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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1136195
異議申立番号 異議2003-70792  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-28 
確定日 2006-03-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3328674号「耐衝撃性ポリオレフィン成形用組成物」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3328674号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3328674号の請求項1〜6に係る発明は、平成5年1月14日に特許出願され、平成14年7月19日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、押谷泰紀、日本ポリケム株式会社より、請求項1〜6に係る発明の特許に対し特許異議の申立がなされ、請求項1〜6に係る発明の特許に対し取消理由が通知され、その指定期間内である、平成16年7月27日付けで訂正請求(その後取り下げ)がなされ、各特許異議申立人に対し審尋がなされると同時に、再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年5月24日付け及び平成17年5月30日付けで特許異議申立人から回答書が提出され、平成17年9月29日付けで訂正請求(手続補正指令により平成17年12月21日付けで手続補正書(方式)を提出)がなされたものである。
II.訂正請求について
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
請求項1に記載の「成形用組成物に基づいてポリオレフィン20ないし99重量%および成形用組成物に基づいて-20℃以下のガラス転移温度を有するゴム1ないし80重量%から本質的になり、上記ポリオレフィンは、アイソタクチック指数が少なくとも85%でありかつ分子量分布が5未満であるプロピレンホモポリマーまたはプロピレンコポリマー、あるいはこれらの混合物であり、かつ上記ポリオレフィンのアタクチックポリマー鎖含有率は1重量%未満であり、そして上記ゴムは、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴム及びエチレン/プロピレン/ジエンゴムから選択される」を、
「-(a)プロピレンホモポリマーおよび
(b)プロピレンホモポリマー20ないし99重量%、およびプロピレン単位20ないし90重量%およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレン及びプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%からなるプロピレンポリマーの混合物
からなる群から選択されるポリオレフィン20ないし99重量%、ここで、前記ポリオレフィンは少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有する、および
--20℃の転移温度を有し、かつ、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴムおよびエチレン/プロピレン/ジエンゴムからなる群から選択されるゴム1ないし80重量%
から本質的になる」と訂正する。
(2)訂正事項b
請求項3、4を削除する。
(3)訂正事項c
請求項5を請求項3と訂正すると共に、訂正前の請求項5の記載である
「a)少なくとも85%のアイソタクチック指数を有するプロピレンホモポリマー20ないし99重量%および
b)少なくとも85%のアイソタクチック指数を有するプロピレン単位20ないし90重量%、およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレン及びプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%の混合物」を
「プロピレンホモポリマー20ないし99重量%、およびプロピレン単位20ないし90重量%およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレン及びプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%からなるプロピレンポリマーの混合物」と訂正する。
(4)訂正事項d
請求項6を請求項4と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書段落【0014】に記載の「好ましくC1〜C6アルキルはであるか」を
「、好ましくはC1〜C6-アルキルであるか」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書段落【0016】に記載の「規定されたを」を
「規定された」と訂正する。
(7)訂正事項g
明細書段落【0033】に記載の
「例1
全成形用組成物に基づいて90重量%のアイソタクチックポリプロピレンおよび10重量%の以下の組成を有するゴムからなる成形用組成物を押出成形により製造した。」を
「例1
全成形用組成物に基づいてアイソタクチックプロピレンホモポリマー90重量%、および以下の組成、すなわち、35.8重量%のプロピレン単位および64.2重量%のエチレン単位を有するゴム10重量%からなる成形用組成物を押出成形により製造した。」と訂正する。
(8)訂正事項h
明細書段落【0034】に記載の
「35.8重量%のプロピレン単位および64.2重量%のエチレン単位;40.4重量%のゴム組成物は、ポリエチレンおよび59.6重量%の60.0重量%のプロピレン単位および40.0重量%のエチレン単位からなるエチレン/プロピレンコポリマー(EPM)であった。」を
「このゴム組成物のうちの40.4重量%はポリエチレンであり、そしてその59.6重量%は、プロピレン単位60.0重量%とエチレン単位40.0重量%とからなるエチレン/プロピレンコポリマー(EPM)であった。」と訂正する。
(9)訂正事項i
明細書段落【0040】に記載の
「例5〜8
以下のデータを有する生成物を本発明によるポリプロピレンとして使用した以外は例1〜4を繰り返した。」を
「例5〜8
以下のデータを有する生成物を本発明によるアイソタクチックポリプロピレンホモポリマーとして使用した以外は例1〜4を繰り返した。」と訂正する。
(10)訂正事項j
明細書段落【0043】に記載の
「例9
以下のデータを有する生成物を本発明によるポリプロピレンとして使用する以外は例3を繰り返した。」を
「例9
以下のデータを有する生成物を本発明によるアイソタクチックプロピレンホモポリマーとして使用する以外は例3を繰り返した。」と訂正する。
(11)訂正事項k
明細書段落【0045】に記載の「例10」を「参考例10」と訂正する。
2.訂正の適否について
訂正事項aは、訂正前の請求項5に記載された事項に基づき、ポリオレフィンを構成するポリマーを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項bは、請求項3、4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項cは、訂正前の請求項3に記載されたポリオレフィンを構成するプロピレンポリマーの混合物について、訂正された請求項1に記載の内容に沿うように、プロピレンホモポリマーとプロピレンコポリマーからなることを明確にするもので、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項dは、請求項の項番号を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
訂正事項e〜fは、明らかな誤記を訂正するものであり、誤記の訂正を目的とする訂正に該当する。
訂正事項g〜kは、特許請求の範囲の訂正に伴ない、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、いずれの訂正事項も、明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.本件発明
訂正後の請求項1〜4に係る発明は、訂正明細書の請求項1〜4に記載されたとおりのものであって、次のとおりのものである。
「【請求項1】-(a)プロピレンホモポリマーおよび
(b)プロピレンホモポリマー20ないし99重量%、およびプロピレン単位20ないし90重量%およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレンおよびプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%からなるプロピレンポリマーの混合物
からなる群から選択されるポリオレフィン20ないし99重量%、
ここで、前記ポリオレフィンは少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有する、および
- -20℃の転移温度を有し、かつ、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴムおよびエチレン/プロピレン/ジエンゴムからなる群から選択されるゴム1ないし80重量%
から本質的になる、ポリオレフィン成形用組成物。
【請求項2】上記ポリオレフィンが、プロピレンホモポリマーである請求項1の成形用組成物。
【請求項3】上記ポリオレフィンが、
プロピレンホモポリマー20ないし99重量%、およびプロピレン単位20ないし90重量%およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレン及びプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%からなるプロピレンポリマーの混合物
である請求項1の成形用組成物。
【請求項4】付加的に安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、光保護剤、金属失活剤、フリーラジカル捕捉剤、フィラーおよび強化剤、相溶化剤、可塑剤、滑剤、乳化剤、顔料、蛍光増白剤、防炎剤、帯電防止剤または発泡剤を含む請求項1ないし3のいずれか一つの成形用組成物。」
IV.特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
特許異議申立人 押谷泰紀は、甲第1〜4号証を提出して、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべき旨、
また、訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、その明細書の記載が不備であり、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべき旨、
