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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09B
管理番号 1142385
審判番号 不服2003-15292  
総通号数 82 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-01-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-07 
確定日 2006-08-24 
事件の表示 平成 9年特許願第169072号「地図表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月22日出願公開、特開平11- 15371〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年6月25日の出願であって(以下、平成9年6月25日を「本願出願日」という。)、その出願からの主だった経緯を箇条書きにすると以下のとおりである。
・平成 9年 6月25日 本願出願
・平成13年 9月28日付け 原審にて拒絶理由の通知
・平成13年12月10日付け 意見書・手続補正書の提出
・平成14年 7月16日付け 原審にて最後の拒絶理由の通知
・平成14年 9月24日付け 意見書・手続補正書の提出
・平成15年 6月26日付け 原審にて補正の却下の決定及び拒絶査定の通知
・平成15年 8月 7日付け 本件審判請求
・平成15年 9月 8日付け 審判請求書に係る手続補正書及び明細書に係る手続補正(平成14年改正前特許法第17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下、「本件補正」という。)書の提出

第2 補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成15年9月8日付けの明細書に係る手続補正を却下する。

【理由】
1.補正事項及び補正目的
本件補正後の【請求項1】乃至【請求項3】は、それぞれ本件補正前の【請求項1】乃至【請求項3】に対応するものであり、これら請求項の補正は次の補正事項からなっている。
補正事項1:本件補正前【請求項1】に「ユーザによるスクロール操作の入力方向を検出する入力方向検出手段と、」との発明特定事項を追加する。
補正事項2:本件補正前【請求項1】の「自車位置の更新に伴う地図スクロールか入力操作に応じた地図スクロールかを識別可能な手段」を「自車位置の更新に伴う地図スクロールかユーザの操作に伴う地図スクロールかを前記入力方向検出手段に基づいて識別可能なスクロール要求受信手段」と補正する。
補正事項3:本件補正前【請求項1】の「自車位置の更新に伴う地図スクロールと入力操作に応じた地図スクロールとで異なる範囲の地図を前記メモリに展開するように制御するスクロール準備手段」を「前記スクロール要求受信手段がユーザの操作に伴う地図スクロールと識別した場合には、自車位置の更新に伴う地図スクロールでメモリに展開するよりも早いタイミングで、ユーザよる入力方向のより先にある範囲の地図を記憶媒体から読み出し、メモリに展開するように制御するスクロール準備手段」と補正する。
補正事項4:本件補正前【請求項2】の「メモリに展開する地図の大きさを変更して異なる範囲の地図をメモリに展開するように制御する」を「スクロール要求受信手段がユーザの操作に伴う地図スクロールと識別した場合には、メモリ更新時にメモリで入れ替えて更新される地図の大きさを自車位置の更新に伴う地図スクロールで入れ替えるよりも大きくし、より先の範囲の地図を記憶媒体から読み出し、メモリに展開するように制御する」と補正する。

2.新規事項追加
本件補正事項3によれば、「スクロール準備手段」に「自車位置の更新に伴う地図スクロールでメモリに展開するよりも早いタイミングで、ユーザよる入力方向のより先にある範囲の地図を記憶媒体から読み出」す機能が備わっていることになる。
しかし、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書」という。)の【0031】及び【図4】に記載された実施例には自車位置の更新とユーザによるスクロール操作とでメモリに新たに展開する地図データの範囲が異なることは開示されているものの、メモリに新たな地図データを展開するタイミングは自車位置の更新もユーザによるスクロール操作も表示画面中心位置が同じ場所間で移動した時であって、展開するタイミングが異なることは一切記載されていないし、自明な事項でもない。また、【0032】及び【図5】並びに【0033】及び【図6】に記載された実施例には、自車位置の更新とユーザによるスクロール操作とでメモリに新たな地図データを展開するタイミングを異ならせているものの、メモリに展開する地図データの範囲は同じであって、より先にある範囲の地図データを展開することは一切記載されていないし、自明な事項でもない。
したがって、本件補正事項を含む本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。

