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審決分類 審判 査定不服 特39条先願 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1137159
審判番号 不服2002-13140  
総通号数 79 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-07-15 
確定日 2006-05-17 
事件の表示 平成 5年特許願第516567号「熱可塑性のポリウレタンエラストマー及びポリ尿素エラストマー」拒絶査定不服審判事件〔平成 5年 9月30日国際公開、WO93/19110、平成 7年 5月25日国内公表、特表平 7-504702〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成5年3月1日の国際出願(パリ条約による優先権主張 1992年3月16日 米国)であって、平成13年8月24日付けで拒絶理由が通知され、特許法第29条第1項第3号、同法第29条第2項及び同法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとの理由により、平成14年4月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成14年7月15日付けで審判請求がなされるとともに平成14年8月14日付けで手続補正がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1,7,13に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」,「本願発明7」,「本願発明13」という。)は、平成14年8月14日付け手続補正により補正された明細書(以下「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1,7,13に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】ポリエーテルポリオール、ジイソシアネート及び二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤を“ワン-ショット”法で反応させることによって製造されたものであることを特徴とする熱可塑性のポリウレタンエラストマー又はポリ尿素エラストマーにして、該ポリエーテルポリオールはシアン化金属複塩の錯体触媒を用いて製造された分子量が約2,000〜約8,000であるものであり、該ポリオールは末端基不飽和レベルがポリオールのグラム当たり0.015ミリ当量以下のものであり、該ジイソシアネートのNCO基対該ポリオールと該鎖延長剤との合計活性水素基の当量比が約1:0.7〜約1:1.3であり、そして鎖延長剤対ポリオールのモル比が約0.15:1〜約75:1である、前記エラストマー。」
「【請求項7】イソシアネート末端基付きプレポリマーを二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤と反応させることによって製造されたものであることを特徴とする熱可塑性のポリウレタンエラストマー又はポリ尿素エラストマーにして、該イソシアネート末端基付きプレポリマーはポリイソシアネートと、シアン化金属複塩の錯体触媒を用いて製造された分子量が約2,000〜約8,000であるポリエーテルポリオールとの反応生成物であり、該ポリオールは末端基不飽和レベルがポリオールのグラム当たり0.02ミリ当量以下のものであり、該ジイソシアネートのNCO基対該ポリオールと該鎖延長剤との合計活性水素基の当量比が約1:0.7〜約1:1.3であり、そして鎖延長剤対ポリオールのモル比が約0.15:1〜約75:1である、前記エラストマー。」
「【請求項13】次の:
(a)分子量が約2,000〜約8,000のポリオールにして、末端基不飽和レベルがポリオールのグラム当たり0.015ミリ当量以下であるそのようなポリオールをシアン化金属複塩触媒の存在下で製造し、
(b)該ポリオールをジイソシアネートと反応させてイソシアネート末端基付きプレポリマーを生成させ、そして
(c)硬度がショアA硬度として約50乃至ショアD硬度として約65であることを特徴とするエラストマーを生成させるために該イソシアネート末端基プレポリマーを金型又は押出機の中で二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤と反応させる工程を特徴とし、ただし該ポリオールは、その分子量が4,000未満である場合、該ポリオールの重量基準で35重量%未満のエチレンオキシド含量を有するものである、熱可塑性エラストマーの製造法。」

3.引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用例2(特開平2-263819号公報)及び引用例3(特開平2-296816号公報)には、次の事項が記載されている。

