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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02D
管理番号 1135024
審判番号 不服2002-2649  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-02-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-02-15 
確定日 2006-04-13 
事件の表示 平成6年特許願第172275号「内燃エンジンの出力トルク制御装置及び制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成8年2月6日出願公開、特開平8-35440号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続きの経緯

本願は、平成6年7月25日の出願であって、その請求項1〜10に係る発明は特許を受けることができないとして、拒絶査定がなされた。
これに対し、拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成14年3月18日付けで手続補正がなされたが、当該手続補正は平成17年2月16日付け補正の却下の決定により却下され、さらに、当審において、改めて拒絶の理由が通知されたところ、平成17年5月9日付けで手続補正がなされた。
その後、平成17年11月17日付けの「最後の拒絶理由」が通知され、この最後に受けた拒絶の理由に対して、請求人より平成18年1月23日付け手続補正書が提出されたものである。
そして、この補正は、明細書の「特許請求の範囲」を変更するものを含むものであって、該変更は、願書に添付された明細書の特許請求の範囲を、平成18年1月23日付けの手続補正書に記載のとおりに補正するものである。

【2】平成17年11月17日付け「最後の拒絶理由」の概要

平成17年11月17日付けの最後の拒絶の理由の概要は、以下に示す[理由1]及び[理由2]のとおりである。

『[理由1] 本件出願は、その出願の願書に添付した明細書又は図面についてした平成17年5月9日付けの補正が、下記Aの点で、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないので、平成6年改正前の特許法第17条の2第2項の規定で準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしていない。
記A
請求項1、7に記載される「内燃エンジンの吸気管の吸入空気量を、吸気管容積分のトルク応答性を考慮して変化させる」こと(以下、「構成A」という。)に関しては、願書に最初に添付した明細書又は図面には、図11において示される技術事項(例えば、「空燃比14.7」、「空燃比25」、「燃料量」、「スロットル開度」、「分流弁開度」に関する事項)が記載されているだけであり、希薄燃焼空燃比制御時における空気量制御においても、あるいは、分流弁を具備しない構成の空気量制御においても、「構成A」が成り立つように記載されている訳ではない。
してみれば、「構成A」を新たに付け加える補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていない新たな事項を追加したものである。』

『[理由2] 本件出願の請求項1に係る発明は、その出願前に国内において頒布された下記Bの刊行物である(1)、(2)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記B
(1)特開昭63-302163号公報
(2)特開平5-248248号公報
(なお、請求項2〜11に係る発明に対する[理由2]は、省略した。)』

【3】平成18年1月23日付けの手続補正について

・[補正却下の決定の結論]
平成18年1月23日付けの手続補正を却下する。

・[理由]
(1)請求項1に関する補正の内容
出願人が求めている特許請求の範囲の請求項1に関する補正の内容は、次のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1に記載される、
「【請求項1】 内燃エンジンの出力トルク変動を検出し希薄燃焼限界空燃比を判別する希薄燃焼限界空燃比判別手段と、前記希薄限界空燃比に基づき目標空燃比を変更する目標空燃比変更手段と、前記変更された目標空燃比に基づき内燃エンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えた内燃エンジンの出力トルク制御装置であって、
前記空燃比制御手段は、前記内燃エンジンの吸気管の吸入空気量を、吸気管容積分のトルク応答性を考慮して変化させる空気量制御手段を備えることを特徴とする内燃エンジンの出力トルク制御装置。」を、
「【請求項1】 内燃エンジンの出力トルク変動を検出し希薄燃焼限界空燃比を判別する希薄燃焼限界空燃比判別手段と、前記希薄燃焼限界空燃比に基づき目標空燃比を変更する目標空燃比変更手段と、前記変更された目標空燃比に基づき内燃エンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備え、吸気管にスロットルおよび分流弁を制御する制御部を備えた内燃エンジンの出力トルク制御装置であって、
前記空燃比制御手段は、前記目標空燃比の変更に際し、前記目標空燃比変更前の燃料量を保持すると共に、前記スロットルと分流弁にて吸気管容積分のトルク応答性を考慮して吸入空気量を変化させることにより、前記内燃エンジンの空燃比を変更することを特徴とする内燃エンジンの出力トルク制御装置。」
に補正する。
そして、平成18年1月23日付けの手続補正は、平成6年改正前の特許法第17条の2第1項第4号の規定に基づいてなされたものに該当する。

