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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  B32B
管理番号 1136206
異議申立番号 異議2003-72122  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-04-06 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-22 
確定日 2006-04-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第3380143号「積層体エレメント及び感光性フィルム」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3380143号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許3380143号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成9年9月19日に特許出願され、平成12年4月17日付け手続補正書による手続補正がなされ、平成14年12月13日に設定登録されたものである。そして、本件請求項1〜3に係る特許について、日本合成化学工業株式会社、金子しの及び板倉昭夫から、特許異議の申立てがあったので、平成17年2月16日付けで審尋したところ、平成17年4月26日付けで回答書が提出され、さらに、平成17年7月19日付けで取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成17年9月27日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出された。
そこで、平成17年11月17日付けで訂正拒絶理由を通知するとともに審尋したところ、その指定期間内である平成18年1月30日付けで特許異議意見書、手続補正書及び審尋に対する回答書が提出された。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正請求に対する補正の適否
平成18年1月30日付け手続補正書の内容は、具体的には、訂正請求書に添付された全文訂正明細書の【0001】欄の「【産業上の利用分野】」を、「【発明の属する技術分野】」と補正するものである。そして、訂正前の明細書の当該箇所の記載は「【発明の属する技術分野】」であるから、この補正は、軽微な瑕疵の補正であって、訂正請求書の請求の趣旨の要旨を変更するものではない。
よって、この補正は、特許法第120条の4第3項で準用する特許法第131条第2項の規定に適合するから、この補正を認める。

2-2.訂正の適否
上記2-1で説示したとおり、上記補正は認められるから、特許権者の求める訂正の内容は、上記平成18年1月30日付け手続補正書により補正された平成17年9月27日付け訂正請求書及びそれに添付された全文訂正明細書の記載からみて、本件特許明細書を平成18年1月30日付け手続補正書に添付された全文訂正明細書のとおりに訂正しようとするものである。
そこで、この訂正請求について検討する。

2-2-1.訂正の内容
平成17年9月27日付けの訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項(a)〜(g)からなるものと認められる。
(1)訂正事項(a)
願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の、
「プラスチックスフィルムAとプラスチックスフィルムBの間に感光性樹脂層を有する感光性フィルムを円筒状の巻芯に巻き取った積層体エレメントにおいて、プラスチックスフィルムA及びBの膜厚バラツキを±0.8μm以内としたことを特徴とする積層体エレメント。」を、
「プラスチックスフィルムAとプラスチックスフィルムBの間に感光性樹脂層を有する感光性フィルムを円筒状の巻芯に巻き取った積層体エレメントにおいて、プラスチックスフィルムA及びBのいずれか一方がポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルムであり、プラスチックスフィルムA及びBの膜厚バラツキを±0.8μm以内としたことを特徴とする積層体エレメント。」と訂正する。

(2)訂正事項(b)
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3の、
「膜厚バラツキが±0.8μm以内のプラスチックスフィルムA上に感光性樹脂層を有する感光性フィルム。」を削除する。

(3)訂正事項(c)
本件特許明細書の発明の名称の、
「積層体エレメント及び感光性フィルム」を、
「積層体エレメント」と訂正する。

(4)訂正事項(d)
本件特許明細書の段落【0001】の、
「保存中のエレメント端部からの感光性樹脂層の滲み出しを防止した積層体エレメント及び感光性フィルムに関する。」を、
「保存中のエレメント端部からの感光性樹脂層の滲み出しを防止した積層体エレメントに関する。」と訂正する。

(5)訂正事項(e)
本件特許明細書の段落【0008】の
「保存安定性の良好な積層体エレメント及び感光性フィルムを提供することにある。」を、
「保存安定性の良好な積層体エレメントを提供することにある。」と訂正する。

