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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16B
管理番号 1143769
審判番号 不服2003-17241  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-04 
確定日 2006-09-11 
事件の表示 特願2000- 45885「戻り止めボルト」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 8月31日出願公開、特開2001-234917〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【一】 手続の経緯
本願は、平成12年2月23日の出願であって、平成15年8月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年10月6日付けで特許法(平成14年法律第24号による改正前の特許法。以下、同じ。)第17条の2第1項第3号に該当する明細書についての手続補正がなされたものである。

【二】平成15年10月6日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年10月6日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「 【請求項1】
一端にねじ締結用機能を設えた頭部と、前記頭部に延設されたピッチPを有するねじが形成されたねじ軸とを備え、
前記ねじ軸に形成された前記ねじは全長に渡って同じ外径を有し、
n個の戻り止め部がn等分の角度間隔をおいて前記頭部の平面状の座面に形成されており、前記戻り止め部は、前記平面状の座面に対して突起した突起部を有し、この突起部は、前記ねじ軸の締め付け回転方向と反対方向に向かって突起高さが漸次増大し最大の突起高さ位置でエッジを有し、
前記座面における互いに隣接する前記戻り止め部の間には平坦部が形成されており、前記突起部は前記平坦部に対し突出しており、 前記エッジの前記座面からの高さは、一つの前記突起部によって削られた相手部材の削り部が他の前記突起部によって削られないように、P/nの近傍の値であってP/n以下の値をとることを特徴とする戻り止めボルト。
【請求項2】
一端にねじ締結用機能を設えた頭部と、前記頭部に延設されたピッチPを有するねじが形成されたねじ軸とを備え、
前記ねじ軸に形成された前記ねじは全長に渡って同じ外径を有し、
n個の戻り止め部がn等分の角度間隔をおいて前記頭部の平面状の座面に形成されており、前記戻り止め部は、前記座面に対して陥没して陥没部を有し、この陥没部は、前記ねじ軸の締め付け回転方向に沿って陥没深さが漸次増大して最大の陥没深さ位置を経た後にエッジを形成して前記座面に戻るように形成され、
前記座面における互いに隣接する前記戻り止め部の間には平坦部が形成されており、前記陥没部は前記平坦部に対し陥没しており、 前記平坦部から陥没した前記陥没部内の前記エッジの位置には、前記座面が相手部材面を圧縮しながら回転する際に、相手部材の肉の移動によって生じる凸肉部が形成可能であることを特徴とする戻り止めボルト。
【請求項3】
前記戻り止め部は、前記座面の周縁近傍に形成されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の戻り止めボルト。
【請求項4】
前記戻り止め部は、前記座面の周縁から前記ねじ軸に至って形成されていることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の戻り止めボルト。」
と補正された。(なお、下線は、補正箇所を示すために請求人が附したものである。)
上記補正は、
(1)請求項1において、「座面」について、「平面状の座面」と限定すると共に、「前記座面における互いに隣接する前記戻り止め部の間には平坦部が形成されており」と限定し、また、「突起部」について「前記平坦部に対し突出しており」と限定し、更に、「前記エッジの前記座面からの高さ」についての「P/nの近傍の値であってP/n以下の値」を、「一つの前記突起部によって削られた相手部材の削り部が他の前記突起部によって削られないように、P/nの近傍の値であってP/n以下の値」と限定し、
(2)請求項2において、「陥没部」について、「前記平坦部に対し陥没しており」と限定し、また、「前記平坦部から陥没した前記陥没部内の前記エッジの位置には、前記座面が相手部材面を圧縮しながら回転する際に、相手部材の肉の移動によって生じる凸肉部が形成可能である」と限定する
ものと認められる。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められる。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である「特開平8-82316号公報」(以下、「引用刊行物」という。)には、以下の事項が記載されていると認める。