(2)新規事項についての判断
補正後の請求項1に記載される「前記空燃比制御手段は、前記目標空燃比の変更に際し、前記目標空燃比変更前の燃料量を保持すると共に、前記スロットルと分流弁にて吸気管容積分のトルク応答性を考慮して吸入空気量を変化させる」こと(以下、「構成B」という。)に関しては、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書」という。)には、図11において示される技術事項(例えば、「空燃比14.7」、「空燃比25」、「燃料量」、「スロットル開度」、「分流弁開度」に関する事項)が記載されているだけであり、それゆえ、当初明細書には、「理論空燃比と希薄燃焼空燃比との間で空燃比を切り換え変更するに際し、」「スロットルと分流弁にて吸気管容積分のトルク応答性を考慮して吸入空気量を変化させる」という技術事項しか記載されていないものと認められる。
そうすると、「理論空燃比と希薄燃焼空燃比との間で空燃比を切り換え変更するに際し、」という構成を包含する「構成B」は、当初明細書に記載されていないような「目標空燃比を変更する」場合をも含むことになる。
してみれば、「構成B」を付け加える補正は、当初明細書に記載されていない新たな事項を追加したことになる。
したがって、上記補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3)独立特許要件についての判断
仮に、請求項1における下線部を付した事項に変更する上記補正事項が、新規事項を追加するものではない、とされる場合には、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、上記補正事項は、平成6年改正前の特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、この場合には、補正後の請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成6年改正前の特許法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に適合するか否か)について判断する必要があるので、以下検討する
(3-1)補正後の発明
上記補正後の請求項1〜11に係る発明は、平成18年1月23日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「補正発明1」という。)は、(1)の箇所で既述したとおりのものである。
(3-2)引用刊行物の記載事項
これに対し、当審において通知した「最後の拒絶の理由」で引用した(a)特開昭63-302163号公報(以下、「引用例1」という。)、(b)特開平5-248248号公報(以下、「引用例2」という。)、及び、今回新たに引用する(c)特開平5-187295号公報(以下、「引用例3」という。)には、次のような技術的事項が記載されている。
・引用例1;
a.「1.エンジンの運転状態を検知する複数の検知手段及び空燃比検出手段からの信号を入力するディジタル演算装置と、このディジタル演算装置からの出力信号で空燃比、点火時期が制御されるように構成されたものにおいて、エンジンの失火状態検出器、NOx濃度情報検出器を設け、両者の信号から定まる許容安定燃焼領域に入るように空燃比、点火時期を制御するように構成したことを特徴とするリーンバーン制御装置。」(特許請求の範囲)
b.「この目標のリーン空燃比は、第3図に示すように、機関の失火限界空燃比と、排気規制値クリアのために必要なNOx限界から定まる空燃比とで狭まれた空燃比域、すなわち制御目標域内の特定の空燃比に設定していた。
〔発明が解決しようとする問題点〕
上記従来技術においては、機関の経時変化に対しての配慮が十分でなく、上記の設定したリーン目標空燃比は経時変化にかかわらず一定値であつた。経時変化,燃料性状変化,大気条件変化等があると失火限界は濃い空燃比側に移行することが予測されるので、従来はこの分を見込んで予めリーン目標空燃比を第3図の制御目標域の左側よりに設定するようにしていた。そのため、燃費が犠牲になるとともに、車重量が増加するとNOxの排出量が大きくなり、規制値のクリアが苦しくなる等の問題があつた。本発明の目的は、上記した経時変化等が生じてもつねに好適に制御目標域を決定でき、そこに制御できるリーンバーン制御装置を提供することにある。」(第1頁右下欄第17行〜第2頁左上欄第17行)