(6)訂正事項(f)
本件特許明細書の段落【0012】の、
「プラスチックスフィルムAとプラスチックスフィルムBの間に感光性樹脂層を有する感光性フィルムを円筒状の巻芯に巻き取った積層体エレメントにおいて、プラスチックスフィルムA及びBの膜厚バラツキを±0.8μm以内としたことを特徴とする」を、
「プラスチックスフィルムAとプラスチックスフィルムBの間に感光性樹脂層を有する感光性フィルムを円筒状の巻芯に巻き取った積層体エレメントにおいて、プラスチックスフィルムA及びBのいずれか一方がポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルムであり、プラスチックスフィルムA及びBの膜厚バラツキを±0.8μm以内としたことを特徴とする」と訂正する。

(7)訂正事項(g)
本件特許明細書の段落【0023】の、
「本発明の積層体エレメント及び感光性フィルムは」を、
「本発明の積層体エレメントは」と訂正する。

2-2-2.新規事項の有無についての判断
訂正事項(a)に係る「プラスチックスフィルムA及びBのいずれか一方がポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルム」は、本件特許明細書に記載がない。
ここで、「プラスチックスフィルムA及びBのいずれか一方がポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルム」とは、文理上、プラスチックスフィルムA及びBのいずれか一方についてはポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルムであることが必須であり、他方についてはどのようなプラスチックスからなるフィルムであってもよいこと、すなわち、プラスチックスフィルムAとBが異種のプラスチックスからなるフィルムである場合を含むことを意味するといえる。
ところが、特許権者が訂正事項(a)の根拠と主張する段落【0014】の記載は、「プラスチックスフィルムA及びBとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムに代表されるポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレン、セルロース系フィルム、ナイロンフィルム、テフロンフィルム等が挙げられる。」というものであって、この記載は、プラスチックスフィルムA及びBとして用いられるフィルムの種類を単に列挙したに過ぎないと解されるから、プラスチックスフィルムの片方が特定のプラスチックスからなるフィルムであるという技術思想が開示されていたとはいえず、上記段落【0014】の記載から、上記プラスチックスフィルムAとBが異なるプラスチックスからなるものであることが記載されていたとはいえない。また、本件特許明細書には、上記段落【0014】以外にプラスチックスフィルムA及びBに用いるプラスチックスについての記載はないから、特許権者が訂正の根拠とする段落【0014】以外の記載をみても、上記プラスチックスフィルムAとBが異種のプラスチックスからなるものであることを見いだすことはできない。
以上のことから、訂正事項(a)の訂正は、本件特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてするものではない。
なお、特許権者は、平成18年1月30日付けの特許異議意見書において、本件特許明細書では、(1)としてプラスチックスフィルムA及びBが異なる樹脂である点が一切記載されていないとした上で、(2)樹脂の組み合わせは互いに同一の樹脂の組み合わせ、及び、互いに異なる樹脂の組み合わせ、のいずれか一方しかないこと、(3)プラスチックスフィルムA及びBの一方が支持フィルムとして機能し、他方が保護フィルムとして機能すること、(4)ドライフィルムの技術分野において、積層体エレメントの支持フィルムの樹脂と、その支持フィルムとは機能の異なる保護フィルムの樹脂とを、互いに異なる樹脂にすることは、むしろ一般的であることから、プラスチックスフィルムA及びBが異なる樹脂であることは、本件特許明細書の記載から自明な事項である旨主張している(特許異議意見書第6頁第6〜20行)。
しかし、ドライフィルムの技術分野においては、支持フィルムにポリエチレンテレフタレート、保護フィルムにポリエチレン又はポリプロピレンを用いたもの以外に、支持フィルム、保護フィルム共にポリエチレンテレフタレートを用いたものも知られている(特開平9-90616号公報【0033】欄参照)から、ドライフィルムであれば必ず支持フィルムと保護フィルムとで異なる樹脂を用いるとはいえないし、本件特許明細書には、該明細書に記載された技術が、ドライフィルムの中でも、支持フィルムと保護フィルムとで異なる樹脂を用いるものを前提としたものであると認められる記載も示唆もなく、ドライフィルムにおける技術常識として特許権者によって示されているのは、ポリエチレンあるいはポリプロピレンの保護フィルムとポリエステルの支持フィルムからなるドライフィルムであるから、特許権者のいう技術常識を参酌しても、訂正後の「プラスチックスフィルムA及びBのいずれか一方がポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルム」に含まれる、他方がポリエステル以外のものは記載されていたとはいえない。
したがって、特許権者の主張を考慮しても、「プラスチックスフィルムA及びBのいずれか一方がポリエチレンフィルム又はポリプロピレンフィルム」が、本件特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内であるとはいえない。

