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審決分類 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  G09B
審判 全部無効 2項進歩性  G09B
管理番号 1135379
審判番号 無効2004-80167  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1986-05-14 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-27 
確定日 2006-04-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第1851926号発明「車載用ナビゲ-タ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1851926号に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第1851926号の出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・昭和59年10月17日 本件出願
・平成6年6月21日 設定登録(発明の数1)
・平成15年3月25日 訂正審判(審判番号2003-39056号)の請求
・同年8月6日 訂正審判(審判番号2003-39056号)について「特許第1851926号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決送達(当該審決は確定した。)
・平成16年9月27日 アイシン・エイ・ダブリュ株式会社より本件無効審判(審判番号2004-80167号)の請求
・同年12月20日 特許権者株式会社東芝より答弁書の提出

第2 本件発明の認定
本件特許第1851926号に係る発明(以下、本件特許第1851926号に係る発明を「本件発明」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「走行状態を検出する複数の検出手段と、
所要の地図およびその地図の所定の曲がり角における風景が画像データとして記憶された記憶手段と、
通常は前記地図を表示する表示手段と、
前記検出された走行状態に基づき前記地図の所定の曲がり角に接近した場合前記記憶手段より前記所定の曲がり角に対応する風景を読出し、この風景を前記表示手段に表示し、前記検出手段により検出された走行状態に基づき、前記所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し、曲がっていない場合には前記表示手段による前記風景の表示を継続する制御手段と、
を具備したことを特徴とする車載用ナビゲータ装置。」

第3 請求人の主張
請求人は、本件特許を無効とし、審判費用は被請求人の負担とする旨の審決を求め、第1の無効理由として、訂正された特許請求の範囲の記載は、昭和62年改正前の特許法第36条第4項(請求人は第5項と主張しているが、昭和60年法律第41号により特許法第36条は改正され、それについては、特別の場合を除いて、経過措置が設けられていないから、第4項との主張と解する。昭和62年改正前の特許法第123条第1項第3号では、特許法第36条第5項違反は、無効理由にされていない。)に規定する要件を満たしていないから、特許法等の一部を改正する法律(昭和62年法律第27号)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、昭和62年改正前の特許法第123条第1項第3号に該当し、無効にされるべき旨主張し、第2の無効理由として、本件発明は、本件出願日前に日本国内に頒布された刊行物に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべき旨主張し、証拠方法として次の甲第1号証〜甲第9号証を提出している。

甲第1号証:特開昭51-83498号公報
甲第2号証:特開昭58-75021号公報
甲第3号証:特開昭58-216911号公報
甲第4号証:特開昭59-157798号公報
甲第5号証:特開昭59-106099号公報
甲第6号証:特開昭58-129212号公報
甲第7号証:特開昭59-180800号公報
甲第8号証:特開昭59-17577号公報
甲第9号証:特開昭58-27008号公報

第4 被請求人の主張
一方、被請求人は、上記第1の無効理由について、訂正された特許請求の範囲の記載に不備はない旨主張し、上記第2の無効理由について、本件発明は、請求人提出の各刊行物に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張している。

第5 第1の無効理由についての当審の判断
1.請求人が指摘する記載不備
請求人は、訂正された特許請求の範囲には、次の記載不備があると主張している。
記載不備1:「検出手段」が、何の走行状態を検出するのか不明である。
記載不備2:「表示手段」が、画面に表示された地図上にて自車の現在位置を表示していないから、所定の曲がり角に自車が接近したか否かを運転者が画面上にて視認することは不可能であり、本件発明に依存して進むべき道路の選択を誤ることなく走行することはできない。
記載不備3:表示手段の画面上に通常表示される地図が、風景が読出されたとき継続して表示されるか或いは消去されるか不明である。
記載不備4:風景を表示する際に、自車の現在位置と進行方向が表示手段の画面上に示されないために、運転者は自己の判断で所定の曲がり角を曲がらざるを得ず、本件発明に依存して所定の曲がり角を見逃すことなく曲がることはできない。
記載不備5:車両が所定の曲がり角を未だ曲がっていない状態にて同曲がり角を曲がったか否かを検出手段により検出された走行状態に基づいて判別することは不可能であり、本件の訂正された明細書の発明の詳細な説明にも、曲がり角を通過したかを判別することについて記載がない。
記載不備6:車両が所定の曲がり角の手前で誤って他の道路に曲がった状態或いは当該車両が所定の曲がり角を曲がらないで直進して通過した状態にて表示手段の画面上に表示した風景が継続して表示されるようにしたときには、先の風景を消去しない限り次の曲がり角に対応する風景を読み出しても表示手段に表示させることは不可能であるから、車両が所定の曲がり角を通過したとき先に表示した風景を消去する機能を本件発明の「制御手段」が有しない限り、その目的を達成できないことは明らかである。

