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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1140841
審判番号 不服2004-10614  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-02-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-20 
確定日 2006-08-03 
事件の表示 平成11年特許願第202488号「光導波路素子」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 2月 9日出願公開、特開2001- 33740〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年7月16日の出願であって、平成16年4月12日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年5月20日付で拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに平成16年6月21日付で特許法第17条の2第1項第3号の規定による手続補正がなされたものである。

2.平成16年6月21日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年6月21日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を下記のように補正することを含むものである。
「【請求項1】電気光学効果を有する基板と、この基板に形成された光導波路と、この光導波路中を導波する光波を制御するための信号電極及び接地電極とを具え、前記基板は強誘電体結晶のXカット板からなり、前記光導波路は前記信号電極と前記接地電極との間に形成されてなる光導波路素子であって、
前記基板の、前記信号電極及び前記接地電極が位置する部分のみにおいて溝部を形成し、前記信号電極から出て前記接地電極に入る電気力線が前記光導波路に集中するようにしたことを特徴とする、光導波路素子。
【請求項2】前記信号電極が位置する部分に形成した溝部は、前記信号電極における幅方向の、実質的に中央部分に形成したことを特徴とする、請求項1に記載の光導波路素子。
【請求項3】前記溝部の少なくとも一つは、前記強誘電体結晶よりも誘電率の低い低誘電体材料が充填されてなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光導波路素子。
【請求項4】請求項1〜3のいずれか一に記載の光導波路素子において、前記信号電極と前記接地電極との間隔、及び前記信号電極に対する前記溝部の幅を制御することにより、前記光導波路素子のインピーダンス制御を行うことを特徴とする、光導波路素子のインピーダンス制御方法。」

上記補正は、補正前の請求項1をさらに限定し、それを引用する請求項2〜4をも限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1を引用する請求項3に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(2)刊行物記載の発明
原審の拒絶理由に引用した刊行物1:特開平3-229214号公報には、光変調素子に関して、下記の事項が記載されている。
「本発明は、少なくとも1本の光導波路を有する基板と、該基板の一方の主面上に配置されたバッファ層と、該バッファ層の上に配置された中心電極およびアース電極からなるマイクロ波電極とを備えて構成された光変調素子において、・・・かつ前記マイクロ波電極の特性インピーダンスが外部回路の特性インピーダンスに近くなるように、前記基板のうち前記マイクロ波電極の近傍の部分の厚さを少くして前記少なくとも1本の光導波路を前記基板に形成された突起部分に配置するようになして、前記マイクロ波電極の近傍における前記バッファ層の厚さを厚くなし、および光とマイクロ波が相互作用する領域において、前記マイクロ波電極が前記基板に接触しないように前記マイクロ波電極と前記基板とを配置したことを特徴とする。」(3頁左下欄13行〜右下欄11行)、
「第1図(A)および(B)は本発明をXカットLiNbO3基板に適用した一実施例を示す。・・・この第1の実施例では、基板1のうち、マイクロ波電極、すなわち中心電極4とアース電極5の近傍の部分、ここではこれら電極4,5の直下の部分をエッチングなどで掘り込んでその直下部分の厚さを薄くなし、ギャップ10および11に対応する基板部分を突起状になし、その突起部分2Aに光導波路2を配置する。すなわち、光導波路2は中心電極4とアース電極5とのほぼ中間付近に配置される。このようにして突起部分2Aの形成された基板1の表面上に、表面が平坦になるようにバッファ層3を配置する。これにより、バッファ層3のうち、電極4,5の直下における部分の厚さは厚くなる。・・・本実施例の光変調素子を製作するには、基板1上に通常の手法でTi熱拡散により光導波路2を製作した後、基板1の表面のうち、光導波路2のごく近傍を残して、残りの部分の一部もしくは全部をエッチングして除去すればよい。・・・本発明では光導波路2の部分のバッファ層3の厚みが薄いので、駆動電圧を低く抑えることができる。」(4頁右上欄6行〜同頁右下欄5行)、
「以上に述べたように、本発明では、基板のうち、マイクロ波電極の少なくとも真近の部分を、掘り込むなどしてその基板厚を小さくして光導波路を含む基板部分を突起状となしたことによって、電極の直下に誘電率が低く、かつ厚さの厚いバッファ層が配置されることとなる。従って、中心電極とアース電極とを結ぶ電気力線は誘電率の低い厚いバッファ層(例えばSiO2の誘電率は約4)を感じるので、均一にバッファ層が厚い場合と同様にマイクロ波実効屈折率を低減できる。一方、空気とバッファ層との界面から光導波路までの深さは、バッファ層が均一に厚い場合と比較して浅くできる。従って、本発明によれば、マイクロ波と光との速度整合を確保しつつ、駆動電圧を低減できる。」(5頁左下欄下から5行〜同頁右下欄10行)