引用例2
ア.「1.ポリオールとポリイソシアネート化合物とを反応させて、ポリウレタンエラストマーを製造する方法において、水酸基価34〜60、総不飽和度0.03meq/g以下のポリオキシアルキレンポリオールを必須成分として用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー
2.ポリオールとともにイソシアネート基と反応しうるイソシアネート反応性基を2個以上有するイソシアネート反応性基当りの分子量が600以下の化合物を用いる請求項1記載のポリウレタンエラストマー」(特許請求の範囲)
イ.「本発明において使用されるポリオキシアルキレンポリオールは、従来のものに比べ、不飽和基を有する副生物モノオールが少ないため、従来見られた問題点を解決することが出来るものである。
こうしたポリオキシアルキレンポリオールは、・・・・等の開始剤に・・・特にプロピレンオキサイドやエチレンオキサイドをジエチル亜鉛、塩化鉄、金属ポルフィリン、複金属シアン化物錯体等を触媒として付加することにより得られる。」(2頁右上欄2〜13行)
ウ.「本発明において、・・・さらに低分子量のイソシアネート基と反応しうる多官能性化合物を高分子量ポリオールとともに使用することができる。・・・このような化合物としては通常架橋剤あるいは鎖伸長剤と呼ばれている化合物を含む。」(2頁左下欄4〜16行)
エ.「この多官能性化合物の使用量は特に制限されないが、高分子量ポリオール100重量部に対して1〜50重量部程度が好ましい。」(2頁右下欄9〜12行)
オ.「また前記反応物の量比に関して、通常用いられているイソシアネートインデックスで表わして80〜130・・・が適当である。」(3頁左上欄下から2行〜右上欄1行)
カ.「[実施例]
下記のポリオールを合成してエラストマーとしての評価を行なった。
ポリオールA:・・・不飽和度0.010meq/gのポリオキシプロピレンジオール
ポリオールB:・・・不飽和度0.015meq/gのポリオキシプロピレンジオール
ポリオールC:・・・不飽和度0.015meq/gのポリオキシプロピレントリオール
・・・・
[実施例2]
ポリオールB100部とMDI72部を80℃で3時間反応させた後、60℃で1,4-BDを21.5部加えて脱泡後、実施例1と同様にしてエラストマーを得た。引張強度250kg/cm2 ,伸び750%,100%伸長時の引張応力120kg/cm2,ショアーD硬度54,摩耗量41mgであった。」(3頁右上欄12行〜右下欄7行)
キ.「[発明の効果]
本発明はポリウレタンエラストマーに用いられるポリオキシアルキレンポリオールとして従来のものよりも低副生物モノオール(低不飽和度)のポリオールを用いることにより、従来の問題点であった強度、弾性率、硬度、耐摩耗性等の低下を解決することが可能であることを見出した。」(4頁左上欄11〜18行)