3.補正目的
本件補正事項1〜4は特許請求の範囲の減縮(特許法第17条の2第4項第2号に該当)を目的とするものである。(なお、補正事項3のうち、本件補正前【請求項1】の「異なる範囲」を「ユーザよる入力方向のより先にある範囲(「ユーザによる入力方向のより先にある範囲」の誤記と思われる)」と補正することは、特許請求の範囲の減縮にあたらず、補正目的違反とすべきかもしれない。しかし、「ユーザよる入力方向のより先にある範囲」には、自車位置の更新に伴う地図スクロールによる範囲との対比であると善解すれば、本件補正前【請求項1】の「異なる範囲」の明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認める。厳密に言えば、補正前の記載が明りょうでないとは言えず、明りょうでない旨の拒絶理由が通知されたわけではないから、特許法第17条の2第4項第4号に該当しないかもしれないが、ここでは不問に付す。仮に、このことを理由に本件補正を却下するとしても、後記記載不備及び進歩性の判断に影響を及ぼす程のものではない。)

そこで、本件補正後の【請求項1】に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかどうか検討する。

4.本件補正後の【請求項1】に係る発明の認定
本件補正後の【請求項1】に係る発明は、本件補正により補正された明細書の特許請求の範囲の【請求項1】に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(以下、「補正発明」という。)。
補正発明:「画面に表示する領域よりも大きな領域の地図データを記憶媒体から読み出してメモリに展開して表示を行う地図表示装置において、
ユーザによるスクロール操作の入力方向を検出する入力方向検出手段と、
自車位置の更新に伴う地図スクロールかユーザの操作に伴う地図スクロールかを前記入力方向検出手段に基づいて識別可能なスクロール要求受信手段と、
前記スクロール要求受信手段がユーザの操作に伴う地図スクロールと識別した場合には、自車位置の更新に伴う地図スクロールでメモリに展開するよりも早いタイミングで、ユーザ(に)よる入力方向のより先にある範囲の地図を記憶媒体から読み出し、メモリに展開するように制御するスクロール準備手段とを含むことを特徴とする地図表示装置。」((に)は誤記と思われるため、当審で補った。)

5.独立特許要件の欠如その1(記載不備)
補正発明の「スクロール要求受信手段」は、「自車位置の更新に伴う地図スクロール」か「入力操作に応じた地図スクロール」を入力方向検出手段に基づいて識別可能とするものである。ところが、該「入力方向検出手段」は「ユーザによるスクロール操作の入力方向」を検出するものであって、「自車位置の更新」に関するものを検出するものではない。また、補正発明は「画面に表示する領域よりも大きな領域の地図データを記憶媒体から読み出してメモリに展開して表示を行う地図表示装置において」という前提条件を有するものの、該前提条件は自車位置に関する規定を欠くものであるから、「スクロール要求受信手段」が「自車位置の更新に伴う地図スクロール」を識別可能とすることの前提条件を把握できるものとはいえない。そうすると、「自車位置の更新に伴う地図スクロールかユーザの操作に伴う地図スクロールかを前記入力方向検出手段に基づいて識別可能なスクロール要求受信手段」という記載は不明確である。
したがって、本件補正後の【請求項1】の記載は特許法第36条第6項2号に規定する要件を満たしていないから、本件補正後の【請求項1】に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち、本件補正は特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反している。

