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審決分類 審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E05F
審判 一部無効 4項(134条6項)独立特許用件  E05F
審判 一部無効 2項進歩性  E05F
管理番号 1136817
審判番号 無効2004-80216  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-05-08 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-11-05 
確定日 2006-05-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第3542532号「上げ下げ窓および上げ下げ窓付戸」の特許無効審判事件について平成17年5月10日にした審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成17年(行ケ)第10533号、平成17年9月9日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正請求を認めない。 特許第3542532号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1. 本件特許第3542532号(以下、「本件特許」という。)の出願は、平成11年10月26日に特許出願された特願平11-303598号(以下、「本件出願」という。)であって、その請求項1ないし請求項4に係る発明について平成16年4月9日に設定登録され、その後、本件無効審判請求人三協アルミニウム工業株式会社及び立山アルミニウム工業株式会社(以下、「請求人」という。)により上記本件特許のうちの請求項1及び請求項2に係る発明の特許に対して平成16年11月5日に本件無効審判〔無効2004-80216〕が請求されたものであり、無効審判被請求人トステム株式会社(以下、「被請求人」という。)により指定期間内の平成17年1月28日付けの審判事件答弁書が提出されると共に同日付けの訂正請求書が提出され、前記審判事件答弁書副本及び訂正請求書副本を請求人に送付したところ、請求人により指定期間内の平成17年3月4日付けの審判事件弁駁書が提出され、当審は前記平成17年1月28日付けの訂正請求書による訂正の請求について審理した結果、前記訂正の請求は、平成15年改正特許法第134条の2ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするいずれの訂正にも該当しない訂正事項を含むものであるという理由により前記訂正の請求を認めることができないとした上で、「特許第3542532号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との結論を内容とする平成17年5月10日付けの審決を請求人及び被請求人に送達した。
2. これに対し、被請求人は、前記審決についての審決取消訴訟〔平成17年(行ケ)第10533号審決取消請求事件〕を、平成17年6月17日に知的財産高等裁判所に提訴するとともに、前記提訴の日から90日以内の平成17年8月8日に本件特許についての訂正審判請求書〔訂正2005-39145〕を提出した。
3. これを受けて、知的財産高等裁判所は、「当裁判所は、当事者の意見を聴いた上、本件特許を無効にすることについて特許無効審判においてさらに審理させることが相当であると認め、事件を審判官に差し戻すため、特許法第181条第2項により審決を取り消す」ことを内容とする平成17年9月9日付けの決定をした。
4. そこで、当審に差し戻しされた前記無効審判についての審理をするに当たって、当審は、被請求人(訂正審判請求人)に対し、改めて無効審判における訂正の請求の意思の有無を質したところ、被請求人(訂正審判請求人)から、平成17年8月8日に提出の前記訂正審判請求書を本件無効審判の訂正の請求に援用する旨の意思の表示がなされたので、特許法第134条の3第5項の規定により本件無効審判の訂正の請求としてみなされることとなった平成17年8月8日付け前記訂正審判請求書の副本を請求人に送達したところ、請求人から平成18年1月6日付けの審判事件弁駁書が提出された。
5. そして、当審は、前記無効審判の訂正の請求についての審理をした結果、前記訂正の請求に対する職権による訂正拒絶理由通知書を送付し、当事者の双方の意見を徴収したところ、請求人からは平成18年2月16日付けの意見書が提出され、また、被請求人からは平成18年2月22日付けの意見書のみが提出されたものである。

第2 訂正請求の適否についての判断
1.本件の訂正の請求の内容
特許法第134条の3第5項の規定により、訂正審判の請求書〔訂正2005-39145〕に添付された特許請求の範囲及び明細書を援用する、無効審判〔無効2004-80216〕の「訂正の請求」とみなされることとなった、無効審判の被請求人が提出した平成17年8月8日付け審判請求書(以下、これを「本件訂正請求書」という。)において、無効審判被請求人が求めている訂正の請求(以下、これを「本件訂正請求」という。)の内容は、次のとおりのものである。
(1)訂正事項1
特許査定時の願書に添付した明細書(以下、これを「特許明細書」という。)の「特許請求の範囲」の
「【請求項1】 上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けてなることを特徴とする上げ下げ窓。
【請求項2】 上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設け、前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられていることを特徴とする上げ下げ窓。
【請求項3】 開口枠内に戸体を開閉可能に設け、この戸体は上下枠および左右縦枠からなる四周枠を戸体に一体もしくは別体で有し、この四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設けた上げ下げ窓付戸であって、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けてなることを特徴とする上げ下げ窓付戸。
【請求項4】 開口枠内に戸体を開閉可能に設け、この戸体は上下枠および左右縦枠からなる四周枠を戸体に一体もしくは別体で有し、この四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設けた上げ下げ窓付戸であって、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設け、前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられていることを特徴とする上げ下げ窓付戸。」の記載を、
「【請求項1】 上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けてなることを特徴とする上げ下げ窓。
【請求項2】 上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設け、前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられていることを特徴とする上げ下げ窓。
【請求項3】 開口枠内に戸体を開閉可能に設け、この戸体は上下枠および左右縦枠からなる四周枠を戸体に一体もしくは別体で有し、この四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設けた上げ下げ窓付戸であって、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けてなることを特徴とする上げ下げ窓付戸。
【請求項4】 開口枠内に戸体を開閉可能に設け、この戸体は上下枠および左右縦枠からなる四周枠を戸体に一体もしくは別体で有し、この四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設けた上げ下げ窓付戸であって、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設け、前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられていることを特徴とする上げ下げ窓付戸。」と訂正する。

(2)訂正事項2
ア.特許明細書の「明細書」の【0005】、【0006】、【0007】及び【0008】の各段落の中の
「……前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、……」の記載を、
「……前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、……」とそれぞれ訂正する。

イ.特許明細書の「明細書」の【0025】及び【0026】の各段落の中の
「【0025】前記上枠2aの開口部7は、前述のように前記外障子3の上部と上枠2aの室内面2gとの間、すなわち室内形材2yの室内面2gの下側から室外形材2xの下面2fの室内側に跨って形成されていることにより、障子3,4の取付けの前後を問わずに、バランサー5の取付けが独立して容易に行えると共に、バランサー5の調節部29の調整を室内側から容易に行えるようになっている。そして、上枠2aの開口部7には、この開口部7を覆う室内面8aおよび下面8bを有する断面L字状の金属製例えばアルミニウム合金製のカバー材8が、その一側縁部を上枠2aの室内形材2yの室内面2g下縁部に係合し、且つ他側縁部を前記上部押縁11に係止することにより着脱可能に取付けられている。」及び
「【0026】以上の構成からなる上げ下げ窓1によれば、上下枠2a,2bおよび左右縦枠2c,2cからなる四周枠2内の上方に外障子3を固定し、下方に内障子4を上げ下げ可能に設け、前記上枠2a内にバネ力で巻取り付勢された吊部材6を介して前記内障子4を任意の高さ位置に保持するためのバランサー5を収納配置するために、前記外障子3の上部と上枠2aの室内面2gとの間に前記バランサー5を入れるための開口部7を形成しているので、障子3,4の取付手順を問わずにバランサー5の取付けを随時行うことが可能となり、組立性ないし施工性の向上が図れる。」の記載を
「【0025】前記上枠2aの開口部7は、前述のように前記外障子3の上部と上枠2aの室内面2gとの間のコーナー部、すなわち室内形材2yの室内面2gの下側から室外形材2xの下面2fの室内側に跨って、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成されていることにより、障子3,4の取付けの前後を問わずに、バランサー5の取付けが独立して容易に行えると共に、バランサー5の調節部29の調整を室内側から容易に行えるようになっている。そして、上枠2aの開口部7には、この開口部7を覆う室内面8aおよび下面8bを有する断面L字状の金属製例えばアルミニウム合金製のカバー材8が、その一側縁部を上枠2aの室内形材2yの室内面2g下縁部に係合し、且つ他側縁部を前記上部押縁11に係止することにより着脱可能に取付けられている。」及び
「【0026】以上の構成からなる上げ下げ窓1によれば、上下枠2a,2bおよび左右縦枠2c,2cからなる四周枠2内の上方に外障子3を固定し、下方に内障子4を上げ下げ可能に設け、前記上枠2a内にバネ力で巻取り付勢された吊部材6を介して前記内障子4を任意の高さ位置に保持するためのバランサー5を収納配置するために、前記外障子3の上部と上枠2aの室内面2gとの間のコーナー部に前記バランサー5を入れるための開口部7を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成しているので、障子3,4の取付手順を問わずにバランサー5の取付けを随時行うことが可能となり、組立性ないし施工性の向上が図れる。」とそれぞれ訂正する。

