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審決分類 |
審判 一部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 A62D 審判 一部無効 2項進歩性 A62D |
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管理番号 | 1143665 |
審判番号 | 無効2005-80058 |
総通号数 | 83 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1992-03-05 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2005-02-22 |
確定日 | 2006-07-03 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2580075号発明「ヒドロフルオロカーボンを用いる消火方法及び消火用ブレンド」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第2580075号の請求項1〜12に係る発明は、平成2年8月9日に特許出願され、平成8年11月7日にその特許の設定登録がなされたものである。 これに対し、フタゴ・リミテッド・ライアビリティー・カンパニー及びイージートレーディング株式会社から共同して(以下、両者を併せて「請求人」という。)平成17年2月22日付けで請求項1に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、次のとおりである。 答弁書: 平成17年 6月13日 訂正請求: 平成17年 6月13日 弁駁書: 平成17年 9月 5日 口頭審理陳述要領書(請求人): 平成17年11月 1日 口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成17年11月 1日 口頭審理: 平成17年11月 1日 上申書(請求人): 平成17年12月 1日 上申書(被請求人): 平成18年 1月16日 II.訂正の適否 1.訂正の内容 訂正事項a 特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】を次のとおりに訂正する。 「【請求項1】化合物CF3CHFCF3のみから実質的に構成される組成物を、消火しようとする火を消火するのに充分な空気中の消火濃度となるような組成物の量で、当該火を取り囲む空気中に導入する段階と、火が消えるまで組成物のこの濃度を維持する段階とを含む消火方法。」 訂正事項b 特許明細書の【特許請求の範囲】【請求項5】、【請求項6】及び【請求項7】を削除し、【請求項8】〜【請求項12】を新たに【請求項5】〜【請求項9】とし、【請求項10】において引用する「請求項9」を「請求項6」に、【請求項12】において引用する「請求項11」を「請求項8」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項aは、「式:CxHyFz[式中、xは2または3であり、yは1または2であり、zは5、6または7であり;xが2である場合には、yは1、zは5であり;xが3である場合には、zは6または7である]で表される1種類以上の化合物のみから実質的に構成される」を「化合物CF3CHFCF3のみから実質的に構成される」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、訂正事項bは、【請求項5】、【請求項6】及び【請求項7】を削除し、そのことに伴って請求項の項番を繰り上げ、引用する請求項の整合を図るものであるから、特許請求の範囲の減縮、及び明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。そして、訂正事項a、bは、本件特許明細書の特許請求の範囲請求項7、特許公報第3頁第5欄11〜13行、同頁同欄33〜34行、第4頁左欄33行、同頁右欄18及び42行、第5頁左欄12行、同頁右欄11行、第6頁左欄14、22及び24行、表1〜3、表6〜8に記載されるのであるから、訂正事項a、bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 請求人は、この訂正請求について、平成17年9月5日付けの弁駁書(第4頁3行〜第8頁6行)、口頭審理陳述要領書(第3頁16〜末行)及び上申書(第2頁15行〜第3頁13行)において、概ね「本件特許明細書には、ヘプタフルオロプロパンの2つの異性体に対する言及や、意識的にこの2つの異性体について分別したことを示す記載が1箇所もなく、さらには、CF3CHFCF3とCF3CF2CF2Hの毒性の相違にも言及されていなく、C3F7Hの毒性が1つの異性体のみに由来することは開示されるものではないから、新規な事項を含むものである」旨主張するので、この主張について検討すると、 本件特許明細書には、確かに「CF3CF2CF2H」について記載があるとはいえないが、また同時に、2つの異性体を含む「ヘプタフルオロプロパン」が「CF3CF2CF2H」を意識して、これを含むものとして記載されているともみれない。すなわち、特許公報第3頁第5欄11〜13行、同頁同欄33〜34行にヘプタフルオロプロパンとして、括弧書きで「CF3CHFCF3」と明記し、実施例において「ヘプタフルオロプロパン」と記載して、その実験結果の表には「CF3CHFCF3」を明記している(例1〜9、表1〜8)ことから、本件特許明細書の「ヘプタフルオロプロパン」は「CF3CHFCF3」であると窺える。そして更に、特許公報第3頁第6欄には例えばとして「ヘプタフルオロプロパンは・・・英国特許第902,590号(被請求人の提出した口頭陳述要領書の参考資料1:以下、「英国特許」という。)に述べられているように、製造される」と記載され、その英国特許には「実質的に100%のヘプタフルオロプロパン(これが、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン:CF3CHFCF3であることは第1頁左欄12〜14行に記載)が得られる」(第2頁左欄35〜36行)と記載され、また、ヘキサフルオロプロパンの場合には、本発明で用いられるヒドロフルオロカーボンとして、その異性体を列記しているのに対し、「ヘプタフルオロプロパン」では、「ヘプタフルオロプロパン」に2つの異性体があることが技術水準であったにも拘わらず「CF3CHFCF3」のみが記載されている。以上のことからすれば、本件特許明細書に記載されるヒドロフルオロカーボンとしての「ヘプタフルオロプロパン」は「CF3CHFCF3」であるとみるのが自然である。 