6.独立特許要件の欠如その2(進歩性)
(1)引用刊行物の記載事項
原審の拒絶理由で引用した、本願出願日前である平成3年1月17日に頒布された特開平3-10281号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「車両の現在位置を示すマークをディスプレイ画面の一定位置に固定表示すると共に、マニュアル操作により画像をスクロール表示する自動車ナビゲーションの地図描画方法において、
表示スクリーンより大きな記憶領域を有する2つのVRAMを設け、
地図画像を一方のVRAMに格納し、
マニュアル操作により地図画像の読み取り領域を移動してスクロール表示すると共に、スクロール方向に応じた隣接地図画像を他方のVRAMに格納し、
一方のVRAMにおける地図読み取り領域が予め設定してある領域に到達した時、画像読み出しVRAMを切り換え、
車両の移動に応じて該他方のVRAMにおける地図読み取り領域を移動してスクロール表示し、又スクロール方向に応じた隣接地図画像を一方のVRAMに格納し、
以後地図読み取り領域が各VRAMに予め設定してある領域に到達する毎に画像読み出しVRAMの切り換え、スクロール処理、スクロール方向に応じた隣接地図画像の記憶処理を繰り返すことを特徴とする地図描画方法。」(【特許請求の範囲】参照。)
(イ)「<産業上の利用分野> 本発明は自動車ナビゲーションの地図描画方法に係わり、特にマニュアル操作により地図をスクロール表示する地図描画方法に関する。」(第1頁右下欄第9行目〜同欄第12行目参照。)
(ウ)「<従来技術> 地図データを記憶する記憶手段としてCD-ROMを利用した自動車用ナビゲーション・システムがある。かかる自動車用ナビゲーション・システムは、CD-ROMに大量の地図データを記憶させておくと共に、ディスプレイ装置や車両の現在位置を測定する位置測定装置等を設け、車両の現在位置を示すマーク(ロケーションカーソル)をディスプレイ画面の一定位置に固定表示し、車両移動に応じて地図をスクロール表示する。
地図をスクロールするには予めm×n(例えば3×3)枚の地図画像MP1を第7図に示すように第1のビデオRAM(VRAM)に展開しておき、車両CARの移動に応じて該VRAMから地図データを読み出す範囲(ウインドウ、-点鎖線で示す)WDを移動させて地図をディスプレイ画面上でスクロールさせる。そして、ウインドーが予め設定されている裏描画開始ラインBDL1に到達すれば、自動車CARの存在区域が中央となるように新たな3×3の隣接地図画像MP2を生成して第2VRAMに記憶し、しかる後、第2VRAMの指定ウインドーから地図画像を読み出してCRTにスクロール表示する。以後、ウインドーが各VRAMに予め設定してある裏描画開始ラインBDL2,BDL1に到達する毎に隣接地図画像の記憶処理、画像読み出しVRAMの切り換え、スクロール表示処理を繰り返す。」(第1頁右下欄第13行目〜第2頁左上欄第19行目参照。)
(エ)「しかし、マニュアル操作で地図検索や自動車位置の設定を行う際の地図スクロールにおいては、換算時速が数百Kmにも及ぶ。このため、2つのVRAMを用いても裏描画(他方のVRAMに地図を格納する処理)が間に合わない事態を生じ、マニュアル操作による高速スクロール表示が円滑に行えないという問題がある。
以上から、本発明の目的は、マニュアル操作による高速スクロール表示を円滑に行える地図描画方法を提供することである。」(第2頁右上欄第4行目〜同欄第13行目参照。)
(オ)「第1図は本発明を実現できる自動車用ナビゲーション・システムのブロック図である。
図において、1は地図データ記憶手段となるCD-ROM、2は地図検索、自動車位置設定用のキー2a,2bや地図のスクロール方向を指定するジョイスティック2c..等を備えた操作部、3は絶対方位を検出する方位センサであり、地磁気センサやステアリングセンサを有している。4は移動量センサで、走行距離を検出する車速センサ、前後進を検出する変速機センサなどがある。5は位置計算用CPUで、方位センサ3,移動量センサ4から入力されるそれぞれの値により、自分の車両の現在位置(経度、緯度)を算出する。
6は処理装置で、システムコントローラ(CPU)7,地図データバッファメモリ8等を有している。システムコントローラ7は
(1)後述する2つのVRAMのうち、いずれのVRAMから画像を読み取って地図表示するかディスプレイ装置に指令すると共に、
(2)自動車位置に応じた画像読み出しアドレス(ウインドーアドレス)を発生し、
(3)更には自動車の実際の走行に応じた地図描画処理及びマニュアル操作による地図スクロール処理を行う。
10はディスプレイ装置であり、CRTコントローラ11、第1、第2のビデオRAM(VRAM)12,13、読み出し制御部14、ブラウン管(CRT)15等を有し、CRTに所望の地図及びカーソルを表示するようになっている。
第1、第2のVRAM12,13の記憶領域はスクリーンの1画面より相当大きくなっており、又その記憶領域より一回り小さい位置に裏描画開始ラインBDL1,BDL2(第7図参照)が設定されている。」(第2頁右下欄第1行目〜第3頁左上欄第14行目参照。)
(カ)「第5図は本発明の処理の流れ図、第6図は本発明の処理の説明図である。
地図検索又は自動車位置を設定するためのキー操作が行われるとシステムコントローラ7は、所定の3×3枚の地図データをCD-ROM1から読み取ってディスプレイ装置10に入力する。これによりディスプレイ装置10は9画面分の地図画像MP(第6図(a)参照)を生成して第1のVRAM12に格納し、しかるウインドーWD設定し、該ウインドー位置から画像を読み出してCRT15に表示する(ステップ101)。
かかる状態において、矢印キー又はジョイスティック2cを操作して地図検索又は自動車位置設定の為に、地図スクロール方向を入力すると(ステップ102)、システムコントローラ7は所定の速度で第1VRAM12におけるウインドーWD位置を移動して地図スクロールを行う(ステップ103)。尚、スクロール方向は左方向とする。
又、システムコントローラ7は1画素分(1ドツト幅)地図がスクロール移動すると、スクロール方向に応じた隣接地図画像(3×3区域の地図画像)MP’の地図データをCD-ROM1から読み取ってディスプレイ装置10に入力する。これによりディスプレイ装置10は9画面分の地図画像MP’(第6図(b)参照)を生成して第2のVRAM13に格納する(ステップ104)。
尚、ウインドーWDが裏描画開始ラインBDL1に到達する前に、次の隣接地図画像MP’を予測できるのは、マニュアル操作時においては単一方向スクロールが連続することが多いからであり、又たとえ予測が間違っても修正操作が行われ何等問題が生じないからである。
以後、第1VRAM12に記憶された地図画像MPを用いてスクロール処理を行うと共に、ウインドーWDが予め設定してある裏描画開始ラインBDL1に到達したかチエツクし(ステップ105)、到達してなければスクロール処理を継続し(ステップ106)、ステップ105以降の処理を繰り返す。
一方、ウインドーWDが裏描画開始ラインBDL1に到達していれば(第6図(c)参照)、画像読み出し用VRAMを第2のVRAM13に切り換える(ステップ107)。
そして、以後第2のVRAMl3に記憶されている隣接地図画像MP’に基ずいてステップ103以降の地図スクロール処理を行う。」(第3頁左下欄第11行目〜第4頁左上欄第16行目参照。)