〔あ〕「本発明は緩み防止ネジ及び該ネジを用いた締結方法に係り、締結体に被締結体を固定するためにネジを使用する全工業分野を対象としている。」(段落【0001】、2欄41〜43行参照)
〔い〕「先ず、図1において、自己ロック式ネジ1は、所謂セルフタップタイプであって、ネジ締めされる板部材側には所定直径の下孔のみ穿設しておけば良く、タップ加工を不要にするネジであって、通常は、鋼板側にバーリング加工と下孔加工を同時に施した板部材に多く使用されるものである。図において、このネジ1にはネジ頭部2であって締結ドライバと嵌合する十字溝3が加工されており、」(段落【0028】、7欄26〜33行参照)
〔う〕「座面となるツバ部4は、図示のように中心に向けて凹状に形成された座面として形成されており、縁部が弾性変形可能に構成されている。または、ツバ部4は完全に平らに構成されている。」(段落【0028】、7欄33〜36行参照)
〔え〕「このツバ部4の中心部位からは、ネジ足部9が一体に形成されている。さらに、このネジ足部9の先端部Sは、図示のように他のネジ足部の直径よりくびれており、被締結物の下穴へネジ足部9を導くガイド機能を備えている。」(段落【0028】、7欄36〜40行参照)
〔お〕「次ぎに、図2をさらに参照して、ツバ部4には、本願の最大の特徴である略三角形断面を有する突起部5-1、5-2、5-3が3つ独立して、等分布状態でツバ部4の外周辺において、中心から半径r分離れて一体形成されている。また、突起部5の等分布角度はαであり、120°である。」(段落【0029】、7欄41〜46行参照)
〔か〕「突起部5は、図2の実線図示の矢印Tで示される方向にしたがって順次頂点部5bの最大高さhが小さくなっている。」(段落【0030】、8欄7〜9行参照)
〔き〕「図6(a)において、ツバ部4面に形成された、突起部5が被締結物20の上に作用するが、被締結体表面と締結体表面にはそれぞれコート材21、23が一体的にコートされており、図で見られる様に、突起部5はコート材23を突き破って被締結物22側にへくい込み、締結される。また、突起部5は図示のように略三角形断面を成し、以下の寸法条件を満たすものである。」(段落【0033】、8欄20〜27行参照)
〔く〕「θ1 <θ2 …(1)
m<h≦R・P・θ/2π=R・P/n …(2)
ここで、 θ1は突起部5のゆるやかな斜面部位(底辺i)の角度、θ2は突起部5の急激な傾斜部位(底辺j)の角度、mは被締結体表面のコート材の厚み、Rはネジと被締結物の物性と締めつけトルクとツバ部4の形状によって決定される係数であり、本発明ではR=1.2〜2.2が実験上求められた。また、Pはネジ部9のピッチ、nは突起部5の個数を表わす。θ1が1°〜8°の場合において、角度θ2は82°〜89°の範囲に設定した場合に良い結果を得た。」(段落【0034】、8欄28〜38行参照)
〔け〕「上記の(1)式により、図6に示す突起部5が被締結物20に食い込んだ状態からネジがゆるむ方向の破線矢印L方向にネジ1が回転しようとしても、θ2のテーパ面によってロックされて、回転しづらくなる。」(段落【0035】、8欄39〜43行参照)
〔こ〕「また、以上はセルフタップネジについて述べたが場、これに限定されるものでなく、通常の下穴にタップを切った普通ネジについても適応できる事は言うまでもない。また、ツバ部4のないネジについても、突起部を適宜設ける事で、上述と同等の効果を得ることができる。」(段落【0039】、9欄20〜25行参照)
〔さ〕「本構成において、ネジ1の回転時において、座面のツバ部4に設けられた突起部15は、被締結体表面と突起部15の先端部15aで接触を開始すると同時に表面にくい込み始める。一方、突起部15は半径方向、周方向の両方向に傾斜した面を持っているので、ネジの回転によって、軸方向に締結が進行すると、図10に示した突起部15の先端部15bと同等の高さを持つ突起部の領域が被締結体表面にさらに食い込むことになる。さらに、図11において、突起部15の先細り形状の最先端付近の断面形状から解るように、締結動作終了直前では先端部15bと同等高さの突起部15の領域まで被締結体の表面へ食い込む事になる。」(段落【0041】、9欄32〜43行参照)
〔し〕「以上によって、被締結体表面には図12で示す痕跡kが生じることになる。」(段落【0042】、9欄44〜45行参照)
〔す〕「同図からわかる様に、各突起部15によって3つの独立な同一パターン形状が作られる。これは、前述の高さhが(2)(原文は○内に2、以下同じ)式を満たす時に形成され、各パターンが連続していないので、他の痕跡パターンによって、被締結体表面が荒され、各突起部のくい込み量が均一でなくなり、締めつけ性能が低下する欠点をなくすことができる。」(段落【0043】、9欄46行〜10欄8行参照)
〔せ〕「尚、以上説明した自己ロックネジはセルフタップネジについて述べているが、被締結物表面と当接するネジ座面側に少数個の独立した突起部を設けるという単純な構成なので、普通ネジ(被締結体側にネジ用タップが切削していあるタイプ)、サラネジ、ネット面、ボルト頭部にも同様な突起形状を加工する事は容易に可能であるので、適宜採用可能である。」(段落【0044】、10欄9〜15行参照)
等の記載が認められる。
そして、上記〔こ〕、〔せ〕には「普通ネジ」に適用できることの明確な記載があり、また、上記〔う〕には、「座面となるツバ部4」が、「中心に向けて凹状に形成され」るか、または、「完全に平らに構成され」る趣旨の記載があり、更に、上記〔す〕には「各突起部15によって3つの独立な同一パターン形状が作られる」、「各パターンが連続していない」ことの記載が認められる。
したがって、引用刊行物には、併せて図面も参照すると、
“一端に締結ドライバと嵌合する十字溝3を設けたネジ頭部2と、前記ネジ頭部2に延設されたピッチPを有するねじが形成されたネジ足部9とを備え、
前記ネジ足部9に形成された前記ねじは全長に渡って同じ外径を有し、
座面となるツバ部4が、前記ネジ頭部2の中心に向けて凹状に形成されるか、または、完全に平らに構成され、
n個の突起部5がn等分の角度間隔をおいて前記ネジ頭部2の座面に形成されており、前記突起部5は、前記座面に対して突起し、この突起部5は、前記ネジ足部9の締め付け回転方向と反対方向に向かって突起高さが漸次増大し最大の突起高さ位置でエッジを有し、
前記エッジの前記座面からの高さhは、一つの前記突起部5によって削られた被締結体の痕跡kが他の前記突起部5によって削られないように、Rをネジと被締結物の物性と締めつけトルクとツバ部4の形状によって決定される係数としたとき、R・P/n以下の値をとるようにした緩み防止ネジ”
の発明が記載されていると認められる。

