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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1144616
審判番号 不服2004-148  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-10-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2006-10-06 
事件の表示 平成11年特許願第 99150号「液晶表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月20日出願公開、特開2000-292801〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年4月6日の出願であって、平成15年11月25日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月5日付で拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年2月4日付で特許法第17条の2第1項第3号の規定による手続補正がなされたものである。
その後、当審において平成18年3月27日付で前置報告を利用した審尋を行ったところ、平成18年5月31日付で回答書に替えて上申書が提出された。

2.平成16年2月4日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年2月4日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を下記のように補正することを含むものである。
「【請求項1】第一の基板、第二の基板およびこれらに挟持された液晶層を有し、前記第一の基板の前記液晶層側の面に、マトリクス状に配置された画素電極および共通電極より構成され、前記共通電極と前記画素電極との間に印加される電圧により、前記第一の基板に対して平行方向の成分を支配的に有する電界が発生する画素部と、該画素部の動作を制御するスイッチング素子とが設けられた液晶表示装置において、前記第一の基板上に、カラーフィルタと、その上に設けられた該カラーフィルタを覆うシールド電極とを備え、該シールド電極の上部に前記画素電極および前記共通電極が形成されたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項2】第一の基板、第二の基板およびこれらに挟持された液晶層を有し、前記第一の基板の前記液晶層側の面に、マトリクス状に配置された画素電極および共通電極より構成され前記共通電極と前記画素電極との間に印加される電圧により、前記第一の基板に対して平行方向の成分を支配的に有する電界が発生する画素部と、該画素部の動作を制御するスイッチング素子とが設けられた液晶表示装置において、前記第一の基板上にカラーフィルタを備え、その上に前記共通電極が前記カラーフィルタの60%以上を覆うように形成されたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項3】前記共通電極の少なくとも一部が前記画素電極および前記カラーフィルタとの間に介在することを特徴とする請求項2に記載の液晶表示装置。
【請求項4】前記共通電極の上部に前記画素電極が形成されたことを特徴とする請求項2または3に記載の液晶表示装置。
【請求項5】前記共通電極と前記画素電極との間に電圧を印加していない電圧無印加時に、前記液晶層に含まれる液晶分子が、前記第一の基板に対して略平行に配向していることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の液晶表示装置。
【請求項6】前記共通電極と前記画素電極との間に電圧を印加していない電圧無印加時に、前記液晶層に含まれる液晶分子が、前記第一の基板に対して略垂直に配向していることを特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の液晶表示装置。」

上記補正は、補正前の請求項2の「画素部」を限定しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1ないし6に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(2)拒絶査定の理由
原審の拒絶の理由(平成15年9月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由)は、おおよそ以下のものである。
『この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)本願で開示された発明は、IPS方式のTFT液晶表示装置であるが、補正後の請求項1-4,6-7の記載では液晶表示装置がIPS方式であるか否かが判然としない。
よって、補正後の請求項1-4,6-7に係る発明は明確でない。
補正後の請求項5の記載を含めば、液晶表示装置がIPS方式であることが明確になると考えられる。
(2)本発明の第1の実施形態(【図1】(a))では、画素電極14の下部の広い領域に渡ってシールド電極20が位置している。シールド電極20の電位は共通電極3の電位と同一であるから、画素電極14から発生する電界はガラス基板1の略垂直方向の成分が支配的になる。してみると、第1の実施形態の液晶表示装置で正常なIPS方式の駆動が可能であるとは考えられない。
他の実施形態についても同様である。
よって、【発明の詳細な説明】は、当業者が補正後の請求項1-7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
なお、審査官の見解に反論する場合には、本発明の液晶セル内の電気力線分布図(ポテンシャル分布図)を提示されたい。』

また、拒絶査定の備考は、以下の通りである。
『理由(1)について:平成15年11月12日付で補正された後の請求項2-6
審査官は、平成15年9月10日付け拒絶理由通知書の(1)で、「本願で開示された発明は、IPS方式のTFT液晶表示装置であるが、補正後の請求項1-4,6-7の記載では液晶表示装置がIPS方式であるか否かが判然としない。よって、補正後の請求項1-4,6-7に係る発明は明確でない。補正後の請求項5の記載を含めば、液晶表示装置がIPS方式であることが明確になると考えられる。」(特許法第36条第6項第2号違反)と指摘した。
しかしながら、平成15年11月12日付手続補正書では、上記補正後の請求項2-4について全く補正がなされておらず、また、同日付意見書で上記補正後の請求項2-4の明確性について何ら反論していない。
よって、平成15年9月10日付け拒絶理由通知に記載した審査官の見解を出願人が認めたものとして扱い、平成15年11月12日付で補正された後の請求項2-4及びそれらの従属項について理由(1)で拒絶査定する。

