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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1146191
審判番号 不服2003-19939  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-09 
確定日 2006-11-02 
事件の表示 平成 9年特許願第175014号「サーマルヘッドの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 1月26日出願公開、特開平11- 20215〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明の認定
本願は平成9年6月30日の出願であって、平成15年9月2日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月9日付けで本件審判請求がされたものである。
本件については、出願後の平成14年9月20日付けで明細書についての手続補正がされているから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は同手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「セラミック基板素体を、複数の長方形状の区画に、各区画の長辺側が互いに接するように区分するとともに、各区画内に複数個の発熱素子から成る発熱素子列を長辺に沿って設け、しかる後、前記セラミック基板素体を各区画に分割して複数のサーマルヘッドを得るサーマルヘッドの製造方法において、
前記セラミック基板素体の中心点が位置する区画に対して外方に位置する区画内の発熱素子列の中央域を前記中心点側に近づけて変位させたことを特徴とするサーマルヘッドの製造方法。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-84947号公報(以下「引用例1」という。)には、次のア〜エの記載が図示とともにある。
ア.「一枚の素材板を構成する各単位基板の上面の各々に、帯状のグレーズ層を、前記各単位基板のうち相隣接する二つの単位基板の間におけるスクライブラインに対して略直角に延びるように形成し、このグレーズ層の上面に複数個の発熱体を形成し、次いで、各単位基板の表面に前記発熱体に対する複数本の電極体を形成したのち、前記素材板を、各単位基板間のスクライブラインに沿って、各単位基板ごとに分割するようにした・・・シリアル型サーマルヘッドの製造方法」(請求項1)
イ.「従来、シリアル型サーマルヘッドの製造に際しては、一つのサーマルヘッドを構成する単位基板を複数個を一体的に連接した素材板を用意し、この素材板の表面に、各単位基板各々に対する帯状のグレーズ層を、各単位基板のうち相隣接する二つの単位基板について一直線状に連続して形成し、このグレーズ層の上面に複数個の発熱体を形成し、次いで、各単位基板の表面に前記発熱体にする複数本の電極体を形成したのち、前記素材板を、各単位基板の境目のスクライブラインに沿って、各単位基板ごとに分割すると言う方法を採用していた(例えば、特開昭57-46893号公報等)。」(段落【0002】参照)
ウ.「図2に示すように、図1に示す一つのシリアルサーマルヘッド20を構成する単位基板11の複数枚を、複数の偶数列(本実施例では2列)に並べて一体的に連結して成る素材板を用意し、この素材板10の表面における各単位基板11の箇所の各々には、複数個の開口部を備えたスクリーンマスク(図示せず)を使用して、ガラスペーストを塗着したのち、適宜温度で焼成することによって、図3に示すように、帯のグレーズ層12を形成する。・・・図6に示すように、前記素材板10の各単位基板11の各々におけるグレーズ層12の上面に、複数個の発熱体14を形成し、更に、各単位基板11の上面の各々に、前記各発熱体14に対する複数本の電極体15を形成したのち、前記各単位基板11の各々の上面に、ガラス等による保護膜を形成する。そして、前記素材板10を、前記縦スクライブライン13及び該縦スクライブライン13と直角の横スクライブライン16に沿って、各単位基板11ごとに分割することにより、図1に示すようなシリアルサーマルヘッド20を得るのである。」(段落【0011】〜【0014】)
エ.図6から、長方形状の単位基板11内に複数個の発熱体14からなる発熱体14の列を長辺に沿って設けることが看取できる。

3.引用例1記載の発明の認定
記載ア〜エを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1には次のような発明が記載されていると認めることができる。
「一つのシリアルサーマルヘッド20を構成する長方形状の単位基板11の複数枚を、2列に並べて一体的に連結して成る素材板10を用意し、この素材板10の表面における各単位基板11の箇所の各々には、複数個の発熱体14からなる発熱体の列を長辺に沿って設け、その後、前記素材板10を、縦スクライブライン13及び該縦スクライブライン13と直角の横スクライブライン16に沿って、各単位基板11ごとに分割することによりシリアルサーマルヘッド20を得るシリアルサーマルヘッド20の製造方法。」(以下「引用発明1」という。)

4.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
引用発明1の「素材板10」、「発熱体14」及び「シリアルサーマルヘッド20」は、本願発明の「基板素体」、「発熱素子」及び「サーマルヘッド」にそれぞれ相当する。