3.対比・判断
(1)本願補正発明の「戻り止めボルト」と上記引用刊行物に記載された発明の「緩み防止ネジ」とは、いずれも「戻り止め機能を有するねじ」であり、本願補正発明と上記引用刊行物に記載された発明とを対比すると、後者の「締結ドライバと嵌合する十字溝3」は「ねじ締結用機能」をもつものであり、また、後者の「ネジ頭部2」は前者の「頭部」に相当し、以下同様に、後者の「ネジ足部9」は前者の「ねじ軸」に、後者の「突起部5」は前者の「戻り止め部」及び「突起部」に、後者の「痕跡k」は前者の「相手部材の削り部」に、それぞれ相当すると認められる。
したがって、両発明は、
「一端にねじ締結用機能を設えた頭部と、前記頭部に延設されたピッチPを有するねじが形成されたねじ軸とを備え、
前記ねじ軸に形成された前記ねじは全長に渡って同じ外径を有し、
n個の戻り止め部がn等分の角度間隔をおいて前記頭部の座面に形成されており、前記戻り止め部は、前記座面に対して突起した突起部を有し、この突起部は、前記ねじ軸の締め付け回転方向と反対方向に向かって突起高さが漸次増大し最大の突起高さ位置でエッジを有し、
前記エッジの前記座面からの高さは、一つの前記突起部によって削られた相手部材の削り部が他の前記突起部によって削られないように、P/nに依存する値をとった戻り止め機能を有するねじ」
で一致し、以下の点で相違すると認められる。
[相違点A]
本願補正発明は、前記「座面」が「平面状の座面」であって、「前記座面における互いに隣接する前記戻り止め部の間には平坦部が形成されており、前記突起部は前記平坦部に対し突出して」いるのに対して、上記引用刊行物に記載された発明は、前記「座面」は、中心に向けて凹状に形成されるか、または、平面状に構成されて、「平面状の座面」と特定されたものでない点
[相違点B]
本願補正発明は、前記「前記エッジの前記座面からの高さ」が「P/nの近傍の値であってP/n以下の値をとる」のに対して、上記引用刊行物に記載された発明は、前記「前記エッジの前記座面からの高さ」が、P/nに依存する値をとるものの、「P/nの近傍の値であってP/n以下の値」と特定されたものでない点
[相違点C]
本願補正発明は、前記「戻り止め機能を有するねじ」が「戻り止めボルト」であるのに対して、上記引用刊行物に記載された発明は、前記「戻り止め機能を有するねじ」が緩み防止ネジである点

