• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  E21D
管理番号 1143987
審判番号 無効2005-80309  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-08-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-10-31 
確定日 2006-09-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第3568860号発明「土中通路形成工法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3568860号の請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3568860号に係る発明は、平成12年1月27日に出願され、平成16年6月25日にその発明について特許の設定登録がされたものであり、本件請求項2に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

(本件発明)
「障害物(1)の片側から下方に向かって土中に埋設管(7)を縦向きに推進すると共に障害物(1)の反対側に設けた障害物より深い発進坑(6)から横向きに埋設管(8)を推進し、一方の埋設管(8)を他方の埋設管(7)に交差する直前まで推進すると共に他方の埋設管(7)を一方の埋設管(8)の延長方向よりも長く推進する第二推進工程と、他方の埋設管(7)よりも細い一方の埋設管(8)を鋼管削進工法で推進することによって他方の埋設管(7)に抜穴(11)を開けて差し込み縦横の埋設管(7,8)内を連通する第二開通工程と、両埋設管(7,8)内に溜まった土を排出する排土工程とを、順次行うことを特徴とする土中通路形成工法。」

2.請求人の主張
審判請求人は、「本件発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項2に係る特許は特許法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきである。」旨主張し、証拠方法として次の甲第1号証〜甲第4号証を提出している。

(証拠)
甲第1号証:「月刊推進技術」通巻第49号(Vol.5 No.7)30〜35頁(平成3年6月20日社団法人日本下水道管渠推進技術協会発行)
甲第2号証:「月刊推進技術」通巻第149号(Vol.13 No.11)7〜16頁(平成11年11月10日社団法人日本下水道管渠推進技術協会発行)
甲第3号証:「月刊下水道」10月号(VOL.16 NO.11)肌色1頁(平成5年9月15日株式会社環境公害新聞社発行)
甲第4号証:「月刊推進技術」通巻第36号(Vol.4 No.6)47〜55頁(平成2年5月20日社団法人日本下水道管渠推進技術協会発行)

3.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、答弁書において、「本件発明は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができない」旨主張し、その根拠として概ね次の理由をあげている。
(1)甲第1号証記載の発明は複雑な作業を要する工法であるのに対し、本件発明は別の管を必要としない工法である(答弁書4頁3〜10行)、
(2)本件発明は、2本の埋設管をそれぞれ縦方向と横方向に双方が連結するまで止水処理を施すことなく土中を「推進」するところに技術的特徴があり、このような有機的な関係のある形態での「推進」については甲第2号証には開示されていない(答弁書4頁下から7〜2行)、
(3)甲第3号証記載の内容と本件発明のものとでは、穴を開けて差し込む対象の相違から起因する土中環境が大きく異なっており、両者の技術思想の根底は相違しているものである(答弁書5頁15〜17行)。

4.甲号証及びその記載内容
(1)甲第1号証(「月刊推進技術」通巻第49号(Vol.5 No.7)30〜35頁(平成3年6月20日社団法人日本下水道管渠推進技術協会発行))には、次のことが記載されている。
(イ)「事例集 ベビーモール工法による取付管推進施工事例」(30頁表題)
(ロ)「施工事例
(富山市不二越処理区第14工区(その6)工事)
工事は民家の汚水桝を設置し水路反対側の本管に水路の下部を横断削進取付を行なう工事である。民家側は場所が狭く掘削するスペースが無い場所であり、地質は礫混り砂で、水位が高い。計画は、民家側にφ550A鋼管を垂直に削孔しその鋼管の中に、あらかじめ底を付けておいたφ400mmヒューム管を建込み、裏込注入を行ないながら鋼管ケーシングを引抜き確実に固定して民家側の桝とした。又、水路横断部は、本管埋設側に発進立坑を造り、民家側に埋設したφ400mmヒューム管に取付ける工法とした。」(32頁右欄3行〜35頁左欄8行)。
図-1(31頁)には、「水路」より深い「φ2500ライナー立坑」(発進立坑)から250Aケーシングパイプにて横向きに水平に削孔しそのケーシングパイプの中にφ150VU塩ビパイプを建込み、モルタルの裏込注入を行い、φ150VU塩ビパイプを土中に設置し、φ150VU塩ビパイプをφ400mmヒューム管に取り付けたことが記載されている。

