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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61F
審判 全部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A61F
管理番号 1136192
異議申立番号 異議2003-71396  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-08-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-26 
確定日 2006-02-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3350080号「人工椎体スペーサ」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3350080号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3350080号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年1月31日に特許出願され、平成14年9月13日にその発明についての特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、特許異議申立人 池上祥子より特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成17年4月14日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正請求について
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)は、平成17年4月14日付け訂正請求書及びそれに添付された訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)の記載からみて、次のとおりのものと認められる。
(1-1)訂正事項a
訂正前の請求項1の「上面」及び「下面」を、それぞれ、「上側主面」及び「下側主面」と訂正する。
(1-2)訂正事項b
訂正前の請求項1の「前記上面と下面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、」を、「前記上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、前記下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、前記上側主面と下側主面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、」と訂正する。
(1-3)訂正事項c
発明の詳細な説明の記載において、訂正前の段落【0006】の「上下の椎体に当接する少なくとも上面と下面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上面と下面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、」との記載を、「上下の椎体に当接する少なくとも上側主面と下側主面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、前記下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、前記上側主面と下側主面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、」と訂正する。
(1-4)訂正事項d
発明の詳細な説明の記載において、訂正前の段落【0008】の「上下の椎体に当接する少なくとも上面1aと下面1bとを備えた多面体であり、この上面1aと下面1bとのなす角度θが14°〜40°であるとともに、該角度が生体内で受ける荷重下で実質的に不変である。」との記載を、「上下の椎体に当接する少なくとも上面(上側主面)1aと下面(下側主面)1bとを備えた多面体である。上面1aは、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、下面1bは、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、この上面1aと下面1bとのなす角度θは、14°〜40°であるとともに、該角度が生体内で受ける荷重下で実質的に不変である。」と訂正する。
(1-5)訂正事項e
発明の詳細な説明の記載において、訂正前の段落【0025】の「上下の椎体に当接する少なくとも上面と下面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上面と下面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、」との記載を、「上下の椎体に当接する少なくとも上側主面と下側主面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、前記下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、前記上側主面と下側主面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、」と訂正する。