理由(2)について:平成15年11月12日付で補正された後の請求項1-6
審査官は、平成15年9月10日付け拒絶理由通知書の(2)で、「本発明の第1の実施形態(【図1】(a))では、画素電極14の下部の広い領域に渡ってシールド電極20が位置している。シールド電極20の電位は共通電極3の電位と同一であるから、画素電極14から発生する電界はガラス基板1の略垂直方向の成分が支配的になる。してみると、第1の実施形態の液晶表示装置で正常なIPS方式の駆動が可能であるとは考えられない。他の実施形態についても同様である。
よって、【発明の詳細な説明】は、当業者が補正後の請求項1-7に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。なお、審査官の見解に反論する場合には、本発明の液晶セル内の電気力線分布図(ポテンシャル分布図)を提示されたい。」(特許法第36条第4項実施可能要件違反)と指摘した。
しかしながら、出願人は、上記の実施可能要件について平成15年11月12日付意見書で何ら反論していない。
よって、平成15年9月10日付け拒絶理由通知に記載した審査官の見解を出願人が認めたものとして扱い、平成15年11月12日付で補正された後の請求項1-6について理由(2)で拒絶査定する。』

(3)前置報告を利用した審尋の内容
当審においては、前置報告を利用して平成18年3月27日付で、おおよそ下記の内容の審尋を行った。
『《前置報告書の内容》
・・・
この審判請求に係る出願については、下記の通り報告する。

・根拠条文 特許法第36条第4項
・請求項1-6
・特許査定できない理由
平成16年2月4日付けの請求項1-6についての補正は限定的減縮を目的としている。
平成16年2月4日付けで補正された後の発明の詳細な説明は、下記の理由により、当業者が当該補正後の請求項1-6を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。
したがって、特許法第36条第4項の規定により、独立して特許を受けることができない。
よって、この補正は特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
そして、審判請求時の補正前の請求項1-6に係る発明は、原査定の理由に示したとおり拒絶されるべきものである。

<特許法第36条第4項違反の理由>
平成15年9月17日付けで発送された拒絶理由通知書の(2)において、審査官は本願発明の実施可能要件違反を指摘した。しかしながら、出願人は、上記の実施可能要件について平成15年11月12日付意見書で何ら反論していないので、上記拒絶理由通知書に記載した審査官の見解を出願人が認めたものとして扱い、上記(2)の理由で拒絶査定した。
その後、出願人は拒絶査定不服審判の請求を行い、平成16年2月4日付けの【請求の理由】において、実施可能要件違反(特許法第36条第4項)とした審査官の見解に反論しているので、出願人の主張について以下で検討を行う。

(1)まず、出願人は、【請求の理由】において、「画素電極と共通電極およびシールド電極との間の電界は、明細書の【図1】(a)、(b)をより模式的に示した別紙の液晶を上から見た図と断面図とを用いて説明する。液晶表示装置のピクセルの一部を上から見た図を下記に示す。(ここで、「領域Aと領域Bを示した平面図」が添付されている)」と言及している。
そして、【請求の理由】に添付された上記「領域Aと領域Bを示した平面図」には、画素電極と共通電極との間に、画素電極と共通電極の辺に平行に「シールド電極のエッジ部」が配置されることが描かれている。
しかしながら、画素電極と共通電極との間に、画素電極と共通電極の辺に平行に「シールド電極のエッジ部」が配置されるという事項は本願の【図1】(a)(b)に描かれておらず、上記「領域Aと領域Bを示した平面図」は【図1】(a)(b)と矛盾する。言いかえると、上記「領域Aと領域Bを示した平面図」は本願発明に関係のない図に過ぎない。
さらに、出願人は「画素電極とシールド電極のエッジ(との間)に電界が生じる。(ここで、当該「電界方向を示した断面図」が添付されている)」と主張しているが、【図1】(a)(b)では画素電極と共通電極との間に電界が生じているから、出願人の当該主張は【図1】(a)(b)と矛盾する。

