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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する G03G
管理番号 1135005
審判番号 訂正2005-39229  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-01-09 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-12-19 
確定日 2006-03-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3392394号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3392394号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯
本件特許3392394号は、平成12年6月20日に特許出願され、平成15年1月24日に特許権の設定登録がなされ、その後、異議申立が平成15年9月16日に石政典子からなされ(異議2003-72340)、平成17年8月10日付で、請求項2に係る特許は維持するが、請求項1及び3に係る特許を取り消すとの異議の決定がなされたところ、平成17年9月21日に該取消決定を取り消す旨の訴え(平成17年(行ケ)第10697号)が知的財産高等裁判所に提起され、提起があった日から90日以内である平成17年12月19日に、本件訂正審判が請求されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正事項
(1)訂正事項a
「【請求項1】 電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されていることを特徴とするトナー撹拌・搬送スクリュー。
【請求項2】 前記トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応している請求項1に記載のトナー撹拌・搬送スクリュー。
【請求項3】 電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋形状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、前記軸部の外周面における前記螺旋状羽根の軸心方向の間隔が、前記螺旋状羽根が軸部を一周する間に他の部分より短くなる部分が複数箇所形成されていることを特徴とするトナー撹拌・搬送スクリュー。」
を、
「【請求項1】 電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されているトナー撹拌 ・搬送スクリューであって、前記トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応していることを特徴とするトナー撹拌・搬送スクリュー。
【請求項2】樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューが、熱可塑性樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであることを特徴とする請求項1記載のトナー撹拌・搬送スクリュー。
【請求項3】電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されているトナー撹拌・搬送スクリューであって、
前記トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応しているものであって、
前記軸部の外周面における前記螺旋状羽根の軸心方向の間隔が、前記螺旋状羽根が軸部を一周する間に他の部分より短くなる部分が複数箇所形成されていることを特徴とするトナー撹拌・搬送スクリュー。」
と訂正する。

(2)訂正事項b
発明の詳細な説明の段落【0006】に記載された「請求項1」、段落【0009】に記載された「請求項2」、段落【0020】に記載された「請求項1」及び段落【0021】に記載された「請求項2」を「本願発明」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
(a-1)訂正事項aのうち、請求項1に係る訂正は、異議の決定において、唯一維持決定された訂正前の請求項2を、独立形式に書き直して、新たな請求項1としたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(a-2)訂正事項aのうち、請求項2に係る訂正は、訂正前の請求項1を、訂正前の請求項2記載の構成、即ち、「トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応している」を付加して限定し、更に、訂正前の請求項1に記載の「樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリュー」を「熱可塑性樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリュー」に限定して、新たな請求項2としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(a-3)訂正事項aのうち、請求項3に係る訂正は、訂正前の請求項3を、訂正前の請求項1記載の構成、即ち、「この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されている」を付加して限定し、さらに、訂正前の請求項2記載の構成、即ち、「トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応している」を付加したものであり、実施例に具体的に記載されているものに限定して、新たな請求項3としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
・そして、訂正事項aは、いずれも願書に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、特許請求の範囲の記載と整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも願書に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲内のものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(3)むすび
したがって、本件審判請求に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮、または明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書または図面に記載された事項の範囲内でなされたものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。

2-3.独立特許要件の判断
(1)訂正発明について
訂正後の請求項1ないし3に係る発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された下記のものである。
(以下順次、「訂正発明1」、「訂正発明2」、「訂正発明3」という。)
そして、上記2-2.(1)で判断したとおり、訂正発明2、訂正発明3は、特許請求の範囲の減縮を目的として訂正されたものであるから、以下、訂正発明2、訂正発明3が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか検討する。

【請求項1】
電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されているトナー撹拌 ・搬送スクリューであって、前記トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応している
ことを特徴とするトナー撹拌・搬送スクリュー。

