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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05B
管理番号 1135460
審判番号 不服2004-12292  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-16 
確定日 2006-04-27 
事件の表示 平成 7年特許願第 49945号「等価回路参照型制御装置と制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 9月27日出願公開、特開平 8-249008〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成7年3月9日の出願であって、平成16年1月14日付けで手続補正がなされたところ、同年5月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月16日に審判請求がなされるとともに、同年7月5日に手続補正がなされたものである。

第2.平成16年7月5日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成16年7月5日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
平成16年7月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、

「制御対象とする物理系に入力するアナログ値を制御することによって、その物理系のアナログ値の出力値を制御する方法において、
その物理系に入力するアナログ入力値とそのときのアナログ値の出力値を多数回測定してその物理系のパラメータを測定する処理と、
その測定処理で測定されたパラメータと等価の電気パラメータを算出する処理と、
その電気パラメータを備えた部品を用いて等価電気回路を制作する処理とを予め実施しておき、
ついで実際制御時には、制御対象物理系に入力するアナログ入力値と同一の値のアナログ入力値を等価電気回路にも入力して制御対象物理系と等価電気回路を同時並行的に制御し、その状態における前記制御対象物理系のアナログ値の出力値と前記等価電気回路のアナログ値の参照値を比較し続ける処理を実行することを特徴とする等価回路参照型制御方法。」
と補正された。

上記補正は、補正前の請求項2に記載した発明を特定する事項である「実際制御時」の「処理」について「制御対象物理系と等価電気回路を同時並行的に制御し」との限定を付加するものであって、平成6年改正前特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に適合するか)について以下検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用した特開昭52-134981号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。
ア.「1.演算制御部の出力を受けて作動されるプラントの状態量をフィードバック信号として前記演算制御部へ帰還するような制御装置において、プラント入力を入力して、定常状態における前記フィードバック信号を推定するプラントモデル、該モデルと実際のフィードバック信号との偏差Lを求める偏差計算器、該偏差計算器出力を入力として異常を判定する判定器とを附加し、前記判定器は、偏差Lについて予め設定された複数のレベルL1,L2,……LK…LN(L1>L2>…>LK>…LN)及び各レベルごとに設定された許容継続時間T1,T2,……TK…TN(T1<T2<…<TK<…<TN)の関係において、偏差があるレベルを越え、かつこのレベルのときの許容継続時間以上継続するときに異常を判定することを特徴とする制御装置異常検知装置。」(特許請求の範囲)

イ.「本発明は制御装置の故障検知装置にかかわり、特に2信号の偏差をもとに制御装置が異常か否かを判定する装置に関する。
第1図において、制御装置5の演算制御部1からの操作信号6は、操作端2を駆動し、プラント3の状態を変化させ検出器4の出力信号9として演計制御部1にフィードバックされる。この装置において操作端2または検出器4に何らかの異常が発生した場合、操作信号6(または操作端位置7)に対し、検出器出力9は正常な応答を示さなくなるというひとつの故障パターンがある。この種の故障の検知するために、従来つぎの手法がとられていた。すなわち、第2図に示すように、操作信号6(または操作端位置7)を故障検知装置12に入力し、プラントモデル20において検出器4の出力信号9に対応するプラント模擬量10を求め、検出器出力9とプラント模擬量10の偏差、偏差計算器15で監視し、この偏差が定められた規定値を超過した場合に異常検知信号11を出力し、操作端2または検出器4が異常であると判定していた。しかし、この方式によれば実信号9と模擬信号10の偏差により異常判定を行なうため、状態が変化した場合、つまり、過渡時にも信号9と信号10の偏差が小さくなければならず、従ってプラントモデル20はプラント動特性をも模擬した厳密なモデルでなければならない。このためモデルのパラメータ調整が非常に煩雑で困難であった。」(第1頁右下欄第1行〜第2頁左上欄第8行)

ウ.「本発明においては第3図のようにプラントモデル20を静特性モデルとし、操作信号6(または操作端位置7)に対応する量10を求める。そして10と、検出器出力9との偏差量Lを偏差計算器15で求め、・・・偏差判定器13は操作端2または検出端4を異常と判定するものである。」(第2頁左上欄第13行〜右上欄第3行)

エ.第3図には、演算制御部1の出力を受けて作動されるプラント3の状態量をフィードバック信号として演算制御部1へ帰還する制御方法及びかかる制御方法における異常検知方法が示されるとともに、プラントモデル20には、プラント3に入力される操作端信号7と同一の信号が入力されることが示されている。

