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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1135583
審判番号 不服2004-7601  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-07-12 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-15 
確定日 2006-04-28 
事件の表示 平成6年特許願第335746号「半導体ウェハの欠陥低減法」拒絶査定不服審判事件〔平成8年7月12日出願公開、特開平8-181149〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件は、平成6年12月21日の出願であって、平成16年3月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年4月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年5月17日付けで手続補正がなされ、その後、平成17年4月22日付けで審尋がなされ、同年6月13日に回答書が提出されたものである。

2.平成16年5月17日付けの手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成16年5月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)平成16年5月17日付けの手続補正の内容
平成16年5月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成16年1月19日付けで補正された特許請求の範囲を次のとおりに補正するともに、発明の詳細な説明の欄を補正するものである。
「 【請求項1】
第1の熱処理により半導体ウエハの内部に酸素析出核を形成する工程と、
前記第1の熱処理の後、前記半導体ウエハの表面層に水素を10keVの加速エネルギーでイオン注入する工程と、
前記イオン注入の後、前記半導体ウエハにアルゴンガス雰囲気中1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、イオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程と
を含む半導体ウエハの欠陥低減法。
【請求項2】 前記イオン注入する工程では前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層に水素を10keVの加速エネルギーでそれぞれ注入し、前記第2の熱処理を施す工程ではイオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層をそれぞれ無欠陥層に変化させる請求項1記載の半導体ウエハの欠陥低減法。」

(2)本件補正についての検討
(2-1)補正事項の整理
[補正事項1]
補正前の請求項1の「水素をイオン注入する」を、「水素を10keVの加速エネルギーでイオン注入する」と補正する。
[補正事項2]
補正前の請求項2の「前記イオン注入する工程では、10keV以上の加速エネルギーで水素のイオン注入を行なう」を、「前記イオン注入する工程では前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層に水素を10keVの加速エネルギーでそれぞれ注入し、前記第2の熱処理を施す工程ではイオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層をそれぞれ無欠陥層に変化させる」と補正する。
[補正事項3]
補正前の請求項3を削除する。
[補正事項4]
明細書の0008段落、0009段落及び0012段落を補正する。

(2-2)補正の目的の適否、新規事項の有無について
[補正事項1]
補正事項1は、水素をイオン注入する際の加速エネルギーの大きさを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、本件の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の0012段落には、「半導体ウエハ10の一方の主表面に水素をイオン注入する。このときのイオン注入条件は、加速エネルギーを10KeV以上・・・にすることができる。」と記載されているから、補正事項1についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
[補正事項2]
補正事項2は、実質的に、水素イオンを注入する際の加速エネルギーを「10keV以上」から「10keV」に限定するとともに、水素イオンを注入する「半導体ウエハの表面層」が「前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層」であり、これにより、「前記第2の熱処理を施す工程ではイオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層をそれぞれ無欠陥層に変化させる」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、当初明細書等の0012段落には、「水素イオンの注入は、必要に応じてウエハ10の両方の主表面に行なってもよい。」と記載されており、半導体ウエハの両方(一方及び他方)の主表面に水素イオンが注入されれば、第2の熱処理において、半導体ウエハの両方(一方及び他方)の主表面の表面層がそれぞれ無欠陥層に変化することは明らかであるから、補正事項2についての補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
[補正事項3]
補正事項3は、請求項の削除を目的とするものである。
[補正事項4]
補正事項4は、補正事項1に整合させて発明の詳細な説明の欄を補正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定される事項を目的とするものであり、同条第2項において準用する同法第17条第2項の規定に適合するものである。

(2-3)独立特許要件について
(2-3-1)本件補正後の発明
本件補正後の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ、「本件補正発明1」及び「本件補正発明2」という。)は、上記2.(1)に示したとおりのものである。

