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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1138791
審判番号 不服2004-802  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-12-06 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-09 
確定日 2006-06-19 
事件の表示 特願2002- 53600「光ファイバセンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年12月 6日出願公開、特開2002-353496〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年2月28日(優先日 平成13年3月14日)の出願であって、平成15年12月9日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月9日付で拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに平成16年2月6日付で特許法第17条の2第1項第3号の規定による手続補正がなされたものである。

2.平成16年2月6日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年2月6日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、補正前の請求項1を、下記のように補正することを含むものである。
「【請求項1】投光素子と、この投光素子から投光された光を一端側から取り込み他端側から被検出物へ照射する投光用ファイバと、この投光用ファイバから照射された光を受ける受光用ファイバと、この受光用ファイバを介して前記投光用ファイバから照射された光を受光する受光素子とを備える光ファイバセンサにおいて、
前記投光素子は、前記投光用ファイバ端面に向けられる表面にAlを含んだ層が露出しないInGaAlP構造の半導体チップを樹脂でモールドしてなる発光ダイオード素子によって構成されるとともに、前記投光用ファイバの一端部が前記投光素子のモールド樹脂部に接続され、その半導体チップの発光領域の大きさが前記投光用ファイバのコア径以上に形成され、その外縁部にワイヤーパッドが形成されていることを特徴とする光ファイバセンサ。」

