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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1136844
審判番号 不服2003-13234  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-12-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-10 
確定日 2006-05-19 
事件の表示 平成10年特許願第152627号「エアバッグ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月14日出願公開、特開平11-342817〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【第1】手続の経緯
本願は、平成10年6月2日の出願であって、平成15年6月2日付けで拒絶査定を受けたので、請求人(出願人)は、この査定を不服として平成15年7月10日に審判請求をするとともに、平成15年8月8日付けで特許法第17条の2第1項第3号(平成14年改正前の特許法であって、以下についても同様)に規定する手続補正(前置補正)をしたものである。

【第2】平成15年8月8日付け手続補正の却下について
[補正却下の決定の結論]
平成15年8月8日付けの手続補正を却下する
[補正却下の決定の理由]
1.平成15年8月8日付け手続補正に係る発明
本件補正により特許請求の範囲の請求項1は、
【請求項1】
「インストルメントパネルの上面に穿設されたエアバッグ膨出用の開口部 と、
前記インストルメントパネルの背部に設けられ、車体部材に固定される とともに前記開口部に臨んで開口する開放部を有し、インフレータ及びエ アバッグを内包してなるリアクションカンと、
前記開口部を前記インストルメントパネルの外方側から塞ぎ、前記開口 部の周縁を成す前記インストルメントパネルの外表面に車両上下方向で重 なる外周縁を有し、開扉により前記エアバッグの膨出方向を規制するエア バッグリッドと、
前記開口部の周縁及び前記エアバッグリッドの外周縁のいずれか一方に 設けられ、該周縁及び前記エアバッグリッドの外周縁のいずれか他方に設 けられた係合部と協働して前記エアバッグリッドを前記開口部の周縁に係 止する一方、前記エアバッグの膨出力により該係止を解除される係止手段 と、
前記エアバッグの膨出力により前記エアバッグリッドが前記開放部周縁 の一辺回りに回動するのを許容するよう前記エアバッグリッドと前記開放 部とを連結し、前記エアバッグリッドに前記エアバッグの膨出方向を規制 させる第1連結部材と、
前記エアバッグリッドと前記開放部とを連結し、前記エアバッグリッド の所定以上の前記回動を規制して前記エアバッグリッドに前記エアバッグ の膨出方向を規制させる第2連結部材と、
を備えたことを特徴とするエアバッグ装置。」
と補正された。

上記補正は、新規事項を追加するものではなく、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

2.引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-164986号公報(以下、引用例という)には、助手席用エアバッグ装置に関して、以下の事項が記載されている。

【要約】中の【構成】には、
「エアバッグドア22の前端部22Aとエアバッグケースの前端部とをヒンジ部24(局部的な一箇所)によって連結し、かつ、エアバッグドア22の後端部22Bの両サイドとエアバッグケースの両側部とを一対のストラップ30、32で連結した。このため、エアバッグドア22の展開時の荷重はヒンジ部24に集中し、かつ、一対のストラップ30、32によってエアバッグドア22を安定した姿勢で展開させることができる。」
【特許請求の範囲】の【請求項1】には、
「車両のインストゥルメントパネルの頂部助手席側に配置され、車両急減速時に膨張する袋体によって押圧されてウインドシールドガラス側へ展開するエアバッグドアを備えた助手席用エアバッグ装置であって、
エアバッグドアの展開中心側端部とインストゥルメントパネル側とを局部的な一箇所で連結するヒンジ部と、
エアバッグドアの両側部とインストゥルメントパネル側とを各々連結し、展開するエアバッグドアの展開角を所定角度に規制する一対の展開角規制手段と、
を有することを特徴とする助手席用エアバッグ装置。」
段落【0021】には、
「エアバッグ装置10は、インストゥルメントパネル12の頂部12A側が開口された略箱体形のエアバッグケース16を備えている。このエアバッグケース16の内方には、円柱形のインフレータ18が配設されている。さらに、インフレータ18の周囲には、袋体20が折り畳み状態(図3の一点鎖線図示状態)で配設されている。」
段落【0023】には、
「 (前略) なお、このエアバッグドア22は前述した開口14をも閉塞することから、その前端部22Aは開口14と同様に平面視で湾曲されている。」
段落【0024】には、
「さて、図1及び図2に示されるように、上述したエアバッグドア22の前端部22Aは、その略中央部にて布製かつ比較的狭幅のヒンジ部(短いストラップともいえる)24によってエアバッグケース16のフランジ部16Aの前端部と連結されている。 (後略)」
段落【0027】には、
「また、エアバッグドア22の後端部22Bの両サイドとエアバッグケース16のフランジ部16Aの両側部とは、布製のストラップ30、32によってそれぞれ連結されている。各ストラップ30、32の長さは所定長さに設定されており、図1図示状態までエアバッグドア22を展開させることが可能である。つまり、ストラップ30、32はエアバッグドア22の展開角を所定角度に規制することで、エアバッグドア22の後端部22Bがウインドシールドガラス28に当接するのを防止している。なお、ストラップ30、32の連結方法は、前述したヒンジ部24によるエアバッグドア22とエアバッグケース16或いはインストゥルメントパネル12との連結方法と同様である。」
段落【0028】には、
「これにより、展開時のエアバッグドア22は、エアバッグケース16に対して三箇所(ヒンジ部24及び一対のストラップ30、32)によって支持されることになる。」

