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審決分類 審判 全部申し立て 1項2号公然実施  C11D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C11D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C11D
管理番号 1139396
異議申立番号 異議1999-72341  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-10-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-06-16 
確定日 2006-06-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第2838347号「洗浄剤組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについてした平成16年12月13日付けの取消決定に対し、東京高等裁判所において取消決定取消しの判決(平成17年(行ケ)第10377号、平成18年1月30日判決言渡)があったので、さらに審理の結果、次のとおり決定する。 
結論 特許第2838347号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯・本件発明

本件特許第2838347号の請求項1に係る発明の出願の手続の経緯は以下のとおりである。

平成 5年 4月 9日 特許出願(特願平5-83415号)
平成10年10月16日 特許権の設定登録(特許第2838347号)
平成11年 6月15日 特許異議の申立て
(平成11年異議第72341号)
平成12年 1月25日 取消理由通知(平成12年2月8日発送)
平成12年 4月10日 訂正請求
平成15年 5月20日 訂正拒絶理由通知
(平成15年5月30日発送)
平成15年 7月29日 意見書
平成16年12月13日 異議の決定
平成17年 2月 4日 異議決定取消請求
(平成17年(行ケ)第10377号)
平成17年 4月28日 訂正審判請求(訂正2005-39071号)
平成17年 9月20日 訂正拒絶理由通知
(平成17年9月21日発送)
平成17年10月21日 意見書
平成17年12月28日 訂正認容審決
(平成18年1月10日審決確定)
平成18年 1月30日 異議決定取消判決言渡
(平成17年(行ケ)第10377号)

本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正審判請求書に添付された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 炭素数10〜13の飽和脂肪族系炭化水素に0.0005〜5重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモールを含有することを特徴とする1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、洗浄装置を用いて加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の、オゾン層を破壊しない環境汚染の心配のない洗浄剤組成物。」

2.特許異議の申立ての理由の概要

特許異議申立人エクソン化学株式会社(以下、「申立人エクソン」という。)は甲第1〜14号証を提出して、訂正前の本件請求項1に係る発明(以下、「訂正前発明」という。)は、甲第1〜4号証から明らかなように、本件特許出願前に日本国内において公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号の規定に該当し、甲第5号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、上記の公然実施された発明である甲第1号証に基いて、あるいは、甲第5号証及び甲第10〜14号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって、訂正前発明の特許は取り消されるべきである旨、主張している。
特許異議申立人平等千歳(以下、「申立人平等」という。)は甲第1〜2号証を提出して、訂正前発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、甲第1〜2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって、訂正前発明の特許は取り消されるべきである旨、主張している。
特許異議申立人丸善石油化学株式会社(以下、「申立人丸善」という。)は甲第1〜5号証を提出して、訂正前発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって、訂正前発明の特許は取り消されるべきである旨、主張している。

3.特許異議申立人の提出した甲号証等、及びその内容

(1)申立人エクソンが提出した、甲第1〜14号証、平成13年2月6日付け審尋回答書に添付の資料1〜8、及び平成13年11月9日付け上申書に添付の宣誓供述書(Dr.GUYOMARの宣誓供述書の翻訳)並びにそれらの内容