上記によれば、刊行物1には、
「XカットLiNbO3基板のうち、中心電極4とアース電極5の直下の部分をエッチングなどで掘り込んでその直下部分の厚さを薄くなし、光導波路2を含む基板部分を突起部分2Aとし、前記光導波路2を前記中心電極4とアース電極5とのほぼ中間付近になるように配置し、前記突起部分2Aの形成された基板の表面上に、表面が平坦になるように誘電率の低いSiO2からなるバッファ層3を配置することにより、バッファ層3のうち、電極4,5の直下における部分の厚さを厚くしてなる光変調素子。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「XカットLiNbO3基板」、「光変調素子」は、それぞれ、本願補正発明の「強誘電体結晶のXカット板からなる、電気光学効果を有する基板」、「光導波路素子」に相当する。
(イ)引用発明の「中心電極4とアース電極5」、「光導波路2を中心電極4とアース電極5とのほぼ中間付近に配置し」は、それぞれ、本願補正発明の「信号電極及び接地電極」、「光導波路は前記信号電極と前記接地電極との間に形成されてなる」に相当する。
そして、引用発明の「光変調素子」が、この「中心電極とアース電極とを結ぶ電気力線」によって、「光導波路中を導波する光波を制御する」ものであることは自明の事項である。
(ウ)本願明細書の【0024】、【0025】及び図3には、本願補正発明の実施例1,2において、基板表面にSiO2からなるバッファ層を形成すること、また、実施例2として、基板表面にバッファ層が形成され、電極の下の基板に設けた溝部にSiO2からなる低誘電体材料を充填したことが記載されている。よって、本願補正発明の「溝部の少なくとも一つは、前記強誘電体結晶よりも誘電率の低い低誘電体材料が充填されてなる」との事項は、基板上にSiO2からなるバッファ層を形成し、溝部にSiO2からなる低誘電体材料を充填したもの、すなわち、電極の下方に、溝部のない部分に比べて厚さの厚い、SiO2からなる低誘電体材料層(バッファ層)が存在するものを含むことが理解される。
してみると、その場合には、本願補正発明の「前記信号電極及び前記接地電極が位置する部分において溝部を形成」との事項は、電極が位置する部分及びそれ以外の部分の相対的な厚さの差を単に表現したにすぎないと認めることができるから、引用発明の「電極4,5の直下の部分をエッチングなどで掘り込んでその直下部分の厚さを薄くなし」との事項は、本願補正発明の「前記信号電極及び前記接地電極が位置する部分において溝部を形成」との技術的事項に相当する。
したがって、引用発明の「誘電率の低いSiO2からなるバッファ層3を配置することにより、バッファ層3のうち、電極4,5の直下における部分の厚さを厚くしてなる」との事項は、本願補正発明の「溝部の少なくとも一つは、前記強誘電体結晶よりも誘電率の低い低誘電体材料が充填されてなる」との技術的事項に相当する。