ウ.特許明細書の「明細書」の【0034】及び【0035】の各段落の中の
「【0034】(1)請求項1に係る上げ下げ窓または請求項3に係る上げ下げ窓付戸によれば、上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けているので、障子の取付手順を問わずにバランサーの取付けが随時可能となり、組立性の向上が図れる。」及び
「【0035】(2)請求項2に係る上げ下げ窓または請求項4に係る上げ下げ窓付戸によれば、上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設け、前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられているため、障子の取付手順を問わずにバランサーの取付けが随時可能で組立性の向上が図れると共に、バランサーの調節も室内側から容易に行うことができる。」の記載を
「【0034】(1)請求項1に係る上げ下げ窓または請求項3に係る上げ下げ窓付戸によれば、上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けているので、障子の取付手順を問わずにバランサーの取付けが随時可能となり、組立性の向上が図れる。」及び
「【0035】(2)請求項2に係る上げ下げ窓または請求項4に係る上げ下げ窓付戸によれば、上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設け、前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられているため、障子の取付手順を問わずにバランサーの取付けが随時可能で組立性の向上が図れると共に、バランサーの調節も室内側から容易に行うことができる。」とそれぞれ訂正する。

エ.特許明細書の「明細書」の【0008】の段落の中の
「請求項1に係る」の記載を、
「請求項4に係る」と訂正する。

2.本件訂正請求の適否について
(1)本件訂正請求の目的の適否についての検討
本件訂正請求の内容は、上記「1.本件の訂正の請求の内容」欄に前示したとおりである。
ア.上記「訂正事項1」の訂正は、「特許請求の範囲」の請求項1ないし請求項4に記載の「前記外障子の上部と上枠の室内面との間」及び「前記バランサーを入れるための開口部を形成し」の各記載を、それぞれ「前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部」及び「前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し」のように限定的に減縮する訂正であるから、前記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

イ.上記「訂正事項2」の「ア.」における、「明細書」の【0005】、【0006】、【0007】及び【0008】の各段落の中の「……前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、……」の記載を、「……前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、……」とする訂正は、該訂正により、明りようでない明細書の記載を特許請求の範囲の訂正に整合させるための訂正であるから、前記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

ウ.上記「訂正事項2」の「イ.」における、「明細書」の【0025】及び【0026】の各段落の中の記載を、「【0025】前記上枠2aの開口部7は、前述のように前記外障子3の上部と上枠2aの室内面2gとの間のコーナー部、すなわち室内形材2yの室内面2gの下側から室外形材2xの下面2fの室内側に跨って、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成されていることにより、……」及び「【0026】……前記外障子3の上部と上枠2aの室内面2gとの間のコーナー部に前記バランサー5を入れるための開口部7を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成しているので、……」とする訂正は、該訂正により、明りようでない明細書の記載を特許請求の範囲の訂正に整合させるための訂正であるから、前記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

エ.上記「訂正事項2」の「ウ.」における、「明細書」の【0034】及び【0035】の各段落の中の記載を、「【0034】(1)……前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、……」及び「【0035】(2)……前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、……」とする訂正は、該訂正により、明りようでない明細書の記載を特許請求の範囲の訂正に整合させるための訂正であるから、前記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の「明りようでない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

オ.上記「訂正事項2」の「エ.」における、「明細書」の【0008】の段落の中の「請求項1に係る」の記載を、「請求項4に係る」とする訂正は、該訂正により、明らかな誤記を本来の記載にするための訂正であるから、前記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第2号の「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。

(2)本件訂正請求における新規事項の有無についての検討
上記訂正事項1の特許明細書の「特許請求の範囲」についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
また、上記訂正事項2の「ア.」、「イ.」及び「ウ.」の特許明細書の「明細書」についての各訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
そして、上記訂正事項2の「エ.」の特許明細書の「明細書」についての訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
したがって、上記訂正事項1及び訂正事項2の「ア.」ないし「エ.」の各訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定を満たす。

(3)本件訂正請求における実質上特許請求の範囲の拡張又は変更の存否についての検討
上記訂正事項1及び訂正事項2の「ア.」ないし「エ.」の各訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正事項1及び訂正事項2の「ア.」ないし「エ.」の各訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定を満たす。

(4)本件訂正請求における独立特許要件についての検討
本件訂正請求に係る発明は、上記「1.本件の訂正の請求の内容」欄に前示のとおり、本件訂正請求書に添付した全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載されたとおりのもの(以下、これらを請求項の順に「本件訂正発明1」などという。)であるところ(上記「1.本件の訂正の請求の内容」欄の「(1)訂正事項1」を参照)、本件の特許無効審判の請求の趣旨に係る特許発明は、請求項1及び請求項2に係る発明、すなわち、本件訂正発明1及び本件訂正発明2のみであり、しかも、特許無効審判の請求がされていない請求項3及び請求項4における訂正請求は、上記「2.本件訂正請求の適否について」の「(1)本件訂正請求の目的の適否についての検討」欄の「ア.」に前述のとおり、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に該当していることから、本件訂正請求書に添付した全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項3及び請求項4に係る発明、すなわち、本件訂正発明3及び本件訂正発明4は、特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第5項の「特許無効審判の請求がされていない請求に係る第1項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」の規定が適用されることになるべきものとなる。
そこで、当審は、さらに進んで、前記本件訂正発明3及び本件訂正発明4の独立特許要件について検討する。

ア.本件訂正発明3の独立特許要件についての検討
(ア)本件訂正発明3は、次のとおりのものである。
「開口枠内に戸体を開閉可能に設け、この戸体は上下枠および左右縦枠からなる四周枠を戸体に一体もしくは別体で有し、この四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設けた上げ下げ窓付戸であって、
前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、
前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、
この開口部にカバー部材を着脱可能に設けてなることを特徴とする上げ下げ窓付戸。」