【請求項2】
樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューが、熱可塑性樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューである
ことを特徴とする請求項1記載のトナー撹拌・搬送スクリュー。

【請求項3】
電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されているトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応しているものであって、
前記軸部の外周面における前記螺旋状羽根の軸心方向の間隔が、前記螺旋状羽根が軸部を一周する間に他の部分より短くなる部分が複数箇所形成されている
ことを特徴とするトナー撹拌・搬送スクリュー。

(2)引用文献
本件特許に対する異議申立事件である2003-72340号において提示された以下の文献を引用例として検討する。
引用文献1:特開平8-11169号公報
引用文献2:特開平10-221937号公報

・引用文献1に記載された事項
(1a)【産業上の利用分野】
「本発明は、軸体の周面に螺旋状に連続する鍔や溝を有してなる成形体を射出成形する際に用いられる金型、および、軸体の周面に螺旋状に連続する鍔を有するスクリュウ状射出成形体(前記形状の鍔を外周面に有する射出成形体をスクリュウ状射出成形体という)に関する。」(段落【0001】)

(1b)【従来の技術】
「射出成形により形成される成形体として、図7(a),(b),(c)に示すものがある。この成形体100は、軸体101の周面に螺旋状に連続する鍔102を有して構成されており、例えば、液体、粉体、流体などの搬送、計量を行う際に用いられている。・・・このような成形対100,110を射出成形する金型として、従来から、図9に示すものがある。この金型120は、成形体100(110)の軸方向に沿って均等に4分割された、可動側入子121,固定側入子122,および左右のスライドコア123,124を備えている。」(段落【0002】〜【0004】)

(1c)【発明が解決しようとする課題】について
「しかしながら、このように構成された従来の金型120には、次のような問題があった。すなわち、図7に示す成形体を形成する場合、金型120の分離面、すなわち、可動側、固定側の入子121,122とスライドコア123,124とが互いに当接する面上に位置する鍔102表面に段差103が生じてしまい、生じた段差103が搬送の障害となって、スムーズな搬送が行えないという問題があった。
すなわち、この成形体100は、構造上、鍔102の大きさや、形成ピッチが大きくなるに連れてアンダーカット、つまり、成形体100を金型120から抜くことのできない金型内面形状が形成されてしまう。図7の成形体100を形成する金型120では、図7紙面の直交方向、ないし紙面の平行方向に沿って、入子121,122、スライドコア123,124それぞれの抜き方向が設定されており、紙面手前側に抜き出す金型の部分(例えば、可動側入子121)では、図中、A部がアンダーカットとなる。
このようなアンダーカットをなくすためには、鍔102の側面に設ける抜け勾配104を大きくすればよいのであるが、アンダーカットが生じない程、抜け勾配104を大きくすると、鍔102のテーパが大きくなって成形体100の搬送効率が低下してしまう。
そこで、搬送効率の低下を抑えつつ、アンダーカットの発生を防止するために、アンダーカットとなる部分(例えば、A部)のみ、抜け勾配104を大きくすることが行われていた。」(段落【0008】〜【0011】)

(1d)【図7】には、該「A部」が、鍔102が軸体101を一周する間の2カ所に矢印で示されている。

・引用文献2に記載された事項
(2a)【発明の属する技術分野】について
「本発明は、電子写真方式の複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に備えられた現像装置に関し、特に、現像装置の現像剤攪拌手段の改良に関する。・・・(中略)・・・従来の螺旋状羽根部を有する撹拌スクリューは、螺旋状羽根部の台形状の螺旋斜面が回転中心軸に対して等角をなしていた。」(段落【0001】〜【0005】)

