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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200335136 審決 特許
無効2010800100 審決 特許
無効200335239 審決 特許
無効200480218 審決 特許
無効200580005 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) A61K
審判 全部無効 発明同一 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) A61K
管理番号 1135737
審判番号 無効2002-35476  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-13 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-10-31 
確定日 2006-05-22 
事件の表示 上記当事者間の特許第3271650号発明「重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3271650号の請求項1〜12に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3271650号の請求項1〜12に係る発明についての出願は、平成7年10月26日に特許出願され、平成14年1月25日にその発明についての特許の設定登録がされたものである。
これに対して株式会社大塚製薬工場から平成14年10月31日に無効審判の請求がされ、平成14年12月10日付けで請求書の副本の送達及び当審の職権による無効理由の通知がされ、その応答期間内である平成15年2月12日に答弁書及び訂正請求書が提出され、その後、訂正拒絶理由が通知され、平成15年9月11日付けで意見書が提出されたものである。

II.請求人の主張及び職権審理による無効理由の概要

1)請求人の主張の概要
請求人は、甲第1〜12号証及び参考資料1,3〜6を提出し、本件特許の請求項1〜12に係る発明は、本件特許出願の日前に特許出願され、特許出願後に出願公開された特願平6-333407号の願書に最初に添付された明細書及び図面に記載された発明(甲第1号証に記載の発明)と同一であるから、本件特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものであると主張している。

2)職権審理による無効理由の概要
本件特許の請求項1〜12に係る発明は、本出願前に頒布された刊行物A〜Eに記載の発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものであるから、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。

III.被請求人の主張
被請求人は、乙第1〜4号証、参考文献1,2及び資料1を提出し、訂正は適法であり、訂正された明細書の請求項1〜10に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一ではなく、また、刊行物A〜Eに記載の発明から当業者が容易に発明し得るものではないので、本件特許には無効理由は存在しないと主張している。

IV.訂正請求について

1.訂正の内容
本件訂正の内容は、平成15年2月12日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書の通り、すなわち別紙添付の訂正事項a〜yの通りである。

2.訂正の適否
1)訂正事項c,d,i,jについて
訂正事項c,d,i,jの中、「配合製剤」を「輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤」と訂正する点は、用途限定したものであり、また、炭酸ガスが封入されたヘッドスペースあるいは空間部のガス雰囲気を「(但し、・・・実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く)」と訂正する点は、訂正前に炭酸ガス雰囲気中の気体成分について何ら限定がされていなかったのを「実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く」ものに限定したものであるから、これらの訂正は特許法第134条第2項第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、次に、これらが願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであるかを検討する。

1)-1.訂正事項c、iについて
訂正事項c、i中の、炭酸ガスが封入されたヘッドスペースのガス雰囲気についての「実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く」との訂正は、「実質的に酸素が存在するガス雰囲気である」ことと同義であるから、本件特許明細書に炭酸ガス雰囲気に実質的に酸素が存在することが記載されていたかどうかについて検討すると、本件特許明細書の、「この瓶のヘッドスペース(HS)部分・・を下記表2で示す濃度の炭酸ガスで置換した」(段落0030)、「この瓶のヘッドスペース(HS)部分・・を下記表3で示す濃度の炭酸ガスで置換した」(段落0034)との記載から、本件発明のヘッドスペースのガス雰囲気は、炭酸ガス100%あるいは、種々濃度の炭酸ガスを含む混合ガスにより置換されて生じたものである。しかし、混合炭酸ガスを用いる場合に、炭酸ガスと組み合わせて使用されるガスが何であるかについて、特許明細書にはまったく記載がない。
炭酸ガスと混合されるガスとしては、通常、空気の他に窒素等の不活性ガスが考えられるところ、ヘッドスペース等に導入される炭酸ガス中に特定のガスを存在させる場合には、例えば、後述の刊行物B(特開昭50-111223号公報)の例1の「二酸化炭素と窒素」(10頁左上欄、9〜12行)、刊行物E(特開平5-261141号公報)の実施例1の「炭酸ガス/空気の混合ガス」(4頁右欄)のように炭酸ガス以外のガス成分が明記されている。してみると、明細書に、封入する混合ガス中の炭酸ガス以外のガスの種類について全く記載されていない場合に、炭酸ガスとともに使用されるガスが酸素含有ガスであることが技術常識であるということはできない。また、被請求人の指摘する乙第3,4号証にも、封入される混合ガスに酸素(空気)が存在していたとする根拠は見あたらず、かかる訂正は、封入するガスとして酸素(空気)の存在を必須とする新たな技術的要素を導入することに他ならない。

したがって、ヘッドスペース等に封入される混合炭酸ガスが酸素を含むものであることを規定する本訂正は、明細書に記載した事項の範囲内のものとはいえない。

この点に関し、被請求人は、通常実験室には空気が存在しており、本件特許明細書の各実施例として容器のヘッドスペースに空気(これには酸素が含まれている)が存在する実験例が記載されているから、訂正事項c,iは、明細書の実施例に記載した事項の範囲内の訂正である旨主張するが、本件発明では、ヘッドスペースにもともと存在していた実験室の空気は混合炭酸ガスに置換されてしまうのであるから、被請求人の主張は採用できない。

請求人は、訂正事項c、iが先行技術との重複部分を除く訂正に相当するとも主張しているが、甲第1号証には、ガス不透過性の容器のヘッドスペースについては何ら記載されておらず、訂正事項c、iが“先行技術との重複部分を除く訂正”にも該当しないことは明らかである。

1)-2.訂正事項d、jについて
訂正事項d,jは、本件特許発明の製剤あるいは製剤の製造方法において、炭酸ガスが封入された包材と容器との空間部のガス雰囲気を「(但し、該空間部が実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く)」と訂正するものである。この訂正は、本件発明における製剤の空間部の炭酸ガス雰囲気に実質的に酸素が存在することを規定するものであるが、1)-1で述べたとおり、炭酸混合ガスで置換された後の空間部の炭酸ガス雰囲気に実質的に酸素が存在することは、本件特許明細書には、何ら記載されていない。

被請求人は、通常実験室には空気が存在しており、ガス置換後であっても、少なくともガス透過性容器のヘッドスペースには実験室の空気が存在するとも主張する。しかしながら、本件特許明細書の記載からは、溶液充填後にガス透過性容器のヘッドスペースがどれほど残されるのか明らかではないし、たとえ、溶液充填後にヘッドスペース部分が生じ、そこに存在していた実験室の空気が空間部に拡散するとしても、その結果空間部のガス雰囲気が実質的に酸素が存在する雰囲気になることが明らかであるとはいえない。

してみると、空間部に存在する炭酸ガス雰囲気が実質的に酸素を含むものであることを規定する本訂正は、明細書に記載した事項の範囲内のものとはいえない。

2)訂正事項e〜h,k,1,は、いずれも訂正事項c、d、i、jを含む請求項を引用する請求項の記載部分であるから、同様の理由により明細書に記載した事項の範囲内の訂正とはいえない。

3)訂正事項q,rは、特許請求の範囲についての訂正事項c〜mの訂正に伴い、「発明の詳細な説明」について「特許請求の範囲」の記載との整合性を図るためになされた訂正であるが、訂正事項c〜lと同様に、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。