これらの記載及び図面を参照すると、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「演算制御部1の出力を受けて作動されるプラント3の状態量をフィードバック信号として前記演算制御部1へ帰還する制御方法において、
プラント入力を入力して、定常状態にある前記フィードバック信号を推定するプラントモデル20を備え、
プラント3に入力する操作端信号7と同一の信号をプラントモデル20にも入力し、その状態における前記プラント3の出力信号9と前記プラントモデル20のプラント模擬量10を比較する処理を実行する制御方法における異常検知方法。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用した特開昭54-59576号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の記載がある。
ア.「本発明の基本的構成を第1図によって説明する。模擬要素2に供試伝達要素1の入力信号を印加し、模擬要素2の出力信号と供試伝達要素1の出力信号とを比較要素3の入力信号として印加する。このように構成すると、模擬要素2の出力信号は(1)式で表わされる。
Y2(S)=G2(S)・X(S)・・・・・・(1)
ここに、Y2は模擬要素2の出力信号、Xは供試伝達要素1の入力信号、G2は模擬要素2の伝達関数、Sはラプラス演算子を表わす。一方、供試伝達要素1の出力信号は(2)式で表わされる。
Y1(S)=G1(S)・X(S)・・・・・・(2)
ここに、Y1は供試伝達要素1の出力信号、G1は供試伝達要素1の伝達関数である。
模擬要素2の伝達関数G2を供試伝達要素1の正常時の伝達関数と等しく調整しておけば、供試伝達要素1の出力信号Y1と模擬要素2の出力信号Y2とは供試伝達要素1の入力信号Xのいかなる変化に対しても、互に等しいことが(1)式及び(2)式からわかる。もし、供試伝達要素1の伝達特性が変化すると、出力信号Y1と出力信号Y2とは異るので、これを比較要素3によって検出することによって供試伝達要素1の伝達特性の変化を検出することができる。」(第2頁左上欄第12行〜右上欄第15行)

イ.「供試伝達要素1とほぼ等しい伝達特性を有する模擬要素2を構成し、上記のように調整する技術は、アナログシミュレーション技術又はディジタルシミュレーション技術として制御技術者には広く知られており、容易に実現できる。比較要素3としては、2個の入力信号の差や商を求め、その値を基準値と比較して2個の入力信号の間に差異が生じたことを検出すればよく、これらをアナログ技術又はディジタル技術で実施する基本的技術は広く知られている。」(第2頁右上欄第16〜左下欄第5行)

3.対比
本願補正発明と上記引用発明とを対比すると、その作用・機能からみて、後者における「プラント3」が前者の「制御対象物理系」に相当し、同様に、「制御方法における異常検知方法」が「等価回路参照型制御方法」に相当する。
また、本願補正発明の「等価電気回路」と引用発明の「プラントモデル20」とは制御対象物理系を模擬するモデルという概念で共通するとともに、本願補正発明の「ついで実際制御時には、制御対象物理系に入力するアナログ入力値と同一の値のアナログ入力値を等価電気回路にも入力して制御対象物理系と等価電気回路を同時並行的に制御し、その状態における前記制御対象物理系のアナログ値の出力値と前記等価電気回路のアナログ値の参照値を比較し続ける処理を実行する」ことと引用発明の「プラント3に入力する操作端信号7と同一の信号をプラントモデル20にも入力し、その状態における前記プラント3の出力信号9と前記プラントモデル20のプラント模擬量10を比較する処理を実行する」こととは、制御対象物理系に入力するアナログ入力値と同一の値のアナログ入力値をモデルにも入力し、その状態における制御対象物理系の出力値とモデルの参照値を比較する処理を実行するという概念で共通する。
さらに、引用発明のプラント3はその状態量、すなわち、アナログの変量が制御されるものであり、フィードバックのためにプラント3に加える操作端信号7がアナログ変量であることも当然のことであるから、引用発明の「演算制御部1の出力を受けて作動されるプラント3の状態量をフィードバック信号として前記演算制御部1へ帰還する制御方法」は、本願補正発明の「制御対象とする物理系に入力するアナログ値を制御することによって、その物理系のアナログ値の出力値を制御する方法」に相当するとともに、引用発明の「操作端信号7」は、本願補正発明の「アナログ入力値」に相当する。

したがって、両者は、
「制御対象とする物理系に入力するアナログ値を制御することによって、その物理系のアナログ値の出力値を制御する方法において、
制御対象物理系を模擬するモデルを備え、
制御対象物理系に入力するアナログ入力値と同一の値のアナログ入力値を前記モデルにも入力し、その状態における前記制御対象物理系の出力値と前記モデルの参照値を比較する処理を実行する等価回路参照型制御方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
制御対象物理系を模擬するモデルに関して、本願補正発明においては、「等価電気回路」であり、「その物理系に入力するアナログ入力値とそのときのアナログ値の出力値を多数回測定してその物理系のパラメータを測定する処理と、その測定処理で測定されたパラメータと等価の電気パラメータを算出する処理と、その電気パラメータを備えた部品を用いて等価電気回路を制作する処理とを予め実施してお」くものであるのに対し、引用発明においてモデルはプラントモデルであり、等価電気回路を製作するための一連の処理を実施していない点。
[相違点2]
制御対象物理系の出力値とモデルの参照値を比較することに関して、本願補正発明は、制御対象物理系の「アナログ値」の出力値と等価電気回路の「アナログ値」の参照値を比較するものであるのに対し、引用発明の「出力信号9」、「プラント模擬量10」がアナログ値であるかどうかは不明である点。
[相違点3]
制御対象物理系に入力するアナログ入力値と同一の値のアナログ入力値を前記モデルにも入力し、その状態における前記制御対象物理系の出力値と前記モデルの参照値を比較する処理に関して、本願補正発明は、「実際制御時」に「制御対象物理系と等価電気回路を同時並行的に制御」するものであり、「制御対象物理系のアナログ値の出力値と等価電気回路のアナログ値の参照値を比較し続ける」ものであるのに対し、引用発明はかかる態様に関して明確にされていない点。