(2)引用例1に記載の発明の認定
引用例1に記載の発明は「地図描画方法」に係る発明であるが、装置発明に係る手段等が開示されていることから(特に、上記記載事項(オ)参照。)、地図描画装置に係る発明が把握しうる。
上記記載事項(ウ)より、VRAMに展開される地図画像の大きさは実施例に記載の3×3枚に限定されないm×n枚からなることが把握できる。
上記記載事項(ウ)には、「ウインドーが予め設定されている裏描画開始ラインBDL1に到達すれば、自動車CARの存在区域が中央となるように新たな3×3の隣接地図画像MP2を生成して第2VRAMに記憶し、しかる後、第2VRAMの指定ウインドーから地図画像を読み出してCRTにスクロール表示する。」とあるが、地図描画装置は車両の移動に伴って遅滞なくCRTに地図画像を表示することが求められるのであるから、ウインドーが予め設定されている裏描画開始ラインBDL1に到達したら速やかに新たな地図画像に切り換えてCRTにスクロール表示することを予定しているはずである。そうすると、「しかる後」との記載は、‘新たな3×3の隣接地図画像MP2を生成して第2VRAMに記憶するとともに、第2VRAMの指定ウインドーから地図画像を読み出し’との趣旨であると解する。そうすると、上記記載事項(ウ)より、車両の移動に応じて地図をスクロール表示する場合は、地図データを読み出す範囲(ウィンドー)が裏描画開始ラインに到達すると隣接地図画像を他方のVRAMに記憶するとともに、該他方のVRAMから地図画像を読み出してCRTに表示することが把握できる。
上記記載事項(カ)より、マニュアル操作に応じて地図をスクロール表示する場合には、1画素分地図がスクロール移動すると、隣接地図画像を他方のVRAMに格納し、地図データを読み出す範囲(ウィンドー)が裏描画開始ラインに到達すると画像読み出し用VRAMを他方のVRAM13に切り換えCRTに表示することが把握できる。
なお、地図画像のVRAMへの記憶処理につき、「格納」,「展開」,「記憶」等の用語を用いているが、以下、「展開」なる表現に統一する。また、地図画像の表示手段につき、「ディスプレイ画面」,「表示スクリーン」,「CRT」等の用語を用いているが、以下、「ディスプレイ画面」なる表現に統一する。また、VRAMに展開した地図画像のうち、ディスプレイ画面に表示する地図画像の範囲につき、「地図データを読み出す範囲(ウインドー)」,「地図読み取り領域」等の用語を用いているが、以下、「地図データを読み出す範囲(ウインドー)」なる表現で統一する。
したがって、上記各記載事項を含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車両の現在位置を示すマークをディスプレイ画面の一定位置に固定表示すると共に、マニュアル操作により画像をスクロール表示する自動車ナビゲーションの地図描画装置において、
ディスプレイ画面より大きな記憶領域を有する2つのVRAMを設け、
m×n枚の地図画像を一方のVRAMに展開し、
車両の移動に応じて該一方のVRAMから地図データを読み出す範囲(ウィンドー)を移動させて地図をディスプレイ画面上でスクロールさせる場合は、地図データを読み出す範囲(ウィンドー)が予め設定されている裏描画開始ラインに到達すると、自動車の存在区域が中央となるように新たな隣接地図画像を生成して他方のVRAMに展開するとともに、画像読み出しVRAMを他方のVRAMに切り換え、他方のVRAMから地図画像を読み出してディスプレイ画面に表示し、
マニュアル操作により地図データを読み出す範囲(ウインドー)を移動してスクロール表示する場合は、1画素分地図がスクロール移動すると、スクロール方向に応じた隣接地図画像を他方のVRAMに展開し、地図データを読み出す範囲(ウィンドー)が裏描画開始ラインに到達すると画像読み出し用VRAMを他方のVRAM13に切り換えディスプレイ画面に表示し、
以後、車両の移動又はマニュアル操作に応じて地図データを読み出す範囲(ウィンドー)が各VRAMに裏描画開始ラインに到達する毎に画像読み出しVRAMの切り換え、スクロール処理、スクロール方向に応じた隣接地図画像の展開処理を繰り返すことを特徴とする地図描画装置。」