また、「CF3CHFCF3」の非毒性については、本件特許明細書(特許公報第3頁第6欄5〜6行)には「本発明によって用いられるヒドロフルオロカーボンは非毒性であ」ることが記載され、例3から、マウスの試験でCF3Br(ハロン1301)、CF3BrCl(ハロン1211)やCF3CHFBrと同程度の非毒性を示すことが窺える。また、ヘプタフルオロプロパン(C3F7H)の毒性については、答弁書第14頁第20行に記載した「Anaesthesia、vol.37、278-284(1982)」(被請求人の提出した上申書の参考資料1:以下「上申資料」という。)には、H・ヘプタフルオロプロパン(C3F7H)として、化学構造式からみてCF3CF2CF2Hが掲載され、第281頁表1の「H-heptafluoropropan」の項からみると、「CF3CF2CF2H」はマウス実験により毒性があることが記載される。この記載から、CF3CF2CF2Hがヘプタフルオロプロパン(C3F7H)を代表してC3F7Hには毒性がある、ということまで必ずしもいえないが、CF3CF2CF2Hには毒性があるとことは明らかであるから、本件特許明細書に記載される非毒性のヘプタフルオロプロパンはCF3CF2CF2Hを意図するものでないともみれる。 以上のことから、請求人が上記のとおり主張するように、ヘプタフルオロプロパンの2つの異性体について言及がないからといって、上記訂正が新規な事項を含むとまではいえない。 3.むすび したがって、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.本件訂正後の特許発明 本件無効審判請求の対象となった請求項1に係る発明については、上記訂正を認容することができるから、本件訂正後の発明は、訂正明細書の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「本件訂正発明」という。)である。 【請求項1】化合物CF3CHFCF3のみから実質的に構成される組成物を、消火しようとする火を消火するのに充分な空気中の消火濃度となるような組成物の量で、当該火を取り囲む空気中に導入する段階と、火が消えるまで組成物のこの濃度を維持する段階とを含む消火方法。 IV.請求人の主張と証拠方法 1.請求人の主張 請求人は、証拠方法として甲第1〜3号証および参考資料1〜10を提出して、口頭審理(口頭陳述要領書を含む)及びその後の上申書において、これまでの主張を整理して次のとおり主張している。なお、請求人が無効審判請求時に提出した甲第4号証は、本件特許公報である。 (1)無効理由1:訂正は、新規な事項を追加することになるから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項により違背する。 (2)無効理由2:訂正が認められない場合、本件特許請求項1に係る発明は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明であるか、これらの発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第1項もしくは第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。 (3)無効理由3:訂正が認められた場合、新規な事項を追加することになるから、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項により違背するので、特許法第123条第1項第8号に該当し無効とすべきである。 (4)無効理由4:訂正が認められた場合、本件訂正発明は、甲第3号証及び甲第1号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。 (5)無効理由5:訂正が認められた場合、本件訂正発明は、甲第3号証及び英国特許に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。 (6)無効理由6:訂正が認められた場合、本件訂正発明は、ヘプタフルオロプロパンの異性体のうちCF3CHFCF3を選択して消火剤に用いる内容の選択発明であるとしても、CF3CHFCF3を選択したことによる特段の作用効果については出願当初の明細書には記載がなく、特許法第36条第4項第1号の規定(上申書では特許法第36条第6項第1号の規定としているが、適用条文に誤りがあり当審において訂正した)により特許を受けることができないものであるから、この発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。 なお、上記英国特許は、上記したとおり、被請求人が口頭審理陳述要領書に添付されたものであり、請求時に提出されていないものであるが、これは元々本件特許明細書に記載されたものであり、これを無効理由に加えることは訂正請求に伴い請求の趣旨を逸脱しない範囲内との理由により、被請求人の承諾の下容認したものである。 2.証拠の記載事項 無効理由で引用されている甲第1号証〜甲第3号証及び英国特許には、それぞれ次の事項が記載されている。 (1)甲第1号証:米国特許第1,926,395号明細書 (ア)「好ましい化合物は、フッ素を含む炭化水素のハロゲン誘導体の群(ハロゲンは、フッ素または別のハロゲンであり得る)に含まれ、形成されうる化合物を説明する添付の図表から選択されうる。」(第1頁52〜58行、訳文) (イ)「図2中の全ての化合物が、図2中の数を表記(key)で表す対応化合物に置き換えることにより指定されうる。例えば、0.9はCH3-CCl2Fであり、2.4はCHF2-CH2Clである。」(第1頁65〜69行、訳文) (ウ)「消火特性を考慮した場合、存在する合計ハロゲン原子よりも、水素原子の方が多く分子中に存在する化合物は使用しないことが好ましいと思われる。」(第1頁78〜81行、訳文) (エ)「3.燃焼可能地点の周りの大気中にフッ素を含む炭化水素のハロゲン誘導体の所定量を供給する工程と、人命を安全に維持する場合に、前記誘導体の供給量を燃焼を阻止するために十分な供給量に対して少なく制限する工程からなることを特徴とする非有毒物質を用いた消火方法。」(第2頁請求項3、訳文) (オ)図2には、「フッ素を含む炭化水素のハロゲン誘導体」であって、「望ましい化合物」として化合物CHF2(図2のKEY TO FIG.2の符号2)と化学物質CF3(図2のKEY TO FIG.2の符号3)の化合物である化学物質C2HF5(符号2.3)が示されている。 (2)甲第2号証:米国特許第1,926,396号明細書 (ア)「図2では各化合物の特性が数字によって表されている。例えば、1.7に関しては、化合物CH2F-CHClF(1-クロロ-1,2-ジフルオロメタン)を表す。そして、水素原子数が全部のハロゲン原子数以下の化合物を使用することが好ましい。」(第1頁27〜33行、訳文)第3頁右上欄1〜8行)」 (イ)「水素原子数が全部ハロゲン原子数以下で、フッ素を含む炭化水素化合物のハロゲン誘導体を炎の周辺雰囲気中に投入することを特徴とする消火方法。」