したがって、甲第1号証の上記記載から、甲第1号証には、
「水路の片側からφ550A鋼管にて垂直に削孔しその鋼管の中にφ400mmヒューム管を建込み、裏込注入を行いながら鋼管ケーシングを引抜き、φ400mmヒューム管を土中に設置し、水路の反対側に設けた水路より深いφ2500ライナー立坑から250Aケーシングパイプにて横向きに水平に削孔しそのケーシングパイプの中にφ150VU塩ビパイプを建込み、モルタルの裏込注入を行い、φ150VU塩ビパイプを土中に設置し、φ150VU塩ビパイプをφ400mmヒューム管に取り付ける工法」の発明が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証(「月刊推進技術」通巻第149号(Vol.13 No.11)7〜16頁(平成11年11月10日社団法人日本下水道管渠推進技術協会発行))には、次のことが記載されている。
(イ)「鋼製方式小型立坑と小口径管推進工法の組み合わせの留意点」(7頁表題)
(ロ)「3.立坑の施工
3.1 立坑の施工手順
図-1〜3に鋼製ケーシングの立坑施工手順を示す。鋼製ケーシングの施工方法については、(マル1)揺動圧入機を用いてテレスコピック式の掘削機で掘削する方法(マル2)揺動圧入機と掘削機が一体となっている場合。(マル3)一方向に回転させ圧入しながらテレスコピック式の掘削機で掘削する方法の三種類の方法がある。」(11頁右欄1行〜12頁右欄1行)、
(ハ)また、「図-1」(12頁)には上記(マル1)の方法が、「図-2」(13頁)には上記(マル2)の方法が、「図-3」(14頁)には上記(マル3)の方法が、それぞれ記載されている。
(ニ)さらに、「表-1 小口径管推進工法で用いられる立坑に工法別特徴」(8頁)には、
「工法:小型立坑 鋼製式(ケーシング式)/工法概要:鋼製ケーシングを圧入機械で揺動または回転し、バケット掘削を行いながら圧入する工法。・・・/土留壁の撤去:立坑上部を除いて残置となる・・・/総評:遮水性が高い。・・・」、
及び、
「工法:小型立坑 コンクリート製方式/圧入構築式/工法概要:円筒形プレキャストコンクリートブロックを圧入機械で回転し、バケット掘削を行いながら圧入する工法。・・・/土留壁の撤去:同左(躯体は・・・)/総評:同左(遮水性が高い。・・・)」と記載されている。

(3)甲第3号証(「月刊下水道」10月号(VOL.16 NO.11)肌色1頁(平成5年9月15日株式会社環境公害新聞社発行))には、次のことが記載されている。
(イ)「ベビーモール鋼管削進工法
あらゆる土質での削進およびライナー、型鋼、松杭、シートパイルなどを切断しながらの削進を60φ〜1,200φまでの鋼管削進が可能である。」(肌色1頁左上)。
(ロ)また、上記「ベビーモール鋼管削進工法」の図面には、削進鋼管が発進立坑から鋼管削進工法で推進することによって既設入坑(「杭」は誤記:合議体注)に抜穴を開けて差し込み、縦方向の既設入坑と横方向の削進鋼管を連通することが記載されている。

5.対比・判断
(1)対比
本件発明と、甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の
「水路」が本件発明の「障害物(1)」に相当し、以下同様に、
「φ400ヒューム管」が「(他方の)埋設管(7)」に、
「φ2500ライナー立坑」が「発進坑(6)」に、
「φ150VU塩ビパイプ」が「(一方の)埋設管(8)」に、
「工法」が「土中通路形成工法」に、それぞれ、相当するものである。
そうすると、両者は、
「障害物の片側から下方に向かって土中に埋設管を縦向きに設置すると共に障害物の反対側に設けた障害物より深い発進坑から横向きに埋設管を設置し、一方の埋設管を他方の埋設管に交差する直前まで設置すると共に他方の埋設管を一方の埋設管の延長方向よりも長く設置する工程と、
他方の埋設管よりも細い一方の埋設管を他方の埋設管に接続して縦横の埋設管内を連通する工程とを、
行う土中通路形成工法。」である点で一致し、次の各点で相違する。

(相違点1)
「他方の埋設管」及び「一方の埋設管」を土中へ設置する工程として、本件発明が「障害物の片側から下方に向かって土中に埋設管を縦向きに推進すると共に障害物の反対側に設けた障害物より深い発進坑から横向きに埋設管を推進し、一方の埋設管を他方の埋設管に交差する直前まで推進すると共に他方の埋設管を一方の埋設管の延長方向よりも長く推進する第二推進工程」を有するのに対し、甲第1号証記載の発明は、両埋設管を推進するものではない点。
(相違点2)
一方の埋設管を他方の埋設管に接続して縦横の埋設管内を連通する工程として、本件発明が「一方の埋設管を鋼管削進工法で推進することによって他方の埋設管に抜穴を開けて差し込み縦横の埋設管内を連通する第二工程」を有するのに対し、甲第1号証記載の発明は、鋼管削進工法にて埋設管を推進したことによって連通するものではない点。
(相違点3)
本件発明が、「他方の埋設管」及び「一方の埋設管」を土中へ設置する工程と、縦横の埋設管内を連通する工程と、埋設管内に溜まった土を排せつする排土工程とを、順次行うものであるのに対し、甲第1号証記載の発明は、両埋設管の他に、縦方向の550Aケーシング及び横方向のケーシングパイプを使うことから、埋設管の土中への設置前に、排土するものである点。