特許異議申立人 日本ポリケム株式会社は、甲第1〜5号証および参考資料1を提出して、訂正前の請求項1、3、4、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、訂正前の請求項1、3、4、6に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、また、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、前記甲第1号証及び甲第3号証あるいは甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから取り消されるべき旨、
また、訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は、その明細書の記載が不備であり、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、取り消されるべき旨、それぞれ主張している。
V.特許異議申立についての判断
訂正後の請求項1〜4に係る発明について、特許異議申立人の主張する理由の妥当性について検討する。
1.特許法第29条第1項第3号第29条第2項の規定違反について
(1)甲各号証及び参考資料に記載された事項
★特許異議申立人 押谷泰紀の提出した甲第1号証(POLYMER、28巻、第47〜56頁、1987年1月発行:以下、「文献1」という。)には、
アイソタクチックポリプロピレンとエチレン-プロピレンコポリマー(EPR)のブレンド物に関して記載(47頁要旨の欄第2行、左欄下から3〜2行)され、アイソタクチックポリプロピレンが重量平均分子量がMw=3.07×105であり、数平均分子量がMn=1.56×104であることが記載(48頁左欄3〜5行)され、EPRが約-50℃のガラス転移温度を有するゴムであることも記載(51頁右欄3行)されている。また、組成物を構成するエチレン-プロピレンコポリマーゴムについてその使用量を0,10,20重量%用いることが記載(48頁左欄13〜15行)されている。
そして、これらの混合組成物についての力学的試験によって得られた結果についても記載(図1〜17、およびその説明)されている。
★同じく、甲第2号証(特開昭64-51408号公報:以下、「文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「1)式R-CH=CH2〔式中、Rは炭素原子数1〜28のアルキル基である。〕
で表される1-オレフィンをまたはこのオレフィンとエチレンとを溶液状態、懸濁状態または気相において-60〜200℃の温度、0.5〜60barの圧力のもとで、遷移金属化合物としてのメタロセンと活性剤としてのアルミノキサンとより成る触媒の存在下に重合または共重合することによって1-オレフィン重合体を製造するに当たって、重合を、遷移金属成分が重合前に式(IV)
(化学構造式記載省略)
で表される線状の種類および/または式(V)
(化学構造式記載省略)
で表される環状の種類のアルミノキサン―但し上記式(IV)および(V)中、R17は炭素原子数1〜6のアルキル基を意味しそしてpは2〜40の整数である―にて-78〜100℃の温度で5分〜60時間の間予備活性化処理されそして上記活性剤が同様に式(IV)および(V)で表されるアルミノキサンである
触媒の存在下で実施することを特徴とする、上記1-オレフィン重合体の製造方法。
2)高アイソタクチックの1-オレフィン重合体を製造する為に対掌性の立体剛性メタロセンを用いる請求項1に記載の方法。」(特許請求の範囲第1、2項)
「本発明は、高いアイソタクチック性および有利な粒度分布を有する1-オレフィンの製造方法に関する。」(1頁右下欄下から2行〜2頁左上欄1行)
「本発明の課題は、公知の触媒の欠点を有さない触媒を見出すことである。
本発明者は、メタロセンをアルミノキサンで予備活性化することが触媒系の活性を著しく向上させそして重合体の粒子形態を改善することを見出した。」(2頁左下欄7〜12行)
「本発明で用いる触媒は、式R-CH=CH2(式中、Rは炭素原子数1〜28、殊に1〜10のアルキル基、特に一つの炭素原子のアルキル基、例えばプロピレン、ブテン-(1)、ヘキセン-(1)、4-メチルペンテン-(1)、オクテン-(1)を重合するのに用いる。プロピレンが特に有利である。更に触媒はこれらのオレフィン相互およびエチレンとを重合するのにも用いられ、後者の場合には50重量%より多いエチレンを組み入れ重合することができる。」(6頁左下欄2〜11行)
「以下の実施例にて本発明を更に詳細に説明する。各略字は以下の意味を有している:
VZ=粘度数(cm3/g)、
Mw=平均分子量、
Mw/Mn=分子量分布(ゲルパーミッションクロマトグラフィーによって測定)、
SD=嵩密度(g/dm3)、
I-指数=アイソタクチック指数(13C-NMR-分光器によって測定)
Miso=13C-NMR-分光器によって測定されるアイソタクチック-セグメントの長さ。
実施例1
乾燥した16-dm3フラスコを窒素で洗浄し、10dm3の液状プロピレンを導入する。次いでメチルアルミノキサンの50cm3のトルエン溶液(40mmolのAl、メチルアルミノキサンの平均オリゴマー度n=20)を添加し、混合物を30℃で15分間攪拌する。これに平行して9mg(0.02mmol)のビスインデニルジメチルシリル-ジルコニウムジクロライドをメチルアルミノキサンの25cm3のトルエン溶液(20mmol Al)中に溶解しそして15分間放置した後に予備活性化する。次いでこの橙赤色の溶液を反応器に入れる。重合系を70℃の温度にし、次いで適当に冷却することによって1時間この温度を維持する。
2.0kgのポリプロピレンが得られる。従ってメタロセンの活性は100kg(PP)/mmol(Zr)/時である。
VZ=45cm3/g、Mw=35000、Mw/Mn=2.1、SD=520g/dm3、I-指数=96%。
重合体中のCl-およびZr-含有量は1ppm以下である。
重合体の粒度分布・・・
実施例2
実施例1と同様に実施する。但し、9mgのビスインデニルジメチル-シリル-ジルコニウムジクロライドの替わりに4.5mg(0.01mmol)だけを使用しそして重合時間は2時間である。
1.95kgのポリプロピレンが得られる。メタロセンの活性は従って97.5kg(pp)/mmol(Zr)・時である。
VZ=48cm3/g、Mw=39000、Mw/Mn=2.2、SD=500g/dm3、I-指数=97%。重合体中のCl-およびZr-含有量は0.5ppm以下である。従って2時間目の重合においても、重合活性の低下は生じない。」(7頁左上欄20行〜右下欄14行)
さらに、実施例5には、I-指数=97.1%、Mw/Mn=1.9の、実施例10には、I-指数=99.5%、Mw/Mn=2.0の、実施例22には、I-指数=70%、Mw/Mn=2.8のポリプロピレンが記載されている。
★同じく、甲第3号証(高分子学会編「ポリマーアロイ」株式会社東京化学同人、1981年4月1日発行、第273〜274頁:以下、「文献3」という。)には、
「PVC以外でも熱可塑性プラスチックの特性を改質するために各種のポリマーブレンドが行われているが、可塑化という目的で使用されている例は比較的少ない。ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)の二、三の例をあげるにとどめる。この場合の目的はおもに、高密度PEおよびPPの衝撃強度、ストレスクラックの改良である。たとえば、高密度PEに対しては低密度PEとのブレンドが有効であり、エチレン-プロピレンゴム(EPR)がPE、PP両樹脂に対し、優れた効果をもつ。・・・また、アイソタクチックPP(IPP)とアタクチックPP(APP)とのブレンドは、両者の軟化温度にかなりの差があり、加工上若干の困難さを伴うが、均一にブレンドされた場合には、APPはIPPを可塑化し、」(273頁11行〜274頁5行)と記載されている。
★同じく、甲第4号証(井上孝/市原祥次著「ポリマーアロイ」共立出版株式会社、1988年12月20日初版第3刷発行、第49〜80頁:以下、「文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。
「PPにPEやEPRをブレンドすると脆化温度は下がるが同時に弾性率も低下する(図5.7).脆化温度を有効に下げて,剛性をあまり下げないようにする手段として,”ブロック共重合法”がある.これはエチレンとプロピレンを多段重合して得られるもので,実体はブロック共重合体というよりも,PP,PE,EPRからなる複雑な組成物であると考えられる.」(62頁15〜20行)
「こういったPP系のアロイにさらにEPRやEPDMをブレンドしたものもあり,自動車などに多用されている。」(65頁3〜5行)
★特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した、甲第1号証(特開昭62-119215号公報:以下、「文献5」という。)には、以下の事項が記載されている。
「1.エチレン成分及びプロピレン成分からなるプロピレン系ランダム共重合体であって、
(A)その組成が、エチレン成分が10ないし70モル%及びプロピレン成分が30ないし90モル%の範囲にあり、
(B)デカリン中で135℃で測定した極限粘度[η]が0.5ないし6dl/gの範囲にあり、
(C)ゲルパーミエイシヨンクロマイトグラフイー(GPC)で測定した分子量分布(Mw/Mn)が3以下の範囲にあり、
(D)示差走査熱量計によって測定した融点[Tm]が40ないし140℃の範囲にあり、
(E)X線回折法によって測定した結晶化度が0.5ないし60%の範囲にあり、
(F)沸騰酢酸メチルへの可溶分量[W1重量%]が1重量%以下の範囲にあり、
(G)10℃におけるアセトン・n-デカン混合溶媒(容量比1/1)への可溶分量[W2重量%]が4×[η]-1.2重量%以下の範囲にあり、
(H)プロピレンのtriad連鎖でみたミクロアイソタクテイシテイが0.8以上の範囲にあり、
(I)共重合体の13C-NMRスペクトルにおいて共重合体主鎖中の隣接した2個の三級炭素原子間のメチレン連鎖に基づくαβおよびBrのシグナルが観測されず、
(J)一般式[I]
B≡POE/2POPE 〔I〕
[式中、POは共重合体中のプロピレン成分の含有モル分率を示し、PEはエチレン成分の含有モル分率を示し、POEは全dyad連鎖のプロピレン・エチレン連鎖のモル分率を示す]
で表わされるB値が一般式(II)
1.00≦B≦2 [II]
の範囲にある、
ことを特徴とするプロピレン系ランダム共重合体。」(特許請求の範囲第1項)
「最近、このような軟質あるいは半硬質樹脂の成形応用分野において利用されているオレフイン系樹脂としては、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、1-ブテン系共重合体などのオレフイン系共重合体がある。これらのオレフイン系の軟質あるいは半硬質樹脂のうちで、1-ブテンを主成分とする1-ブテンとプロピレンからなる軟質の1-ブテン系ランダム共重合体に関しては、多数の提案がある。・・・・・しかし、これらの1-ブテン系ランダム共重合体に共通していることは、沸騰酢酸メチル可溶分及びアセトン・n-デカン混合溶媒(容量比1/1)可溶分などの低分子重合体成分の含有率が多く、また組成分布や分子量分布が広いので、これらの1-ブテン系ランダム共重合体から形成した成形体、特にフイルム、シートなどは表面粘着性が大きく、ブロツキングが著しい。」(3頁左上欄8行〜右上欄9行)
「本発明者らは、従来のプロピレン系ランダム共重合体は分子量分布及び組成分布が広く、低分子量重合体の含有率が多く、該プロピレン系ランダム共重合体から得た成形体が表面非粘着性、透明性、剛性などの力学的物性に劣つていることを認識し、従来のプロピレン系ランダム共重合体に比してこれらの物性の改善されたプロピレン系ランダム共重合体を提供することを目的として開発研究を行ってきた。
