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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G07G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G07G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G07G
管理番号 1136210
異議申立番号 異議2003-72983  
総通号数 78 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-07-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-05 
確定日 2004-12-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第3448499号「循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システム」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3448499号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許異議の申立てに係る特許第3448499号は、平成10年12月28日に出願され、平成15年7月4日に特許権の設定登録がなされ、同年9月22日に特許公報が発行されたものである。
その後、平成15年12月4日に佐藤 薫より、全請求項(請求項1乃至請求項6)に係る特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。

2.本件発明
本件特許異議の申立てがなされた特許に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至請求項6に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明1」乃至「本件発明6」という。)。
【請求項1】
飲食物容器上に載置された飲食物を飲食客に提供する無端状の循環型搬送路を備える飲食カウンタにおいて、飲食客によって飲食された飲食物を精算を行う精算システムであって、
少なくとも飲食物の価格を特定可能な価格特定情報および飲食物容器を識別可能な識別情報とを記憶する不揮発性の記憶手段と、該記憶手段に記憶されている前記価格特定情報および識別情報とを非接触にて送信する送信手段と、外部より非接触にて電力を受給する電力受給手段と、を有する飲食物容器と、
前記飲食物容器に電力を供給する電力供給手段と、前記送信手段からの送信を受信する受信手段と、該受信された情報を記憶する記憶手段と、前記識別情報を比較して同一の識別情報を1つの飲食物容器と判断する比較判断手段と、該受信された価格特定情報により特定される価格および前記比較判断手段にて判断された数量に基づき精算金額を算出する算出手段と、該精算金額および各飲食物の価格に対応する数量を外部に送信する通信手段と、電源手段とを有する可搬型の読み取り装置と、
前記通信手段との通信を行う通信手段と、印刷手段と、電源手段とを有し、前記読み取り装置より送信される前記精算金額および各飲食物の価格に対応する数量を印刷して発行するプリント装置と、
から構成されていることを特徴とする循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システム。
【請求項2】
前記読み取り装置は、少なくとも前記記憶手段に記憶された受信情報に基づく価格およびその数量情報を逐次表示可能な表示手段を具備する請求項1に記載の飲食カウンタ用精算システム。
【請求項3】
前記通信手段が、赤外線を搬送波とする赤外線通信手段である請求項1または2に記載の循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システム。
【請求項4】
前記読み取り装置は、タイマ手段を備え、予め設定された所定の時間内に新たな識別情報を受信しない場合において、読み取りの完了と判断る判断手段を具備する請求項1〜3のいずれかに記載の循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システム。
【請求項5】
前記読み取り完了を報知する報知手段を具備する請求項4に記載の循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システム。
【請求項6】
前記読み取り装置は、少なくとも前記精算金額に基づく情報記録シンボルを前記プリント装置に送信して印字させ、該情報記録シンボルを読み取る読み取り装置を備えた精算レジを具備する請求項1〜5のいずれかに記載の循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システム。

3.異議申立ての理由
特許異議申立人は、甲第1号証乃至甲第6号証を提出し、本件請求項1〜請求項6に係る発明は、甲第1号証〜甲第6号証に記載された発明である、あるいは、これらに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項3号あるいは特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、加えて、請求項および明細書の記載に不備があるから、特許法第36条第4項第1号または特許法第36条第6項第1号〜3号の規定により特許を受けることができない、と主張する。
【証拠方法】
(1)甲第1号証:特開平11-178694号公報
(2)甲第2号証:特開平4-302087号公報
(3)甲第3号証:特開平9-46294号公報
(4)甲第4号証:特開平8-147331号公報
(5)甲第5号証:特開2000-113127号公報
(6)甲第6号証:特開平1-113896号公報

