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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1138686
審判番号 不服2004-17662  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-26 
確定日 2006-06-22 
事件の表示 平成 7年特許願第112977号「光ディスクの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年11月22日出願公開、特開平 8-306069〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年5月11日の出願であって、拒絶理由に応答して平成16年1月26日付けで手続補正がなされたが、平成16年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月26日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに、同年9月22日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.平成16年9月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年9月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
本件補正は、
補正前(平成16年1月26日付け手続補正書参照)の特許請求の範囲の
「【請求項1】 シリコンウエハ上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し、
該シリコンウエハ上に光硬化樹脂を塗布して環状オレフィン系重合体を主成分として形成された光ディスク基板を前記光硬化樹脂を塗布したシリコンウエハ上に載せ、加圧した後、
紫外線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させることを特徴とする光ディスクの製造方法。
【請求項2】 シリコンウエハ上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し、
環状オレフィン系重合体を主成分として形成された光ディスク基板上に光硬化樹脂を塗布し、該光ディスク上にシリコンウエハを載せ、加圧した後、
紫外線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させることを特徴とする光ディスクの製造方法。
【請求項3】 光硬化樹脂によるパターンの転写を行う前に主として環状オレフィン系重合体よりなる基板の表面を活性化する処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載の光ディスクの製造方法。
【請求項4】 基板表面の活性化処理として、コロナ放電を用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光ディスクの製造方法。
【請求項5】 基板表面の活性化処理として、紫外線照射を用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光ディスクの製造方法。
【請求項6】 基板表面の活性化処理として、溶剤を塗布する、もしくは溶剤の蒸気に曝すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光ディスクの製造方法。」
を、
補正後の特許請求の範囲の
「【請求項1】 シリコンウエハ上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し、
該シリコンウエハ上に光硬化樹脂を塗布し、
環状オレフィン系重合体を主成分とした平板をディスク状に打ち抜き、光ディスク基板を形成し、
前記光ディスク基板を前記シリコンウエハ上に載せ、加圧した後、
紫外線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させることを特徴とする光ディスクの製造方法。
【請求項2】 シリコンウエハ上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し、
環状オレフィン系重合体を主成分とした平板をディスク状に打ち抜き、光ディスク基板を形成し、
前記光ディスク基板上に光硬化樹脂を塗布し、該光ディスク上にシリコンウエハを載せ、加圧した後、
紫外線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させることを特徴とする光ディスクの製造方法。
【請求項3】 光硬化樹脂によるパターンの転写を行う前に主として環状オレフィン系重合体よりなる基板の表面を活性化する処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載の光ディスクの製造方法。
【請求項4】 基板表面の活性化処理として、コロナ放電を用いることを特徴とする請求項3に記載の光ディスクの製造方法。
【請求項5】 基板表面の活性化処理として、紫外線照射を用いることを特徴とする請求項3に記載の光ディスクの製造方法。
【請求項6】 基板表面の活性化処理として、溶剤を塗布する、もしくは溶剤の蒸気に曝すことを特徴とする請求項3に記載の光ディスクの製造方法。
【請求項7】 前記平板は、押し出し工程により形成される請求項1乃至6のいずれかに記載の光ディスクの製造方法。」
とする補正を含むものである。

そこで、補正前後の記載を対比すると、補正後の請求項1,2は、補正前の請求項1,2に対応し、光ディスク基板の形成に関する「環状オレフィン系重合体を主成分として形成された」を、「環状オレフィン系重合体主成分とした平板をディスク状に打ち抜き、」と限定するとともに、表現の手直しを行なったものであり、補正後の請求項3〜6は補正前の請求項3〜6の表現そのままであり、補正後の請求項7は新たに追加されたものと認められる。

