• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1143922
審判番号 不服2002-8398  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-08-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-13 
確定日 2006-05-17 
事件の表示 平成 6年特許願第304903号「酸化エチレンと架橋性機能を有する少なくとも1個の置換オキシランとの共重合体、その製造方法、及びイオン伝導を有する物質を製造するためのその共重合体の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 8月 8日出願公開、特開平 7-206936〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成6年12月8日の出願(優先日 1993年12月9日 カナダ)であって、平成13年7月11日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成14年1月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成14年2月7日付けで拒絶査定され、これに対して平成14年5月13日付けで審判請求がなされ、平成14年6月12日付けで手続補正がなされたものである。

2.補正却下の決定
[結論]
平成14年6月12日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の発明
平成14年6月12日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)には、特許請求の範囲の請求項1を、
「酸化エチレン、-O-CH2-CHR-単位(Rは遊離基プロセスにより架橋可能な反応性官能基を有する置換基である)および任意に、-O-CH2-CHR’-単位(R’は遊離基プロセスにより架橋可能な非反応性官能基を有する置換基である)から構成される鎖を有し、電気化学的発生器のリチウムアノードと適合性を有する共重合体であって、前記共重合体が2.2以下の多分子性指標I=Mw/Mn(Mnは20,000以上であり、Mwは共重合体の重量平均分子量を表し、Mnは共重合体の数平均分子量を表す)およびモノマー単位のランダム分布を有し、前記共重合体がアニオン重合開始剤の存在下で中性溶媒中のイオン性共重合により調製され、使用されるモノマーおよび溶媒は水および重合開始剤破壊性および重合誘導性不純物量が100ppm以下である共重合体。」
とする補正が含まれている。
そうすると、本件補正により、請求項1に「使用されるモノマーおよび溶媒は水および重合開始剤破壊性および重合誘導性不純物量が100ppm以下である」との文言が付加されることとなるが、「重合開始剤破壊性および重合誘導性不純物」なる語は本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載されておらず、もとより、これと水とを、使用されるモノマーおよび溶媒の100ppm以下の量とすることは全く開示されていない。
請求人は審判請求書において、「本願発明は、これら従来技術における問題を、連鎖停止不純物の量を100ppm以下に抑制することにより、解決しました。(「0032」等参照)。このような連鎖停止不純物レベルにすることにより、アニオン共重合を使用して、分子量が20,000以上の架橋可能なモノマー含有共重合体を、低分子量共重合体のない状態で得ることが可能となり、その結果、2.2以下の多分子性指数I=Mw/Mnを実現できました。」(第3頁第9〜14行)と主張しているが、この「連鎖停止不純物」と本件補正で付加された「重合開始剤破壊性および重合誘導性不純物」との関係が不明であり、願書に最初に添付した明細書の段落【0032】には「本発明の製造方法を実施する場合には、反応混合物は連鎖停止反応を生ずることができるように極少量の不純物を含む。」と記載されているのみであって、請求人が指摘する明細書中の記載も、モノマーおよび溶媒中に「重合開始剤破壊性および重合誘導性不純物」が含有されること及びそれと水との含有量が100ppm以下であることを示すものではない。
また、この点が、自明の技術的事項であるということもできない。
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

(2)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第2項により準用する同法第17条第2項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

3.本願発明
上記のとおり平成14年6月12日付の手続補正は却下された。
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、当該補正前に提出された平成14年1月9日付の手続補正書によって補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「酸化エチレン、-O-CH2-CHR-単位(式中、Rは反応機能を有する置換基であり、この置換基は遊離基プロセスによって架橋可能であり、Rはある単位と他の単位とが異なることができる)、及び 必要に応じて-O-CH2-CHR’ 単位(式中、R’は遊離基プロセスによって架橋可能である非反応機能を含む置換基であり、R’はある単位と他の単位とが異なることができる)などを含む鎖を有する共重合体であって、該共重合体が優れた多分子性指標I=Mp/Mn及び異なるモノマー単位の統計的分布を有することを特徴とする共重合体。」