2-3.訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、他の訂正事項について検討するまでもなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第126条第2項の規定に適合しないので、上記訂正は認められない。

3.特許異議申し立てについての判断
3-1.本件発明
上記2.で説示したとおり、本件訂正は認められないから、本件請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1〜3」という。)は、それぞれ、本件特許明細書の請求項1〜3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本件発明1)「プラスチックスフィルムAとプラスチックスフィルムBの間に感光性樹脂層を有する感光性フィルムを円筒状の巻芯に巻き取った積層体エレメントにおいて、プラスチックスフィルムA及びBの膜厚バラツキを±0.8μm以内としたことを特徴とする積層体エレメント。」
(本件発明2)「感光性フィルムが、プラスチックスフィルムA上に感光性樹脂溶液を塗布、乾燥して感光性樹脂層を形成し、さらにその上にプラスチックスフィルムBを積層してなる感光性フィルムである請求項1記載の積層体エレメント。」
(本件発明3)「膜厚バラツキが±0.8μm以内のプラスチックスフィルムA上に感光性樹脂層を有する感光性フィルム。」

3-2.特許法第29条第1項第3号違反について
3-2-1.引用刊行物及び実験報告書に記載された事項
(1)当審が通知した取消理由において刊行物1として引用した、本件特許の出願前に頒布された刊行物(特開平9-90616号公報(特許異議申立人 日本合成化学工業株式会社が提出した甲第1号証))には、下記の事項が記載されている。
ア:「以下さらに詳細に説明する。支持層2については、ラミネートする前に剥離されるので、可撓性を有していて前記感光層3を剥離可能に接着できるものであり、乾燥炉の温度で損傷を受けないものであれば、特に制限されない。・・・
支持層2の厚さは特に制限されないが、ロール状に巻いた場合のサイズの点を考慮すると、5〜200μmが好ましい。」(段落【0015】〜【0016】)
イ:「【実施例】以下、本発明を実施例によって説明する。・・・
感光層材料の調製
重量平均分子量75,000のメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重体(25/75(重量%))60重量部、テトラプロピレングリコールジアクリレート40重量部、ジエチルアミノベンゾフェノン0.2重量部、ベンゾフェノン5重量部、クリスタルバイオレット0.03重量部をメチルエチルケトン100重量部に溶解した。・・・
積層フィルムAの調製
離型処理を施した厚さ20μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71を使用した)を支持層とし、前記感光層材料を、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布し、80℃10分間温風乾燥した後、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6を使用した)を被覆して積層フィルムAを得た。積層フィルムAは、被覆層が上となるように巻き取った。なお、F-6について、JIS K 7209に準拠して測定した引っ張り強さは1.2kg/10mm、JIS C 2318-72に準拠して測定した破断伸びは120%、JIS Z 170に準拠して測定した酸素透過量は180ml/m2・24h・atm、JIS K 7209に準拠して測定した吸水率は0.3%、JIS K 6782に準拠して測定したヘイズは7%である。」(段落【0031】〜【0033】)
ウ:「積層フィルムCの調製
被覆層として、厚さ19μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名G2 19を使用した)を支持層とし、前記感光層材料を、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布し、80℃で10分間温風乾燥した後、厚さ25μmのポリエチレンフィルム(タマポリ株式会社製、商品名NF-13を使用した)を被覆して積層フィルムCを調製した。なお、支持層として用いたG2 19について、引っ張り強さは4.4kg/10mm、破断伸びは150%、酸素透過量は90ml/m2・24h・atm、吸水率は0.3%、ヘイズは1.5%である。測定方法は積層フィルムAのときと同様である。」(段落【0035】)
エ:「次ぎに高温ラミネーター(日立化成工業株式会社製のHLM-3000を使用した)を用いて、上記基板に積層フィルムA、B及びCの感光層を基材に向けて積層フィルムA、Bは被覆層側、積層フィルムCは支持層側をロールに触れるようにしてラミネートした。なお、ラミネートロールと基板の傷方向は平行とした。この際のラミネート速度は2m/分、ロール温度は100℃、ロールのシリンダー圧力は4kgf/cm2とした。」(段落【0037】)