4.証拠方法の内、甲第1号証及び甲第5号証について
異議申立人の主張する特許法第29条第1項第3号及び第2項に関する証拠方法について検討するに、本願は、上記1.に記載したとおり、平成10年12月28日の出願であるところ、異議申立人の提出した甲号各証の内、甲第1号証は平成11年7月6日に、又、甲第5号証は平成12年4月21日に、それぞれ公開されたものであるから、本件発明1乃至本件発明6の特許性を判断するについて、公知の文献ではない。
したがって、異議申立人が主張するように、甲第1号証をあるいは甲第5号証によっては、本件発明1乃至本件発明6について、特許法第29条第1項第3号あるいは第29条第2項を主張することはできないから、甲第1号証及び甲第5号証に関する、異議申立人の主張は採用できない。
そこで当該証拠方法について、特許法第29条の2が適用できるか否かについて検討するに、本件発明1と甲第1号証記載の発明とは、異議申立人も認める相違点があり(異議申立書21頁参照)、この相違点は、自明な事項でも周知の技術手段でもないから、本件発明1は甲第1号証に記載された発明と同一であると言うことはできず、又、本件発明2乃至本件発明6は、何れも本件発明1を引用するものであるから、本件発明2乃至本件発明6も、甲第1号証に記載された発明と同一であると言うことはできない。
又、甲第5号証は、本件発明4に関して引用された補強証拠と言うべきものであるから、甲第5号証によっては、特許法第29条の2を適用できないことは明らかである。
したがって、甲第1号証及び甲第5号証は、特許法第29条の2に関しても、本件発明の特許性を判断するための証拠とはなり得ない。
ところで、甲第1号証の記載によれば、甲第1号証に係る出願がなされるに際し、当該出願人は、特許法第30条新規性喪失の例外規定の適用を申請しているので、新規性を喪失する原因となった、平成9年12月13日付けの日本経済新聞第25面(北陸経済)の「回転ずし、携帯端末で精算」の記事をみるに、該記事には次の事項が記載されている。
「電子データを書き込んだ皿の種類を携帯端末で読み取る新たな仕組み。これまで店員が皿を数えていた手間を軽減し、客の回転率向上につながるとしている。」
「新精算システムでは、基本的な流れは従来と同様だが、店員が携帯端末を使って、重ねられた枚数の皿を読み取り、そのデータを伝票に代わる電子精算カードに記録する。皿の内部にメニューの種類を示すデータの入ったタグを埋め込んである。読み取りは非接触方式で、短時間で終了する。客は精算カードを受け取り、レジに持ち込んで支払う。」
これらの記載からみて、当該記事からは次のような発明が把握できる(以下、「記事記載の発明」と言う。)
「携帯端末により回転ずしの精算を行うシステムであって、皿の内部にはメニューの種類を示すデータの入ったタグが埋め込んであり、携帯端末により、非接触方式で読み取られた皿のデータが、電子精算カードに記録され、該精算カードが客に渡され、客は精算カードをレジに持ち込んで代金の精算を行う、回転ずしの精算システム。」