(2)補正の適否
特許法第17条の2第1項第3号において準用する同法第121条第1項の審判を請求する場合において、その審判の請求の日から30日以内にするときになされたものであるところ、同法第17条の2第4項において、同条第1項第3号に掲げる場合において特許請求の範囲についてする補正は、同項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明)を目的とするものに限るとされている。
しかしながら、本件補正は、前記対比の如く、特許請求の範囲の請求項の数を新たに1つ増加するものであることが明らかであるから、特許法第17条の2第4項の第1号乃至第4号に掲げる事項のいずれの目的にも該当しないことが明らかである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成16年9月22日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜6に係る発明は、平成16年1月26日手続補正書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は以下のとおりである。
【請求項1】「シリコンウエハ上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し、
該シリコンウエハ上に光硬化樹脂を塗布して環状オレフィン系重合体を主成分として形成された光ディスク基板を前記光硬化樹脂を塗布したシリコンウエハ上に載せ、加圧した後、
紫外線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させることを特徴とする光ディスクの製造方法。」

(1)引用例
原査定の拒絶理由に引用された本願出願前の刊行物である特開平2-247841号公報(以下、引用例1という。)と特開昭61-292601号公報(以下、引用例2という。)には、それぞれ、図面とともに次のように記載されている。なお、下線は便宜的に当審が付与したものである。
引用例1には、
(1-i)「(1)表面に凹凸を有するスタンパと光情報記録媒体用基材との間に液状の電離性放射線硬化性樹脂組成物を充填し、該樹脂組成物を基材側又はスタンパ側から電離性放射線を照射して硬化させた後、スタンパを剥離して形成される光情報記録媒体において、上記樹脂組成物が極性の強い低粘性の電離性放射線硬化性樹脂からなることを特徴とする光情報記録媒体。
(2)・・・(中略)・・・
(3)上記電離性放射線が紫外線又は電子線であり、紫外線の場合には上記樹脂組成物に光重合開始剤を含有させてなる請求項1、又は2記載の光情報記録媒体。」(特許請求の範囲参照)、及び、
(1-ii)「〔産業上の利用分野〕
本発明は光ディスク、光カード等の凹凸状情報トラックを有する光情報記録媒体に関し、更に詳しくは2P法(photo Po1ymerization)法と称せられる方法により製造される光情報記録媒体に関する。」(第1頁右下欄3〜8行参照)こと、
(1-iii)「〔従来の技術〕
光情報記録媒体は高密度記録を達成するために、光情報記録媒体用基材上に凹凸状光学的情報パターンを形成する必要がある。このため従来からいくつかの成型法が提案されているが、微細な情報記録パターンの転写精度の極めて高い2P法が現在盛んに検討されている。この2P法は光情報記録媒体を、表面に凹凸を有するスタンパと光情報記録媒体用基材との間に液状の電離性放射線硬化性樹脂組成物を充填し、該樹脂組成物を基材側又はスタンパ側から紫外線又は電子線を照射して硬化させた後、スタンパを剥離して形成されるものであり、上記紫外線又は電子線硬化性樹脂としては一般にウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、メラミンアクリレート等アクリロイル基を有する重合性モノマー、又はオリゴマーとアクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、スチレン等の重合性ビニル基を有する単官能、又は多官能モノマー、又はオリゴマーを配合したものが使用されている。」(第1頁右下欄9行〜第2頁左上欄9行参照)こと、
(1-iv)「また本発明において紫外線により樹脂を硬化させる場合には基材、又はスタンパのいずれか一方が透明で紫外線を透過させるものであればよいが、電子線により硬化させる場合にはいずれも透明である必要はない。基材としては透明なものとしてはポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂等のプラスチック板、またガラス板を使用するとよく、透明でないものとしては上記各樹脂に顔料を添加したものや、金属膜を着膜したもの、また金属板を使用するとよい。また本発明における硬化性樹脂組成物との接着性の観点からは、光情報記録媒体用基材として上記いずれのものも好適に使用することができるが、スタンパとの剥離性の観点から、スタンパとしてはアクリル樹脂、シリコン樹脂、フツ樹脂が好ましい。」(第2頁右下欄17行〜第3頁左上欄12行参照)こと、
(1-v)「〔実施例1〕
第1図は本発明の光情報記録媒体の製造工程を説明するための図であり、1はスタンパ、2は硬化性樹脂組成物、3は光情報記録媒体用基材、4は光情報記録媒体を示す。
N-ビニル-2-ピロリドン・・・(中略)・・・とからなる紫外線硬化型樹脂組成物2を処方し、第1図(a)に示すような表面にピッチ1μm、段差800Åの凹凸状光学的情報記録パターンの形成された、エポキシアクリレート(・・略・・)スタンパ1(20cmロ)上の中央に0.5cm3、第1図(b)に示すように滴下した。
そして第1図(c)、同図(d)に示すように15cmロ、厚さ0.4mmのポリカーボネート樹脂基材(帝人パンライト製)3を上記樹脂2上に積置し、押圧した。
次いで第1図(e)に示すような状態で基材3側から紫外線100mJ/cm2を照射して樹脂2を硬化させ、一体化した樹脂2層と基材3とをスタンパ1側から剥離し、第1図(f)に示すような光情報記録媒体4を複製した。
樹脂の硬化時間は数秒と短時間であり、基材3との密着性が高く、また複製品中に気泡は全く観察されず良好な光情報記録媒体となしえた。」(第3頁右上欄3行〜同頁左下欄14行参照)こと、が記載されている。
(1-vi)また、第1図として下図が図示されている。