(第1頁69〜74行、訳文) (ウ)図2には、「フッ素を含む炭化水素のハロゲン誘導体」であって、「望ましい化合物」として化合物CHF2(図2のKEY TO FIG.2の符号2)と化学物質CF3(図2のKEY TO FIG.2の符号3)の化合物である化学物質C2HF5(符号2.3)が示されている。 (3)甲第3号証:米国特許第2,494,064号明細書 (ア)「更なる証拠は、CF2H2がC3F8を水素添加分解して得られることである。これは、中央の炭素原子の、2つの炭素-炭素間の結合が開裂して、炭素-水素結合が形成されることの結果である。炭素-炭素間の開裂によって、C2F5Hも生成される。仮にC3F7Hが生成されたとしても、それは無視できる割合である。」(第1欄35〜43行、訳文) (イ)「本方法の特徴は、炭素数が1の炭化水素を含む化学式がCnF2n+1Hの飽和脂肪族フルオロカーボンモノヒドリドの製造が可能となることである。化合物は、非常に安定しており、非燃焼性であるが、化学反応のための攻撃点となる水素原子を有している。分子量は小さいものの、その沸点は対応するフルオロカーボンよりも高い。よって、化学物質C3F7Hは化学物質C3F8より高い沸点を有している。これらの化合物は、沸点その他に応じて、冷却剤、溶媒、絶縁体、液化消火剤、水力装置用液体、熱交換用液体としての用途を有している。これらのフルオロカーボンモノヒドリドの重要な用途は、フルオロカーボンモノクロライド(CnF2n+1Cl)とフルオロカーボンモノボロマイド(CnF2n+1Br)を製造することである。」(第1欄53行〜第2欄16行、訳文) (4)英国特許:英国特許第902,590号公報 (ア)「本発明は、ヘキサフルオロプロペン、(CH3CF=CF2、沸点-29℃)を直接フッ化水素処理することによって、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、(CF3CFHCF3、沸点-17〜-18.5℃、以下ヘプタフルオロプロパンと省略する)を製造する方法に関する。ヘプタフルオロプロパンは、噴射剤と気体の絶縁体として有用である。」(第1頁左欄11〜18行) (イ)「添付の実施例で説明したように、フッ化水素と有機の出発原料とを好ましいモル比で用い、好ましい温度条件である375℃〜425℃で反応を行えば、ヘプタフルオロプロパンを実質的に100%得ることができる。」(第2頁左欄30〜36行) (ウ)「1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンの製造方法であって、ヘキサフルオロプロペンと、実質的に無水のフッ化水素との気相における混合物を、250℃から450℃の温度条件下で、活性炭触媒と接触させることを特徴とする1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンの製造方法。」(第3頁請求項1、訳文) なお、他の証拠の参考資料1〜10は、安全確認試験に関する資料であり、これら参考資料は、幾つかの安全確認試験が本件出願後に実施されたことが記載されていることを示す資料として提出されたものである。 V.被請求人の反論 1.被請求人の主張 被請求人は、請求人の上記主張に対して口頭審理陳述要領書の参考資料1、上申書の参考資料1を提示して、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び上申書を整理すると、次のとおり反論している。 (1)無効理由1、3については、出願当初の明細書及び登録時の明細書中において、ヘプタフルオロプロパンの化学式を、「C3F7H」と記載せずに、「CF3CHFCF3」と記載することによって、本件発明の化合物である1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(CF3CHFCF3)を、異性体CF3CF2CF2Hと明確に区別し、消火剤としての優れた特性については、例1〜5に記載され、毒性が低いことは例3に、環境に対する影響がないことは例7〜11に記載されているから、訂正後の請求項1は、特許請求の範囲の減縮に該当しており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更するものでない。 (2)無効理由2、4、5については、甲第3号証には「C3F7H」は記載されるが、化合物「CF3CHFCF3」は何ら特定されるものではなく、また、第1、2号証には「C3F7H」の開示はない。そして、英国特許には、「CF3CHFCF3」自体の開示はあるるが、これを消火剤として利用可能性の開示も示唆もないから、甲第3号証と甲第1、2号証あるいは英国特許に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (3)無効理由6については、上記(1)で述べたとおり、化合物「CF3CHFCF3」が消火剤として優れた特性を備えていることは本件特許明細書に記載されていることは明らかであり、請求人の主張の記載不備はない。 2.証拠方法について (1)口頭審理陳述要領書の参考資料1:英国特許第902,590号公報(「英国特許」) 上記「V.2.(4)」に記載のとおり。 (2)上申書の参考資料1:Anaesthesia、vol.37、278-284(1982)、Burns,T.H.S.,et.al(「上申資料」) (ア)「表1.結果」の「H・heptafluoroprpane(C3HF7)」の項には、「CF3CF2CF2H」の化合構造式と「1匹のマウスが40℃で興奮と不動の後4分で死」(訳)に至ったことや「1匹のマウスが30〜20℃で20分後けいれんを起し直ぐに回復することなく48時間後狂ったようになって死」(訳)に至ったことが記載されている。 VI.当審の判断 1.無効理由1及び3について 無効理由1及び3は、いずれも訂正請求の適否に関するものであるが、訂正請求については上記「II.訂正の適否」で述べたとおり、訂正は容認されるものであるから、無効の理由があるとは認めることはできない。 2.無効理由2について これは訂正が認められない場合の理由であって、上記したとおり訂正が容認されるのであるから、いずれにせよ無効理由は無効理由4〜6に集約されるので、以下、これら無効理由4〜6について検討する。 3.無効理由4、5について 甲第3号証には、記載事項イに「本方法の特徴は、炭素数が1の炭化水素を含む化学式がCnF2n+1Hの飽和脂肪族フルオロカーボンモノヒドリドの製造が可能となることである。化合物は、・・・その沸点は対応するフルオロカーボンよりも高い。よって、化学物質C3F7Hは化学物質C3F8より高い沸点を有している。これらの化合物は、沸点その他に応じて、冷却剤、溶媒、絶縁体、液化消火剤、水力装置用液体、熱交換用液体としての用途を有している」ことが記載されている。この記載の「これらの化合物」とは、記載事項イに記載される「CnF2n+1H」であり、それは記載事項ア、イに記載される「C2F5H」「C3F7H」を含むものといえる。