したがって、その他の訂正事項について検討するまでもなく、訂正事項c〜l,q,rを含む本件訂正は、特許法第134条第5項において準用する特許法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

V.本件特許発明
前述の通り、訂正は認められないので、本件特許発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された次の通りのものである。
(以下、各請求項に係る発明をそれぞれ「本発明1」・・・「本発明12」という。)

【請求項1】 重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有せず、炭酸ガスによってpH調整され、CO2分圧が50〜300mmHgである溶液からなることを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合液剤。
【請求項2】 重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有せず、炭酸ガスによってpH調整され、CO2分圧が50〜300mmHgである溶液が充填されたガス不透過性容器からなる製剤であり、該容器のヘッドスペ-スの炭酸ガス濃度が5〜35v/v%であることを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤。
【請求項3】 ガス不透過性2次包材で包装されたガス透過性プラスチック容器からなり、重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有せず、炭酸ガスによってpH調整され、CO2分圧が50〜300mmHgである溶液が充填された前記容器からなる製剤であって、前記包材と前記容器との空間部の炭酸ガス濃度が5〜35v/v%であることを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤。
【請求項4】 CO2分圧が70〜250mmHgである請求項1〜3のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤。
【請求項5】 前記金属イオンが、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤。
【請求項6】 前記クエン酸イオン源が、クエン酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤。
【請求項7】 前記重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤が、微粒子を含むことを許さない注射剤レベルである液剤又は製剤であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤。
【請求項8】 重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有しない水溶液を調製し、該水溶液のpHを炭酸ガスを用いて7.4以下に調整した後、加熱滅菌することを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合液剤の製造方法。
【請求項9】 重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有しない水溶液を調製し、該水溶液に炭酸ガスをバブリングして該水溶液のpHを7.4以下に調整した後、ガス不透過性容器に充填し、該容器のヘッドスペ-スに5〜35v/v%の炭酸ガスを封入し、加熱滅菌することを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤の製造方法。
【請求項10】 重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有しない水溶液を調製し、該水溶液に炭酸ガスをバブリングして該水溶液のpHを7.4以下に調整した後、ガス透過性プラスチック容器に充填し、該容器をガス不透過性2次包材で包装し、前記容器と前記包材との空間部に5〜35v/v%の炭酸ガスを封入し、加熱滅菌することを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤の製造方法。
【請求項11】 前記重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有しない水溶液を調製する手段として、重炭酸イオンを除く他のイオンを含む水溶液を調製し、該水溶液をアルカリでpH調整した後、重炭酸イオンを配合することを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤の製造方法。
【請求項12】 前記金属イオンが、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンであることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤の製造方法。

VI.当審の判断

1.特許法第29条の2について

(1)甲第1〜4号証の記載の概要

(1-1)甲第1号証:特願平6-333407号の願書に最初に添付した明細書及び図面(特開平8-164185号公報参照)
炭酸水素塩含有薬液入りプラスチック容器の収納体の発明について以下の記載がある。
a.「表1に示した各成分を常温で蒸留水に溶解し、溶液中に炭酸ガスを吹き込んでpHを6.8に調整後、この溶液を孔径0.22μmのメンブランフイルターで濾過した。これをポリエチレン製のプラスチック容器に500mlずつ充填し、常法にしたがって高圧蒸気滅菌を行った。冷却後、前記薬液入りプラスチック容器を脱酸素剤及び酸素検知剤と共に包装材(エチレンビニルアルコ-ル共重合体などからなる多層フィルム)に収納し、包装材との空間部を炭酸ガスと窒素ガスとの混合ガス(15:85)により置換し、ヒ-トシ-ルで密封することにより炭酸水素塩含有薬液入りプラスチック容器の収納体を製造した。
表1
成分 濃度(g/L)
塩化ナトリウム 6.55
塩化カリウム 0.30
グルコン酸カルシウム・H2O 0.67
硫酸マグネシウム・7H2O 0.25
炭酸水素ナトリウム 2.52
クエン酸・H2O 0.21」(実施例1)

b.表2中の第2行目には、実施例1で製造した薬液のpH初期値が7.08であることが、また、表3には、初期値が7.05であり、1ヶ月保存後が7.10であることが記載されている。

c.「前記電解質としては、・・・例えば、・・・クエン酸ナトリウム・・等をあげることができる。」(【0008】)

d.甲第1号証の【0006】には、使用される薬液が「輸液処方」として組成される場合について記載され、また、【0014】には、適用が効果的な例として「電解質輸液剤」が記載されている。

(1-2)甲第2号証:特開昭56-86115号公報
カルシウム及びマグネシウムイオンを含み、炭酸水素及びクエン酸イオンが添加された人工房水の製造に際し、pH調整剤として一般にナトリウム等の水酸化物、炭酸塩類が使用されることが記載されている。(特許請求の範囲及び2頁右上欄6〜9行)

(1-3)甲第3号証:特開平7-188037号
カルシウムイオンとマグネシウムイオンと重炭酸イオンを含む局所用生理的眼科用配合物の調製に際し、すべての成分の混合物に水酸化ナトリウムを添加して混合物のpHを調整できることが記載されている。(特許請求の範囲及び4頁5欄10〜13行)

(1-4)甲第4号証:実験成績証明書(平成14年9月3日 住吉信昭 作成)
甲第1号証の実施例1に記載の製造法に従い製造した製剤3検体について、各一回pHとCO2分圧を測定したところ、再現製剤は平均してpH7.037,CO2分圧97.4mmHgであったことが記載されている。

(2)対比・判断
1)本発明1,8に対して
甲第1号証の実施例1には、グルコン酸カルシウム・H2O、硫酸マグネシウム・7H2O、炭酸水素ナトリウム、クエン酸・H2Oを含有する成分を蒸留水に溶解し、溶液中に炭酸ガスを吹き込んでpHを6.8に調整後、ポリエチレン製のプラスチック容器に充填し、常法にしたがって高圧蒸気滅菌を行い、冷却後、前記薬液入りプラスチック容器を包装材に収納し、包装材との空間部を炭酸ガスと窒素ガスとの混合ガス(15:85)により置換し、ヒ-トシ-ルで密封することにより炭酸水素塩含有薬液入りプラスチック容器の収納体を製造した具体例が記載されている。(記載事項a)
そこで、本発明1と上記薬液の発明(以下「先願発明」という)を対比すると、両者は、
「重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成するカルシウムイオン及びマグネシウムイオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有せず、炭酸ガスによってpH調整された溶液からなることを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合液剤」
である点で一致し、
前者においては、「溶液のCO2分圧が50〜300mmHgである」のに対し、先願発明には、溶液のCO2分圧についての記載がない点で一応相違する。

上記相違点について検討すると、本件特許明細書で本発明の液剤の安定なpHの範囲とされている値7.4〜6.5(50〜300mmHg)と、先願明細書の実施例1で、炭酸水素ナトリウム2.52g/lを配合して得られた薬液のpH7.08とは重複している(記載事項b)。また、甲第4号証の実験結果によれば、先願明細書の実施例1の薬液は、平均してCO2分圧97.4mmHgであるから、本発明1の薬液のCO2分圧の範囲にあることは明らかである。(なお、この点は、被請求人も答弁書の5頁6〜8行において認めている。)
してみると、上記相違点は、CO2分圧の記載の有無という形式上の差異にすぎず、実質的な相違点ではないから、本発明1は、先願発明と同一である。