c.「第1図は本発明の制御フローの概要図である。ステツプ1,ステツプ2で空燃比A/F、点火時期Adv,失火,NOxの信号をマイクロコンピユータから成るデイジタル演算装置に入力し、ステツプ3で失火限界、NOx限界から定まる制御目標域に上記失火信号、NOx信号が入つているかどうか判別する。制御目標域外の場合、ステツプ4の補正運転モードに移行し、A/F,Adv、を制御し、制御目標域内に入るように制御する。制御目標域内の場合、ブロツク5の通常運転モードに移行し、通常の制御を実行する。」(第2頁左下欄第8〜19行)
d.「本発明の制御方法を第4図を用いてさらに説明する。失火限界を考慮すると、第4図失火限界線の左方に、NOx限界を考慮すると、図示NOx限界線の右方にする必要があり、結局両者を考慮すると、この両者で囲まれた制御目標域に制御する必要がある。ここで、前記した失火検出器で失火状態であると検出し、そのときのA/F、Adv値から図示…[一字略]のP1 の点であつたとすると、A/Fをリツチの方向に制御してP2 点にし、失火状態でなくする。そしてNOx検出器で検出した値が前記NOx限界の許容値以下であれば制御目標域に制御されたと判断する。一方、図示P3 点のごとき位置で、NOx検出器での検出値が許容値以上であつた場合、A/Fをリーンの方向に制御してP4 点にし、NOxを許容値内となるよう制御する。この場合、失火検出器で検出した信号が失火状態でないと判断すると、これによつて制御目標域に制御されたと判断し、以後の補正制御を中断する。」(第2頁右下欄第16行〜第3頁左上欄第14行)
e.「次に図示P8 の点のような位置で、NOxは許容値内であるが、失火限界を越えていると判断した場合、A/Fをリッチ化してP9 にし、失火限界から脱出する。しかし、この場合P9 点ではNOxが許容値以上となるので、いったんP8 にもどって点火時期Advを所定値進め、同時にA/Fをリッチ化してP10 の点に到達させ、失火、NOxの両者を満足させる制御を行う必要がある。」(第3頁右上欄第5〜12行)
f.「失火検出の方法としては、従来、エンジンの回転変動の大きさから推定して求めるものが一般的であつたが、本発明では燃焼に伴う燃焼火炎光の強度あるいは燃焼に伴う燃焼温度の大きさより失火を検出する方法を採用している。」(第4頁右上欄第7〜11行)
そして、引用例1に記載されるリーンバーン制御は、「空燃比」と「点火時期」を制御するものであるが、失火状態を検出して先ず制御するものが「空燃比」であるから、以上の記載a〜f、及び、第3、4図の記載からみて、
引用例1には、
「エンジンの回転変動の大きさから失火を検出(推定)し、リーン燃焼の失火限界の空燃比A/Fを判別する(判別)手段と、前記リーン燃焼の失火限界の空燃比A/Fに基づき空燃比をリッチの方向に制御してリーン目標空燃比を変更する(変更)手段と、前記変更されたリーン目標空燃比に基づきエンジンの空燃比を制御する(制御)手段とを備えたエンジンの空燃比制御装置」、
という発明が記載されているものと認められる。
・引用例2;
g.「【0002】 【従来の技術】エンジン負荷状態等に応じてエンジン吸気をシリンダ燃焼室内に渦流として供給し、いわゆるリーンバーン運転を行ってNOxの低減を図る吸気装置があり、渦流を供給するスワール流路をエンジン吸気ポートに近い位置で吸気路より分岐せしめて、スワール弁によりスワール流路を適宜開閉するようにしている。」
h.「【0006】 【課題を解決するための手段】本発明の構成を説明すると、エンジンの吸気装置は、エンジン吸気ポート11に近い位置で吸気路1より分岐されエンジンシリンダ3の燃焼室31内に渦流を供給するスワール流路2と、該スワール流路2を開閉するスワール弁4と、上記吸気路1に設けたスロットル弁5を迂回して吸気をバイパスするバイパス流路6と、該バイパス流路6を開閉するバイパス弁7と、少なくともエンジン負荷に応じて上記スワール弁4を開閉駆動するとともに、スワール弁4開閉時の吸気量変動を抑制するように上記バイパス弁7を開閉駆動する弁制御手段8とを具備している。
【0007】 【作用】上記構成において、スワール弁4の急速開閉に伴う吸気量変動は、バイパス弁7の開閉により抑制されるから、エンジンのトルクショックの発生は効果的に防止される。」
i.「【0012】 スワール弁4およびバイパス弁7の制御を図2で説明する。図はスワール弁4を閉鎖する場合の手順を示し、ステップ101では、冷却水温、機関負荷、機関回転数等よりスワール弁4の閉弁条件が成立したことを確認する。スワール弁4を閉じた時の吸気量の低減を予想してこれを補正するバイパス弁7の開放補正量をセットし、バイパス弁7をこの補正量にしたがって開放する(ステップ102)。