然るに、甲第3号証の記載事項イを本件訂正発明の記載振りに則して整理すると、「C3F7Hを含むCnF2n+1Hの化合物を、沸点その他に応じて、液化消火剤として使用する方法」の発明(以下、「甲第3発明」という。)が記載されているといえる。 そこで、本件訂正発明と甲第3発明とを比較すると、甲第3発明には、ヘプタフルオロプロパン(C3F7H)が液化消火剤として使用されることが検討の対象となっていることが窺えるが、両者は、以下の点で相違している。 相違点a:本件訂正発明は「化合物CF3CHFCF3のみから実質的に構成される組成物を火を取り囲む空気中に導入する」のに対し、甲第3発明では「C3F7Hを含むCnF2n+1Hの化合物を、沸点その他に応じて液化消火剤として使用する」点 相違点b:本件訂正発明は「消化しようとする火を消火するのに充分な空気中の消火濃度となるような組成物の量で、当該火を取り囲む空気中に導入する段階と、火が消えるまで組成物のこの濃度を維持する段階とを含む消火方法」であるのに対し、甲第3発明には、かかる構成の消火方法については限定されていない点 まず、相違点aを検討すると、 この相違点aは、より詳細にみると、(a1)化合物が、本件訂正発明ではC3F7Hの異性体の一つであるCF3CHFCF3であるのに対し、甲第3号証ではC3F7Hが挙げられているが、同じとはいえない点、(a2)本件訂正発明では、化合物CF3CHFCF3のみから実質的に構成される組成物を消化剤として用いるのに対し、甲第3発明ではC3F7Hを含むCnF2n+1Hの化合物を、沸点その他に応じて液化消火剤として使用する点の相違を含むといえる。 (a1)について C3F7Hで表されるヘプタフルオロプロパンには、CF3CF2CF2HとCF3CHFCF3の2つの異性体が存在することは技術水準(この点で両者の争いはない)といえる。しかしながら、これらの異性体がどのような物性の違いがあるか、特に消火特性、毒性、環境安全性に違いがあるのか、あるいはその共通性があるのかについて周知であったというまでの根拠は見当たらない。したがって、ヘプタフルオロプロパンのC3F7Hとその異性体の一つのCF3CF2CF2Hが直ちに同じであるとはいえない。 (a2)について 甲第3発明の「C3F7Hを含むCnF2n+1Hの化合物を、沸点その他に応じて液化消火剤として使用する」ことについては、化合物C3F7Hが液化消火剤として用いられることが、沸点その他に応じて用いられるか検討の対象とされているとはいえるが、CnF2n+1Hの化合物のどの化合物が、特に化合物C3F7Hが液化消火剤として用いられるとまでは直ちにいえない。したがって、化合物C3F7Hが消火剤として用いられることへの示唆はなくはないが、少なくとも化合物C3F7Hが本件訂正発明の非毒性や環境に対して安全であるとまではいえないことは明らかである。 ここで、甲第1号証をみると、そこには記載事項ア〜オによると「フッ素を含む炭化水素のハロゲン誘導体として化学物質C2HF5が例示され、燃焼可能地点の周りの大気中にフッ素を含む炭化水素のハロゲン誘導体の所定量を供給する工程と、人命を安全に維持する場合に、前記誘導体の供給量を燃焼を阻止するために十分な供給量に対して少なく制限する工程からなることを特徴とする非有毒物質を用いた消火方法」が記載されているといえ、上記相違点bに関する記載は窺えるものの、消火に用いられた化学物質C2HF5は、ヘプタフルオロプロパンでないことは明らかである。してみると、甲第1号証には、化合物C3F7Hが消火剤として用いられることについて何ら記載がない。 また、「英国特許」をみると、そこには記載事項ア〜ウによれば「ヘプタフルオロプロパンCF3CFHCF3は、沸点-17〜-18.5℃で噴射剤と気体の絶縁体として有用であり、フッ化水素と有機の出発原料とを好ましいモル比で用い、好ましい温度条件である375℃〜425℃で反応を行えば、ヘプタフルオロプロパンを実質的に100%得ることができるる」ことが記載されているといえるが、消火に用いられることは何ら記載されているとはいえない。例え、英国特許に、100%の高効率でCF3CFHCF3が製造できることが開示されていたとしても、消火剤としての特性を踏まえないでこれを消火剤に用いようとまで至らないというべきである。 以上のことからみて、甲第3号証のC3F7Hを、その一つの異性体であるCF3CHFCF3に選定し、化合物CF3CHFCF3のみから実質的に構成される組成物を消火剤として用いることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。 この相違点aについて、請求人は弁駁書(第8頁24行〜第9頁7行)、口頭審理陳述要領書(第7頁13〜29行)及び上申書(第4頁下から3行〜第7頁末行)において概ね以下のとおり主張している。 (i)甲第3号証には化合物C3F7Hの用途として、液化消火剤が例示されており、沸点の高低は使用を検討する上で重要なファクターであり、「その他」として「絶縁性、比熱、不燃性、蒸発潜熱などの要素」を総合的に勘案するものであり、「CF3CHFCF3」の沸点は-16.36℃であり非常にシステム設計がし易いのであり、化合物C3F7Hを「CF3CHFCF3」に選択して消火方法に用いることは容易である。 (ii)被請求人はヘプタフルオロプロパン(C3F7H)の異性体の1つであるCF3CHFCF3について毒性が明らかにされたのは、参考資料1〜9の安全確認試験の時期からみて本件特許出願後であり、出願時に既に異性体の毒性の違いを把握していたとはいえず、他の目的、例えば英国特許の製造方法を用いて「経済的」に「CF3CHFCF3」を用いたとも考えられる。 (iii)液化消火剤として毒性がないというからには対人の場面での毒性がないこと(安全性)を検証しなければならず、ラットの実験では検証として不十分である。 これらの主張(i)〜(iii)についてみてみると、 甲第3号証には、上記したとおり、ヘプタフルオロプロパン(C3F7H)が液化消火剤として使用されることが検討の対象となっていることが窺えるに留まるものであり、請求人の主張する「液化消火剤の例示」については、化合物C3F7HのみでなくCnF2n+1Hの化合物についてのものである上、液化消火剤も冷却剤、溶媒、絶縁体、液化消火剤、水力装置用液体、熱交換用液体の中の一つであり、上記した絶縁性、比熱など種々のファクターを検討して用途としての適性を見極めて選択されるのであるから、化合物C3F7Hの用途として、液化消火剤が例示されるとまで断言することはできない。さらに、本件訂正発明が本件特許明細書に記載されるとおり、ハロン剤を用いる方法と同様に迅速かつ効果的に消火し、臭素または塩素を含む作用剤が地球の保護オゾン層を破壊し、温室効果にも寄与するという欠点を避け、環境的に安全な消火方法を提供することを意図したものであるが、環境的な安全性については甲第3号証には何ら示唆もない。 