さらに、先願明細書の実施例1で薬液は、炭酸ガスを吹き込んでpH6.8に調整された後、ポリエチレン製のプラスチック容器に充填され、加熱滅菌がなされているから、本発明1の液剤の製法に関する本発明8と先願発明の製造方法とに、差異はない。したがって、本発明8は先願発明の製造方法と同一である。

2)本発明2に対して
先願明細書には、炭酸水素塩含有薬液について、本発明2の特定事項である「ガス不透過性容器からなる製剤」とする点の記載はない。したがって、本発明2を先願発明と同一とすることはできない。

3)本発明3に対して
本発明3は、本発明1における溶液が、「ガス不透過性2次包材で包装されたガス透過性プラスチック容器」に充填された「前記容器からなる製剤であって、前記包材と前記容器との空間部の炭酸ガス濃度が5〜35v/v%であることを特徴とする製剤」に関するものである。
1)で述べたとおり、先願明細書の実施例1にはこの溶液が記載されており、薬液はポリエチレン製のプラスチック容器に充填され、さらに、包装材に収納され、包装材との空間部を炭酸ガスと窒素ガスとの混合ガス(15:85)により置換されて、ヒ-トシ-ルで密封されて収納体からなる製剤とされている(記載事項a)。上記先願明細書の実施例1における「ポリエチレン製のプラスチック容器」は、本発明3の「ガス透過性プラスチック容器」に該当することは、先願明細書の【0012】の記載から明らかであり、また、「包装材」が「ガス不透過性」であることも、同段落の記載から明らかであるから、本発明3と先願明細書の実施例1に記載された薬液入り収納体に関する発明には差異はない。
したがって、本発明3は先願明細書に記載された発明と同一である。

4)本発明4に対して
本発明4は、本発明1において、液剤のCO2分圧を更に限定したものであるが、1)で記載したとおり、先願明細書の実施例の液剤は、本発明4におけるCO2分圧と重複するから、上記1)で記載したとおりの理由により、本発明4は先願発明と同一である。

5)本発明5に対して
本発明5は、本発明1における「重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成するイオン」が「カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオン」であることを規定するものであるが、当該イオンは、上記1)で記載したとおり先願明細書に記載されている。したがって、本発明5は先願発明と同一である。

6)本発明6に係る発明に対して
本発明6は、本発明1のクエン酸イオン源をクエン酸ナトリウムに限定するものであるが、先願明細書ではクエン酸イオンを与える電解質としてクエン酸ナトリウムが例示されている。(記載事項c)
したがって本発明6は、1)で記載したと同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一である。

7)本発明7に対して
本発明7は、本発明1の液剤が微粒子を含むことを許さない注射剤レベルであることを規定するものであるが、先願明細書に記載の製剤又は液剤は輸液として使用されるもの(記載事項d)であり、注射剤レベルであることは明らかであるから、本発明7は、1)で記載したと同様の理由により先願明細書に記載された発明と同一である。

8)本発明9〜11に対して
本発明9の、水溶液をガス透過性容器に充填する点、
本発明10の、加熱滅菌を炭酸ガス封入後に行う点、
本発明11の、重炭酸イオンの配合を水溶液をアルカリでpH調整した後に行う点、
については、先願明細書には記載されていない。
従って、本発明9〜11が先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

9)本発明12に対して
本発明12は、本発明8における「重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成するイオン」が「カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオン」であることを規定するものであるが、当該イオンは、上記1)で記載したとおり先願明細書に記載されている。したがって、本発明12は先願明細書に記載の発明と同一である。


2.特許法第29条第2項について

(1)刊行物A〜Eの記載の概要

(1-1)刊行物A:特開平7-188037号公報(無効審判請求人・株式会社大塚製薬工場の提出する甲第3号証)
a.「a)約11から約25mmol/lの間の濃度のカリウムイオンと、b)約0.2から約0.5mmol/lの間の濃度のカルシウムイオンと、c)約0.15から約0.45mmol/lの間の濃度のマグネシウムイオンと、d)約1から約36mmol/lの間の濃度の重炭酸イオンとから成る局所用生理的眼科用配合物。」(【請求項1】)

b.「配合物のpHは、無菌二酸化炭素を用い反応器の内容物を混合しつつ、希望のpH値(5.6〜7.9)に調整する。」(【0011】)

c.「(実施例1)・・・
反応容器中で、・・・塩化カルシウム、塩化マグネシウム、・・・を、熱精製水約750l中に溶解させ、・・・生成溶液pHは約8.1である。反応容器の頂部は二酸化炭素を使って・・・加圧し、溶液を2時間混合する。この時点で溶液pHは約6.0まで低減する。生成物を単位投与量容器に充填し、箔製パウチ内に密封したのちの溶液pHは6.8-7.2に高まり一定値を示す。」(【0017】、【0018】)

(1-2)刊行物B:特開昭50-111223号公報
a.「(a)滅菌した水中にこの水1lあたり.ナトリウムイオン約75〜150ミリモル、カリウムイオン約5〜50ミリモル、炭酸水素イオン約5〜50ミリモルおよび塩素イオン約75〜150ミリモルを溶解して浸透圧約170〜460オスモルそしてpH値約6〜8.5の溶液を作り、
(b)得られた溶液中の平衡作用によりその溶液中に作られる二酸化炭素の分圧に実質的に等しい圧力で前記溶液上に二酸化炭素分圧を与えるような量の二酸化炭素を含む、二酸化炭素とその他の不活性気体との混合物で、前記溶液を覆って安定化し、
(c)こうして混合気体で覆った状態のまま、そして前記溶液とこれを覆う前記混合気体とを密封したまま、前記溶液を少くとも1個の滅菌した容器に分配することから成る、注入できる水溶液の製法。(特許請求の範囲)

b.「本発明は重炭酸塩イオンを含む治療剤溶液のpHおよび滲透性の新規な制御法に関する。」(1頁右下欄7〜9行)

c.「とくに本発明の1実施例では、・・・HCO3-・・Mg++またはCa++或はこれ等両者と・・とを含む・・・治療剤のpHを、この溶液の上方にこの溶液内のpHを約25℃ないし約50℃の範囲内の温度で約6ないし約8.5の範囲に保つ量で混合気内部に存在する炭酸ガスと別の不活性ガスとの混合気から成るガス状ブランケツトを保持することにより、約6ないし約8.5の範囲内に保つ方法にある。
なお本発明によれば、始めに殺菌水容積(溶液の誤記と認められる。)を用意し、次で溶液中に重炭酸塩を含むイオンを含む水溶性塩を溶解し、次に得られる溶液に溶液温度においてこの溶液の平衡から生ずる分圧にほぼ等しい分圧を溶液上に生ずる量で混合気内部に存在する炭酸ガスと窒素のような不活性ガスとの混合気でこの溶液にブランケツトを形成し、この溶液をかきまぜその中の全部の水溶性塩が確実に充分に溶解するようにすることから成る、所定量の重炭酸イオン溶液を含む水溶性治療剤を作る新規な方法が得られる。安定した溶液は次で前記のガス状混合物で前以って洗った細菌発熱物質を含まない容器内に分与し、次で前記のガス状混合物でおおい密封する。この安定化溶液は前記のガス状混合物によりブランケツトを生成する間に普通の方法で殺菌できる。」(3頁左下欄13行〜4頁左上欄1行)