その結果、本発明者らは、プロピレン成分及びエチレン成分からなるプロピレン系ランダム共重合体であって、かつ後記(A)ないし(J)で定義された特性値を兼備した従来公知文献未記載のプロピレン系ランダム共重合体が存在できることを発見しかつその合成に成功した。
さらに、この新規プロピレン系ランダム共重合体は、従来公知のプロピレン系ランダム共重合体にくらべて分子量分布及び組成分布が狭く、低分子量重合体成分、とくに沸騰酢酸メチルへの可溶分及びアセトン・n-デカン混合溶媒(容量比1/1)への可溶分の両者で表わされる低分子量重合体成分の含有率が少なく、該プロピレン系ランダム共重合体から得た成形体は表面非粘着性、透明性、剛性などの力学的物性にとくに優れていることを発見した。」(4頁右下欄13行〜5頁左上欄17行)
「本発明のプロピレン系ランダムの共重合体は、べた付きがなく、既述の如く他に種々の特性を備えている点において従来提案のものとは異なつている。このプロピレン系ランダム共重合体は、押出成形、中空成形、射出成形、プレス成形、真空成形など任意の成形方法により、フイルム、シート、中空容器、その他各種製品に成形でき、各種用途に供することができる。とくに耐ブロツキング性、ヒートシール性が良好であるところから、包装用フイルムとして好適である。前記性質により、金属等の保護フイルムとしても好適に使用できる。
成形に際し、各種安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、顔料、無機または有機の充填剤を配合することができる。これらの例として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフエニル)プロピオネート〕メタン、4,4′‐ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、トコフエロール類、アスコルビン酸、ジラウリルチオジプロピオネート、リン酸系安定剤、脂肪酸モノグリセライド、N,N-(ビス-2-ヒドロキシエチル)アルキルアミン、2-(2′-ヒドロキシ-3′,5′-ジ-tert-ブチルフエニル)-5-クロルベンゾトリアゾール、ステアリン酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、ハイドロタルサイト、タルク、クレイ、石こう、ガラス繊維、チタニア、炭酸カルシウム、カーボンブラツク、石油樹脂、ボリブテン、ワツクス、合成または天然ゴムなどであつてもよい。
本発明のプロピレン系ランダム共重合体は、種々の熱可塑性樹脂に改質剤として配合することにより、耐衝撃性、低温耐衝撃性、耐屈曲性低温ヒートシール性を改善することができる。熱可塑性樹脂としてはエチレンを主成分として含む他のエチレン系重合体、該エチレン系重合体以外の結晶性オレフイン系重合体、エンジニアリング樹脂などを挙げることができる。
本発明のプロピレン系ランダム共重合体をポリエチレンなどのエチレンを主成分として含む他のエチレン系重合体に配合することにより、該他のエチレン系重合体の成形品の耐衝撃性、低温耐衝撃性、耐屈曲性、低温ヒートシール性を改善することができるようになる。」(11頁右上欄8行〜右下欄13行)
「本発明のプロピレン系ランダム共重合体は種々のゴム状重合体に配合することにより該ゴム状重合体の物性、たとえば、耐薬品性、剛性などを改善することができる。該ゴム状重合体として具体的には、たとえばエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1-ブテン・非共役ジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロツク共重合体などを例示することができる。該プロピレン系ランダム共重合体の配合割合は前記ゴム状重合体100重量部に対して通常1〜100重量部の範囲である。該ゴム状重合体組成物には必要に応じて充填剤、架橋剤、架橋助剤、顔料、安定剤などの各種の充填剤を配合することができる。該ゴム状重合体組成物は従来から知られている方法に従って調製することができる。」(13頁左上欄9行〜右上欄4行)
★同じく、甲第2号証(特開平3-205439号公報:以下、「文献6」という。)には、以下の事項が記載されている。
「1.(A)アイソタクチック指数が90を上回るホモポリマーポリプロピレンであるか、またはエチレンおよび/またはオレフィンCH2=CHR(但し、Rは2〜6個の炭素原子を有するアルキル基)との結晶性プロピレンコポリマーであって、85重量%を上回るプロピレンを含み、アイソタクチック指数が85を上回るものを10〜60重量部、
(B)エチレンを含み、室温でキシレンに不溶性である結晶性ポリマー画分を10〜40重量部、および(C)所望により少量のジエンを含み、室温でキシレンに可溶性であり且つエチレンを40〜70重量%含む非晶質のエチレン-プロピレンコポリマー画分を30〜60重量部、
を有して成るポリプロピレン組成物であって、曲げ弾性率が700Mpa未満であり、75%での残留伸びが60%未満であり、引張応力が6Mpaを上回り且つノッチ付アイゾットレジリエンスが-20℃および-40℃で600J/mを上回る組成物。」(特許請求の範囲第1項)
「この数年の間に、エラストマー性を有ししかも熱可塑性材料に通常用いられる装置および方法を用いて製品に変換する能力を保持しているポリプロピレン組成物は、ますます重要なものになってきている。
前記の組成物は、ポリオレフィン熱可塑性エラストマーと呼ばれることがあり、特に自動車、電気ケーブルおよびスポーツ用品の分野において用途が見出だされている。その有利な性能ゆえに、更に高価な熱可塑性スチレンやブタジエンを基材とするゴムに取って代わろうとしている。
これらの組成物は、動的加硫条件下で、エチレン-プロピレンゴム(EPR)またはエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)を結晶性ポリオレフィン、特にポリプロピレンと混合することによって製造される。」(2頁右上欄4〜19行)
「米国特許第4,491,652号明細書には、2段階でポリプロピレン熱可塑性エラストマーを製造する方法を記載しており、第一段階でプロピレンを重合させてホモポリマーポリプロピレンにし、第二段階でエチレン-プロピレン混合物を重合させてゴム状コポリマーを形成する。」(2頁右下欄14〜19行)
「組成物の電子顕微鏡下の分析は、分散相が非晶質のエチレン-プロピレンコポリマーから成り、平均粒度が2μm未満であることを示す。
この組成物から得ることができる製品は、特に自動車、電気ケーブルおよびスポーツ用品の分野で用いられる。
組成物は、少なくとも2段階からなる重合法で製造し、第一段階ではプロピレンを重合させて成分(A)を形成し、次の段階でエチレン-プロピレン混合物を重合させて成分(B)および(C)を形成する。
操作は、液または気相中でまたは液-気相中で行なう。
好ましい方法は、プロピレンのホモ重合段階を、稀釈剤として液状プロピレンを用いて行ない、プロピレンとエチレンの気相中での共重合段階を、プロピレンの部分的なガス抜きをする外には中間の段階なしに行なうことである。」(3頁右下欄12行〜4頁左上欄9行)
「キシレン可溶性部分の百分率の測定
ポリマー2.5gをキシレン250mlに135℃で撹拌しながら溶解させる。20分後に、溶液を撹拌を継続しながら25℃まで冷却した後、80分間静置する。沈殿物を濾紙で濾過し、溶液は窒素流中で蒸発させ、残留物は恒量に達するまで真空下80℃で乾燥させる。この方法で、室温でキシレンに可溶性のポリマーの重量%を計算する。室温でキシレンに不溶性のポリマーの重量%を、ポリマーのアイソタクチック指数と見なす。このようにして得られる値は、沸騰n-ヘプタンで抽出することによって測定したアイソタクチック指数と実質的に一致し、定義によりポリプロピレンのアイソタクチック指数に等しい。」(6頁左上欄12行〜右上欄6行)
★同じく、甲第3号証(特開平1-275608号公報:以下、「文献7」という。)には、以下の事項が記載されている。
「1)式R-CH=CH2〔式中、Rは炭素原子数1〜28のアルキル基である。〕
で表される1-オレフィンをまたはこれらのオレフィン相互またはこれらとエチレンとを溶液状態で、懸濁状態でまたは気相において-60〜200℃の温度、0.5〜60barの圧力のもとで、遷移金属化合物としてのメタロセンと、式(II)
(化学構造式記載省略)
[式中、R11は炭素原子数1〜6のアルキル基を意味しそしてpは2〜50の整数である。]
で表される線状の種類および/または式(III)
(化学構造式記載省略)
[式中、R11およびpは上記の意味を有する。]
で表される環状の種類のアルミノキサンとより成る触媒の存在下に重合または共重合することによって1-オレフィン重合体を製造するに当たって、重合を、遷移金属成分が式(I)
(化学構造式記載省略)
[式中、R1およびR2は互いに同じでも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数7〜40のアリールアルキル基、炭素原子数7〜40のアルキルアリール基または炭素原子数8〜40のアリールアルケニル基を意味し、
R3およびR4は互いに同じでも異なっていてもよく、中心原子と一緒にサンドイッチ構造を形成し得る単核-または多核炭化水素残基を意味し、R5は・・・・・で表される化合物でありそして活性剤が同様に式(II)または式(III)のアルミノキサンである触媒の存在下に実施することを特徴とする、上記1-オレフィン重合体の製造方法。」(特許請求の範囲1項)
「本発明の方法によって製造される重合体は、大きい分子量、非常に狭い分子量分布および高いアイソタクチック度を有している。」(6頁右下欄3〜5行)
「実施例1
乾燥した16-dm3容器を窒素で洗浄し、10dm3の液状プロピレンで満たす。
次いでメチルアルミノキサンの70cm3のトルエン溶液(68mmolのAl、平均オリゴマー度n=30)を添加し、混合物を30℃で15分間撹拌する。これに平行して50.8mg(0.095mmol)のrac-ビスインデニル-(ジメチルシリル)-ハフニウムジクロライドをメチルアルミノキサンの35cm3のトルエン溶液(34mmol Al)に溶解しそして30分間放置した後に予備活性化する。この溶液を次いで容器に入れる。
重合系を70℃の温度にし、この温度に5時間維持する。2.15kgのポリプロピレンが得られる。従ってメタロセンの活性は8.5kg(PP)/g(メタロセン)×時である。
VZ=152cm3/g、Mw=168,400、Mw/Mn=2.4、I-指数=94.3%、融点155℃。
実施例2
乾燥した16-dm3容器を窒素で洗浄し、10dm3の液状プロピレンで満たす。
次いでメチルアルミノキサンの50cm3のトルエン溶液(68mmolのAl、平均オリゴマー度n=30)を添加し、混合物を30℃で15分間撹拌する。
これに平行して51.3mg(0.096mmol)のrac-ビスインデニル-(ジメチルシリル)-ハフニウムジクロライドをメチルアルミノキサンの35cm3のトルエン溶液(34mmol Al)に溶解しそして15分間放置した後に予備活性化する。この溶液を次いで容器に入れる。
この重合系を60℃の温度にし、次いでこの温度に5時間維持する。1.08kgのポリプロピレンが得られる。従ってメタロセンの活性は4.2kg(PP)/g(メタロセン)×時である。
VZ=105cm3/g、Mw=110,900、Mw/Mn=2.0、I-指数=95.0%、融点145℃。」(7頁左上欄6行〜左下欄2行)