2.記載不備1についての判断
「検出された走行状態に基づき前記地図の所定の曲がり角に接近した場合」及び「検出手段により検出された走行状態に基づき、前記所定の曲がり角を曲がったか否かを判別」等の訂正された特許請求の範囲第1項の記載及び、車載用ナビゲータ装置に必要とされる技術常識からみて、自車の進行方向を含む、自車の現在位置を特定するために必要なるものを「走行状態」と称していることは明らかである。
したがって、請求人が主張する記載不備1によって、特許を無効とすることはできない。

3.記載不備2についての判断
自車の現在位置を表示せずに、単に地図を表示するのみであっても、当該表示された地図が、運転者にとって道路を誤り無く進むための補助となることは、明らかであるから、画面に表示された地図上にて自車の現在位置を表示する構成を有しないからといって、本件発明が所定の効果を達成することができないわけではない。
したがって、請求人が主張する記載不備2によって、特許を無効とすることはできない。

4.記載不備3についての判断
曲がり角において風景を表示すれば、当該曲がり角で正しい方向に曲がるように運転者を誘導できるという効果が得られるのであるから、曲がり角で風景を表示する際に、地図が継続して表示されるのか或いは消去されるのかは、本件発明にとって関係の無いことである。
したがって、請求人が主張する記載不備3によって、特許を無効とすることはできない。

5.記載不備4についての判断
自車の現在位置と進行方向とを表示せずに、単に風景を表示するのみであっても、当該表示された風景が、運転者にとって曲がり角を誤り無く曲がるための補助となることは、明らかであるから、風景を表示する際に自車の現在位置と進行方向とを表示する構成を有しないからといって、本件発明が所定の効果を達成することができないわけではない。
したがって、請求人が主張する記載不備4によって、特許を無効とすることはできない。

6.記載不備5についての判断
本件の訂正された特許請求の範囲には、「所定の曲がり角に接近した場合・・・風景を前記表示手段に表示し、・・・前記所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し、曲がっていない場合には前記表示手段による前記風景の表示を継続する」と記載されており、当該記載からみて、本件発明は、所定の曲がり角への接近を判別し、接近した状態で曲がったか否かを判別することにより、所定の曲がり角を曲がった否かを判別するものである。つまり、本件発明は、所定の曲がり角近傍で曲がった場合には、所定の曲がり角を曲がったものと判別しているのである。
当該判別に、何ら不都合があるとは認められないから、「車両が所定の曲がり角を未だ曲がっていない状態にて同曲がり角を曲がったか否かを検出手段により検出された走行状態に基づいて判別することは不可能である」との請求人の主張を採用することはできず、請求人が主張する記載不備5によって、特許を無効とすることはできない。

7.記載不備6についての判断
「車両が所定の曲がり角の手前で誤って他の道路に曲がった状態或いは当該車両が所定の曲がり角を曲がらないで直進して通過した状態にて表示手段の画面上に表示した風景が継続して表示されるようにしたときには、先の風景を消去しない限り次の曲がり角に対応する風景を読み出しても表示手段に表示させることは不可能である」との請求人の主張には、頷ける点もあるが、適宜手段により車載用ナビゲータ装置のその後の表示を適切なものとすることができることは、当業者にとって明らかな事項である。そして、所定の曲がり角で曲がりさえすれば、本件発明の作用効果を奏するのだから、本件発明が目的を達成できないとはいえない。
したがって、請求人が主張する記載不備6によって、特許を無効とすることはできない。