d.「本発明の好適とする実施例によればこの溶液はこれを細菌性発熱物質を含まない容器内に分与する前に直径が1μ以下の多孔を含む隔膜フィルタを通すことによりろ過する。
なお本発明によれば、液相として溶液を持ちまた容器内部に密封した保護ブランケツト気相として前記のガス状混合物を持つ容器から成り、重炭酸塩イオンを含む水性治療剤用の新規な輸送分与容器が得られる。
本発明の範囲内で作った治療剤は・・・非経口的に服用することができる。本発明により作った治療剤は血球外水(BCW)の平均滲透性に関係的に等滲透圧を持つのがよく・・。さらに好適とする非経口的溶液は全身体系統にとくに心臓と循環流体、肺腎臓、胃腸管および脳とに機能的減衰をなくす。」(4頁左上欄1〜18行)

e.「さらに本治療剤のpHは約6.0ないし約8.5の範囲にできなるべくは7.0ないし8.0の範囲なおなるべくは7.0ないし7.6の範囲内にある。」(4頁左下欄7〜9行)

f.「本発明により得られる溶液の例は殺菌水に・・塩化カリウム、硫酸マグネシウム、・・および重炭酸ナトリウムを加えることによって作る。他の塩を溶解した後に水に重炭酸ナトリウムを加えるのがよい。・・・この添加順序により塩化マグネシウムのようなマグネシウム塩とたとえば炭酸マグネシウムの沈殿を生成する重炭酸イオンとの間の望ましくない反応を防ぐ。」(5頁左上欄17行〜同右上欄8行)

g.「ガス状保護ブランケツトは溶液中の重炭酸塩の平衡条件から通常生ずる溶液からの炭酸ガスの損耗を防ぐのに充分な炭酸ガスを含む。要するに炭酸ガスはガス状混合物中に、混合温度で溶液内の重炭酸塩の平衡から生ずる分圧にほぼ等しい分圧を液体上に生ずる量で存在する.
とくに炭酸ガスは約25ないし約50℃の範囲の温度(溶液の温度)で約6ないし約8.5の範囲に溶液のpHを保つ量でガス状ブランケツト中に存在する。前記したように本治療剤溶液は約5ないし約50mMol/lの範囲の重炭酸塩イオンを含む。従って約0.0007ないし約0.92の炭酸ガスふん囲気が約6ないし約8.5の範囲のpH内に溶液のpHを保つのに必要である。ガス状ブランケツト内の炭酸ガスの量は簡単な物理化学的計算によつて誘導する。」(5頁右上欄14行〜同左下欄9行)

h.「さらにガス状ブランケツト内に存在する炭酸ガスの相対量を定めるのに本発明の範囲で使うときに治療剤溶液の平衡から生ずる分圧にほぼ等しい分圧という用語は、溶液を生成しこれに炭酸ガスガス状ブランケツトを当てがつた後に最終的に望ましい炭酸ガスの分圧を意味する。
要するにブランケツト内の炭酸ガスの分圧は溶液の始めのpHを安定化するかまたは溶液の最終pHに実際上役立つように調節することができる。
・・・
本発明の範囲内で次の第2表に示すような約300の滲透性を含む好適とする溶液で保護ブランケツトに利用できる種種の量の炭酸ガスの例として第3表のデータを示す。」
(5頁左下欄下から2行〜同右下欄最下行)

i.「第3表
pH CO2Mol ブランケツト(大気圧)内のCO2分圧
6.0 0.011 0.329
・・・
6.5 0.00594 0.179
6.6 0.00505 0.152
6.7 0.00427 0.128
6.8 0.00356 0.107
6.9 0.00295 0.0887
7.0 0.00242 0.0728
7.1 0.00198 0.0596
7.2 0.00161 0.0484
7.3 0.00130 0.0393
7.4 0.00105 0.0315
・・・
8.5 0.000088 0.00266 」(6頁)

j.「殺菌治療剤は当業界には公知の任意適当な容器に分与できる。これ等の容器は・・・注入びんでよい。・・・すなわち当業界には公知の任意の薬物受入れ容器は本発明により作つた治療溶液をびん詰めするのに利用できる。このような容器はすべて気密で1気圧の液体およびガス体を受入れることができる。」(8頁左下欄17行〜同右下欄9行)

k.「例1
・・・
前記溶液を冷却した後、下記の物質を前記の殺菌した水に加える。
塩化ナトリウム 23,576g
塩化カリウム 3,727g
硫酸マグネシウム水和物 4,398g
エデテン酸2ナトリウム 1,785g
・・・
次に、・・・炭酸水素ナトリウムを前記溶液に加えた後、この溶液を0.05気圧のCO2 と0.95気圧の窒素とから成る雰囲気で覆い、配合タンクを密封するこのようにして、二酸化炭素と窒素との比率を1:10から1:20の範囲にする。前記バッチをかきまぜ器で約30分かきまぜ、・・そのpHを調べる。次に、前記溶液を配合タンクから排出し、膜ろ過器(0.22ミクロン孔)2個に通す。・・ろ過物を貯蔵器の中に集め、前記の2酸化炭素-窒素雰囲気で覆う。この貯蔵器は・・・びん詰装置と連結している。・・・これらのびんの中に前記のCO2-N2混合物の安定蒸気を通してプレフラッシュしておく。各びんの中に治療用組成物500mlを入れた後、各びん中の溶液を前記CO2-N2混合物で再び覆い、そしてすぐに密封する。・・さらに、充てん操作からびんのサンプルを一定の時間間隔で取り出し、標準品質調整および有毒性試験を行なう。前記物質は無菌であることがわかる。」(9頁左下欄最下行〜10頁右上欄13行)

m.「例2. 例1における基本工程は、前記水中の溶質の量および前記溶液の製造およびびん詰工程において利用した保護雰囲気中の2酸化炭素の濃度を変えることによって、本発明の範囲にある前記治療用組成物のいかなるものの製造に利用することができる。」(10頁右下欄1〜7行)

n.「第5〜7表に示された溶液は例1における工程に示された覆い工程中の溶液上で用いられる保護覆いにおけるCO2と不活性ガスとの適当な比を維持することによりpHを6〜8.5の適当な値に保つことができる。」(10頁右下欄下から4〜11頁右上欄1行)

(1-3)刊行物C:特開昭56-86115号公報(無効審判請求人・株式会社大塚製薬工場の提出する甲第2号証)
カルシウムおよびマグネシウムイオンを含み、炭酸水素およびクエン酸イオンが添加された人工房水の製造に関するものである刊行物Cの1頁右下欄最下行〜2頁左上欄14行には、クエン酸イオンの添加により炭酸水素イオンとマグネシウムイオンあるいはカルシウムイオンとから形成される沈殿物の生成が完全に防止できることが記載されている。また、実施例1には「クエン酸ナトリウム(2水塩)」を含有する製剤が記載されている。さらに、当該人工房水は、眼内灌流用として使用されるものであると記載されている(1頁左下欄下から6行)。