(3)補正発明と引用発明との一致点及び相違点の認定
引用発明の「車両の移動」及び「マニュアル操作」は、それぞれ補正発明の「自車位置の更新」及び「ユーザの操作」に相当する。
引用発明の「VRAM」は、地図データの一時記憶・展開領域の限度で補正発明の「メモリ」に相当し、また、補正発明のメモリはその数に限定はないが、当初明細書には1つの場合と2つの場合の実施例が記載されるとともに、2つの場合の利点(【0033】参照。)が記載されている。よって、引用例1も2つのVRAMを用いることにより高速スクロール表示を円滑に行うとしている(上記記載事項(エ)参照。)ことから、引用発明の「2つのVRAM」は、補正発明の「メモリ」に相当する。
引用発明のディスプレイ画面にスクロール表示される地図データを読み出す範囲(ウインドー)がVRAMに展開されるm×n枚の地図画像より小さいことは明らかであるから、引用発明が補正発明の「画面に表示する領域よりも大きな領域の地図データを記憶媒体から読み出してメモリに展開して表示を行う地図表示装置」を有することは明らかである。
引用発明は、「マニュアル操作により地図データを読み出す範囲(ウインドー)を移動してスクロール表示する」ものであること及び「スクロール方向に応じた隣接地図画像を他方のVRAMに展開」するものであることから、補正発明の「ユーザによるスクロール操作の入力方向を検出する入力方向検出手段」を有することは明らかである。
上記記載事項(ウ)及び(カ)より、引用発明は、車両の移動の場合には地図データを読み出す範囲(ウィンドー)が予め設定されている裏描画開始ラインに到達すれば隣接地図画像を他方のVRAMに展開し、マニュアル操作の場合には裏描画開始ラインに到達していなくても1画素分地図がスクロール移動すると、スクロール方向に応じた隣接地図画像を他方のVRAMに展開するもの、すなわち、マニュアル操作の場合には、車両の移動の場合にVRAMに隣接地図画像を展開する時点より前の時点でVRAMに隣接地図画像を展開するものであるから、補正発明の「ユーザによるスクロール操作の入力方向を検出する入力方向検出手段と、自車位置の更新に伴う地図スクロールかユーザの操作に伴う地図スクロールかを前記入力方向検出手段に基づいて識別可能なスクロール要求受信手段と、前記スクロール要求受信手段がユーザの操作に伴う地図スクロールと識別した場合には、自車位置の更新に伴う地図スクロールでメモリに展開するよりも早いタイミングで、ユーザによる入力方向の先にある範囲の地図を記憶媒体から読み出し、メモリに展開するように制御するスクロール準備手段」を有することは明らかである。
したがって、補正発明と引用発明を対比すると、両者は、
「画面に表示する領域よりも大きな領域の地図データを記憶媒体から読み出してメモリに展開して表示を行う地図表示装置において、
ユーザによるスクロール操作の入力方向を検出する入力方向検出手段と、
自車位置の更新に伴う地図スクロールかユーザの操作に伴う地図スクロールかを前記入力方向検出手段に基づいて識別可能なスクロール要求受信手段と、
前記スクロール要求受信手段がユーザの操作に伴う地図スクロールと識別した場合には、自車位置の更新に伴う地図スクロールでメモリに展開するよりも早いタイミングで、ユーザによる入力方向の先にある範囲の地図を記憶媒体から読み出し、メモリに展開するように制御するスクロール準備手段とを含むことを特徴とする地図表示装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
スクロール要求受信手段がユーザの操作に伴う地図スクロールと識別した場合に記憶媒体から読み出す地図の範囲について、補正発明ではユーザによる入力方向のより先にある範囲と特定されるのに対して、引用発明では当該特定を有していない点。