(2b)「図5(a)は本発明の撹拌スクリュー145の正面図、図5(b)及び図5(c)は撹拌スクリュー145のA-A部分断面図である。
撹拌スクリュー145は、スパイラル状に形成された螺旋状羽根部145aと、現像器ハウジング140の両側壁に設けられた軸受部材に回転自在に支持される回転軸部145bとから構成されている。・・・(中略)・・・ 螺旋状羽根部145aと回転軸部145bとは、別体加工したものを接合して一体化してもよい。あるいは螺旋状羽根部145aと回転軸部145bとを一体成型加工により形成してもよい。また、螺旋状羽根部145aは長軸方向に複数個に分割したものを接合して形成したものでもよい。
撹拌スクリュー145の材料としては、エフライトFL202(日本エフテービー社製)を使用した。この他、エフライトFL302、エフライトFL201、エフライトFL362(何れも日本エフテービー社製)でもよい。更に、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン)、変性PPE(ポリフェニレンエーテル)、PC(ポリカーボネート)、PE(ポリエチレン)、PETP(ポリエチレンテレフタレート)、PF(フェノール樹脂)・・・等の樹脂材でもよい。更にまた、鉄合金、銅合金、ステンレス鋼、アルミニウム合金、ニッケル合金などの金属でもよい。
図5(b)に示す撹拌スクリュー145の螺旋状羽根部145aのA-A部分断面図において、螺旋状羽根部145aは、根元の厚さT、先端部の厚さt、螺旋状羽根部の山の高さh、斜面角度(スパイラル面角度)θ1,θ2から成る不等辺の略台形状の断面を有する。」(段落【0032】〜【0036】)

(2c)「現像器内にある従来の攪拌スクリューは、螺旋状羽根部の現像剤搬送方向に対面する側の螺旋斜面a1の回転中心線Rとなすスパイラル面角度θ1と、螺旋状羽根部145aの台形断面の現像剤搬送逆方向に対面する側に螺旋斜面a2の回転中心線Rとなすスパイラル面角度θ2とが等しい、等辺台形断面に設計されている。このような等辺台形断面を有する攪拌スクリューでは、現像剤の攪拌性が悪く、画像形成装置による現像処理の繰り返しにより、現像器の現像剤の帯電量分布がブロードな分布になったり、現像器中に現像剤の不均一搬送によるデッドポイントが発生したりする。現像剤中の高帯電現像剤は現像不能の原因となり、低帯電現像剤(弱帯電現像剤や未帯電現像剤)はトナー飛散や画像かぶり、混色文字チリの原因となる。」(段落【0038】)
と記載されている。

(3)訂正発明2についての対比・判断
引用文献2に示されているとおり、電子写真複写機の現像装置においては、スパイラル状に形成された螺旋状羽根部と回転軸部とを一体成型加工により成形した樹脂製の攪拌スクリューが用いられ、該攪拌スクリューにおける螺旋状羽根の断面形状は台形形状である。
そこで、訂正発明2と、引用文献2に記載された発明とを対比すると、引用文献2に記載された「現像装置」は、訂正発明2における「トナー供給装置」に相当するものであるから、両者は、
「電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー攪拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であるトナー攪拌・搬送スクリュー。」 で一致し、以下の点で相違している。
〈相違点ア〉
訂正発明2では、「台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されており、トナー攪拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が、該成形金型の合わせ部分に対応すること」としているのに対して、引用文献2記載の発明では、それらについて何ら言及していない点
〈相違点イ〉
訂正発明2では、トナー攪拌・搬送スクリューを「熱可塑性樹脂製」としているのに対して、引用文献2記載の発明では、「樹脂製」の材質を「熱可塑性」の樹脂にまで限定していない点