(2-3-2)引用例
[引用例1]
原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願前に頒布された刊行物である特開昭60-247935号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
「半導体ウェハを500〜900℃で0.5 〜16時間熱処理した後、水素ガス又は水素含有不活性ガス中において1000℃以上の高温で熱処理することを特徴とする半導体ウェハの製造方法。」(特許請求の範囲)
「シリコンウェハ11を650〜700℃で数時間熱処理し、酸素析出核12、…を形成した。・・・つづいて、シリコンウェハ11を、水素含有不活性ガスを 2〜230 l/min の流量で流している還元雰囲気中において1100℃以上の温度で熱処理した。この結果・・・ウエハ11表面に無欠陥層13、13が、ウェハ11内部に微小欠陥14、…が形成された」(第2頁左下欄第16行〜同頁右下欄第7行)

以上の事項によれば、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「500〜900℃で0.5 〜16時間の熱処理により半導体ウェハに酸素析出核を形成し、
前記熱処理の後、前記半導体ウェハを水素ガス又は水素含有不活性ガス中において1000℃以上の高温で熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を、前記半導体ウェハ内部に微小欠陥を形成することを特徴とする半導体ウェハの製造方法。」

[引用例2]
原査定の拒絶の理由に引用された、本件の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-271942号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「水素イオン・・・をシリコン単結晶・・・に注入した後、・・・希ガスを含む雰囲気の中で500℃から1400℃・・・の範囲で熱処理してなるシリコン表面の欠陥低減方法。」(特許請求の範囲)
「従来の技術
水素を用いてシリコン表面を改質しようとする試みはH2雰囲気中、950℃以上で10分間熱処理する事により行われている・・・950℃以上でアニールしたものは、表面に発生する欠陥が殆んどなく・・・この原因はH2アニールにより表面の酸素濃度が低くなっているからである。
発明が解決しようとする問題点
従来例に用いているH2中での高温アニール法は、水素純ガスを850℃以上という高温で用いるため、危険性が高く」(第1頁左下欄第16行〜同頁右下欄第18行)
「作 用
シリコン表面層への水素導入をイオン注入によって行うため、低温で処理が出来、爆発等の危険は無い、又イオン注入は注入イオンの濃度,深さ分布を完全に制御出来るので、所望の範囲の低欠陥シリコン層を得る事が出来る。又、イオン注入後の熱処理は・・・希ガス雰囲気中で行われるため、特に危険性はなく、又特別の設備を要さない。」(第2頁左上欄第12行〜第20行)
「シリコン基板2の表面2aに、水素イオンビームをシリコン基板2に含まれている酸素濃度に匹敵する量(・・・例えば30keV〜200keVの範囲・・・)の水素イオン注入を行う。」(第2頁右上欄第第9行〜第13行)
「注入された水素は、不純物としてOを含むシリコン中では主にOH-Si結合を形成し、この結合は後の高温熱処理によりH-Siの部分が切れ、OHがSi中と外方へ拡散し、水素の注入された層6中の酸素濃度が減少する。」(第2頁左下欄第4行〜第8行)

(2-3-3)対比・判断
本件補正発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「500〜900℃で0.5 〜16時間の熱処理により半導体ウェハに酸素析出核を形成」することは、本件補正発明1の「第1の熱処理により半導体ウエハの内部に酸素析出核を形成する工程」に相当する。
また、引用発明の「前記熱処理の後、」「1000℃以上の高温で熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を、前記半導体ウェハ内部に微小欠陥を形成すること」は、本件補正発明1の「前記第1の熱処理の後、」「前記半導体ウエハに」「1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、」「前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程」に相当する。
さらに、引用発明の「半導体ウェハの製造方法」は、「半導体ウェハ表面に無欠陥層を」「形成する」、すなわち、半導体ウェハの「欠陥」を低減するものであるから、本件補正発明1の「半導体ウエハの欠陥低減法」に相当する。