甲第1号証:「有機溶剤技術シリーズNo.15 アイソパー溶剤について」、昭和56年5月、エクソン化学株式会社 溶剤部;「有機溶剤技術シリーズNo.19 有機溶媒中毒予防規制について」、昭和57年7月、エクソン化学株式会社 溶剤部; 「有機溶剤技術シリーズ同No.28 溶剤の安全性と関連法規について」、昭和61年10月、エクソン化学株式会社 機能化学品部
イソパラフィン系炭化水素溶剤である「アイソパー溶剤」の特徴、用途及び性状が開示され、用途として、家庭用クリーナー、ポリッシュ剤なる記載があり、様々なアイソパー溶剤について、主成分であるイソパラフィンの炭素数が8〜14であることが記載されている。「Isopar」として、Isopar C、Isopar E、Isopar G、Isopar H、Isopar L、Isopar M、が記載されている。
甲第2号証:アイソパー溶剤取り扱い代理店の買掛台帳
「対象年月」として、「92年12月渡」〜「93年4月渡」のものであり、「商品名」の欄に、アイソパーM、アイソパーLが記載されている。
甲第3号証:86年2月4日作成の、"MATERIAL SAFETY DATA SHEET"
ISOPAR G、ISOPAR H、の記載がある。
甲第4号証:エクソン化学株式会社から株式会社リコーへの商品代請求書(写)
ISOPAR L、ISOPAR Mについて、商品納入日が、90年11月30日〜91年2月21日の記載がある。
甲第5号証:米国エクソン社のカタログ "ISOPAR"、1984年9月21日
アイソパー溶剤の特徴、用途及び性状が開示され、アイソパー溶剤が飽和脂肪族炭化水素に加えて少量の酸化防止剤を含有すること、及び洗浄剤としての用途を有することが記載され、その例として「シリコンチップ及びその他の電子機器製造及び洗浄」が挙げられている。また、「Isopar」として、Isopar C、Isopar E、Isopar G、Isopar H、Isopar K、Isopar L、Isopar M、Isopar V、が記載されている。
甲第6号証:米国エクソン社のカタログ "Performance Fluids for maintenance cleaning"、1988年10月
アイソパー溶剤が洗浄剤として使用されることが記載され、アイソパーLについてその洗浄効果が○と記載されている(第9頁)。また、「Isopar」として、Isopar E、Isopar G、Isopar H、Isopar J、Isopar L、Isopar M、が記載されている。
甲第7号証:エデュアルド・ガルシア氏による宣誓供述書、1999年6月14日
アイソパーLは炭素数11〜15のイソパラフィンを有し、アイソパーMは炭素数11〜18のイソパラフィンを含有するものであること、アイソパーL及びアイソパーMが含有する酸化防止剤は2、6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)であることが開示されている。
甲第8号証:Dr.Otto-Albrecht Neumuller, "Rompps Chemie-Lexikon - Achte, neubearbeitete und erweiterte Auflage"、1963頁(1983年)
(決定注:「Neumuller」のmの次の「u」、及び「Rompps」の「o」は、いずれもウムラウト付きである。)
アイソパー溶剤が、分枝C8-C14パラフィンの混合物であることが開示されている。
甲第9号証:"CRC Handbook of Chemistry and Physics"、1986-1987 67th EDITION、1986年
様々な炭素数を有する炭化水素について、沸点などの物性が記載されている。
甲第10号証:Leo Reich,et al., "Autoxidation of Hydrocarbons and Polyolefins. Kinetics and Mechanisms." 、31、100〜101、139及び190〜197頁、1969年
酸化防止剤の存在下での炭化水素の酸化について開示され、酸化防止剤としてフェノール類が開示されている。
甲第11号証:Jan Pospisil,et al., "Oxidation Inhibition in Organic Materials"、Volume I、33〜39頁、1990年
熱等により誘起される、炭化水素をはじめとする有機物質の酸化の機構について開示され、また、市販酸化防止剤としてフェノール類が挙げられている。
甲第12号証:"Prepr. Pap. - Am. Chem. Soc., Div.Fuel Chem."、第35巻、第4号、1277〜1284頁、1990年
加圧条件下でのジェット燃料の劣化を、BHT等のフェノール類を使用して防止しうることが開示されている。
甲第13号証:米国特許第4663315号明細書
熱揮発性の組成物であって、少量の活性成分の他に、n-ウンデカン、n-ドデカンあるいはn-トリデカンを主成分として含み、さらにBHT等のフェノール類を含むものが開示されている。
甲第14号証:ケミカル・アブストラクツ、79:18268
デカン等の炭化水素の酸化を、立体障害フェノールを使用して防止することが開示されている。

資料1:エクソン社によるアイソパーLの仕様書(1987年6月9日)
アイソパーLに含まれるBHTの量が記載されている。
資料2:エクソン社によるアイソパーMの仕様書(1987年12月11日)
アイソパーMに含まれるBHTの量が記載されている。
資料3:"APPENDIX E Detailed Characterization of ISOPAR L"、1985年8月
アイソパーLは炭素数11〜15のイソパラフィンを88.02重量%含有していることが開示されている。
資料4:"APPENDIX F Detailed Characterization of ISOPAR M"、1985年8月
アイソパーMは炭素数11〜18のイソパラフィンを78.75重量%含有していることが開示されている。
資料5:アイソパーL及びMについての分析結果
アイソパーLは炭素数11〜14のイソパラフィンを95重量%含有し、アイソパーMは炭素数12〜14のイソパラフィンを78重量%含有していることが開示されている。
資料6:米国特許第5145523号明細書(1992年9月8日)
プラスチック及び金属の表面を洗浄するための組成物であって、沸点が約300°F〜405°Fで引火点が約100°Fを越える少なくとも1種のイソパラフィン炭化水素溶剤、及びグリコールエーテルを含有するものが開示されている。
資料7:"ENCYCLOPEDIA OF CHEMICAL TECHNOLOGY"、3rd Ed., Vol.2, p.72, p.91(1978年)
4-メチル-2,6-ジ-tert-ブチルフェノールについて、広範囲な工業分野において、酸化防止剤として、著しく広い用途が見出されている旨、記載されている。
資料8:"Chemical Products Desk Reference"、p.114、388、866、916、917、955、1068(1990年)
BHT、及び1990年に市販されていたそのすべての商品名が記載されている。

