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審決分類 |
審判 訂正 5項独立特許用件 訂正しない A61N |
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管理番号 | 1137256 |
審判番号 | 訂正2005-39202 |
総通号数 | 79 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-07-27 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2005-11-02 |
確定日 | 2006-06-01 |
事件の表示 | 特許第3446095号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.特許出願:平成10年1月14日 2.特許権設定の登録:平成15年7月4日 特許第3446095号) 3.本件訂正の審判の請求:平成17年11月2日 4.訂正拒絶理由の通知:平成18年1月20日 (発送:同年1月25日) 5.意見書、手続補正書の受付:平成18年2月21日 6.上記5.の意見書を対象とする手続補正書の受付:平成18年2月2 7日 第2 平成18年2月21日受付の手続補正の適否 上記第1、5の手続補正書による手続補正は、補正された訂正明細書の記載からみて、次のような内容を含むものである。 1.登録時の特許請求の範囲の請求項1に「下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S、2次電流I2S)を含み、また下記式(2)を使用する場合は定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO) 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数」とあるのを、 「下記式を使用する場合は事前試験を行い、無負荷励磁電流(IO)を求めた上で下記式からαを求めることで、定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 I2=α(I1-IO)、ただしα=定数」と訂正することに補正する。 なお、下線は、訂正箇所を示す。 2.登録時の特許請求の範囲の請求項2を削除する。 そうすると、この補正により、実質的に、審判請求書のいずれにも記載されていない、「式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO)」を削除するという訂正事項、及び登録時の特許請求の範囲の請求項2を削除するという訂正事項が、新たな請求の趣旨として追加されることになるから、この補正は、審判請求書の請求の趣旨の要旨を変更するものである。 したがって、平成18年2月21日受付の手続補正書による手続補正は、特許法第131条の2第1項本文の規定に違反するものであるから、これを認めることはできない。 第3 請求の要旨、訂正の内容 上記のとおり、平成18年2月21日受付の手続補正を採用することはできないから、本件訂正審判請求により請求された訂正の内容は、審判請求書及びこれに添付された全文訂正明細書の記載からみて、下記のとおりである。 1.訂正事項1 設定登録時における願書に添付した特許請求の範囲の請求項1(以下、「原請求項1」という。)に、 「プログラム制御のためのMPUと、パルストランスから刺激パルスを発生する手段、および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において、前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと、を備え、また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記パルストランスの一次電流値を得る、また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する、一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、当該数値には、下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S、2次電流I2S)を含み、また下記式(2)を使用する場合は定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO) 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数 」とあるのを、 「プログラム制御のためのMPUと、パルストランスから刺激パルスを発生する手段、および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において、前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと、を備え、また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記パルストランスの一次電流値を得る、また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する、一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、当該数値には、下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S、2次電流I2S)を含み、また下記式(2)を使用する場合は事前試験を行い、前記IOを求めた上で下記式(2)からαを求めることで、定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO) 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数 」(以下、「訂正後の請求項1」という。)