(2)次に、上記各相違点について検討する。
(2-1)相違点Aについて
上記引用刊行物には、上記〔う〕のとおり、「座面となるツバ部4」が、「中心に向けて凹状に形成され」るか、または、「完全に平らに構成され」る趣旨の記載があり、また、「平面状の座面」から突起した突起部をもつ「戻り止め機能を有するねじ」は、本願の出願前より周知のものである(例えば、実願昭46-51362号(実開昭48-9856号)のマイクロフィルム、実願昭51-157888号(実開昭53-74554号)のマイクロフィルム、等参照)から、引用刊行物に記載された発明において、「座面」を「平面状の座面」として、「前記座面における互いに隣接する前記戻り止め部の間には平坦部が形成されており、前記突起部は前記平坦部に対し突出して」いる構成を採用することは、上記引用刊行物に記載された事項或いは本願出願前周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

(2-2)相違点Bについて
上記引用刊行物には、「前記エッジの前記座面からの高さ」に関連して、上記〔く〕のとおり「m<h≦R・P・θ/2π=R・P/n …(2)
……mは被締結体表面のコート材の厚み、Rはネジと被締結物の物性と締めつけトルクとツバ部4の形状によって決定される係数であり、本発明ではR=1.2〜2.2が実験上求められた。また、Pはネジ部9のピッチ、nは突起部5の個数を表わす。」と記載され、また、上記〔す〕のとおり「同図からわかる様に、各突起部15によって3つの独立な同一パターン形状が作られる。これは、前述の高さhが(2)式を満たす時に形成され、各パターンが連続していないので、他の痕跡パターンによって、被締結体表面が荒され、各突起部のくい込み量が均一でなくなり、締めつけ性能が低下する欠点をなくすことができる。」と記載されており、前記「(2)式」は上記〔く〕の式(2)と認められる。
このように、引用刊行物に記載された発明は、「一つの突起部によって削られた相手部材の削り部が他の突起部によって削られないように」、「エッジの座面からの高さ」を決定するために、「エッジの座面からの高さ」を決定する式中で「P/n」を考慮しているものと認められる。そして、引用刊行物に記載された発明は、「ネジと被締結物の物性と締めつけトルクとツバ部4の形状」の影響を考慮する係数としての「R」と前記「P/n」との積によって、「エッジの座面からの高さ」の最大値を定めているものと認められる。
しかしながら、エッジが最初に相手部材に当接した位置から突起部による削りが始まり、座面が相手部材に当接した時に前記削りが終了する、と事象を単純化して仮定した場合、「一つの突起部によって削られた相手部材の削り部が他の突起部によって削られないように」するためには、ねじが360°/n回転する前に「エッジの座面からの高さ」に相当する「h」のねじの進行が生じること、換言すれば、ねじが360°/n回転した時にはねじが「h」以上進行するねじの構成であることが要求されることは、前記仮定から必然的に導かれる要件であり、360°/n回転時のピッチがPのねじの進行量はP/nであるから、P/n>hが、「一つの突起部によって削られた相手部材の削り部が他の突起部によって削られないように」するための要件として導かれる。
そして、「エッジが最初に相手部材に当接した位置から突起部による削りが始まり、座面が相手部材に当接した時に前記削りが終了する」との仮定は、上記引用刊行物に記載された発明の「ネジと被締結物の物性と締めつけトルクとツバ部4の形状」の影響を考慮せず、単純化してR=1とすることに相当し、上記引用刊行物に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
また、戻り止め効果を最大限発揮するためには「エッジの座面からの高さ」が制限内でできるだけ大きいことが望まれることも明かであるから、P/nの近傍の値とすることも当業者が容易に想到し得る。
したがって、本願補正発明の、「前記エッジの前記座面からの高さ」が「P/nの近傍の値であってP/n以下の値をとる」とした事項は、上記引用刊行物に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
なお、この相違点Bに関連して審判請求人は請求の理由において、引用刊行物に記載された発明における突起部の最大高さの規定の仕方は本願発明の技術内容とは全く異質の技術内容である旨主張している。しかしながら、引用刊行物に記載された発明おいては「ネジと被締結物の物性と締めつけトルクとツバ部4の形状」の影響を考慮し「R」を定めているものであるが、それらの影響を考慮せず「エッジが最初に相手部材に当接した位置から突起部による削りが始まり、座面が相手部材に当接した時に前記削りが終了する」と事象を単純化した仮定をおいて、R=1とし相違点Bに係る本願補正発明の構成とすることが当業者にとって容易になしうることは上記したとおりであるから、審判請求人の上記主張は採用できない。