引用例3
ク.「1.高分子活性水素化合物と伸長剤とを必須成分とする原料成分と、ポリイソシアネート化合物を必須成分とする原料成分の少なくとも2成分を使用して、反応射出成形によりポリウレタン系エラストマーの成形品を製造するにあたり、
(1)高分子活性水素化合物として、不飽和度が、0.05meq/g以下で水酸基価が、5〜60のポリオキシアルキレンポリオールを主成分とする高分子量活性水素化合物
(2)鎖伸長剤として、第1及び/または第2アミノ基が芳香環に結合しているポリアミン
を使用することを特徴とする反応射出成形方法。
2.ポリオキシアルキレンポリオールの不飽和度が0.03meq/g以下である、請求項第1項記載の方法。」(特許請求の範囲第1〜2項)
ケ.「ポリオキシアルキレンポリオールの不飽和度が極めて低くなると、ポリウレンタン系エラストマー物性(特に耐熱性が)が格段に向上するという予期しない効果が得られた。従って、使用するポリオキシアルキレンポリオールの不飽和度が十分に低い場合、鎖伸長剤としてジアミンもしくはポリアミンを使用したポリウレタン系エラストマーは、160℃以上の耐熱性を有するようになる。」(3頁左上欄末行〜右上欄8行)
コ.「低不飽和度かつ低水酸基価のポリオキシアルキレンポリオールをアルカリ触媒を用いて製造することは不可能ではない・・・が、好ましくは他の触媒を用いて製造されたポリオキシアルキレンポリオールが好ましい。この触媒としては、例えば金属ポリフィリン・・・、複合金属シアン化物錯体(特公昭59-15336号公報、米国特許第3929505号明細書参照)、金属と3座配位以上のキレート化剤との錯体・・・などがある。」(3頁右下欄14行〜4頁左上欄6行)
サ.「本発明において、ポリオキシアルキレンポリオールの不飽和度は0.05meq/g以下である必要があり、さらに0.03meq/g以下が好ましい。最も好ましくは0.025meq/g以下である。また、ポリオキシアルキレンポリオールの水酸基価は5〜60(水酸基当りの分子量に換算すると935〜11220)である必要がある。しかし、前記の理由により、より好ましい水酸基価は25未満(水酸基当りの分子量2244以上)であり、特に19未満(水酸基当りの分子量2900以上である。また、1分子当りの水酸基の数は2〜8が好ましく、特に2〜6が好ましい。」(4頁左上欄7〜18行)
シ.「ポリオキシアルキレンポリオールを含む全高分子量活性水素化合物成分と鎖伸長剤の合計に対する鎖伸長剤成分の量は5〜45重量%が採用される。」(6頁右下欄8〜11行)
ス.「ポリイソシアネート化合物成分は、少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物の少なくとも1種からなる。・・・具体的には、ジフェニルメタンジイソシアネート、・・・およびこれらの変性物がある。好ましくは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートの液状変性物が用いられる。変性物としては、たとえばプレポリマー型変性物・・・がある。・・・・。ポリイソシアネート化合物成分の使用量は、高分子量活性水素化合物成分と鎖伸長剤成分の合計当量に対して0.8〜1.3倍当量である。好ましくは0.9〜1.2倍当量が使用される。」(6頁右下欄18行〜7頁左上欄15行)
セ.「[実施例]
後述実施例は以下の原料成分および成形試験によって行った。
1)高分子量活性水素化合物成分
以下のポリオールは、末端のみにオキシエチレン基を有するポリオキシプロピレンオキシエチレンポリオールであり、その水酸基価、オキシエチレン基含有量、不飽和基モノオール含有量、および水酸基価は第1表の通りである。
2)鎖伸長剤
エチレングリコール(EG),ジエチルトルエンジアミン(DETDA),2-クロル-1,4-ジアミノベンゼン(CPA),ターシャルブチルトルエンジアミン(tBu-TDA)
・・・・
4)ポリイソシアネート化合物
イソシアネート含量23.0重量%のプレポリマー型変性ジフェニルメタン、ジイソシアネート成分の使用量は活性水素成分に対して、当量比が1.05となる量を用いる。
(反応試験)
・・・・。
前記原料の内、後記第2表のポリイソシアネート化合物成分を除く全原料成分と、ポリイソシアネート化合物成分を反応射出成形装置の原料タンクに装入し、両者をイソシアネートインデックスが105となる割合で混合して射出した。イソシアネートインデックスとは、全活性水素化合物の1当量に対するイソシアネート化合物の当量の100倍をいう。
・・・・・。得られた成形物を125℃、湿度50%の恒温恒湿槽内に3日間放置した後、物性を測定した。その結果を第2表に示す。」(7頁左下欄下から3行〜8頁右上欄1行)
ソ.「

」(8頁第1表及び第2表)