★同じく、甲第4号証(特開昭64-66217号公報:以下、「文献8」という。)には、以下の事項が記載されている。
「[発明が解決しようとする問題点]
本発明は、ポリプロピレンが本来有する望ましい性質を保持し、かつ剛性、耐熱性、表面硬度が優れた新規なポリプロピレン重合体を提供することを目的とする。
[問題を解決するための手段]
本発明は特定の重合条件のもとで重合させて得た特定の物性を有するプロピレン重合体が、従来のものよりも著しく高剛性であり、しかもポリプロピレン本来の望ましい性質を保持していることを見出し、本発明を完成した。」(2頁左上欄10行〜20行)
「本発明において、アイソタクチックペンタッドは13C-NMR分析によるアイソタクチックペンタッド分率(mmmm)により測定したもので表している。
この式の範囲を外れると、剛性、耐熱性が低下する。
本発明重合体の物性値として使用するアイソタクチックペンタッド率とは、エー・ザンペリ(・・・)らによってマクロモレキュル(・・・)、6,925(1973)に発表された方法・・・である。」(2頁右下欄1〜14行)
★同じく、甲第5号証(日本分析化学会編「高分子分析ハンドブック」朝倉書店、1987年7月25日第4刷発行、第250〜253頁:以下、「文献9」という。)には、
ポリプロピレンの立体規則性の定量に関して記載され、ポリプロピレン(PP)の立体規則性はPP中に含まれる量で表示する場合が一般的であることが記載されている。さらに、13C-NMRによる立体規則性の定量方法について記載されている。また、規則性による分別について、ヘプタン抽出法についても記載されている。
★同じく、参考資料1(特開昭61-130314号公報:以下、「文献10」という。)には、以下の事項が記載されている。
「本発明者は、プロピレンおよびより高級な他の1-オレフィンを
a)・・・ジルコン化合物および
b)・・・線状アルミノキサンおよび・・・環状アルミノキサン・・・なるアルミノキサン類のアルミニュウム含有化合物
より成る触媒系の存在下で重合する場合に、アイソタクッチク度が高く且つ分子量分布の狭い重合体が得られることを見出した。」(2頁左下欄7行〜右下欄3行)
「本発明の方法によって得られるポリオレフィンはアイソタクッチク度が非常に高いことに特徴がある。従来の方法で得られるポリプロピレン〔アイソタクッチク度のインデックスの測定方法については、エフ・クロース(F.Kloos),エッチ・ジイ・ロイゲリング(H.G.Leugering),ジャパック・マクロ・〕ローレンス・リプリンツ(JUPAC Macro Florence Reprints)2,479(1980)参照〕は少なくとも2〜7重量%の可溶性成分(炭化水素中で再結晶処理した後に測定)を含有しているのに、本発明の方法によれば、同じ方法で測定して実質的に1%より少ない可溶性成分しか含有していないポリプロピレンが製造される。従って本発明の方法で得られるポリプロピレンの99%以上は結晶質である。」(3頁左下欄8行〜右下欄3行)
「c)重合
加熱され数回アルゴンでフラッシュ洗浄された1lのガラス製オートクレーブに、20℃に温度調整しながら330mlの無水トルエン、16の平均オリゴマー度の360mgのメチルアルミノキサン並びに3.3×10-6のラセミ体のエチレン‐ビス‐(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)‐ジルコニュウムジクロライドを装入する。この溶液中で70dlのプロピレンが速やかに縮合され、その際二三分間後にこの混合物は濁る。この場合3.1barの圧力が2時間後に1.5barに低下する。次に重合を、過剰の単量体をエタノールの添加下に吹き除くことによって終了する。触媒の残りはHCl溶液と一緒に攪はんすることによって除きそして重合体を次いで吸引濾過し、60℃のもとで重量が一定になるまで乾燥する。白色の粉末状アイソタクッチク‐ポリプロピレンの収率は31.3gであり、従って活性は、41000のMnののもとで4,750kg(PP)/mol(Zr)/・時である。
アタックチックポリプロピレン(APP)の含有量は1.0%(130℃での高沸点ベンジン留分中での可溶性成分)である。1,2,4-トリクロルベンジン中135℃にてGPC-測定にて1.9のMw/Mnが得られる。」(4頁右上欄2行〜左下欄6行)
(2)訂正された請求項に係る発明が、各文献に記載された発明であるか、或いは各文献に記載された発明から容易に発明をすることができたものであるか否か検討する。
【1】訂正された請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)について
本件発明は、
「-(a)プロピレンホモポリマーおよび
(b)プロピレンホモポリマー20ないし99重量%、およびプロピレン単位20ないし90重量%およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレンおよびプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%からなるプロピレンポリマーの混合物
からなる群から選択されるポリオレフィン20ないし99重量%、
ここで、前記ポリオレフィンは少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有する、」を発明の構成(構成要件1という。)とし、また、
「および
- -20℃の転移温度を有し、かつ、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴムおよびエチレン/プロピレン/ジエンゴムからなる群から選択されるゴム1ないし80重量%
から本質的になる」を構成(構成要件2という。)とした、ポリオレフィン成形用組成物である。
これに対し、
●文献1は、本件特許明細書においても示しているとおり、従来技術として把握されるものであって、成形用組成物に基づいてアイソタクチックポリプロピレンと約-50℃のガラス転移温度を有するエチレン-プロピレン(EPR)ゴム10〜20重量%からからなる組成物について記載されている。
しかしながら、文献1に記載されているアイソタクチックポリプロピレンについては、重量平均分子量がMw=3.07×105であり、数平均分子量がMn=1.56×104であるから、分子量分布は(3.07×105)/(1.56×104)=19.7となり、分子量分布5未満を満足するものではないし、その他の物性(アイソタクチック指数、アタクチックポリマー鎖等)については具体的な説明は何らされていないから、文献1に記載のアイソタクチックポリプロピレンが本件発明の構成要件1において規定するポリオレフィンと同質のものということはできない。
そして、本件発明は請求項1に記載の構成を採用することによって、文献1には記載がされていない、低温でも高い硬度ないし高い衝撃強度を有するポリオレフィン成形用組成物とすることができたものであり、文献1に記載された技術からは予測できないものというべきである。
したがって、本件発明は、文献1に記載された発明であるということはできないし、文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献2には、式R-CH=CH2 で表される1-オレフィンをまたはこのオレフィンとエチレンとを溶液状態、懸濁状態または気相において-60〜200℃の温度、0.5〜60barの圧力のもとで、遷移金属化合物としてのメタロセンと活性剤としてのアルミノキサンとより成る触媒の存在下に重合または共重合することによって1-オレフィン重合体を製造するオレフィン重合体の製造方法に関して記載がされ、実施例1〜22によれば得られたポリオレフィンについて、I-指数(アイソタクチック指数)について70〜99.5%の範囲のものが、Mw/Mnについて1.9〜2.8の範囲のものがそれぞれ記載されている。
しかしながら、文献2には、本件発明の構成要件2であるゴムについては記載がされていなく、また、プロピレンホモポリマーを含むポリオレフィンとゴムとを混合することについては全く記載がされていない。
したがって、本件発明は、文献2に記載された発明であるということはできないし、文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献3には、熱可塑性プラスチックの特性を改質するために各種のポリマーブレンドが行われていること、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)の例が挙げられ、その目的が主に、高密度PEおよびPPの衝撃強度、ストレスクラックの改良であることが記載されている。そして、高密度PEに対しては低密度PEとのブレンドが有効であり、エチレン-プロピレンゴム(EPR)がPE、PPに対し、優れた効果をもつことも記載さている。さらに、アイソタクチックPP(IPP)とアタクチックPP(APP)とのブレンドは、両者の軟化温度にかなりの差があり、加工上若干の困難さを伴うが、均一にブレンドされた場合には、APPはIPPを可塑化することについても記載がされている。
しかしながら、文献3には、ポリマーブレンドにより熱可塑性プラスチックの特性を改質することが示唆されているものの、本件発明の構成要件1であるプロピレンホモポリマーを含むポリオレフィン成分については記載がされていない。
したがって、本件発明は、文献3に記載された発明であるということはできないし、文献3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献4には、PPにPEやEPRをブレンドすると脆化温度は下がるが同時に弾性率も低下すること、脆化温度を有効に下げて、剛性をあまり下げないようにする手段として、ブロック共重合法があり、エチレンとプロピレンを多段重合して得られるもので、PP、PE、EPRからなる複雑な組成物であると考えられること、さらに、PP系のアロイにさらにEPRやEPDMをブレンドしたものもあり、自動車などに多用されていることが記載されている。
しかしながら、文献4には、ポリマーブレンドすることは記載されているものの、本件発明の構成要件1、2については記載がされていない。
したがって、本件発明は、文献4に記載された発明であるということはできないし、文献4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献5には、分子量分布、組成分布が狭く、透明性、表面比粘着性、引張特性その他に優れた、耐ブロッキング性に優れたプロピレン系ランダム共重合体について記載され、
プロピレン系ランダム共重合体は、ポリエチレンなどのエチレンを主成分として含む他のエチレン系重合体に配合することにより、該他のエチレン系重合体の成形品の耐衝撃性、低温耐衝撃性、耐屈曲性、低温ヒートシール性を改善できること、種々のゴム重合体に配合することにより、耐薬品性、剛性が改善できることが記載されている。
しかしながら、文献5に記載された技術は、プロピレン系ランダム共重合体についてのものであって、本件発明の構成要件1であるプロピレンホモポリマーを含むことについては全く記載がない。