よって、本件補正発明1と引用発明とは、
「第1の熱処理により半導体ウエハの内部に酸素析出核を形成する工程と、
前記第1の熱処理の後、前記半導体ウエハに1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程と
を含む半導体ウエハの欠陥低減法。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点]
本件補正発明1においては、
「前記第1の熱処理の後、前記半導体ウエハの表面層に水素を10keVの加速エネルギーでイオン注入する工程と、
前記イオン注入の後、前記半導体ウエハにアルゴンガス雰囲気中1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、イオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程」を有しているのに対して、
引用発明においては、
「前記熱処理の後、前記半導体ウェハを水素ガス又は水素含有不活性ガス中において1000℃以上の高温で熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を、前記半導体ウェハ内部に微小欠陥を形成する」点。

以下、相違点について検討する。
上記の相違点は、実質的に、本件補正発明1と引用発明のいずれもが、微小欠陥及び無欠陥層を形成するための熱処理を「水素」が存在する状態の下で行っているが、本件補正発明1においては、「前記半導体ウエハの表面層に水素を10keVの加速エネルギーでイオン注入」し、「前記半導体ウエハにアルゴンガス雰囲気中」で「熱処理を施すことにより、」「イオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる」のに対して、引用発明においては、「前記半導体ウェハを水素ガス又は水素含有不活性ガス中において」「熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を」「形成する」というものである。

そこで検討すると、引用例2には、水素が存在する状態の下で低欠陥シリコン層を得るための熱処理を行う際に、H2中での高温アニール法では危険性が高いために、これに代えて、シリコン表面層への水素導入をイオン注入によって行うというシリコン表面の欠陥低減方法が開示されており、また、「注入された水素は、不純物としてOを含むシリコン中では主にOH-Si結合を形成し、この結合は後の高温熱処理によりH-Siの部分が切れ、OHがSi中と外方へ拡散し、水素の注入された層6中の酸素濃度が減少する。」(第2頁左下欄第4行〜第8行)との記載によれば、引用例2に記載されたシリコン表面の欠陥低減方法においても、注入された水素の還元作用を利用して半導体ウエハの表面層から酸素を外方拡散させ、無欠陥層を形成していることは明らかである。
そして、引用例2には、水素イオン注入後の熱処理を希ガス雰囲気中で行うことも記載されており、本件補正発明1の「アルゴン」は、当該技術分野において、希ガスとして普通に用いられているものであるとともに、本件補正発明1において、アルゴンを選択したことによる格別の効果も認められない。
さらに、引用例2に記載されたシリコン表面の欠陥低減方法において、具体的な実施例としては、水素イオン注入の加速エネルギーとして「30keV〜200keV」があげられているが、「イオン注入は注入イオンの濃度,深さ分布を完全に制御出来るので、所望の範囲の低欠陥シリコン層を得る事が出来る。」(第2頁左上欄第15行〜第17行)と記載されているように、加速エネルギーの大きさ、すなわち水素イオンを注入する深さは、得ようとする低欠陥シリコン層の深さに応じて当業者が適宜設定し得る単なる設計的事項にすぎず、本件補正発明1において加速エネルギーを「10keV」とした点にも何ら臨界的意義は認められない。

したがって、引用発明において、工程中の安全性を高めるために、引用例2に記載された水素導入をイオン注入によって行うという技術を用い、加速エネルギーの大きさ及び熱処理時の希ガス雰囲気の種類を適宜設定して、本件補正発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たものであるから、本件補正発明1は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

次に、本件補正発明2について検討する。
本件補正発明2は、本件補正発明1を、「前記イオン注入する工程では前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層に水素を10keVの加速エネルギーでそれぞれ注入し、前記第2の熱処理を施す工程ではイオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層をそれぞれ無欠陥層に変化させる」点で限定したものである。