(2)当審が通知した取消理由において引用した、特許異議申立人 日本合成化学工業株式会社が提出した甲第3号証(平成15年8月8日付けで、日本合成化学工業株式会社 中央研究所 機能材料研究室 室長 大野秀樹及び主任 清水俊宏が作成した実験報告書)(以下、「実験報告書」という。)には、下記の事項が記載されている。
オ:「1.目的
特開平9-90616号公報(甲第1号証)及び特開平8-123018号公報(甲第2号証)の各実施例において、各積層体エレメントに使用されているフィルムの膜厚バラツキを測定し、かかる膜厚バラツキが本件特許発明で規定される±0.8μm以内であることを証明すること。

2.実験場所
大阪府茨木市室山2丁目13番1号
日本合成化学工業株式会社 中央研究所 機能材料研究室
3.実施日
平成15年7月28日〜8月8日
4.実験及び結果
<実験1>甲第1号証に記載の実施例について
実施例中の積層フィルムAの調製に使用される[1]ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名「S71」)及び[2]ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名「F-6」(6μm))の膜厚バラツキを下記の如く測定した。
又、実施例中の積層フィルムCの調製に使用される[3]ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名「G2 19」(19μm))の膜厚バラツキも同様に測定した。
(フィルムの膜厚バラツキの測定方法)
各フィルムをそれぞれ3枚用意し、各フィルムの膜厚を下記の如き測定点について測定し、その平均値と測定値の差を求め、更に、正のものだけを平均した値と負のものだけを平均した値を求め、それぞれ、正(+)のバラツキ、負(-)のバラツキとした。
尚、膜厚の測定については、アンリツ社製の連続膜厚計「KG601A」(分解能:0.2μm)を用いた。
(測定点の定義)
A4サイズにカットしたフィルムにおいて、長辺方向を4等分、短辺方向を8等分するように線を引いたときに交差して得られる21点のうちの、下図に示す如き10点(●)を測定点とした。」(第1ページ第7行〜第2ページ第4行)

カ:「[結果]
各フィルムの膜厚バラツキは、下記表の通りであった。
[1]ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名「S71」)
1枚目 2枚目 3枚目
平均値と測定値 平均値と測定値 平均値と測定値
の差 の差 の差
・・・
正の平均値 0.25 0.08 0.11
負の平均値 -0.17 -0.18 -0.26

[2]ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名「F-6」)
1枚目 2枚目 3枚目
平均値と測定値 平均値と測定値 平均値と測定値
の差 の差 の差
・・・
正の平均値 0.01 0.05 0.10
負の平均値 -0.09 -0.08 -0.07

[3]ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名「G2 19」)
1枚目 2枚目 3枚目
平均値と測定値 平均値と測定値 平均値と測定値
の差 の差 の差
・・・
正の平均値 0.04 0.05 0.09
負の平均値 -0.06 -0.11 -0.14
従って、積層フィルムに使用される各フィルムの膜厚バラツキは、いずれも±0.8μm以内であった。」(第2頁第5行〜第3頁第4行)

3-2-2.対比・判断
(1)本件発明1、2について
(1-1)刊行物に記載された発明
上記摘示ア、イによれば、刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているといえる。
「支持層である厚さ20μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)に、メタクリル酸/メタクリル酸メチル共重体及びテトラプロピレングリコールジアクリレートを主成分とする感光層材料溶液を、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布し、乾燥した後、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)を被覆して得た積層フィルムAをロール状に巻き取ったもの。」

