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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J |
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管理番号 | 1136204 |
異議申立番号 | 異議2003-70571 |
総通号数 | 78 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-11-11 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-03-03 |
確定日 | 2006-04-20 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3321379号「生分解性多孔質フィルム」の請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3321379号の請求項1ないし13に係る特許を取り消す。 |
理由 |
【I】手続きの経緯 特許第3321379号の請求項1〜13に係る発明についての出願は、平成9年2月19日に特許出願(優先日 平成8年2月29日 日本)され、平成14年6月21日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、菅野 司(以下「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立てがなされ、平成16年5月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月28日に特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、平成17年7月21日付けで訂正拒絶理由が通知されたが、指定期間内である平成17年9月2日に意見書、手続補正書(訂正請求書)及び上申書が提出されたものである。 【II】訂正の適否について 1.訂正請求に対する補正の適否について 特許権者は、平成17年9月2日付け手続補正書において、平成17年7月28日付け訂正請求書における訂正事項(3-1)の請求項1中の「ポリエチレンおよびポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種」を、「ポリエチレンおよび結晶性ポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種」と補正し、また、同請求項2,6,7中の「熱可塑性樹脂」を、「ポリエチレンおよび結晶性ポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種」と補正している。 しかしながら、当該補正は訂正請求書に添付された訂正明細書の記載内容を変更するものであるから訂正の要旨を変更するものであり、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に違反するので、当該補正は認められない。 2.訂正の内容 上記のように、平成17年9月2日付け手続補正書による補正は認められない。平成17年7月28日付け訂正請求書において特許権者が求めている訂正には、下記の訂正事項が含まれている。 (1)特許請求の範囲の請求項1中の「熱可塑性樹脂」を、「ポリエチレンおよびポリプロピレンから選ばれる少なくとも一種」と訂正する。 3.訂正拒絶理由の内容 訂正拒絶理由の内容は以下のとおりである。 特許権者は、上記訂正事項(1)の根拠として、本件明細書の段落【0020】の記載を挙げるが、同段落のみならず本件明細書には、「熱可塑性樹脂」として「結晶性ポリプロピレン」との記載はあるが、結晶性、非結晶性を問わず一般の「ポリプロピレン」に係る記載はなく、また示唆もない。したがって、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 4.判断 上記訂正拒絶理由は妥当なものと認められるから、当該訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する特許法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 【III】本件発明 上記のように、訂正請求書による訂正は認められないので、本件の請求項1〜13に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明13」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】(a)脂肪族ポリエステル50〜95重量%と熱可塑性樹脂5〜50重量%とからなる樹脂混合物100重量部、(b)充填材20〜400重量部、および(c)可塑剤0〜50重量部を含む樹脂組成物を溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸されたものであることを特徴とする生分解性多孔質フィルム。 