先ず〈相違点ア〉について検討する。
上記摘記事項から明らかなように、引用文献1には、粉体の搬送に使用するスクリュウ状成形体を、樹脂を射出成形して製造する際の問題点として、以下のことが記載されている。
・軸方向4分割の成形金型を用いるとき、成形体の鍔の大きさや、形成ピッチが大きくなるに連れてアンダーカット、つまり、できた成形体から金型を抜き出し難い金型内面形状が形成されてしまうこと
・アンダーカットをなくすために、鍔の側面に設ける抜け勾配を大きくすると、鍔のテーパが大きくなって、成形体の搬送効率が低下してしまうこと
・搬送効率の低下を抑えつつ、アンダーカットの発生を防止するために、アンダーカットとなる部分(例えば、A部)のみ、抜け勾配を大きくすることがおこなわれていたこと
・アンダーカットとなる部分(A部)は、鍔が軸体を一周する間の少なくとも2カ所にあること

上記引用文献1に記載された「鍔」は、訂正発明2において、その長さ方向を横断する断面形状が台形形状の「螺旋状羽根」に相当するものであるから、引用文献1に記載された「鍔の側面に設ける抜け勾配を大きくする」とは、該台形の底部の幅を膨らませることに相当する。
また、引用文献1に記載の、スクリュウ状射出成形体を成形するに用いられる複数分割の成形金型で、「アンダーカットとなる部分(例えば、A部)のみ、抜け勾配を大きくする」とは、上記相違点に係る構成の「台形形状は、徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が形成されている」に相当する。
そして、引用文献1には、アンダーカットとなる部分「A部」は、鍔部が一周する間に少なくとも2カ所あることが図面で示されているから、「抜け勾配を大きくする部分」、すなわち、「台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分」が、軸部を一周する間に複数箇所形成されている。
よって、引用文献1には、「台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されており、スクリュウ状射出成形体が、複数に分割される成形金型により成形される」までは示されているといえる。

しかし、引用文献1には、「アンダーカットとなる部分(A部)」が、どこにどの程度できるかは、金型の抜き出し方向や表面の抜け勾配によって決まる旨記載されているが、金型の合わせ部分や対応する成形体表面の「段差103」のところにできるとは記載されておらず、図面(図7)でも、それらが同じ位置になるとは読み取れないから、「前記膨らんだ部分が、該成形金型の合わせ部分に対応する」は記載されておらず示唆もされていない。

したがって、訂正発明2と引用文献2記載の発明との〈相違点ア〉にかかる事項については、いずれの引用文献にも記載も示唆もされていない。
そして、そのような構成としたことにより、明細書に記載された特有の効果、即ち、トナー撹拌・搬送機能を改善する、羽根形状の体積を最小にしつつ補強する、脱型を容易にする等の効果を奏するものである。
よって、訂正発明2は、〈相違点イ〉について検討するまでもなく、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)訂正発明3についての対比・判断
訂正発明3と、引用文献2に記載された発明とを対比すると、両者は、
「電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー攪拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であるトナー攪拌・搬送スクリュー。」 で一致し、以下の点で相違している。
〈相違点ア〉
訂正発明3では、「台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されており、トナー攪拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が、該成形金型の合わせ部分に対応すること」としているのに対して、引用文献2記載の発明では、それらについて何ら言及していない点
〈相違点ウ〉
訂正発明3では、「前記軸部の外周面における前記螺旋状羽根の軸心方向の間隔が、前記螺旋状羽根が軸部を一周する間に他の部分より短くなる部分が複数箇所形成されている」としているのに対して、引用文献2記載の発明では、そのように規定していない点

相違点について検討するに、〈相違点ア〉は、上記「2-3.(3)訂正発明2についての対比・判断」に於ける〈相違点ア〉と同じであり、同様の検討により、該〈相違点ア〉に係る事項は、引用文献1にも記載されておらず示唆もされていない。