(1-2)本件発明1及び2と引用発明Aとの対比
(1-2-1)本件発明1
本件発明1と引用発明Aとを対比すると、後者における「ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)」、「ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)」は、それぞれ順に、前者における「プラスチックスフィルムA」、「プラスチックスフィルムB」に相当している。後者における「メタクリル酸/メタクリル酸メチル共重体及びテトラプロピレングリコールジアクリレートを主成分とする感光層材料溶液を・・・塗布し、乾燥した」ものは、その機能及び構成からみて、前者における「感光性樹脂層」に、以下、同様に「積層フィルムA」は、「感光性フィルム」に、「積層フィルムAをロール状に巻き取ったもの」は、「感光性フィルムを円筒状の巻芯に巻き取った積層体エレメント」に相当する。
したがって、両者は、
「プラスチックスフィルムAとプラスチックスフィルムBの間に感光性樹脂層を有する感光性フィルムを円筒状の巻芯に巻き取った積層体エレメント」である点で一致し、以下の点で一応相違する。
前者においては、プラスチックスフィルムA及びBの膜厚バラツキを±0.8μm以内としたとされるのに対し、後者においては、積層フィルムAを構成するポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)及びポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)の膜厚バラツキは明らかではない点(以下、「相違点1」という。)。

(1-2-2)本件発明2
本件発明2と引用発明Aとを対比すると、両者は、上記(1-2-1)で説示した点で一致するのに加え、後者の「支持層である厚さ20μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)に、感光層材料溶液を、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布し、乾燥した後、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)を被覆」は、前者の「プラスチックスフィルムA上に感光性樹脂溶液を塗布、乾燥して感光性樹脂層を形成し、さらにその上にプラスチックスフィルムBを積層」してなるとの規定を満足しているから、結局、両者は相違点1においてのみ相違し、その余の点において相違はない。

(1-3)相違点1についての検討
(A)上記摘示オ、カによれば、引用発明Aにおいて積層フィルムAを構成する[1]ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)及び[2]ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)の膜厚バラツキは、ともに±0.8μmよりもはるかに小さく、最大でも-0.26μmとなっている。
そして、実験報告書に示された膜厚バラツキの測定方法のうち「(フィルムの膜厚バラツキの測定方法)・・・各フィルムの膜厚を下記の如き測定点について測定し、その平均値と測定値の差を求め、更に正のものだけを平均した値と負のものだけを平均した値を求め、それぞれ、正(+)のバラツキ、負(-)のバラツキとした。(測定点の定義)・・・10点(●)を測定点とした。」(摘示オ)との部分は、本件特許明細書【0016】に示された測定方法と一致している。
本件特許明細書【0016】に示された測定方法と、実験報告書に示された測定方法とでは、(1)測定点について前者が「ランダムに10点測定し」とされているのに対し、後者が「A4サイズにカットしたフィルムにおいて、長辺方向を4等分、短辺方向を8等分するように線を引いたときに交差して得られる21点のうちの、下図に示す如き10点(●)を測定点とした。」とされている点、及び、(2)前者が「(株)セイコーEM製のデジタルシックネスゲージ(精度0.01μm)」を用いているのに対し、後者が「アンリツ社製の連続膜厚計「KG601A」(分解能:0.2μm)」を用いている点で一応異なるものの、(1)の点は後者においても、恣意的に膜厚バラツキが小さくなる点を選んだものではないから、ランダムに測定点を選んだ前者と膜厚バラツキの測定結果が格別異なるといえる理由は見いだせないし、(2)についても、仮に後者の分解能(0.2μm)がそのまま測定結果に反映されたとしても、実験報告書の膜厚バラツキの最大値-0.26μm-0.2μm=-0.46μmとなり、膜厚バラツキは±0.8μm以内となる。
したがって、上記(1)、(2)の違いは、実際には膜厚バラツキが±0.8μmよりも大きいものを測定した場合に、上記実験報告書の、最大でも膜厚バラツキが-0.26μmという結果が得られるほどの大きな誤差を生じるものとはいえないから、上記実験報告書に示された結果は、ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)及びポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)の膜厚バラツキが、本件特許明細書【0016】に示された測定方法によっても、±0.8μm以内であることを示すものと考えるのが自然である。
(B)また、本件特許明細書【0016】に示された膜厚バラツキの測定方法からみて、フィルムが最も厚い部位と最も薄い部位との差が例えば3μmの部分が多少あったとしても、その部分と平均値との差は±1.5μmとなり、かつ、最も厚い部位あるいは最も薄い部位となる測定点の数は平均値に近い膜厚である測定点の数よりも少ないものと認められるから、その差が正のものだけあるいは負のものだけを平均するという膜厚バラツキの測定法に従えば±0.8μm以内となるものといえ、フィルムが最も厚い部位と最も薄い部位との差が3μmのものも、本件発明1の膜厚バラツキについての規定の許容範囲内であるといえる。
これに対し、引用発明Aの上記S71は厚み20μm、上記F-6は厚み6μmであって、前記3μmという値は、厚み20μmのS71であっても、その厚さの15%に相当する値であって、フィルム材料について膜厚を均一にすることは一般的な課題であることからも、通常このような厚みの差があるとは考えられないことから、帝人株式会社製、商品名S71及び帝人株式会社製、商品名F-6を用いた引用発明Aの膜厚バラツキは±0.8μm以内であるものと考えるのが自然である。
上記(A),(B)から、引用発明Aにおけるポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)及びポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)の膜厚バラツキはいずれも±0.8μm以内であるといえる。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点とはいえないから、本件発明1、2は刊行物に記載された発明である。