(イ)本件訂正発明3における開口部の大きさ、その形状及び開口部が設けられる位置については、特許明細書の特許請求の範囲の請求項3に、「前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に……開口部を……形成し、」と具体的に記載されていて、前記開口部の大きさ、その形状及び開口部が設けられる位置については、明確であるといえる。
一方、本件訂正発明3におけるバランサーの大きさ及びその形状については、特許明細書の特許請求の範囲の請求項3には全く記載がなく、前記バランサーの大きさ及びその形状については、不明である。
そして、バランサーについては、前記特許請求の範囲の請求項3に、「前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置する」、「前記バランサーを入れるための開口部」及び「前記バランサーが出し入れ可能となるように」が記載されているだけである。
そうしてみると、請求項3に記載の前記バランサーが、仮に、開口部の開口寸法よりも元々小さい寸法のものである場合には、或いは、請求項3に記載の前記バランサーが、開口部の開口寸法に比して元々平たい形状のものである場合には、開口部から上枠内への前記バランサーの挿入に際して、開口部の大きさ、その形状及び開口部が設けられる位置によってバランサーの挿入が困難又は不可能となるというような寸法上の物理的制約を受けてしまうことに対する何らかの技術的手段を施すという考慮を払うことは全く必要がなく、したがって、本件訂正発明3の「バランサーの取付けに関する組立性向上」という解決すべき課題における「上枠の下面の開口部からバランサーを上枠内に入れて取付ける」という前提に対する技術上の障碍がもとより存在しないことになるから、本件訂正発明3において、外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に開口部を形成する等の前記開口部に対する何らかの技術的な工夫をこらすまでもなく、前記バランサーを上枠内にきわめて簡単に雑作もなく収納配置することができることになるものと考えられる。すなわち、本件訂正発明3における、外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に開口部を形成することは、本件訂正発明3の「バランサーの取付けに関する組立性向上」という解決すべき課題に対して何らの技術的意義も持たないことになる。
一方、請求項3に記載の前記バランサーが、仮に、開口部の開口寸法よりも元々物理的に大きい寸法のものである場合には、開口部から上枠内へ前記バランサーを挿入しようとしても、開口部の大きさ、その形状及び開口部が設けられる位置を考慮するまでもなく、それらとは無関係にバランサーの開口部からの挿入は物理的にもとより不可能であるから、本件訂正発明3における、前記バランサーをコーナー部に形成した開口部から上枠内に収納配置する旨の請求項3の記載は、まさしく実現不可能な単なる願望にすぎないことになる。
したがって、請求項3に記載の「前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、」の記載は、「バランサーを戸体の上枠内に開口部から収納配置したい」という願望を単に表明したものにすぎないものとなるから、請求項3におけるバランサーについての記載は、本件訂正発明3が課題を解決するために採用する「外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に開口部を形成する」という技術的手段における「上枠の下面の開口部からバランサーを上枠内に入れて取付ける」という前提に対し、開口部に対するバランサーの大きさ及びその形状に関する発明特定事項が明確であるとはいえない。

イ.本件訂正発明4の独立特許要件についての検討
(ア)本件訂正発明4は、次のとおりのものである。
「開口枠内に戸体を開閉可能に設け、この戸体は上下枠および左右縦枠からなる四周枠を戸体に一体もしくは別体で有し、この四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設けた上げ下げ窓付戸であって、
前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、
前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、
この開口部にカバー部材を着脱可能に設け、前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられていることを特徴とする上げ下げ窓付戸。」

(イ)本件訂正発明4における開口部の大きさ、その形状及び開口部が設けられる位置については、特許明細書の特許請求の範囲の請求項4に、「前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に……開口部を……形成し、」と具体的に記載されていて、前記開口部の大きさ、その形状及び開口部が設けられる位置については、明確であるといえる。
一方、本件訂正発明4におけるバランサーの大きさ及びその形状については、特許明細書の特許請求の範囲の請求項4には全く記載がなく、前記バランサーの大きさ及びその形状については、不明である。
そして、バランサーについては、前記特許請求の範囲の請求項4に、「前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置する」、「前記バランサーを入れるための開口部」、「前記バランサーが出し入れ可能となるように」及び「前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられている」が記載されているだけである。
そうしてみると、請求項4に記載の前記バランサーが、仮に、開口部の開口寸法よりも元々小さい寸法のものである場合には、或いは、請求項4に記載の前記バランサーが、開口部の開口寸法に比して元々平たい形状のものである場合には、開口部から上枠内への前記バランサーの挿入に際して、開口部の大きさ、その形状及び開口部が設けられる位置によってバランサーの挿入が困難又は不可能となるというような寸法上の物理的制約を受けてしまうことに対する何らかの技術的手段を施すという考慮を払うことは全く必要がなく、したがって、本件訂正発明4の「バランサーの取付けに関する組立性向上」という解決すべき課題に対する「上枠の下面の開口部からバランサーを上枠内に入れて取付ける」という前提における技術上の障碍がもとより存在しないことになるから、本件訂正発明4において、外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に開口部を形成する等の前記開口部に対する何らかの技術的な工夫をこらすまでもなく、前記バランサーを上枠内にきわめて簡単に雑作もなく収納配置することができることになるものと考えられる。すなわち、本件訂正発明4における、外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に開口部を形成することは、本件訂正発明4の「バランサーの取付けに関する組立性向上」という解決すべき課題に対して何らの技術的意義も持たないことになる。
一方、請求項4に記載の前記バランサーが、仮に、開口部の開口寸法よりも元々物理的に大きい寸法のものである場合には、開口部から上枠内へ前記バランサーを挿入しようとしても、開口部の大きさ、その形状及び開口部が設けられる位置を考慮するまでもなく、それらとは無関係にバランサーの開口部からの挿入は物理的にもとより不可能であるから、本件訂正発明4における、前記バランサーをコーナー部に形成した開口部から上枠内に収納配置する旨の請求項4の記載は、まさしく実現不可能な単なる願望にすぎないことになる。
したがって、請求項4に記載の「前記外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に前記バランサーを入れるための開口部を、前記バランサーが出し入れ可能となるように形成し、」の記載は、「バランサーを戸体の上枠内に開口部から収納配置したい」という願望を単に表明したものにすぎないものとなるから、請求項4におけるバランサーについての記載は、本件訂正発明4が課題を解決するために採用する「外障子の上部と上枠の室内面との間のコーナー部に開口部を形成する」という技術的手段における「上枠の下面の開口部からバランサーを上枠内に入れて取付ける」という前提に対し、開口部に対するバランサーの大きさ及びその形状に関する発明特定事項が明確であるとはいえない。

ウ.まとめ
したがって、本件訂正請求における請求項3及び請求項4の記載は、ともに特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、特許法第36条第6項第2号に規定する「特許を受けようとする発明が明確であること。」の要件に適合していないので、本件訂正発明3及び本件訂正発明4は、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであり、本件訂正発明3及び本件訂正発明4は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求は、平成15年改正特許法第134条の2第5項において読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件訂正請求は、これを認めない。

3.訂正拒絶理由に対する被請求人の主張について
(1)当審が被請求人に通知した本件訂正請求に対する訂正拒絶理由について、被請求人は平成18年2月22日付けの意見書において、種々諸々の意見を述べて、本件訂正は訂正拒絶の理由を有しない旨を主張している。

(2)しかしながら、平成18年2月22日付けの意見書における被請求人の上記主張を勘案しても、次の(3)ないし(5)に示す理由により、依然として、本件訂正請求における請求項3及び請求項4の「開口部に対するバランサーの大きさ及びその形状に関する発明特定事項」が明確であるということができないので、被請求人の上記主張は、採用できない。