これらの記載によれば、そして、実施例の態様を勘案すると、引用例1には、次の発明(以下「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「表面に凹凸を有するスタンパに液状の紫外線硬化性樹脂組成物を滴下し、光情報記録媒体用基材を該樹脂組成物上に積置し、押圧し、該樹脂組成物を基材から紫外線を照射して硬化させた後、スタンパを剥離して形成する、光情報記録媒体(光ディスク)の製造方法。」

引用例2には、
(2-i)「〔産業上の利用分野〕
本発明はとくに透明性、高屈折率を利用した光学材料に関する。
〔従来の技術〕
ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートおよびポリカーボネートは、透明性、高屈折率のプラスチックスとして光デイスク基板や光ファイバーあるいはプラスチックレンズとして検討され、一部では実用化がなされている。しかし、ポリスチレンは熱変形温度が90℃程度と耐熱性が悪いうえ複屈折も大きく、酢酸エチルや四塩化炭素などに溶解し易くて耐溶剤性に劣り、これがために前述したプラスチックスの中では光学材料分野への進出が大幅に遅れ、実質的に行き詰まり状態である。ポリメチルメタクリレートは成形が良好で透明性が大幅に優れ、耐熱性もポリスチレンに比べれば優れるので、現在最も光学材料分野への進出をはたしたプラスチックである。しかし、アセトンや酢酸エチルなどによりソルベントクラックが発生し易く、また吸湿性が大きいので吸湿変形が生じ易いなどの問題があり、さらに強酸に浸されて耐薬品性に劣るし、耐熱性が優れるといっても熱変形温度は110℃程度であって実使用範囲が制限される。ポリカーボネートの耐溶剤は溶解し難いという面で得ると一見良好であるかの如く思えるが、多くは白化現象を起こして、光学材料用途として見れば事実上耐溶剤性は不充分である。しかも強アルカリに浸され易く耐薬品性に劣るし、耐水性も不充分であるという問題もある。また、複屈折率と収縮率が前2者に比べて大きいという問題もある。
以上説明したように、現在検討または使用されているプラスチックス系光学材料の原料として用いられている前記の各種プラスチックスは各長所および短所を有しており、その結果当然ながらこれらの原料から製造される光学材料も従来の無機ガラス系に比べて長所を有するけれども短所も有してる。すなわち、光デイスク用基板の一例であるコンパクト・ディスク(CD)を例にとると、カーオーディオ用CDは、真夏の車内温度が非常に高い温度になるため、耐熱性が要求され、この点でポリスチレンは使用できず、ポリメチルメタクリレートも使用に際しての懸念がある。ポリカーボネートは耐熱性の面では心配ないが、成形後の収縮あるいは複屈折の面で良好なるディスク基板が成形でき難いという問題がある。そして以上述べてきたことは、追記型ディスクや書換型ディスク用途ではもつと深刻な問題となる。さらに各耐溶剤性、耐薬品性、耐水性に問題があり、使用場所や取扱い方法に制限を受ける。そして、このような諸問題は他の光学材料たとえば光ファイバーやプラスチックレンズといった透明性を利用した材料においても同様に発生する。
〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明者らは、かかる状況に鑑みて、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、耐水性に優れ、収縮が実質的に無くて寸法安定性、成形性に優れ、また複屈折も実質的に無い光学材料を提供するため研究を重ね、本発明に到達した。
〔問題点を解決するための手段〕
すなわち本発明は、少なくとも式(1)で示されるモノマー成分を含む重合体であって、重合体中において前記モノマー成分が式(2)で示される構造をとる重合体からなることを特徴とする光学材料である。