4.対比・判断
(本願発明1について)
引用例3には、「高分子活性水素化合物と伸長剤を必須成分とする原料成分と、ポリイソシアネート化合物を必須成分とする原料成分の少なくとも2成分を使用して、反応射出成形によりポリウレタン系エラストマーの成形品を製造するにあたり、
(1)高分子活性水素化合物として、不飽和度が、0.03meq/g以下で水酸基価が、5〜60のポリオキシアルキレンポリオールを主成分とする高分子量活性水素化合物、(2)鎖伸長剤として、第1及び/または第2アミノ基が芳香環に結合しているポリアミン、を使用することを特徴とする反応射出成形方法」(摘示記載ク)が記載され、ポリイソシアネート化合物としてジフェニルメタンジイソシアネートを用いること(摘示記載ス)、伸長剤としてジエチルトルエンジアミンを用いること(摘示記載セ)及び、ポリイソシアネート化合物成分の使用量は、高分子量活性水素化合物成分と鎖伸長剤成分の合計当量に対して0.8〜1.3倍当量であること(摘示記載ス)が記載され、さらに、実施例においては、ポリオキシアルキレンポリオールと伸長剤とポリイソアイネートを一度に反応させていることからみて、引用例3には、いわゆるワン-ショット法が記載されているものといえる。
したがって、引用例3には、「不飽和度0.03meq/g以下のポリオキシアルキレンポリオールを主成分とする高分子活性水素化合物、ジフェニルメタンジイソシアネート等のポリイソシアネートおよびジエチルトルエンジアミン等の鎖伸長剤を、ワン-ショット法で反応させることによって製造されたものであるポリウレタンエラストマーにおいて、ポリイソシアネート化合物成分の使用量は、高分子量活性水素化合物成分と鎖伸長剤成分の合計当量に対して0.8〜1.3倍当量である、前記エラストマー」が記載されているものと認められる。
そこで、本願発明1と引用例3に記載された発明とを対比すると、引用例3に記載された発明の「ポリオキシアルキレンポリオール」、「ジフェニルメタンジイソシアネート等のポリイソシアネート」及び「ジエチルトルエンジアミン等の伸長剤」は、それぞれ本願発明1の「ポリエーテルポリオール」、「ジイソシアネート」及び「二官能性のイソシアナート反応性鎖延長剤」に相当し、また、引用例3に記載された発明は、その組成からみて熱可塑性であるといえる。さらに、引用例3の「ポリイソシアネート化合物成分の使用量は、高分子量活性水素化合物成分と鎖伸長剤成分の合計当量に対して0.8〜1.3倍当量」の記載は、計算すると「ポリイソシアネート化合物成分のNCO基対高分子量活性水素化合物と鎖伸長剤との合計活性水素基の当量比は、約1:0.8〜約1:1.3」となる。また、引用例3の高分子量活性水素化合物はその全てがポリキシアルキレンポリオールである場合も含む。
すると、両発明は、「ポリエーテルポリオール、ジイソシアネート及び二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤を“ワン-ショット”法で反応させることによって製造されたものである熱可塑性のポリウレタンエラストマーにして、該ジイソシアネートのNCO基対該ポリオールと該鎖延長剤との合計活性水素基の当量比が約1:0.8〜約1:1.3である、前記エラストマー」である点で一致し、下記の点において相違している。
(相違点1)本願発明1のポリエーテルポリオールはシアン化金属複塩の錯体触媒を用いて製造された分子量が約2,000〜約8,000、末端基不飽和レベルがポリオールのグラム当たり0.015ミリ当量以下のものであるのに対し、引用例3には対応する記載はない点。
(相違点2)本願発明1の鎖延長剤対ポリオールのモル比が約0.15:1〜約75:1であるのに対し、引用例3には対応する記載はない点。

そこで上記相違点1〜2について検討する。
(相違点1について)
引用例3には、高分子活性水素化合物である低不飽和度のポリオキシアルキレンポリオールを製造するための触媒の一つとして複合金属シアン化物錯体を記載しており(摘示記載コ)、この触媒は、本願発明の「シアン化金属複塩の錯体触媒」に相当する。そして、本願明細書に引用例された米国特許第3829505号明細書(1頁2欄13〜15行)に記載されるように、シアン化金属複塩の錯体触媒を用いると、低末端不飽和基の高分子量ポリオールができることは周知であるから、引用例3に記載された発明の高分子量低不飽和度のポリオキシアルキレンポリオールとして、シアン化金属複塩の錯体触媒により製造されたものを用いることは当業者が適宜なし得る事項である。
また、引用例3には、不飽和度が0.03meq/g以下と記載され、これは本願発明1に即して記載すると、「末端基不飽和レベルがポリオールのグラム当り0.03ミリ当量以下」に相当し、引用例3には、不飽和度が極めて低くなると耐熱性が向上することが記載され(摘示記載ケ)、実施例(摘示記載ソ)では0.017ミリ当量のものが用いられいてるのであるから、実施例の0.017ミリ当量よりも若干低い不飽和度である0.015ミリ当量以下のものを用いることは当業者が容易に想到し得るものといえる。そして、引用例3と同じく低不飽和度のポリオールを用いた引用例2の実施例において0.010ミリ当量の高分子量ポリオキシアルキレンポリオールを使用することが記載されていること(摘示記載カ)を考慮すると、引用例3に記載された発明において0.015ミリ当量以下のポリオキシアルキレンポリオールを用いることが技術的に困難であったとはいえない。
さらに、引用例3には、水酸基当りの分子量は2244以上と記載されているので、実施例のポリオキシアルキレンポリオールの水酸基数である3として計算すると、ポリオキシアルキレンポリオールの分子量は6732以上となり、この分子量6732という数値は本願発明1の分子量の数値である「約2,000〜約8,000」の範囲に含まれていることから、引用例3の記載に基づいて、ポリオキシアルキレンポリオールの分子量を本願発明1の程度することも、当業者が適宜なし得る事項である。
(相違点2について)
引用例3には、「ポリオキシアルキレンポリオールを含む全高分子量活性水素化合物成分と鎖伸長剤の合計に対する鎖伸長剤成分の量は5〜45重量%が採用される」(摘示記載シ)と、非常に幅広い範囲が示されており、また、第2表の実施例1に記載されたポリオールA:77重量部とDETDA(ジエチルトルエンジアミン):23重量部の混合物において、ポリオールAの分子量を上記の6732と仮定し、DETDAの分子量を178として計算すると、DETDA対ポリオールAのモル比は11.8:1となり、本願発明1の範囲に含まれていることからみても、引用例3の記載に基づいて、鎖延長剤対ポリオールのモル比を約0.15:1〜約75:1の範囲内とすることは、当業者が適宜設定し得る事項にすぎない。

