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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1135399
審判番号 不服2002-9534  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-27 
確定日 2006-04-26 
事件の表示 平成 7年特許願第502765号「プログラムコンポーネントの従属関係の動的計算を用いてコンピュータ・プログラムを構築する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 1月 5日国際公開、WO95/00903、平成 9年 6月30日国内公表、特表平 9-506722〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

国際出願 平成 6年 1月 6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年6月28日、米国)
審査請求 平成13年 1月 9日
拒絶理由 平成13年 6月26日
意見書 平成14年 1月10日
手続補正書 平成14年 1月10日
拒絶査定 平成14年 2月18日
審判請求 平成14年 5月27日
手続補正書 平成14年 6月26日
面接 平成17年11月10日

2.平成14年6月26日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成14年6月26日付け手続補正を却下する。

[理由]
(1)平成14年6月26日付け手続補正の内容
平成14年6月26日付け手続補正は特許請求の範囲の請求項1について次のとおりに補正するものである。

(補正前)
「コンピュータシステムのメモリ内にコンピュータ・プログラムを構築する方法であって、前記プログラムはツリー構造内に配列された複数のコンポーネントを備え、各コンポーネントは前記コンピュータ・プログラムのエレメントを表し、かつコンポーネントのソースコードを参照するソースコードプロパティを含むプロパティデータを参照するプロパティの関連するセットからなり、
(a)前記各コンポーネントおよびそれらの関連するプロパティを前記コンピュータシステムのメモリ内にストアするステップと、
(b)各コンポーネントの前記ソースコードのコンパイル期間に、前記ストアされた各コンポーネントの間の従属関係を計算するステップと、
(c)前記コンポーネントプロパティおよびステップ(b)において計算された前記従属関係を使用して、構築プロセス期間に、前記ストアされたコンポーネントの前記コンパイルされたものを順序付けるステップと
を備えることを特徴とする方法。」

(補正後)
「プログラム・ソース・コードをプログラム・オブジェクト・コードに変換するコンパイラを使用して、コンピュータ・システムのメモリ内にコンピュータ・プログラムを構築する方法であって、前記プログラムは複数のコンポーネントを備え、各コンポーネントは、前記コンピュータ・プログラムのエレメントを表し、かつ、コンポーネントのソース・コードを参照するソース・コード・プロパティを含むプロパティ・データを参照するプロパティの関連するセットからなり、
(a)前記コンポーネントのソース・コードが前記コンパイラに提出される順序を選択するために、前記コンポーネント・プロパティを使用するステップと、
(b)前記コンパイラを使用して、前記コンパイラに提出されるコンポーネント中の前記ソース・コード・プロパティによって参照されるコンポーネント・ソース・コードを検査し、前記各コンポーネント・ソース・コード中で指名されるすべての他のコンポーネントへの参照を得るステップと、
(c)前記コンパイラを使用して、ステップ(b)でその参照が得られた各コンポーネントを検査し、前記各コンポーネントがコンパイル済みであるかどうかを判断するステップと、
(d)ステップ(b)でその参照が得られた各コンポーネントがコンパイルすべきものであるとステップ(c)で判断されると、前記コンパイラに提出される前記コンポーネント・ソース・コードを前記コンパイラでコンパイルするステップと、
(e)ステップ(b)でその参照が得られた前記コンポーネントのうち少なくとも1つがコンパイルすべきものでないとステップ(c)で判断されると、ステップ(a)で選択された前記順序を変更するステップと、
(f)ステップ(b)、(c)、(d)、および(e)を繰り返して、前記コンポーネント・ソース・コードをコンパイルするステップと
を備えることを特徴とする方法。」

