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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 F28F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F28F
管理番号 1140109
審判番号 不服2005-5685  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-04-01 
確定日 2006-07-12 
事件の表示 平成 8年特許願第173527号「二重管型オイルクーラ」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 1月23日出願公開、特開平10- 19491〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判請求に係る出願は、平成8年7月3日の出願であって,平成17年2月21日付けで拒絶査定(発送日:同年3月1日)がなされ,これに対し,平成17年4月1日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同年4月26日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年4月26日付手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成17年4月26日付手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の発明
平成17年4月26日付手続補正(以下,「本件補正」という。)は,特許法第17条の2第1項第4号に規定する期間内になされたものであって,特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである(以下,「本件補正発明」という。)。
「ラジエータタンク(11)の内部に間隔を置いて対向して配置されると共に、前記ラジエータタンク(11)の長手方向に向けて貫通するオイル連通穴(15a)が形成され、このオイル連通穴(15a)を前記ラジエータタンク(11)の外部に連通するオイル流路(25c)が形成されるアルミニウム材からなる1対のシートコーン(15)と、
前記1対のシートコーン(15)の間に配置され、両端を前記1対のシートコーン(15)の対向面側に一体形成される環状のアウタパイプ連結部(15b)にろう付けされ、少なくとも一面にろう材がクラッドされる複合アルミニウム材からなるアウタパイプ(17)と、
前記アウタパイプ(17)に同心状に挿入されると共に、両端を前記1対のシートコーン(15)の前記オイル連通穴(15a)に挿入され、外周面を前記オイル連通穴(15a)の前記対向面側と反対側の内周面に突出して一体形成される環状のインナパイプ連結部(15c)にろう付けされ、少なくとも前記外周面にろう材がクラッドされる複合アルミニウム材からなるインナパイプ(19)と、
前記アウタパイプ(17)の内周面と前記インナパイプ(19)の外周面との間に形成されるオイル通路(23)に配置されるアルミニウム材からなるフィン(21)とを備え、
前記1対のシートコーン(15)の前記インナパイプ連結部(15c)に前記対向面側に広がり、かつ前記フィン(21)に向かって拡大して傾斜する傾斜面(15d)を形成し、この傾斜面(15d)と前記インナパイプ(19)の前記外周面との間にろう溜まり(R)を形成してなることを特徴とする二重管型オイルクーラ。」
当該補正は,「傾斜面」について,その傾斜する方向を限定するものではあるが,補正前の請求項1において特定されている,各構成要素の組立体の接合部を炉内で加熱してろう付けして固定する旨の事項、加熱時に,表面張力と毛細管作用によりろう溜まりを形成し,冷却後にろう材がインナーパイプと一対のシートコーンとを固定する旨の事項を削除するものであるから,当該補正は,むしろ特許請求の範囲を拡張するものであって,特許請求の範囲の限定的減縮にも明りょうでない記載の釈明にも当たらない。まして,請求項の削除,誤記の訂正でないことは明らかである。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第4項各号に規定される事項を目的とするものではないから,特許法159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願の請求項1に係る発明
平成17年4月26日付手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成17年1月19日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。
「ラジエータタンク(11)の内部に間隔を置いて対向して配置されると共に、前記ラジエータタンク(11)の長手方向に向けて貫通するオイル連通穴(15a)が形成され、このオイル連通穴(15a)を前記ラジエータタンク(11)の外部に連通するオイル流路(25c)が形成されるアルミニウム材からなる1対のシートコーン(15)と、
前記1対のシートコーン(15)の間に配置され、両端を前記1対のシートコーン(15)の対向面側に一体形成される環状のアウタパイプ連結部(15b)にろう付けされ、少なくとも一面にろう材がクラッドされる複合アルミニウム材からなるアウタパイプ(17)と、
前記アウタパイプ(17)に同心状に挿入されると共に、両端を前記1対のシートコーン(15)の前記オイル連通穴(15a)に挿入され、外周面を前記オイル連通穴(15a)の前記対向面側と反対側の内周面に突出して一体形成される環状のインナパイプ連結部(15c)にろう付けされ、少なくとも前記外周面にろう材がクラッドされる複合アルミニウム材からなるインナパイプ(19)と、
前記アウタパイプ(17)の内周面と前記インナパイプ(19)の外周面との間に形成されるオイル通路(23)に配置されるアルミニウム材からなるフィン(21)とを備え、
前記1対のシートコーン(15)、前記アウタパイプ(17)、前記インナパイプ(19)及び前記フィン(21)は、前記1対のシートコーン(15)間に前記アウタパイプ(17)、前記インナパイプ(19)及び前記フィン(21)を組み付けた組立体を形成すると共に、前記組立体の炉内での加熱時に、溶融する前記アウタパイプ(17)及び前記インナーパイプ(19)の外周面にクラッドされたろう材によって各接合部を固定される二重管型オイルクーラであって、
前記1対のシートコーン(15)は、前記インナパイプ連結部(15c)に前記対向面側に広がる傾斜面(15d)をさらに形成し、
前記組立体の炉内での加熱時に、前記インナパイプ(19)と前記1対のシートコーン(15)の傾斜面(15d)との間に、溶融する前記インナーパイプ(19)の外周面にクラッドされたろう材が、表面張力と毛細管作用とによりろう溜まり(R)を形成し、冷却後に前記ろう溜まり(R)のろう材が前記インナパイプ(19)と前記1対のシートコーン(15)とを固定してなることを特徴とする二重管型オイルクーラ。」