よって、本件補正発明2と引用発明とは、
「第1の熱処理により半導体ウエハの内部に酸素析出核を形成する工程と、
前記第1の熱処理の後、前記半導体ウエハに1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程と
を含む半導体ウエハの欠陥低減法。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点]
本件補正発明2においては、
「前記第1の熱処理の後、前記半導体ウエハの表面層に水素を10keVの加速エネルギーでイオン注入する工程と、
前記イオン注入の後、前記半導体ウエハにアルゴンガス雰囲気中1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、イオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程」を有し、「前記イオン注入する工程では前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層に水素を10keVの加速エネルギーでそれぞれ注入し、前記第2の熱処理を施す工程ではイオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層をそれぞれ無欠陥層に変化させる」のに対して、
引用発明においては、
「前記熱処理の後、前記半導体ウェハを水素ガス又は水素含有不活性ガス中において1000℃以上の高温で熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を、前記半導体ウェハ内部に微小欠陥を形成する」点。

以下、相違点について検討する。
上記の相違点は、実質的に、
本件補正発明2と引用発明のいずれもが、微小欠陥及び無欠陥層を形成するための熱処理を「水素」が存在する状態の下で行っているが、本件補正発明2においては、「前記半導体ウエハの表面層に水素を10keVの加速エネルギーでイオン注入」し、「前記半導体ウエハにアルゴンガス雰囲気中」で「熱処理を施すことにより、」「イオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる」のに対して、引用発明においては、「前記半導体ウェハを水素ガス又は水素含有不活性ガス中において」「熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を」「形成する」点(相違点1)と、
本件補正発明2においては、「前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層をそれぞれ無欠陥層に変化させる」のに対して、引用発明においては、「前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を」「形成する」点(相違点2)、とに分けられる。

上記相違点1について、本件補正発明1と引用発明との対比において相違点として検討したと同様の理由により、引用発明に、引用例2に記載された水素導入をイオン注入によって行うという技術を用い、希ガスとしてアルゴンを選択することは、当業者が適宜なし得た事項である。

また、上記相違点2について、集積回路等の構成において、半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層のそれぞれにデバイスを設けることは、特開昭51-77078号公報及び特開昭60-111450号公報にも記載されているように、当該技術分野における周知の技術的事項であり、このように半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層のそれぞれにデバイスを設ける際には、半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層のそれぞれを無欠陥層とする必要があることは、当業者にとって自明の事項である。
そして、本件補正発明2の「前記半導体ウエハの一方及び他方の主表面の表面層をそれぞれ無欠陥層に変化させる」点に関しては、本件明細書の0012段落に「水素イオンの注入は、必要に応じてウエハ10の両方の主面に行なってもよい」との記載があるのみで、この点に何ら格別の技術的意味は認められないから、引用発明において、半導体ウェハの一方及び他方の主表面の表面層のそれぞれにデバイスを設けるべく、半導体ウェハの一方及び他方の主表面の表面層をそれぞれ無欠陥層に変化させるようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得た事項にすぎない。

したがって、本件補正発明2は、引用例1及び2に記載された発明並びに周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-4)本件補正についての検討のむすび
上記(2-3)のとおりであるから、本件補正発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないので、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。
よって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本件発明について
(3-1)本件発明の認定
平成16年5月17日付けの手続補正は、上記2.のとおり却下されたので、本件の請求項に係る発明は、平成16年1月19日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
「第1の熱処理により半導体ウエハの内部に酸素析出核を形成する工程と、
前記第1の熱処理の後、前記半導体ウエハの表面層に水素をイオン注入する工程と、
前記イオン注入の後、前記半導体ウエハにアルゴンガス雰囲気中1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、イオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程と
を含む半導体ウエハの欠陥低減法。」

(3-2)引用例
前出の引用例1及び2には、上記2.(2-3-2)に示したとおりの事項が記載され、引用例1には前記引用発明が記載されている。

(3-3)対比・判断
本件発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「500〜900℃で0.5 〜16時間の熱処理により半導体ウェハに酸素析出核を形成」することは、本件発明の「第1の熱処理により半導体ウエハの内部に酸素析出核を形成する工程」に相当する。
また、引用発明の「前記熱処理の後、」「1000℃以上の高温で熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を、前記半導体ウェハ内部に微小欠陥を形成すること」は、本件発明の「前記第1の熱処理の後、」「前記半導体ウエハに」「1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、」「前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程」に相当する。
さらに、引用発明の「半導体ウェハの製造方法」は、「半導体ウェハ表面に無欠陥層を」「形成する」、すなわち、半導体ウェハの「欠陥」を低減するものであるから、本件発明の「半導体ウエハの欠陥低減法」に相当する。