(2)補正の適否について

(2.1)新規事項について
本補正によって、「(a)前記コンポーネントのソース・コードが前記コンパイラに提出される順序を選択するために、前記コンポーネント・プロパティを使用するステップ」なる記載が追加された。
これについて、請求人は審判請求の理由において、明細書第35頁第19行〜第38頁第22行をその補正の根拠として挙げている。しかしながら、明細書の当該箇所には、Changelist内の各参照をInterfaceCompileListあるいはImplementationCompileListに順次コピーすることが記載されるのみであり、コンポーネントのソース・コードがコンパイラに提出される順序を選択することについての記載はない。
そこでさらに明細書全体の記載を参酌して検討するに、明細書第39頁第1行〜第46頁4行によれば、前述のInterfaceCompileListあるいはImplementationCompileListの先頭から順次取り出される参照によってコンパイラの呼び出しが行われることが読み取れる。従って、コンポーネントのソースコードがコンパイラに提出される順序は、InterfaceCompileListあるいはImplementationCompileListに格納される参照の順序によって決定されることになるが、上述のChangelist内の各参照をInterfaceCompileListあるいはImplementationCompileListへコピーする際、その順序を選択することは記載されていない。
そして、本願出願当初の明細書および図面全体において、この他にこの補正の根拠となる記載はなく、また、この補正内容が自明なものであるとも認められない。
よって、前記「(a)前記コンポーネントのソース・コードが前記コンパイラに提出される順序を選択するために、前記コンポーネント・プロパティを使用するステップ」は願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でない。
また、本補正によって、「(e)ステップ(b)でその参照が得られた前記コンポーネントのうち少なくとも1つがコンパイルすべきものでないとステップ(c)で判断されると、ステップ(a)で選択された前記順序を変更するステップ」なる記載が追加された。
この点について、請求人は審判請求の理由において、明細書第47頁第5行〜第47頁第16行をその補正の根拠として挙げている。そこで検討するに、明細書第47頁第9行〜第14行には、「コンポーネントのBuildStateがNeedToCompileあるいはUncertainならば、ブロック905に示すように、コンポーネントは対応する参照が機能ブロック906でInterfaceCompileListの先頭に追加され」との記載があり、参照がInterfaceCompileListの先頭に追加されるという処理によって、コンポーネントのソース・コードがコンパイラに提出される順序が変更されている。しかしこの処理の前提は、「コンポーネントのBuildStateがNeedToCompileあるいはUncertainならば」であるから、コンポーネントが「コンパイルすべきでない」と判断された場合ではない。
そして、本願出願当初の明細書および図面全体において、この他にこの補正の根拠となる記載はなく、また、この補正内容が自明なものであるとも認められない。
よって、前記「(e)ステップ(b)でその参照が得られた前記コンポーネントのうち少なくとも1つがコンパイルすべきものでないとステップ(c)で判断されると、ステップ(a)で選択された前記順序を変更するステップ」は願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でない。

(2.2)補正の目的について
本補正によって補正前の、「プログラムはツリー構造内に配列された複数のコンポーネントを備え」が、「プログラムは複数のコンポーネントを備え」と補正された。この補正はプログラムが備えるコンポーネントについてツリー構造内に配置されたものであるという限定を削除するものであるから、特許請求の範囲が拡張されており、特許請求の範囲の減縮にはあたらない。
また、補正前の記載が不明りょうであるとして拒絶の理由として通知されたものでもなく、補正前の記載が不明りょうであったものとは認められないから、明りょうでない記載の釈明にもあたらない。
さらに、請求項の削除や誤記の訂正でないことも明らかである。
また、本補正によって補正前の、「(a)前記各コンポーネントおよびそれらの関連するプロパティを前記コンピュータシステムのメモリ内にストアするステップ」と、「(c)前記コンポーネントプロパティおよびステップ(b)において計算された前記従属関係を使用して、構築プロセス期間に、前記ストアされたコンポーネントの前記コンパイルされたものを順序付けるステップ」が削除された。これが特許請求の範囲の減縮、不明りょうな記載の釈明、請求項の削除や誤記の訂正のいずれにもあたらないことは明らかである。

(3)結び
これらのことから、平成14年6月26日付け手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内における補正であるとは認められず、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第2項の規定により準用する同法第17条第2項の規定に違反するものである。
また、同手続補正は、同法第17条の2第3項第1号ないし第4号のいずれの目的にも該当しないものであるから、同法第17条の2第3項の規定にも違反するものである。
よって、平成14年6月26日付け手続補正は、同法159条第1項の規定で読み替え準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