(2)引用例に記載された事項及び発明
原査定の拒絶の理由に引用された実願平02-110376号(実開平04-073787号)のマイクロフィルム(以下,「引用例」という。)には,図面とともに次の記載がある。

(a)「(2) アウタパイプとインナーパイプとから成り,両パイプ間に油路を形成し,アウタパイプとインナーパイプの夫々の外側部がラジエータ等の熱交換器のタンク内を流通する冷却水と接触する二重管と,
この二重管の両端部を取り付けられ,二重管の内部の油路を流通するオイルの流入部及び流出部を形成すると共に,インナーパイプ内を流通する冷却水の流出入部を形成する貫通孔を設けたシートと,
を有するアルミニウム製二重管型オイルクーラに於て,
上記シートの外側に於ける二重管の突出側端面に切欠部を設け,この切欠部と二重管との間にロー溜りを形成して成ることを特徴とするアルミニウム製二重管型オイルクーラ。」(特許請求の範囲・請求項2)

(b)「これを第3図に基づいて説明する。アルミニウム製二重管型オイルクーラ1は,アルミニウム製の二重管2と,アルミニウム製のシート3と,アルミニウム製のイン・アウトパイプ4とを一体的にロー付けすることによって構成されている。
二重管2は,アウタパイプ21とインナーパイプ22とから成り,両パイプ21,22間に油路23を形成し,アウタパイプ21とインナーパイプ22の夫々の外側部21a,22aがラジエータ等の熱交換器のタンク5内を流通する冷却水と接触するようになっている。
この二重管2内には,アルミニウム製のインナーフィン24が装着されている。
シート3は,O-リング52を装着するための環状溝31と,オイルの流出入部となる孔32と,ナット等の締結部材を螺着するための螺子部33と,二重管2のインナーパイプ22を貫通させる孔34と,アウタパイプ21の端部を嵌合させる段部35とを有する。
このシート3と二重管2とは,ロー材を介してロー付部6が形成されている。
イン・アウトパイプ4は,シート3に設けた孔36に嵌入されて,ロー付けされている。」(第3頁第9行目〜第4頁第12行目)

(c)「第2図は請求頃2の一実施例に係るアルミニウム製二重管型オイルクーラ30を示すもので,本実施例では,シート3の外側端部3Aに於ける孔34の縁部にテーパ状の切欠部34Aを設けたものである。その他の構成については,第3図に示すアルミニウム製二重管型オイルクーラと同様であるから,その説明を省略する。
本実施例で構成されたアルミニウム製二重管型オイルクーラの仮組体は,加熱炉内で,所定のロー付け条件下がロー付け処理される。その際,二重管20は,従来と同様にロー材(例えば、A 4343)が母材(例えば、A 3034)にクラッドされているから,所定温度で溶融し,シート3の外側端部3Aに設けた切欠部34Aと二重管2の端部2Aとで形成される略V字撲の凹部8に溜まる。この凹部8は,略V字状を為して溶融状態で流動化しているロー材を表面張力によって,止めることが可能となる。従って,加熱処理後に於ても,この凹部8に於けるロー材の残留量は多く,二重管2とシート3とをロー付け固定するに充分なロー付部6を確保することができる。」(第11頁第10行目〜第12頁第10行目)