と訂正する。 2.訂正事項2 設定登録時における願書に添付した明細書(以下、「原明細書」という。)の段落【0004】に、「課題を解決するための手段」の欄の記載として、 「【課題を解決するための手段】上記従来技術の課題を解決するための本発明の構成は、プログラム制御のためのMPUと、パルストランスから刺激パルスを発生する手段、および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において、前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと、を備え、また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記パルストランスの一次電流値を得る、また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する、一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、当該数値には、下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S、2次電流I2S)を含み、また下記式(2)を使用する場合は定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とするものである。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO) 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数 」とあるのを、 「【課題を解決するための手段】上記従来技術の課題を解決するための本発明の構成は、プログラム制御のためのMPUと、パルストランスから刺激パルスを発生する手段、および前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において、前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと、を備え、また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記パルストランスの一次電流値を得る、また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧(V)として出力する、一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、当該数値には、下記式(1)を使用する場合は無負荷励磁電流(IO)と短絡電流(1次電流I1S、2次電流I2S)を含み、また下記式(2)を使用する場合は事前試験を行い、前記IOを求めた上で下記式(2)からαを求めることで、定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を下記式(1)または式(2)を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO) 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数 」と訂正する。 第4 訂正拒絶理由 上記第1、4.の訂正拒絶理由の概要は、次のとおりである。 「本件訂正発明は、その出願前に日本国内において公然実施された発明である伊藤超短波株式会社製のTrio300に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって本件訂正事項1による訂正は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たしてない。」 第5 当審の判断 1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項1に関連して、原明細書の段落【0009】には、次のように記載されている。 「図5は計算式の説明のため、トランスの一次電流と二次電流の関係を示す図である。図において、出力抵抗R(r=R)のときの一次電流をI1、二次電流をI2とする。またトランスの二次側短絡時(r=0)の一次電流をI1S、二次電流をI2Sとする。また無負荷時(r=∞)の一次電流をIOとする。それぞれの電流の関係は、図のように直線と見なせるので、三角形の相似条件から次式が成立する。 I2/(I1-IO)=I2S/(I1S-IO) 従って、I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO)・・・・・式(1) となる。または更に、無負荷励磁電流(IO)は短絡電流(I1S)に比べ、十分小さいと仮定すれば,I2=α(I1-IO)・・・・・式(2)ただしα=定数 と置ける。従って、トランスの設定電圧(V)毎に無負荷電流(IO)と短絡電流(I1S、I2S)を測定して、MPUの記憶装置に特性値テーブルとして格納する。または事前試験を行い、トランスのIOを求めた上、前述した式(2)からαを求め特性値テーブルを作る。予めMPUが記憶したトランスの特性値テーブルとなる無負荷電流(IO)と短絡電流(I1SとI2S)を、説明のためグラフ図形として図6に表示する。」(下線は当審で付したものである。) 上記記載及び設定登録時における願書に添付した図面を総合すると、「MPUの記憶装置」が有する「既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブル」は、「(パルストランスのセンタータップに印加する)設定電圧(V)毎の数値」を有しており、「MPUのプログラム」は、パルストランスの二次電流の波高値(I2)を計算するに当たり、次のような計算を行うものと解される。 (a)「式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO)」を用いる場合 MPUは「D/A変換器」から出力される「設定電圧(V)」毎に、特性値テーブルから読み出した「無負荷励磁電流(IO)」、「1次電流I1S」及び「2次電流I2S」と、「A/D変換器」から入力される「前記パルストランスの一次電流値」すなわち「I1」とに基いて、式(1)から「二次電流の波高値(I2)」を計算する。 (b)「式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数」を用いる場合 上記原明細書の段落【0009】の記載によれば、式(2)を使用する場合は、無負荷励磁電流(IO)が短絡電流(I1S)に比べ十分小さいものと仮定して、式(1)におけるI2S/(I1S-IO)≒I2S/I1Sと近似して、これを定数αとするとともに、事前試験を行い、トランスのIOを求めた上で、式(2)を変形したα=I2/(I1-IO)に基づきαを求めて、IO及びαを特性値テーブルとしているものと解されるから、MPUは「D/A変換器」から出力される「設定電圧(V)」毎に、特性値テーブルから読み出した「無負荷励磁電流(IO)」及び定数「α」と、「A/D変換器」から入力される「前記パルストランスの一次電流値」すなわち「I1」とに基いて、式(2)から「二次電流の波高値(I2)」を計算する。 してみると、訂正事項1による訂正は、上記(b)の場合において、式(2)で使用する「定数α」に関して、「事前試験を行い、前記IOを求めた上で前記式(2)からαを求めることで」という構成を付加するものであり、新規事項を追加するものではなく、しかも、原請求項1に記載された定数「α」の構成を具体的に限定し、これを下位概念化するものであって、特許請求の範囲を拡張するものでも、また、これを変更するものでもなく、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2.独立特許要件について そこで、訂正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本件訂正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けられるものであるか否かについて以下に検討する。 (1)公然実施された発明 上記第4の訂正拒絶理由で引用した伊藤超短波株式会社製のTrio300が、本件出願前である平成9年12月20日頃から日本国内において公然実施されていたことは、明らかであり、「低周波治療器 Trio300解析報告書」(東京地裁平成16年(ワ)4339号判決(控訴審;知財高裁平成17(ネ)第10096号)において、被告(被控訴人)伊藤超短波株式会社が提出した乙54号証、以下単に「解析報告書」という。)には、Trio300について、次のことが記載されている。 (a)電流値が、mAまたはμAオーダーのパルス信号を発生する低周波治療器であり、前面操作キーにより、周期(周波数)、パルス幅、治療時間などを設定し、UPキー、DOWNキーを押すことにより出力電流値を設定すると、CPUがこの設定に基いてプログラム制御を行い、出力トランスT1を介して、設定された電流値の低周波パルス、すなわち刺激パルスを出力し、LCDが算出された実出力電流値、すなわち刺激パルスの様態を表示すること。 (特に、5/24頁2〜3行及び6/24頁の【図1】、8/24頁の【図2】、10/24頁【図3】等を参照のこと。) (b)刺激パルスは、出力トランスT1のセンタータップに、Q108、Q110からなる直流電圧制御回路により所定の設定電圧、すなわち出力トランスT1の駆動電圧の出力設定値を印加した上で、出力トランスT1の一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、この刺激パルスの出力電流値をLCDが数値表示すること。(特に、5/24頁2〜8行、6/24頁の【図1】、8/24頁の【図2】、10/24頁【図3】、11/24頁22〜24行等参照のこと。) (c)CPUが出力トランスT1の駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器およびCPUが出力トランスT1の駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有すること。 そして、出力トランスT1の一次側回路に電流検出抵抗(R108-R113)からなる電流検出回路を設置し、これら抵抗の両端電圧を電圧増幅器(U101B)を介してA/D変換器の入力信号とすることで、AD変換値(Ai)、すなわち出力トランスT1の一次電流値(Ai)を得ること。 (特に、 D/A変換器については、11/24頁17〜21行、A/D変換器については、13/24頁2〜8行、電流検出回路、電圧増幅器(U101B)については、6/24頁の【図1】、8/24頁の【図2】、10/24頁【図3】等を参照のこと。) (d)CPUの記憶装置には、出力トランスT1の出力設定値と一次電流値(Ai)及び既に記憶されている係数テーブルがあり、この係数テーブルには出力トランスT1の出力設定値毎の数値を有し、当該数値には、パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を有し、CPUのプログラムは、出力トランスT1の出力設定値を設定する毎に、当該出力設定値からパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を参照して、下記の式を使用して実出力電流値Apを計算し、その数値をLCDに表示すること。 (式) Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」 (特に13/24頁下から7行〜14/24頁末行、添付資料C-3/6等を参照のこと。) 以上を総合すれば、Trio300は、次のような低周波治療器であると認められる。 「プログラム制御のためのCPUと、出力トランスT1から刺激パルスを発生する手段、及び前記刺激パルスの様態を表示するLCDを備えた低周波治療器において、前記刺激パルスは前記出力トランスT1のセンタータップに直流電圧制御回路(Q108、Q116)により所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのUPキー、DOWNキーと、を備え、また前記CPUが前記出力トランスT1の駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器および前記CPUが前記出力トランスT1の駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、また前記出力トランスT1の一次側回路に電流検出抵抗(R108-R113)を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記出力トランスT1の一次電流値(Ai)を得る、また設定電流は前記UPキー、DOWNキーによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記出力トランスT1に駆動電圧の出力設定値として出力する、一方、前記CPUの記憶装置には、前記出力設定値と前記一次電流値(Ai)及び既に記憶されている係数テーブルがあり、前記係数テーブルには前記出力設定値毎の数値を有し、当該数値には、パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を有し、CPUのプログラムは、前記出力設定値を設定する毎に、前記出力設定値からパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を参照して、下記の式を使用して実出力電流値Apを計算し、その数値をLCDに表示するようにした低周波治療器。 (式) Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」 (2)対比 本件訂正発明とTrio300とを対比すると、Trio300のCPUは、その機能や技術的意義からみて、本件訂正発明の「MPU」に相当し、以下同様に「出力トランスT1」は「パルストランス」に、「LCD」は「(前記刺激パルスの様態を)表示する手段」に、「UPキー、DOWNキー」は「プッシュボタン」に、「出力設定値」は「設定電圧(V)」に、「実出力電流値Ap」は「パルストランスの二次電流の波高値(I2)」にそれぞれ相当する。 そして、Trio300において、「パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)」及び「係数テーブル」は、それぞれ「パルストランスの特性値」及び「特性値テーブル」といい得るものであり、「パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)」は、「所定の特性値」の限りで、本件訂正発明における「定数(α)」及び「無負荷励磁電流(IO)」と一致し、さらにTrio300における「(式)Ap=P1/1000×Ai-P2/10」は、「一次電流値と所定の特性値に基いて、パルストランスの二次電流の波高値を求める式」の限りで、本件訂正発明における「 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数」と一致する。 そして、Trio300も、計算した数値をLCDに表示することで、刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを課題としていることは明白であるから、本件訂正発明とTrio300との一致点、相違点は次のとおりである。 〈一致点〉 「プログラム制御のためのMPUと、パルストランスから刺激パルスを発生する手段、及び前記刺激パルスの様態を表示する手段を備えた低周波治療器において、前記刺激パルスは前記パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することによる二次側の誘起電圧によって発生し、前記刺激パルスの出力電流値を数値表示するためのLCDと、前記出力電流値を手入力するためのプッシュボタンと、を備え、また前記MPUが前記パルストランスの駆動電圧を数値で設定するためのD/A変換器及び前記MPUが前記パルストランスの駆動電流を数値で読み込むためのA/D変換器を有し、また前記パルストランス一次側回路に電流検出抵抗を設置し、前記抵抗の両端電圧を増幅器を介して前記A/D変換器の入力信号とすることで、前記パルストランスの一次電流値を得る、また設定電流は前記プッシュボタンによって増加又は減少して設定され、前記D/A変換器から前記パルストランスに前記設定電圧として出力する、一方、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値及び既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、前記特性値テーブルには前記設定電圧毎の数値を有し、当該数値には、所定の特性値を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧を設定する毎に、前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値を、一次電流値と所定の特性値に基いて、パルストランスの二次電流の波高値を求める式を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握する低周波治療器。」 