(1-4)刊行物D:特開昭59-101421号公報
カルシウムイオン、マグネシウムイオン、炭酸水素イオン、クエン酸イオンを含む眼科用灌流液に関する刊行物Dの4頁左下欄2〜6行には、クエン酸イオンがカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンによる白色沈殿生成の防止効果を有していることが記載されている。また、実施例には「クエン酸ナトリウム(2水和物)」を含有する製剤が記載されている。

(1-5)刊行物E:特開平5-261141号公報
a.「炭酸水素イオンを含有する医薬用水溶液をまず気体透過性を有する通常のプラスチック製容器に収容し、通常の高圧蒸気滅菌後に、ガスバリア性を有する包装材で二次包装すると共に、上記容器と包装材との空間部を炭酸ガス雰囲気とする時には、前記目的に合致する水溶液の安定化を図り得、また安定化された水溶液の収容容器が提供できる」(【0009】)
b.「上記容器と包装材との空間部を炭酸ガスを含有するガス雰囲気とするためには、例えば炭酸ガスと空気との混合ガスや炭酸ガスと窒素ガスとの混合ガス等の炭酸ガスを含有する混合ガスを上記空間部に封入する方法が採用できる。・・・例えば上記水溶液として血液濾過用補充液として汎用される、炭酸水素ナトリウム・・を注射用水に溶解させて・・とするのがよい。」(【0021】)
c.「本発明方法に従う、医薬用水溶液の容器への充填、滅菌、包装材による包装、空間部への炭酸ガスの封入等は、通常の注射液の製造方法に従って容易に行なうことができる。」(【0028】)
d.「【実施例1】
炭酸水素ナトリウム8.4g及び塩化ナトリウム2.69gを注射用水に溶解させて全量を1lとした水溶液を調製し、ポリエチレン製容器に充填し、高圧蒸気滅菌後、ガスバリア性包装材に収容し、空間部を真空脱気し、次いで炭酸ガス濃度3%、5%及び7%の各炭酸ガス/空気の混合ガス1lを、上記容器と包装材との空間部に封入して、・・・医薬用水溶液収容容器(二次包装品)を得た。」(【0032】)

(2)対比・判断

1)本発明1に対して
刊行物Bには、カルシウムイオン又はマグネシウムイオン等の電解質および重炭酸イオンを含有し、糖類を含有しない液剤であって、約25ないし約50℃の範囲の温度(溶液の温度)で約6ないし約8.5の範囲に溶液のpHを保つ量で炭酸ガスを含むガス状ブランケットを持つ治療剤が記載されており(記載事項c)、「ガス状保護ブランケットは溶液中の重炭酸塩の平衡条件から通常生ずる溶液からの炭酸ガスの損耗を防ぐのに充分な炭酸ガスを含む。要するに炭酸ガスはガス状混合物中に、混合温度で溶液内の重炭酸塩の平衡から生ずる分圧にほぼ等しい分圧を液体状に生ずる量で存在する。」(記載事項g)、「ガス状ブランケツト内に存在する炭酸ガスの相対量を定めるのに本発明の範囲で使うときに治療剤溶液の平衡から生ずる分圧にほぼ等しい分圧という用語は、溶液を生成しこれに炭酸ガス状ブランケツトを当てがつた後に最終的に望ましい炭酸ガスの分圧を意味する。」(記載事項h)との記載から、刊行物Bにおいては、気体層と液体層とが接触していて平衡状態になっている場合には、気体層と液体層の炭酸ガス分圧は等しくなっていると解される。そして、pHを約6〜約8.5の範囲に保つには、約0.0007気圧〜約0.92気圧(換算すると約0.532mmHg〜約699.2mmHgに相当)の炭酸ガス(二酸化炭素)が必要であることも記載されている(記載事項g)。
刊行物Bにおける炭酸ガスの使用目的は、「重炭酸塩イオンを含む治療剤溶液のpH・・の新規な制御法に関する」(記載事項b)、「要するにブランケツト内の炭酸ガスの分圧は溶液の始めのpHを安定化するかまたは溶液の最終pHに実際上役立つように調節することができる。」(記載事項h)との記載からみて、溶液の「pH調整」であることは明らかである。(なお、 重炭酸イオン含有溶液においてそのpHを炭酸ガスで調整するという技術自体は、例えば刊行物A,Eにも示されるように本出願前から周知である。)
また、第3表には、炭酸ガスでpH調整する例が記載されているが、そのうち、pH6.0〜7.0では、ブランケット(大気圧)内のCO2分圧は、0.329(換算すると250mmHg)〜0.0728(55mmHg)となっており、保護ガスブランケット内の炭酸ガス分圧が、本発明の炭酸ガス分圧と一致するものが具体的に記載されている。そして、上述のように大気中の炭酸ガス分圧は、平衡状態での溶液の炭酸ガス分圧に等しく、また、溶液はガスブランケットで覆ったまま容器に分配され、ブランケット気相を持つ容器とされる(記載事項a,d)のであるから、刊行物Bには、「CO2分圧が50〜300mmHgである溶液」が記載されているものと認められる。

そこで、本発明1と刊行物Bに記載の発明を対比すると、一致点、相違点は以下の通りである。

(一致点)
「重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオンであるカルシウムイオンもしくはマグネシウムイオン,重炭酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有せず、炭酸ガスによってpH調整され、CO2分圧が50〜300mmHgである溶液からなる重炭酸イオン含有無菌性配合液剤。」

<相違点1>
本発明1の液剤はクエン酸イオンを含有するものであるのに対して、刊行物Bに記載の液剤はクエン酸イオンを含有していない点。

以下に、相違点1について検討する。
刊行物Bに、重炭酸イオン含有溶液の調製に際し、重炭酸ナトリウムを他のイオンよりも後に添加することで、他の金属塩と重炭酸イオンとの間の望ましくない反応を防ぐことが記載されている(記載事項f)ように、重炭酸イオン含有溶液に、このイオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオンが存在する場合には、沈殿が生成しないように留意する必要があるのは技術常識である。そして、刊行物Bの液剤と同様に、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含有する重炭酸イオン含有液剤であり、かつ、生体内部に適用されるものである刊行物C,Dの眼科用灌流液において、これらのイオンから形成される沈殿物の生成を抑制するためにクエン酸を添加することが記載されている。
してみると、刊行物Bに記載の液剤にクエン酸イオンを加えて、不溶性炭酸塩沈殿物の生成の防止を図ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

なお、被請求人は、刊行物Bの実施例1、2において、0.05気圧のCO2と0.95気圧の窒素から成る雰囲気で覆われる場合のCO2分圧は38mmHgに過ぎず、本発明の範囲外である旨主張するが、刊行物Bの実施例には、二酸化炭素と窒素との比率を1:10から1:20の範囲にする場合(記載事項k)や、適宜の濃度に変更する場合(記載事項m,n)についても言及されており、第3表及び第4表にも本発明と同程度の二酸化炭素分圧の例が具体的に実施可能に記載されている以上、被請求人の主張は採用できない。