引用例には,本願発明の「オイル連通穴(15a)」は文言上明示されていないが,第2図の記載をみれば,インナーパイプ22とシート3との間の空間がオイル連通穴であることは明らかである。また,引用例に記載されたインナパイプが,アウタパイプに同心円状に挿入されていることも,図面の記載からみて明らかである。

そうしてみると,上記各記載及び図面等の記載からみて,引用例には,次のような発明が記載されている(以下,「引用例に記載された発明」という。)。
「ラジエータ等の熱交換器のタンクの内部に間隔を置いて対向して配置されると共に,オイル連通穴が形成され,このオイル連通穴を前記ラジエータ等の熱交換器のタンクの外部に連通する孔32が形成されるアルミニウム材からなる1対のシート3と,
前記1対のシート3の間に配置され,両端を前記1対のシート3の対向面側に一体形成される環状の段部35にろう付けされ,少なくとも一面にろう材がクラッドされる複合アルミニウム材からなるアウタパイプと,前記アウタパイプに同心状に挿入されると共に,両端を前記1対のシート3の前記オイル連通穴に挿入され,外周面を前記オイル連通穴の前記対向面側と反対側の内周面に突出して一体形成される環状の孔34にろう付けされ,少なくとも前記外周面にろう材がクラッドされる複合アルミニウム材からなるインナパイプと,
前記アウタパイプの内周面と前記インナパイプの外周面との間に形成される油路23に配置されるアルミニウム材からなるフィンとを備え,
前記1対のシート3,前記アウタパイプ,前記インナパイプ及びフィンは,前記1対のシート3間に前記アウタパイプ,前記インナパイプ及び前記フィンを組み付けた仮組体を形成すると共に,前記仮組体の炉内での加熱時に,溶融する前記アウタパイプ及び前記インナーパイプの外周面にクラッドされたろう材によって各接合部を固定される二重管型オイルクーラであって,
前記一対のシート3は,孔34にテーパ状の切欠部34Aをさらに形成し,
前記仮組体の炉内での加熱時に,前記インナパイプと前記1対のシート3のテーパ状の切り欠き部34Aとの間に,溶融する前記インナーパイプの外周面にクラッドされたろう材が,表面張力と毛細管作用とによりろう溜まりを形成し,冷却後に前記ろう溜まりのろう材が前記インナパイプと前記1対のシート3とを固定してなることを特徴とする二重管型オイルクーラ。」

(3)対比
そこで,本願発明と引用例1に記載された発明とを比較すると,引用例1に記載された発明の「ラジエータ等の熱交換器のタンク5」は,本願発明の「ラジエータタンク(11)」に相当し,同様に,「孔32」は「オイル流路(25c)」に,「シート3」は「シートコーン(15)」に,「段部35」は「アウタパイプ連結部(15b)」に,「孔34」は「インナパイプ連結部(15c)」に,「油路23」は「オイル通路(23)」に,「仮組体」は「組立体」に,「テーパ状の切欠部34A」は「傾斜面(15d)」に,それぞれ相当する。
以上の認定事項からみて,両者は次の一致点,相違点を有するものと認められる。