5.他の証拠方法に記載された事項
(1)甲第2号証には、次の事項が、図面(特に図5参照)とともに記載されている。
A.「同一種類の商品の個々を区別する個別データを含む商品データを記憶するデータ記憶部を有する無線方式タグの送信部から送信された前記商品データを読取る読取装置と、この読取装置による読取り結果に基づいて合計金額を演算する演算部と、この演算部において演算された合計金額を表示する表示部と、前記読取装置が同一種類の商品についての同一の個別データを読取った場合には前記読取装置で読み取った商品データを読み捨てる二重読取り防止手段と、を備えたことを特徴とするチェックアウト装置。」(平成10年3月18日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1)
B.「つぎに、前記RF-IDタグ1は、図3において示すように、各商品2についての商品データを記憶するデータ記憶部を含んだ集積回路5と、電力発生用コイル6と、商品データに応じた信号波によって変調された搬送波(被変調波)を送信する送信部である送信アンテナ7とを有している。一方、前記送信部7から送信された商品データを読取るための読取装置8が設けられており、この読取装置8には、前記電力発生用コイル6に向けて電波を送信するための送信アンテナ9と、前記送信アンテナ7から送信された被変調波を受信するための受信アンテナ10と、受信した被変調波から商品データに応じた信号波を取出す検波部(図示せず)とが設けられている。なお、前記データ記憶部5に記憶されている商品データは、具体的には図4に示すように、各商品2の種類を示す商品コードと、各商品2の単価と、同一種類の商品2について個々を区別するための個別データであるシリアルNoとにより構成されている。」(平成10年3月18日付手続補正書の段落番号0009:以下、引用明細書は同補正書による)
C.「図5は前記読取装置8による商品データの読取りや精算等を行うためのテーブル11を示したもので、このテーブル11上の前部(テーブル11上におけるかご3の流れ方向上流側)には商品2が収容されたかご3が載置されるかご載置部11aが形成されている。さらに、このテーブル11上には、前記読取装置8と、読取装置8による読取結果に基づいて合計金額を演算する演算部を含む制御部12と、演算部12において演算された合計金額を表示する表示部13を有するとともに現金やクレジットカード等による精算処理を行う精算装置14とが設けられている。前記精算装置14は、テーブル11上におけるかご3の流れ方向に沿った前記読取装置8より下流側に位置している。また、図5に示す矢印は、精算処理をする顧客がテーブル11に沿って移動する方向を示している。」(同0010第3〜11行:指摘行は特許公報による、以下同じ)
D.「また、同一の商品コードの商品データが商品データチェックエリア29に記憶されている場合には、二重読取り防止手段によりシリアルNoの比較が行われ、商品コードが同一であってもシリアルNoが異なる場合には同一種類の商品について二個目の読取りが行われたものであると判断して登録を行う。一方、二重読取り防止手段による比較によってシリアルNoも同一であった場合には、同一商品について二重読取りが行われたものとみなし、読取装置8で読み取った商品データを登録せずに読み捨てる。」(同0013第10〜19行)
E.「締め操作が行われると、登録された商品データに基づく合計金額の演算が演算部において行われ、演算された合計金額が表示部13に表示される。そして、客がこの表示された合計金額に応じて現金やクレジットカード等により精算を行うとプリンタ26により印字されたレシートが発行され、チェックアウトが終了する。」(同0015第1〜7行)

(2)甲第3号証には、次の事項が、図面とともに記載されている。
F.「携帯端末装置1はバーコードスキャナを有し、その全体形状はハンドスキャナ型を成している。この携帯端末装置1によってバーコードが読み取られると、携帯端末装置1はこのバーコードに基づいて印字データを生成し、微弱無線通信あるいは赤外線通信によってラベルプリンタ2側に送信する。すなわち、本実施形態においては、印字データを微弱無線によってラベルプリンタ2に送信した際に、通信不能となると、携帯端末装置1をラベルプリンタ2に装着して赤外線通信に切り替える、いわゆる2ウェイ方式を採用している。ラベルプリンタ2は作業員の腰ベルトに装着されるもので、携帯端末装置1から送信されて来た印字データをラベル印刷し、ラベルRを発行する。」(段落番号0005第1〜7行)
G.「以上のように、携帯端末装置1から印字データを微弱無線によってラベルプリンタ2に送信した際に、電磁波ノイズによって通信不能が起きた場合には、携帯端末装置1をラベルプリンタ2に装着して赤外線通信に切り替えて印字データを送信するようにしたから、印字データを確実にラベルプリンタ2に送信することができる。」(同0013第1〜7行)
H.「なお、上述した実施形態においては、携帯端末装置1とラベルプリンタ2とを接触させて赤外線通信を行うようにしたが、非接触状態で赤外線通信を行うようにしてもよい。また、ラベルプリンタ2として携帯用を例に挙げたが、設置型プリンタであってもよく、また、携帯端末装置1としてはバーコードスキャナを備えたものに限らず、任意の携帯端末装置であってもよい。」(同0014)