8.訂正された特許請求の範囲の記載不備の判断
記載不備に関する請求人の主張は、いずれも採用することができず、訂正された特許請求の範囲の記載が、昭和62年改正前の特許法第36条第4項の規定に規定する要件を満たしていないとすることはできない。

第6 第2の無効理由についての当審の判断
1.甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の事項が記載されている。
a.「本発明は、走行車、例えば自動車においてその運転者が道順を誤りなく走行運転できることは極めて有効である。そこで、本発明はこのような走行車の走行が誤りなく運転走行し得るようにした走行車の表示装置を提供することを目的とする。」(第1頁左下欄第10行〜同欄第15行)
b.「1は自動車の距離計、2はこの距離計1の最小桁数の回転数を電気的パルス信号数に変換するための変換器、3はこの変換器2の出力パルスの積算計、4はこの積算計3の積算出力を予め設定した設定値との一致をとるための一致回路であり、5はその設定回路である。上記一致回路4の出力には予め走行路の要所を写真に撮っておいたスライドによる表示機構6が駆動回路7を介して接続されている。即ち、一致回路4に出力がある毎に駆動回路7が表示機構6をそのスライド1枚毎に移送させるようになっている。そして、この表示機構6は運転者が容易に見ることができる位置に配されている。」(第1頁左下欄第16行〜同頁右下欄第10行)
c.「この構成において、今第2図に示すように自動車を出発点Aから終着点Zまで運転走行させる場合、予め、その間の道順の要注意位置の写真をスライドに順に撮っておき、且つそれに自動車の進行すべき指示を付加せしめておく。上記設定回路5の設定値b,c,・・・・・・zは出発点Aより点B,C,・・・・・・Zの前方例えば数百メートルにおける点B’,C’,・・・・・・Z’までの走行距離に対応させ、自動車の距離計1の指示が上記設定値と一致すると一致回路4より出力が得られるようになしておく。」(第1頁右下欄第16行〜第2頁左上欄第6行)
d.「従って、自動車が出発点Aから矢印方向に出発走行し点B’に至ると距離計1の積算距離が変換器2によりパルス信号に変換され積算計3において積算される。この積算値が一致回路4において予め設定した設定値bと一致すると駆動回路7が表示機構6を駆動し、スライドが交叉点である点Bを表示すると共に進行方向を例えば右折せよという表示をなす。」(第2頁左上欄第7行〜同欄第14行)
e.「尚、上記表示機構6は夫々の点B,C,・・・・・・を通過した場合、予め一致回路4と設定回路5とによる通過位置の設定をなし、その点B,Cの表示を停止させるようにしてもよい。」(第2頁右上欄第8行〜同欄第11行)

2.甲第1号証に記載された発明の認定
上記記載事項c〜記載事項e、及び技術常識からみて、一致回路4は、積算計3の走行距離と設定回路5の設定値との比較を所定の時間間隔で繰り返しており、駆動回路7は、当該一致回路4の出力に基づいて、走行距離が要注意位置の数百メートル手前の地点に到達した時点、当該時点から要注意位置に到達する前までの期間、及び要注意位置に到達した時点に、表示機構6における写真の表示、表示の継続、及び表示の停止を行っていると解することが自然であるから、甲第1号証に記載された一致回路4、設定回路5、及び駆動回路7は、変換器2及び積算計3により積算された自動車の走行距離が、出発点から要注意位置の数百メートル手前の地点までの走行距離に達すると、スライドを移送させて要注意位置の写真を表示機構6に表示し、その後、出発点から要注意位置までの走行距離に達していない場合は、表示機構6による表示を継続し、出発点から要注意位置までの走行距離に達すると、表示機構6による表示を停止するように構成されているということができる。
したがって、上記記載事項a〜記載事項eを含む甲第1号証の全記載からみて、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「自動車の距離計1の回転数を電気的パルス信号数に変換して自動車の走行距離を積算する変換器2及び積算計3と、
曲がることを予定した交叉点など、道順の要注意位置を写真に撮っておいたスライドと、
運転者が容易に見ることができる位置に配されて上記スライドを表示する表示機構6と、
上記変換器2及び積算計3により積算された自動車の走行距離が、出発点から要注意位置の数百メートル手前の地点までの走行距離に達すると、スライドを移送させて要注意位置の写真を表示機構6に表示し、その後、出発点から要注意位置までの走行距離に達していない場合は、表示機構6による表示を継続し、出発点から要注意位置までの走行距離に達すると、表示機構6による表示を停止するように構成された一致回路4、設定回路5、及び駆動回路7とを具備する自動車の表示装置。」