(4)相違点についての判断
補正発明においては、ユーザの操作に伴う地図スクロールを、「ふらつきはなく、ユーザの入力は実際の車両の移動に比較して速い更新速度を要求される。」(本願当初明細書【0007】参照。また、「ユーザの入力」は「ユーザの操作」と同義であることは明らか。)ものと定義付けており、引用刊行物の上記記載事項(エ)及び(カ)によれば、引用発明のマニュアル操作により画像をスクロール表示することは前記ユーザの操作に伴う地図スクロールの定義付けに包含されることは明らかである。
そこで、自車位置の更新に伴う地図スクロールとユーザの操作に伴う地図スクロールとで、記憶媒体から読み出す地図の範囲について検討する。
前記定義付けによると、ユーザの操作に伴う地図スクロールには、
・ふらつきがないもの、すなわち、自車位置の更新とは無関係の単一方向のスクロールが連続するものであること、
・地図表示装置の応答性を加味した上で、地図が自車位置の更新に比べて速くメモリに展開されるものであること、
という条件が必要とされる。
上記条件から、(ア)ユーザの操作は単一方向の操作であることが明らかであるが、何処まで操作を行うかはユーザが画面を見ながら決めるものであるから、少なくともユーザの操作開始及び操作中はメモリに展開する地図の範囲は予測不可能であり、メモリには可能な限りたくさんの単一方向の地図を展開するに越したことはない。(イ)他方、ユーザの操作に伴う地図スクロールは、ジョイスティック等の入力装置の操作に応じて画面に表示する地図を順次スクロールするものであって、スクロール途中の地図を表示しない程の遠方の地図をメモリに展開することまでは要しない。(ウ)また、メモリには容量の制限があるから、展開できる地図の範囲にも限界がある。
すると、ユーザの操作に伴う地図スクロールにおける記憶媒体から読み出す地図の範囲を、メモリに関する上記(ア)〜(ウ)を考慮して最適な範囲とすることは、当業者ならば当然採用すべき事項である。
また、一般に予測可能な範囲内で先を見越して準備することは普通の発想である。そうすると、前記最適な範囲をユーザの入力方向のより先にある範囲とすることに何ら困難性はない。
したがって、補正発明におけるごとく、「ユーザによる入力方向のより先にある範囲を記憶媒体から読み出し、メモリに展開するように制御する」ことは、ユーザの操作に伴う地図スクロールに際して当業者が容易に想起し得たことといわざるを得ない。