そして、そのような構成としたことにより、明細書に記載された特有の効果、即ち、トナー撹拌・搬送機能を改善する、羽根形状の体積を最小にしつつ補強する、脱型を容易にする等の効果を奏するものである。
よって、訂正発明3は、〈相違点ウ〉について検討するまでもなく、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)まとめ
上記のとおり、訂正発明1ないし3は、独立して特許を受けることができるものである。
また、他に独立して特許を受けることができない理由を発見しない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第126条第1項第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第3項ないし第5項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
トナー撹拌・搬送スクリュー
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されているトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応していることを特徴とするトナー撹拌・搬送スクリュー。
【請求項2】樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューが、熱可塑性樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであることを特徴とする請求項1記載のトナー撹拌・搬送スクリュー。
【請求項3】電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されているトナー撹拌・搬送スクリューであって、
前記トナー撹拌・搬送スクリューが複数に分割される成形金型により成形されたものであって、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応しているものであって、前記軸部の外周面における前記螺旋状羽根の軸心方向の間隔が、前記螺旋状羽根が軸部を一周する間に他の部分より短くなる部分が複数箇所形成されていることを特徴とするトナー撹拌・搬送スクリュー。」
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、複写機やプリンタ等、電子写真方式の画像形成装置において、像担持体(感光体)の上に形成された潜像をトナー像として現像する現像装置であって、現像剤(トナー)を貯留する容器(トナー供給装置という)に取り付けられるトナー撹拌・搬送スクリューに関する。
【0002】
【従来の技術】例えば特開2000-81787号公報に記載の「現像装置」のように、現像容器(トナー供給装置に同じ)内に貯留される現像剤を均一に撹拌し、搬送し、その量を調整するために、現像容器内に一対のトナー撹拌・搬送スクリューを水平に回転可能に設けたものが知られている。従来のトナー撹拌・搬送スクリューは、金属製の細長い円柱状の軸部に、均一な厚さと幅を有する金属製の帯状平板の幅方向端部を螺旋状に溶接・接合して螺旋状羽根を成形している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記トナー供給装置は、複写機等に組み込まれて使用され、市場からの複写機等の小型化要請により、このトナー供給装置についても小型化の要請があり、トナー撹拌・搬送スクリューの体積を小さくして、小さいトナー供給装置により必要なトナー量の貯留を可能とする要請が強い。
【0004】しかしながら、上記のような金属製のトナー撹拌・搬送スクリューは、金属板等を加工するための制約もあり、螺旋状羽根は、均一な厚さを有する帯状平板であり、金属の剛性を考慮しても羽根の外周端部には無駄な厚みがあり、全体としての体積が大きくなるという問題がある。なお、金属製のトナー撹拌・搬送スクリューは、重くなり、防錆処理等が必要になることがある。
【0005】本発明は、トナー撹拌・搬送スクリューとしての機能を維持しながら最小の体積を有するトナー撹拌・搬送スクリューを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記した課題を解決するために本願発明にトナー撹拌・搬送スクリューは、電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、この台形形状は、前記螺旋状羽根が前記軸部を一周する間において徐々に変化され、前記台形の底部の幅が他の部分よりも膨らんだ部分が複数箇所形成されている。