(3)本件訂正請求における請求項3及び請求項4に記載されている「開口部」及び「バランサー」に関する個々の用語の意義の解釈は、特許法第70条第2項の規定に依拠せずとも、その特許請求の範囲の記載から明確に把握できるから、被請求人の特許法第70条第2項についての言及は、もとより論点の対象とはならない。
一方、本件訂正請求における請求項3及び請求項4の記載では、訂正拒絶理由通知書において指摘したとおり、請求項3及び請求項4に「開口部に対するバランサーの大きさ及びその形状に関する発明特定事項」について、まったく記載されていないのであるから、請求項3及び請求項4に係る本件特許発明についての技術的範囲が、その特許請求の範囲の記載から明確であるということができない。すなわち、本件訂正請求における請求項3及び請求項4の記載は、一方の「開口部」については明確に記載されているのに対して、他方の「バランサー」については、単に「バランサーを戸体の上枠内に開口部から収納配置したい」という願望を表明するだけの記載となっており、その結果として、「開口部」と「バランサー」とを合わせた両者の相互の関係については、依然として、「開口部に対するバランサーの大きさ及びその形状に関する発明特定事項」が明確であるということができないものとなっている。
したがって、本件訂正請求における請求項3及び請求項4の記載では、開口部に対するバランサーの大きさが、開口部の大きさと比較してどのように大きいのか、或いはどのように小さいのか、そしてまた、開口部の形状に対するバランサーの形状が、開口部の形状に対してどのような形状をしているのかについての発明特定事項が、依然として明確でないものとなっている。
こうしてみると、平成18年2月22日付けの意見書における被請求人の特許法第70条についての主張は、本件訂正請求における請求項3及び請求項4の記載の明確性について、「開口部」及び「バランサー」に関する個々の用語についての意義と、「開口部に対するバランサーの大きさ及びその形状に関する発明特定事項」との相違を明確に弁別せずに、単に混同して主張しているものにすぎない。

(4)また、被請求人は、「バランサーの取付けに関する組立性向上」の課題とともに、「バランサーの調整も室内側から容易に行うことができる上げ下げ窓および上げ下げ窓付戸を提供すること」も、本件特許発明の解決すべき課題であるとして、「作業の迅速のためには、上枠の形状が重要であり、このときバランサーの大きさや形状はいかなるものであっても構いません。」と主張する。
しかしながら、上記「バランサーの取付けに関する組立性向上」の課題が、依然として本件特許発明の解決すべき課題のひとつであることに変わりはないことを考えれば、本件訂正請求における請求項3及び請求項4の記載では、その課題を解決するための手段としての「開口部に対するバランサーの大きさ及びその形状に関する発明特定事項」が明確であるということは、できない。

(5)さらに、被請求人は、特許・実用新案審査規準に依拠することにより、特許法第36条第6項第2号は、その規定により的確に新規性進歩性等の特許要件の判断をするという特許請求の範囲の機能を担保する規定であるから、請求項3及び請求項4に係る本件特許発明の技術的範囲が先行技術文献との対比において適切に判断できる記載であれば十分である旨を主張する。
しかしながら、特許法第36条第6項第2号の特許請求の範囲に記載した発明の明確性に関する規定は、特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の技術的範囲が定められる点において重要な意義を有するものであり、そして、例えば特許法第123条(特許無効審判)に明記されているように、特許法第36条第6項第2号の特許請求の範囲に記載した発明の明確性に関する規定が、新規性進歩性等の特許要件の判断に関する特許法第123条第1項第2号の無効事由の規定とは何らの関係も持たずに、独立して別個に規定されている特許法第123条第1項第4号の無効事由でもあることを斟酌すれば、特許法第36条第6項第2号の特許請求の範囲に記載した発明の明確性に関する規定は新規性進歩性等の特許要件の判断に関する特許法第29条の規定と互いに連携して適用されるべきであるとする被請求人の主張が、到底採用できるものでないことは明らかである。

(6)以上のとおりであるから、平成18年2月22日付けの意見書における被請求人の主張は、採用することができない。

第3 本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明
上記のとおり、平成17年8月8日付け審判請求書をもってする本件訂正請求が認められないから、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのもの(以下、これを「本件発明1」及び「本件発明2」という。)である。
「【請求項1】 上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けてなることを特徴とする上げ下げ窓。」
「【請求項2】 上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置するために、前記外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設け、前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられていることを特徴とする上げ下げ窓。」

第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、「特許第3542532号の請求項1及び2についての特許は無効にする、審判請求費用は被請求人の負担にする、との審決を求める。」と主張し、下記の刊行物を提示して、以下の無効理由を主張する。その無効理由の概略は、次のとおりである。
〔無効理由1〕:本件発明1は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証刊行物に記載の引用発明に、甲第2号証刊行物に記載の公知発明、並びに、甲第2号証刊行物及び甲第3号証刊行物に記載の周知技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものである。したがって、本件発明1の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。
〔無効理由2〕:本件発明2は、本件特許出願前に頒布された甲第1号証刊行物に記載の引用発明に、甲第2号証刊行物に記載の公知発明、並びに、甲第2号証刊行物及び甲第3号証刊行物に記載の周知技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができないものである。したがって、本件発明2の特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

甲第1号証刊行物:特開平8-135296号公報
甲第2号証刊行物:実公昭62-46772号公報
甲第3号証刊行物:特開平10-246065号公報

2.被請求人の主張
被請求人は、請求人の前記主張に対し、その審判事件答弁書において「本件無効審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」と主張し、そして、「審判請求人の主張はいずれも理由がなく、本件特許の請求項1及び2にかかる発明は、甲第1〜3号証に記載されている発明、考案に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない。従って、特許法第29条第2項の規定により本件発明を無効にする理由は存在しない。」と主張する。