(式中R1〜R12は水素、アルキル基又はハロゲンであって各同一又は異なっていてもよく、更にR9又はR10とR11又はR12は互に環を形成していてもよい。nは0又は1以上の正数であって、R5〜R8が複数回繰り返される場合にはこれらは各同一又は異なっていてもよい。)」(第2頁左上欄7行〜第3頁左上欄6行参照)こと、
(2-ii)「たとえば、光デイスク用基板に用いると従来のポリメチルメタクリレート系の耐熱性や耐水性の問題、ポリカーボネート系の複屈折性、寸法安定性、耐水性の問題を一気に解決するディスク用基板を提供することになる。したがって、本発明のディスク用基板に公知の種々の方法で記録層を積層したものはコンパクトディスク、ビデオディスク、追記型光ディスク、書換型光ディスク、光磁気ディスクとして利用できる。また同様な記録方式を用いる光カードとしても利用できる。
より具体的に本発明の光ディスクについて説明すると、前述の重合体を情報ピットに対応する凹凸を有したスタンパーをセットした金型内に射出成形して得られた基板に、反射率の高い物質たとえばNi、Ai、Au等をコートして、レーザー光の反射を利用して情報を読み出す再生専用のディスク、あるいは情報記録層として通常のレコード板と同じように溝を用い、溝と接触して走査するヘッドと溝低部に設けられた情報ピットとの間の静電容量変化を利用して情報を読み出す再生専用ディスク、さらに光によって変化する記録層を設けた光ディスクがある。光変化型の記録層としては、As-Te-Ge系のようにレーザー光照射による非晶-結晶の相変化からくる光反射率、光透過率の変化を利用するもの、同じく相変化を利用するTeOx(0<X<2)、あるいはGdCo、TbFe、GdTbFe、TbDyFeのように磁化反転を利用したもの、また別には有機色素なども利用できる。」(第5頁右下欄17行〜第6頁右上欄4行参照)こと、が記載されている。

(2)対比、判断
そこで、本願発明と引用例1発明とを対比する。
(a)引用例1発明の「光情報記録媒体(光ディスク)」は、本願発明の「光ディスク」に相当し、また、引用例1発明の「液状の紫外線硬化性樹脂組成物」は、光硬化樹脂に他ならないから、本願発明の「光硬化樹脂」に相当する。

(b)引用例1発明の「表面に凹凸を有するスタンパ」は、本願発明の「シリコンウエハ上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し」に対応し、
(b1)引用例1発明の凹凸は、凹凸状情報トラック乃至凹凸状光学的情報パターンを意味する(摘示(1-ii)、(1-iii)参照)し、凹凸状光学的情報パターンは情報に基づくピットに他ならず、凹凸情報トラックは記録再生光をガイドする溝に他ならない(なお、凹凸ピットと同様にトラッキング用のガイド溝を基板に設けることは周知慣用の技術にずぎない)こと、及び、
(b2)本願発明の「シリコンウエハ上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し」たものは、その後に凹凸ピット等が転写されるので、いわゆる「スタンパ材」と呼べるものであることから、
両者は、「スタンパ材上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し」で一致する。
なお、スタンパ材に関し、本願発明では「シリコンウエハ」であると特定されている点は以下の相違点(イ)として検討する。