また、英国特許に「CF3CHFCF3」に開示されているとしても、ここで挙げられる用途は「噴射剤」や「気体の絶縁体」であり、この「CF3CHFCF3」についての消火剤へ適用させるだけの物性が明らかでない以上、C3F7Hの中から「CF3CHFCF3」を選択するだけの根拠がないというべきである。また、「経済的」に「CF3CHFCF3」を用いた点についても、上述したとおり、消火剤としての特性を踏まえないでこれを消火剤に用いようとまで至らないというべきである。 安全確認試験についての時期は、請求人の提出した資料を見る限り、その資料の安全確認試験は出願後になされたものとみれる。しかしながら、本件特許明細書の例3にはマウスによって毒性試験がなされ、他のCF3Br、CF2BrCl、CF3CHFBrと同様のレベルの非毒性が実証されているのであるから、異性体の毒性の違いはともかく、「CF3CHFCF3」については把握していたとはいえ、また、上記上申資料に基づけば、その異性体の毒性の認識がなかったとまではいえない。そして、安全性試験は請求人の提出した資料をみてもマウス等を用いた動物実験が普通とみれ、対人実験がこうした消火剤の安全試験に通常行われていたという根拠もないのであるから、これらの主張も認めることはできない。 そして、本件訂正発明は、上記したとおり、ハロン剤と同様に迅速かつ効果的に消火し、環境的に安全な消火方法を提供することを意図したものであるが、環境的な安全性に対する認識は甲第1〜3号証或いは英国特許には何処にも見出すことはできず、本件訂正発明は、相違点aに係る構成を採ることによって相違点bの構成と相俟って、上記した本件特許明細書に記載する、ハロン剤と同様に有効で環境的に安全な消火方法を提供する等の作用効果を奏するものといえる。 以上のとおりであるから、相違点bを検討するまでもなく、本件訂正発明は甲第3発明と甲第1号証或いは英国特許に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとすることができない。 4.無効理由6について 無効理由6は、本件訂正発明は、ヘプタフルオロプロパンの異性体のうちCF3CHFCF3を選択して消火剤に用いる内容の選択発明であるとしても、CF3CHFCF3を選択したことによる特段の作用効果については出願当初の明細書には記載がないことにあるが、化合物「CF3CHFCF3」が消火剤として優れた特性を備えていることは本件特許明細書に記載されていることは明らかであるから、C3F7Hの異性体の一つであることを殊更に記載されていなくても、請求人の主張の記載不備があるとまではいえない。 請求人は、上申書において「異性体の比較における毒性の効果等について何ら開示がない」と主張しているが、本件訂正発明は上記したとおり、ハロン剤を用いる方法と同様に迅速かつ効果的に消火し、臭素または塩素を含む作用剤が地球の保護オゾン層を破壊し、温室効果にも寄与するという欠点を避け、環境的に安全な消火方法を提供することを意図したものであり、ハロン剤との比較しての効果が立証されている以上、そこに記載不備があるとまではいえない。 なお、本件無効事件について、無効審判の請求は請求項1に係る発明の特許についてのみになされ、本件訂正発明は、無効審判の請求されていない訂正前の請求項7に実質的に訂正するものであることを付言する。 VIII.結び 以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正後の請求項1に係る発明についての特許を無効にすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169状第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ヒドロフルオロカーボンを用いる消火方法及び消火用ブレンド 【発明の詳細な説明】 クロスレファレンス 本出願は出願人の同時係属米国特許出願第396,841号(1989年8月21日出願)の一部継続出願である。 発明の背景 発明の分野 本発明は、高フッ素化C2及びC3飽和ヒドロフルオロカーボンを用いる消火方法及び消火用ブレンドに関する。 先行技術の説明 ある種の臭素、塩素及びヨウ素含有ハロゲン化化学作用剤を消火に用いることは一般に知られている。これらの作用剤は火炎伝播の原因と成る通常の連鎖反応の妨害によって有効であると考えられる。最も広く受け入れられている火炎抑制機構は、フライベルグ(Fryburg)が「消火剤とそれらの作用の基本機構とに関する文献の考察(Review of Literature Pertinent to Fire Extinguishing Agents and to Basic Mechanisms Involved in Their Action)」、NACA-TN 2102(1950)において提案されているラジカル トラップ機構である。マルコム(Malcom)が「消火剤の蒸発(Vaporing Fire Extinguishing Agents)」、レポート(Report)117、デプト オブ アーミー エンジニアーリング リサーチ アンド デベロップメント ラボラトリーズ(Dept.of Army Engineering Research and Development Laboratolies)、フォート ベボール(Fort Bevoir)、VA、1950(プロジェクト-8-76-04-003)に報告している、ハロゲンの有効性がモル規模でCl<Br<Iの順序であるという研究結果は、ラジカル トラップ機構を支持する。このように、ハロゲンCl、Br及びIを含む化合物が火災中のフリーラジカルまたは イオン種に干渉することによって作用すること、及びこれらのハロゲンの有効性がI>Br>Clの順序であることは一般に受け入れられている。 これに反して、ヒドロフルオロカーボン(すなわち、C、H、F原子のみを含む化合物)が燃焼の抑制に化学的作用を果たすことは今までに認められていない。このように、消火剤として有効であるためには、化合物がCl,BrまたはIを含まなければならないと、一般に考えられている。ヨウ素含有化合物の消火剤としての使用は、主としてそれらの製造費用のためにまたは毒性の考慮のために、今まで避けられていた。現在一般に用いられている、3種類の消火剤は全て臭素含有化合物、ハロン(Halon)1301(CF3Br)、ハロン1211(CF2BRCl)及びハロン2402(CF2BrCF2Br)である。これらの3種類の揮発性臭素含有化合物の消火における有効性はオーエン(Owens)の米国特許第4,014,799号に述べられている。商業的に用いられていないが、ある種の塩素含有化合物も、ラーセン(Larsen)が米国特許第3,844,354号に述べているように、例えばハロン251(CF3CF3Cl)のように、有効な消火剤であることが知られている。 上記で挙げた臭素含有ハロンは有効な消火剤であるが、臭素または塩素を含む、このような作用剤が地球の保護オゾン層を破壊しうると一部の人々によって主張されている。これらの作用剤は対流圏でのそれらの破壊を可能にする水素原子を含まないので、温室効果(greenhouse warming effect)にも寄与する。 