平成14年6月26日付け手続補正は上記の通り却下されたので、本願の請求項1-24に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成14年1月10日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1-24に記載された次のとおりのものである。
「1.コンピュータシステムのメモリ内にコンピュータ・プログラムを構築する方法であって、前記プログラムはツリー構造内に配列された複数のコンポーネントを備え、各コンポーネントは前記コンピュータ・プログラムのエレメントを表し、かつコンポーネントのソースコードを参照するソースコードプロパティを含むプロパティデータを参照するプロパティの関連するセットからなり、
(a)前記各コンポーネントおよびそれらの関連するプロパティを前記コンピュータシステムのメモリ内にストアするステップと、
(b)各コンポーネントの前記ソースコードのコンパイル期間に、前記ストアされた各コンポーネントの間の従属関係を計算するステップと、
(c)前記コンポーネントプロパティおよびステップ(b)において計算された前記従属関係を使用して、構築プロセス期間に、前記ストアされたコンポーネントの前記コンパイルされたものを順序付けるステップとを備えることを特徴とする方法。
2.請求項1に記載の方法において、各コンポーネントはインタフェース情報を参照するインタフェースプロパティおよびインプリメンテーンョン情報を参照するインプリメンテーションプロパティを有し、ステップ(b)は、前記コンポーネントのインタフェースプロパティの各々により参照されるコンポーネントインタフェース情報の間の従属関係を計算することを備えることを特徴とする方法。
3.請求項2に記載の方法において、
(d)コンポーネントインタフェースを処理しおよび宣言プロパティにより参照される前記処理されたインタフェースをストアするステップを更に備えることを特徴とする方法。
4.請求項2に記載の方法において、ステップ(c)は、前記コンポーネントのコンパイルされたものを順序付けて、いずれかのコンポーネントインプリメンテーンョン情報がコンパイルされる前にすべてのコンポーネントインタフェース情報がコンパイルされるようにすることを備えることを特徴とする方法。
5.請求項1に記載の方法において、ステップ(c)は、
(c1)コンパイルすることが必要なコンポーネントをコンポーネント変更リスト上に配置することを備えることを特徴とする方法。
6.請求項5に記載の方法において、各コンポーネントはインタフェース情報を参照するインタフェースプロパティおよびインプリメンテーンョン情報を参照するインプリメンテーンョンプロパティを有し、ステップ(c1)は、前記コンポーネント変更リスト上の各コンポーネントを、コンパイルされることが必要なインタフェース情報と共にインタフェースコンパイルリスト上に配置し、各コンポーネントを、コンパイルされることが必要なインプリメンテーション情報と共にインプリメンテーションコンパイルリスト上に配置することを備えることを特徴とする方法。
7.請求項5に記載の方法において、ステップ(c1)は、初期の構築オペレーション期間に、すべてのコンポーネントを前記コンポーネント変更リスト上に配置することを備えることを特徴とする方法。
8.請求項5に記載の方法において、ステップ(c1)は、編集オペレーションの後で、変更されたコンポーネントを前記コンポーネント変更リスト上に配置することを備えることを特徴とする方法。
9.請求項8に記載の方法において、構築オペレーション期間に、前記コンポーネント変更リスト上のコンポーネントのみを再コンパイルすることにより前記プログラムをインクリメンタルにコンパイルすることを更に備えることを特徴とする方法。
10.請求項1に記載の方法において、コンポーネントに関連するプロパティのセットはオブジェクト・コード・プロパティを含み、ステップ(b)は、前記ソースコードプロパティにより参照されるソースコードをコンパイルし、該コンパイルされたソースコードを、前記オブジェクト・コード・プロパティにより参照される前記メモリ内にストアすることを備えることを特徴とする方法。
11.請求項1に記載の方法において、
(b1)コンポーネントの前記ソースコードのコンパイル期間にコンポーネントを作成することを備えることを特徴とする方法。
12.請求項11に記載の方法において、各コンポーネントは属性を有し、ステップ(b1)の期間に作成された前記コンポーネントはIsSynthetic属性を有することを特徴とする方法。
13.コンピュータシステムのメモリ内にコンピュータ・プログラムを構築するための装置であって、前記プログラムはツリー構造内に配列された複数のコンポーネントを備え、各コンポーネントは前記コンピュータ・プログラムのエレメントを表し、かつコンポーネントソースコードを参照するソースコードプロパティを含むプロパティデータを参照するプロパティの関連するセットからなり、
前記各コンポーネントおよびそれらの関連するプロパティをストアする前記コンピュータシステムのメモリ内に配置されたデータベースと、
各コンポーネントの前記ソースコードのコンパイル期間に、前記ストアされた各コンポーネントの間の従属関係を計算するコンパイラと、
前記コンポーネントプロパティおよび前記コンパイラにより計算された従属関係を使用して、構築プロセス期間に、前記ストアされたコンポーネントの前記コンパイルされたものを順序付ける構築メカニズムと
を備えることを特徴とする装置。
14.請求項13に記載の装置において、各コンポーネントはインタフェース情報を参照するインタフェースプロパティおよびインプリメンテーンョン情報を参照するインプリメンテーンョンプロパティを有し、前記コンパイラは前記コンポーネントインタフェース情報の間の従属関係を計算する手段を備えることを特徴とする装置。
15.請求項14に記載の装置において、コンポーネントインタフェースを処理し、宣言プロパティにより参照される前記処理されたインタフェースをストアする手段を更に備えることを特徴とする装置。
16.請求項14に記載の装置において、前記構築メカニズムは、コンポーネントの前記コンパイルされたものを順序付けて、いず洞かのコンポーネントインプリメンテーンョン情報がコンパイルされる前にすべてのコンポーネントインタフェース情報がコンパイルされるようにする手段を備えることを特徴とする装置。
17.請求項13に記載の装置において、前記コンパイラはコンパイルすることが必要なコンポーネントをコンポーネント変更リスト上に配置する手段を備えることを特徴とする装置。
18.請求項17に記載の装置において、各コンポーネントはインタフェース情報を参照するインタフェースプロパティおよびインプリメンテーション情報を参照するインプリメンテーションプロパティを有し、前記コンパイラは、前記コンポーネント変更リスト上の各コンポーネントを、コンパイルされることが必要なインタフェース情報と共にインタフェースコンパイルリスト上に配置する手段と、各コンポーネントを、コンパイルされることが必要なインプリメンテーンョン情報と共にインプリメンテーションコンパイルリスト上に配置する手段とを備えることを特徴とする装置。
19.請求項17に記載の装置において、前記コンパイラは、初期の構築オペレーション期間に、すべてのコンポーネントを前記コンポーネント変更リスト上に配置する手段を備えることを特徴とする装置。
20.請求項17に記載の装置において、前記コンパイラは、編集オペレーションの後で、変更されたコンポーネントを前記コンポーネント変更リスト上に配置する手段を備えることを特徴とする装置。
21.請求項2 0に記載の装置において、構築オペレーション期間に、前記コンポーネント変更リスト上のコンポーネントのみを再コンパイルすることにより、前記プログラムをインクリメンタルにコンパイルする手段を更に備えることを特徴とする装置。
22.請求項13に記載の装置において、コンポーネントに関連するプロパティのセットはオブジェクト・コード・プロパティを含み、前記コンパイラは前記ソースコードプロパティにより参照されるソースコードをコンパイルし、該コンパイルされたソースコードを、前記オブジェクト・コード・プロパティにより参照される前記メモリ内にストアする手段を備えることを特徴とする装置。
23.請求項13に記載の装置において、前記コンパイラは、各コンポーネントの前記ソースコードのコンパイル期間に、コンポーネントを作成する手段を備えることを特徴とする装置。
24.請求項23に記載の装置において、各コンポーネントは属性を有し、前記コンパイラ内の前記手段により作成される前記コンポーネントはIsSynthetic属性を有することを特徴とする装置。」