(3)甲第4号証には、次の事項が、図面とともに記載されている。
I.「実施例のPOSシステムは、図1に示すように、バーコード読取用のハンディーターミナルBHT(以下、BHTとのみいう)を6台と、小型プリンターBED(以下、BEDとのみいう)を6台とで機内システムを構成する。」(段落番号0026第1〜5行)
J.「そして、このBHTは、BEDとの間で光通信によってBHT機能拡張用のプログラムを受信し、RAM内のプログラム格納エリアにインストールすることで、後述する演算処理機能が付与される様に構成されている。また、演算処理に必要な為替レートなどのデータも、光通信によりBEDから受信し、RAM内のデータ格納エリアにインストールする様に構成されている。」(同0033第1〜7行)
K.「バーコードが読み取られると、それがキャンセルバーコードであるか否かを判別する(S108)。キャンセルバーコードである場合には、後述のキャンセル処理へと移行し、そうでないなら、当該バーコードに対応する商品名、個数、単価を一行に表示すると共に、画面の下の方にその時点での小計を表示する販売状況表示処理を実行する(S110)。」(同0053第1〜7行)
L.「こうして商品の選択、キャンセルが実行されていき、旅客の欲する商品の選択が終ったら、S112,S114においてエンターキーを押下する。すると、次の支払い処理に移行する。支払い処理では、選択した商品の合計金額を表示し(S120)、キー入力を待つ(S122)。この状態において、テンキーから数字「0〜9」が入力された場合には、当該入力された数字に対応して預かり金額をセットする(S124)。一方、バックスペースキー「BS」が押下された場合には、S120で表示した合計金額を預かり金額にセットする(S126)。」(同0056第1〜11行)
M.「エンターキーが操作された場合には、レシート印字をBEDに指示し(S138)、販売実績データをレシートNo.と共に、RAM内のデータ格納エリアに格納し(S140)、販売商品登録処理の最初に戻る。」(同0058第5〜8行)

(4)甲第6号証には、次の事項が、図面とともに記載されている。
N.「オーダー端末機3によって客の注文を聞き、このオーダー端末機を接続ボックス4に接続することによって、ターミナル情報装置から主計算機に注文情報を送る。伝票プリンター2はフロア伝票5と厨房伝票6とをプリントアウトする。厨房伝票6は厨房部7に送られ、商品が作られる。フロア伝票6には商品情報を含んだバーコードが印刷される。
商品ができると厨房伝票6と照合され、全注文か確認された後にフロア伝票5と共に客8に渡される。
客8は食事を終えた後このフロア伝票5を持ってレジ部9に行く。レジ部9ではフロア伝票にプリントされたバーコードによって情算を行う。」(公報2頁右上欄14行〜左下欄7行)
O.「第2図は、フロア伝票の例を示しており、テーブルNO,客数,担当者名を記載すると共に、商品名,単価,数,全額,小計,税・サービス料,合計を計算してプリントされる。なお、伝票形式はこれに限らず、バーコードは、別欄に表記してもよい。」(同2頁左下欄12〜17行)

6.特許法第36条に関する申立について
異議申立人は、請求項および明細書の記載に不備がある、と主張する(異議申立書25頁7行〜27頁18行)ので、特許法第29条に関する検討の前に、まず、この点について検討する。
(1)異議申立人の主張する「記載不備の理由(i)」について
異議申立人は、本件特許公報5頁右欄37〜43行(段落番号0040)の記載を根拠として、本件発明の構成要件には精算レジが必要不可欠である、旨主張するが、同記載における「精算」は本件発明の最適な実施例であって、請求項には必ずしも実施例どおりのものが記載される必要はなく、又、本件発明1は「読み取り装置より送信される精算金額および各飲食物の価格に対応する数量を印刷して発行するプリント装置」を構成要件としているため、精算レジによらなくても、客は自分が飲食したものの精算額を知ることができ、支払いも可能であるから、精算レジは、必ずしも本件発明の構成要件ではなく、異議申立人の主張は採用できない。
なお、記事記載の発明においては、精算レジは、客が渡される精算カードを読み込むために必須の構成要件である。

(2)同じく「記載不備の理由(ii)」について
本件発明1の「…飲食物を精算を行う…」は、確かに文法上、誤ってはいるが、この記載が「…飲食物の精算を行う…」の誤記であることは明らかであり、この誤記により「発明が明確でない」ものになるとは言えないから、異議申立人の主張は採用できない。