〈相違点〉 本件訂正発明においては、特性値テーブルが有する設定電圧(V)毎の数値として、「下記式(2)を使用する場合は事前試験を行い、前記IOを求めた上で下記式(2)からαを求めることで、定数(α)と無負荷励磁電流(IO)」を含み、「MPUのプログラム」が「前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)」を計算するに当たり、「式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数」を用いるのに対して、Trio300においては、特性値テーブルが有する設定電圧毎の数値として、「パラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)」を有し、「CPUのプログラム」が「前記出力設定値を設定する毎に、前記出力設定値からパラメータ1(P1)とパラメータ2(P2)を参照して、実出力電流値Ap」を計算するのに当たり、「(式) Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」を用いる点。 (3)相違点について検討及び判断 本件訂正発明における上記相違点の技術的意義について検討する。 本件訂正明細書の段落【0009】には、上記相違点に関連して次のように記載されている。 「図5は計算式の説明のため、トランスの一次電流と二次電流の関係を示す図である。図において、出力抵抗R(r=R)のときの一次電流をI1、二次電流をI2とする。またトランスの二次側短絡時(r=0)の一次電流をI1S、二次電流をI2Sとする。また無負荷時(r=∞)の一次電流をIOとする。それぞれの電流の関係は、図のように直線と見なせるので、三角形の相似条件から次式が成立する。 I2/(I1-IO)=I2S/(I1S-IO) 従って、I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO)・・・・・式(1)となる。または更に、無負荷励磁電流(IO)は短絡電流(I1S)に比べ、十分小さいと仮定すれば,I2=α(I1-IO)・・・・・式(2)ただしα=定数 と置ける。従って、トランスの設定電圧(V)毎に無負荷電流(IO)と短絡電流(I1S、I2S)を測定して、MPUの記憶装置に特性値テーブルとして格納する。または事前試験を行い、トランスのIOを求めた上、前述した式(2)からαを求め特性値テーブルを作る。予めMPUが記憶したトランスの特性値テーブルとなる無負荷電流(IO)と短絡電流(I1SとI2S)を、説明のためグラフ図形として図6に表示する。」 上記の記載によれば、式(2)I2=α(I1-IO)を使用する場合は、無負荷励磁電流(IO)が短絡電流(I1S)に比べ十分小さいものと仮定して、式(1)におけるI2S/(I1S-IO)をI2S/I1Sと近似して、これを定数αとするとともに、事前試験を行い、トランスのIOを求めた上で、式(2)を変形したα=I2/(I1-IO)に基づきαを求めて、IO及びαを特性値テーブルとしているものと解されるから、MPUは「D/A変換器」から出力される「設定電圧(V)」毎に、特性値テーブルから「無負荷励磁電流(IO)」及び事前試験により式(2)を用いて演算した「α」を読み出し、「A/D変換器」から入力される「前記パルストランスの一次電流値」すなわち「I1」とに基いて、式(2)から「二次電流の波高値(I2)」を計算するものと解される。 してみると、訂正後の請求項1に択一的に記載された「・・・、前記MPUの記憶装置には、前記駆動電圧の数値と前記一次電流値(I1)および既に記憶されている前記パルストランスの特性値テーブルが有り、前記特性値テーブルには前記設定電圧(V)毎の数値を有し、当該数値には、下記式(2)を使用する場合、事前試験を行い、前記IOを求めた上で下記式(2)からαを求めることで、定数(α)と無負荷励磁電流(IO)を含み、MPUのプログラムは前記設定電圧(V)を設定する毎に、駆動電圧と一次電流から前記特性値テーブルを参照して、前記低周波治療器の出力電流となる前記パルストランスの二次電流の波高値(I2)を式(2)を用いて計算し、その数値を前記LCDに表示することで、前記刺激パルスの出力電流値を正確に把握することを特徴とする低周波治療器。 式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数」という構成は、事前試験により、設定電圧(V)毎に求めた無負荷励磁電流(IO)及び式(2)から求めたαを、特性値テーブルに記憶しておき、設定電圧(V)を設定する毎に、この特性値テーブルから当該IO及びαを呼び出し、A/D変換器から入力されるパルストランスの一次電流値(I1)とに基いて、式(2) I2=α(I1-IO)から 二次電流の波高値(I2)を計算するものと解される。 一方、Trio300において使用する「式 Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」について検討すると、特に解析報告書の添付資料C-2/6を参酌すれば、係数テーブルのP1及びP2は、ともに、出力トランスT1の出力設定値(設定電圧)毎に予め記憶された定数というべきものである。 そして、本件訂正発明における「式(2) I2=α(I1-IO)、ただしα=定数」と、Trio300における「式 Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」とを対比すると、両式を一次電流値を変数とした一次式としてみた場合、前者の「α(定数)」が後者の「P1/1000」に、そして、前者の「αIO」が「P2/10 」に、それぞれ対応する。 