上記補正は、補正前の請求項1の「投光用ファイバ」をさらに限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(2)刊行物記載の発明
原査定の拒絶理由に周知技術として引用したこの出願前公知の刊行物1:特開平7-176787号公報には、下記の事項が記載されている。
「【0025】
【実施例】図2(a)(b)は本発明の一実施例による半導体発光素子Bの構造を示す断面図及び一部破断した拡大平面図である。この半導体発光素子Bを製造手順に沿って説明すると、まず、n-GaAs基板21の上に・・・n-AlGaInP下クラッド層22、・・・p-GaInP活性層(発光層)23、・・・p-AlGaInP第1上クラッド層24、p-AlGaAs第2上クラッド層25、・・・p-GaAsキャップ層26を順次エピタキシャル成長させて半導体チップ27を形成する。ついで、・・・キャップ層26上面に光取り出し窓28の開口31のパターンと一致するようにAZレジスト被膜(図示せず)を新たに形成し、その上から電極金属を蒸着させ、リフトオフ法によってp側電極32を形成する。こうして電流通路領域30と対向させて光取り出し窓28が形成され、p側電極32は図2(b)に示すように光取り出し窓28の外側に位置する(反転層29と対応する)電極部分32aと光取り出し窓28内にあって光取り出し窓28を均等に分割するように十文字状に橋渡しされた電極部分32bとから構成されている。また、GaAs基板21の下面にはn側電極33を形成する。
・・・
【0027】図3(a)は図1(b)のような直径ρ=50μmの円形開口の光取り出し窓28を有する従来の半導体発光素子Aの注入電流Ifと光出力Pとの関係を示す図である。図3(b)は図2(b)のように直径ρ=50μmの光取り出し窓28内に幅δ=4μmの十文字状の電極部分32bを設けた当該実施例による半導体発光素子Bの注入電流Ifと光出力Pとの関係を示す図である。図3(a)及び(b)を比較すると、本実施例の半導体発光素子Bでは、従来例の半導体発光素子Aに比較して光出力Pが80%増加し、また光出力飽和電流Isが増加していることが分かる。
・・・
【0029】光取り出し窓28内に設ける電極部分32bのパターンは図2(b)のようなパターンに限らず、任意のパターンが可能である。例えば、図4(a)〜(f)はその一部の例を示す図である。図4(a)は光取り出し窓28内に平行に複数本の電極パターンを橋渡しして電極部分32bを形成したものである。図4(b)は周囲の電極部分32aの内周から光取り出し窓28内に電極パターンを突出させるようにして電極部分32bを設けたものである。図4(c)は環状の電極パターンと直線状の電極パターンとを組合せて電極部分32bを形成したものである。図4(d)は井ゲタ状の電極パターンによって電極部分32bを形成したものである。
・・・
【0084】図31(a)〜(g)は、それぞれ、本発明による半導体発光素子131と光ファイバ132とからなる光ファイバモジュールM1〜M7を示す概略図である。図31(a)は、半導体発光素子131の発光領域に光ファイバ132の端面を対向させ、半導体発光素子131から出射された光が光ファイバ132の端面からコア内に入射し、光ファイバ132内を伝送されるようになった直接結合方式の光ファイバモジュールM1である。また、図31(b)は、半導体発光素子131と光ファイバ132の端面とを近接させ、半導体発光素子131と光ファイバ132の端面との間に光学樹脂133を充填した直接結合方式の光ファイバモジュールM2である。また、図31(c)(d)(e)は、半導体発光素子131と光ファイバ132の端面との間に集束用光学系を置き、半導体発光素子131から出た光が集束用光学系で集束させられて光ファイバ132内に効率的に入射するようにした個別レンズ結合方式の光ファイバモジュールM3〜M5であって、・・・また、図31(f)(g)の光ファイバモジュールM6,M7は、先端にレンズ機能をもつ球状部137を設けた光ファイバ(先球ファイバ)132を半導体発光素子131に対向させたファイバレンズ結合方式のものである。
・・・
【0085】このような光ファイバモジュールにおいては、半導体発光素子と光ファイバとの結合効率は、半導体発光素子の発光径に強く依存している。・・・半導体発光素子の発光径DLが小さければ小さいほど、結合効率が高くなることが一般に知られている。したがって、光ファイバモジュールの結合効率を高くするためには、半導体発光素子の発光径を小さくすることが非常に有効である。
【0086】しかし、従来のLED等の半導体発光素子では、発光径を小さくすると素子抵抗が上昇し、発熱が激しくなって大きな光出力が得られなかった。
【0087】これに対し、本発明による微小発光径の半導体発光素子(特に、LED)131では、発光径を小さくしていっても素子抵抗の上昇を低く抑えることができるので、光出力の低下を小さくすることができる。したがって、光出力の低下を招くことなく高い結合効率を得ることが可能になる。特に、本発明の半導体発光素子131は、活性層46にAlGaInP系の材料を用いているため、プラスチックファイバの伝送損失が最小となる660nmあたりでも高い発光効率を得ることができ、プラスチックファイバを用いた光ファイバ通信システムにおいて低損失でSN比の高いシステムを構成することができる。
【0088】図33(a)は本発明による半導体発光素子141を用いた光ファイバ型センサNを示す概略図である。この光ファイバ型センサNは、半導体発光素子141、投光用光ファイバ142、受光用光ファイバ143、受光素子144及び処理回路145より構成されている。
【0089】しかして、半導体発光素子141から出射された光は投光用光ファイバ142内を低損失で送られ、光ファイバ142の端面から対象物146に向けて出射される。対象物146で反射された光は受光用光ファイバ143内に入射し、受光素子144で検知される。」
また、図31(a)には、断面凹型の発光素子131の中心部から光ファイバ132のコアに向かって光が出射されているものが記載され、図31(b)には、その断面凹型の発光素子131と光ファイバの間が光学樹脂で充填されていることがみてとれる。