それ故、現在使用されているハロン剤を用いる方法と同様に迅速かつ効果的に消火し、しかも上記欠点を避けた消火方法を提供することが、本発明の目的である。 効果的であり、経済的に製造され、かつオゾン消耗と温室効果とに関して環境的に安全である、上記性質の方法に用いるための作用剤を提供することが、本発明の他の目的である。 効果的であり、かつ環境的に安全である、ヒドロフルオロカーボンと他の消火剤とのブレンドを提供することが、本発明のさらに他の目的である。 発明の要約 本発明の上記、その他の目的、利点及び特徴は、飽和高フッ素化ヒドロフルオロカーボン及び他の消火剤とのそのブレンドを消火方法及び装置に使用するための消火剤として用いることによって実現する。さらに詳しくは、本発明の方法は消火濃度で飽和C2またはC3高フッ素化ヒドロフルオロカーボンを火に導入し、火が消えるまでこのような濃度を維持することを含む。本発明の飽和高フッ素化ヒドロフルオロカーボンは式:CxHyFz[xは2または3であり、yは1または2であり、zは5、6または7である;xが2である場合に、yは1、zは5である;xが3である場合に、zは6または7である]で表される化合物を含む。本発明による有用な、特定のヒドロフルオロカーボンはヘプタフルオロプロパン(CF3CHFCF3)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(CF3CH2CF3)1,1,1,2,3,3,-ヘキサフルオロプロパン(CF3CHFCHF2)及びペンタフルオロエタン(CF3CHF2)である。これらのヒドロフルオロカーボンは単独で、相互に組み合わせて、または他の消火剤と組み合わせて用いられる。一般に、本発明の作用剤はv/v基準で約3〜15%、好ましくは5〜10%の範囲内の濃度で用いられる。 好ましい実施態様の説明 本発明によると、飽和高フッ素化C2またはC3ヒドロフルオロカーボンは使用のために安全な濃度で有効な消火剤であることが判明した。しかし、このようなヒドロフルオロカーボンは臭素または塩素を含まないので、これらのオゾン消耗力は零である。さらに、化合物は水素原子を含むので、低気圧下では分解しやすく、このため温室効果としての脅威を有さない。 本発明による有用な、特定のヒドロフルオロカーボンは式:CxHyFz[xは2または3であり、yは1または2であり、zは5、6または7である;xが2である場合に、yは1、zは5である;xが3である場合に、zは6または7である]で表される化合物を含む。本発明による有用な、特定のヒドロフルオロカーボンはヘプタフルオロプロパン(CF3CHFCF3)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(CF3CH2CF3)1,1,1,2,3,3,-ヘキサフルオロプロパン(CF3CHFCHF2)及びペンタフルオロエタン(CF3CHF2)である。 これらのヒドロフルオロカーボンは単独で、相互に組み合わせて、または他の消火剤と組み合わせて用いられる。本発明のヒドロフルオロカーボンとブレンドすることのできる、他の作用剤には例えばハロン1301(CF3Br)、ハロン1211(CF2BrCl)、ハロン2402(CF2BrCF2Br)、ハロン251(CF3CF2Cl)及びCF3CHFBrのような、塩素及び/または臭素含有化合物がある。ヘプタフルオロプロパンとハロン1201(CF2HBr)との混合物は、これらの化合物が広範囲の温度にわたって同じような蒸気圧を有し、混合物の組成が放出またはその他の使用中に比較的一定に留まるので、特に好ましい。 本発明のヒドロフルオロカーボンをブレンドに用いる場合には、これらがブレンドの重量を基準にして少なくとも約10重量%のレベルで存在することが好ましい。塩素または臭素を含む作用剤の不利な環境効果を最小にするために、ヒドロフルオロカーボンをこのようなブレンドに高レベルで用いることが好ましい。 本発明によって用いられるヒドロフルオロカーボンは非毒性であり、経済的に製造される。例えば、ヘプタフルオロプロパンは便利には商業的に入手可能なヘキサフルオロプロペン(CF3CF=CF2)と無水HFとの反応によって、英国特許第902,590号に述べられているように、製造される。同様に、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンは無水HFとペンタフルオロプロパン(CF3CH=CF2)との反応によって合成される。1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンはヘキサフルオロプロパン(CF3CF=CF2)の水素化によって得られる。ペンタフルオロエタンはテトラフルオロエチレン(CF2=CF2)にフッ化水素酸を加えることによって得られる。 本発明の飽和高フッ素化C2またはC3ヒドロフルオロカーボンは消火を可能にする実質的に最低濃度において効果的に用いられ、正確な最低レベルは特定の可燃物、特定のヒドロフルオロカーボン及び燃焼条件に依存する。しかし、一般に、ヒドロフルオロカーボンまたはその混合物とそのブレンドを少なくとも約3%(V/V)の作用剤レベルで用いる場合に、最も良い結果が得られる。ヒドロフルオロカーボンを単独で用いる場合には、少なくとも約5%(V/V)の作用剤レベルで最も良い結果が得られる。同様に、最大用量は経済問題及び生物に対する可能な毒性によって支配される。例えば、オフィスのような通常ヒトの存在する領域(occupied area)では、約15%(V/V)がヒドロフルオロカーボン、その混合物やブレンドを都合よく使用できる最大濃度である。コンピューター装置室のような通常ヒトの存在しない領域(unoccupied area)では、15%(V/V)より高い濃度で使用できるが、その正確な濃度は、特定の可燃物、選択したヒドロフルオロカーボン(またはその混合物やブレンド)及び燃焼条件により定まる。ここで「%(V/V)」は、空気と消火剤との総容積に対する消火剤の容積百分率を表す。本発明によるヒドロフルオロカーボン作用剤、混合物及びブレンドの好ましい濃度は約5〜10%の範囲内である。 ヒドロフルオロカーボンは通常の供給方法及び例えばハロン1301及びハロン1211のようなハロンに対して用いられる方法を用いて、供給することができる。このように、これらの作用剤は、消火のために充分な濃度で火炎を囲む閉鎖領域(例えば、部屋または他の囲い)に作用剤を導入する総フラッディング消火系(total flooding fire extinguishing system)に用いることができる。ここで,総フラッディング系とは、火を取り囲む全領域(例えば、部屋全体)に、消火剤が満たされている(flooded)系を意味する。この用語は、消化器で火にめがけて消火剤を投入するような、火に直接消火剤の流れを向けるのと区別される系である。