したがって、本件発明は、文献5に記載された発明であるということはできないし、文献5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献6には、(A)アイソタクチック指数が90を上回るホモポリマーポリプロピレンであるか、またはエチレンおよび/またはオレフィンCH2=CHR(但し、Rは2〜6個の炭素原子を有するアルキル基)との結晶性プロピレンコポリマーであって、85重量%を上回るプロピレンを含み、アイソタクチック指数が85を上回るものを10〜60重量部、(B)エチレンを含み、室温でキシレンに不溶性である結晶性ポリマー画分を10〜40重量部、および(C)所望により少量のジエンを含み、室温でキシレンに可溶性であり且つエチレンを40〜70重量%含む非晶質のエチレン-プロピレンコポリマー画分を30〜60重量部、を有して成るポリプロピレン組成物について記載がされている。
しかしながら、文献6に記載された発明は、エチレンを含み、室温でキシレンに不溶性である結晶性ポリマー画分を10〜40重量部を必須とするものであり、本件発明においてはそのような結晶性ポリマーを含むものではないし、また、これが本件発明構成要件1の(b)成分に相当するものということもできない。そうすると、得られた組成物は結果的に本件発明の組成物とは相違しているというべきである。
したがって、本件発明は、文献6に記載された発明であるということはできないし、文献6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献7には、式R-CH=CH2 で表される1-オレフィンをあるいはこれらのそれぞれ異なるオレフィン相互またはこれらとエチレンとを溶液状態で、懸濁状態でまたは気相において-60〜200℃の温度、0.5〜60barの圧力のもとで、遷移金属化合物としてのメタロセンと、線状の種類および/または環状の種類のアルミノキサンとより成る触媒の存在下に重合または共重合することによって1-オレフィン重合体を製造するに当たって、重合を、遷移金属成分化合物でありそして活性化剤が同様にアルミノキサンである触媒の存在下に実施する1-オレフィン重合体の製造方法について記載され、製造される重合体は、大きい分子量、非常に狭い分子量分布および高いアイソタクチック度を有していることが記載され、実施例1〜9において得られるポリオレフィンのI-指数(アイソタクチック指数)が94.3〜98.5%の範囲のものであり、また、分子量分布Mw/Mnが2.1〜2.6の範囲のものであるポリオレフィンが得られることが記載されている。
しかしながら、文献7には、本件発明の構成要件2である特定のゴムを混合することについては何ら記載がされていない。
したがって、本件発明は、文献7に記載された発明であるということはできないし、文献7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献8には、特定の重合条件のもとで重合させて得た特定の物性を有するプロピレン重合体が、従来のものよりも著しく高剛性で、耐熱性、表面硬度の優れたプロピレン重合体が得られることが記載され、プロピレン重合体に物性値であるアイソタクチックペンタッドは13C-NMR分析によるアイソタクチックペンタッド分率(mmmm)により測定するものであることが記載されているが、本件発明の構成要件1、2に関しては、全く記載がされていない。
したがって、本件発明は、文献8に記載された発明であるということはできないし、文献8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献9には、ポリプロピレンの立体規則性の定量に関して記載されているだけで、本件発明の構成要件1、2に関しては、何ら記載がされていない。
したがって、本件発明は、文献9に記載された発明であるということはできないし、文献9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●文献10には、プロピレンおよびより高級な他の1-オレフィンをジルコニウム化合物および線状アルミノキサンおよび環状アルミノキサンかなるアルミノキサン類のアルミニュウム含有化合物よりなる触媒系の存在下で重合する場合に、アイソタクッチク度が高く且つ分子量分布の狭い重合体が得られることが記載されているものの、本件発明の構成要件1、2に関しては、何ら記載がされていない。
したがって、本件発明は、文献10に記載された発明であるということはできないし、文献10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
◆次に、文献1〜10に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。
文献1には、アイソタクチックポリプロピレンとエチレン-プロピレンコポリマー(EPR)のブレンド物に関して記載され、アイソタクチックポリプロピレンについては、その重量平均分子量がMw=3.07×105であり、数平均分子量がMn=1.56×104であることが記載されているが、本件発明の少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有する特定のポリオレフィンとすることは記載がされていない。また、アイソタクチックポリプロピレンに対しエチレン-プロピレンコポリマー(EPR)の配合比を変えて得られた組成物の物性を検討するものであって、EPRゴムに対し、物性の異なるアイソタクチックポリプロピレンを配合することにより、組成物の物性の改善ができることについては記載がされているとはいえない。
さらに、文献2には、アイソタクチック指数が70%以上、分子量分布Mw/Mnが2.8以下のポリプロピレンホモポリマーについて記載がされているとしても、文献2に記載された技術は、公知の触媒の欠点を有さない触媒を採用することにより、高いアイソタクチック性および有利な粒度分布を有する1-オレフィンを製造することを目的とするものであって、文献2に記載されたポリプロピレンホモポリマーをゴム樹脂に配合する技術については記載がされているものではない。
したがって、文献1に記載された発明において、アイソタクチックポリプロピレンに代えて、文献2に記載されたポリプロピレンホモポリマーを適用することは当業者といえども容易に想到し得ることができないものというべきである。
また、文献3に記載された技術についても、熱可塑性プラスチックの特性を改質するために各種のポリマーブレンドが行われていること、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)の例があり、この場合の目的は主に、高密度PEおよびPPの衝撃強度、ストレスクラックの改良であって、たとえば、高密度PEに対しては低密度PEとのブレンドが有効であり、エチレン-プロピレンゴム(EPR)がPE、PPに対し、優れた効果をもつこと、また、アイソタクチックPP(IPP)とアタクチックPP(APP)とのブレンドは、両者の軟化温度にかなりの差があり、加工場若干の困難さを伴うが、均一にブレンドされた場合には、APPはIPPを可塑化することが記載されている。しかしながら、文献3に記載された技術は、一般的な、エチレン-プロピレンゴム(EPR)とPE、PPとの配合を示している程度のものというべきである。
したがって、文献3に記載された発明に、文献1〜2に記載された発明を適用して本件発明とすることは当業者といえども容易に想到し得ないものというべきである。
また、文献4には、PPにPEやEPRをブレンドすると脆化温度は下がるが同時に弾性率も低下することが記載されているものの、これらの技術は、一般的なポリマーアロイに関してのものであり、PE、PPとEPRとを配合して得られる効果について記載がされているとしても、アイソタクチックポリプロピレンホモポリマーを含有する組成物についてのものではないから、文献4に記載された発明に、文献1〜3に記載された発明を適用して本件発明とすることは当業者であっても容易に想到し得ないものといえる。
文献5には、プロピレン系ランダム共重合体は種々のゴム状重合体に配合することにより該ゴム状重合体の物性を改善することができること、ゴム状重合体としてエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・1-ブテン・非共役ジエン共重合体、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロツク共重合体などが例示されているが、文献5に記載された技術は、新規プロピレン系ランダム共重合体は、従来公知のプロピレン系ランダム共重合体にくらべて分子量分布及び組成分布が狭く、低分子量重合体成分、とくに沸騰酢酸メチルへの可溶分及びアセトン・n-デカン混合溶媒(容量比1/1)への可溶分の両者で表わされる低分子量重合体成分の含有率が少なく、該プロピレン系ランダム共重合体から得た成形体は表面非粘着性、透明性、剛性などの力学的物性にとくに優れているというものであって、プロピレン系ランダム共重合体によってその効果を奏するというものであるから、プロピレンホモポリマーを必ず含む本件発明のポリオレフィンに係る技術とは技術的に異なるものである。
したがって、文献5に記載された発明に文献1〜4に記載された発明を適用することは、当業者が予測できないことというべきである。
文献6には、(A)アイソタクチック指数が90を上回るホモポリマーポリプロピレンであるか、またはエチレンおよび/またはオレフィンCH2=CHR(但し、Rは2〜6個の炭素原子を有するアルキル基)との結晶性プロピレンコポリマーであって、85重量%を上回るプロピレンを含み、アイソタクチック指数が85を上回るものを10〜60重量部、(B)エチレンを含み、室温でキシレンに不溶性である結晶性ポリマー画分を10〜40重量部、および(C)所望により少量のジエンを含み、室温でキシレンに可溶性であり且つエチレンを40〜70重量%含む非晶質のエチレン-プロピレンコポリマー画分を30〜60重量部、を有して成るポリプロピレン組成物について記載がされている。
しかしながら、文献6に記載された発明は、エチレンを含み、室温でキシレンに不溶性である結晶性ポリマー画分を10〜40重量部を必須とするものであり、これによって文献6に記載された効果を奏するものであるから、文献6に記載された発明において該成分は必須の成分というべきものである。
そうであれば、文献6に記載された発明に、文献1〜5に記載された発明を適用することは、当業者といえども予測できないことというべきである。
文献7〜10には、アイソタクチックポリプロピレンに関して記載されているが、アイソタクチックポリプロピレをゴムと混合することについては全く記載がされていないし、ゴムなど他の成分と配合することによりアイソタクチックポリプロピレンの物性を改善できることについても記載がされていない。
そうすると、文献7〜10に記載されたアイソタクチックポリプロピレンに関しては、物性を改善すべきことは何ら記載がされていないのであるから、文献7〜10に記載された発明に文献1〜5に記載された発明を適用して物性を改善しようとすることは当業者といえども予測できないことというべきである。
そして、本件発明は、構成要件1、2を採用することにより、明細書記載の格別の効果を奏するものといえる。
したがって、文献1〜10に記載の技術を併せ検討しても、本件発明は、これらの技術から当業者が容易に予測できたとすることはできないから、本件発明は、文献1〜10に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【2】訂正された請求項2〜4に係る発明について
訂正された請求項2〜4に係る発明は、本件発明を引用するものであるか、あるいは本件発明を間接的に引用する発明であるから、本件発明と同様、訂正された請求項2〜4に係る発明は、文献1〜10に記載された発明であるということはできないし、文献1〜10に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