(2)各相違点の検討
上記相違点1を検討すると、土中通路形成方法において、甲第2号証(8頁、図-1〜図-3等)には下方に向かって土中に埋設管(小型立坑)を縦向きに推進することが記載され、甲第3号証(肌色1頁左上)には発進坑(発進立坑)から横向きに埋設管(削進鋼管)を推進することが記載されていることから、甲第1号証記載の発明の(縦向きの)埋設管及び(横向きの)埋設管に、甲第2号証及び甲第3号証記載の技術をそれぞれ適用して相違点1に係る本件発明の構成とすることは、当業者であれば容易に採用し得たことといえる。

上記相違点2を検討すると、甲第3号証(肌色1頁左上)には、ライナー、型鋼、松杭、シートパイルなどを切断しながら鋼管を削進することが記載され、その図面にも削進鋼管先端のメタルクラウンが既設入坑に挿入されたことが併せて記載されている、すなわち、一方の埋設管(削進鋼管)を鋼管削進工法で推進することによって他方の埋設管(既設入坑)に抜穴を開けて差し込み縦横の埋設管内を連通することが実質的に示されており、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の技術を適用して相違点2に係る本件発明の構成とすることも、当業者であれば容易に採用し得たことといえる。

相違点3について検討すると、要するに、本件発明と甲第1号証記載の発明とで排土する時期が異なるが、これは両者の工法の違いによるものであって、いずれの工法を用いるとしても、その工法のいずれかの段階において排土する必要性があることは自明な事項であるから、相違点3に係る本件発明の排土時期と選択することも、当業者が適宜選択し得た設計的事項であるといえる。

そして、本件発明が奏する作用効果も、当業者が甲第1〜3号証に記載された発明から予測し得るものであって、格別のものということができない。

なお、被請求人は、甲第1号証記載の発明は複雑な作業を要する工法であるのに対し、本件発明は別の管を必要としない工法である旨(答弁書4頁3〜10行)主張するが、別の管を必要としない工法は、本件発明と同一技術分野に属する土中通路形成工法において、甲第2号証及び甲第3号証(ベビーモール鋼管削進工法)に記載されているように公知であって、該工法を甲第1号証記載の発明に適用するのに格別困難性はない。
また、被請求人は、本件発明が「径の異なる2本の埋設管・・・をそれぞれ縦方向と横方向に双方が連結するまで止水処理を施すことなく土中を「推進」するところに」技術的な特徴があり、このような有機的な関係のある形態での「推進」については甲第2号証には何ら開示されていない旨(答弁書4頁下から7〜2行)を主張している。
しかしながら、本件の特許請求の範囲には「止水処理を施すことなく」という記載がないし、また、縦方向の埋設管に対して横方向の埋設管を連通するためには、横方向の埋設管が連通する時点で、少なくとも縦方向の埋設管が埋設されている状態に在ることが必要であるものの、甲第1号証記載の発明に甲第2号証や甲第3号証記載の「推進」工法を適用するに際して、各埋設管の推進を前後して行うこととするか又は同時期的に行うこととするかのいずれの選択も可能であることは自明な事項であるといえるから、そのいずれを選択するかは当業者が適宜採用し得た選択的事項であるといわざるを得ない。
さらに、被請求人は、甲第3号証記載の内容と本件発明のものとでは、穴を開けて差し込む対象が、前者が既設入抗であるのに対して後者が他方の埋設管である点で相違し、当該対象の相違から起因する土中環境が大きく異なっており、両者の技術思想の根底は相違しているものである旨(答弁書5頁15〜17行)を主張する。
確かに、穴を開けて差し込む対象が、前者が「既設入抗」であるのに対して後者が「他方の埋設管」である点で一応異なっているといえるものの、両者は共に土中通路形成方法である点で一致するものである。また、本件の特許請求の範囲の記載によれば、「細い一方の埋設管」を「鋼管削進工法で推進する」ことは規定されているものの、「他方の埋設管」が如何なる素材から成るものか、如何なる推進工法により推進されものであるのかについては何らの規定もない。そして、本件特許明細書の記載を参酌すると、その段落【0009】には、「なお、埋設管の材質は特に限定せず、鋼管を用いても良いが、抜穴を開けやすくするにはコンクリート系やプラスチック系のものを用いることが望ましい。」との記載があることから、本件発明の「他方の埋設管」が(コンクリート等ではなく)鋼管により形成されているということもできない。他方、甲第2号証の第7頁右欄第3〜6行目に「小型立坑は、鋼製方式とコンクリート製方式の二つの方式に分類できるが、コンクリート製方式には立坑を下げる方法として、沈下構築式と圧入構築式の方式がある。」との記載がある。そうすると、本件発明の「他方の埋設管」により形成された立坑部分が、甲第3号証記載の(小型立坑に相当するということができる)「既設入抗」と実質的に相違するということができないのであるから、両者がその対象の相違から起因する土中環境において大きく異なっていると解することもできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-07-14 
結審通知日 2006-07-25 
審決日 2006-08-08 
出願番号 特願2000-19082(P2000-19082)
審決分類 P 1 123・ 121- Z (E21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大森 伸一  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 西田 秀彦
柴田 和雄
登録日 2004-06-25 
登録番号 特許第3568860号(P3568860)
発明の名称 土中通路形成工法  
代理人 宮田 信道  
代理人 松永 宣行  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