よって、本件発明と引用発明とは、
「第1の熱処理により半導体ウエハの内部に酸素析出核を形成する工程と、
前記第1の熱処理の後、前記半導体ウエハに1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程と
を含む半導体ウエハの欠陥低減法。」
である点で一致し、次の点で相違している。

[相違点]
本件発明においては、
「前記第1の熱処理の後、前記半導体ウエハの表面層に水素をイオン注入する工程と、
前記イオン注入の後、前記半導体ウエハにアルゴンガス雰囲気中1000℃以上の温度で第2の熱処理を施すことにより、前記半導体ウエハの内部に微小欠陥を成長させると共に、イオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる工程」を有しているのに対して、
引用発明においては、
「前記熱処理の後、前記半導体ウェハを水素ガス又は水素含有不活性ガス中において1000℃以上の高温で熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を、前記半導体ウェハ内部に微小欠陥を形成する」点。

以下、相違点について検討する。
上記の相違点は、実質的に、本件発明と引用発明のいずれもが、微小欠陥及び無欠陥層を形成するための熱処理を「水素」が存在する状態の下で行っているが、本件発明においては、「前記半導体ウエハの表面層に水素をイオン注入」し、「前記半導体ウエハにアルゴンガス雰囲気中」で「熱処理を施すことにより、」「イオン注入された水素の還元作用を利用して前記半導体ウエハの表面層を無欠陥層に変化させる」のに対して、引用発明においては、「前記半導体ウェハを水素ガス又は水素含有不活性ガス中において」「熱処理し、前記半導体ウェハ表面に無欠陥層を」「形成する」というものである。

そこで検討すると、引用例2には、水素が存在する状態の下で低欠陥シリコン層を得るための熱処理を行う際に、H2中での高温アニール法では危険性が高いために、これに代えて、シリコン表面層への水素導入をイオン注入によって行うというシリコン表面の欠陥低減方法が開示されており、また、「注入された水素は、不純物としてOを含むシリコン中では主にOH-Si結合を形成し、この結合は後の高温熱処理によりH-Siの部分が切れ、OHがSi中と外方へ拡散し、水素の注入された層6中の酸素濃度が減少する。」(第2頁左下欄第4行〜第8行)との記載によれば、引用例2に記載されたシリコン表面の欠陥低減方法においても、注入された水素の還元作用を利用して半導体ウエハの表面層から酸素を外方拡散させ、無欠陥層を形成していることは明らかである。
そして、引用例2には、水素イオン注入後の熱処理を希ガス雰囲気中で行うことも記載されており、本件発明の「アルゴン」は、当該技術分野において、希ガスとして普通に用いられているものであるとともに、本件発明において、アルゴンを選択したことによる格別の効果も認められない。

したがって、引用発明において、工程中の安全性を高めるために、引用例2の水素導入をイオン注入によって行うという技術を用い、熱処理時の希ガス雰囲気の種類を適宜選択して、本件発明の構成を得ることは、当業者が容易になし得たものである。

4.むすび
以上のとおり、本件発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本件は、請求項2及び3に係る発明について検討をするまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおりに審決する。
 
審理終結日 2006-02-16 
結審通知日 2006-02-21 
審決日 2006-03-07 
出願番号 特願平6-335746
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 綿引 隆  
特許庁審判長 河合 章
特許庁審判官 今井 拓也
瀧内 健夫
発明の名称 半導体ウェハの欠陥低減法  
代理人 伊沢 敏昭  

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