(2)また、出願人は「液晶分子は画素電極と共通電極が形成された平面よりも上に存在することになる。この結果、液晶分子には横方向の電界は印加されるが、垂直方向の電界(は)無視できる程度となる。・・・(中略)・・・液晶分子は、基板と水平方向の電界により基板と水平方向に保ったまま回転することが可能となり、液晶分子の長軸が基板に対して立ち上がることはない。」と主張している。
しかしながら、「液晶分子には横方向の電界は印加されるが、垂直方向の電界(は)無視できる程度となる」という主張の根拠が不明である(画素電極の上の面のごく近傍に発生する電界は、基板に対し垂直方向を向くから、垂直方向の電界は無視できないくらいに大きいこともある。)。
してみると、「液晶分子は基板と水平方向の電界により基板と水平方向に保ったまま回転することが可能となり、液晶分子の長軸が基板に対して立ち上がることはない」という主張にも根拠がない。上記(1)(2)で検討した結果から、出願人の主張は採用できない。なお、審査官は上記拒絶理由通知書に「本発明の液晶セル内の電気力線分布図(ポテンシャル分布)を提示されたい」と記載したが、その後出願人が提出した書面には、本願の【図1】〜【図4】の電気力線分布図(ポテンシャル分布)は開示されていない。

<付記>当初明細書の【0035】に「図1(a)は、図1(b)の平面図のA-A’線の断面を示している。」という記載があるが、【図1】(a)は断面図ではなく平面図であるから、この記載は誤りである。また、上記記載を「図1(b)は、図1(a)の平面図のA-A’線の断面を示している。」の誤記と解釈したとしても、まだ矛盾が残る。
(【図1】(a)のA-A’線は「シールド電極20」と全く重なっていないのに対し、断面図の図1(b)では「シールド電極20」が描かれているからである。)
また、【図3】【図4】のA-A’線断面図にも矛盾がある。』