第5 無効理由についての検討
1.甲号証各刊行物の記載事項
(1)甲第1号証刊行物〔特開平8-135296号公報〕の記載事項
甲第1号証刊行物には、上げ下げ窓用バランサーに関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「【0001】【産業上の利用分野】 この発明は、建築物の壁や、大型の戸に設けられる上げ下げ窓に用いられるバランサーに関する。」
「【0006】【課題を解決するための手段】 この発明による上げ下げ窓用バランサーは、線状障子吊下げ部材と、吊下げ部材巻取ドラムと、繰出されたときに可動障子を上向きに付勢する定荷重渦巻きばねと、吊下げ部材巻取ドラムおよび定荷重渦巻きばねの間に両者間で力を伝達するように設けられた伝動手段とを備えているものである。
【0007】 上記上げ下げ窓用バランサーにおいて、吊下げ部材巻取ドラムおよび定荷重渦巻きばねが基板に配置されており、吊下げ部材巻取ドラムが基板に対して直交する軸線の周りに回転自在であり、定荷重渦巻きばねの中心線が基板に対して直交していることが好ましい。
【0008】 また、上記上げ下げ窓用バランサーにおいて、伝動手段が、定荷重渦巻きばね巻取ドラムと、線材巻取ドラムおよび定荷重渦巻きばね巻取ドラムの間に設けられ、かつ複数の円筒歯車を有する歯車装置とよりなることが好ましい。」
「【0010】【作用】 線状障子吊下げ部材と、吊下げ部材巻取ドラムと、繰出されたときに可動障子を上向きに付勢する定荷重渦巻きばねと、吊下げ部材巻取ドラムおよび定荷重渦巻きばねの間に両者間で力を伝達するように設けられた伝動手段とを備えていると、障子吊下げ部材および定荷重渦巻きばねの長さを、窓枠の高さが最大となる場合の可動障子のストロークに対応させておけば、1種類のバランサーにより種々の高さの窓枠を持った上げ下げ窓に適用することができる。また、定荷重渦巻きばねにより可動障子に上向きの力を付与しているので、可動障子の全移動域において均一な力を付与することができる。
【0011】 吊下げ部材巻取ドラムおよび定荷重渦巻きばねが基板に配置されており、吊下げ部材巻取ドラムが基板に対して直交する軸線の周りに回転自在であり、定荷重渦巻きばねの中心線が基板に対して直交していると、バランサーの基板と直交する方向の寸法を小さくすることができる。したがって、バランサーの基板を窓枠の上枠内に水平状態で取付ける場合、上枠の高さを低くすることができる。……。」
「【0014】【実施例】 以下、この発明の実施例を、図面を参照して説明する。この実施例は、この発明によるバランサーを、建築物の壁に設けられた上げ下げ窓に適用したものである。
【0015】 図1はバランサーを備えた上げ下げ窓を示し、図2および図3はバランサーの詳細を示す。
【0016】 図1において、上げ下げ窓は、窓枠(1)の上部に固定障子(2)が嵌め止められ、固定障子(2)の屋内側において、窓枠(1)に上下動自在の可動障子(3)が配置されたものである。窓枠(1)は、上枠(1a)、下枠(1b)および左右の縦枠(1c)よりなり、可動障子(3)は左右の縦枠(1c)により案内されて上下動するようになっている。窓枠(1)の上枠(1a)は、横断面略U字状となっている。
【0017】 窓枠(1)の上枠(1a)の下壁における左右両端部にバランサー(4)が取付けられている。以下、左側のバランサー(4)について、図2および図3を参照して説明する。
【0018】 図2および図3において、バランサー(4)は、先端部に可動障子(3)が固定されている障子吊下げワイヤ(5)(線状障子吊下げ部材)と、ワイヤ巻取ドラム(6)(吊下げ部材巻取ドラム)とを備えている。ワイヤ巻取ドラム(6)は合成樹脂製であって、下方から上方に向かって徐々に大径となされたテーパ部分(6a)を有しており、このテーパ部分(6a)に障子吊下げワイヤ(5)が巻取られるようになっている。すなわち、障子吊下げワイヤ(5)の端部はテーパ部分(6a)の下方の円筒状部分の上端に固定されており、障子吊下げワイヤ(5)はテーパ部分(6a)の小端径側から順次巻取られるようになっており、障子吊下げワイヤ(5)はワイヤ巻取ドラム(6)のテーパ部分(6a)の全体に渡って均一巻取られている。したがって、後述する可動障子(3)の上下動のさいに、障子吊下げワイヤ(5)のワイヤ巻取ドラム(6)への巻取り、およびワイヤ巻取ドラム(6)からの繰出しがスムーズに行なわれる。また、ワイヤ巻取ドラム(6)は、窓枠(1)の上枠(1a)下壁に水平状態で固定された基板(7)における左側部分に、垂直軸(8)により回転自在に取付けられている。障子吊下げワイヤ(5)は、ワイヤ巻取ドラム(6)に巻取られており、基板(7)に取付けられて水平軸線の周りに回転自在であるガイドプーリ(9)に掛けられ、基板(7)および上枠(1a)下壁を貫通して下方に伸び、その先端部が可動障子(3)の上端部に固定されている。そして、障子吊下げワイヤ(5)は、可動障子(3)が下降したさいにワイヤ巻取ドラム(6)から繰出され、可動障子(3)が上昇したさいにワイヤ巻取ドラム(6)に巻取られるようになっている。
【0019】 基板(7)の右端部に、合成樹脂製定荷重渦巻きばね装着ドラム(11)が、垂直軸(12)により回転自在に取付けられており、このドラム(11)に定荷重渦巻きばね(13)が装着されている。
【0020】 ワイヤ巻取ドラム(6)と定荷重渦巻きばね(13)との間に両者間で力を伝達するように伝動手段が設けられている。伝動手段は、定荷重渦巻きばね装着ドラム(11)の左側において、垂直軸(15)により基板(7)に回転自在に取付けられており、かつ定荷重渦巻きばね(13)を巻取る合成樹脂製定荷重渦巻きばね巻取ドラム(14)を備えている。定荷重渦巻きばね巻取ドラム(14)の周面の一部には平坦部(14a)が形成されており、この平坦部(14a)に定荷重渦巻きばね(13)の先端がねじ(16)により固定されている。」
「【0023】 右側のバランサー(4)は、左側のバランサー(4)と左右対称の構成である。そして、左右のバランサー(4)の定荷重渦巻きばね(13)のばね力を合わせた力が、可動障子(3)の重量と釣り合うようになっている。」
そして、添付図面の図1には上げ下げ窓の斜視図が、図2にはバランサーの実施例の詳細平面図が、そして図3にはバランサーの一部切欠き詳細正面図がそれぞれ図示されており、これらの図示からみて、添付図面には、線状障子吊下げ部材5と、吊下げ部材巻取ドラム6と、繰出されたときに可動障子3を上向きに付勢する定荷重渦巻きばね13と、吊下げ部材巻取ドラム6および定荷重渦巻きばね13の間に両者間で力を伝達するように設けられた歯車装置17からなる伝動手段とを備えているバランサーを備えた上げ下げ窓が図示されている。
そうしてみると、上記甲第1号証刊行物の摘記事項及び添付図面に図示された技術事項を総合すると、甲第1号証刊行物には、「上枠1a、下枠1b及び左右の縦枠1cよりなる窓枠1の上部に固定障子2が嵌め止められて左右の縦枠1cにより案内されて上下動するようになっていて、固定障子2の屋内側において窓枠1に上下動自在の可動障子3が配置された上げ下げ窓におけるバランサー4であって、横断面略U字状とされる窓枠1の上枠1aの下壁における左右両端部に取付けられる前記バランサー4は、ワイヤ巻取ドラム6と、基板7に回転自在に装着された定荷重渦巻きばね13が装着された定荷重渦巻きばね装着ドラム11と、先端部が可動障子3に固定され他端が前記定荷重渦巻きばね13で巻取り附勢される障子吊下げワイヤ5とからなり、可動障子3が上下動するときに、障子吊下げワイヤ5のワイヤ巻取ドラム6への巻取り及びワイヤ巻取ドラム6からの繰出しがスムーズに行なわれ、ワイヤ巻取ドラム6が、窓枠1の上枠1a下壁に水平状態で固定された基板7における左側部分に垂直軸8により回転自在に取付けられており、障子吊下げワイヤ5がワイヤ巻取ドラム6に巻取られ、水平軸線の周りに回転自在に基板7に取付けられたガイドプーリ9に掛けられ、基板7及び上枠1a下壁を貫通して下方に伸び、その先端部が可動障子3の上端部に固定されているとともに、障子吊下げワイヤ5は、可動障子3が下降したときにワイヤ巻取ドラム6から繰出され、可動障子3が上昇したときにワイヤ巻取ドラム6に巻取られるようになっていて、可動障子3を任意の位置で停止できる上げ下げ窓のバランサー」の発明(以下、これを、「引用発明」という。)の記載が認められる。