そうすると、一次式としての両式の相違は、次の2点であると解される。 1.傾きを、本件訂正発明においては、事前試験により、設定電圧(V)毎に式(2)から求めたαとし、Trio300においては、設定電圧(V)毎に予め記憶されたP1を1000で除した値とした点。 2.定数を、前者においては、事前試験により求めた無負荷励磁電流(IO)及び上記αで演算した-αIOとし、後者においては、出力設定値(設定電圧)毎に予め記憶されたP2を-10で除した値にした点。 一般に、CPUを用いて機器を制御するに当たり、センサ等の入力信号と制御信号との間に所定の関係がある場合、入力信号を当該所定の関係を示す関数を用いて制御信号を演算することも、あるいは、実験等により予め入力信号と制御信号を求めておいて、記憶した入力信号-制御信号テーブルから、入力信号に基いて制御信号を読み出すこと(いわゆるテーブルルックアップ)も、本件出願前より広く知られた技術的事項であり、そのいずれを選択するかは、入力信号と制御信号との対応関係、演算精度、演算速度、あるいは必要とする記憶容量等に応じて、当業者が適宜選択し得る程度の単なる設計的事項というべきである。 そして、トランスの一次巻線及び二次巻線の物理的特性が既定のものであれば、設定電圧毎に、一次電流値と二次電流の波高値との対応関係等に再現性があることは明白であるから、Trio300において、例えば、実際の一次電流値と二次電流の波高値との対応関係が、理論式の演算に基づく対応関係と乖離するなどの場合には、係数テーブルのP1及びP2を出力設定値(設定電圧)毎に予め事前実験等により求めておけばよいことは、当業者にとって自明ともいうべき技術的事項である。 本件訂正発明及びTrio300は、ともに、パルストランスのセンタータップに所定の設定電圧を印加した上で、一次巻線の両端を交互に駆動することにより、二次側の誘起電圧を発生させているのであるから、両者の一次巻線及び二次巻線の物理的特性が同一である場合、同一の設定電圧が与えられれば、両者の一次電流値、設定電圧(V)毎に、そして、無負荷励磁電流値が同一の値となることは明白であって、しかも、ともに一次電流に基づき二次電流の波高値を計算することを課題としているのであるから、結果として、「P1/1000」及び「P2/10 」を、「α(定数)」及び「αIO」のそれぞれと、数値的にみても同等の値とすることは、当業者が容易に到達し得ることである。 その際、事前試験を行い、設定電圧(V)毎に無負荷励磁電流(IO)を求めた上で、式(2)からαを求めたからといって、結局、事前実験等により、設定電圧(V)毎に、一次関数の傾き、定数を予め求め、これを呼び出して二次電流の波高値を計算する観点からみれば、演算結果の精度等の観点から、格別の効果が奏されるという技術的根拠を見い出すことはできず、この点は、一次電流値と設定電圧(V)毎にとの対応関係等に基いて、当業者が適宜採用し得る程度の事項にすぎないものである。 したがって、本件訂正発明の相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得ることであり、本件訂正発明は、本願出願前公然実施をされたTrio300に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。 なお、平成18年2月20日付け手続補正による補正について検討すると、この補正は、結局、択一的に記載された式(1)を使用する場合を削除するものであるから、仮にこの補正を認めたとしても、訂正された発明は、上記の理由により、本願出願前に公然実施をされたTrio300に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本件訂正発明における択一的な発明特定事項である式(1)を用いた場合について付言すると、「式(1) I2=I2S/(I1S-IO)×(I1-IO)」において、I1S、I2S、IOは、前述のとおり、一次巻線及び二次巻線の物理的特性が規定のものであれば、設定電圧に応じて一義的に定まるものであるから、Trio300における「式 Ap=P1/1000×Ai-P2/10 」と対比すると、二次電流を一次電流を変数とした一次式としてみた場合、「P1/1000」が「I2S/(I1S-IO)」に、そして、「P2/10 」が「I2S/(I1S-IO)×IO」に、それぞれ相当し、式(2)について述べたのと同様の理由で、当業者が容易に想到し得ることである。 請求項2については、本件訂正により訂正されていないが、請求項2により付加された発明特定事項も、Trio300が具備するものであるか、そうでなくても、Trio300に基いて当業者が容易に想到し得ることであり、本件の請求項2に係る発明も進歩性を有していない。 (4)独立特許要件についてのむすび したがって、本件訂正発明は、その出願前に日本国内において公然実施された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正事項1による訂正は、特許法第126条第5項に規定する要件を満たしてないので、本件訂正を認めることはできない。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-03-31 |
結審通知日 | 2006-04-05 |
審決日 | 2006-04-20 |
出願番号 | 特願平10-37878 |
審決分類 |
P
1
41・
575-
Z
(A61N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中田 誠二郎 |
特許庁審判長 |
石原 正博 |
特許庁審判官 |
川本 真裕 芦原 康裕 |
登録日 | 2003-07-04 |
登録番号 | 特許第3446095号(P3446095) |
発明の名称 | 低周波治療器 |