宣誓供述書(Dr.GUYOMARの宣誓供述書の翻訳)
「-SPEC.1、SPEC.2-ヨーロッパで製造されたISOPAR Lの製造規格書シート-1988年8月付け及び2001年7月付け:
これらの書面は、製造規格書が長い間全く同一のままであることを示す。両方の書面は2,6-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエンの商品名であるParabar 441の存在を示す。」(第2頁4〜8行)、
「これら5つの書面は、本件特許の出願日よりも以前のISOPAR LがC11からC15のイソパラフィンを含んでおり、その主成分が常にC12のイソパラフィンであることを示す。」(第2頁23〜25行)、
「ISOPAR L中の3から6g/m3のParabar 441は請求項1中のBHTの0.0005から5重量%と重複する:
-ISOPAR Lは0.765kg/lの比重を有する。
-このため、1m3のISOPAR Lの重量は・・・765,000gである。
-765,000gのISOPAR Lに含まれる3gのParabar 441は0.000392重量%に相当する。
-765,000gのISOPAR Lに含まれる6gのParabar 441は0.000784重量%に相当する。」(第3頁下から5行〜第4頁4行)と記載され、
種々のISOPARについて炭素数分布が記載され、ISOPAR Lについて、炭素数10のものが0.8、炭素数11のものが3.5、炭素数12のものが65.0、炭素数13のものが23.4、炭素数14のものが7.3、と記載されている(doc.A3)。

(2)申立人平等が提出した、甲第1〜2号証及び平成13年2月6日付け審尋回答書に添付の参考資料1並びにそれらの内容

甲第1号証:特開平4-292700号公報
精密部品又はその組立加工工程に用いられる治工具類用の洗浄剤組成物について記載されている。
甲第2号証:特開平5-59396号公報
IC部品、精密機械部品、その他各種物品の洗浄に適している混合溶剤組成物について記載されている。

参考資料1:精密洗浄装置と最新応用技術編集委員会編「精密洗浄装置と最新応用技術」、1991年11月8日初版発行、株式会社工業資料センター、413〜424頁
一般的な脱脂洗浄装置について解説されており、「洗浄効果を上げるために溶剤を加温して浸漬」と記載されている。

(3)申立人丸善が提出した、甲第1〜5号証及びそれらの内容

甲第1号証(平成11年7月12日付け手続補正書に添付されて再提出されたもの):猿渡健市他2名著「酸化防止剤ハンドブック」、昭和51年10月25日初版発行、株式会社大成社、8〜9、12〜17、26、37〜39、156、158、182、236頁
種々の酸化防止剤について記載されている。
甲第2号証:特開平3-146597号公報
炭素数10〜13の飽和脂肪族系炭化水素が洗浄剤として使用し得ることが記載されている。
甲第3号証:特開平3-62896号公報
甲第4号証:特開平4-68096号公報
甲第5号証:特開平5-43893号公報
甲第3〜5号証には、洗浄剤組成物にフェノール系等の酸化防止剤を添加することが記載されている。