(2)甲第2号証刊行物〔実公昭62-46772号公報〕の記載事項
甲第2号証刊行物には、巻込み網戸内蔵サッシに関し、図面の図示とともに次の技術事項が記載されている。
「開閉自在な障子を収納し、網戸で覆おうとする矩形のサッシ部分の直上にある上枠または無目2を、前方が開きその開口の上に、蓋板5の上縁を係止させる溝2aを形成した断面箱状で上記サッシ部分と同じ厚さ寸法に形成し、該上枠または無目内に、中心の軸を上記サッシ部分の竪辺を構成する竪枠8に回転自在に支承した巻胴4を収納し、巻胴4に巻付けた網3を巻上げる方向に巻胴を駆動するばねを設け、巻胴4の中心軸の一端にウオ-ムギャ14を固定し、このウオームギヤ14をブラケット9を介して両端を竪枠8,8の上端部内側面に支持されたウオーム15に噛合させ、網3の下端を上枠または無目2の下部の上記蓋板5の下縁との間の間隙2bから引出して縁材20を取付け、この縁材20の両端を竪枠8の内側面に設けた溝21に遊合させ、この溝21の下部片面に上記縁材20を溝21の反対面に押圧する縁材に対向する面を凸に湾曲した板ばね22を、一端部のみを溝21の下部内面に固定することで設けるとともに、上記溝21の下部反対側縁に、上記縁材20に形成した突縁25を係止自在な切欠き26を形成し、上記蓋板5は上枠または無目2に固定したブラケット7と螺合する小ねじ6により上枠または無目2に対して着脱自在として成る巻込み網戸内蔵サッシ。」(1欄2行〜2欄2行の実用新案登録請求の範囲の記載)
「この考案は、サッシの上枠または無目内に巻込み網戸を装置したサッシに関し、巻込み網戸装置をサッシ内に体裁よく組込むと共に、サッシを建物に取付けた後でも容易に網戸の手入れをし、また着脱することのできる巻込み網戸内蔵サッシを得ることを目的として考案されたものである。
従来、巻込み網戸については各種の考案があるが、これらは何れもサッシ組立時にサッシ内に組込んでおいたり、巻込み網戸のケーシングをサッシの前面に突出させて取付けたりするもので、保守が面倒であったり、体裁の悪いものであつた。
この考案は、サッシを建物に取付けた後でも、前面の蓋板を着脱することにより網戸の巻込み機構をサッシの上枠または無目内に装着しまたは取外すことができて、体裁がよく、保守も容易で、しかも網戸を展張する作業を一挙動で能率的に行なえる巻込み網戸内蔵サッシを得たものである。
以下実施例を示す図面に基づいて本考案を説明する。
第1図は、上部1を弧状に彎曲させ無目2を設けてその下方を矩形としたいわゆるRサッシにおいて、無目2内に巻込み網戸を装置するものを示す。矩形のサッシの場合は、上枠に網戸を装置したり、矩形サッシでも無目を用いて小面積の上部と大面積の下部とに分けているようなものは、その無目に網戸を内装することができる。
第2〜3図は、巻込み網戸を内装した無目2の構造を示す。無目2は、巻込み網戸の可撓性の網3を巻いた巻胴4を収納できる大きさの断面箱状になっており、前方(室内側)は開いて蓋板5で塞がれるようになっている。蓋板5は、上縁5aを断面鉤状に形成し、これを無目2の開口の上縁の溝2aに引掛けて開口前面に吊下げられ、下部の左右を小ねじ6により無目に取付けたブラケット7に固定したり、取外したりすることができるようになっている。
無目2に結合される一方の側の竪枠8には、第5図の形状のブラケット9が取付けられていて、巻胴4の両端に突出した一方の軸4aを軸受する。巻胴4は、通常の巻上げブラインド機構のようにコイルばね(図示せず)を内装して一端を巻胴4に固定した網3を巻込むようになっている。
巻き胴4を巻き上げるコイルばねの弾力を調節できる機構がブラケット9に取付自在とされている。即ち、ブラケット9は、第5図のように鉄板を凸形に折曲げ、突出部の室内側の隅部に孔10を、該孔10の前面下縁に孔11を、その上方に縦の長孔12をそれぞれ穿設し、突出部の後面には下部の細くなった鍵孔状の孔13を穿設する。孔13の上部の大孔13aは孔10と同じ高さに、小孔13bは孔11と同じ高さに形成する。
第2図、第6図のように、軸4aにはブラケット9内に挿入される部分にウオームギヤ14を形成する。15は上記ウオームギヤ14に噛合するウォームで、前端にねじ回しを係合させる頭15aを持ち、2個所の細径部15b,15cをブラケット9の孔11,13bに係合してブラケット9に回動自在に支承される。即ち、ウオーム15を孔10,13aに挿通し、細径部15b,15cを孔11,13bに合致させて押下げると、ウオーム15は孔11,13bにより定位置で回転自在に支承される。巻胴の軸4aは、孔10からブラケット9に前方から挿入され、ウオ-ムギヤ14をウオ-ム15に噛合させて孔10の最奥部に位置させられ、この位置から前方へ動かないように抑え金具16で抑えられる。抑え金具16は断面L形をなし、長孔12に挿通したねじ17を螺合させるねじ孔が形成されており、ねじ17を長孔12に従って下方に移動させて締付けると、抑え金具がブラケット9に固定されると共に該金具16の縁が軸4aの前方への移動を阻止するようになる。18は巻胴4のスラスト軸受である。
図示を省略したが、巻胴4の他端に突出する軸もブラケット9と対称に孔I10,12を形成した凸形のブラケットにより支承される。ウオーム15は一方の軸4aにのみ設ければ足り、この部分にはウオ-ム15は必要ないから、孔11,13は不要である,
網3は、無目2の下部の間隙2bから下に出し、下端に合成樹脂製の縁材20を取付ける。縁材20は、下部の薄肉部20aを軸として開閉するもので、一方の片に基部の薄くなった突条20bを、他方の片に入口の狭くなった溝20cを形成し、網3の下端を挟んで突条20b、溝20cを嵌合させ、縁材20を網3に固着させるもので、室内側下端縁には突縁25を形成している。この縁材20は、両端を竪枠8に設けた溝21に遊合させて上下し、網3を引下げたり、引上げたりするための手掛けとなる突条20dを、上記突縁25よりも上部で室内方向に突出させている。堅枠8の下部には、湾曲した板ばね22を、上端部のみを溝21の下部室外側内側面に固定することで設けて、縁材20を下降させたときに、この縁材20を溝21の縁に押し付け、上記突縁25を溝21の下部室内側内側面に形成した切欠き26に係合させて、縁材20を溝21の下端位置に抑止するようにしている。
以上のように構成するから、小ねじ6をブラケット7から外せば、蓋板5を持上げて無目から外すことができ、ウオ-ム15の頭15aにねじ回しを係合して回転させることにより、巻胴4の軸4aを回動させて巻込み用ばねの初期弾力を強弱に調節して網を巻込む強さを調節することができる。
また、ねじ17をゆるめてこれを抑え金具16と共に長孔12の上端まで移動させれば、抑え金具16による軸4aの移動阻止を解除して軸4aを孔10から前方へ取出し、また縁材20を開いて網3を間隙2bから引上げて巻胴4を無目2から取出すことができる。
網戸を展張する場合は、縁材20の突条20dに手指を掛けてこの縁材を下降させれば、板ばね22の弾力によって、上記縁材20の突縁25が溝21の下端に形成された切欠き26に係合するため、網戸の展張作業を一挙動で容易に行なえる。網戸を開放する場合は、上記突条20dを板ばねの弾力に抗して押しつつ上昇させれば、板ばね22が弾性変形してこの縁材20の上昇を許容し、網戸を開放することができる。
サッシを建物に取付けるときは、巻込み網戸は最後に取付けることができる。
上記実施例は、Rサッシの無目内に巻込み網戸を装着するものであるが、通常の方形サッシの上枠や無目に装着することも全く同様にして構成できる。
このように竪枠、下枠等と同じ厚さのサッシの上枠または無目内に巻込み網戸を収納するから、製作工数が少なくなり、サッシの外観がよく、網戸の着脱も蓋板5を着脱するだけで容易にできるから、巻込み網戸に起り勝な巻込みの不工合の修理が極めて容易になる。
なお、この網戸を上枠または無目に内装する構造を利用できるサッシは、腰壁のある窓や床まで開口するテラス式窓で、引違戸、両開き戸、片開き戸、嵌殺し戸を持つ方形サッシ、Rサッシや戸を昇降させる窓、辷り出し窓等各種のものに利用できる。図示の実施例は、雨戸23、障子24を外開きにするサッシを例示したものである。」(2欄4行〜6欄10行の考案の詳細な説明の記載)