4.判断
(1)[相違点1]について
物理系の制御や解析等のために、等価電気回路にてモデル化することは、例えば、特開昭62-265450号公報、特開平1-197799号公報に記載されているように周知技術であり、引用発明において、制御対象物理系のモデルとして周知技術のような等価電気回路を採用することは、当業者にとって格別のことではない。
また、制御方法において、制御対象の伝達関数等のパラメータとモデルの伝達関数等のパラメータを等しく調整することは、例えば、引用例2に記載されているように普通に行われている事項であるところ、引用発明において、モデルとして等価電気回路を採用すれば、その制御対象とする物理系に入力するアナログ入力値とそのときのアナログ値の出力値を多数回測定してその物理系のパラメータを測定する処理と、その測定処理で測定されたパラメータと等価の電気パラメータを算出する処理と、その電気パラメータを備えた部品を用いて等価電気回路を制作する処理を予め実施することは、当業者が適宜なし得ることである。

(2)[相違点2]について
制御方法において、アナログシミュレーション技術や2個の入力信号の差や商を求め、その値を基準値と比較して2個の入力信号の間に差が生じたことを検出するアナログ技術が当業者に広く知られていることは、引用例2にも記載されているところ、引用発明において、モデルとして上記周知技術のような等価電気回路を採用すれば、制御対象物理系と等価電気回路とはいずれもアナログ値を出力するものであるから、プラントの出力信号とプラントモデルのプラント模擬量の比較をA/D変換器等を介すことなく、アナログ値にて行い得ることは当業者にとって明らかである。

(3)[相違点3]について
引用例1の第1頁右下欄第4〜11行には、「第1図において、制御装置5の演算制御部1からの操作信号6は、操作端2を駆動し、プラント3の状態を変化させ検出器4の出力信号9として演計制御部1にフィードバックされる。この装置において操作端2または検出器4に何らかの異常が発生した場合、操作信号6(または操作端位置7)に対し、検出器出力9は正常な応答を示さなくなるというひとつの故障パターンがある。」との記載があり、引用発明が、実際制御時における異常の検出を前提としていることは明らかであるから、引用発明が、実際制御時に異常の検出のための比較対象となるモデルを同時並行的に制御し、制御対象物理系の出力値とモデルの参照値を比較し続けるものであると解しても何ら不自然ではない。

(4)本願補正発明を全体として検討しても、引用例1、2に記載された発明及び周知技術から予測される以上の格別の効果を奏するものとも認められない。

したがって、本願補正発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する平成6年改正前特許法第126条第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項の規定で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成16年7月5日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし2に係る発明は、平成16年1月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「制御対象とする物理系に入力するアナログ値を制御することによって、その物理系のアナログ値の出力値を制御する方法において、
その物理系に入力するアナログ入力値とそのときのアナログ値の出力値を多数回測定してその物理系のパラメータを測定する処理と、
その測定処理で測定されたパラメータと等価の電気パラメータを算出する処理と、
その電気パラメータを備えた部品を用いて等価電気回路を制作する処理とを予め実施しておき、
ついで実際制御時には、制御対象物理系に入力するアナログ入力値と同一の値のアナログ入力値を等価電気回路にも入力し、その状態における前記制御対象物理系のアナログ値の出力値と前記等価電気回路のアナログ値の参照値を比較し続ける処理を実行することを特徴とする等価回路参照型制御方法。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用した引用例、及びその記載事項は前記「第2.2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2.」で検討した本願補正発明から「制御対象物理系と等価電気回路を同時並行的に制御し」との限定事項を省くものである。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2.4.」に記載したとおり、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-02-23 
結審通知日 2006-02-28 
審決日 2006-03-13 
出願番号 特願平7-49945
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05B)
P 1 8・ 575- Z (G05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 一浩梶本 直樹  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 高木 進
佐々木 芳枝
発明の名称 等価回路参照型制御装置と制御方法  
代理人 岡田 英彦  
代理人 岡田 英彦  

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