図1〜3とともに上記各記載事項を参照すると、引用例には
「インストゥルメントパネル12の上面に穿設されたエアバッグ膨出用の開口14と、
前記インストゥルメントパネルの背部に設けられ、車体部材に固定されるとともに前記開口に臨んで開口する開放部を有し、インフレータ18及び袋体20を内包してなるエアバッグケース16と、
前記開口を前記インストゥルメントパネルの外方側から塞ぎ、開扉により前記袋体の膨出方向を規制するエアバッグドア22と、
前記袋体の膨出力により前記エアバッグドアが前記開放部周縁の一辺回りに回動するのを許容するよう前記エアバッグドアと前記開放部とを連結し、前記エアバッグドアに前記袋体の膨出方向を規制させるヒンジ部24と、
前記エアバッグドアと前記開放部とを連結し、前記エアバッグドアの所定以上の前記回動を規制して前記エアバッグドアに前記袋体の膨出方向を規制させるストラップ30,32と、を備えたエアバッグ装置。」
に関する発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「インストゥルメントパネル12」、「開口14」、「エアバッグケース16」、「袋体20」、「エアバッグドア22」、「ヒンジ部24」及び「ストラップ30,32」は、それぞれ、本願補正発明における「インストルメントパネル」、「開口部」、「リアクションカン」、「エアバッグ」、「エアバッグリッド」、「第1連結部材」及び「第2連結部材」に相当するから、両者は、
「インストルメントパネルの上面に穿設されたエアバッグ膨出用の開口部 と、
前記インストルメントパネルの背部に設けられ、車体部材に固定される とともに前記開口部に臨んで開口する開放部を有し、インフレータ及びエ アバッグを内包してなるリアクションカンと、
前記開口部を前記インストルメントパネルの外方側から塞ぎ、開扉によ り前記エアバッグの膨出方向を規制するエアバッグリッドと、
前記エアバッグの膨出力により前記エアバッグリッドが前記開放部周縁 の一辺回りに回動するのを許容するよう前記エアバッグリッドと前記開放 部とを連結し、前記エアバッグリッドに前記エアバッグの膨出方向を規制 させる第1連結部材と、
前記エアバッグリッドと前記開放部とを連結し、前記エアバッグリッド の所定以上の前記回動を規制して前記エアバッグリッドに前記エアバッグ の膨出方向を規制させる第2連結部材と、を備えたエアバッグ装置。」
である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

<相違点1>
インストルメントパネルの外方側からエアバッグリッドで開口部を塞ぐにあたって、本願補正発明では、エアバッグリッドが開口部の周縁を成すインストルメントパネルの外表面に車両上下方向で重なる外周縁を有しているのに対して、引用発明では、単に開口部を塞いでいるだけで、 エアバッグリッドがインストルメントパネルの開口部の周縁に対して車両上下方向で重なるような外周縁を有していない点
<相違点2>
本願補正発明では、開口部の周縁及びエアバッグリッドの外周縁のいずれか一方に設けられ、該周縁及びエアバッグリッドの外周縁のいずれか他方に設けられた係合部と協働してエアバッグリッドを前記開口部の周縁に係止する一方、エアバッグの膨出力により該係止を解除される係止手段を備えているのに対して、引用発明では、このような係合部と協働する係止手段を備えているか明らかではない点
(引用例の図10に示される従来例では、エアバックドアが閉止状態を保つようクリップが係止孔に係止されるようになっている。図1〜3の実施例では、係合部と協働する係止手段についての図示はないが、係止手段がないとエアバックドアが閉止状態でもバタついて不安定となるので、何らかの係止手段があるものと考えられる)