そして、本願発明1が相違点1と2を併せ有することによる効果は、引用例3に記載された発明に比べ、格別優れているともいえない。
したがって、本願発明1は、引用例2及び3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(本願発明7について)
引用例2には、「ポリオールと、イソシアネート基と反応しうるイソシアネート反応性基を2個以上有するイソシアネート反応性基当りの分子量が600以下の化合物と、ポリイソシアネート化合物とを反応させて、ポリウレタンエラストマーを製造する方法において、水酸基価34〜60、総不飽和度0.03meq/g以下のポリオキシアルキレンポリオールを必須成分として用いることを特徴とするポリウレタンエラストマー」(摘示記載ア)が記載され、上記の「イソシアネート基と反応し得るイソシアネート反応性基を2個以上有するイソシアネート反応性基当りの分子量が600以下の化合物」は、鎖伸長剤と呼ばれる化合物を含み(摘示記載ウ)、実施例では当該化合物として1,4-ブタンジオール(1,4-BD)を用いていることから(摘示記載カ)、上記の「イソシアネート基と反応し得るイソシアネート反応性基を2個以上有するイソシアネート反応性基当りの分子量が600以下の化合物」は、「イソシアネート反応性基を2個有する鎖伸長剤」であるといえる。また、引用例2の実施例2では、不飽和度が0.015meq/gのポリオールBとMDI(メチレンジイソシアネート)との反応により、イソシアネート末端基付きプレポリマーができ、それをイソシアネート反応性基を2個有する鎖伸長剤である1,4-BD(1,4-ブタンジオール)と反応させていると認められる。
したがって、引用例2には、「イソシアネート末端基付きプレポリマーをイソシアネート反応性基を2個有する鎖伸長剤と反応させることによって製造されたポリウレタンエラストマーであって、イソシアネート末端基付きプレポリマーは総不飽和度0.015meq/gのポリオキシアルキレンポリオールとポリイソシアネートとの反応生成物である前記ポリウレタンエラストマー」が記載されているものと認められる。

そこで、本願発明7と引用例2に記載された発明とを対比すると、引用例2に記載された発明の「イソシアネート反応性基を2個有する鎖伸長剤」は、本願発明7の「二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤」に相当する。また、引用例2に記載された発明の「総不飽和度 meq/g」は、副生物である不飽和モノオールは末端にのみ不飽和部分を有するので、本願発明7の「末端基不飽和レベルがポリオールグラム当たり ミリ当量」に相当する。さらに、引用例2に記載された発明のポリウレタンエラストマーは、その成分からみて熱可塑性であるといえる。
したがって、両発明は、「イソシアネート末端基付きプレポリマーを二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤と反応させることによって製造されたものである熱可塑性のポリウレタンエラストマーにして、該イソシアネート末端基付きプレポリマーはポリイソシアネートと、ポリエーテルポリオールとの反応生成物であり、該ポリオールは末端基不飽和レベルがポリオールのグラム当たり0.015ミリ当量のものである、前記エラストマー」
である点で一致し、下記の点において相違している。
(相違点1)本願発明7のポリエーテルポリオールはシアン化金属複塩の錯体触媒を用いて製造された分子量が約2,000〜約8,000であるのに対し、引用例2には対応する記載はない点。
(相違点2)本願発明7のジイソシアネートのNCO基対ポリオールと鎖延長剤との合計活性水酸基の当量比は約1:0.7〜約1:1.3であるのに対し、引用例2には対応する記載はない点。
(相違点3)本願発明7の鎖延長剤対ポリオールのモル比が約0.15:1〜約75:1であるのに対し、引用例2には対応する記載はない点。