【請求項2】(a)脂肪族ポリエステル50〜95重量%と熱可塑性樹脂5〜50重量%とからなる樹脂混合物100重量部、(b)充填材20〜400重量部、および(c)可塑剤5〜50重量部を含む樹脂組成物を溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸されたものである請求項1に記載の生分解性多孔質フィルム。 【請求項3】脂肪族ポリエステルが、温度190℃におけるメルトインデックスが0.2〜50であり、融点が70〜160℃である請求項1または請求項2に記載の生分解性多孔質フィルム。 【請求項4】脂肪族ポリエステルが、下記(I)式で表わされる脂肪族オキシカルボン酸単位0.02〜30モル%、下記(II)式で表わされる脂肪族ジオール単位35〜49.99モル%、および下記(III)式で表わされる脂肪族ジカルボン酸単位35〜49.99モル%からなり、かつ、数平均分子量が1万〜20万である請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の生分解性多孔質フィルム。 【化1】 【化2】 【化3】 【請求項5】脂肪族オキシカルボン酸が乳酸であり、脂肪族ジオールが-1,4-ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸である、請求項4に記載の生分解性多孔質フィルム。 【請求項6】(a)脂肪族ポリエステル50〜95重量%と熱可塑性樹脂5〜50重量%とからなる樹脂混合物100重量部、(b)充填材20〜400重量部、および(c)可塑剤0〜50重量部を含む樹脂組成物を溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸することを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生分解性多孔質フィルムの製造方法。 【請求項7】延伸倍率が、少なくとも一軸方向に1.2〜8倍の延伸倍率で、かつ、延伸温度が、脂肪族ポリエステルと熱可塑性樹脂とから成る樹脂混合物の融点ないし融点より100℃低い温度の温度範囲内で選ばれた温度で延伸することを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生分解性多孔膜質フィルムの製造方法。 【請求項8】請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生分解性多孔膜質フィルムを用いてなる衣料用フィルム。 【請求項9】請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生分解性多孔膜質フィルムを用いてなる濾過材。 【請求項10】請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生分解性多孔膜質フィルムを用いてなる衛生・医療用材料。 【請求項11】請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生分解性多孔膜質フィルムを用いてなる農業用フィルム。 【請求項12】請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生分解性多孔膜質フィルムを用いてなる包装材。 【請求項13】請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の生分解性多孔膜質フィルムを用いてなる合成紙。」 なお、特許明細書の特許請求の範囲の請求項5において引用例している請求項3には脂肪族オキシカルボン酸、脂肪族ジオール及び脂肪族ジカルボン酸との用語は記載されていないので、これらの用語が記載されている請求項4を引用しているものと認められるから、請求項5中の「請求項3に記載の」は「請求項4に記載の」の誤記であるとして上記のように認定した。 【IV】取消理由の概要 取消理由のうち、理由1と理由2の内容は以下のとおりである。 (理由1)本件出願の請求項1〜3及び6〜13に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1〜3に記載された発明と同一であるから、本件出願の請求項1〜13に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (理由2)本件出願の請求項1〜13に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件出願の請求項1〜13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 記 刊行物1:特開平7-3138号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証) 刊行物2:特開平5-209073号公報(同甲第2号証) 刊行物3:特開平5-247245号公報(同甲第3号証) 刊行物4:特開平7-228675号公報(同参考資料1) 【V】取消理由に対する判断 1.