4.相違点の検討
上記相違点について検討する。
<相違点1>について
エアバッグリッドの組付時において、エアバッグリッドの外周縁とインストルメントパネルの開口部の周縁との合い沿いを気にせずとも常に見栄えよくエアバッグリッドをインストルメントパネルに配設可能とするために、エアバッグリッドの外周縁を開口部の周縁に車両上下方向で重ねるようにしたもの(請求項1の記載では、単に、上下方向で周縁同士がオーバーラップしていればよい)は、例えば、特開平8-192706号公報、特開平8-258653号公報または特開平7-291070号公報にも示されているように当該エアバッグの分野においては従来から周知のものであるから、これらのエアバッグリッドの外周縁と開口部の周縁とを上下方向でオーバーラップさせて開口部を塞ぐようにした技術を引用発明におけるエアバッグリッドでの閉塞態様に採用して、相違点1でいう本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことというべきである。
<相違点2>について
エアバッグリッドの閉止状態において、エアバッグリッドをインストルメントパネルの開口部の周縁に係止するために係合部と協働する係止手段を設けたものも、例えば特開平8-192706号公報(係止手段10B,29A参照)または特開平7-291070号公報(係止手段H,12c参照)にも示されているように当該エアバッグの分野においては従来から周知のものであるから、これらの係止手段を引用発明のエアバッグ装置にも適用して相違点2でいう本願補正発明の構成とすることは当業者にとって何ら技術的な困難性はない。

そして、相違点1,2で指摘した構成を併せ備える本願補正発明の奏する作用効果について検討しても、引用発明及び上記各周知例に示された技術事項から予測される程度のものであって、格別なものではない。

なお、審判請求人は、本願補正発明のエアバッグ装置では、「エアバッグリッドの開扉によりエアバッグの膨出方向を規制する」ことができる点を強調しているが、引用発明のものもエアバッグの膨出方向を規制していることは明らかである。

5.独立特許要件の欠如に伴う手続補正の却下
上記検討から明らかなように、本願補正発明は引用発明及び上記各周知例に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反することになり、特許法第159条第1項において一部読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

【第3】本願発明について
1.本願発明
平成15年8月8日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成15年4月25日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
インストルメントパネルの上面に穿設されたエアバッグ膨出用の開口部 と、
前記インストルメントパネルの背部に設けられ、車体部材に固定される とともに前記開口部に臨んで開口する開放部を有し、インフレータ及びエ アバッグを内包してなるリアクションカンと、
前記開口部を前記インストルメントパネルの外方側から塞ぎ、前記開口 部の周縁を成す前記インストルメントパネルの外表面に車両上下方向で重 なる外周縁を有するエアバッグリッドと、
前記開口部の周縁及び前記エアバッグリッドの外周縁のいずれか一方に 設けられ、該周縁及び前記エアバッグリッドの外周縁のいずれか他方に設 けられた係合部と協働して前記エアバッグリッドを前記開口部の周縁に係 止する一方、前記エアバッグの膨出力により該係止を解除される係止手段 と、
前記エアバッグの膨出力により前記エアバッグリッドが前記開放部周縁 の一辺回りに回動するのを許容するよう前記エアバッグリッドと前記開放 部とを連結する第1連結部材と、
前記エアバッグリッドと前記開放部とを連結し、前記エアバッグリッド の所定以上の前記回動を規制する第2連結部材と、
を備えたことを特徴とするエアバッグ装置。」
(以下、「本願発明」という)

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物及びその記載事項は、上記「【第2】2.」に記載したとおりである。

3.判断
本願発明は、上記【第2】で検討した本願補正発明から「エアバッグリッド」についての限定事項である「開扉により前記エアバッグの膨出方向を規制する」点、及び「第1連結部材」と「第2連結部材」についての限定事項である「前記エアバッグリッドに前記エアバッグの膨出方向を規制させる」点の構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに上記限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が上記「【第2】3.4.」に記載したとおり引用発明及び上記各周知例に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明の上位概念発明である本願発明も、本願補正発明と同様の理由により引用発明及び上記各周知例に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

【第4】むすび
以上のとおり、本願発明については、引用発明及び上記各周知例に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-15 
結審通知日 2006-03-22 
審決日 2006-04-05 
出願番号 特願平10-152627
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三澤 哲也  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 平瀬 知明
柴沼 雅樹
発明の名称 エアバッグ装置  
代理人 長門 侃二  

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