(3)同じく「記載不備の理由(iii)」について
請求項2は請求項1を引用するものであるから、請求項2の末尾の記載が「…請求項1に記載の飲食カウンタ用精算システム」では、確かに記載に不備はあるが、しかしながら、同じく請求項1乃至請求項5をを引用する請求項3乃至請求項6の末尾の記載が「…請求項1に記載の循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システム」であることからみれば、請求項2の末尾の記載が「循環型搬送路を備える」なる記載が脱落した誤記であることは明らかであり、又、この誤記により「発明が明確」でないものになるとは言えないから、異議申立人の主張は採用できない。

(4)同じく「記載不備の理由(iv)」について
請求項3は「通信手段が赤外線通信手段であること」を特定するものであるところ、特許公報の右欄6〜8行、23〜30行、及び図3〜5の記載によれば、読み取り装置、プリント装置には、どちらにも赤外線通信部が設けられている、即ち、読み取り装置、プリント装置は、どちらも赤外線通信手段を有しているものであるから、異議申立人が主張するように、通信手段がどちらのものであるかを特定する必要はなく、異議申立人の主張は採用できない。

(5)同じく「記載不備の理由(v)」について
請求項6において「…情報記録シンボルを前記プリント装置に送信して…」なる記載(なお、異議申立人は「…情報シンボルマークを前記プリント装置に送信して…」と記載するが、これは明らかに誤記である。)について、確かに、「情報記録シンボル」そのものを送信することはできないから、当該記載に不備は認められるが、しかしながら、通信手段によって送信されるものが電子データであることは技術常識であるから、請求項6において送信されるものが「情報記録シンボルのデータ」であることは言うまでもなく、又、この不備により「発明が明確」でないものになるとは言えないから、異議申立人の主張は採用できない。

(6)同じく「記載不備の理由(vi)」について
異議申立人の指摘する、特許公報2頁右欄10行の「…悪条件にされされることから…」、同3頁左欄38〜39行の「…具備する具備すること…」、同4頁右欄40行の「装置6手に、」、同4頁右欄43〜45行の「飲食されたて積み上げられた…」なる記載は、文の前後の記載からみて何れも、「…悪条件にさらされることから…」、「…具備すること…」、「装置6を手に、」、「飲食されて積み上げられた…」の誤記であることは明らかであり、又、これらの誤記により「発明の実施ができる程度に明確に記載されたもの」でないものになるは言えないから、異議申立人の主張は採用できない。

以上検討したように、確かに、本件特許に関して、明細書の記載に誤記等は認められるものの、それらを以て、「発明が明確でない。」あるいは「発明の実施ができる程度に明確に記載されていない。」として、本件特許を取り消すほどの重大な瑕疵とも認められないから、異議申立人の特許法第36条に関する主張は採用できない。

