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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1144719
審判番号 不服2003-17888  
総通号数 83 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-16 
確定日 2006-10-03 
事件の表示 特願2000-403713「ヘリウムパージされる細線化ユニットを備える高エネルギーガス放電レーザ」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月26日出願公開、特開2001-298233〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年11月30日(パリ条約による優先権主張1999年11月30日、米国)に出願された特許出願であって、原審において平成14年7月16日付けで通知された拒絶理由に対して、平成15年1月29日付けで手続補正がなされた後、同年6月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月16日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、手続補正がなされた明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項13に係る発明は、次のものである。
「格子表面を形成する格子を備える、格子に基づく細線化ユニットを有する狭帯域ガス放電レーザの帯域幅制御方法であって、前記格子表面を横切ってガスを流す段階を含むことを特徴とする方法。」(以下、「本願発明」という。)

3.刊行物に記載された発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平4-314374号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スペクトル幅の狭いレーザ光を出力するレーザ装置に係り、特に縮小投影露光装置用の光源として好適な狭帯域レーザ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】……そこで、発振されたレーザ光を、エタロンや回折格子等の波長選択素子(狭帯域化素子)を使用してスペクトル幅を狭くすることが行われている。」
(2)「【0014】これは、回折格子の表面がレーザ光を吸収して熱を発生し、表面近傍の気体の温度が上昇して気体の屈折率が変化するため、回折格子による選択波長が気体の温度の高いところだけ変化し、エタロンの選択波長と一致しなくなって、ビームプロフィルが波を打つ現象が現れると考えられる。そして、回折格子に発生した熱により、回折格子近傍の気体に自然対流が起こり、ビームプロフィルが揺らぐものと考えられる。
【0015】本発明は、上記の知見に基づいてなされたもので、波長選択素子として回折格子を有する狭帯域レーザ装置において、前記回折格子の反射面に気体を流す気流発生手段を設けたことを特徴としている。」
(3)「【0017】
【作用】上記の如く構成した本発明は、気流発生手段によって回折格子の反射面(表面)に、強制的に気体の流れを生じさせる。これにより、回折格子が冷却されるとともに、回折格子の表面付近の気体を強制的に移動させ、回折格子近傍の気体の温度上昇を防止する。従って、回折格子の反射面近傍の気体の熱分布の発生と自然対流による影響とが除去され、ビームプロフィルの揺らぎが小さくなって、安定したビームプロフィルを得られる。」
(4)「【0020】……従って、実施例は、回折格子30の表面付近の気体の温度が部分的に上昇し、その部分の屈折率が変化し、回折格子30の選択波長が変化してビームプロフィルが波を打ったような状態になることを避けることができる。」
(5)「【0024】図6は、窒素ガスなどのパージガスを利用して回折格子の表面に気流を発生させるようにしたものである。すなわち、図6において、窒素ガス源である窒素ガスボンベ50は、気流発生手段を構成しており、バルブ52が設けてあって、このバルブ52に流量計54を有する管56が接続してある。そして、管56の先端吐出口58は、回折格子30の反射面の近くに配置され、回折格子30に形成した溝のピッチ方向に沿って、回折格子30の面とほぼ平行に窒素ガス60を吹き出すようになっている。」
(6)「【0026】前記実施例においては、波長選択素子としてプリズム26、28とエタロン30と回折格子30とを用いた狭帯域レーザ装置について説明したが、波長選択素子がプリズムと回折格子とからなる狭帯域レーザ装置であってもよい。……そして、前記実施例においては、エキシマレーザ装置について説明したが、He-Neレーザ等の他のガスレーザや色素レーザ等の他のレーザ装置であってもよい。」
(7)図6から、レーザチャンバ、プリズム,エタロン及び回折格子を有する狭帯域レーザ装置と、回折格子の反射面にガスを流す様子が見てとれる。

上記(2)、(3)によれば、引用例に記載されたものは「回折格子の反射面に気体を流す気流発生手段」を有し、当該気流発生手段により安定したビームプロフィルを得ていることから、引用例には、狭帯域レーザ装置の安定したビームプロフィルを得る方法が記載されている。
また、回折格子30の表面に「回折格子の格子」が形成されていることは自明であり、上記(5),(7)によれば、先端吐出口58は、回折格子30に形成した溝のピッチ方向に沿って、回折格子30の面とほぼ平行に窒素ガス60を吹き出していることから、引用例は、回折格子の格子が形成された表面を横切ってガスを流す段階を有している。
よって、上記(1)〜(7)により、引用例には次の発明が記載されていると認める。
「格子表面を形成する回折格子を備える、プリズム,エタロン及び回折格子からなる構成を有する狭帯域レーザ装置の安定したビームプロフィルを得る方法であって、格子表面を横切ってガスを流す段階を含む方法。」(以下、「引用発明」という。)