(2)本件訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(2-1)訂正事項aについて
訂正事項aに係る訂正は、それぞれ、訂正前の請求項1に記載の発明の人口椎体スペーサの面について、「上面」及び「下面」を、それぞれ「上側主面」及び「下側主面」に変更するものである。
「上側主面」及び「下側主面」のそれぞれについて、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)には、それらの文言自体は、記載されていない。
ところが、特許明細書の段落【0008】には、図1の実施例に関して、「上下の椎体に当接する少なくとも上面1aと下面1bとを備えた多面体であり、」と、段落【0014】には、「実施例2
図3及び図4には、椎体Tの海綿骨内に圧入され脱転防止のためのストッパーとして作用する突起2または2aを上面1aおよび下面1bに備えたスペーサ1、1を示し、図3に示すアルミナ製のスペーサ1は梁状の突起2、2を上面1aと下面1bに一体的に設けており、」と記載されており、図1の実施例では、上面1a及び下面1bは平面形状の表面のみからなることが、図3及び図4の実施例2では、上面1a及び下面1bで示された平面形状の表面以外に突起2または2aからなる突起状の表面を有してなることが示されている。
また、上面と下面のなす角度である14°〜40°については、特許明細書の段落【0008】に、「この上面1aと下面1bとのなす角度θが14°〜40°である」と記載されており、図1(ロ)には、平面形状の表面である上面1aと下面1bとのなす角度が角度θであることが示されている。 してみると、上面と下面は、平面形状の表面を意味していることは、特許明細書の記載から明らかであり、主たる面といえるのは、上記実施例2に示されているような突起2または2aの突起状の表面ではなく、該平面形状の表面であることも特許明細書の記載から明らかであるから、上記「上側主面」及び「下側主面」は、特許明細書又は図面に記載されていたに等しい記載事項といえ、訂正事項aに係る訂正は、特許明細書又は図面に記載されている事項の範囲内においてしたものといえ、新規事項の追加に該当するものではない。
そして、上記実施例2の上記突起2あるいは突起2aの表面は、上記多面体の上面及び下面の表面に含まれるものであるので、上記突起2あるいは突起2aの表面を除外していない訂正前の請求項1の「上面」及び「下面」では、上面と下面のなす角度である14°〜40°を正確に規定することができていないことは明らかであるから、それらを正確に表現しようとする訂正事項aに係る「上側主面」及び「下側主面」とする訂正は、明りょうでない記載の釈明を目的としたものといえる。
また、訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2-2)訂正事項bについて
訂正事項bのうち、訂正前の「上面」及び「下面」を、それぞれ、「上側主面」及び「下側主面」とする訂正については、上記(2-1)で検討したとおり、特許明細書又は図面に記載されている事項の範囲内においてしたものといえる。
また、訂正事項bのうち、「前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面」及び「前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面」の「傾斜した傾斜面」については、特許明細書の図面の図1(ロ)に、人口椎体スペーサに関する実施例の断面図が示されており、上記図1(ロ)に、角度θとともに、補助線である鎖線が示されており、上記鎖線が、「上方に傾斜した傾斜面」及び「下方に傾斜した傾斜面」を示していることは明らかであるから、特許明細書又は図面に記載されている事項の範囲内においてしたものといえる。
さらに、特許明細書の段落【0008】の「脊椎Mの後方部分にロッドRを打ち込むことも行なわれる。」との記載、及び図2の図示内容等から、訂正事項bにおける「後方側」が体の背中側のことであり、その反対側である「前方側」が体の腹側のことであることが理解されるから、訂正事項bの「人工椎体スペーサ」の形状・構造についての方向性を規定する「前方側」及び「後方側」についても、特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものであるといえる。
上記のことから、訂正事項bに係る訂正は、新規事項の追加に該当するものではない。
また、訂正事項bは、「上面」及び「下面」に関連した「なす角度」が、どのような2つの面のなす角度か具体的に明らかでなかったものを、「上側主面」及び「下側主面」が、それぞれ「前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面」及び「前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面」であることを明確にすることによって明らかにしようとするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としたものといえ、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2-3)訂正事項cないしeについて