そこで、上記相違点1〜3について検討する。
(相違点1について)
引用例2には、ポリオキシアルキレンポリオールを製造するための触媒の一つとして複合金属シアン化物錯体を記載しており(摘示記載イ)、この触媒は、本願発明の「シアン化金属複塩の錯体触媒」に相当する。そして、本願明細書に引用例された米国特許第3829505号明細書(1頁2欄13〜15行)に記載されるように、シアン化金属複塩の錯体触媒を用いると、低不飽和度の高分子量ポリオールができることは周知であるから、引用例2に記載された発明の低不飽和度のポリオキシアルキレンポリオールとして、シアン化金属複塩の錯体触媒により製造されたものを用いることは当業者が適宜なし得る事項である。
また、上記の「本願発明1について」の「相違点1について」に記載したように、引用例2に記載された発明と同様に低不飽和度のポリオールを用いた引用例3において、本願発明7の「約2,000〜約8,000」の範囲に含まれる分子量のポリオールを用いることが示唆されていることから、引用例2に記載された発明においてポリオキシアルキレンポリオールの分子量を約2,000〜約8,000の範囲に設定することは、当業者が適宜なし得る事項であり、本願発明7の分子量の数値範囲に臨界的な意義も見出せない。
(相違点2について)
引用例2には、イソシアネートインデックスが80〜130であると記載され(摘示記載オ)、イソシアネートインデックスとは当量比(NCO/OH)×100を意味するから、引用例2に記載された発明において、ポリイソシアネートとしてジイソシアネートを用いた場合には、ジイソシアネートのNCO基対ポリオールと鎖延長剤との合計活性水酸基の当量比は約1:0.8〜約1:1.3となるから、本願発明7の当量比と実質的に一致している。
(相違点3について)
引用例2には、鎖延長剤の使用量について、「特に制限されないが、高分子量ポリオール100重量部に対して1〜50重量部程度が好ましい。」(摘示記載エ)と記載され、幅広い範囲が示されているのであるから、引用例2の記載に基づいて、鎖延長剤とポリオールのモル比を本願発明7の程度とすることは、当業者が適宜設定し得るものといえる。

そして、引用例2には低不飽和度のポリオールを用いたポリウレタンエラストマーが記載されており、一方、引用例3には低不飽和度のポリオールを用いたポリウレタンエラストマーは耐熱性に優れること(摘示記載ケ)が記載されているのであるから、引用例2に記載された発明も、引用例3に記載された発明と同様に耐熱性に優れることは当業者が予測可能なものといえ、本願発明7において末端基不飽和レベルの低いポリオールを用いることにより熱安定性が良いという効果は格別優れたものとはいえない。また、本願発明7が相違点1〜3を有することにより、当業者の予測を越えた効果を奏するものともいえない。
したがって、本願発明7は、引用例2及び3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものといえるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(本願発明13について)
原査定の拒絶の理由に先願5として引用された特願平4-502229号(国際出願日平成3年10月21日、パリ条約による優先日1990年11月2日、米国)の平成12年11月16日付け手続補正書により補正された明細書(以下「先願明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された請求項1〜2に係る発明は、以下のとおりである。
「1.(a)分子量が2,000〜20,000であり、かつ末端基の不飽和レベルがジオールのグラム当たり0.04ミリ当量以下であるジオールをシアン化金属複錯体触媒の存在下で製造し、
(b)該ジオールをジイソシアネートと反応させてイソシアネート末端基付きプレポリマーを生成させ、そして
(c)該イソシアネート末端基付きプレポリマーを二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤と金型内又は押出機内で反応させてショアA硬度が10〜70であることを特徴とする軟質エラストマーを生成させる工程を含んで成り、
該鎖延長剤がエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、ヘキサンジオール、オキシアルキル化ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、分子量が100〜500のポリアルキレンオキシドジオール、ジエチルトルエンジアミン、エチレンジアミン、4,4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)(“MOCA”)、ヒドラジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン及びそれらの組み合わせより成る群から選択されたものである
ことを特徴とする熱可塑性エラストマーの製造法。
3.該ジオールの分子量が4,000未満であり、該ジオールはその重量に基づいて35重量%未満のエチレンオキシド含量を有することを特徴とする、請求の範囲第1項に記載の方法。」