4.対比・判断
次に、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における「回折格子」及び「狭帯域レーザ装置」は、それぞれ、本願発明における「格子」及び「狭帯域ガス放電レーザ」に相当する。
(2)上記「3.(1)」のとおり、引用発明の「プリズム,エタロン及び回折格子からなる構成」は、回折格子により波長選択を行いレーザ光の狭帯域化を計る構成であるから、本願発明における「格子に基づく細線化ユニット」に相当する。
(3)上記「3.(3)」によれば、引用発明は、ビームプロフィルの揺らぎを小さくするために、回折格子30の反射面にガスを流し、よって、回折格子の反射面近傍の気体の熱分布の発生と自然対流による影響とを除去している。
そして、気体の熱分布の発生が除去されることが、その熱分布により生じていた屈折率分布変化(上記「3.(4)」参照)が除去されることに等しいことは自明であり、当該屈折率分布変化が狭帯域化素子である回折格子(上記(1)参照)の波長選択機能を阻害していたことは明らかである。
よって、回折格子30の反射面にガスを流すことにより、回折格子が正常に波長選択の機能を果たすこととなり、つまり、狭帯域レーザ装置の帯域幅が制御される。
したがって、引用発明における「ビームプロフィルの揺らぎを小さくする方法」とは、回折格子が正常に波長選択の機能を果たす方法であり、よって、本願発明における「帯域幅制御方法」に相当するものである。

そうすると、引用発明は本願発明の技術事項を充足するから、両者に相違は認められず、両者は同一である。

なお、審判請求人は、平成15年12月25日付け手続補正書(審判請求書)及び平成15年1月29日付け意見書において、
「引用文献4には、格子の表面を横切るように空気を流すことは記載されている。しかしながら、この引用文献4の構成は、同じ発明者によって後に公表された引用文献2によって否定されている。この点は、平成15年1月29日付けの意見書においても述べたように、本願の出願時点における技術水準を認定する際に考慮されるべき重要な事項であると思料する。」(引用文献4とは上記引用例に対応する)、
「(13)補正後の請求項13(補正前の請求項15に対応する)について
上記(1)において述べたように、本願の出願人が米国において本出願の基礎となる特許出願を行った時点では、グレーティング(格子)の表面にパージガスを流すという技術的思想はうまく機能しないものと認識されており、これに対して、本願の出願人は、補正後の請求項13に記載のように、格子表面を横切ってガスを流すようにしたことによって、本願明細書の段落[0018]に記載されているように、「流れそれ自体によって引き起こされる空気のゆがみがレーザの作動に影響することを防ぐ」ことができます。」と主張している。
上記主張に関連して、本件明細書には、
「【0017】格子表面を横切るパージ流を注意深く制御して流れに関係するゆがみを避けることが重要である。出願人は様々な流量をテストし、過剰な流動は利益よりも害が大きいことを確定した。……
【0018】……非常に小さな流量及び、それに対応する小さいガス速度は、流れそれ自体によって引き起こされる空気のゆがみがレーザの作動に影響することを防ぐ。」と記載されている。
これらを総合すると、請求人の上記主張は、『引用発明は格子の表面を横切るように空気を流しているが、その流れ自体がレーザの作動に影響を与えているのに対して、本願発明は「流れそれ自体によって引き起こされる空気のゆがみがレーザの作動に影響しないように、非常に小さな流量及び、それに対応する小さなガス速度で、格子表面を横切ってガスを流している」点で両者は相違している』ことと解釈することができる。
しかしながら、本願発明は「格子表面を横切ってガスを流す段階を含む」構成を有するのみであって、ガスの流量等の限定はなされていないのであるから、上記主張は、本願発明の構成に基づかないものであり、採用することができない。
そして、本願発明が新規であるか否かの判断は、引用例に記載された発明と本願発明とを対比して判断するものであり、引用例に記載された発明が本願の出願時に否定された技術であるか否かは本願の新規性の判断を左右するものではないことから、引用発明が本願の出願時に否定された技術であるとしても、本願発明が引用発明と同一であるとの判断を覆す理由とはならない。
また、原査定の拒絶理由は、本願発明が特許法第29条1項3号に該当するというものではないが、審判請求人は、平成15年1月29日付け意見書において、本願発明と引用例の記載事項とを対比し、進歩性の前提として新規性についても検討していることが明らかである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項3号の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-26 
結審通知日 2006-05-08 
審決日 2006-05-22 
出願番号 特願2000-403713(P2000-403713)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河原 正杉山 輝和  
特許庁審判長 向後 晋一
特許庁審判官 井上 博之
吉野 三寛
発明の名称 ヘリウムパージされる細線化ユニットを備える高エネルギーガス放電レーザ  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 箱田 篤  
代理人 今城 俊夫  
代理人 中村 稔  
代理人 村社 厚夫  
代理人 小川 信夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  

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