訂正事項cないしeに係る訂正は、上記訂正事項a及びbと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、本件訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)当審による取消理由の概要
本件請求項1に係る発明は、甲第1号証刊行物(特開昭58-149753号公報)及び甲第2号証刊行物(米国特許第4863477号明細書)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
(2)本件発明
上記2.で説示したとおり、本件訂正は認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
(本件発明)
「脊椎湾曲変形を矯正するため任意の椎体間に装着するべく、上下の椎体に当接する少なくとも上側主面と下側主面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、前記下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、前記上側主面と下側主面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、該角度が生体内で受ける荷重下で実質的に不変であることを特徴とする人工椎体スペーサ。」
(3)引用刊行物に記載された発明
(3-1)甲第1号証刊行物
甲第1号証刊行物には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3-1-1)
「脊椎の椎体間には軟骨からなる椎間板が介在しているが、椎間板ヘルニアその他の症状により、これを除去する場合がある。その際、代替物を設けることが必要である。・・・(中略)・・・本発明は、生体の骨の代りに、椎間板の代用品となる椎体スペーサを提供することを目的とする。」(第1頁左下欄第14行〜右下欄第6行)
(3-1-2)
「この椎体スペーサは、椎間板の代用として、上下の椎体に上下面を対向させて設置されるものであり、設置状態では、上下の面の突部の前方の領域が上下の椎体表面に当接して上下の椎体の間隔を維持するものである。このスペーサは、上下面が後方に向ってくさび状に傾斜しているので、・・・(中略)・・・、設置後におけるスペーサの外れを防止することができる。」(第1頁右下欄第16行〜第2頁左上欄第5行)
(3-1-3)
「図示の椎体スペーサ1は、例えばアルミナセラミックスで形成された略六面体のブロックからなり、ほぼ平行面をなす前面2と後面3にわたって延在する貫通孔4を有している。このブロック状椎体スペーサ1の上面および下面には一側から他側へ延在する凸条5,6がそれぞれ形成されている。凸条5は,ここでは横断面が略三角形の山形に形成されており、凸条6は,横断面外形が半円形その他の丸味のある形状に形成されている。上面,下面の凸条5,6より前方の領域7,8は互にほぼ平行面に形成されており、凸条5,6より後方の領域9,10は後方に向って互いに接近した傾斜面としてくさび状に形成されている。」(第2頁左上欄第16〜右上欄第9行)
上記記載事項から、甲第1号証刊行物には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。

(甲第1号証発明)
「椎間板ヘルニアその他の症状により除去する椎間板の代用として、上下の椎体に上下面を対向させて設置されるアルミナセラミックスで形成された椎体スペーサ1であって、前記椎体スペーサ1は略六面体のブロックからなり、ほぼ平行面をなす前面2と後面3を有し、前記椎体スペーサ1の上面および下面には一側から他側へ延在する凸条5,6がそれぞれ形成されており、前記上面及び下面において、凸条5,6より前方の領域7,8は互にほぼ平行面に形成されており、凸条5,6より後方の領域9,10は後方に向って互いに接近した傾斜面としてくさび状に形成されている椎体スペーサ1。」
(3-2)甲第2号証刊行物
(省略)
4.対比・判断
(1)対比
本件発明と甲第1号証発明とを対比すると、各文言の意味、機能及び構成からみて、後者の「上下の椎体に上下面を対向させて設置される」は、前者の「椎体間に装着するべく、上下の椎体に当接する」に、以下同様に、「椎体スペーサ1」は「人工椎体スペーサ」に、「略六面体のブロック」は「多面体」に相当する。
ここで、後者の椎体スペーサ1は、アルミナセラミックスで形成されたものであるから、「生体内で受ける荷重下で実質的に不変である」ことは明らかであり、後者の「椎体スペーサ1」は、身体の特定の部位に対応するとの限定が付されたものではないから、「任意の」椎体間に装填することができるものである。
また、前者の「上側主面」及び「下側主面」も、後者の「上面」及び「下面」における凸条5,6より後方の領域9,10も、それぞれ「上の面」及び「下の面」という概念で共通する。
