 木村 孔一 |
特許庁審判長 |
徳永 英男 |
特許庁審判官 |
吉水 純子 平塚 義三 |
登録日 | 2003-07-11 |
登録番号 | 特許第3449166号(P3449166) |
権利者 | 昭和電工株式会社 |
発明の名称 | 希土類磁石用合金及びその製造方法 |
代理人 | 柿沼 伸司 |
代理人 | 柿沼 伸司 |