刊行物1〜4の記載事項 刊行物1 ア.「【請求項3】8ないし15モル%のD-ヒドロキシバリレートに基づく単量体単位を含むD-ヒドロキシブチレートとD-ヒドロキシバリレートとの共重合体40ないし85重量%、およびポリε-カプロラクトン60ないし15重量%からなる樹脂混合物95ないし60容量%と、無機充填剤5ないし40容量%とよりなる樹脂組成物を溶融製膜し、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする請求項2記載の多孔性フィルムの製造方法。」 イ.「【0029】・・・延伸条件としては、一般に延伸温度が常温以上、脂肪族ポリエステル樹脂の融点以下で実施され、延伸倍率としては、縦および横方向にそれぞれ1.3ないし3.0倍とすることが、優れた強度特性、透湿度および耐水圧を得る上で好適である。・・・」 ウ.「【0030】 【発明の効果】・・・ そして、かかる多孔性フィルムは、使用時には優れた機械的性質や加工性、耐熱性を有し、使用後は、自然界で微生物等により、優れた分解性を有するため、埋め立てによる廃棄処理が可能である。このフィルムは、農業用フィルム、紙おむつ用バックシート、各種包装材料、簡易衣料、医療用シート、医療用衣料、衛生材料等の使い捨ての素材として好適に使用される。」 エ.「【0038】 以下の実施例および比較例におけるPCLは、ダイセル化学社製「プラクセル-H7」(商品名:数平均分子量 8万)を用いた。PHB-HVについてはI・C・I社製の「バイオポール」(商品名)を用いた。・・・」 オ.「【0039】表1に示すような樹脂組成物をスーパーミキサーで5分間混合した後、・・・ペレット状に切断した。得られたペレットを・・・Tダイを用いて180℃で押出し、・・・シート状物を得た。このシート状物を、・・・50℃で、延伸倍率1.5ないし2.5倍に一軸延伸した。更に該一軸延伸フィルムを一軸延伸方向と垂直方向に延伸温度50℃にて延伸倍率2.0倍になるようにテンター延伸機で延伸し・・・フィルムを得た。・・・」 刊行物2 ア.「【請求項1】脂肪族ポリエステル樹脂100重量部と該脂肪族ポリエステル樹脂中に分散された無機充填材30〜500重量部とよりなり、最大細孔径が5μm以下の連通孔よりなる網状構造を有し、空隙率が10〜70%であり、延伸により分子配向してなる多孔性フィルム。」 イ.「【0023】・・・・延伸条件としては、一般に延伸温度が常温以上、脂肪族ポリエステル樹脂の融点以下で実施され、延伸倍率としては、縦及び横方向にそれぞれ1.3〜3.0倍・・・」 ウ.「【0025】本発明の多孔性シートは上記のように自然界で微生物等により優れた分解性を有するため、埋め立てによる廃棄処理が可能である。また、上記のような優れた機械的性質を有するために加工性が良好である。従って、本発明の多孔性シートは、農業用フィルム、紙おむつ用バックシート、各種包装材料、簡易衣料、医療用シート、医療用衣料、衛生材料等の使い捨ての素材に有用である。」 エ.「【0035】脂肪族ポリエステル樹脂 PCL:ポリカプロラクトン P(HB-HV):ハイドロキシブチレートとハイドロキシバリレート共重合体(共重合体組成(モル比)80:20)・・・」 オ.「【0037】得られたペレットを、・・・Tダイを用いて180℃で押出し、・・・シート状物を得た。このシート状物を、50℃で延伸倍率2.0倍に一軸延伸した。更に該一軸延伸フィルムを一軸延伸方向と垂直な方向に延伸温度50℃にて延伸倍率2.0倍になるようにテンター延伸機で延伸し、厚み40μmの多孔性フィルムを得た。得られた多孔性フィルムは、いずれも最大細孔径が表1に示した値の連通孔よりなる網状構造を有するものであった。得られた多孔性フィルムの物性及び分解性を表1に示した。」 カ.また、表1には、No.9として、P(HB-HV)/PCL=1/1を用い、硫酸バリウムを60wt%添加した組成物を用いた多孔質フィルムが記載されている。(6頁) 刊行物3 ア.「【請求項1】ポリ乳酸または乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー80〜100重量%、および、可塑剤0〜20重量%を含むポリ乳酸系樹脂組成物100重量部に対し、平均粒径が0.3〜4μmの微粉状充填剤40〜250重量部を添加した混合物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸したことを特徴とする多孔性フィルム。」 イ.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、・・・自然環境下で加水分解性を有する・・・加水分解性フィルムに関する。