4.当審の判断

(1)申立人エクソンの異議申立理由について

申立人エクソンの提出した甲第1、2、4〜6号証には「アイソパーL」(「Isopar L」に同じ)が記載され、平成13年11月9日付け上申書に添付の宣誓供述書(Dr.GUYOMARの宣誓供述書の翻訳)には、「Isopar L」が少なくとも1988年8月から2001年7月の間、製造企画書が同一であり、ヨーロッパで製造されたIsopar Lの品質がほとんど変わっていないことが説明され、具体的には、「アイソパーL」は、「炭素数11〜15の飽和脂肪族系炭化水素にフェノール類である2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(決定注:BHTともいう。本件発明における2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールに同じ。)を0.00039〜0.00078重量%含有するものであって、飽和脂肪族系炭化水素中の炭素数10〜13のものを、90%以上含んでいるもの」である旨、記載され、甲第5号証には、アイソパーLは少量の酸化防止剤が添加されている洗浄剤組成物であって、アイソパー溶剤の用途として「シリコンチップ及びその他の電子機器製造及び洗浄」が挙げられ、甲第6号証にはアイソパーLの洗浄効果が良好である旨記載されているのであるから、アイソパーLは、「その組成が、炭素数11〜15の飽和脂肪族系炭化水素に0.00039〜0.00078重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾールを含有するものである、洗浄剤組成物」である。
そして、甲第4号証の記載から、ヨーロッパで製造された「アイソパーL」は日本に輸入されたものと認められ、日本においてそれが販売されていたと解せられるから、「アイソパーL」という組成物に係る発明(以下、その発明を単に「アイソパーL」という。)が本願特許出願前に日本国内において公然実施をされていたことは明らかである。
そこで、本件発明と、公然実施されていた「アイソパーL」の異同について検討する。
本件発明は上記1.に記載したとおりの洗浄剤組成物であるところ、本件発明もアイソパーLも、ともに飽和脂肪族系炭化水素に2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)を含有する洗浄剤組成物であって、該BHTの含有量も、0.0005〜0.00078重量%の範囲で一致しているが、両者は次の(i)〜(v)の点で相違している。
(i)飽和脂肪族系炭化水素が、本件発明においては「炭素数10〜13」であるのに対し、アイソパーLにおいては「炭素数11〜15」である点、
本件発明においては、洗浄剤組成物に関して、
(ii)1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、
(iii)洗浄装置を用いて
(iv)加温洗浄や高温度で繰り返し蒸留回収される使用条件下においても安定な非水系の、
(v)オゾン層を破壊しない環境汚染の心配のない、
という(ii)〜(v)の要件がさらに加えられたものであるのに対し、アイソパーLにおいてはこれらの要件については、不明である点。

そこで、上記相違点(ii)について検討する。
「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する、」とは、本件洗浄剤組成物のひとつの使用態様を特定するものであるところ、「代替する」の部分の技術的意味を検討すると、本件特許明細書の段落【0011】に、「1,1,1-トリクロロエタンは、中小企業における金属部品等の洗浄に多く使用されているため、洗浄工程の拡張や廃水処理設備等を含めた多額の設備投資を伴う水系洗浄剤は敬遠されがちである」と記載され、これから、「代替する」とは「洗浄工程の拡張をする必要がなく、また、廃水処理設備等を含めた多額の設備投資もする必要のない範囲でなされるもの」であると解することができる。
また、同段落【0012】には、「種々の可燃性溶剤対応の洗浄器も提案されている」と記載され、同段落【0015】には「油が多く付着している金属部品、精密部品及び多数の部品を洗浄籠に入れて洗うような条件下では、従来、石油系溶剤等の可燃性溶剤が使用されていた分野のような単なる常温浸漬洗浄では脱脂できず、多槽式による加温洗浄や超音波洗浄、シャワ-洗浄等の併用が必要となる。」と記載され、さらに、平成17年10月21日付け意見書には、「求められた代替品は、単にオゾン層を破壊しない或いはフロンを含まないというだけのものではなく、フロンと同等の洗浄力、洗浄特性を有するものであることが求められる。」(第10頁28〜30行)、「石油系洗浄剤がフロンの代替洗浄剤の1種と認められるには、石油系洗浄剤用の加温洗浄、蒸気洗浄や高温度での繰り返し蒸留回収できるような防爆機能を持った洗浄装置の開発と石油系洗浄剤の安定化特性、耐劣化特性の向上とがなされて初めて可能となったものである。」(第11頁9〜12行)とされ、「アイソパーLのような石油系溶剤を用いる洗浄は、もともとは、洗浄装置を使用しない手作業として拭き取り洗浄、あるいは浸漬するために槽の使用に相当する程度の装置を用いた浸し洗浄であったとされる」(第4頁23〜25行)、「脂肪族炭化水素からなる石油系溶剤は洗浄剤として用いられるものではあるが、それを用いる洗浄は洗浄装置を使用しない手作業としての拭き取り洗浄、あるいは浸漬するための槽の使用に相当する程度の装置を用いた浸し洗浄であったとされる」(第7頁下から1行〜第8頁2行)と記載されている。
これらのことからすると、本件発明において「代替する」とは、「基本的にフロンに用いられていた従来の洗浄工程を使用するものであり、加温洗浄、蒸気洗浄や高温度での繰り返し蒸留回収できるような防爆機能を持った洗浄装置による洗浄、あるいは多槽式による加温洗浄や超音波洗浄、シャワー洗浄等の特殊な方法に用いる」ものであって、従来の石油系溶剤による洗浄で用いられている「拭き取り洗浄あるいは浸漬洗浄」に用いることまで意味しているのではないものと認められる。
上記相違点(ii)はこのような使用態様の特定を含むものであるところ、甲第1、2、4〜6号証に記載され、上記宣誓供述書によってその組成が明らかにされ、さらに上記甲第4号証によって日本国内において公然実施(輸入又は輸入及び譲渡)をされた発明であると解される「アイソパーL」について、その用途に関しては、甲第5号証に「シリコンチップ及びその他の電子機器製造及び洗浄」とあるのみで、「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する 」という使用態様、すなわち、「基本的にフロンに用いられていた従来の洗浄工程を使用し、加温洗浄、蒸気洗浄や高温度での繰り返し蒸留回収できるような防爆機能を持った洗浄装置による洗浄、あるいは多槽式による加温洗浄や超音波洗浄、シャワー洗浄等の特殊な方法に用いる」という使用態様までもが特定されていたとすることはできないし、そのような使用態様によって公然実施されたものと認めることもできない。
そうしてみると、そのような使用態様を特定する本件発明と、そのような使用態様を何ら特定していない甲第1、2、4〜6号証に記載された「アイソパーL」との間に差異があることは、明らかである。
以上のとおり、本件発明は甲第1、2、4〜6号証に記載された「アイソパーL」とは相違しているから、相違点(i)、(iii)〜(v)を検討するまでもなく、本件発明は、特許出願前に日本国内において公然実施をされた発明ではない。