〔一致点〕
「ラジエータタンクの内部に間隔を置いて対向して配置されると共に,オイル連通穴が形成され,このオイル連通穴を前記ラジエータタンクの外部に連通するオイル流路が形成されるアルミニウム材からなる1対のシートコーンと,
前記1対のシートコーンの間に配置され,両端を前記1対のシートコーンの対向面側に一体形成される環状のアウタパイプ連結部にろう付けされ,少なくとも一面にろう材がクラッドされる複合アルミニウム材からなるアウタパイプと,
前記アウタパイプに同心状に挿入されると共に,両端を前記1対のシートコーンの前記オイル連通穴に挿入され,外周面を前記オイル連通穴の前記対向面側と反対側の内周面に突出して一体形成される環状のインナパイプ連結部にろう付けされ,少なくとも前記外周面にろう材がクラッドされる複合アルミニウム材からなるインナパイプと,
前記アウタパイプの内周面と前記インナパイプの外周面との間に形成されるオイル通路に配置されるアルミニウム材からなるフィンとを備え,
前記1対のシートコーン,前記アウタパイプ,前記インナパイプ及びフィンは,前記1対のシートコーン間に前記アウタパイプ,前記インナパイプ及び前記フィンを組み付けた組立体を形成すると共に,前記組立体の炉内での加熱時に,溶融する前記アウタパイプ及び前記インナーパイプの外周面にクラッドされたろう材によって各接合部を固定される二重管型オイルクーラであって,
前記一対のシートコーンは,インナパイプ連結部に傾斜面をさらに形成し,
前記組立体の炉内での加熱時に,前記インナパイプと前記1対のシートコーンの傾斜面との間に,溶融する前記インナーパイプの外周面にクラッドされたろう材が,表面張力と毛細管作用とによりろう溜まりを形成し,冷却後に前記ろう溜まりのろう材が前記インナパイプと前記1対のシートコーンとを固定してなることを特徴とする二重管型オイルクーラ。」

〔相違点1〕
本願発明では,オイル連通穴が,ラジエータタンクの長手方向に向けて形成されているのに対して,引用例に記載された発明では,オイル連通穴がラジエータタンクに対して,どのような方向で形成されているか明確でない点。

[相違点2]
本願発明では,1対のシートコーンは,インナパイプ連結部の対向面側に傾斜面を形成しているのに対して,引用例に記載された発明では,1対のシートコーンは、インナパイプ連結部の外側端部に傾斜面を形成している点。

(4)判断
上記相違点について検討する。

〔相違点1〕について
ラジエータタンクの形状に合わせて2重管型オイルクーラを設けること,換言すれば,ラジエータタンクの長手方向と2重管型オイルクーラの長手方向とを合わせて形成することは,当該技術分野における技術常識であり,引用例においても,オイル連通穴は,ラジエータタンクの長手方向に向けて形成されているものと認められる。

〔相違点2〕について
上記記載(c)を参酌すれば,引用例記載の2重管型オイルクーラも,テーパ状の切欠部34A(傾斜面)により,充分なろう付け部が確保されており,確実にろう付けするためのろう溜まりを形成するについて,引用例記載の傾斜面も本願発明の傾斜面も同様の作用効果を奏すると認められるから,上記相違点2は,結局,シートコーンの対向面側に傾斜面を形成するか,シートコーンの外側端部に傾斜面を形成するかに尽きる。
ところで,本願発明は,シートコーンの対向面側に傾斜面を設けたことにより,該傾斜面がインナパイプをシートコーンに挿入するときの案内となるという効果を奏するものであるが,一般的に,パイプ状の部材を部材に挿入するに当たって,挿入孔に傾斜面を設けて,該傾斜面を案内とすることは周知の技術手段と認められる(必要であれば,実願平03-3731号(実開平04-97445号)のマイクロフィルム,特開平04-300071号公報,特開平07-171675号公報,参照。)から,シートコーンにインナパイプを挿入する側,即ち,シートコーンの対向面側にインナパイプを容易に挿入するための案内となる傾斜面を設けるようにすることは,当業者が容易に想到し得ることである。
したがって,上記相違点2に係る構成のようにすることに格別の困難性は認められない。

〔作用効果〕について
本願発明の奏する作用効果も,引用例に記載された発明の奏する作用効果から予測できる以上の格別なものとも認められない。

(5)むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例に記載された発明及び周知の技術手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-26 
結審通知日 2006-05-09 
審決日 2006-05-23 
出願番号 特願平8-173527
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F28F)
P 1 8・ 56- Z (F28F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上原 徹丸山 英行  
特許庁審判長 岡 千代子
特許庁審判官 佐野 遵
東 勝之
発明の名称 二重管型オイルクーラ  
代理人 古谷 史旺  

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