(4)請求人の主張(平成18年5月31日付上申書)
請求人は、平成18年5月31日付上申書において、おおよそ以下のように主張する。
『2.1ご指摘のとおり、当初明細書の図面の断面を示す説明を記載した、段落0035及び0055は誤記であります。
段落0035の「図1(a)は、図1(b)の平面図のA-A’線の断面を示している。」という記載は、「図1(b)は、図1(a)の平面図のA-A’線の断面を示している。」の誤記であります。同様に、段落0055の「・・図3(a)は、図3(b)の平面図のA-A’の断面を示している。」は、「図3(b)は、図3(a)の平面図のA-A’の断面を示している。」の誤記であります。
更に、図1(a)のA-A’線は「シールド電極20」と全く重なっていないのに対し、断面図の図1(b)では「シールド電極20」が描かれている(図3、図4のA-A’線断面図にも矛盾がある)とのご指摘のように、図1(a)、図3(a)及び、図4(a)に記載したA-A’線も誤記であり、誤記を補正いたしました。又、図1(a)のシールド電極20、図3(a)及び図4(a)の共通電極3についても、誤記がありましたので補正いたしました。この補正は、当初明細書の図1(a)のシールド電極20、図3(a)及び図4(a)の共通電極3が、画素電極14を超えて、データ線6aに達するように記載されていますが、図1(b)、図3(b)及び、図4(b)の断面図に示されるように、画素電極側は、カラーフィルタ10上で画素電極と離間して配されています。
図1(a)のシールド電極20、図3(a)及び図4(a)の共通電極3の位置関係を、図1(b)、図3(b)及び図4(b)の断面図に合わせるものであります。
正しい図1(a)、図3(a)、図4(a)を本書の最後に示します。
段落0035及び0055及び、図1(a)、図3(a)及び図4(a)の誤記の補正を行いたく、補正の機会を与えていただけますようお願いいたします。
尚、図1(a)の補正は、図1(b)及び当初明細書の段落0049に、「図2(c)に示すように、全面にITO膜を形成した後、エッチングによりパターニングすることにより、コンタクトプラグ9およびシールド電極20を形成する。」の記載、及び、段落0042から段落0043に本発明の液晶表示装置の液晶分子の動きが、「(0042)以上のように構成されたTFT液晶表示装置では、液晶層40に電界が印加されていないときは、液晶層40における液晶分子は図1(a)の実線のように配向している。すなわち、液晶分子の長軸(光学軸)の方向と、画素電極14と共通電極3との間に形成される電界方向方とのなす角度が、例えば、45°以上90°未満となるように配置されている。ここで液晶分子の誘電異方性は正とした。なお対向配置されているガラス基板1と対向基板31と、液晶分子との配向は、互いに平行となっている。(0043)ここで、ゲート電極2に電圧を印加して薄膜トランジスタ(TFT)をオンにすると、ソース電極7に電圧を印加されて、画素電極14とこれに対向配置している共通電極3の間に電界が誘起される。この電界により、液晶分子41の長軸が画素電極14と共通電極3の間に形成される電界の方向と平行な状態となる(平面図中点線部)。」と記載されていることによるものであります。この説明から、図1(b)に示されるようにシールド電極20はコンタクトプラグ9との間にスリットがあいていることは明らかであり、図1(a)は誤記であり、補正した図1(a)が、当初明細書の記載に基づくものであることは明らかであると思慮いたします。
図3(a)の補正も同様に、・・・図3(a)及び図4(a)の補正は、当初明細書の記載に基づくものであります。
次に、液晶セル内の電気力線分布図についてですが、平成16年2月4日付けの審判請求理由補充書において、平成15年9月17日(発送日)に指摘された、液晶セル内の電気力線分布図を添付し、動作の説明を行いました。
しかしながら、(請求の理由)に添付した「領域Aと領域Bを示した平面図」は、本願の図1(a)(b)に描かれておらず、図1(a)(b)と矛盾すると指摘されました。
参考図Aを用いて、再度説明致します。参考図Aは、上述の補正を行った後の図1(a)の平面図であります。
尚、段落0042、0061の、「液晶分子の長軸(光学軸)の方向と、画素電極14と共通電極3との間に形成される電界方向方とのなす角度が、例えば、45°以上90°未満となるように配置されている。ここで液晶分子の誘電異方性は正とした。なお対向配置されているガラス基板1と対向基板31と、液晶分子との配向は、互いに平行となっている。」の記載から、第1の実施形態及び第2の実施形態では、液晶の長軸が層間膜と平行な状態に配されているものであります。
長軸が基板に平行な液晶分子の画素電極近傍の液晶分子は、画素電極14端部で発生する電界の水平成分が、画素電極14の近傍の領域Aに存在する液晶分子に印加されると、連なって存在する液晶分子が、一種の弾性体としてふるまうため、画素電極近傍の領域に存在する液晶分子のねじれが伝播し共通電極の近傍に存在する液晶分子にもねじれが発生することになります。
審判理由補充では、第1の実施形態の電気力線分布図を示していますが、本願の図1〜図4の電気力線分布図(ポテンシャル分布)は開示されていない、とありますので、参考図1及び3を用いて、再度電気力線分布をご説明させていただきます。
参考図1及び3は、図1(b)(第1の実施形態)、図3(b)(第2の実施形態)及び図4(b)(第3の実施形態)で示した電気力線の分布をより詳細に示すものであります。』