(1)原査定の理由
原査定は特許法第36条第5項1号第36条第4項第29条柱書を理由とするものであり、その備考欄には次のように記載されている。

(36条第5項1号について)
「(1)請求項1〜12に係る「(a)前記各コンポーネントおよびそれらの関連するプロパティを前記コンピュータシステムのメモリ内にストアするステップ」は、発明の詳細な説明及び図面に記載した事項ではない。
(2)<省略>
(3)請求項1〜24に係る発明において、「構築プロセス期間に」又は/及び「構築メカニズム」が、「コンパイルされたものを順序付ける」ことは、発明の詳細な説明及び図面に記載した事項ではない。例えば、明細書第8頁第18-21行「構築メカニズムは、コンパイラから得た従属関係と一緒にコンポーネントのプロパティを使用して、構築プロセス期間にコンポーネントのコンパイルを正しくかつ効率よく順序づける。」、及び、同第11頁第12-14行「構築メカニズムは、すべてのインタフェースがどのインプリメンテーションよりも前にコンパイルされるように、コンパイルを順序づける。」の記載からすると、実施例においては、「構築プロセス期間」に、又は「構築メカニズム」が順序付ける対象は「コンパイルされたもの」ではなく「コンパイル」処理そのものである。
(4)請求項5〜8に係る発明において、ステップ(c)すなわち構築プロセス期間に、「コンパイルすることが必要なコンポーネントをコンポーネント変更リスト上に配置すること」は、発明の詳細な説明に記載した事項ではない。
よって、請求項1〜24に係る発明は、特許法第36条第5項1項に規定する要件を満たしていないので特許を受けることができない。」