また、「1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替する 」ことは甲第5号証には記載されておらず、自明でもないので、本件発明は甲第5号証に記載された発明ではない。

さらに、いずれの甲号証にも「炭素数10〜13の飽和脂肪族系炭化水素に0.0005〜5重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモールを含有する洗浄剤組成物であって、1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替するもの 」については記載も示唆もされておらず、本件発明は、該構成要件を採用することにより、特許明細書に記載の「油脂分の溶解力に優れ、安全性が高く、環境汚染の心配もなく、かつ安定で、繰り返し蒸留回収ができる効果を有するため、従来ハロゲン化炭化水素溶剤等が主体に使用されてきた分野の各種金属加工部品等の脱脂洗浄剤として有利に使用できるものである。」という、当業者に予測外の効果を奏するものである。
したがって、本件発明は、甲第1号証に基いて、あるいは、甲第5号証及び甲第10〜14号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

よって、申立人エクソンの特許異議申立てには理由がない。

(2)申立人平等の異議申立理由について

本件発明の構成要件である「炭素数10〜13の飽和脂肪族系炭化水素に0.0005〜5重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモールを含有する洗浄剤組成物であって、1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替するもの」については、申立人平等の提出した甲第1〜2号証には記載も示唆もされていない。そして、該構成要件を採用することにより、本件発明が当業者に予測外の効果を奏するものであることは、上記(1)に述べたとおりである。
したがって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明ではなく、かつ、甲第1〜2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立人平等の特許異議申立てには理由がない。

(3)申立人丸善の異議申立理由について

本件発明の構成要件である「炭素数10〜13の飽和脂肪族系炭化水素に0.0005〜5重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモールを含有する洗浄剤組成物であって、1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替するもの」については、申立人丸善の提出した甲第1〜5号証は記載も示唆もされていない。そして、該構成要件を採用することによって本件発明が当業者に予測外の効果を奏するものであることは、上記(1)に述べたとおりである。
したがって、本件発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、申立人平等の特許異議申立てには理由がない。

(4)結論

したがって、本件発明についての特許は、特許法第29条第1項第2号に該当するとも、同法同条同項第3号に該当するとも、同法同条第2項の規定に違反してされたものとも、することはできない。

なお、特許異議申立人の提出したその他の資料、参考資料等を参照しても、本件発明の構成要件である「炭素数10〜13の飽和脂肪族系炭化水素に0.0005〜5重量%の2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール又はチモールを含有する洗浄剤組成物であって、1,1,1-トリクロロエタン、フロン113や他のハロゲン系溶剤に代替するもの」を導くことはできず、上記の判断に変わりはない。

5.むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2006-06-06 
出願番号 特願平5-83415
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C11D)
P 1 651・ 113- Y (C11D)
P 1 651・ 112- Y (C11D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大久保 元浩  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 原 健司
井上 彌一
脇村 善一
原田 隆興
登録日 1998-10-16 
登録番号 特許第2838347号(P2838347)
権利者 東ソー株式会社
発明の名称 洗浄剤組成物  
復代理人 箱田 篤  
代理人 小川 信夫  
代理人 今城 俊夫  
代理人 吉村 直樹  
代理人 小林 雅人  
代理人 中村 稔  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 大塚 文昭  
代理人 竹内 英人  
代理人 村社 厚夫  

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