(3)甲第3号証刊行物〔特開平10-246065号公報〕の記載事項
甲第3号証刊行物には、引違い式自動ドアのサッシ上枠部に関し、図面とともに次の技術事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 二枚のドア(S1,S2)のうち何れか一方のドアを、該ドアに連結した駆動手段(6)によって自動的に開閉させる引違い式自動ドアのサッシ上枠部において、
躯体開口部の下面に取付ける上枠材(1)と、上枠材(1)の室内側に垂設する室内横材(2)と、上枠材(1)の室外側に垂設する室外横材(3)と、上枠材(1)に垂設し且つ駆動手段(6)を保持する上枠補助材(4)とから構成され、上枠材(1)は室内側と室外側に一対の係止部(13,13)を対称的に設け、上枠補助材(4)は駆動手段収納部(44)の上部に、両係止部(13,13)のどちらにも嵌め込み可能な被係止部(45)を備えたことを特徴とする引違い式自動ドアのサッシ上枠部。
【請求項2】 前記上枠材(1)に対して室内外両横材(2,3)を着脱可能に且つ開閉自在に設けてあることを特徴とする請求項1記載の引違い式自動ドアのサッシ上枠部。」
「【0015】 室内外両横材2,3は上枠材1に対して着脱可能に且つ開閉自在に設けてあり、図1及び図2に示すように室内外両横材2,3のうち何れか一方と上枠材1との両者に上枠補助材4を固定した状態で、残りの横材のみを着脱可能に且つ開閉自在にすることによって、駆動手段6の修理作業や点検作業等を簡便に行えるようにしてある。具体的には、図1に示すように上枠補助材4を上枠材1と室外横材3の両者に固定した場合には、室内横材2のみを開閉自在且つ着脱可能にしてあり、室内横材2を開閉若しくは着脱することによって、駆動手段収納部44に固定した駆動手段6を目視可能にしてある。また、図2に示すように上枠材1と室内横材2の両者に固定した場合には、室外横材3のみを開閉自在且つ着脱可能にしてある。」
「【0020】【発明の効果】 本発明による引違い式自動ドアのサッシ上枠部は、上枠材の室内外両側に一対の係止部を対称的に設けると共に、上枠補助材に両係止部のどちらにも嵌め込み可能な被係止部を有する構造なので、上枠補助材を上枠材の中間部を中心にして室内外両側に対称的に取付けられるようになり、その結果、自動的に開閉させるドアを室内側ドアに設定することも、室外側ドアに設定することも可能となり、ひいては自動的に開閉させるドアを現場で急遽変更する作業が簡便に行えると共に、製品自体の製作費用を安く抑えられる。
【0021】 請求項2に記載した引違い式自動ドアのサッシ上枠部は、上枠材に対して室内外両横材を着脱可能に且つ開閉自在に設けてあるので、室内外両横材のうち何れか一方と駆動手段を収納した上枠補助材とを上枠材に固定した状態で、残った横材のみを着脱若しくは開閉できるようになり、ひいてはその横材を着脱若しくは開閉操作するだけで駆動手段を目視できるので、駆動手段の点検作業や修理作業を簡便に行えるようになる。」

2.無効理由1についての当審の判断
(1)本件発明1と引用発明との対比及び一致点・相違点
ここで、本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「上枠1a、下枠1b及び左右の縦枠1cよりなる窓枠1」、「固定障子2」、「可動障子3」、「窓枠1の上枠1a」、「定荷重渦巻きばね13で巻取り附勢される障子吊下げワイヤ5」、「可動障子3を任意の位置で停止できる上げ下げ窓のバランサー」及び「上げ下げ窓」が、それぞれ本件発明1の「上下枠および左右縦枠からなる四周枠」、「外障子」、「内障子」、「上枠」、「バネ力で巻取り付勢された吊部材」、「前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサー」及び「上げ下げ窓」に対応する。
そして、引用発明におけるバランサー4は、横断面略U字状とされる窓枠1の上枠1aの下壁における左右両端部に取付けられることから、本件発明1と同じく、「前記上枠内にバランサーを収納配置する」構成を有しているといえる。
そうすると、引用発明と本件発明1とは「上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置した上げ下げ窓」である点で一致し、次の点で両者の構成が相違する。
相違点1:本件発明1では「外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れたるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けてなる」のに対して、引用発明では、上枠内にバランサーが収納配置されてはいるものの、該バランサーを上枠内に収納するために室内面側に開口部が形成され、該開口部にカバー部材が着脱可能に設けられていない点。