なお、本件特許明細書では、「膜厚バラツキが±0.8μm以内のフィルムは、プラスチックスフィルム製造時に押出成形により押し出されたフィルムの膜厚バラツキが少ない部分だけを使用するなど、特別の方法により製造されたものが用いられる。」(【0015】)と記載され、特に膜厚のバラツキが小さいところを切り出す必要があるとしている。
しかしながら、上記S71、上記F-6等のフィルムは通常幅方向に切り分けて使用しており、切り分けられたフィルムの少なくとも一部、例えば一般に端部よりも膜厚が均一である幅方向中央部分については、膜厚バラツキが±0.8μm以内であるといえる。
さらに、実験報告書について、特許権者は、平成17年4月26日付け回答書で、同一の商品名であっても膜厚等の規格値の変更は通常行われることであるので、実験報告書における「G2-19」が、刊行物に記載された「G2-19」と同一であるか否か不明である旨主張しているが、特許権者は、実験報告書における「G2-19」について具体的に規格値の変更が行われたことを示す証拠方法を提示しておらず、刊行物に記載された「G2-19」とは別のものであることを立証しているわけではないし、特許権者の平成17年6月24日付の「電話によるご質問に対する回答について」と題するFAXでは、「G2-19」が本件出願前に膜厚バラツキが±0.8μm以内を達成していたことが示されていることからみても、本件出願時には±0.8μm以内とならなかったものが、実験報告書における測定時には±0.8μm以内となるような大幅な規格値の変更があったとは認められず、この主張は採用できない。

(2)本件発明3について
(2-1)刊行物に記載された発明
上記摘示ア、イ、エによれば、刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明B」という。) が記載されているといえる。
「支持層である厚さ20μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)に、感光層材料溶液を、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布し、乾燥した後、厚さ6μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)を被覆して積層フィルムAを得て、該積層フィルムAから支持層であるポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名S71)を剥離したもの。」
また、上記摘示ウ、エによれば、刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明C」という。)も記載されているといえる。
「厚さ19μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名G2 19)の支持層に、感光層材料を、乾燥後の厚みが40μmとなるように塗布し、乾燥した後、厚さ25μmのポリエチレンフィルム(タマポリ株式会社製、商品名NF-13)を被覆して積層フィルムCを得て、該積層フィルムCからポリエチレンフィルム(タマポリ株式会社製、商品名NF-13)を剥離したもの。」