上記によれば、刊行物1には、
「半導体発光素子から出射された光は投光用光ファイバ内を低損失で送られ、該投光用光ファイバの端面から対象物に向けて出射され、該対象物で反射された光は受光用光ファイバ内に入射し、受光素子で検知される光ファイバ型センサにおいて、前記半導体発光素子は、活性層にAlGaInP系の材料を用い、表面にp-GaAsキャップ層を成長させた半導体チップからなり、該半導体チップと投光用光ファイバの間が光学樹脂で充填され、前記半導体チップの光取り出し窓は、円形開口であり、この光取り出し窓内に周囲の電極部分の内周から突出するように電極パターンが形成されてなる光ファイバ型センサ」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「半導体発光素子」、「投光用光ファイバ」、「対象物」、「受光用光ファイバ」及び「光ファイバ型センサ」は、それぞれ、本願補正発明の「投光素子」、「投光用ファイバ」、「被検出物」、「受光用ファイバ」及び「光ファイバセンサ」に相当する。
(イ)引用発明の「活性層にAlGaInP系の材料を用い、表面にp-GaAsキャップ層を成長させた半導体チップ」は、本願補正発明の「投光用ファイバ端面に向けられる表面にAlを含んだ層が露出しないInGaAlP構造の半導体チップ」に相当する。
(ウ)引用発明において、「半導体チップと投光用光ファイバの間が光学樹脂で充填され」ているから、本願補正発明の「半導体チップを樹脂でモールドしてなる」、「投光用ファイバの一端部が前記投光素子のモールド樹脂部に接続され」た点が実質的に備わっている。(なお、発光層を有する半導体チップを樹脂封止して発光素子とすることは慣用手段であり、刊行物1の【図31】記載の半導体発光素子131は、その厚み方向の中程に発光面を有しているところから見て、この半導体発光素子131自体が半導体チップを樹脂でモールドしてなるものともみてとれる。)
(エ)引用発明において、「周囲の電極部分」にワイヤボンディング用の電極パッドを設けることは技術常識である。(なお、発光領域の中央部に設けられたボンディングパッドによって発光領域に影ができ、発光面積が減少しないように、ボンディングパッドを発光領域の外周部に設けることは従来周知である。必要であれば、原査定の拒絶理由に引用した刊行物2:特開平4-361572号公報の図10及び【0017】の記載を参照。)

よって、両者は、
「投光素子と、この投光素子から投光された光を一端側から取り込み他端側から被検出物へ照射する投光用ファイバと、この投光用ファイバから照射された光を受ける受光用ファイバと、この受光用ファイバを介して前記投光用ファイバから照射された光を受光する受光素子とを備える光ファイバセンサにおいて、
前記投光素子は、前記投光用ファイバ端面に向けられる表面にAlを含んだ層が露出しないInGaAlP構造の半導体チップを樹脂でモールドしてなる発光ダイオード素子によって構成されるとともに、前記投光用ファイバの一端部が前記投光素子のモールド樹脂部に接続され、その半導体チップの発光領域の外縁部にワイヤーパッドが形成されている光ファイバセンサ」である点で一致し、下記の点で相違する。

相違点:
本願補正発明は、「半導体チップの発光領域の大きさが前記投光用ファイバのコア径以上に形成され」ているのに対して、引用発明は、このような構成を有しない点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。
原審における拒絶査定の時に引用したように、半導体チップの発光領域の大きさを投光用ファイバのコア径以上に形成することは従来周知である(特開平3-108780号公報の第2図及び特開平10-200154号公報(図1と【0019】〜【0021】の記載)参照)。
また、一般に、石英ファイバのコア径は10μm程度、プラスチックファイバのコア径は300〜900μm程度、発光素子の発光部寸法は100〜500μm程度(上記刊行物1の【0069】には、「発光径400μm」と記載されている)のものがこの出願前から販売されている。(本願出願後に公開された特開2001-264591号公報の【0018】を参照。)
しかも、刊行物1には、前掲のとおり、半導体発光素子と光ファイバとの結合効率は、半導体発光素子の発光径に強く依存しており、半導体発光素子の発光径が小さければ小さいほど、結合効率が高くなることが一般に知られていること(【0085】参照)及び従来のLED等の半導体発光素子では、発光径を小さくすると素子抵抗が上昇し、発熱が激しくなって大きな光出力が得られなかったこと(【0086】参照)が記載され、発熱を防ぐために発光径を大きくすることが示唆されている。
してみると、光結合効率を含む装置全体の効率を考慮しなければ、半導体チップの発光領域の大きさを投光用ファイバのコア径以上に形成することは、当業者が適宜なし得る程度のことであり、むしろ退行的なことにすぎない。