(36条第4項について)
「インタフェース情報の具体的なデータ構造が定義されておらず、コンパイラが当該インタフェース情報をどのように処理してコンポーネントの従属関係を計算するのか依然として不明である。
したがって、発明の詳細な説明及び図面は、当業者が請求項1〜24に係る発明を実施できる程度に明確に記載されていないから、請求項1〜24に係る発明は特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができない。」

(29条柱書について)
「請求項1〜12に係る発明は、コンポーネント間の関係に基づいてコンパイルを行うプログラム構築手法に係るものであるが、当該構築手法自体は人為的な取決めのみに基づいたものである。また、当該構築手法を実現するにあたり、「メモリ」を用いているものの、当該「メモリ」は、特定の情報を格納して使用するための道具として、発明に係る一部のステップのみに用いられているだけであるから、単にコンピュータを用いていることを表明しているにすぎず、全体としては自然法則を利用しているとはいえない。
また、請求項13〜24に係る発明は、前記人為的な取決めのみに基づいたプログラム構築手法の各ステップを単に機能手段として記載した程度で、ハードウェア資源をどのように用いているか特定しているとはいえないから、自然法則を利用しているとはいえない。
したがって、本願請求項1〜24に係る発明は、特許法第29条第1項柱書きの「発明」の要件を満たしていないので特許を受けることができない。」

(2)当審の判断

(2.1)36条第5項1号について
イ.備考欄(1)について
本願図面第4図と、発明の詳細な説明の第4図に関連する記載から、「プロジェクトコンポーネント(411)」あるいは、「構築コンポーネント(412)」が、「データベース(41)」に格納されることが理解される。しかしながら、この「データベース(41)」が「メモリ内」に存在することは、発明の詳細な説明の記載から読み取ることはできない。
また、明細書第24頁第7行〜第8行の、「コンポーネントは名前つきプロパティ(named properties)の集まりから構成されている。」という記載にもあるように、本願明細書におけるプロパティはコンポーネントの構成要素であって、コンポーネントの外に該コンポーネントに「関連するプロパティ」が存在することは、発明の詳細な説明の記載から読み取ることはできない。
よって、請求項1〜12に係る、「(a)前記各コンポーネントおよびそれらの関連するプロパティを前記コンピュータシステムのメモリ内にストアするステップ」は、発明の詳細な説明及び図面に記載した事項ではない。
ロ.備考欄(3)について
順序付けに関する記載として発明の詳細な説明には、第8頁第18行〜第21行の、「構築メカニズムは、コンパイラから得た従属関係と一緒にコンポーネントのプロパティを使用して、構築プロセス期間にコンポーネントのコンパイルを正しくかつ効率よく順序づける。」、及び、同第11頁第12行〜第14行の、「構築メカニズムは、すべてのインタフェースがどのインプリメンテーションよりも前にコンパイルされるように、コンパイルを順序づける。」があるが、これらの記載は「コンパイル」処理そのものを順序づけするものであり、「コンパイルされたもの」を順序付けすることは、発明の詳細な説明の記載から読み取ることはできない。
よって、請求項1〜24に係る発明において、「構築プロセス期間に」あるいは、「構築メカニズム」が、「コンパイルされたものを順序付ける」ことは、発明の詳細な説明及び図面に記載した事項ではない。
ハ.備考欄(4)について
明細書第26頁第1行〜第8行目の、「プロジェクト・コンポーネント(Project Component) プロジェクトはChangeListとErrorListプロパティを更に持つコンポーネントである。ChangeListプロパティは参照リストである。参照は、最後の構築以降に変更されたコンポーネントとプロパティを記述している。実際には、ChangeListは、プログラム構築を効率化するために、なんらかの方法でストアされた2つ以上のリストで表されている。」、および明細書第32頁第24行〜第35頁第18行の、「編集した変更の登録方法」の欄の記載から、「コンポーネント変更リスト」とは、本願実施例における「InterfaceChangeList」および「ImplementationChangeList」で表される「ChangeList」であると解される。
しかしながら、この「InterfaceChangeList」および「ImplementationChangeList」の更新は、前記明細書第32頁第24行〜第35頁第18行の記載から見て、編集時に行われるものであり、請求項5〜8が引用する請求項1でいう「構築プロセス期間」に行うものであることは、発明の詳細な説明の記載から読み取ることはできない。
よって、請求項5〜8に係る発明において、ステップ(c)すなわち構築プロセス期間に、「コンパイルすることが必要なコンポーネントをコンポーネント変更リスト上に配置すること」は、発明の詳細な説明に記載した事項ではない。