本発明の多孔性フィルムは、透湿性、通気性に富み、かつ、柔軟性にも優れており、使い捨て紙オムツ等衛生材料の防漏フィルム、包装材料、濾過材料等の用途に適しており、その上、ポリ乳酸系樹脂組成物を使用しているので、加水分解性を有する。このため、近年、大きな問題となっている廃棄物処理問題においても、期待される素材といえる。」 ウ.「【0023】・・・その後、少なくとも一軸方向に、1.1〜10倍、好ましくは1.1〜7倍延伸を行う。延伸は多段階に分けて行ってもよいし、二軸方向に延伸してもよい。延伸倍率が1.1倍未満の場合は、フィルムの多孔化が不充分となる。10倍を超えるとフィルムが破れることが多くなり好ましくない。延伸温度は乳酸系ポリマーのガラス転移点(以下Tgという)〜Tg+50℃の範囲が好ましい。・・・」 エ.また、段落【0030】には、溶融混合温度とプレス温度として130℃と150℃が記載され、60℃で延伸したことが記載されている。 刊行物4 ア.「【請求項1】反応原料として、(i) 脂肪族多価アルコール類と脂肪族多塩基酸類、または(ii)脂肪族多価アルコール類と脂肪族多塩基酸類とヒドロキシカルボン酸類を使用し、該モノマーを有機溶媒を含む反応混合物中で直接縮合反応することを特徴とする、重量平均分子量が15,000以上である脂肪族ポリエステルの製造方法。 ・・・ 【請求項10】多価アルコールが脂肪族ジオールである請求項1記載の方法。 【請求項11】脂肪族ジオールが、エチレングリコールまたは1,4-ブタ ンジオールである請求項10記載の方法。 【請求項12】多塩基酸が脂肪族ジカルボン酸である請求項1記載の方法。 【請求項13】脂肪族ジカルボン酸が、コハク酸またはアジピン酸である請求項12記載の方法。 ・・・ 【請求項15】ヒドロキシカルボン酸が、乳酸である請求項1記載の方法。 ・・・ 【請求項17】請求項6記載の方法で得られた重量平均分子量が50,00 0以上の脂肪族ポリエステル。」(請求項1〜17) イ.「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、医療用材料や汎用樹脂の代替物として有用な生分解性ポリマーである脂肪族ポリエステル・・・」 ウ.「【0029】・・・またさらに、これら高分子量の脂肪族ポリエステルは、延伸、ブロー、真空成形等の二次加工を行うことができる。・・・」 エ.「【0039】実施例 6 エチレングリコール20.2gとコハク酸38.4gに乳酸7.3gにジフェニルエーテル123gと触媒の金属錫0.66gを加え・・・再沈した。ノルマルヘキサン3lで洗浄した後減圧乾燥した。ポリマー中の触媒の錫の含有量は10ppm以下になっていた。収率は69%でコポリマーの重量平均分子量は147,000であった。 このポリマーを5NのNaOH水溶液中、100℃で10時間加水分解した結果、エチレングリコール、コハク酸および乳酸が、使用した割合でポリマー中に含まれていることが確認された。」 2.対比・判断 (1)特許法第29条第1項第3号違反 (本件発明1について) ・刊行物1との対比 刊行物1には、「D-ヒドロキシブチレートとD-ヒドロキシバリレートとの共重合体40ないし85重量%、およびポリε-カプロラクトン60ないし15重量%からなる樹脂混合物95ないし60容量%と、無機充填剤5ないし40容量%とよりなる樹脂組成物を溶融製膜し、少なくとも一軸方向に延伸した多孔性フィルム」(摘示記載ア)が記載され、当該多孔性フィルムは「微生物により容易に分解され得る」こと(摘示記載ウ)が記載されていることから、刊行物1には、「D-ヒドロキシブチレートとD-ヒドロキシバリレートとの共重合体40ないし85重量%、およびポリε-カプロラクトン60ないし15重量%からなる樹脂混合物95ないし60容量%と、無機充填剤5ないし40容量%とよりなる樹脂組成物を溶融製膜し、少なくとも一軸方向に延伸した微生物により容易に分解され得る多孔性フィルム」が記載されているものと認められる。 本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「D-ヒドロキシブチレートとD-ヒドロキシバリレートとの共重合体」、「ポリε-カプロラクトン」、「無機充填剤」、「溶融製膜し、少なくとも一軸方向に延伸した」及び「微生物により容易に分解され得る」は、それぞれ本件発明1の「脂肪族ポリエステル」、「熱可塑性樹脂」、「充填材」、「溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸された」及び「生分解性」に相当する。 したがって、両発明は、「(a)脂肪族ポリエステルと熱可塑性樹脂とからなる樹脂混合物、(b)充填材を含む樹脂組成物を溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸されたものであることを特徴とする生分解性多孔質フィルム」である点で一致し、また、脂肪族ポリエステルと熱可塑性樹脂の混合割合も重複しているが、下記の点において一応相違している。 (相違点)本件発明1は樹脂組成物100重量部に対して充填材を20〜400重量部含むのに対して、刊行物1に記載された発明は樹脂組成物のうち充填材は5ない40容量%である点。 