したがって、先願明細書の請求項2には、「(a)分子量が2,000〜20,000であり、かつ末端基の不飽和レベルがジオールのグラム当たり0.04ミリ当量以下であるジオールをシアン化金属複錯体触媒の存在下で製造し、
(b)該ジオールをジイソシアネートと反応させてイソシアネート末端基付きプレポリマーを生成させ、そして
(c)該イソシアネート末端基付きプレポリマーを二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤と金型内又は押出機内で反応させてショアA硬度が10〜70であることを特徴とする軟質エラストマーを生成させる工程を含んで成り、
該鎖延長剤がエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、ヘキサンジオール、オキシアルキル化ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA、水素化ビスフェノールA、1,4-ジクロヘキンジメタノール、分子量が100〜500のポリアルキレンオキシドジオール、ジエチルトルエンジアミン、エチレンジアミン、4,4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)(“MOCA”)、ヒドラジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシプロピル)アニリン及びそれらの組み合わせより成る群から選択されたものであり、かつ、該ジオールの分子量が4,000未満であり、該ジオールはその重量に基づいて35重量%未満のエチレンオキシド含量を有することを特徴とする熱可塑性エラストマーの製造法」の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。

そこで、本願発明13と先願発明とを対比すると、「次の:
(a)分子量が2,000〜約8,000のポリオールをシアン化金属複塩触媒の存在下で製造し、
(b)該ポリオールをジイソシアネートと反応させてイソシアネート末端基付きプレポリマーを生成させ、そして
(c)硬度がショアA硬度として50〜70であることを特徴とするエラストマーを生成させるために該イソシアネート末端基プレポリマーを金型又は押出機の中で二官能性のイソシアナト-反応性鎖延長剤と反応させる工程を特徴とし、ただし該ポリオールは、その分子量が4,000未満である場合、該ポリオールの重量基準で35重量%未満のエチレンオキシド含量を有するものである、熱可塑性エラストマーの製造法」である点で一致し、下記の点において一応相違している。
(相違点)ポリオールの末端基不飽和レベルが、本願発明13はポリオールのグラム当たり0.015ミリ当量以下であるのに対し、先願発明はポリオールであるジオールのグラム当たり0.04ミリ当量以下である点。

しかしながら、先願明細書の実施例では、不飽和レベルが0.015ミリ当量のポリオールAを用いており(表1〜2:特表平6-502674号公報の10頁参照、)、先願発明の「0.04ミリ当量以下」には、実施例で用いられている0.015ミリ当量も含むことは明らかであるから、本願発明13と先願発明とは、ポリオールの末端基の不飽和レベルがポリオールのグラム当たり0.015ミリ当量のものを用いる点において一致し、両発明は、実質的に同一である。
したがって、本願発明13は、先願発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により、特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1及び7は特許法第29条第2項の規定により、また、本願発明13は特許法第39条第1項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-19 
結審通知日 2005-12-20 
審決日 2006-01-05 
出願番号 特願平5-516567
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08G)
P 1 8・ 4- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 健史  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
藤原 浩子
発明の名称 熱可塑性のポリウレタンエラストマー及びポリ尿素エラストマー  
代理人 浅村 肇  
代理人 浅村 皓  
代理人 安藤 克則  
代理人 小堀 貞文  

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