以上述べたとおり、本発明1は、刊行物B〜Dの記載に基づき、当業者が容易になし得たものである。

2)本発明2に対して
本発明2は、本発明1の液剤をガス不透過性容器に充填し、ヘッドスペ-スに封入する炭酸ガス濃度を5〜35v/v%にするものであるが、刊行物Bにおいても同様に気密性の容器を使用し(記載事項j)、そのヘッドスペースに炭酸混合ガスを封入している(記載事項k)から、両者は、上記相違点1および以下の点で相違している。

<相違点2>
本発明2の容器のヘッドスペ-スの炭酸ガス濃度は5〜35v/v%であるのに対して、刊行物Bに記載の発明においては平衡状態に達した最終的な製剤における容器のヘッドスペ-スの炭酸ガス濃度が規定されていない点。
上記相違点1については、上記1)の通りであるので、以下に相違点2について検討する。
前述の通り、刊行物Bの第3表には、平衡状態での製剤の溶液炭酸ガス分圧が本件発明と一致するものが開示されており、また、例1ではタンクを覆うブランケットを本発明で規定されるのと同様、「0.05気圧のCO2 と0.95気圧の窒素とから成る雰囲気(即ち5v%)」あるいは「二酸化炭素と窒素との比率を1:10から1:20の範囲にする(9〜4.8V/V%に相当)」(記載事項k)ことが記載されている。そして、ヘッドスペースの炭酸ガス濃度は、「溶液の製造およびびん詰工程において利用した保護雰囲気の2酸化炭素の濃度をかえることによって、本発明の範囲にある前記治療用組成物のいかなるものの製造に利用することができる」(記載事項m)と記載されているように、当業者が治療剤の具体的な用途に応じて適宜決めうる事項である。そして、本発明の製剤における容器ヘッドスペースの炭酸ガス分圧は、平衡状態では溶液中の炭酸ガス分圧と同じであると解されるから、本発明2と同じ溶液炭酸ガス分圧とすることが刊行物Bに記載されている以上、ヘッドスペースの炭酸ガス濃度を本発明2のように調整することは当業者が容易になし得ることと言わざるを得ない。

従って、本発明2は、刊行物B〜Dの記載に基づき、当業者が容易になし得たものである。

3)本発明3に対して
上記1)及び2)で摘示した点を踏まえて、本発明3と刊行物Bに記載された発明を対比すると、両者は、上記相違点1の他に以下の点で相違している。

<相違点3>
本発明3においては、溶液がガス不透過性2次包材で包装されたガス透過性プラスチック容器に充填され、前記包材と前記容器との空間部の炭酸ガス濃度が5〜35v/v%とされているのに対し、刊行物Bに記載の発明の製剤においては、溶液がガス不透過性容器に充填され、炭酸ガスはガス不透過性容器のヘッドスペ-スに封入されている点。

上記相違点1については、上記1)の通りであるので、以下に相違点3について検討する。
刊行物Bと同様、輸液等生体内に適用される重炭酸イオン含有無菌性配合製剤に関するものである刊行物Eの包装形態に見られるように、本件特許の出願時、輸液製剤の形態として、ガス不透過性容器に充填し、ヘッドスペースに炭酸ガス封入をする形態も、ガス不透過性2次包材で包装されたガス透過性プラスチック容器に充填し、包材と容器との空間部に炭酸ガスを封入する形態も周知であったから、刊行物Bの製剤の形態として後者を採用することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、空間部に封入する炭酸ガス濃度を5〜35v/v%とする点の容易性については、2)の相違点2に対する説明ですでに述べたとおりである。
従って、本発明3は、刊行物B〜Eの記載に基づき、当業者が容易になし得たものである。

4)本発明4に対して
本発明4は、本発明の液剤おけるCO2分圧を「70〜250mmHg」に限定するものであるが、前述の通り刊行物Bには、液剤におけるCO2分圧を上記範囲とする例が第3表に記載されているから、本発明4も上記1)に記載したと同様の理由により、刊行物B〜D記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

5)本発明5に対して
本発明5は、本発明1の液剤における「重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン」が「カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオン」であることを規定するものであるが、前述の通り刊行物Bにおける治療剤はこれらのイオンを含有するものであるから、本発明5も上記1)に記載したと同様の理由により、刊行物B〜Dに記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

6)本発明6に対して
本発明6は、本発明1の液剤における「クエン酸イオン源」が「クエン酸ナトリウム」であることを規定するものであるが、刊行物C,Dの実施例では、クエン酸ナトリウムが使用されている。
したがって、本発明6も上記1)に記載したと同様の理由により、刊行物B〜Dに記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

7)本発明7に対して
本発明7は、本発明1の液剤が「微粒子を含むことを許さない注射剤レベル」であることを規定するものであるが、刊行物Bにおいて、治療剤が多孔フィルタでろ過された「全身体系統にとくに心臓と循環流体、肺腎臓、胃腸管及び脳とに機能的減衰をなくす」ために「非経口的」に服用されるものであることが説明され(記載事項d)、「血球内に移動するよう」にされるものと記載されている(3頁右上欄9行)ことから、微粒子を含むことを許さない注射剤レベルであることは明らかである。
したがって、本発明7も上記1)に記載したと同様の理由により、刊行物B〜Dに記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

8)本発明8に対して
刊行物Bの例1には、殺菌水に塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム水和物等を投入後、かきまぜ、静止した溶液に炭酸水素ナトリウムを加えた後、この溶液の入ったタンクを炭酸ガス雰囲気で覆い密封し更に攪拌しそのpHを調べ、得られた溶液をろ過後、貯蔵器からびんに入れ、各びん中の溶液を前記CO2-N2混合物で再び覆い、そしてすぐに密封して製品とすることが記載されており(記載事項k)、上記1)で記載したとおり、刊行物Bにおいては、水溶液は炭酸ガスによりpH調整されている。
そこで、本発明8と刊行物Bに記載の製造方法を対比すると、一致点、相違点は以下の通りである。

<一致点>
重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有しない水溶液を調製し、該水溶液のpHを炭酸ガスを用いて調整する重炭酸イオン含有無菌性配合液剤の製造方法。

<相違点1>
本発明8では水溶液がクエン酸イオンを含有するものであるのに対して、刊行物Bに記載の製造方法では水溶液がクエン酸イオンを含有していない点。
<相違点4>
本発明8では、炭酸ガスによるpH調整を7.4以下まで行うのに対して、刊行物Bの例1では、どの程度のpHまで行うのか記載されていない点。
<相違点5>
本発明8では、水溶液のpH調整後に加熱滅菌を行うのに対して、刊行物Bに記載の製造方法では、加熱滅菌水を使用し、ろ過することで除菌している点。

ここで、上記相違点について検討すると、相違点1については、1)で指摘したとおり、当業者が容易になし得る事項である。
また、相違点4については、刊行物Bの例1では、炭酸ガス雰囲気下での攪拌後水溶液のpHを調べていること、最終的な治療剤のpHは7.0〜7.6の範囲が好ましい旨記載(記載事項e)され、第3、4表には、刊行物Bに記載の治療剤のpHを7.4以下に調整する場合について記載されているから、前記炭酸ガス雰囲気下での攪拌を本発明で規定されるpH範囲まで行うことは、当業者が容易になし得ることである。
さらに、相違点5については、刊行物Bの9頁左下欄には、治療剤をびん内に分与後オートクレーブにより加熱滅菌処理することが示唆されているから、上記例1に記載の方法において、加熱滅菌を、治療剤をびん内に分与した後(これは、水溶液のpH調整後でもある)に行うことは当業者が適宜なし得ることである。
従って、本発明8は、刊行物B〜Dに記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