3.本件発明と甲1発明の一致点及び相違点の認定
甲1発明の「自動車の走行距離」は、本件発明の「走行状態」の一態様であり、甲1発明の「自動車の走行距離を計数する変換器2及び積算計3」を、「走行状態を検出する検出手段」ということができる。
また、甲1発明の「要注意位置」は、「曲がることを予定した交叉点」をも含むのであるから、本件発明の「所定の曲がり角」に相当し、甲1発明の「要注意位置の写真」と、本件発明の「所定の曲がり角に対応する風景」との間に相違はない。
また、甲1発明の「表示機構6」と本件発明の「表示手段」とは、風景の表示を行う表示部である点において共通する。
また、甲1発明の「自動車の走行距離が、出発点から要注意位置の数百メートル手前の地点までの走行距離に達すると」は、本件発明の「所定の曲がり角に接近した場合」と異ならない。
また、甲1発明の「一致回路4、設定回路5、及び駆動回路7」は、自動車の走行距離が、出発点から要注意位置の数百メートル手前の地点までの走行距離に達すると、スライドを移送させて要注意位置の写真を表示機構6に表示し、その後、出発点から要注意位置までの走行距離に達していない場合は、表示機構6による表示を継続するのだから、「走行状態に基づき所定の曲がり角に接近した場合前記所定の曲がり角に対応する風景を前記表示部に表示し、前記走行状態に基づいて特定の条件を判断し、当該特定の条件が満たされる場合には、表示手段による風景の表示を継続する制御手段」であるということができ、この限りにおいて、本件発明の「制御手段」と一致する。
さらに、甲1発明の「表示装置」は、要注意位置の写真を運転者に提示し、道順を誤りなく運転走行し得るようにするためのものであるのだから、「ナビゲータ装置」であるということができ、かつ、当該「表示装置」は、運転者が容易に見ることができる位置に配されているのだから、車載用の装置であることは明らかである。
したがって、本件発明と甲1発明とを比較すると、両者は、
「走行状態を検出する検出手段と、
表示部と、
検出された走行状態に基づき所定の曲がり角に接近した場合前記所定の曲がり角に対応する風景を前記表示部に表示し、前記検出手段により検出された走行状態に基づいて特定の条件を判断し、当該特定の条件が満たされる場合には、表示部による風景の表示を継続する制御手段とを具備した車載用ナビゲータ装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本件発明が、走行状態を検出する複数の検出手段を有しており、当該検出手段による検出結果に基づいて表示手段の制御を行うものであり、また、所定の曲がり角を曲がったか否かを判別しているのであるから、当該検出手段は、曲がり角を曲がったか否かを判別可能な手段であるのに対して、甲1発明は、走行距離を検出し、当該走行状態のみに基づいて表示機構6の制御を行うものであって、走行状態を検出する複数の検出手段を有しておらず、また、甲1発明の検出手段は曲がり角を曲がったか否かを判別することはできない点