【0007】トナー攪拌・搬送スクリューを樹脂製とすることにより、金属性のトナー攪拌・搬送スクリューより軽量となり小型化が容易になる。また現像剤との離型性(非付着性)に優れ、滑りが良くて回転に必要な駆動力が少なくなる。また、成形金型により自由な羽根形状を成形することができるので、小型化に対応する複雑な細かい形状(膨らんだ部分等)まで成形できる。
【0008】螺旋状羽根の長さ方向を横断する断面が全長にわたり台形形状であって、この台形形状は、螺旋状羽根の半径方向各部位において、トナーを撹拌・搬送するために必要な応力に応じて、上部は薄く、大きな応力が作用する底部は広くなる形状とし、螺旋状羽根の断面積(容量)を最小とする。トナーを貯留し、撹拌・搬送する空間を最大とするためである。さらに、この台形形状を螺旋状羽根が軸部を一周する間において徐々に変化させて薄い部分(台形の上部も底部も狭い部分)と膨らんだ部分(特に台形形状の底部が広くなった部分)を複数箇所形成されている。これによって成形金型により成形可能となり、螺旋状羽根の補強効果があり、トナーを撹拌・搬送する機能を増大する。
【0009】本願発明に記載のトナー撹拌・搬送スクリューは樹脂製であって、複数に分割される成形金型により成形されたものであり、前記膨らんだ部分が前記成形金型の合わせ部分に対応する。前記トナー撹拌・搬送スクリューは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等を射出成形等により成形されるが、この成形金型が成形品(前記トナー撹拌・搬送スクリュー)の外周方向に複数に分割される場合に、前記膨らんだ部分を、前記成形金型の合わせ部分と一致させることにより、成形後、成形金型からのトナー撹拌・搬送スクリューを脱型する作業を容易とする。
【0010】請求項3に記載のトナー撹拌・搬送スクリューは、電子写真複写機のトナー供給装置に使用され、軸部とこの軸部に一体に成形された螺旋状羽根とを有する樹脂製のトナー撹拌・搬送スクリューであって、前記螺旋形状羽根はこの長さ方向を横断する断面形状が全長にわたり台形形状であり、前記軸部の外周面における前記螺旋状羽根の軸心方向の間隔が、前記螺旋状羽根が軸部を一周する間に他の部分より短くなる部分が複数箇所形成されていることを特徴としている。これは、請求項1のトナー撹拌・搬送スクリューの形状を、螺旋状羽根を取り付けていない軸部の軸心方向の間隔により把握したものであって、上記軸心方向の間隔が短い部分が螺旋状羽根の断面底部が膨らんだ部分となり、螺旋状羽根は補強され、トナーを撹拌・搬送する機能が増大される。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係るトナー撹拌・搬送スクリュー(単にスクリューともいう)について各実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に本発明のスクリューの部分拡大図を示し、図2に本発明のスクリューの全体平面図を示す。図3に本発明のスクリューの螺旋状羽根形状を演算手段により決定する方法を示す。
【0012】まず、図2により本発明のスクリューの全体の形状を説明する。このスクリュー10は上述の現像装置の現像剤の貯留容器(トナー供給装置という)に取り付けられて、貯留される現像剤の量を調整し、撹拌し、搬送するトナー撹拌・搬送スクリューとして使用されるものであって、螺旋状羽根1を軸部2に一体に成形され、軸部両端部11,11’はそれぞれ図示しないトナー供給装置に取り付けられた駆動手段、軸受けに支持されて、前記駆動手段により回転される。
【0013】図1にスクリュー10の部分拡大図を示し、螺旋状羽根1は、その長さ方向を横断する断面形状が台形形状であり、この螺旋状羽根1が軸部2を一周する間において他部よりも膨らんだ部分3、3’を複数箇所形成している。断面形状が台形形状である螺旋状羽根1の先端部の幅(イ)は、螺旋状羽根1が軸部2を一周する間においてほぼ同じであるが、螺旋状羽根1が軸部2に一体とされる部分(台形形状底部)の幅は、螺旋状羽根1が軸部2を一周する間において最も小さい部分4,4’より徐々に大きくなり(これらの部分を「他の部分」ともいう)、膨らんだ部分3、3’において最も大きくなる。この膨らんだ部分3、3’は、図示しない成形金型の合わせ部分に対応させるので、例えば、成形金型が4個に分割されるときには4つ形成することになる。