総フラッディング系によると、装置、設備または部屋もしくは囲いにさえも、火災が発生した場合に適当な濃度で自動的または手動で消火剤を導入できるように、消火剤供給源、適当な配管、弁及び制御装置を備えることができる。このようにして、当業者に周知であるように、消火剤を窒素または他の不活性ガスと共に、周囲条件において約600psiまで圧縮することができる。 この代わりに、ヒドロフルオロカーボン作用剤は通常のポータブル消火装置を用いて火に供給することができる。作用剤を消火装置から完全に放出するために、ポータブル消火装置内の圧力を窒素または他の不活性ガスによって高めることが通常行われる。本発明によるヒドロフルオロカーボン含有系は周囲条件において約600psiまでの好ましい圧力で便利に圧縮することができる。 本発明の実施を下記例によって説明するが、これらの例は説明のためのものであり、限定のためのものではない。 例1 28.3キュービック リットル(cubic litre)試験囲いを静的消炎試験(総フラッディング)のために構成した。この囲いにプレキシガラス覗き窓(viewpoint)と、頂部に被験作用剤入口と、底部近くに空気入口とを備えた。作用剤を試験するために、90×50mmガラス皿を囲いの中央に入れ、商標ロンソノール(RONSONOL)で入手可能なシガレット ライター流体10gを充填した。この燃料に点火し、作用剤を導入する前に、15秒間予備燃焼させた。予備燃焼中に、空気を下部入口から囲いに入れた。15秒間後に、空気入口を閉じ、消火剤を囲いに入れた。作用剤の濃度6.6%V/Vを形成するために充分な、予定量の作用剤を供給した。作用剤投入時間と消炎との間の時間として消火時間(extinguishment time)を測定した。6.6%(v/v)濃度のヘプタフルオロプロパン、ハロン1301、ハロン1211及びCH3CHFBrの平均消火時間を表1に示す。 例2 燃料としてヘプタンを用いて、例1の実験方法を実施した。6.6%v/vの同じ作用剤の平均消火時間を表1に示す。 この表は使用作用剤6.6%v/vでの種々な燃料に必要な消火時間を示す。このレベルにおいて、ヘプタフルオロプロパンはn-ヘプタン火炎の消炎において臭素含有ハロンと同様に有効であり、ライター流体火炎の消炎においては他の消火剤と殆ど同様に有効である。 本発明による純粋なヒドロフルオロカーボンの一般用途に対しては、約5〜10%レベルが好ましい。あまりに少量の作用剤の使用は消火の失敗を生じ、過度の煙りと作用剤の燃焼による恐らくHFの放出とを生じる。過剰量の使用は不経済であり、生物にとって有害なレベルへの空気の酸素レベルの希釈を生じうる。 例3 囲い(chamber)に2匹の白色マウスを入れて、例1を繰り返した。消火後に、マウスを囲いから取り出す前に、全体で10分間燃焼生成物に暴露させた。全てのマウスは暴露中に病的効果を示さず、装置から取り出した後は正常に挙動するように見えた。 例4 ガラスカップ バーナー中に生じる火炎に空気とn-ブタンとを連続的に供給するカップ バーナー試験方法を用いて、ヘプタフルオロプロパンと1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンに関する動的燃焼試験データを得た。 披験作用剤の蒸気を空気と混合して、火炎に導入し、作用剤の濃度は流れが消炎を生じるために丁度充分であるようになるまで徐々に増加させた。このようにして、ヘプタフルオロプロパンと1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンに関するデータを得、比較のために、下記の他のハロン作用剤:ハロン1301(CF3Br)、ハロン1211(CF2BrCl),ハロン251(CF3CF2Cl)、ハロン25(CF3CF2H)及びハロン14(CF4)に関するデータを得た。消炎のために必要な空気中の各作用剤の濃度を表2に記載する。 例5 ヘプタフルオロプロパンとハロン1301、ハロン1211、ハロン251を用いて、例4の方法によってn-ヘプタン拡散火炎を消炎した。試験データは表3に報告する。 表2と3に報告した動的試験データは、本発明によるヘプタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン及びペンタフルオロエタンの使用が、例えばハロン14(CF4)のような、他の公知の、臭素または塩素を含まないハロンよりも有意に効果的であることを実証する。さらに、ヘプタフルオロプロパンは効果において、塩素含有クロロフルオロカーボンであるハロン251に匹敵する。後者の関係はn-ヘプタン燃料並びにn-ブタン燃料に関して示される。例えばハロン1301とハロン1211のような臭素及び塩素含有作用剤はカップ バーナー試験下でヒドロフルオロカーボン作用剤よりも幾らか効果的であるが、本発明による作用剤の使用は依然として非常に効果的であり、これらの使用は例えばハロン1301、ハロン1211、ハロン251のような、塩素及び臭素含有ハロンによって見られるような有意な環境的ハンディキャップを避けることができる。 例6 例1の方法を用いて、35.2L試験囲いによって1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンに関する静的ボックス消炎データ(static box flame extinguishment test)を得た。1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンの他に、比較のためにハロン1301、ハロン1211及びハロン251も試験した。全ての作用剤は5.5%(v/v)の試験条件で供給した。 表4のデータは、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパンが非常に効果的な消火剤であることを実証する。これはハロン251、クロロフルオロカーボンとほぼ同程度に有効であり、例えばハロン1301及びハロン1211のような、臭素含有ハロンと比較する場合に、充分に効果的であり、塩素及び臭素含有ハロンのオゾン消耗(ozone depletion)その他の環境効果が存在しないという理由から好ましい。 1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンは本発明の方法による濃度において、非常に効果的な消火剤であることの他に、毒物学的に安全な範囲内に充分入る。 下記例は臭素含有ハロン消火剤を含む混合物またはブレンドとしての本発明によるヒドロフルオロカーボン作用剤の効果的な使用を実証する。 例7 例4のカップ バーナー方法を用いた動的試験データをヘプタフルオロプロパンとハロン1201(CF2HBr)との種々な混合物に関して得た。空気と作用剤混合物をガラス カップ バーナー内に生じたn-ヘプタン拡散火炎に連続的に供給した。一定のヘプタフルオロプロパン流に対して、流れが消炎を生じるために丁度充分であるようになるまで、CF2HBr流を徐々に増加した。種々なへプタフルオロプロパン流量において実験を繰り返し、結果を表6に報告する。 