(c)引用例1発明の「表面に凹凸を有するスタンパに液状の紫外線硬化性樹脂組成物を滴下し、光情報記録媒体用基材を該樹脂組成物上に積置し、押圧し、該樹脂組成物を基材から紫外線を照射して硬化させた」は、
本願発明の「該シリコンウエハ上に光硬化樹脂を塗布して環状オレフィン系重合体を主成分として形成された光ディスク基板を前記光硬化樹脂を塗布したシリコンウエハ上に載せ、加圧した後、紫外線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させる」に対応し、
上記(b)の検討結果を勘案すると、両者は、
「該スタンパ材上に光硬化樹脂を塗布し、
光ディスク基板を前記光硬化樹脂を塗布したスタンパ材上に載せ、加圧した後、
紫外線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させる」で一致する。
なお、光ディスク基板に関し、本願発明では「環状オレフィン系重合体を主成分として形成された」ものであると特定されている点は、以下の相違点(ロ)として検討する。

してみると、両発明は、
「スタンパ材上に情報に基づくピット、もしくは記録再生光をガイドする溝を形成し、
該スタンパ材上に光硬化樹脂を塗布し、
光ディスク基板を前記光硬化樹脂を塗布したスタンパ材上に載せ、加圧した後、
紫外線を照射して前記光硬化樹脂を硬化させることを特徴とする光ディスクの製造方法。」の点で一致し、次の相違点で相違する。
<相違点>
(イ)スタンパ材に関し、本願発明では、「シリコンウエハ」が用いられるのに対し、引用例1発明ではそのような材質の言及がない点。
(ロ)光ディスク基板に関し、本願発明では、「環状オレフィン系重合体を主成分として形成された」ものであるのに対し、引用例1発明ではそのような重合体の言及がない点。

そこで、これらの相違点について検討する。
(イ)の点について
スタンパ材に「シリコンウェハ」を用いることは、本願明細書にも記載の先行技術などで既に知られていることにすぎない。例えば、本願明細書段落【0016】に記載された特開平4-259937号公報には、シリコンウェハにマスク部材を用いて乾式エッチングして凹部を形成したものが、一度も転写を行わずに使用でき、従来の金属板の表面粗度、平面度の満足出来ない点を解決できることが記載され、同段落【0010】や【0019】に記載された特開平5-62254号公報には、フオトレジスト膜付きシリコンを露光、現像、エッチング処理したスタンパを用い、紫外線硬化樹脂を押し付けて紫外線照射硬化させて転写することが記載されている。
そうであるから、(いわゆる2P法に用いる)スタンパ材として「シリコンウェハ」を用いることは当業者が容易に想到し得ることであり、そのことにより格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。

(ロ)の点について
光ディスク基板の材質として、「環状オレフィン系重合体」を用いることが、前記摘示の引用例2に記載(摘示の(1)式、(2)式の化学構造から環状オレフィン系重合体であることは明白)されていて、その特性が、光ディスク基板として従来用いられているポリカーボネートやポリメチルアクリレートに比べて優れている(耐湿性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、複屈折が実質的にない点など)ことが示されていることから、引用例1発明において、光ディスク基板の材質に「環状オレフィン系重合体を主成分として形成された」ものを用いる程度のことは、当業者が容易に想到し得ることであり、そのことにより格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。
なお、本願明細書段落【0007】にも「環状オレフィン系重合体」が光ディスクに用いられる優れた材料であることが示されている如く、その材料は周知の材料にすぎない。また、例えば特開平3-224792号公報に記載(第4頁左下欄、第5頁右上欄〜左下欄参照)の如く、環状オレフィン系重合体を光ディスク基板の材質とし、更にトラッキング用のグルーブやアドレス信号の凹凸を設ける際に2P法によって設けても良いことが知られている。

そして、(イ)と(ロ)の点を総合的に勘案しても、(イ)と(ロ)に係る構成を組合せ用いることに格別の困難性は見いだせないし、それによる作用効果も格別のものであるとは認められない。
したがって、本願発明は、周知技術を勘案し、引用例1発明と引用例2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-19 
結審通知日 2006-04-25 
審決日 2006-05-10 
出願番号 特願平7-112977
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
P 1 8・ 572- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 達也  
特許庁審判長 江畠 博
特許庁審判官 川上 美秀
中村 豊
発明の名称 光ディスクの製造方法  
代理人 須澤 修  
代理人 上柳 雅誉  
代理人 藤綱 英吉  

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