相違点2:本件発明が、通常は表示手段に地図を表示しているのに対して、甲1発明は、「通常」ばかりか、どのような時においても地図を表示してはいない点

相違点3:本件発明が、所要の地図およびその地図の所定の曲がり角における風景を画像データとして記憶手段に記憶しており、また、制御手段が当該記憶された画像データを読出して表示手段に表示するように構成しているのに対して、甲1発明は、道順の要注意位置を写真に撮っておいたスライドを設けてはいるものの、当該スライドが、画像データを記憶する記憶手段であるとまでは言えず、また、甲1発明の駆動回路7は、スライドを移送させ、要注意位置の写真を表示機構6に表示するように構成していることから、制御手段が記憶手段より画像データを読出して表示手段に表示しているとも言えない点

相違点4:本件発明の制御手段が、所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し、曲がっていない場合に風景の表示を継続するのに対して、甲1発明の制御手段は、要注意位置に到達していないことを表示継続の条件としている点

4.相違点についての判断及び本件発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
車載用ナビゲータ装置の技術は、甲1発明がなされた時点から本件出願時まで、めざましく進歩又は進化しており、甲1発明のように走行距離のみに基づいて自車の現在位置を把握するのであれば、途中寄り道をした場合等、正しく現在位置を把握できず、甲1発明においてもB地点に接近していること等を正しく判断できないことは明らかである。
甲第1号証よりも、本件出願時に近い時点で頒布された甲第5号証には前記のとおりの記載があり、走行状態の検出として、走行距離に加えて進行方向を計測し、当該2つのパラメータに基づいて終点座標、すなわち自車の現在位置座標を求めることが記載されているし、そのほかにも、甲第2号証や甲第6号証等に、走行距離と進行方向を計測し自車の現在位置座標を求めることが記載されているから、本件出願当時には、車載用ナビゲータ装置における走行状態検出手段としては、走行距離と進行方向を検出するものが主流であるというべきであり、少なくとも走行状態を検出する複数の検出手段を有する車載用ナビゲータ装置は周知となっていた。
そうであれば、甲1発明にこの主流又は周知の技術を採用して、相違点1に係る本件発明の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
(1)で述べたように、車載用ナビゲータ装置の技術は、甲1発明がなされた時点から本件出願時まで、めざましく進歩又は進化しており、本件出願当時の車載用ナビゲータ装置としては、いわゆる通常時に地図を表示するものが主流又は周知であった(甲第5号証、甲第2号証、甲第6号証等参照)。
そうであれば、甲1発明において、予定走行コースの地図の情報を具備させ、通常、表示部に当該地図を表示させるよう構成すること、すなわち、相違点2に係る本件発明の構成を採用することは、甲1発明及び本件出願当時の主流又は周知の技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
車載用ナビゲータ装置の技術は、甲1発明がなされた時点から本件出願時まで、めざましく進歩又は進化していることは(1)で述べたとおりであり、画像表示技術もその間に飛躍的な進歩をとげている。
実際、記憶手段に画像データを記憶し、制御手段が当該画像データを読出して表示手段に表示させるような構成は、甲第5号証、甲第2号証、甲第6号証等にみられるように、本願出願日前に周知の技術であり、当該周知技術と、甲1発明の写真を撮っておいたスライドを駆動回路7によって移送して表示機構6に表示させる構成とは相互に置換が可能なものであるから、甲1発明の構成として、当該周知技術を採用することは、単なる設計変更にすぎない。甲1発明に周知技術を採用した場合には、当然のことながら、要注意位置の写真を画像データとして記憶手段に記憶させることとなるし、地図の情報を具備させる際には当該地図の情報をも画像データとして記憶手段に記憶させることとなる。なお、地図と風景とを同一の記憶手段に記憶させるのか、別の記憶手段に記憶させるのかは、技術の具体化手段における微差にすぎない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件発明の構成を採用することは、単なる設計変更にすぎない。