引用発明1の「素材板10を、縦スクライブライン13及び該縦スクライブライン13と直角の横スクライブライン16に沿って、各単位基板11ごとに分割する」前の工程である「長方形状の単位基板11の複数枚を、2列に並べて一体的に連結して成る素材板10を用意し、この素材板10の表面における各単位基板11の箇所の各々には、複数個の発熱体14からなる発熱体の列を長辺に沿って設け」る工程は、「素材板10(基板素体)を、複数の長方形状の区画に区分するとともに、各区画内に複数個の発熱体14(発熱素子)から成る発熱体の列(発熱素子列)を長辺に沿って設け」る工程であるということができる。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「基板素体を、複数の長方形状の区画に区分するとともに、各区画内に複数個の発熱素子から成る発熱素子列を長辺に沿って設け、しかる後、前記基板素体を各区画に分割して複数のサーマルヘッドを得るサーマルヘッドの製造方法」
である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉
A.基板素体の材料が、本願発明ではセラミックであるのに対して、引用発明1では定かでない点、
B.基板素体が、本願発明では、長方形状の各区画の長辺側が接するように区分されている、すなわち長方形状の各区画を短辺方向に並べて列をなすと共に該列が一列であるように区分されているのに対して、引用発明1では、長方形状の各区画が長辺が接するだけでなく短辺も接するように区分されている、すなわち長方形状の各区画を短辺方向に並べた列が二列であるように区分されている点、
C.基板素体の各区画内の発熱素子列について、本願発明では、基板素体の中心点が位置する区画に対して外方に位置する区画内の発熱素子列の中央域を前記中心点側に近づけて変位させたとしているのに対して、引用発明1では定かでない点。

5.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
ア.相違点Aについて、
引用例1には、素材板10の材料については、何ら記載されていないが、サーマルヘッドの基板に求められるのは、絶縁性、耐熱性、加工性(種々の寸法、形状に加工可能なこと)等であるから、通常、セラミックを使用することがきわめて普通のことであり、それ以外の材料が使用されることはめったにないことであるから、引用例1に接した当業者が素材板10の材料がセラミックと考えることは、ごく自然なことである。そして、このことは、当該引用例1で引用している特開昭57-46893号公報(記載イ参照)には、「この種印刷ヘッドにおいて、セラミックなどの絶縁性の基板の表面に・・・グレーズ層を形成し、その表面に発熱体(及びその通電用の導体)を形成した構成が知られている。」(1頁左下欄18行〜右下欄1行)と記載されていることからも首肯でき、さらに、複数のサーマルヘッドを分割して得るための基板素体をセラミックで形成することきわめて普通であることの例を挙げるならば、特開平2-2027号公報、特開平1-130958号公報等を挙げることができる。
そうすると、相違点Aは、単なる慣用技術の付加によるものにすぎない。
イ.相違点Bについて、
サーマルヘッドは、印字ドットを形成する発熱素子を複数個直線状に並べて基板上に形成するものであり、したがって、その基板は、通常、長方形状であるから、当該基板を1枚の基板素体を分割して形成するに当たって、基板素体が、サーマルヘッドの基板となる長方形状の各区画の長辺が接して短辺方向に複数並べて列をなすと共に該列が複数であるように区分されるようにすることは、引用発明1がそうであるように、当業者が普通に考えることであり、さらに、当該列を一列のみとすることも、例えば、上記特開平2-2027号公報にみられるように周知である。
そうすると、引用発明1において、相違点Bのように、基板素体が、長方形状の各区画の長辺側が接するように区分されているすなわち長方形状の各区画を短辺方向に並べて列をなすと共に該列が一列であるように区分されるように構成することは、当業者にとって想到容易である。
ウ.相違点Cについて、
特開平3-275311号公報の「従来、このような一枚のグリーンシートから複数個のセラミック基板を製造する方法としては、キャスティング、バイヤ(VIA)形成、導体印刷、積層処理等を実施するとにより大型グリーンシートを形成し、続いてこの大型グリーンシートに対して直接焼成処理を行なった後、一つ一つのセラミック基板に分割する方法が採られていた。・・・周知のようにグリーンシートは焼成処理を行うことにより約17%も収縮する。また、この収縮率の度合いは、グリーンシートの状態や積層処理時における積層圧力により変化する。大型のグリーンシートの場合、グリーンシートをその全体にわたり均一に製造することは困難であり、積層圧力にもどうしてもバラツキが発生してしまう。従って、従来のように大型のグリーンシートを直接焼成する製造方法では、焼成中にグリーンシートの各所で収縮率のバラツキが生じてしまい、またこの収縮差が周囲に影響を及ぼすため、焼成後に分割された各セラミック基板に反りや変形か発生してしまうという課題があった。」(2頁右上欄4行〜左下欄4行)の記載にみられるとおり、セラミックで形成された大型の基板素体を分割して複数個のセラミック基板を得るときに、分割後の各セラミック基板にそりや変形が発生してしまう課題があることは周知のことであるから、引用発明1において、基板素体をセラミックで形成したときに分割して得られた各サーマルヘッドの発熱素子列が、分割後の各セラミック基板に発生するそりや変形のために、湾曲してしまうことは容易に予想できることである。