9)本発明9に対して
上記1)、2)、8)で摘示した点を踏まえて本発明9と刊行物Bに記載の発明を対比すると、両者は、上記8)で指摘した相違点1、4、5の他に以下の点で相違している。

<相違点6>
本発明9では炭酸ガスによるpH調整を「炭酸ガスをバブリング」することにより行うのに対し、刊行物Bに記載の製造方法では炭酸ガス雰囲気下で攪拌して行っている点。
<相違点7>
本発明9では容器のヘッドスペ-スに5〜35v/v%の炭酸ガスを封入するのに対して、刊行物Bに記載の製造方法ではヘッドスペースに封入する炭酸ガスの濃度を上記範囲とする点について規定されていない点。

上記相違点1、4、5については、上記8)の通りであるので、以下に相違点6、7について検討する。

<相違点6について>
刊行物Bには、炭酸ガスによるpH調整を炭酸ガスをバブリングにより行う点の記載はないが、重炭酸イオン含有水溶液を製造するにあたり、炭酸ガスバブリング(吹き込み)によりpHを調整することは周知である(例えば、特開昭56-164113号公報、特開平6-105905号公報の段落0025の従来技術の記載、特開平6-339512号公報の段落0023の従来技術の記載参照)から、上記の点は、当業者が容易になし得る事項である。

<相違点7について>
すでに、2)で検討した通り、刊行物Bにおいてヘッドスペースに封入される炭酸ガスの濃度は、治療剤溶液を安定化できる範囲で当業者が適宜調整し得るものである。
従って、本発明9は刊行物B〜Dに記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

10)本発明10に対して
上記8)で摘示した点を踏まえて本発明10と刊行物Bに記載の発明を対比すると、両者は、上記相違点1、4、5、6の他に、以下の点で相違している。

<相違点8>
本発明10では、溶液がガス不透過性2次包材で包装されたガス透過性プラスチック容器に充填され、前記包材と前記容器との空間部の炭酸ガス濃度が5〜35v/v%とされているのに対し、刊行物Bに記載の発明の製剤においては、溶液がガス不透過性容器に充填され、炭酸ガスはガス不透過性容器のヘッドスペ-スに封入されている点。
そして、上記相違点1、4、5、6については上記8)、9)の通りであるし、相違点8については、すでに3)で相違点3に対するところで指摘した通り、当業者が容易になし得たものである。
したがって、本発明10は、刊行物B〜Eに記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

11)本発明11に対して
本発明11は、本発明8における水溶液を調製する手段が、「重炭酸イオンを除く他のイオンを含む水溶液を調製し、該水溶液をアルカリでpH調整した後、重炭酸イオンを配合する」ことを規定するものであるが、8)で指摘した通り、刊行物Bの例1では、他の塩を溶解した後に重炭酸ナトリウムを加えている。
そして、本発明11と刊行物Bに記載の発明を対比すると上記8)〜10)で指摘した点及び、以下の点で相違している。

<相違点9>
本発明11では、重炭酸イオンを配合する前に水溶液をアルカリでpH調整するのに対し、刊行物Bに記載の発明の製造方法では特にpH調整を行っていない点。

しかし、重炭酸イオンが酸性条件下では分解しやすいことは自明の事項であるから、他の配合イオンの組成により水溶液が重炭酸イオンの分解しやすい酸性条件になる場合に、予めアルカリでpH調整を行っておくことに格別の創意を認めることができない。
したがって、本発明11は、刊行物B〜Dに記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

12)本発明12に対して
本発明12は、本発明8における「重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成するイオン」が「カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオン」であることを規定するものであるが、8)で指摘したとおり刊行物Bでは、マグネシウムイオンを含有する例が記載されており、8)で指摘したと同様の理由によって、本発明12は刊行物B〜Dに記載の発明から当業者が容易になし得たものである。

なお、上記1)〜12)に対する判断は、被請求人の提出した乙号証や資料、参考資料によって左右されるものではない。

VII.むすび
以上の通りであるから、本件請求項1,3〜8,12に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、また、本件請求項1〜12にかかる特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、本件全請求項に係る特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人の負担とすべきものである。
よって、結論の通り審決する。
 