しかしながら、両発明とも充填材は、延伸による多孔化のために添加しているものと認められ、炭酸カルシウム等の類似のものを用いること、及び、両発明の充填材の配合範囲は非常に幅広いことを併せ考慮すると、両発明の充填材の配合範囲は実質的に重複するものといえる。 したがって、両発明の間に、実質的な相違点は見出せず、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるということができる。 ・刊行物2との対比 刊行物2には、「脂肪族ポリエステル樹脂100重量部と該脂肪族ポリエステル樹脂中に分散された無機充填材30〜500重量部とよりなり、延伸により分子配向してなる多孔性フィルム」(摘示記載ア)が記載され、当該多孔性フィルムは「微生物等により優れた分解性を有する」こと(摘示記載ウ)、及び、実施例には、脂肪族ポリエステル樹脂として、ハイドロキシブチレートとハイドロキシバリレート共重合体とポリカプロラクトンが1:1で混合されたものを用いること(摘示記載エ、カ)が記載されていることから、刊行物2には、「ハイドロキシブチレートとハイドロキシバリレート共重合体とポリカプロラクトンが1:1で混合された脂肪族ポリエステル樹脂100重量部と該脂肪族ポリエステル樹脂中に分散された無機充填材30〜500重量部とよりなり、延伸により分子配向してなる微生物等により優れた分解性を有する多孔性フィルム」が記載されているものと認められる。 そこで、本件発明1と刊行物2に記載された発明とを対比すると、刊行物2に記載された発明の「D-ヒドロキシブチレートとD-ヒドロキシバリレートとの共重合体」、「ポリカプロラクトン」、「無機充填剤」、「延伸により分子配向してなる」及び「微生物等により優れた分解性を有する」は、それぞれ本件発明1の「脂肪族ポリエステル」、「熱可塑性樹脂」、「充填材」、「溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸された」及び「生分解性」に相当する。 したがって、両発明は、「(a)脂肪族ポリエステルと熱可塑性樹脂とからなる樹脂混合物、(b)充填材を含む樹脂組成物を溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸されたものであることを特徴とする生分解性多孔質フィルム」である点で一致し、また、脂肪族ポリエステルと熱可塑性樹脂の混合割合、及び、樹脂混合物100重量部に対する充填材の配合割合も重複している。 したがって、両発明の間に相違点は見出せず、本件発明1は、刊行物2に記載された発明であるということができる。 ・刊行物3との対比 刊行物3には、「ポリ乳酸または乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー80〜100重量%、および、可塑剤0〜20重量%を含むポリ乳酸系樹脂組成物100重量部に対し、平均粒径が0.3〜4μmの微粉状充填剤40〜250重量部を添加した混合物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸したことを特徴とする多孔性フィルム」(摘示記載ア)が記載され、当該多孔性フィルムは「自然環境下で加水分解性」であること(摘示記載イ)が記載されていることから、刊行物3には、「ポリ乳酸または乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー80〜100重量%、および、可塑剤0〜20重量%を含むポリ乳酸系樹脂組成物100重量部に対し、の微粉状充填剤40〜250重量部を添加した混合物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に延伸したことを特徴とする自然環境下で加水分解性を有する多孔性フィルム」が記載されているものと認められる。 そこで、本件発明1と刊行物3に記載された発明とを対比すると、刊行物3に記載された発明の「ポリ乳酸」と「乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー」は、それぞれ「脂肪族ポリエステル」であると同時に「熱可塑性樹脂」でもあるから、刊行物1に記載された発明において、「ポリ乳酸」あるいは「乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー」のどちらかを用いた場合のいずれも、本件発明1の「脂肪族ポリエステル50〜95重量%と熱可塑性樹脂5〜50重量%とからなる樹脂混合物」であるということができる。