表6は観察された空気の実際の容量%を報告する。表6は混合物中のヘプタフルオロプロパンの算出重量%をも報告する。さらに、表6は各作用剤のオゾン消耗力(ozone depletion potential)(ODP)をも報告する。ハロン1201のODPデータは次のように算出した。純粋化合物のODPは次式によって算出した: ODP=AEP[(#Cl)B+C(#Br)]D(#c-1) この表現では、Pは光分解計数(photolysis factor)である。分子を対流圏光分解させる特殊な構造特徴が存在しないならば、P=1.0である。他の点では、定数の表(下記表5)に示すように、P=F、G、またはHである。 ハロン1201の重量%に純粋なハロン1201のODPを乗ずることによって、混合物のODPを得た。 これらのデータは、ヘプタフルオロプロパンとハロン1201との混合物によって有効な消炎が実施されること、及びハロン1201のODPがヘプタフルオロプロパンをそれと共に供給することによって著しく減ぜられることを実証する。 例8〜11 表7、8、9及び10は下記作用剤混合物に対して例7の方法を用いて得た拡散消炎データを報告する: 表7-ヘプタフルオロプロパンとハロン1211(CF2BrCl) 表8-ヘプタフルオロプロパンとハロン1301(CF3Br) 表9-ペンタフルオロプロパンとハロン1201(CF2HBr) 表10-1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンとハロン1201(CF2HBr) これらの表はロウレンス リバーモアー リサーチ ラボラトリー(Lawrence Livermore Research Laboratories)によって報告された純粋なハロン1211と1301とのODPデータをも含む。ハロン1201のODPデータは上記方法を用いて得たものであり、混合物のODPデータはハロン作用剤の重量%に純粋なハロンのODPを乗ずることによって得たものである。 表7〜10のデータは、本発明によるヒドロフルオロカーボンと塩素及び/または臭素含有ハロンとの種々の混合物が有用な消火剤であることと、塩素及び/または臭素含有物質のODPの有意な低下が本発明によるヒドロフルオロカーボンをそれに混合することによって達成されることを実証する。本発明によって用いられる塩素及び/または臭素含有ハロンと同様に、例えばヘプタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン及びペンタフルオロエタンのような飽和高フッ素化C2及びC3ヒドロフルオロカーボンは、非破壊性作用剤であり、他の媒質(media)のクリーンアップ(cieanup)が問題を有する場合に特に有用である。本発明の用途の一部は液体及びガス燃焼火災の消火;電気装置、例えば木材、紙、紡織繊維のような通常の可燃物、危険物固体の保護;並びにコンピューター設備、データ処理装置及び制御室の保護である。 (57)【特許請求の範囲】 1.化合物CF3CHFCF3のみから実質的に構成される組成物を、消火しようとする火を消火するのに充分な空気中の消火濃度となるような組成物の量で、当該火を取り囲む空気中に導入する段階と、火が消えるまで組成物のこの濃度を維持する段階とを含む消火方法。 2.化合物を約15%(v/v)未満のレベルで用いる請求項1記載の方法。 3.化合物を消火濃度が約5〜10%(v/v)である請求項1記載の方法。 4.化合物を総フラッディング系で用いる請求項1記載の方法。 5.ヘプタフルオロプロパンのみから実質的に構成される組成物を約5〜15%(v/v)濃度で火に導入する段階と、火が消えるまでヘプタフルオロプロパンのこの濃度を維持する段階とを含む消火方法。 6.式:CxHyFz[式中、xは2または3であり、yは1または2であり、zは5、6または7であり;xが2である場合には、yは1、zは5であり;xが3である場合には、zは6または7である]で表される1種類以上の化合物のみから実質的に構成される組成物と、 CF3Br,CF2BrCl,CF3CF2Cl,CF2BrCF2Br,CF2HBr及びCF3CHFBrから成る群から選択される1種類以上の塩素及び/または臭素含有消火剤とを含む混合物であって、 当該組成物が混合物の少なくとも約10重量%のレベルで混合物中に存在するものを、消火しようとする火を消火するのに充分な空気中の消火濃度となるような混合物の量で当該火を取り囲む空気中に導入する段階;及び混合物のこの濃度を火が消えるまで維持する段階を含む消火方法。 7.混合物の消火濃度が約3〜15%(v/v)である請求項6記載の方法。 8.次の要素: 式CxHyFz[式中、xは2または3であり、yは1または2であり、zは5、6または7であり;xが2である場合には、yは1、zは5であり;xが3である場合には、zは6または7である]で表される1種類以上の化合物のみから実質的に構成される組成物を、混合物の少なくとも約10重量%;及び CF3Br、CF2BrCl、CF3CF2Cl、CF2BrCF2Br、CF2HBr及びCF3CHFBrから成る群から選択される1種類以上の塩素及び/または臭素含有消火剤を、混合物の約90重量%以下を含む消火用混合物。 9.化合物がヘプタフルオロプロパンであり、要素がCF2HBrである請求項8記載の消火用混合物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2006-02-03 |
結審通知日 | 2006-02-07 |
審決日 | 2006-02-20 |
出願番号 | 特願平2-511655 |
審決分類 |
P
1
123・
532-
YA
(A62D)
P 1 123・ 121- YA (A62D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山口 由木、渡戸 正義 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
大黒 浩之 松本 貢 |
登録日 | 1996-11-07 |
登録番号 | 特許第2580075号(P2580075) |
発明の名称 | ヒドロフルオロカーボンを用いる消火方法及び消火用ブレンド |
代理人 | 武川 隆宣 |
代理人 | 磯田 志郎 |
代理人 | 廣江 武典 |
代理人 | 磯田 志郎 |
代理人 | 伊藤 高英 |
代理人 | 大倉 奈緒子 |
代理人 | 武川 隆宣 |
代理人 | 畑中 芳実 |
代理人 | 高荒 新一 |
代理人 | 西尾 務 |
代理人 | 廣江 武典 |
代理人 | 中尾 俊輔 |
代理人 | 鈴木 健之 |
代理人 | 鈴木 健之 |
代理人 | 大倉 奈緒子 |
代理人 | 中村 繁元 |
代理人 | 中村 繁元 |
代理人 | 中尾 俊輔 |
代理人 | 畑中 芳実 |
代理人 | 高荒 新一 |
代理人 | 玉利 房枝 |
代理人 | 伊藤 高英 |
代理人 | 玉利 房枝 |
代理人 | 西尾 務 |