(4)相違点4について
(1)で述べたように、甲1発明において、走行距離及び進行方向を計測し、当該2つのパラメータに基づいて自車の現在位置座標を求めることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、甲1発明に同構成を採用した場合には、曲がり角における写真を表示するための条件の判断についても、当然のことながら、上記2つのパラメータに基づいて行うこととなるから、その際には走行距離及び進行方向検出手段に基づいて、その条件を設定することがきわめて自然な発想である。
そして、甲1発明の「曲がることを予定した交叉点」において要注意位置の写真の表示を行う必要があるのは、交叉点に至る直前から通過するまでであるが、当該交叉点は曲がることを予定したポイントであるから、曲がったかどうかで当該交叉点を通過したかどうかを判断できることは明らかである。
実際、本件出願により近い時期に頒布された甲第5号証では、「チェックポイントNo.2の有効範囲D内にいるときに、方位センサ(2)の出力信号により車が曲がったことが検出されること、現在位置ベクトルベクトルB1の終点の座標C1が次のチェックポイントNo.3に向かう場合の新たな現在位置ベクトルB2の起点として計算が実行されるように構成」(第3頁左上欄第10行〜同欄第15行)しており、曲がり角で曲がったことが検出されることをもって、目標となる曲がり角を予定走行コース上の次の曲がり角に更新しているのだから、この甲第5号証記載のものと同様に、進行方向検出手段を用いて、交叉点を曲がったことを検出すると、写真表示を停止し、検出するまでは表示を継続することに、困難性があるということはできない。
すなわち、相違点4に係る本件発明の構成をなすことも、甲第5号証に代表される本件出願当時の、車載用ナビゲータ装置の技術水準・周知技術を考慮すれば当業者にとって想到容易といわざるを得ない。

(5)本件発明の進歩性の判断
相違点1〜相違点4に係る本件発明の構成は、いずれも設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明は甲1発明及び本件出願当時の車載用ナビゲータにおける技術水準・周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、本件特許は平成11年改正前の特許法第29条第2項の規定に違反してされた特許である。

(6)被請求人の主張について
被請求人は、平成16年12月20日付審判事件答弁書において、第2の無効理由について、「しかしながら、甲第1号証には、「所定の曲がり角を曲がったか否かを判別すること」については何ら記載がなく、また、これを示唆する記載もない。」(第7頁第3行〜同頁第5行)、「本件特許発明のように、「複数の検出手段により検出された走行状態に基づき、所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し、曲がっていない場合には表示手段による風景の表示を継続する」場合には、交叉点Bの手前で表示が停止してしまうような事態は発生し得ず、安全、且つ確実に所用の道路を選択することができる。」(第9頁第9行〜同頁第13行)、及び「本件特許発明において「所定の曲がり角を曲がったか否かを判別する」ことに特許性が認められていることは本件訂正審決にも示されているとおりであって、甲第1号証ないし甲第9号証にそのような記載も示唆もない以上、本件特許発明が甲第1号証ないし甲第9号証に基づいて容易に想到することができたものであるとは到底認めることができない。」(第9頁第22行〜同頁第27行)と主張している。
しかしながら、「第6 4.(4)相違点4について」で述べたように、甲第5号証には、「曲がり角に接近した状態において、方位センサ(2)の出力信号により車が曲がったことが検出されると、当該曲がり角の座標を、現在位置ベクトル計算回路(3)における新たな起点とすると共に、当該曲がり角の次の曲がり角の座標を、比較回路(6)における現在位置ベクトルの終点座標との新たな比較対象とする」ことが記載されているのであって、甲1発明がなされた時点からの車載用ナビゲータ装置の進歩又は進化を考慮すれば、「所定の曲がり角を曲がったか否かを判別し、曲がっていない場合には表示手段による風景の表示を継続する」という構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるし、また、被請求人が主張する本件発明の効果も、容易に予測できる効果にすぎない。
したがって、被請求人の主張を採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証に記載された発明及び本件出願当時の車載用ナビゲータにおける技術水準・周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-02-04 
結審通知日 2005-02-07 
審決日 2005-02-18 
出願番号 特願昭59-217814
審決分類 P 1 113・ 121- Z (G09B)
P 1 113・ 532- Z (G09B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 片寄 武彦  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 津田 俊明
清水 康司
登録日 1994-06-21 
登録番号 特許第1851926号(P1851926)
発明の名称 車載用ナビゲ-タ装置  
代理人 長谷 照一  
代理人 林 佳輔  
代理人 高橋 雄一郎  
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