【0014】例えば、樹脂材料として熱可塑性樹脂(例えば、PC/ABSアロイ)を使用して、軸部2の直径(ト)=5mm、螺旋状羽根1の直径(ハ)=13mmであるとき、螺旋状羽根1の台形状の断面上部の幅(イ)が約0.6mmとなり、膨らんだ部分3の断面底部の幅(ロ)は約6mmであり、他の部分の底辺幅(ハ)は約1mmから膨らんだ部分3の幅(約6mm)まで徐々に変化している。このような形状を有するスクリューにより、螺旋状羽根1の1ピッチ間に保有できる空隙(トナーを保有できる空間)は約38mm3となる。
【0015】この構造を視点を変えて見ると、前記膨らんだ部分3の先端5と隣り合う羽根の膨らんだ部分3’の先端5’との間隔(ニ)は、台形形状底部が最も狭くなる部分4,4’の間隔(ホ)の変化として見ることもできる。即ち、膨らんだ部分3,3’の先端5,5’の間隔(ニ)は、底部が最も狭くなる部分4,4’の間隔(ホ)より小さくなっている。
【0016】なお、この膨らんだ部分3、3’は、この樹脂製スクリューを成形する金型の構造を配慮し、スクリューの外周方向に複数に分割される金型の分割個数に応じて設けられ、金型が4分割されるときには、その金型の合わせ部分の数(4個)及び位置に対応して形成されている。これによってスクリューは成形金型より脱型しやすくなる。
【0017】このようなスクリューの螺旋状羽根の形状を決定する方法を図3により説明する。まず、演算手段により基準となる金属製のスクリューの形状(物性、外径、軸径、スクリューピッチ等が定まっている)を入力して図3(a)に示す図面を作成する。この例では、上記金属製の螺旋状羽根の形状の断面は、長方形で上下同寸法であり、例えば、螺旋状羽根1の外周端の幅(チ)と軸部2と接合する部分の幅(オ)は共に1mmである。
【0018】このデータを基礎として、物性、成形性、トナーとの離形性等より複数の樹脂材料を選び、その物性(剛性等)を入力してスクリューとしての機能を果たしかつスクリューの体積が最小となる形状を選択する。選定された羽根形状は図3(b)に示すように、断面の台形上部の幅(ヌ、ル)が0.4〜0.5mmとなり、台形底部の幅(ナ、ラ)は1.5〜5mmとなり、スクリューの体積は一層小さくなる。なお、図3は、図1の羽根形状の膨らんだ部分3から長さ方向に隣り合う膨らんだ部分3(図面左側の羽根形状参照)の間を拡大した図を示す。
【0019】
【発明の効果】以上説明したことから明らかなように、本発明のトナー撹拌・搬送スクリューは、次のような効果がある。
【0020】本願発明に記載のトナー撹拌・搬送スクリューは、膨らんだ部分により、トナーを撹拌・搬送する機能が改善され、補強され、さらに材料を樹脂に替えることにより羽根形状を体積が最小である形状とすることができる。
【0021】本願発明に記載のトナー撹拌・搬送スクリューでは、分割される成形金型を用いて射出成形するとき、成形金型の合わせ目に対応する部分が膨らんでいるので、できあがったトナー撹拌・搬送スクリューを成形金型より脱型することが容易になる。
【0022】請求項3に記載のトナー撹拌・搬送スクリューでは、請求項1に記載のトナー撹拌・搬送スクリューと同様にトナーを撹拌・搬送する機能が改善される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のスクリューの部分拡大側面図を示す。
【図2】本発明のスクリューの全体平面図を示す。
【図3】本発明のスクリューの羽根形状を示し、図3(a)は従来の金属製のスクリューをコンピュータに取り込んだ図を示し、図3(b)は本発明の最適な樹脂により体積を最小にしたスクリューの例を示す。
【符号の説明】
1:螺旋状羽根
2:軸部
3、3’:膨らんだ部分
4、4’:最も小さい部分
【図面】



 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2006-03-02 
出願番号 特願2000-183967(P2000-183967)
審決分類 P 1 41・ 851- Y (G03G)
最終処分 成立  
特許庁審判長 山下 喜代治
特許庁審判官 松本 泰典
山口 由木
伏見 隆夫
岡田 和加子
登録日 2003-01-24 
登録番号 特許第3392394号(P3392394)
発明の名称 トナー撹拌・搬送スクリュー  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 児玉 喜博  
代理人 児玉 喜博  

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