さらに、前者の「前方側」及び「後方側」について、上記2.の(2-2)で検討したように、前者では、「後方側」が体の背中側のことであり、「前方側」が体の腹側のことであることが理解され、後者における「前方」及び「後方」も、甲第1号証の記載からみて、同様にそれぞれ、体の腹側、背中側に対応することは明らかであるから、前者の「前方側の端部から後方側の端部に向かって」も後者の「後方に向かって」も、「前方側から後方側に向かって」という概念で共通するといえる。
したがって、両者は、
「任意の椎体間に装着するべく、上下の椎体に当接する少なくとも上の面と下の面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上の面は、前方側から後方側に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、前記下の面は、前方側から後方側に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、生体内で受ける荷重下で実質的に不変であることを特徴とする人工椎体スペーサ。」である点で一致しており、
次の点で相違している。

【相違点】:
人工椎体スペーサの用途に関して、本件発明では、脊椎湾曲変形を矯正するためのものであるのに対して、甲第1号証発明では、椎間板ヘルニアその他の症状に対応するためのものであり、
人工椎体スペーサの上の面及び下の面の傾斜面及び該傾斜面のなす角度に関して、本件発明では、上の面は上側主面、下の面は下側主面であり、上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、上側主面と下側主面とのなす角度が、14°〜40°であるのに対して、甲第1号証発明では、上の面及び下の面は、上面及び下面に形成された凸条5,6より後方の領域9,10であり、上面及び下面には、さらに、凸条5,6及び互にほぼ平行面に形成された凸条5,6より前方の領域を有するとともに、上記凸条5,6より後方の領域の傾斜面のなす角度が、14°〜40°であるか否か明らかでない点。
(2)判断
そこで、上記【相違点】について検討する。
人工椎体スペーサの上の面と下の面の形状として、本件発明の人工椎体スペーサのような形状、すなわち、人工椎体スペーサの前方側端部から後方側端部に向けて上の面と下の面をくさび状の形状にすることは、例えば、特開平1-303148号公報に示されているように本件出願前に周知の技術である。
また、本件発明の上側主面と下側主面とのなす角度の設定の理由について、本件訂正明細書の段落【0012】には、「脊椎湾曲変形は手術適応となる場合、脊椎Mの矯正のために少なくとも25°の矯正が必要であり、また、手術を行う椎体間の数は3つの椎体間までが安全であって、無理に4つの椎体間を手術するのは大きな危険を伴う。スペーサ1が椎体Tの海綿骨内に沈みこんで矯正角度を5°程度ロスすることを予め考慮すると、スペーサ1の上面1aと下面1bが互いにθ<14°の角度で形成されている時は、仮に3つの椎体間に脊椎後彎変形を持つ患者の3つの椎体間にスペーサ1を装填しても必要な矯正角度は得られず、腰痛は多少緩和されるものの腰曲がりを完全には矯正することができない。また、スペーサ1の上面1aと下面1bが互いにθ>40°の角度で形成されている時は、手術後、スペーサ1が身体の前方に滑って脱転してしまう恐れがある。」と記載されている。
上記記載にあるように、脊椎の彎曲変形が25°となれば脊椎の矯正を行うために、脊椎の椎体間に人工椎体スペーサを装填する手術が必要であり、その手術をする場合、人工椎体スペーサの外形、特に人工椎体スペーサの上側主面と下側主面とのなす角度を手術の状況に合わせて調整することは当然であるが、該角度設定に際し、手術の状況に関する、患者の脊椎の彎曲変形の度合い、手術を行う椎体間の数、人工椎体スペーサが椎体の海綿骨内に沈みこんで矯正角度をロスする程度、矯正の効果及び脱転の恐れ等を考慮して適切な値を求めることは、技術常識であるといえる。
上記段落【0012】に記載された理由は、上記技術常識を越える考慮がなされているものとはいえないから、本件発明における上側主面と下側主面とのなす角度「14°〜40°」に格別の技術的意義を認めることはできない。
そうすると、上記周知の技術に基づいて、人工椎体スペーサの上の面と下の面の傾斜面の形状を、上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面とすること、及び、上記技術常識を考慮し、本件発明における上記上側主面と下側主面とのなす角度を必要に応じて、「14°〜40°」に設定することは、当業者であれば、容易に想到し得ることである。
また、人工椎体スペーサの厚さやテーパ等のサイズは、個々の脊椎等に適合するように決定されることも、例えば、上記特開平1-303148号公報の第3頁左上欄第7〜10行に記載されているように本件出願前に周知の技術であり、テーパ等のサイズを適宜設定することにより、脊椎湾曲を矯正できることも明らかであるから、人工椎体スペーサを脊椎湾曲変形を矯正するために用いることも、当業者であれば、格別困難なくなし得ることといえる。
以上のことから、甲第1号証発明に上記周知技術を適用することにより相違点に係る本件発明の構成とすることは当業者において、必要に応じて容易になし得たことといえる。
また、本件発明の効果は、甲第1号証発明並びに上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものというべきであって、格別のものということはできない