(2-3)相違点Cについて
上記引用刊行物には、上記〔せ〕のとおり「尚、以上説明した自己ロックネジはセルフタップネジについて述べているが、被締結物表面と当接するネジ座面側に少数個の独立した突起部を設けるという単純な構成なので、普通ネジ(被締結体側にネジ用タップが切削していあるタイプ)、サラネジ、ネット面、ボルト頭部にも同様な突起形状を加工する事は容易に可能であるので、適宜採用可能である。」との記載があり、また、頭部座面に突起を設けた戻り止め機能を有するボルトは、本願の出願前より周知のものである(例えば、前記実願昭46-51362号(実開昭48-9856号)のマイクロフィルム、実願昭51-157888号(実開昭53-74554号)のマイクロフィルム、等参照)から、引用刊行物に記載された発明の戻り止め機能を有するねじを「戻り止めボルト」とすることは、上記引用刊行物に記載された事項或いは本願出願前周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)このように、本願補正発明は、その発明を特定するための事項が、上記引用刊行物に記載された事項及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものであり、また、作用効果も、上記引用刊行物に記載された事項及び前記周知の事項から予測し得る程度のものであって、格別顕著なものではない。
したがって、本願補正発明は、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定により準用する同法第126条第4項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

【三】本願発明について
1.本願発明
平成15年10月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成14年2月27日付け、平成14年3月22日付け、平成14年4月8日付け、平成15年3月12日付けの各手続補正により補正された明細書及び平成12年7月6日付け手続補正により補正された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】
一端にねじ締結用機能を設えた頭部と、前記頭部に延設されたピッチPを有するねじが形成されたねじ軸とを備え、
前記ねじ軸に形成された前記ねじは全長に渡って同じ外径を有し、
n個の戻り止め部がn等分の角度間隔をおいて前記頭部の座面に形成されており、前記戻り止め部は、前記座面に対して突起した突起部を有し、この突起部は、前記ねじ軸の締め付け回転方向と反対方向に向かって突起高さが漸次増大し最大の突起高さ位置でエッジを有し、
前記エッジの前記座面からの高さはP/nの近傍の値であってP/n以下の値をとることを特徴とする戻り止めボルト。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である前記「特開平8-82316号公報」(以下同様に、「引用刊行物」という。)には、前記「【二】平成15年10月6日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「2.引用例」に記載したとおりの発明が記載されているものと認める。

3.対比・判断
本願発明は、前記「【二】平成15年10月6日付けの手続補正についての補正却下の決定」の「3.対比・判断」で検討した本願補正発明を特定するための事項の、「平面状の座面」が「座面」となり、「前記座面における互いに隣接する前記戻り止め部の間には平坦部が形成されており、前記突起部は前記平坦部に対し突出しており」との事項、「前記エッジの前記座面からの高さ」についての「一つの前記突起部によって削られた相手部材の削り部が他の前記突起部によって削られないように」との事項を、発明を特定するための事項としないものと認められる。
このように、本願発明は、前記本願補正発明を特定するための事項の一部を発明を特定するための事項としないものであり、前記本願補正発明を特定するための事項以外の事項を発明を特定するための事項とするものではない。そして、本願補正発明が先に説示したとおり上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の請求項2〜4に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-18 
結審通知日 2006-07-21 
審決日 2006-08-01 
出願番号 特願2000-45885(P2000-45885)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16B)
P 1 8・ 121- Z (F16B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊倉 強窪田 治彦  
特許庁審判長 亀丸 広司
特許庁審判官 藤村 泰智
町田 隆志
発明の名称 戻り止めボルト  
代理人 岡田 淳平  
代理人 永井 浩之  
代理人 吉武 賢次  
代理人 勝沼 宏仁  

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