4.拒絶査定の理由についての判断
(1)特許法第29条第2項違反
(1-1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第93/16988号パンフレット(以下、「引用例」という。)には、以下の点が記載されている。

(ア)「実施例7
化学式

のグリシジルオキシテトラフルオロエタンスルホニル弗化物を、ジグリム中の異性化テトラフルオロエタンスルトンに弗化銀AgFを添加して得た生成物に対するエピブロモヒドリンの作用により、ガード(Gard)他[フルオリン・ケミストリー・ジャーナル(J.Fluorine Chemistry)46 21(1990);同46 39(1990);同48 107(1990)]の技法にしたがって作製する。生成した弗化銀を除去した後、当該生成物を蒸留する(沸点:1,2.104Paで115℃)。グリシジルオキシテトラフルオロエタンスルホニル弗化物(16)2.59gが、THF中のカリウム・トリメチルシラノエートの化学量論的数量の作用により、化学式

の対応するカリウム塩に転換される。当該塩は水からの再結晶により精製される。
真空マニホールドに接続した反応装置に第三ブトキシ化カリウム440gとカリウム塩(17)2.9gを充填する。この反応系から真空下でガス抜きをし、THF25g、酸化エチレン13.5g、ならびにアリルグリシジルエーテル1.15g、いずれもナトリウムミラー上で蒸留したものを反応装置に入れる。温度80℃で8時間重合化をおこなう。ヘキサン中に共重合体が沈殿、50mlのアセトンに溶解しエチルエーテル中に沈殿させて精製する。この操作を6回繰り返す。当初3回の操作においては、アセトン中にリチウム・トリフルオロメタンスルホネート4gを溶解し、これにより重合体中のカリウムイオンがリチウムイオンと交換される。こうして得た重合体を真空中で乾燥させる。温度25℃における導電率は、2,2 10-6(Ωcm)-1である。当該重合体には以下の構成単位

が含まれる。
過酸化ベンゾイル0.5%を加え、アルゴン雰囲気下で24時間80℃に加熱することによって優れた物性の架橋フィルムを獲得することが出来る。この物質のイオン伝導性は温度41℃で1.10-5(Ωcm)-1である。」(第17頁第12行〜第18頁第17行)

(1-2)対比・判断
引用例には、以下の化学式(17)

で表されるカリウム塩2.9gと第三ブトキシ化カリウム440gを反応装置に充填し、THF25g、酸化エチレン13.5g、ならびにアリルグリシジルエーテル1.15gをナトリウムミラー上で蒸留したものを反応装置に入れ、温度80℃で8時間重合化をおこない、更に重合体中のカリウムイオンをリチウムイオンと交換して、以下の構成単位(18)

を有する重合体を得ることが記載されており、これに過酸化ベンゾイル0.5%を加え、アルゴン雰囲気下で24時間80℃に加熱することにより、優れた物性の架橋フィルムを得ることも記載されている。
本願発明の共重合体とこの構成単位(18)を有する重合体(以下、「引用重合体」という。)とを対比すると、
引用重合体における