【0013】 バイパス弁7を開放しても、吸気量の増加がスワール流路2の分岐口付近に達するには一定時間t1かかるから、ステップ103では補正時間t1の経過を確認し、この時間経過後にスワール弁4を閉鎖する(ステップ104)。その後、バイパス弁7の補正量を漸次低減し(ステップ105)、バイパス弁7を時間を有して閉鎖せしめる。」
j.「【0015】 同様のことはスワール弁4の開放時にもなされ、スワール弁開放に先立ってバイパス弁7が所定の補正量だけ閉鎖されるから、この場合にも吸気量の急増(図の破線)が抑制され、エンジンのトルクショックの発生が防止される。」
そして、「吸気路1」、「スワール流路2」及び「バイパス流路6」は、総合的にみれば、エンジンの「吸気管」というべきものに通常相当するから、
以上の記載g〜j、及び、第1〜3図の記載からみて、引用例2には、
「吸気管にスロットル弁5、バイパス弁7及びスワール弁4を備え、バイパス弁7及びスワール弁4を制御する弁制御手段8を備えたエンジンにおいて、前記弁制御手段8は、リーンバーン運転を行う(あるいは、止める)際、バイパス弁7による吸気管の吸気量変動がスワール弁に達するまでの時間を考慮して、前記バイパス弁7開閉の一定時間t1経過後にスワール弁を開閉する」、
という発明が記載されているものと認められる。
・引用例3;
m.「【0005】 【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、本発明に依れば、吸気通路途中にスロットル弁を備える内燃エンジンの特定の運転状態時に、エンジンに供給する混合気を理論空燃比近傍の第1の空燃比に制御する一方、前記特定の運転状態以外の運転時に、前記第1の空燃比より燃料希薄側の第2の空燃比に制御する内燃エンジンの空燃比制御装置において、前記吸気通路に配設され、スロットル弁をバイパスするバイパス通路と、このバイパス通路を開閉する第2のバルブ手段と、前記スロットル弁の弁開度を検出するスロットル開度検出手段と、吸入空気量を検出する空気量検出手段と、前記特定の運転状態以外の運転時に、少なくとも前記スロットル開度検出手段が検出するスロットル弁開度に応じて第2の空燃比に制御するに必要な目標吸入空気量を演算し、この目標吸入空気量と前記空気量検出手段が検出する吸入空気量との偏差に応じて前記第2のバルブ手段の弁開度を制御し、もって目標吸入空気量近傍の空気をエンジンに供給させる制御手段とを備えてなることを特徴とする内燃エンジンの空燃比制御装置が提供される。
【0006】 【作用】本発明の内燃エンジンの空燃比制御装置は、第1の空燃比(リッチ燃焼運転)から第2の空燃比(リーン燃焼運転)への制御切り換え時に、或いは、その逆の制御切り換え時に、バイパス通路を開閉して吸入空気量を増減させ、燃料供給量を急激に変化させずに、すなわち、エンジン出力を変化させずに、空燃比を切換制御しようとするものである。
【0007】制御手段は、特定の運転状態以外の運転時に、少なくともスロットル弁開度を含むエンジン運転状態に応じ、第2の空燃比に制御するに必要な目標吸入空気量を演算し、バイパス通路を開成してこの目標吸入空気量がエンジンに供給されるように第2のバルブ手段の弁開度を制御し、もって、燃料供給量を実質的に変化させずに吸入空気量を増量し、第2の空燃比に切換制御する。」
以上の記載mからみて、引用例3には、
「第1の空燃比(理論空燃比近傍のリッチ燃焼運転)から第2の空燃比(リーン燃焼運転)への制御切り換え時に、或いは、その逆の制御切り換え時に、空燃比変更前の燃料(供給)量を実質的に変化させずに保持することにより、もって、エンジン出力を変化させないようにする」、
という発明が記載されているものと認められる。
(3-3)対比
(対比)
そこで、補正発明1と上記引用例1に記載された発明とを対比すると、
引用例1に記載された発明の「エンジン」は、補正発明1の「内燃エンジン」に相当し、以下同様に、「リーン燃焼の失火限界の空燃比A/F」は「希薄燃焼限界空燃比」に、「(判別)手段」は「希薄燃焼限界空燃比判別手段」に、「リーン目標空燃比」は「目標空燃比」に、「(変更)手段」は「目標空燃比変更手段」に、「(制御)手段」は「空燃比制御手段」に、「エンジンの空燃比制御装置」は「内燃エンジンの出力トルク制御装置」に、それぞれ相当する。