(2-2)本件発明3と引用発明Bとの対比・判断
引用発明Bは、実質的に、ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)と感光性樹脂層からなる積層体といえ、また、該ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名F-6)の膜厚バラツキは±0.8μm以内と認められることは、上記(1-3-2)で説示したとおりであるから、本件発明3と引用発明Bとは、ともに、膜厚バラツキが±0.8μm以内のプラスチックスフィルムA上に感光性樹脂層を有する感光性フィルムであるといえる。
よって、本件発明3は引用発明Bである。

(2-3)本件発明3と引用発明Cとの対比・判断
引用発明Cは、実質的に、ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名G2 19)と感光性樹脂層からなる積層体といえる。そして、上記(1-3-2)で説示したと同様の理由に加え、特許権者の平成17年6月24日付の「電話によるご質問に対する回答について」と題するFAXの「膜厚バラツキが±0.8μm以内のプラスチックフィルムの具体的製造/入手方法としては、市販のポリエチレンテレフタレートフィルム(例えば、本件出願時に既に公知である帝人社製の商品名「G2―19」)の膜厚を、デジタルシックネスゲージ(精度0.01μm、セイコーEM社製)により膜厚を測定し、その結果、膜厚バラツキが±0.8μm以内である部分を、本発明に係るプラスチックスフィルムとして採用する方法が挙げられます。ここで、上記「G2―19」の膜厚を本件の出願日より前に測定した結果を表1に示します。・・・・・・このドライフィルムはその膜厚バラツキが±0.8μm以内となっております。」(FAX第2頁下から4行目〜第3頁第5行)との記載からみても、該ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人株式会社製、商品名G2 19)の膜厚バラツキは、±0.8μm以内と認められ、本件発明3と引用発明Cとは、ともに、膜厚バラツキが±0.8μm以内のプラスチックスフィルムA上に感光性樹脂層を有する感光性フィルムであるといえる。
よって、本件発明3は引用発明Cである。

(3)小括
したがって、本件発明1〜3は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、本件発明1〜3についての特許は同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。

3-3.特許法第17条の2第3項違反について
本件特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面の記載によれば、本件発明は、「プラスチックスフィルムA(支持フィルム又は保護フィルム)とプラスチックスフィルムB(保護フィルム又は、支持フィルム)の間に感光性樹脂層を有する感光性フィルムを円筒状の巻芯に巻き取った積層体エレメントにおける、保存中のエレメント端部からの感光性樹脂層の滲み出しを防止」(段落【0001】)するべく、「プラスチックスフィルムA及びBの膜厚バラツキを±0.8μm以内と低減することにより、ロール端部からの滲み出し」(段落【0011】)を防止することとしたもので、実施例及び比較例の記載(段落【0019】〜【0022】)からも、プラスチックフィルムA及びB双方の膜厚バラツキが±0.8μm以内であることが必要であることがわかる。
これに対して、平成12年4月17日付け手続補正により追加された請求項3に係る発明は、「膜厚バラツキが±0.8μm以内のプラスチックスフィルムA上に感光性樹脂層を有する感光性フィルム」という発明であり、もう一つのフィルムである膜厚バラツキが±0.8μm以内のプラスチックフィルムBの存在は、当該発明を特定するための事項とはされておらず、そのような発明が本件特許出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されていないことは、上記から明らかである。
してみると、平成12年4月17日付け手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものとはいえない、請求項3を追加する補正を含むものである。
したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項の要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

4.まとめ
以上のとおり、請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第113条第1号および同条第2号に該当し、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2006-02-23 
出願番号 特願平9-254817
審決分類 P 1 651・ 113- ZB (B32B)
P 1 651・ 55- ZB (B32B)
P 1 651・ 841- ZB (B32B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 細井 龍史  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 川端 康之
芦原 ゆりか
登録日 2002-12-13 
登録番号 特許第3380143号(P3380143)
権利者 日立化成工業株式会社
発明の名称 積層体エレメント及び感光性フィルム  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 穂高 哲夫  
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