7.特許法第29条に関する申立について
本件発明は、循環型搬送路を備える飲食カウンタにおける飲食の精算を自動化し、客席においてレシートが発行され、飲食客はその場にて精算内容を確認できる方法(特願平9-294871号:特開平11-120445号公報参照)に関連して、該方法における問題点をさらに解決するためのシステムであって、寿司皿等の飲食物容器内部に内蔵されたROMや送信ユニット等の各種の電子機器を動作させるための所定の電力を簡単に供給することができ、且つ、ハンディタ?ミナル等の読み取り装置の可搬性や操作性を低下させることがなく、同一の電力にてより長く使用することのできる循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システムを提供することを目的とするものである(本件特許公報の段落番号0004〜0009参照)。
そして、本件発明1は、その目的を達成するために、読み取り装置とプリント装置を別体のものとし、飲食容器は読み取り装置からの電力受給手段を有し、読み取り装置は飲食容器への電力供給手段を有するものである。
即ち、本件発明1は、循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システムであって、飲食客が飲食カウンタにおいて精算金額を知ることができるよう「読み取り装置より送信される精算金額および各飲食物の価格に対応する数量を印刷して発行するプリント装置」を、読み取り装置とは別体に有しており、又、飲食物容器は、該容器の記憶手段に記憶された価格特定情報と識別情報を送信できる電力を得るために「外部より非接触にて電力を受給する電力受給手段」を有し、読み取り装置は「飲食物容器に電力を供給する電力供給手段」と「電源手段」とを有しているものである。
これらの点について、記事記載の発明をみるに、該発明は、客が飲食した皿の数等を非接触で読み取る「携帯端末」は有しているものの、該「携帯端末」により読み取られた皿のデータは「電子精算カード」に記録され、該電子精算カードが客に渡されるから、客は、渡された精算カードをレジに持ち込み、レジにより精算カードの読み取りが行われるでは、自分の飲食した精算金額を知ることはできない。即ち、記事記載の発明は、客が飲食したカウンタで精算額を知ることができるための「プリント装置」を有しておらず、それを示唆する記載もない。
さらに、皿と携帯端末との間で、電力の受給・供給が行われることは全く記載が無く、又、それを示唆する記載もない。
してみると、本件発明1と記事記載の発明とは、どちらも循環式搬送路を備える飲食カウンタでの飲食物(回転寿司)の自動精算を行うものとは言え、その精算に関する目的・作用は全く異なるものであるから、記事記載の発明に、他の証拠方法(甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証)を組み合わせたとしても、本件発明1が容易に想到できたものであるとは、到底言えない。
即ち、甲第2号証に記載の発明は、客が購入のためにレジに持ってきた商品を自動読み取りするに際し、各商品の識別情報の二重読み取りを防止するものであるから、これを記事記載の発明に適用しても、飲食容器の二重読み取りを防止する携帯端末の限度で、発明が把握できるにすぎない。
甲第3号証に記載の発明は、確かに、携帯端末とプリンタ装置とを別体にするものではあるが、そもそも記事記載の発明の携帯端末は、飲食カウンタにおいて客にレシートを発行するものではない(プリント装置を有していない)から、甲第3号証記載の携帯端末を、記事記載の発明の携帯端末に代えることは、到底できない。
甲第4号証に記載の発明は、BHTにより商品情報を読み取り、読み取った商品データの総額を算出し、該総額に基づいて、BEDにより集計リストを印字するものであるから、本件発明1の、読み取ったデータに基づいて精算額を計算する点について引用できたとしても、そもそも、本件発明1の基本的な構成が、記事記載の発明に記載されていない以上、この点を記事記載の発明に適用することはできない。
甲第6号証に記載の発明は、レストランのオーダーエントリーシステムに用いられる端末装置であって、店員が客のオーダーを聞いて入力するものであり、飲食容器に内蔵されるデータを非接触で読み取るものではないから、甲6号証記載の端末装置だけでは、本件発明1の証拠にならないことは明らかであり、又、記事記載の発明の端末装置に代えることは、到底できない。

以上のとおり、日本経済新聞の平成9年12月13日付けの記事、甲第2号証乃至甲第4号証、及び、甲第6号証には、上記した点は記載も示唆もなく、又、本件発明1は、特許公報に記載の本件発明1特有の効果を奏するものであるから、本件発明1は、記事記載の発明、甲第2号証乃至甲第4号証、及び、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものすることはできない。
又、本件発明2乃至本件発明6は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1が、記事記載の発明、甲第2号証乃至甲第4号証、及び、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上、本件発明2乃至6も、記事記載の発明、甲第2号証乃至甲第4号証、及び、甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

8.まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1乃至本件発明6に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものとすることはできず、又、上記6.のとおりであるから、特許法第36条第4項、第6項第2号に違反して特許されたものとすることもできない。
さらに、他に本件発明1乃至本件発明6に係る特許を取り消すべき理由は見いだせない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-11-24 
出願番号 特願平10-374368
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G07G)
P 1 651・ 121- Y (G07G)
P 1 651・ 536- Y (G07G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨岡 和人  
特許庁審判長 岡 千代子
特許庁審判官 井上 哲男
長浜 義憲
登録日 2003-07-04 
登録番号 特許第3448499号(P3448499)
権利者 オムロン株式会社 グローリー工業株式会社 株式会社石野製作所
発明の名称 循環型搬送路を備える飲食カウンタ用精算システム  
代理人 重信 和男  
代理人 重信 和男  
代理人 日高 一樹  
代理人 渡邉 知子  
代理人 渡邉 知子  
代理人 日高 一樹  

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