(2)相違点1についての検討
第2号証刊行物に「この考案は、サッシの上枠または無目内に巻込み網戸を装置したサッシに関し、巻込み網戸装置をサッシ内に体裁よく組込むと共に、サッシを建物に取付けた後でも容易に網戸の手入れをし、また着脱することのできる巻込み網戸内蔵サッシを得ることを目的として考案されたものである。」、「この考案は、サッシを建物に取付けた後でも、前面の蓋板を着脱することにより網戸の巻込み機構をサッシの上枠または無目内に装着しまたは取外すことができて、体裁がよく、保守も容易で、しかも網戸を展張する作業を一挙動で能率的に行なえる巻込み網戸内蔵サッシを得たものである。」、「無目2は、巻込み網戸の可撓性の網3を巻いた巻胴4を収納できる大きさの断面箱状になっており、前方(室内側)は開いて蓋板5で塞がれるようになっている。蓋板5は、上縁5aを断面鉤状に形成し、これを無目2の開口の上縁の溝2aに引掛けて開口前面に吊下げられ、下部の左右を小ねじ6により無目に取付けたブラケット7に固定したり、取外したりすることができるようになっている。」、「以上のように構成するから、小ねじ6をブラケット7から外せば、蓋板5を持上げて無目から外すことができ、ウオ-ム15の頭15aにねじ回しを係合して回転させることにより、巻胴4の軸4aを回動させて巻込み用ばねの初期弾力を強弱に調節して網を巻込む強さを調節することができる。また、ねじ17をゆるめてこれを抑え金具16と共に長孔12の上端まで移動させれば、抑え金具16による軸4aの移動阻止を解除して軸4aを孔10から前方へ取出し、また縁材20を開いて網3を間隙2bから引上げて巻胴4を無目2から取出すことができる。」及び「このように竪枠、下枠等と同じ厚さのサッシの上枠または無目内に巻込み網戸を収納するから、製作工数が少なくなり、サッシの外観がよく、網戸の着脱も蓋板5を着脱するだけで容易にできるから、巻込み網戸に起り勝な巻込みの不工合の修理が極めて容易になる。」が記載されていることは、上記「1.甲号証各刊行物の記載事項」欄の「(2)」に前示のとおりである。
また、甲第3号証刊行物に「室内外両横材2,3は、上枠材1に対して着脱可能に且つ開閉自在に設けてあり、図1及び図2に示すように室内外両横材2,3のうち何れか一方と上枠材1との両者に上枠補助材4を固定した状態で、残りの横材のみを着脱可能に且つ開閉自在にすることによって、駆動手段6の修理作業や点検作業等を簡便に行えるようにしてある。」が記載されていることは、上記「1.甲号証各刊行物の記載事項」欄の「(3)」に前示のとおりである。
そうすると、甲第2号証刊行物及び甲第3号証刊行物の前記記載からみて、「装着・取り外し作業又は修理・点検作業のために、開口部建具の上枠の室内側の蓋板を着脱することにより、開口部建具の上枠内に網戸の巻込み機構、駆動手段等を装着しまたは取外せるようにしておくこと」は、本件特許出願時の周知技術といえる。
しかして、前記周知技術における網戸の巻込み機構及び駆動手段が、それぞれ巻込み網戸内蔵サッシ及び引違い式自動ドアのサッシに用いられるものであるのに対し、本件発明1のバランサー及び引用発明のバランサーは、上げ下げ窓に用いられる点で、用途が相違するものであるとはいえども、これらは開口部の建具における閉鎖部材に関するものであり、さらに甲第2号証刊行物の網戸の巻込み機構は、閉鎖部材の昇降装置であることにおいては、本件発明1及び引用発明のバランサーと変わるところがないから、これらは開口部の建具における閉鎖部材の昇降装置である点で共通する。しかも、本件発明1においては、昇降装置としてのバランサーを上げ下げ窓に用いるに当たって、当該昇降装置に格別の技術的工夫をしたということも認められないことから、両者の昇降装置に技術的な相違を認めることができない。
そして、甲第2号証刊行物に記載の発明を、前記周知技術を背景にしながらみれば、甲第2号証刊行物に記載の発明の「網戸の巻込み機構」が、本件発明1の「バランサー」に対応するといえる。
そうしてみると、引用発明に「装着・取り外し作業又は修理・点検作業のために、開口部建具の上枠の室内側の蓋板を着脱することにより、開口部建具の上枠内に網戸の巻込み機構、駆動手段等を装着しまたは取外せるようにしておくこと」という前記周知技術を適用するに際して、「バランサーを上げ下げ窓の上枠内に収納配置」するために、甲第2号証刊行物に記載の発明の網戸の巻込み機構(本件発明1の「バランサー」に対応)を上げ下げ窓の上枠内に収納配置する公知技術を適用することにより、本件発明1における前記相違点1に係る「外障子の上部と上枠の室内面との間に前記バランサーを入れたるための開口部を形成し、この開口部にカバー部材を着脱可能に設けてなる」の構成を得ることは、当業者が格別の困難を伴うことなく容易に想到できることである。
そして、本件発明1の上記相違点1に係る構成が奏する効果に、引用発明、甲第2号証刊行物に記載の発明及び周知技術から予測できる範囲を超える格別顕著な効果を認めることができない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、引用発明に甲第2号証刊行物に記載の発明及び周知技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであり、その作用効果も引用発明、甲第2号証刊行物に記載の発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別のものということができない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

3.無効理由2についての当審の判断
(1)本件発明2と引用発明との対比及び一致点・相違点
ここで、本件発明2と引用発明とを対比する前に、本件発明2を本件発明1と比較すると、本件発明2では、本件発明1の構成に、さらに「前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられていること」の構成が付加されていることにより、本件発明2は、本件発明1の下位概念の発明であることが明らかである。
そうすると、本件発明2と引用発明とは「上下枠および左右縦枠からなる四周枠内の上方に外障子を固定し、下方に内障子を上げ下げ可能に設け、前記上枠内にバネ力で巻取り付勢された吊部材を介して前記内障子を任意の高さ位置に保持するためのバランサーを収納配置した上げ下げ窓」である点で一致し、両者は、本件発明1に対する上記相違点1に加えて、さらに次の相違点2において構成が相違する。
相違点2:本件発明2では「前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられている」のに対して、引用発明では、その構成がない点。

(2)相違点1及び相違点2についての検討
ア.相違点1について
引用発明に対する本件発明2の相違点1は、引用発明に対する本件発明1の相違点1とまったく同じであるから、引用発明に対する本件発明2の相違点1についての判断は、上記「(2)相違点1についての検討」に前述したところの引用発明に対する本件発明1の相違点1についての判断のとおりである。

イ.相違点2について
甲第2号証刊行物に「以上のように構成するから、小ねじ6をブラケット7から外せば、蓋板5を持上げて無目から外すことができ、ウオ-ム15の頭15aにねじ回しを係合して回転させることにより、巻胴4の軸4aを回動させて巻込み用ばねの初期弾力を強弱に調節して網を巻込む強さを調節することができる。また、ねじ17をゆるめてこれを抑え金具16と共に長孔12の上端まで移動させれば、抑え金具16による軸4aの移動阻止を解除して軸4aを孔10から前方へ取出し、また縁材20を開いて網3を間隙2bから引上げて巻胴4を無目2から取出すことができる。」が記載されていることは、上記「1.甲号証各刊行物の記載事項」欄の「(2)」に前示のとおりであり、これらのことから、「小ねじ6をブラケット7から外せば、蓋板5を持上げて無目から外すことができ、ウオ-ム15の頭15aにねじ回しを係合して回転させることにより、巻胴4の軸4aを回動させて巻込み用ばねの初期弾力を強弱に調節して網を巻込む強さを調節すること」は、本件特許出願前の公知技術といえる。
しかして、前記公知技術における網戸の巻込み機構が、巻込み網戸内蔵サッシに用いられるものであるのに対し、本件発明2のバランサーは、上げ下げ窓に用いられる点で、両者の用途が相違するものであるとはいえども、両者は開口部の建具における閉鎖部材の昇降装置であることにおいては変わるところがないから、両者は開口部の建具における閉鎖部材の昇降装置である点で共通し、しかも、本件発明2においては、昇降装置としてのバランサーを上げ下げ窓に用いるに当たって、当該昇降装置に格別の技術的工夫をしたということも認められないことから、両者の昇降装置に技術的な相違を認めることができない。
以上のことから、甲第2号証刊行物に記載の発明の「網戸の巻込み機構」が、本件発明2の「バランサー」に対応するといえる。
そうしてみると、引用発明のバランサーに対して、前記甲第2号証刊行物に記載の発明の「小ねじ6をブラケット7から外せば、蓋板5を持上げて無目から外すことができ、ウオ-ム15の頭15aにねじ回しを係合して回転させることにより、巻胴4の軸4aを回動させて巻込み用ばねの初期弾力を強弱に調節して網を巻込む強さを調節すること」という公知技術を適用することにより、本件発明2における前記相違点2に係る「前記バランサーには室内側に臨んで調節部が設けられている」の構成を得ることは、当業者が格別の困難を伴うことなく容易に想到できることである。
そして、本件発明2の上記相違点1及び相違点2に係る構成が奏する効果に、引用発明、甲第2号証刊行物に記載の発明及び周知技術から予測できる範囲を超える格別顕著な効果を認めることができない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲第1号証刊行物に記載の引用発明及び甲第2号証刊行物に記載の発明並びに周知技術を適用することにより当業者が容易に想到することができたものであり、その作用効果も引用発明及び甲第2号証刊行物に記載の発明並びに周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別のものということができない。
したがって、本件発明2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-04-21 
結審通知日 2005-04-27 
審決日 2006-04-04 
出願番号 特願平11-303598
審決分類 P 1 123・ 121- ZB (E05F)
P 1 123・ 856- ZB (E05F)
P 1 123・ 537- ZB (E05F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 佐藤 昭喜
柴田 和雄
登録日 2004-04-09 
登録番号 特許第3542532号(P3542532)
発明の名称 上げ下げ窓および上げ下げ窓付戸  
代理人 湯田 浩一  
代理人 星野 哲郎  
代理人 湯田 浩一  

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