また、刊行物3に記載された発明の「微粉状充填剤」、「溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に延伸した」及び「自然環境下で加水分解性を有する」は、それぞれ本件発明1の「充填材」、「溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸された」及び「生分解性」に相当するから、両発明は、ともに「(a)脂肪族ポリエステル50〜95重量%と熱可塑性樹脂5〜50重量%とからなる樹脂混合物、(b)充填材を含む樹脂組成物を溶融させてフィルムまたはシート状に成形後、延伸されたものである生分解性多孔質フィルム」である点で一致し、樹脂組成物100重量部に対する充填材の量も重複している。 したがって、両発明の間に相違点は見出せず、本件発明1は、刊行物3に記載された発明であるということができる。 よって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明である。 (本件発明2について) 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、更に「可塑剤5〜50重量部」と特定している発明である。 刊行物3には、「ポリ乳酸または乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー80〜100重量%、および、可塑剤0〜20重量%を含むポリ乳酸系樹脂組成物100重量部」(摘示記載ア)と記載され、「ポリ乳酸または乳酸-ヒドロキシカルボン酸コポリマー」を100重量部とした場合の可塑剤の含有量は、本件発明2の「樹脂混合物100重量部と可塑剤5〜50重量部」の範囲と重複しているものといえる。 したがって、本件発明1が刊行物3に記載されていたものである以上、同様の理由により、本件発明2も刊行物3に記載された発明である。 (本件発明6について) 本件発明6は、請求項1又は2に記載の生分解性多孔質フィルムの製造方法の発明であるから、本件発明1〜2が刊行物1〜3に記載されたものである以上、同様の理由により、本件発明6が刊行物1〜3に記載されたものである。 (本件発明7について) 本件発明7は、請求項1又は2に記載の生分解性多孔質膜フィルムの製造方法の発明であり、更に、「延伸倍率が、少なくとも一軸方向に1.2〜8倍の延伸倍率で、かつ、延伸温度が、脂肪族ポリエステルと熱可塑性樹脂とから成る樹脂混合物の融点ないし融点より100℃低い温度の温度範囲内で選ばれた温度で延伸する」ことを特定した発明である。 刊行物1(摘示記載イ)及び刊行物2(摘示記載イ)には、「延伸条件としては、一般に延伸温度が常温以上、脂肪族ポリエステル樹脂の融点以下で実施され、延伸倍率としては、縦および横方向にそれぞれ1.3ないし3.0倍」旨が記載され、刊行物3には、「少なくとも一軸方向に、1.1〜10倍、好ましくは1.1〜7倍延伸を行う。・・・延伸温度は乳酸系ポリマーのガラス転移点(以下Tgという)〜Tg+50℃の範囲が好ましい。」(摘示記載ウ)と記載されているので、本件発明7と刊行物1〜3に記載された発明は、延伸倍率と延伸時の温度は重複しているものといえる。 したがって、本件発明1〜2が刊行物1〜3に記載されたものである以上、同様の理由により、本件発明7も刊行物1〜3に記載されたものである。 (本件発明8〜12について) 本件発明8〜12は、請求項1又は2に記載の生分解性多孔質フィルムの用途を限定した「医療用フィルム」、「濾過材」、「衛生・医療用材料」、「農業用フィルム」、「包装材」の発明である。 刊行物1と2には、多孔性フィルムの用途として「簡易衣料、医療用衣料」(この用途に用いた多孔性フィルムは本件発明8の「衣料用フィルム」に相当)、「紙おむつ用バックシート、医療用シート、衛生材料」(本件発明10の「衛生・医療用材料」に相当)、「農業用フィルム」(本件発明11の「農業用フィルム」に相当)、「包装材料」(本件発明12の「包装材」に相当)が記載され、また、刊行物3には、濾過材料(本件発明9の「濾過材」に相当)が記載されている。 したがって、本件発明1〜2が刊行物1〜3に記載されたものである以上、同様の理由により、本件発明8〜12も刊行物1〜3に記載されたものである。 (2)特許法第29条第2項違反 (本件発明3について) 本件発明3は、本件発明1又は2の発明特定事項を含み、更に「脂肪族ポリエステルが温度190℃におけるメルトインデックスが0.2〜50であり、融点が70〜160℃である」ことことを特定した発明である。 しかしながら、メルトインデックスが0.2〜50という数値範囲は非常に幅広く、また、刊行物1〜3の実施例におけるTダイからの押出温度や溶融混合温度と延伸温度からみて、刊行物1〜3の実施例における本件発明3の「脂肪族ポリエステル」に相当する成分が、本件発明3と同じメルトインデックスと融点を有している蓋然性は非常に高い。 また、本願明細書(段落【0019】)においても、耐熱性の観点から融点を特定し、メルトインデックスも単に「0.01〜50g/10分の範囲が好ましい」と記載されているだけであるから、刊行物1〜3に記載された発明においても、耐熱性等の観点から本件発明3と同じメルトインデックスと融点を有する脂肪族ポリエステルとすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 (本件発明4について) 本件発明4は、本件発明1、2の発明特定事項を全て含み、更に「脂肪族ポリエステルが、(I)式で表わされる脂肪族オキシカルボン酸単位0.02〜30モル%、(II)式で表わされる脂肪族ジオール単位35〜49.99モル%、および(III)式で表わされる脂肪族ジカルボン酸単位35〜49.99モル%からなり、かつ、数平均分子量が1万〜20万である」ことを特定した発明である。 