2.本件特許が特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たさない特許出願であるか否か検討する。
(1)各特許異議申立人の特許法第36条に係る主張
イ.押谷泰紀の主張の概要
本件発明の特徴は、本件発明で使用するポリオレフィンの「アイソタクチック指数が少なくとも85%であること」、「分子量分布が5未満であること」、および「アタクチックポリマー鎖含有率は1重量%未満であること」を規定したことであるが、本件明細書には、アイソタクチックポリオレフィンの製造方法については何ら開示されておらず、実施例にも前記の点の制御方法が全く記載されていないから、当業者が容易にその発明を実施することができない。
ロ.日本ポリケム株式会社の主張の概要
アイソタクチック指数についての定義および測定法が、発明の詳細な説明において記載されていない。
アタクチックポリマー鎖含有率なる用語は、その定義が明細書中になく、その測定方法には矛盾がある。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には当業者が容易にその発明を実施できる程度にその構成が記載されておらず、また、特許請求の範囲において特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでない。
(2)判断
イ.押谷泰紀の主張について
訂正後の明細書によれば、本件請求項1には「前記ポリオレフィンは少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有する」と記載し、前記ポリオレフィンとして「(a)プロピレンホモポリマーおよび(b)プロピレンホモポリマー20〜99重量%、およびプロピレン単位20ないし90重量%およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10ーアルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレンおよびプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%からなるプロピレンポリマーの混合物からなる群から選択される」ことを記載している。
そして、明細書段落【0034】には「使用したアイソタクチックポリプロピレンは、96.0%のアイソタクチック指数(II)、49のniso 、32g/10分のMFI230/5および148℃の融点を有していた。更なるデータは、Mw=190,000g.モル;Mw/Mn=2.2、VN=174cm3/g、エーテルまたはヘプタンで抽出可能なAPO含量はゼロであった」と記載され、使用するアイソタクチックポリオレフィンのついての具体的な物性が記載されている。そして、Mw/Mnの値が分子量分布を意味し、APOがアタクチックポリマー鎖を意味するものであることは明細書段落【0008】、明細書段落【0010】、明細書段落【0011】に示されているとおりである。
そうすると、本件発明において採用されているアイソタクチックポリプロピレンについては、少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有する物が使用されていることは明らかである。
確かに、本件特許明細書には、本件発明で採用する前記物性を有するアイソタクチックポリプロピレンの製造方法については記載が明確にされていないが、本件発明は、「少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有するアイソタクチックポリプロピレン」そのものの発明あるいはその製造方法に係る発明ではないのであり、また、前記アイソタクチックポリプロピレンが本件出願時において新規化合物であるともいえず(特許異議申立人 押谷泰紀の提出した刊行物である甲第2号証によれば、アイソタクチック指数、分子量分布に関して記載されているポリプロピレンが示されており、本件のアイソタクチックポリプロピレンは入手可能といえる。)、しかも、本件発明の実施例において原料としてアイソタクチックポリプロピレンが使用されている以上、入手が可能なものといえるから、特にその製造方法が記載されていないことをもって、直ちに本件明細書の発明の詳細な説明に当業者が容易にその発明を実施することができる程度に発明の構成が記載されていないとまではいえない。
ロ.日本ポリケム株式会社の主張について
本件発明のアイソタクチック指数に関しては、明細書段落【0029】に記載されている。また、アタクチックポリマー鎖含有率についても、明細書段落【0008】、明細書段落【0011】に記載されており、実施例によれば、「エーテルまたはヘプタンで抽出可能なAPO(APP)の含量はゼロであった。」と記載されているから、アタクチックポリマー鎖含有率がゼロに近いものを採用しているのである。
そして、本件発明は、特定のアタクチックポリマー鎖含有率を有するポリオレフィン重合体に係る発明でもないし、また、その製造方法に係る発明でもないのである。
したがって、明細書の記載を参酌すれば、当業者であれば、前記記載事項により容易に理解できるものというべきであり、直ちに、本件明細書の発明の詳細な説明に当業者が容易にその発明を実施することができる程度に発明の構成が記載されていないとまではいえないし、特許請求の範囲において特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないとまではいえない。
VI.当審が通知した取消理由について
1.当審が通知した取消理由の概要
(平成16年1月15日付け取消理由通知について)
当審は、刊行物1(特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した甲第1号証:特開昭62-119215号公報)、刊行物2(特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した甲第2号証:特開平3-205439号公報)、刊行物3(特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した甲第3号証:特開平1-275608号公報)、刊行物4(特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した甲第4号証:特開昭64-66217号公報(特開平1-66217号公報))、刊行物5(特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した甲第5号証:日本分析化学会編「高分子分析ハンドブック」朝倉書店、1987年7月25日発行、第250〜253頁)、刊行物6(特許異議申立人 押谷泰紀が提出した甲第1号証:「POLYMER」28巻、第47〜56頁、1987年1月発行)、刊行物7(特許異議申立人 押谷泰紀が提出した甲第2号証:特開昭64-51408号公報(特開平1-51408号公報))、刊行物8(特許異議申立人 押谷泰紀が提出した甲第3号証:高分子学会編「ポリマーアロイ」株式会社東京化学同人、1981年4月1日発行、第273〜274頁)、刊行物9(特許異議申立人 押谷泰紀が提出した甲第4号証:井上孝/市原祥次著「ポリマーアロイ」共立出版株式会社、1988年6月20日発行、第49〜80頁)を提示して、訂正前の請求項1、3、4、6に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、訂正前の請求項1、3、4、6に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、訂正前の請求項1〜6に係る発明は、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜6に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべき旨通知している。
(平成17年3月22日付け取消理由通知について)
イ.「少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有する」ポリオレフィンについて、発明の詳細な説明に当業者が容易に実施ができる程度に発明の構成が記載されていない。
ロ.ポリプロピレンがどのようなポリオレフィンで構成されているか、実施例に明瞭に記載されておらず、発明の詳細な説明に当業者が容易に実施ができる程度に発明の構成が記載されていない。
ハ.明細書段落【0034】の記載では、ゴム組成物の組成が明確でない。
ニ.例10、例11は訂正前の請求項1に係る発明の実施例とは認められない。
以上のとおりであるから、訂正前の請求項1に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべき旨通知している。
2.当審が通知した取消理由についての判断
(平成16年1月15日付け取消理由通知について)
特許法第29条第1項第3号第29条第2項の規定違反について
(1)各刊行物に記載された事項
当審が通知した取消理由で提示した刊行物1〜9は、特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した証拠である甲第1〜5号証及び特許異議申立人 押谷泰紀が提出した証拠である甲第1〜4号証にそれぞれ相当するものであるから、刊行物1〜9に記載された事項は、前記V.1.(1)に記載のとおりである。
(2)対比・判断
【1】本件発明について
当審が通知した取消理由で提示した刊行物1〜9は、特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した証拠である甲第1〜甲第5号証及び特許異議申立人 押谷泰紀が提出した証拠である甲第1〜4号証にそれぞれ相当するものであるから、前記V.1.(2)に記載したとおり 、本件発明は、刊行物1(特許異議申立人 日本ポリケム株式会社が提出した甲第1号証)〜刊行物9(特許異議申立人 押谷泰紀が提出した甲第4号証)に記載された発明であるということはできないし、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【2】訂正後の請求項2〜4に係る発明について
訂正後の請求項2〜4に係る発明は、本件発明を引用するか、あるいは本件発明を間接的に引用する発明であるから、本件発明と同様、訂正後の請求項2〜4に係る発明は、刊行物1〜9に記載された発明であるということはできないし、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(平成17年3月22日付け取消理由通知について)
特許法第36条第4項の規定違反について
(1)判断
イ.について
前記V.2.(2)イ.に記載したとおりであり 、本件明細書の発明の詳細な説明に当業者が容易にその発明を実施することができる程度に発明の構成が記載されていないとまではいえない。
ロ.ハ.ニ.について
平成17年9月29日付け訂正請求書(手続補正指令により平成17年12月21日付けで手続補正書(方式)を提出)により本件明細書は訂正されたことから、本件明細書の記載不備は解消された。
VII.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠方法並びに当審が通知した取消理由によっては、訂正後の請求項1〜4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の請求項1〜4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