なお、これに関連して、請求人は、審判請求書の補正書第4頁において、「半導体チップの発光領域2を光ファイバ1のコア径Dよりも大きくした場合には、それが入射可能領域内にある限り、発光領域2が光ファイバ1のコア径Dよりも小さい場合よりも、集光手段を設けなくても確実に多くの光を入射させることができます。すなわち、光ファイバには開口角が存在しているので、半導体チップの発光領域2を光ファイバ1のコア径Dよりも大きくすれば、集光手段を設けなくても、光ファイバへの入射光量を増大させることができ、結局、「被検出物への投光量を高レベルに維持して被検出物の検出精度を高めることができる」という効果が得られる」と主張する。
請求人の主張するように、半導体チップの発光領域を光ファイバのコア径Dよりも大きくした場合には、発光領域が光ファイバのコア径Dよりも小さい場合に比べて、多くの光を入射させることができることは当然のことであるが、発光領域からの光は直上のみならず外方にも放射されるので、光ファイバのコアに入射せず外方に放射される光が多くなるから、相対的に結合効率が悪くなることは明らかである。

そして、本願補正発明によってもたらされる補正明細書の【0014】に記載された「この構成の半導体チップを使用した発光ダイオード素子によれば、表面にアルミニウム(Al)が含まれないから、アルミニウムの酸化による半導体チップの劣化を防止することができ、長期間にわたり発光量が低下しない。従って、光ファイバセンサからの被検出物への投光量が減少することがなく、被検出物の検出精度を長期間にわたり高く維持することができる。また、半導体チップの発光領域の外縁部にワイヤーパッドを形成した発光ダイオードを使用するから、投光用ファイバからの投光量を一層多くすることができる。」という作用効果は、引用発明及び周知技術から予測し得るものである。また、「半導体チップの発光領域の大きさを投光用ファイバのコア径以上に形成」することが、装置全体としての効率を考慮しなければ、適宜なし得る程度のものである以上、その構成によってもたらされる効果も予測し得る程度のものにすぎない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年2月6日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成15年3月24日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項1】 投光素子と、この投光素子から投光された光を一端側から取り込み他端側から被検出物へ照射する投光用ファイバと、この投光用ファイバから照射された光を受ける受光用ファイバと、この受光用ファイバを介して前記投光用ファイバから照射された光を受光する受光素子とを備える光ファイバセンサにおいて、
前記投光素子は、前記投光用ファイバ端面に向けられる表面にAlを含んだ層が露出しないInGaAlP構造の半導体チップを樹脂でモールドしてなる発光ダイオード素子によって構成されるとともに、その半導体チップの発光領域の大きさが前記投光用ファイバのファイバ径以上に形成され、その外縁部にワイヤーパッドが形成されていることを特徴とする光ファイバセンサ。」(以下、「本願発明」という。)

(2)刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用した、この出願前公知の刊行物1:特開平7-176787号公報には、上記2.(2)刊行物記載の発明において摘記した事項が記載されている。

(3)対比・判断
本願発明は、上記本願補正発明と比較すると、少なくとも「投光用ファイバの一端部が前記投光素子のモールド樹脂部に接続され」という発明特定事項を欠くものであるから、本願補正発明に対するとほぼ同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-19 
結審通知日 2006-04-20 
審決日 2006-05-08 
出願番号 特願2002-53600(P2002-53600)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 万里子濱田 聖司小原 博生  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 井上 博之
鈴木 俊光
発明の名称 光ファイバセンサ  
代理人 後呂 和男  
代理人 ▲高▼木 芳之  

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