(5)補正発明の独立特許要件の判断
上記「(4)相違点についての判断」の検討より、上記相違点は、当業者にとって想到容易な相違点であって、これら相違点に係る補正発明の発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

【補正却下の決定の結び】
以上のとおり、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反しているとともに、本件補正前の請求項1に係る発明を限定的に減縮した補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。
したがって、平成15年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成13年12月10日付けで補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「画面に表示する領域より大きな領域の地図データを記憶媒体から読み出してメモリに展開して表示を行う地図表示装置において、
自車位置の更新に伴う地図スクロールか入力操作に応じた地図スクロールかを識別可能な手段と、
自車位置の更新に伴う地図スクロールと入力操作に応じた地図スクロールとで異なる範囲の地図を前記メモリに展開するように制御するスクロール準備手段とを含むことを特徴とする地図表示装置。」

2.本願発明の進歩性の判断
引用発明の「車両の移動」及び「マニュアル操作」は、それぞれ本願発明の「自車位置の更新」及び「入力操作」に相当する。
本願発明のメモリはその数に限定はないが、当初明細書には1つの場合と2つの場合の実施例が記載されるとともに、1つの場合に比した2つの場合の利点(【0033】参照。)が記載されている。よって、引用例1も2つのVRAMを用いることにより高速スクロール表示を円滑に行うとしている(上記記載事項(エ)参照。)ことから、引用発明の「2つのVRAM」は、本願発明の「メモリ」に相当する。
引用発明のディスプレイ画面にスクロール表示される地図データを読み出す範囲(ウインドー)がVRAMに展開されるm×n枚の地図画像より小さいことは明らかであるから、引用発明が本願発明の「画面に表示する領域よりも大きな領域の地図データを記憶媒体から読み出してメモリに展開して表示を行う地図表示装置」を有することは明らかである。
上記記載事項(ウ)及び(カ)より、引用発明は、車両の移動の場合には地図データを読み出す範囲(ウィンドー)が予め設定されている裏描画開始ラインに到達すれば隣接地図画像を他方のVRAMに展開し、マニュアル操作の場合には1画素分地図がスクロール移動すると、スクロール方向に応じた隣接地図画像を他方のVRAMに展開するものであるから、本願発明の「自車位置の更新に伴う地図スクロールか入力操作に応じた地図スクロールかを識別可能な手段と、自車位置の更新に伴う地図スクロールと入力操作に応じた地図スクロールとで地図を前記メモリに展開するように制御するスクロール準備手段」を有することは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「画面に表示する領域より大きな領域の地図データを記憶媒体から読み出してメモリに展開して表示を行う地図表示装置において、
自車位置の更新に伴う地図スクロールか入力操作に応じた地図スクロールかを識別可能な手段と、
自車位置の更新に伴う地図スクロールと入力操作に応じた地図スクロールとで地図を前記メモリに展開するように制御するスクロール準備手段とを含むことを特徴とする地図表示装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点’>
自車位置の更新に伴う地図スクロールと入力操作に応じた地図スクロールとでメモリに展開する地図の範囲について、本願発明では異なる範囲と特定されるのに対して、引用発明では当該特定を有していない点。
上記相違点’について検討するに、上記「第2 補正の却下の決定 6.独立特許要件の欠如その2(進歩性) (4)相違点についての判断」で述べたと同様の理由により、この相違点’は、当業者にとって想到容易な相違点であって、この相違点’に係る本願発明の発明特定事項を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は、引用発明記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-06-21 
結審通知日 2006-06-27 
審決日 2006-07-10 
出願番号 特願平9-169072
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G09B)
P 1 8・ 121- Z (G09B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 榎本 吉孝松川 直樹  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
藤本 義仁
発明の名称 地図表示装置  
代理人 西教 圭一郎  

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