耐衝撃性ポリオレフィン成形用組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】-(a)プロピレンホモポリマーおよび
(b)プロピレンホモポリマー20ないし99重量%、およびプロピレン単位20ないし90重量%およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレンおよびプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%からなるプロピレンポリマーの混合物
からなる群から選択されるポリオレフィン20ないし99重量%、
ここで、前記ポリオレフィンは少なくとも85%のアイソタクチック指数、5未満の分子量分布および1重量%未満のアタクチックポリマー鎖含有率を有する、および
--20℃の転移温度を有し、かつ、スチレン/ブタジエンゴム、エチレン/プロピレンゴムおよびエチレン/プロピレン/ジエンゴムからなる群から選択されるゴム1ないし80重量%
から本質的になる、ポリオレフィン成形用組成物。
【請求項2】上記ポリオレフィンが、プロピレンホモポリマーである請求項1の成形用組成物。
【請求項3】上記ポリオレフィンが、
プロピレンホモポリマー20ないし99重量%、およびプロピレン単位20ないし90重量%およびエチレンおよび/または式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される、エチレンおよびプロピレン以外のオレフィンの単位80ないし10重量%からなるプロピレンコポリマー80ないし1重量%からなるプロピレンポリマーの混合物
である請求項1の成形用組成物。
【請求項4】付加的に安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、光保護剤、金属失活剤、フリーラジカル捕捉剤、フィラーおよび強化剤、相溶化剤、可塑剤、滑剤、乳化剤、顔料、蛍光増白剤、防炎剤、帯電防止剤または発泡剤を含む請求項1ないし3のいずれか一つ成形用組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、アイソタクチックホモポリマーおよび/またはオレフィンコポリマーおよびゴムより成る低温でも高い硬度ないし高い耐衝撃性を有するポリオレフィン成形用組成物に関する。
【0002】
【従来技術】
耐衝撃性ポリオレフィン成形用組成物は、一般的に公知である。これらは、例えばポリプロピレンおよびゴム、例えばエチレン/プロピレンゴム(EPM)またはエチレン/プロピレン/ジエン(EPDM)を溶融状態で混合することによって製造される(Angew.Makromol.Chem.185/186(1991年)97;およびPolymer,28(1987年)47)。
【0003】
従来技術によると、使用するポリプロピレンは、少なくとも2ないし10重量%の範囲のアタクチックポリプロピレン(APP)および90ないし98重量%の範囲の広範囲に変化する鎖長(Mw/Mn=5〜10)のポリプロピレン鎖からなる。
【0004】
代わりに、APPに加えてポリプロピレン鎖および上記構成のコモノマーのポリマー鎖、種々のコポリマー含量のおよび同様にして種々の鎖長のプロピレンコポリマーからなるプロピレンコポリマーも、ポリプロピレン成分として使用されている。
【0005】
さらにまた、いわゆる反応体ブレンドも知られている。これらは、APP、ポリプロピレンおよび種々の鎖長のコモノマーならびに種々の鎖長のプロピレンコモノマー鎖およびコモノマー含有のポリマーから構成されている。これらは重合反応器内で直接1ないし多段階の重合段階で製造される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
これらの全ての成形用組成物は、該組成物が所望の高い耐衝撃性において不満足な剛性/硬度しか示さないという共通の特徴を有している。
【0007】
従って、本発明の目的は、従来技術で知られているような不利な性質を示さない成形組成物を見出すことである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
驚くべきことに、アタックチクポリマー鎖(アタクチックポリオレフィン;APOと呼ぶ)を含まず、そして均一な分子量分布(Mw/Mnが5未満が好ましい)を有するポリマーおよびコポリマーを使用すると、上記の問題点が回避できることを見出した。
【0009】
従って、本発明は、成形用組成物に基づいてアタクチックポリマー鎖を含有しないアイソタクチックポリオレフィン20ないし99重量%のおよび成形用組成物に基づいて-20℃以下のガラス転移温度を有するゴム1ないし80重量%のから本質的になるポリオレフィン成形用組成物に関する。
【0010】
本発明によるポリオレフィン成形用組成物の製造に使用するAPOを含まないアイソタクチックポリオレフィンは、5未満、好ましくは3.5未満の狭い分子量分布(Mw/Mn)および均一な鎖構成(Chain build-up)を有するポリマーである。ここで「均一な鎖構成」とは、ポリマー鎖における構成欠損および/またはコモノマーのランダム分布を意味するものと理解されたい。
【0011】
APOを含まないアイソタクチックポリオレフィンは、アタクチックポリマー鎖が本質的にないポリオレフィンを意味するものと理解されたい。これらは、高い立体特異性メタロセン/アルミノキサン触媒系を使用して製造された生成物(ホモおよびコポリマー)である。これに対応する方法は公知であり、例えばヨーロッパ特許出願公開第302,424号明細書、同第336,127号明細書、同第336,128号明細書およびドイツ特許第4035886.0号明細書に記載されている。上記方法により製造されたアイソタクチックポリオレフィンは、あったとしても非常に少量の含量のアタクチックポリマー鎖を含む。一般に、この含量は1重量%未満である。
【0012】
原則的に、従来のチーグラー触媒(MgCl2/TiCl4/電子供与体/AlEt3)を使用して製造され、そして際立ったAPO含量を含むポリオレフィンをAPOを含まないポリオフレインに、従って本発明に従えば炭化水素によってAPOを抽出することによってポリオレフィンに転化することも可能である。しかしながら、そのような方法は複雑なプロセス、すなわち価格の理由により、そのような操業は好ましいとは言えない。
【0013】
本発明により使用するアイソタクチックポリオレフィンは、5未満、好ましくは3.5未満の分子量分布Mw/Mnおよび少なくとも85%のアイソタクチック指数(II)を有するオレフィンホモポリマーまたは少なくとも85%のアイソタクチック指数および5未満、好ましくは3.5未満の分子量分布Mw/Mnを有するオレフィンコポリマーのいずれかであり、あるいはポリオレフィンはオレフィンホモポリマーとアイソタクチック指数が少なくとも85%であり、成分のMw/Mnが5未満、好ましくは3.5未満であるオレフィンコポリマーからなる。
【0014】
オレフィンポリマーがオレフィンホモポリマーである場合には、このものは、式Ra-CH=CH-Rb(式中、RaおよびRbは同一または異なって水素原子またはC1〜C10-アルキル、好ましくはC1〜C6アルキルであるかあるいはRaおよびRbはこれらと結合する原子とともに4ないし22個の炭素原子を有する環を形成する)で表される少なくとも3個の炭素原子を有するオレフィンの単位から成る。好ましいオレフィンは、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、ペンテンおよびノルボルネンである。プロピレンが特に好ましく、すなわち本発明による成形用組成物は特にポリプロピレンからなる。
【0015】
オレフィンポリマーがオレフィンコポリマーである場合、このものは、上記のホモポリマーの項で規定した、そして少なくとも85%のアイソタクチック指数を有するオレフィン単位99.5ないし50重量%、好ましくは99ないし70重量%およびエチレンおよびまたはコモノマーとして上記規定の別のオレフィン単位0.5ないし50重量%、好ましくは1ないし30重量%からなる。
コモノマーは、高い規則性でランダムに導入される。好ましいコモノマーは、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、ノルボルネンまたはペンテンである。特に好ましいオレフィンコモノマーは、プロピレン単位およびエチレンコモノマー単位からなる。
【0016】
ポリオレフィンがオレフィンホモポリマーとオレフィンコポリマーとの混合物からなる場合には、オレフィンホモポリマーは、上記組成を有しており、一方オレフィンコポリマーは、上記のオレフィンホモポリマーの項で規定された20ないし90重量%、好ましくは40ないし90重量%の範囲およびオレフィンコポリマーの項で規定されたオレフィンおよびエチレンおよび/または少なくとも1種類のオレフィンの単位を80ないし10重量%、好ましくは60ないし10重量%の範囲で含んでなる。コモノマーをランダムに導入するのが好ましい。この場合における全ポリオレフィン組成物におけるオレフィンホモポリマーの含量は、20ないし99重量%、好ましくは40ないし95重量%であり、そしてオレフィンコポリマーの含量は、80ないし1重量%、好ましくは60ないし5重量%である。
【0017】
この組成物が2種類の異なるポリマー成分を含んでなる場合には、本発明によるポリオレフィンは、40ないし95重量%(ポリオレフィンの全重量基準)の少なくとも85%のアイソタクチックインデックスを有するポリプロピレンおよび40ないし90重量%のプロピレン単位および60ないし10重量%のエチレン単位(各場合、オレフィンコポリマーの全重量基準)を含んでなる60ないし5重量%(ポリオレフィンの全重量基準)のオレフィンコポリマーから構成されることが特に好ましい。
【0018】
本発明による成形用組成物は、20ないし99重量%、好ましくは40ないし95重量%の量のアイソタクチックオレフィンポリマーを含んでなる。
1ないし80重量%、好ましくは5ないし60重量%の本発明による成形用組成物は、-20℃未満のガラス転移温度を有するゴムである。好適なゴムは、例えばスチレン/ブタジエンゴム、シリコーンゴム、エチレン/プロピレンゴム(EPM)またはエチレン/プロピレン/ジエンゴム(EPDM)である。EPMおよびEPDMゴムは、付加的に40%までのポリエチレンを含んでもよい。1,4-ヘキサジエン、ノルボルネンまたはシクロペンタジエンは、ジエン成分としてゴムの全量に対して10重量%までの量で存在することができる。
【0019】
エチレンおよびプロピレンの含量は、-20℃未満のアモルファス成分のガラス転移温度が達成される限り制限されない。
市販されているEPMゴムの代表的組成物は、例えば10ないし60重量%のプロピレン単位および90ないし40重量%のエチレン単位である。エチレン単位のうち、0ないし40重量%が純粋なポリエチレン含量であり、そして残りがプロピレンと一緒になってコポリマー含量を形成する。
【0020】
EPDMゴムは、対応する組成を有するが、1ないし10重量%の上記の種のジエンもプロピレンおよびエチレンに加えてコポリマー含量に付加的に導入されている。代表的なEPMおよびEPDMゴムの溶融粘度は、0.5ないし300g/10分(MFI 230/5)である。
【0021】