また、引用例1に記載された発明の「エンジンの回転変動の大きさから失火を検出」することは、補正発明1の「内燃エンジンの出力トルク変動を検出」することに含まれる事項であるから、両者は、
「内燃エンジンの出力トルク変動を検出し希薄燃焼限界空燃比を判別する希薄燃焼限界空燃比判別手段と、前記希薄燃焼限界空燃比に基づき目標空燃比を変更する目標空燃比変更手段と、前記変更された目標空燃比に基づき内燃エンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えた内燃エンジンの出力トルク制御装置」、
で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
補正発明1は、「吸気管にスロットルおよび分流弁を制御する制御部を備えた」ものであって、「空燃比制御手段は、前記目標空燃比の変更に際し、前記目標空燃比変更前の燃料量を保持すると共に、前記スロットルと分流弁にて吸気管容積分のトルク応答性を考慮して吸入空気量を変化させることにより、前記内燃エンジンの空燃比を変更する」ものであるのに対し、引用例1に記載された発明は、そのような構成を備えていない点。
(3-4)判断
以下、前記相違点について検討する。
(引用例2に記載される発明)
引用例2に記載される発明の「スロットル弁5及びバイパス弁7」、「スワール弁4」、「弁制御手段8」、「エンジン」、「リーンバーン」は、それぞれ、補正発明1の「スロットル」、「分流弁」、「制御部」、「内燃エンジン」、「希薄燃焼」に相当する。
また、引用例2に記載される発明のバイパス弁及びスワール弁における「開閉」制御が「目標空燃比の変更」によるものであることは、当業者にとって自明であり、
さらに、引用例2に記載される発明の「バイパス弁7による吸気管の吸気量変動がスワール弁に達するまでの時間を考慮して、前記バイパス弁7開閉の一定時間t1経過後にスワール弁を開閉する」ことは、補正発明1における「目標空燃比の変更に際し、前記スロットルと分流弁にて吸気管容積分のトルク応答性を考慮して吸入空気量を変化させる」ことに他ならない。
そうであれば、結局、引用例2には、
「吸気管にスロットルおよび分流弁を制御する制御部を備えた内燃エンジンにおいて、(希薄燃焼への、あるいは、希薄燃焼からの)目標空燃比の変更に際し、前記スロットルと分流弁にて吸気管容積分のトルク応答性を考慮して吸入空気量を変化させることにより、前記内燃エンジンの空燃比を変更する」という発明が記載されているものと認められる。
(相違点の検討)
そして、引用例1に記載される発明に引用例2に記載される発明を適用することは、両者が、「空燃比を制御して希薄燃焼を行う内燃エンジン」という同じ技術分野に属する発明であり、しかも、引用例1に記載される発明の吸気管に、希薄燃焼と密接に関連する「分流弁」を設けられないとする技術的理由も何ら存在しないものと認められる以上、当業者が容易になし得るものと認められる。
また、引用例3には、「(理論空燃比近傍から希薄燃焼空燃比への、あるいは、希薄燃焼空燃比から理論空燃比近傍への)目標空燃比の変更に際し、目標空燃比変更前の燃料量を保持することにより、エンジン出力を変化させない」ように構成することが記載されているから、上記適用に当たり、当該構成を採用することは、当業者が必要に応じて適宜なし得るものと認められる。
したがって、引用例1に記載される発明に引用例2、3に記載される発明を適用し、もって、補正発明1のように構成することは、当業者が容易になし得ることである。
(効果について)
そして、補正発明1の構成によってもたらされる効果も、引用例1〜3に記載された発明から当業者であれば当然予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。
(まとめ)
以上のとおりであるから、補正発明1は、引用例1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
したがって、上記補正は、平成6年改正前の特許法第17条の2第2項の規定で準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしておらず、あるいは、平成6年改正前の特許法第17条の2第4項で準用する特許法第126条第3項の規定に適合しないので、当該補正は認められない。
それゆえ、本件補正は、特許法第159条第1項の規定によって準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【4】本願発明について