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1号証発明及び上記周知技術等に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年制令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
人工椎体スペーサ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】脊椎湾曲変形を矯正するため任意の椎体間に装着するべく、上下の椎体に当接する少なくとも上側主面と下側主面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、前記下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、前記上側主面と下側主面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、該角度が生体内で受ける荷重下で実質的に不変であることを特徴とする人工椎体スペーサ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は歩行障害など起臥の運動に支障をきたす脊椎彎曲変形を矯正するため椎体間に装填する人工椎体スペーサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】脊椎が後方に彎曲して前方に臥した姿勢となる脊椎後彎変形や側方に彎曲して側方に臥した姿勢となる脊椎側彎変形などの脊椎彎曲変形は、腰をかがめて仕事をする機会の多い農業に従事する婦人にしばしば見られ、腰曲がりと、その特異的な腰痛により、びっこなどの歩行障害など日常生活に支障をきたす障害が多い。
【0003】このような症例に対して、従来は椎体間にできるだけ大きな自家骨の骨片を打ち込んだり、さらにこの骨片の打ち込みに加えて特開平2-215461号公報が提案しているようなゴムを表面に付着せしめた金属製のプレート又はロッドを使用した矯正術を行っていた。
【0004】
【従来技術の課題】しかしながら、上記の脊椎彎曲変形矯正術は以下のような問題を有していた。自家骨の骨片を椎体間に打ち込む場合には、採取した骨を移植することから椎体の海綿骨との癒合性は良好であるものの、荷重が加わる方向に骨吸収を起こしやすく、移植矯正をした効果が次第に薄れてくるという不具合があった。また、椎体間に打ち込む自家骨はほとんどの場合、腸骨あるいは腓骨から採骨しているが、十分な大きさの移植骨を採取するために中殿筋や腸筋を広範囲に剥離する必要がある。このため手術が長時間に渡ったり、出血量が増加したり、術後の安静期間が長期化するなど、自家骨移植であるゆえの多くの不具合があった。さらに、移植後も骨片の脱転が発生する例も少なからずあった。
【0005】一方、上記の金属製プレート又はロッドを使用した矯正術では、複数の椎体間を矯正できないため、無理な荷重をかけた状態のまま矯正が行われることがあり、プレート、ロッド自体が脱転、破損、又は変形したり、さらには脊椎に損傷を与えてしまっていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するため、本発明は脊椎湾曲変形を矯正するため任意の椎体間に装着するべく、上下の椎体に当接する少なくとも上側主面と下側主面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、前記下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、前記上側主面と下側主面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、該角度が生体内で受ける荷重下で実質的に不変であることを特徴とする人工椎体スペーサを提供するものである。
【0007】
【実施例】以下、図によって本発明の実施例を具体的に説明する。
【0008】図1には、人工椎体スペーサ(以下、スペーサと略称する)1を示し、このスペーサ1は、図1(ロ)に断面図を示す如く、脊椎湾曲変形を矯正するため任意の椎体間に装着するべく、上下の椎体に当接する少なくとも上面(上側主面)1aと下面(下側主面)1bとを備えた多面体である。上面1aは、前方側の端部から後方側の端に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、下面1b、は前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、この上面1aと下面1bとのなす角度θは、14°〜40°であるとともに、該角度が生体内で受ける荷重下で実質的に不変である。上記のスペーサ1は、図2に示す如く彎曲した脊椎Mを正常位に復帰させた状態で、脊椎Mの椎間板Lを除去した椎体T、T間に装填するが、上述のように上面1aと下面1bとのなす角度θが14°〜40°の角度で形成されているので、彎曲した脊椎Mを正常位に矯正することができる。また、スペーサ1による脊椎彎曲変形の矯正を補助するため、正常位に矯正した脊椎Mを支持するよう、脊椎Mの後方部分にロッドRを打ち込むことも行なわれる。