ムーニー粘度(121℃で測定,ML)は、代表的には20ないし80である。60%伸度における引張強度は、代表的には10ないし300psi(ポンド/平方インチ,1psi=6894.8kg/m・秒2=1Pa)である。
【0022】
代表的に使用できるゴムは、例えば既存商品名Vistalon、Exxelor(Exxon Chemicals)、Dutral(Dutral S.A)、Nordel(DuPont)またはBua(Veba)の名で市販されている。
【0023】
アイソタクチックオレフィンポリマーおよびゴムに加えて、本発明による成形用組成物は、慣用の添加剤、例えば安定剤、酸化防止剤、UV吸収剤、光保護剤、金属失活剤、フリーラジカル捕捉剤、フィラーおよび強化剤、相溶化剤、可塑剤、滑剤、乳化剤、顔料、蛍光増白剤、防炎剤、帯電防止剤および発泡剤も含むことができる。
【0024】
本発明による成形用組成物は、ポリマーおよび添加剤を混合するプラスチック加工に慣用な方法により製造することができる。
その一つとして、成形用組成物の全ての構成成分が粉末である場合には高速ミキサー中で焼成(Sinter)することである。
【0025】
別の方法として、スクリュー上に混合および混練手段を有する押出機を使用することである。
最後に、ゴムおよび合成ゴム工業に利用されているような混練機も好適な混合機である。
【0026】
混合温度は、成形用組成物の特定な組成に従って、単純な実験のくり返しにより決定することができる。
本発明による成形用組成物は、高い衝撃強度、特に0℃以下の温度においても高い衝撃強度と組み合わせた高い硬度によって特徴づけられる。一般に、この成形用組成物は、衝撃強度および引き裂き強度と組み合わせて高い剛性、硬度、寸法安定性および引っ掻き強度が望まれる全ての例に押出、射出成形、発泡またはブロー成形された成形物の形態で使用できる。
【0027】
このものは、自動車構成物において、例えば側部裏側片、スポイラー、シール、フェンダー、ライニング、バンパー材料、トラックおよびトラクターフェンダー、耐スクラッチ自動車内装物およびハブキャップに使用することができる。
【0028】
更にまた、本発明による成形用組成物は、例えば耐引き裂き性フィルム、膜フィルター、繊維およびフィラメントの製造にも好適である。
【0029】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
II=アイソタクチック指数(13C-NMR分析による)。
【0030】
niso=平均アイソタクチック鎖長(13C-NMR)。
nPE=平均ポリエチレンブロック鎖長。
VN=毛細管粘度計中で0.1%デカヒドロナフタレン溶液として135℃で測定した粘度数。
【0031】
MFI 230/5=DIN53 735に従って230℃で5kg負荷下でのメルトインデックス。
Mw/Mn=多分散度(Polydispersity)(鎖長分布の尺度)。DSC(20℃/分)による融点の測定。
【0032】
BIH=ボール押し込み硬度(DIN53 456,圧縮シート4mm幅による)。
akv=Vノッチ(側面角45°、ノッチ深さ1.3mm、ノッチ半径1mm)を用いて圧縮シートから採った標準小棒(50×6×4mm)上で測定したDIN53 453によるノッチ衝撃強度。
【0033】
ZSK28二軸押出機(Werner & Pfleiderer)を成形用組成物の製造に使用した。
例1
全成形用組成物に基づいてアイソタクチックプロピレンホモポリマー90重量%、および以下の組成、すなわち、35.8重量%のプロピレン単位および64.2重量%のエチレン単位を有するゴム10重量%からなる成形用組成物を押出成形により製造した。
【0034】
このゴム組成物のうちの40.4重量%はポリエチレンであり、そしてその59.6重量%は、プロピレン単位60.0重量%とエチレン単位40.0重量%とからなるエチレン/プロピレンコポリマー(EPM)であった。ゴムのMFI 230/5は、2g/10分であり、粘度数(VN)は、236cm3/gであり、DSC融点は、131℃であり、そしてDSCガラス転移温度は、-56℃であった。使用したアイソタクチックポリプロピレンは、96.0%のアイソタクチック指数(II)、49のniso、32g/10分のMFI 230/5および148℃の融点を有していた。更なるデータは、Mw=190,000g.モル;Mw/Mn=2.2、VN=174cm3/g、エーテルまたはヘプタンで抽出可能なAPO含量はゼロであった。
【0035】
9kgのアイソタクチックポリプロピレン粉末を1kgのゴムと混合し、そしてこの混合物を10gのペンタエリスリチルテトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を用いて押出条件下に化学的劣化に対して安定化させた。押出機の5箇所の加熱帯域において確立された温度は、120℃(入口)、150℃、190℃、185℃および180℃(ダイプレート)とした。押出スクリューを毎分300回転で操作した。押出機におけるこの混合物の溶融温度は、210℃であった。
【0036】
以下のデータが、このようにして製造された成形用組成物に対して測定された。
MFI(230/5)=31g/10分;VN=168cm3/g;BIH=70Nmm-2;akv=10.1mJmm-2(23℃);5.4mJmm-2(0℃)および4.3mJmm-2(-20℃)。融点(DSC)=128および148℃、ガラス転移温度Tg=-56℃。
【0037】
比較例A
本発明による狭い分布のAPO不含の(ここでAPP不含の;APP=アタクチックポリプロピレン)アイソタクチックポリプロピレンの代わりに、以下のデータを有するポリプロピレンを例1と同一の条件で使用した。
MFI(230/5)=27g/10分;VN=220cm3/g;Mw=312,000g.モル;Mw/Mn=8.5;ヘプタン抽出によるAPP含量:2.3重量%。
【0038】
このようにして得られた成形用組成物は、以下のデータを有していた。
MFI(230/5)=24g/10分;VN=245cm3/g;BIH=...Nmm-2;akv=...mJmm-2、融点(DSC)=128/164℃、ガラス転移温度Tg=-56℃。
【0039】
例2
例2〜4および比較例B〜D
10重量%のゴムの代わりに15重量%(例2および比較例B)、25重量%(例3および比較例C)および40重量%(例4および比較例D)のゴムを使用した以外は例1(例2〜4)または比較例A(比較例B〜D)と同様の操作を行った。
【0040】
結果を表1に要約する。

(V=比較例)
例5〜8
以下のデータを有する生成物を本発明によるアイソタクチックプロピレンホモポリマーとして使用した以外は例1〜4を繰り返した。
II=96.1%;niso=53;MFI(230/5)=4g/10分;融点=151℃、Mw=369,500g、Mw/Mn=2.0;VN=293cm3/g;エーテルまたはヘプタンで抽出されるAPPの含量はなし。
【0041】
このプロピレンを10重量%(例5)、15重量%(例6)、25重量%(例7)および40重量%(例8)のゴムと一緒に押出成形により加工して表2に要約するデータを有する成形用組成物を得た。
【0042】
比較例E〜H
本発明によらない以下のデータを有するポリプロピレンを使用した以外は、例5〜8の操作を繰り返した。
MFI(230/5)=9g/10分;VN=302cm3/g;Mw=288,000g/モル;Mw/Mn=5.7;ヘプタン抽出によるAPP:2.7重量%。
【0043】
このようにして得られた成形用組成物、VE(10%)、VF(15%)、VG(25%)および40%ゴム含量を有するVHは、表2に要約したデータを有していた。

例9
以下のデータを有する生成物を本発明によるアイソタクチックプロピレンホモポリマーとして使用する以外は例3を繰り返した。
II=96.4%;niso=60;MFI(230/5)=100g/10分;融点=148℃、Mw=154,500g/モル、Mw/Mn=2.2;VN=146cm3/g;エーテルまたはヘプタンで抽出されるAPPの含量はなし。
【0044】
以下のデータがゴムと一緒に押出成形により製造された成形用組成物について測定された。
MFI(230/5)=79dg/分;VN=170cm3/g;
BIH=72Nmm-2;akv=28.6(23℃)、17.5(0℃)および8.7mJmm-2(-20℃)。
【0045】
参考例10
以下の組成および性質を有するエチレン/プロピレンコポリマーを本発明によるポリオレフィンとして使用する以外は例3を繰り返した。
エチレン含量4.3%、1.2未満のnPEの平均エチレンブロック長を有するの導入、すなわち、主なエチレン含量は分離されたユニットで導入される。プロピレン配列のIIは96.8%とした。
MFI(230/5)=7.0g/10分、VN=289cm3/g;Mw=402,500g/モル、Mw/Mn=2.0。
【0046】
エーテルまたはヘプタンで抽出されるAPP含量はなし。
以下のデータがゴムと一緒に押出成形により製造された成形用組成物に対して測定された。
【0047】
MFI(230/5)=3.5g/10分、VN=272cm3/g;BIH=50Nmm-2;akv=45.7(23℃)、27.9(0℃)および18.4mJmm-2(-20℃)。
【0048】
例11
二段階方法で製造され、そして以下の組成および性質を有するエチレン/プロピレンブロックコポリマーを本発明によるポリオレフィンとして使用する以外は例3を繰り返した。
【0049】
12.5%エチレン含量;コポリマーの分別は、96.8%のIIを有する76%のポリプロピレンおよび52%のエチレン含量を有する24%のエチレン/プロピレンコポリマーの組成を示し、エチレンは単独単位およびブロック形態の両方として導入されていた。
MFI(230/5)=4.9g/10分、VN=326cm3/g;Mw=407,000g/モル、Mw/Mn=3.1。
【0050】
エーテルまたはヘプタンで抽出できるAPP含量なし。
以下のデータがゴムと一緒に押出成形により製造された成形用組成物に対して測定された。
【0051】
MFI(230/5)=3.4g/10分、VN=298cm3/g;BIH=39Nmm-2;akv:-40℃への降下した試験検体の破壊なし。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2006-02-13 
出願番号 特願平5-5320
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 534- YA (C08L)
P 1 651・ 531- YA (C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉宗 亜弓宮坂 初男  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3328674号(P3328674)
権利者 バーゼル・ポリオレフィン・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
発明の名称 耐衝撃性ポリオレフィン成形用組成物  
代理人 奥村 義道  
代理人 江崎 光史  
代理人 江崎 光史  
代理人 奥村 義道  
代理人 三原 恒男  
代理人 小島 隆  
代理人 三原 恒男  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 鍛冶澤 實  

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