よって、本願特許請求の範囲の記載は、請求項1〜24に係る発明について特許法第36条第5項1項に規定する要件を満たしていない。

(2.2)36条第4項について
コンポーネント間の従属性を表す情報として、発明の詳細な説明では、第27頁第15行〜第28頁第2行にClientsとSourceRefereceのプロパティについての記載がある。しかし、これらのプロパティは「コンパイル期間に計算」するものであるとはされていない。
また、この他にコンポーネント間の従属性に関すると考えられる記載として、明細書第46頁第4行〜第50頁第2行にGetDeclarationなる関数についての記載がある。しかし、この関数が具体的にどのような処理を行うのかについて発明の詳細な説明には記載がない。
そして、これらの記載以外の発明の詳細な説明全体を考慮しても、請求項1あるいは12に記載され、また請求項2〜11,13〜24で引用される「各コンポーネントの前記ソースコードのコンパイル期間に、前記ストアされた各コンポーネントの間の従属関係を計算する」ことについて具体的開示がなく、実施方法が不明である。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが容易にその実施をすることができる程度に、請求項1〜24に係る発明の構成が記載されておらず、特許法第36条第4項の要件を満たしていない。

(2.3)29条柱書について
請求項1〜12に係る発明は、コンポーネント間の関係に基づいてコンパイルを行うプログラム構築手法に係るものであるが、当該構築手法自体は人為的な取決めのみに基づいたものである。また、当該構築手法を実現するにあたり、「メモリ」を用いているものの、当該「メモリ」は、特定の情報を格納して使用するための道具として、発明に係る一部のステップのみに用いられているだけであるから、単にコンピュータを用いていることを表明しているにすぎない。そして、請求項1に記載され、請求項2〜12で引用される、「(b)各コンポーネントの前記ソースコードのコンパイル期間に、前記ストアされた各コンポーネントの間の従属関係を計算するステップ」と、「(c)前記コンポーネントプロパティおよびステップ(b)において計算された前記従属関係を使用して、構築プロセス期間に、前記ストアされたコンポーネントの前記コンパイルされたものを順序付けるステップ」については、処理内容が処理手段とどのように協働しているのかが具体的でない。従って、請求項1〜12に係る発明はソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されていないので、自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく、特許法でいう「発明」に該当しない。
また、請求項13〜24に係る発明は、前記人為的な取決めのみに基づいたプログラム構築手法の各ステップを単に機能手段として記載した程度で、例えば請求項13に記載され、請求項14〜24で引用される、「各コンポーネントの前記ソースコードのコンパイル期間に、前記ストアされた各コンポーネントの間の従属関係を計算する」処理と、「前記コンポーネントプロパティおよび前記コンパイラにより計算された従属関係を使用して、構築プロセス期間に、前記ストアされたコンポーネントの前記コンパイルされたものを順序付ける」処理について、処理内容が処理手段とどのように協働しているのかが具体的でない。従って、請求項13〜24に係る発明はソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されていないので、自然法則を利用した技術的思想の創作ではなく、特許法でいう「発明」に該当しない。
よって、本願請求項1〜24に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので特許を受けることができない。

(3)結び
以上の通りであるから、本願発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので特許を受けることができない。また、本特許出願は特許法第36条第4項第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていないので、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-28 
結審通知日 2005-12-02 
審決日 2005-12-13 
出願番号 特願平7-502765
審決分類 P 1 8・ 1- Z (G06F)
P 1 8・ 531- Z (G06F)
P 1 8・ 534- Z (G06F)
P 1 8・ 561- Z (G06F)
P 1 8・ 572- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 毅  
特許庁審判長 井関 守三
特許庁審判官 成瀬 博之
橋本 正弘
発明の名称 プログラムコンポーネントの従属関係の動的計算を用いてコンピュータ・プログラムを構築する方法及び装置  
代理人 阿部 和夫  
代理人 谷 義一  
復代理人 窪田 郁大  

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