の単位(以下、「単位x」という。)は、酸化エチレン由来の繰り返し単位であり、

の単位(以下、「単位y」という。)は、-O-CH2-CHR-で表される単位においてRを-CH2-O-CH2-CH=CH2としたものであり、更に

の単位(以下、「単位z」という。)は、-O-CH2-CHR’-で表される単位においてR’を-CH2-O-CF2-CF2-SO3-Li+としたものである。
そして、本願明細書の「本発明の共重合体の-O-CH2-CHR-単位においては、遊離基プロセスによって架橋可能で且つR基に存在している反応性機能は、不飽和炭素/炭素結合に有利である。R基は、この場合、式CH2=CH-(CH2)q-(O-CH2)p(式中、1≦q≦6、且つp=0又は1である)・・・を有する具体的なラジカルの中から選ぶことができる」(段落【0015】)及び「本発明の共重合体の-O-CH2-CHR’-単位においては、遊離基プロセスによって架橋可能である非反応機能を有する置換基R’は、アルキル基・・・の中から選ぶことができる。・・・また、置換基R’はアルキル(ペルフルオロアルキルスルホネート)エーテル基から選ぶことができる。具体例としては、式-CH2-O-(CF2)q-CF(CrF2r+1 )-SO3M(式中、Mはアルカリ金属の陽イオンを示し、0≦q≦4、好ましくはq=0又は1、且つ0≦r≦4、より好ましくは0≦r≦3である)を有する基を挙げることができる。これらの範疇の好ましい基としては、-CH2-O-CF2-CF2-SO3M・・・を挙げることができる」(段落【0016】〜【0017】)との記載からみて、引用重合体における単位y及び単位zは、それぞれ、本願発明における「-O-CH2-CHR-単位」及び「-O-CH2-CHR’単位」に相当するものということができ、引用重合体における単位xが本願発明における「酸化エチレン単位」に相当することは明らかである。
そうすると、本願発明と引用重合体とは、ともに、
「酸化エチレン、-O-CH2-CHR-単位(式中、Rは反応機能を有する置換基であり、この置換基は遊離基プロセスによって架橋可能であり、Rはある単位と他の単位とが異なることができる)、及び 必要に応じて-O-CH2-CHR’ 単位(式中、R’は遊離基プロセスによって架橋可能である非反応機能を含む置換基であり、R’はある単位と他の単位とが異なることができる)などを含む鎖を有する共重合体」である点で一致しているが、本願発明における、
「(共重合体が)優れた多分子性指標I=Mp/Mn及び異なるモノマー単位の統計的分布を有する」点
について引用例には記載されていない点で、これらの発明の間には一応の相違が認められる。
しかしながら、下記(2)に示すように「優れた多分子性指標I=Mp/Mn」及び「異なるモノマー単位の統計的分布」は、いずれもその技術的意味自体が不明であり、このように曖昧な表現によって共重合体の特性を規定しようとすることは、当業者が適宜行い得ることというべきであって、本願発明が、それにより、格別の作用効果を奏し得たものとも認められない。
したがって、本件発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)特許法第36条第5項第2号及び同条第6項違反
(2-1)本願明細書の請求項1の「優れた多分子性指標I=Mp/Mn」との記載に関して、請求人は平成14年1月9日に提出した意見書中で、請求項2でMnが所定の下限値以上であり、請求項3における重分子量率指標(I)が所定の上限値以下であることから「優れた」とは「低い」を意味するものであり、また、明細書の段落【0065】の記載からみれば「Mp」が「重量平均分子量」を表すことが明らかであると主張している。
しかしながら、「優れた」が「低い」を意味するとしても、程度を表す曖昧な表現である点については変わりがなく、これにより共重合体がどのような範囲の「多分子性指標I」を有するのかは不明である。また、請求人が指摘する段落【0065】の記載をみても、「重量平均分子量」という文言は見出せず、「Mp」が意味するところも依然として不明である。
(2-2)本願明細書の請求項1の「異なるモノマー単位の統計的分布」という記載に関して、請求人は上記意見書中で段落【0013】の記載を根拠として、これが「異なるモノマー単位のランダム分布」を意味すると主張しているが、段落【0013】には「異なる単位が本発明の共重合体の鎖中にランダムに配置される」と記載されているのみであって、本願明細書には、請求項1に記載された「統計的分布」とこの「ランダムに配置」とを結びつける記載もない。
(2-3)したがって、本願明細書の特許請求の範囲の記載からは、発明の構成に欠くことのできない事項が不明瞭である。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定に違反するので特許を受けることができず、また、本願は、特許法第36条第5項第2号及び同条第6項に規定する要件を満たしていない。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-12-07 
結審通知日 2005-12-13 
審決日 2006-01-04 
出願番号 特願平6-304903
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 561- Z (C08F)
P 1 8・ 534- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲吉▼澤 英一  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
平塚 政宏
発明の名称 酸化エチレンと架橋性機能を有する少なくとも1個の置換オキシランとの共重合体、その製造方法、及びイオン伝導を有する物質を製造するためのその共重合体の使用  
代理人 杉村 興作  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