一方、原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-39856号公報(以下「引用例2」という。)には、次のa〜cの記載が図示とともにある。
a.「サーマルヘッドの一般的構成は、図1の(B)に示すように、放熱板となる支持板1上にアルミナ(Al2O3 )を原料とした絶縁基板からなるヘッド基板2とガラス・エポキシ銅張積層板からなるプリント配線板3を当接部7において当接して両面接着テープ10で固定し、ドライバIC6の保護を目的としたエポキシを主材とする熱硬化性の硬質レジン5により、ドライバIC6及びその接続回路を覆って前記当接部7を跨ぐように封止している。また、蓄熱を目的としたグレーズ層8上に共通リード電極パターン9と個別リード電極パターン10の端子電極9a、10aがドット単位で櫛歯状に形成されている(以下、櫛歯状端子電極9a、10aという)。そして、前記櫛歯状端子電極9a、10a上に帯状発熱抵抗体4(以下、発熱抵抗体4という)を配置する。」(段落【0002】〜【0003】参照)
b.「図4に示す硬質レジン5の熱硬化処理前の状態から図5に示すような熱硬化処理後にはヘッド基板2に湾曲変形が生じる。このようにヘッド基板2が湾曲した場合、その表面に形成されている発熱抵抗体4a(図4)も図5に示す発熱抵抗体4bのように湾曲する。このように湾曲した発熱抵抗体4bの中央部の中心にプラテンローラの中心を合わせて印字を行った場合、発熱抵抗体4bの両端部は前記ヘッド基板2の湾曲変形により、プラテンローラの中心からずれてしまうので、かすれが印字の両端部に発生して鮮明な印字が得られなくなる。そこで図2に示すように、ヘッド基板2を構成する絶縁基板の表面に、予め硬質レジン5の熱硬化処理後のヘッド基板の湾曲変形と逆の湾曲形状に補正した補正発熱抵抗体12aを形成することが提案されている。」(段落【0006】〜【0007】参照)
c.「前記補正発熱抵抗体12aは予め前記補正ヘッド基板2の湾曲変形とは逆方向の湾曲形状に形成しているので、図3に示すような目的の位置の略直線状に発熱抵抗体12bが配置されることになり、前記中央位置におけるプラテンローラの中心からずれることがない。」(段落【0013】参照)
引用例2の帯状発熱抵抗体4は連続しているが、ドット単位で印字が行われる際には、ドット単位で櫛歯状に形成されている個別リード電極パターン10の1つの端子電極10aを挟む、同じくドット単位で櫛歯状に形成されている共通リード電極パターン9の2つの端子電極9aの間の帯状発熱抵抗体4の部分が発熱するものであるから、当該部分が各発熱素子を構成するものといえ、また、ヘッド基板2上の帯状発熱抵抗体4は複数個の発熱素子からなる発熱素子列を構成しているということができる。
そうすると、引用例2の上記a〜cの記載及び図1によれば、引用例2には、帯状発熱抵抗体4(複数個の発熱素子からなる発熱素子列)が設けられたヘッド基板が、その後の当該ヘッド基板2とプリント配線板3の当接部における硬質レジン5による封止のための硬質レジンの熱硬化処理によって湾曲変形されるときには、帯状発熱抵抗体4(複数個の発熱素子からなる発熱素子列)を予めヘッド基板2の湾曲変形とは逆方向の湾曲形状に形成することが記載されている。
そして、この引用例2に記載された、複数個の発熱素子からなる発熱素子列が設けられたヘッド基板が、その後の処理によって湾曲変形されるときには、複数個の発熱素子からなる発熱素子列を予めヘッド基板2の湾曲変形とは逆方向の湾曲形状に形成すること(以下、「引用発明2」という。)は、ヘッド基板が、その後の当該ヘッド基板2とプリント配線板3の当接部における硬質レジン5による封止のための硬質レジンの熱硬化処理によって湾曲変形される場合に限らずに、ヘッド基板がその後の処理によって湾曲変形が予想される場合であれば、広く適用可能であることも明らかである。
そうすると、引用発明1において、基板素体をセラミックで形成し、長方形状の各区画の長辺側が接するように区分するとともに、引用発明2を適用して、分割前の区分された各区画の発熱素子列を、予め、分割後の各基板の湾曲変形とは逆方向の湾曲形状に形成することは当業者が格別困難性なく想到できることであると認められる。
上記適用に当たって、各区画内の発熱素子列をどのように形成させるべきかは、実験をすれば分かる。実験の結果は本願の明細書に記載されたとおりだから、引用発明2を適用すれば、自然と相違点Cになる。
ゆえに、相違点A〜Cに係る本願発明の構成を採用することは、当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1、引用発明2、慣用技術及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明が特許を受けることができないから、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-31 
結審通知日 2006-09-05 
審決日 2006-09-19 
出願番号 特願平9-175014
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 義仁  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 津田 俊明
藤井 勲
発明の名称 サーマルヘッドの製造方法  

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