別掲 (別紙)
<訂正内容>
訂正事項a
[発明の名称]中の「重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤及び」の記載を「重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤、及び、」と訂正する。
訂正事項b
[特許請求の範囲]中の請求項1および請求項8の記載を削除する。
訂正事項c
[特許請求の範囲]の請求項2中末尾の「ヘッドスペースの炭酸ガス濃度が5〜35v/v%であることを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤」を、「ヘッドスペースの炭酸ガス濃度が5〜35v1/v%である(但し、該ヘッドスペースが実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く)ことを特徴とする重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤」と訂正する。
訂正事項d
[特許請求の範囲]の請求項3中末尾の「空間部の炭酸ガス濃度が5〜35v/v%であることを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤」を、「空間部の炭酸ガス濃度が5〜35v/v%である(但し、該空間部が実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く)ことを特徴とする重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤」と訂正する。
訂正事項e
[特許請求の範囲]の請求項4中末尾の「請求項1〜3のいずれかー項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤」を、「請求項1または請求項2に記載の、重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤」と訂正する。
訂正事項f
[特許請求の範囲]の請求項5中末尾の「請求項1〜4のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤」を、「請求項1〜3のいずれか一項に記載の、重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤」と訂正する。
訂正事項g
[特許請求の範囲]の請求項6中末尾の「請求項1〜5のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤」を、「請求項1〜4のいずれか一項に記載の、重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤」と訂正する。
訂正事項h
[特許請求の範囲]の請求項7を、「前記製剤が、微粒子を含むことを許さない、注射剤レベルである製剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の、重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤。」と訂正する。
訂正事項i
[特許請求の範囲]の請求項9中末尾の「ヘッドスペースに5〜35v/v%の炭酸ガスを封入し、加熱滅菌することを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤の製造方法」を、「ヘッドスペースに5〜35v/v%の炭酸ガスを封入し(但し、該ヘッドスペースが実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く)、加熱滅菌することを特徴とする重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤の製造方法」と訂正する。
訂正事項j
[特許請求の範囲]の請求項10中末尾の「空間部に5〜35v/v%の炭酸ガスを封入し、加熱滅菌することを特徴とする重炭酸イオン含有無菌性配合製剤の製造方法」を、「空間部に5〜35v/v%の炭酸ガスを封入し(但し、該空間部が実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く)、加熱滅菌することとを特徴とする重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤の製造方法」と訂正する。
訂正事項k
[特許請求の範囲]の請求項11中の「請求項8〜10のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤の製造方法」を、「請求項7または請求項8に記載の、重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤の製造方法」と訂正する。
訂正事項l
[特許請求の範囲]の請求項12中末尾の「請求項8〜11のいずれか一項に記載の重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤の製造方法」を、「請求項7〜9のいずれか一項に記載の、重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤の製造方法」と訂正する。
訂正事項m
[特許請求の範囲]の請求項2〜7および請求項9〜12を、それぞれ繰り上げて「請求項1〜6」および「請求項7〜10」と訂正する。
訂正事項n
明細書の段落[0001]の「本発明は、・・・重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤及びその製造方法に関する。」を、「本発明は、重炭酸イオン含有の無菌の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤、及び、その製造方法に関し、詳細には、共存により沈殿を形成するために同時配合が不可能である「カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと重炭酸イオン(炭酸水素イオン:HCO3‐)」が少なくとも共存する重炭酸イオン含有の無菌性の上記製剤及びその製造方法に関する。
また、本発明は、特に、人間の体液成分として重要なカルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを重炭酸イオンと共に同時配合した”医療用途に用いる無菌性の輸液製剤、透析液製剤等”に係る重炭酸イオン含有無菌性製剤及びその製造方法に関する。」と訂正する。
訂正事項o
明細書の段落[0007]を、
「本発明は、上記諸問題及び欠点に鑑み成されたものであって、その目的とするところは、
・第1に、共存により沈殿が生成するため、同時配合が不可能であった‘‘カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを重炭酸イオンと共に含む重炭酸イオン含有無菌性製剤及びその製造方法”を提供することにあり、
・第2に、加熱滅菌時に、該熱による重炭酸イオンの分解を抑制し、重炭酸イオン舎量の低下及び液剤pHの経時的な上昇を抑制する重炭酸イオン含有無菌性製剤及びその製造方法を提供することにあり、
・第3に、特に人間の体液成分として重要な“カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを重炭酸イオンと共に同時配合した医療用途に用いる無菌性の輸液製剤,透析液製剤”等を提供することにあり、
・第4に、単に「沈殿が生じない重炭酸イオン含有無菌性製剤」のみならず、微粒子を含むことを許さない、注射剤のレベルにも合格する輪液製剤を提供することにある。」と訂正する。
訂正事項p
明細書の段落[0008]を、
「本発明は、重炭酸イオン含有の鑑菌件の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤および製剤中のCO2分圧に着目したものであって、このCO2分圧を特定(50〜300mmHg)することにより上記目的を達成したものである。」と訂正する。
訂正事項q
明細書の段落[0009]を、
「即ち、本発明に係る重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤は、
・重炭酸イオンと反応して不溶化合物を生成する金属イオン,炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有せず、炭酸ガスによってPH調整され、CO2分圧が50〜300mmHgである溶液が充填されたガス不透過性容器(特にガラス製の容器、例えばバイアル瓶、アンプル等)からなる製剤であり、該容器のヘッドスペースの炭酸ガス濃度が5〜35v/v%である(但し、該ヘッドスペースが実質的に酸素の存在しないガス雰囲気下である場合を除く)こと(請求項1)、
・ガス不透過性2次包材で包装されたガス透過性プラスチック容器からなり、重炭酸イオンルと反応して不溶化合物を生成する金属イオン,炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有せず、炭酸ガスによつてPH調整され、CO2分圧が50〜300mmHgである溶液が充填された上記容器からなる製剤であって、上記包材と容器との空間部の炭酸ガス濃度が5〜35v/v%である(但し、該空間部が実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く)こと(請求項2)、
を特徴とする。
そして、本発明に係る前記製剤の好ましい実施形態としては、前記C02分圧が70〜250mmHgであり(請求項3)、前記金属イオンが、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンであり(請求項4)、前記クエン酸イオン源が、クエン酸ナトリウムであり(請求項5)、前記製剤が、微粒子を含むことを許さない、注射剤レベルである製剤である(請求項6)。」と訂正する。
訂正事項r
明細書の段落[0010]を、
「更に、本発明に係る前記製剤の製造法は、
・重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糠類を含有しない水溶液を調製し、該水溶液に炭酸ガスをバブリングして該水溶液のpHを7.4以下に調整した後、ガス不透過性容器に充填し、該容器のヘッドスペースに5〜35v/v%の炭酸ガスを封入し(但し、該ヘッドスペースが実質的に酸素の存在しないガス雰囲気下である場合を除く)、加熱滅菌すること(請求項7)、
・重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糠類を含有しない水溶液を調製し、該水溶液に炭酸ガスをバブリングして該水溶液のpHを7.4以下に調整した後、ガス透過性プラスチック容器に充填し、該容器をガス不透過性2次包材で包装し、前記容器と前記包材との空間部に5〜35v/v%の炭酸ガスを封入し(但し、該空間が実質的に酸素の存在しないガス雰囲気である場合を除く)、その後加熱滅菌すること(請求項8)、を特徴とする。
そして、本発明に係る前記製造方法の好ましい実施形態としては、前記重炭酸イオンと反応して不溶性化合物を生成する金属イオン,重炭酸イオン,クエン酸イオンを少なくとも含有し、糖類を含有しない水溶液を調製する手段として、重炭酸イオンを除く他のイオンを含む水溶液を調製し、該水溶液をアルカリでPH調整した後、重炭酸イオンを配合する(請求項9)。また、前記金属イオンが、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンである(請求項10)。」と訂正する。
訂正事項s
明細書の段落[0011]中の
「重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤」を、「重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤」と訂正する。
訂正事項t
明細書の段落[0015]中の「本発明に係る重炭酸イオン含有無菌性配合液剤において」を、「本発明に係る前記製剤中の液剤において」と訂正する。
訂正事項u
明細書の段落[0017]中の「即ち、本発明に係る液剤において」を、「即ち、本発明において」と訂正する。
訂正事項v
明細書の段落[0023]中の「ここで、本発明に係る重炭酸イオン含有無菌性配合製剤の製造法」を、「ここで、本発明に係る前記製剤の製造法」と訂正する。
訂正事項w
明細書の段落[0027]中の「次に、本発明の重炭酸イオン含有無菌性配合製剤に係る実施例」を、「次に、本発明の前記製剤に係る実施例」と訂正する。
訂正事項x
明細書の段落[0066]中の「糖類を含有しない重炭酸イオン含有無菌性配合液剤(製剤)であって」を、「糖類を含有しない重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤であって」と訂正する。
訂正事項y
明細書の段落[0067]中の「重炭酸イオン含有無菌性配合液剤(製剤)・・・を提供することができる。」を、「重炭酸イオン含有の無菌性の輸液製剤,濾過型人工腎臓用補充液製剤または腹膜透析液製剤を提供することができ、また、加熱滅菌時に、該熱による重炭酸イオンの分解を抑制し、重炭酸イオン含量の低下及び液剤pHの経時的な上昇を抑制する上記製剤を提供することができる。」と訂正する。
 
審理終結日 2004-03-10 
結審通知日 2004-03-15 
審決日 2004-03-30 
出願番号 特願平7-302140
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (A61K)
P 1 112・ 161- ZB (A61K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 森田 ひとみ
渕野 留香
登録日 2002-01-25 
登録番号 特許第3271650号(P3271650)
発明の名称 重炭酸イオン含有無菌性配合液剤又は製剤及びその製造方法  
代理人 宮越 典明  
代理人 岩谷 龍  
代理人 浅井 八寿夫  

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