【0009】特に、脊椎Mの湾曲の度合いが大きい場合には、例えば、矯正術の実施が容易である箇所を選択するとか、脊椎Mやその周囲の神経に損傷を与えずに済む場所等で任意、最適な箇所を複数選択し、そこに上記のスペーサ1を装填することによって、脊椎Mの一部分のみに無理な荷重がかかってしまうことや、スペーサ1の脱転などを防止することができる。
【0010】このようなスペーサ1の材質としては、アルミナ、ジルコニア、アパタイトなどのセラミック材、ステンレス、コバルトクロム合金、純チタン、チタン合金などの生体為害性のない金属材料、ポリエチレンなどの超高分子材料、または上記のような材質よりなるスペーサ1の上面1aまたは下面1bの少なくとも一方に、ハイドロキシアパタイト等の生体親和性に優れた材料よりなるポーラス層(不図示)を設けたものであっても良い。
【0011】このスペーサ1を装填する矯正術においては、骨を採骨する必要がなく、もし必要な場合であっても少量の採骨で良く、自家骨のみを移植する場合の如く多量に採骨する必要はなく、患者に多大な肉体的および精神的苦痛、さらには様々な不具合を与えなくてすむ。
【0012】上述のようにスペーサ1の上面1aと下面1bがθ=14〜40°という角度で形成されているのは、以下のような理由による。脊椎彎曲変形は手術適応となる場合、脊椎Mの矯正のために少なくとも25°の矯正が必要であり、また、手術を行う椎体間の数は3つの椎体間までが安全であって、無理に4つの椎体間を手術するのは大きな危険を伴う。スペーサ1が椎体Tの海綿骨内に沈みこんで矯正角度を5°程度ロスすることを予め考慮すると、スペーサ1の上面1aと下面1bが互いにθ<14°の角度で形成されている時は、仮に3つの椎体間に脊椎後彎変形を持つ患者の3つの椎体間にスペーサ1を装填しても必要な矯正角度は得られず、腰痛は多少緩和されるものの腰曲がりを完全には矯正することができない。また、スペーサ1の上面1aと下面1bが互いにθ>40°の角度で形成されている時は、手術後、スペーサ1が身体の前方に滑って脱転してしまう恐れがある。
【0013】以下の実施例においては実施例1と相違することのみを説明する。
【0014】実施例2
図3及び図4には、椎体Tの海綿骨内に圧入され脱転防止のためのストッパーとして作用する突起2または2aを上面1aおよび下面1bに備えたスペーサ1、1を示し、図3に示すアルミナ製のスペーサ1は梁状の突起2、2を上面1aと下面1bに一体的に設けており、また図4に示すポリエチレン製のスペーサ1は、スパイク状でチタン合金よりなり上面1aと下面1bより螺着するべく大径部分がネジ状となっている突起2aを上面1aの側と下面1bの側にそれぞれ3個づつ備えている。
【0015】なお、突起2(2a)の形状、大きさ、数、配置等は各々の症例に応じて決めれば良い。
【0016】実施例3
図5には気孔率50%程度の純チタン製またはチタン合金製のファイバーメッシュよりなるスペーサ1を示し、このようなファイバーメッシュは多孔質であるので、椎体Tの海綿骨がその孔内に増殖生成し、その結果、椎体Tとの強固な結合が達成できる。さらに、その弾性率は純チタンのバルクで構成したスペーサ1で約110,000MPa、アルミナよりなるスペーサ1で390,000MPaであるのに対して、純チタンまたはチタン合金のファイバーメッシュよりなる上記のスペーサ1は弾性率が約900MPaと良好な負荷緩衝作用を持つ。
【0017】実施例4
図6には純チタン製またはチタン合金製のファイバーメッシュF、Fの間にポリビニールアルコール(以下、PVAと略称する)のハイドロゲルから成るブロック体Pを合体して成るスペーサ1を示し、このスペーサ1においては、上記のファイバーメッシュF、FとPVAハイドロゲルのブロック体Pとの隣接部F1、F1の微細孔内にはPVAハイドロゲルが保持されており、これによって、ファイバーメッシュF、Fと上記ブロック体Pが合体せしめてある。
【0018】上記のようなスペーサ1を作製するにあたっては、ケン化度が95モル%以上、好ましくは97モル以上で平均重合度が粘土平均で1700以上、好ましくは5000以上のPVAを水又はジメチルスルホキシド(DMOS)等の水和性の有機溶媒と水との混合溶媒に加え加熱溶解することにより、PVAを2〜30wt%含むペーストを調製する。
【0019】次に、予め用意した気孔率50%程度の2個のファイバーメッシュF、Fのうち1個を金属製金型の底に設置し、その上から調整したPVAのペーストを注入し、さらにその上から残りの1個を金型に入れプレス成形機にて上から圧力を加えて後、金型より中身を取り出し、直ちに瞬間冷却スプレーを用いてPVAのペーストの温度を下げ、上下のファイバーメッシュF、Fの隣接部F1、F1の微細孔内にのみPVAを保持させてファイバーメッシュF、Fの間にPVAハイドロゲルから成るブロック体Pを合体する。
【0020】さらにこれを、エチルアルコール中に浸漬し、加熱して攪拌しながら約1週間洗浄した後、室温で風乾して、さらに真空乾燥にて約3日間乾燥する。続いて、100〜180℃の温度のシリコーンオイル中にて1〜72時間熱処理を施し、さらに水中に浸漬した後、最後に室温にて風乾する。
【0021】このように製作されたスペーサ1は、上面1aと下面1bが多孔質となっておりここに椎体Tの海綿骨が増殖生成することによって椎体Tと強固に結合し、椎体間より脱転することを防止するのに加え、ファーバーメッシュF、Fと合体したPVAハイドロゲルのブロック体Pによって理想的な柔軟性と負荷緩衝作用を有していた。