しかしながら、刊行物4には、「脂肪族多価アルコール類と脂肪族多塩基酸類とヒドロキシカルボン酸を反応させた重量平均分子量が50,000以上の脂肪族ポリエステル」(摘示記載ア)が記載され、刊行物4の実施例6のエチレングリコールとコハク酸と乳酸の配合量からみて、刊行物4の脂肪族ポリエステル中の脂肪族多価アルコール類と脂肪族多塩基酸類とヒドロキシカルボン酸の含有量は本件発明4の範囲に含まれ、かつ、重量平均分子量が50,000以上である脂肪族ポリエステルの数平均分子量は、本件発明4の「1万から20万」の範囲と重複するものといえるから、本件発明4において特定された脂肪族ポリエステルは刊行物4に記載されているものと認められる。そして、刊行物4の脂肪族ポリエステルは、「医療用材料や汎用樹脂の代替物として有用な生分解ポリマー」(摘示記載イ)であり、「延伸・・・等の二次加工を行うことができる」(摘示記載ウ)のであるから、刊行物4と同じく、医療用材料や汎用樹脂の代替物として有用な脂肪族ポリエステルを含む生分解ポリマーを用いかつ延伸するものである刊行物2に記載された発明において、その脂肪族ポリエステル樹脂の一部として、刊行物4に記載された脂肪族ポリエステルを用いてみることは、当業者が容易に想到し得るものといえる。 そして、本件発明4において特定の脂肪族ポリエスルを用いたことによる効果は、格別優れているともいえない。 したがって、本件発明1〜2が刊行物2に記載された発明である以上、本件発明4も、刊行物2及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明5について) 本件発明5は、本件発明4の発明特定事項を全て含み、更に「脂肪族オキシカルボン酸が乳酸であり、脂肪族ジオールが-1,4-ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸である」ことを特定した発明である。 しかしながら、刊行物4には、ヒドロキシカルボン酸類が乳酸であり、脂肪族ジオールが1,4-ブタンジオールであり、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸であること(摘示記載ア)が記載されているから、本件発明5に記載の脂肪族ポリエステルも刊行物4に記載されているものと認められる。 したがって、本件発明4が刊行物2及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである以上、同様の理由により、本件発明5も刊行物2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (本件発明13について) 本件発明13は、本件発明1又は2の生分解性多孔膜質フィルムを用いた合成紙の発明である。 刊行物1〜3には、多孔質フィルムの用途として、各種包装材料や紙おむつ用バックシート等種々の用途が例示されているので、刊行物1〜3に記載された多孔質フィルムを必要に応じて合成紙として用いてみることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 したがって、本件発明1〜2が刊行物1〜3に記載された発明である以上、本件発明13は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 【VI】むすび 以上のとおり、本件発明1,2,6〜12の特許は特許法第29条第1項第3号に違反して、また、本件発明3〜5,13の特許は特許法第29条第2項に違反してされたものであるから、本件発明1〜13の特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2005-12-02 |
出願番号 | 特願平9-34745 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
ZB
(C08J)
P 1 651・ 121- ZB (C08J) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 内田 靖恵 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
船岡 嘉彦 藤原 浩子 |
登録日 | 2002-06-21 |
登録番号 | 特許第3321379号(P3321379) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | 生分解性多孔質フィルム |
代理人 | 佐々木 重光 |