よって、両者は、
「電気光学効果を有する基板と、この基板に形成された光導波路と、この光導波路中を導波する光波を制御するための信号電極及び接地電極とを具え、前記基板は強誘電体結晶のXカット板からなり、前記光導波路は前記信号電極と前記接地電極との間に形成されてなる光導波路素子であって、
前記基板の、前記信号電極及び前記接地電極が位置する部分において溝部を形成し、前記溝部の少なくとも一つは、前記強誘電体結晶よりも誘電率の低い低誘電体材料が充填されてなる光導波路素子」である点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明は、溝部を、前記信号電極及び前記接地電極が位置する部分「のみ」に形成しているのに対して、引用発明は、電極直下に形成しているものの、電極が位置する部分のみに形成したものとは認めることができない点。
相違点2:
本願補正発明は、「前記信号電極から出て前記接地電極に入る電気力線が前記光導波路に集中するようにした」と規定されているのに対して、引用発明は、このような規定のものではない点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。
(相違点1について)
刊行物1には、電極直下の堀り込み部分(溝部)に関しては、前掲の通り、「光導波路2のごく近傍を残して、残りの部分の一部もしくは全部をエッチングして除去すればよい。」と記載され、前記残りの部分の一部をエッチング除去すること、すなわち、ほぼ電極が位置する部分のみを除去することもあることが示唆されている。よって、相違点1の構成とすることは、上記記載を勘案して当業者が適宜なし得る程度のことであって(必要であれば、実願平3-44453号(実開平4-137321号)のマイクロフィルムの【図4】を参照されたい。)、格別のものではない。

(相違点2について)
本願補正発明において、電気力線が光導波路を集中して通過するのは、信号電極と接地電極が位置する部分のみに溝部を形成し、その溝部が基板の強誘電体結晶よりも誘電率の低い低誘電体材料で充填されているために、溝部の部分は、電場が通過しなくなるためと説明されている。(本願明細書の【0013】を参照)。すなわち、本願補正発明の相違点2は、本願補正発明の作用を記載したということができる。
一方、上記したように、本願補正発明と引用発明は、信号電極、接地電極、光導波路及び誘電率の低い部分の構成が実質的にほぼ同じものであるから、引用発明も、本願補正発明と同様に、電気力線が光導波路を集中して通過することは明らかである。
よって、相違点2は、引用発明の効果を単に記載したにすぎないものである。

よって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成15年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年6月21日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成16年3月11日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項にあると認められるところ、請求項1を引用する請求項3に係る発明は次のものである。
「【請求項1】電気光学効果を有する基板と、この基板に形成された光導波路と、この光導波路中を導波する光波を制御するための信号電極及び接地電極とを具え、前記基板は強誘電体結晶のXカット板からなり、前記光導波路は前記信号電極と前記接地電極との間に形成されてなる光導波路素子であって、
前記基板の、前記信号電極及び前記接地電極が位置する部分のみにおいて溝部を形成したことを特徴とする、光導波路素子。
【請求項3】前記溝部の少なくとも一つは、前記強誘電体結晶よりも誘電率の低い低誘電体材料が充填されてなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光導波路素子。」(以下、「本願発明」という。)

(2)引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1:特開平3-229214号公報には、上記2.(2)刊行物記載の発明に記載した事項が記載されている。

(3)対比・判断
上記本願補正発明と比べると、本願発明は、「前記信号電極から出て前記接地電極に入る電気力線が前記光導波路に集中するようにした」点を欠くものである。
よって、本願発明は、上記2.(3)対比、(4)判断における、相違点2に関する記載を除き、本願補正発明に対するとほぼ同様の理由により、当業者が容易に発明し得たものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-02 
結審通知日 2006-06-06 
審決日 2006-06-19 
出願番号 特願平11-202488
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植田 高盛早川 貴之佐藤 宙子  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 稲積 義登
吉田 禎治
発明の名称 光導波路素子  
代理人 杉村 興作  

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