(5)判断
審判請求人は、上記のように、
「更に、図1(a)のA-A’線は「シールド電極20」と全く重なっていないのに対し、断面図の図1(b)では「シールド電極20」が描かれている(図3、図4のA-A’線断面図にも矛盾がある)とのご指摘のように、図1(a)、図3(a)及び、図4(a)に記載したA-A’線も誤記であり、誤記を補正いたしました。又、図1(a)のシールド電極20、図3(a)及び図4(a)の共通電極3についても、誤記がありましたので補正いたしました。この補正は、当初明細書の図1(a)のシールド電極20、図3(a)及び図4(a)の共通電極3が、画素電極14を超えて、データ線6aに達するように記載されていますが、図1(b)、図3(b)及び、図4(b)の断面図に示されるように、画素電極側は、カラーフィルタ10上で画素電極と離間して配されています。」と主張している。
しかしながら、上記主張は、図1(a)のA-A’線が誤記であって、図1(b)を正しいとするものであるが、図1(b)は図1(a)のA-A’線をもとに作った断面図なのであるから、図1(a)のA-A’線の誤記を認めてしまえば、図1(b)の断面図自体が不明りょうと言うことになる。
また、請求人は、「図1(b)に示されるようにシールド電極20はコンタクトプラグ9との間にスリットがあいていることは明らかであり、図1(a)は誤記であり、補正した図1(a)が、当初明細書の記載に基づくものであることは明らかである」とも主張するが、明細書の【0042】、【0043】及び図1(a),1(b)を参照すると、画素電極14及び共通電極3間の電界により、明細書記載のような横方向の電界が多少は生ずることが理解できるから、「シールド電極20はコンタクトプラグ9との間にスリットがあいている」とは必ずしもいえず、したがって、図1(a)のみが間違っているとはいえない。
さらに、
1)請求人が正しいとして提示した参考図1(図1(a))に基づき、該図に記載したA-A’線で、断面図である図1(b)を作ったとすると、対向電極3がシールド電極20上において端の方に位置することになるが、図1(b)では、シールド電極20のほぼ真ん中に位置しており、両図は矛盾することになる。
2)対向電極3の引き出し線が適切ではなく、どの部材を示しているのか不明である。
3)参考図1のA-A’線で断面図である図1(b)を作ったとすると、右側のデータ線も断面図に入ることになるが、図1(b)にはもともと記載はないから、参考図1のA-A’線が正しいとはいえない。(参考図1に基づけば、シールド電極20の端部上に右側のデータ線がなければいけない。)
4)明細書及び図1(b)から、シールド電極20が参考図1の位置にあると一義的に決定することはできない。(これはもとの図1(a)のシールド電極20の位置と大きく異なる。)
5)参考図1には、シールド電極20と対向電極3のコンタクトホールが記載されていない。
というように、提示した参考図1は種々の不備を包含するものであって、採用するに足らないものである。
よって、請求人の参考図1に基づく主張も、採用するに足らないものである。

請求人が提示した参考図2,参考図3は、
1)「図2(a)」(参考図2)は「図3(a)」の誤記であり、「図3(a)」(参考図3)は「図4(a)」の誤記である。
2)画素電極14は、もとの図2(a),図3(a)には、コの字状の形状のものが描かれているが、参考図2,参考図3には、離れて位置する2つの画素電極14が描かれているのみであって、画素電極14の形状を改ざんするものである。
というように、参考図1で指摘した不備以外の不備をも包含するものであって、参考図1と同様に、採用するに足らないものである。

なお、参考図1が認められないことから、これに基づく参考図Aの説明も認められるものではないが、請求人が主張する「長軸が基板に平行な液晶分子の画素電極近傍の液晶分子は、画素電極14端部で発生する電界の水平成分が、画素電極14の近傍の領域Aに存在する液晶分子に印加されると、連なって存在する液晶分子が、一種の弾性体としてふるまうため、画素電極近傍の領域に存在する液晶分子のねじれが伝播し共通電極の近傍に存在する液晶分子にもねじれが発生する」との説明にしても、本願明細書の発明の詳細な説明には、電極の具体的な寸法及び形状、シールド電極20と画素電極のスリット幅等が一切記載されていないばかりでなく、上申書においても、定性的な説明を行うのみであって、弾性体としてふるまうことを定量的に示そうともしていない。

以上のとおり、図1(a),図3(a),図4(a)が誤りであることは、請求人が認めるとおりであり、また請求人が提示した参考図は採用し得ないものであって、明細書の不備は回復不可能なものであるので、本願明細書は、その記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たすものではないから、本件補正後の請求項1ないし6に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願明細書
平成16年2月4日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願明細書及び図面は、平成15年11月12日付手続補正書によって補正された明細書及び図面である。

(2)判断
本願明細書は、審判請求時の明細書と比べて、請求項2に係る発明及び問題を解決する手段が、「前記共通電極と前記画素電極との間に印加される電圧により、前記第一の基板に対して平行方向の成分を支配的に有する電界が発生する」との点を欠くものである。
そうすると、原審の拒絶査定のとおり、本件出願は、明細書及び図面の記載が、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たすものではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件出願は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満していないから、上記規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-07 
結審通知日 2006-08-09 
審決日 2006-08-22 
出願番号 特願平11-99150
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G02F)
P 1 8・ 575- Z (G02F)
P 1 8・ 537- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 昌士山口 裕之藤田 都志行  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 吉野 三寛
鈴木 俊光
発明の名称 液晶表示装置  
代理人 石橋 政幸  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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