【0022】実施例5
図7及び図8には椎体Tの海綿骨が内部に成長してきて椎体Tとの固定が強化されるよう上面1aと下面1bを貫通する貫通孔3を有するスペーサ1を示し、図8に示すチタン合金製のスペーサ1は上記の貫通孔3内に50%程度の気孔率を有するチタン合金製のファイバーメッシュ3aを装填して、該ファイバーメッシュ3a内へ椎体Tの海綿骨が増殖生成していくことを促進するようになっている。なお、スペーサ1の材質はチタン合金のみに限られるものではなく、ステンレス、コバルトクロム合金、純チタンなどの生体い為害性のない金属材料、アルミナ、ジルコニア、アパタイトなどのセラミック材、あるいはポリエチレンなどの超高分子材料などでも良い。
【0023】実施例6
図9及び図10には椎体Tの海綿骨が成長してきて椎体Tとの固定が強化されるよう上面1aと下面1bのそれぞれに深さ0.5〜2mm程度の凹部4を備えたスペーサ1を示し、図10に示すスペーサ1は上記凹部4にアルミナビーズ4aをシリカ系ガラス(不図示)で接合しており、上記凹部4内へ椎体Tの海綿骨が増殖生成していくことを促進するようになっている。
【0024】なお、スペーサ1の形状は上述のようなものに限られるわけではなく、図11に示す如く、例えば水平面形状が馬蹄形、円形、楕円形、などをしたものでもよく、それぞれの症例に応じて適当な形状、寸法を有したものを使用すれば良い。また、図12に示すように、スペーサ1は上面1aと1bが互いに2方向にθ1、θ2=14〜40°の角度で形成されたものでも良く、このようなスペーサ1は例えば、脊椎後彎症と脊椎側彎症の両方を持つ患者に適応することができる。
【0025】
【発明の効果】本発明の人工股関節によれば、脊椎湾曲変形を矯正するため任意の椎体間に装着するべく、上下の椎体に当接する少なくとも上側主面と下側主面とを備えた多面体の人工椎体スペーサであって、前記上側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって下方に傾斜した傾斜面であり、前記下側主面は、前方側の端部から後方側の端部に向かって上方に傾斜した傾斜面であり、前記上側主面と下側主面とのなす角度が14°〜40°であるとともに、該角度が生体内で受ける荷重下で実質的に不変であるようにしたことにより、彎曲した脊椎を無理なく矯正することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】人工椎体スペーサを示す図であって、(イ)は斜視図、(ロ)は本図(イ)のv-v線断面図である。
【図2】人工椎体スペーサを椎体間に装填した様子を示す側面図である。
【図3】上下面に梁状の突起を備える人工椎体スペーサを示す図であって、(イ)は斜視図、(ロ)は側面図である。
【図4】上下面にスパイク状の突起を備える人工椎体スペーサ示す図であって、(イ)は斜視図、(ロ)は本図(イ)のw-w線断面図である。
【図5】純チタン製又はチタン合金製のファイバーメッシュよりなる人工椎体スペーサを示す斜視図である。
【図6】純チタンまたはチタン合金よりなる上下のファイバーメッシュの間にポリビニールアルコールハイドロゲルのブロック体を合体してなる人工椎体スペーサを示す斜視図である。
【図7】上下方向に貫通孔を備える人工椎体スペーサを示す図であって、(イ)は斜視図、(ロ)は本図(イ)のx-x線断面図である。
【図8】貫通孔内にファイバーメッシュのブロック体を挿着した人工椎体スペーサを示す図であって、(イ)は斜視図、(ロ)は本図(イ)のy-y線断面図である。
【図9】上下面に凹部を備える人工椎体スペーサを示す図であって、(イ)は斜視図、(ロ)は本図(イ)のz-z線断面図である。
【図10】上下面の凹部にアルミナビーズを備える人工椎体スペーサを示す図であって、(イ)は斜視図、(ロ)は本図(イ)のu-u線断面図である。
【図11】人工椎体スペーサの形態のバリエーションを示す斜視図であって、(イ)は水平断面形状が馬蹄形をしたもの、(ロ)は円形をしたもの、(ハ)は楕円形をしたものを示す。
【図12】上面1aと1bが互いに2方向にθ1、θ2=14〜40°の角度で形成されたスペーサ1を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 人工椎体スペーサ
2 突起
3 貫通孔
4 凹部
5 ガラス
1a 上面
1b 下面
F ファイバーメッシュ
P ブロック体
4a アルミナビーズ
θ 角度
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-12-28 
出願番号 特願平4-16755
審決分類 P 1 651・ 832- ZA (A61F)
P 1 651・ 121- ZA (A61F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 弘實 謙二  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 稲村 正義
北川 清伸
登録日 2002-09-13 
登録番号 特許第3350080号(P3350080)
権利者 京セラ株式会社
発明の名称 人工椎体スペーサ  

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