(1)本願発明
平成18年1月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜11に係る発明は、平成17年5月9日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜11に記載されるとおりのものと認められるところ、その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】 内燃エンジンの出力トルク変動を検出し希薄燃焼限界空燃比を判別する希薄燃焼限界空燃比判別手段と、前記希薄限界空燃比に基づき目標空燃比を変更する目標空燃比変更手段と、前記変更された目標空燃比に基づき内燃エンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えた内燃エンジンの出力トルク制御装置であって、
前記空燃比制御手段は、前記内燃エンジンの吸気管の吸入空気量を、吸気管容積分のトルク応答性を考慮して変化させる空気量制御手段を備えることを特徴とする内燃エンジンの出力トルク制御装置。」

(2)新規事項についての判断
請求項1、7に記載される「内燃エンジンの吸気管の吸入空気量を、吸気管容積分のトルク応答性を考慮して変化させる」こと(以下、「構成A」という。)に関しては、当初明細書には、図11において示される技術事項(例えば、「空燃比14.7」、「空燃比25」、「燃料量」、「スロットル開度」、「分流弁開度」に関する事項)が記載されているだけであり、希薄燃焼空燃比制御時における空気量制御においても、あるいは、分流弁を具備しない構成の空気量制御においても、「構成A」が成り立つように記載されている訳ではない。
してみれば、「構成A」を新たに付け加える補正は、当初明細書に記載されていない新たな事項を追加したことになる。
したがって、上記補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(3)進歩性についての判断
(3-1)引用例の記載事項
また、本願発明1に対し、平成17年11月17日付けの「最後の拒絶理由」で引用した(a)特開昭63-302163号公報(以下、「引用例1」という。)、及び、(b)特開平5-248248号公報(以下、「引用例2」という。)には、上記【3】の(3-2)で既述したとおりの技術的事項が記載されている。
(3-2)対比
そこで、本願発明1と上記引用例1に記載された発明とを対比すると、既に、【3】の(3-3)で検討したように、両者は、
「内燃エンジンの出力トルク変動を検出し希薄燃焼限界空燃比を判別する希薄燃焼限界空燃比判別手段と、前記希薄燃焼限界空燃比に基づき目標空燃比を変更する目標空燃比変更手段と、前記変更された目標空燃比に基づき内燃エンジンの空燃比を制御する空燃比制御手段とを備えた内燃エンジンの出力トルク制御装置」、
で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明1は、「空燃比制御手段は、前記内燃エンジンの吸気管の吸入空気量を、吸気管容積分のトルク応答性を考慮して変化させる空気量制御手段を備える」のに対し、引用例1に記載された発明は、そのような構成を備えていない点。
(3-3)判断
そうすると、【3】の(3-4)で前示したとおり、上記相違点における本願発明1の構成は、引用例2に記載された発明と同様の構成であるから、上記相違点に係る本願発明1の構成は、引用例1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
それゆえ、本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【5】むすび

以上のとおりであって、(a)本願の願書に添付した明細書又は図面についてした平成17年5月9日付けの補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではないので、平成6年改正前の特許法第17条の2第2項の規定で準用する同法第17条第2項に規定する要件を満たしていないから、本願に係る発明は、特許を受けることができない。
また、(b)本願発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-09 
結審通知日 2006-02-14 
審決日 2006-02-28 
出願番号 特願平6-172275
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F02D)
P 1 8・ 575- WZ (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田澤 英昭関 義彦稲葉 大紀  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 清田 栄章
岩瀬 昌治
発明の名称 内燃エンジンの出力トルク制御装置及び制御方法  
代理人 平木 祐輔  

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