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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1146195
審判番号 不服2003-20791  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-24 
確定日 2006-11-02 
事件の表示 平成10年特許願第280577号「画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月28日出願公開、特開2000- 85182〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成10年9月16日の出願であって、平成15年9月12日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月24日付けで本件審判請求がされるとともに、同年11月25日付けで明細書についての手続補正(以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年11月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
本件補正は、請求項1及びこれとほぼ同文の段落【0016】において、「解像度が一定の画像形成プロセスの画像形成速度を複数種類有した画像形成装置において」とあったのを「画像信号の解像度が一定の画像形成プロセスの画像形成速度を複数種類有した画像形成装置において」と補正するものである(段落【0016】においては、さらに請求項1に近づけた記載とする補正もあわせてされている。)。

2.補正事項の検討
「解像度」とは、その単位が「dpi」で表されるように、単位長さ当たりのドット数である。補正前の「解像度が一定の画像形成プロセスの画像形成プロセスの画像形成速度を複数種類有した」とは、画像形成速度が異なっても印刷された結果の解像度が一定であるとの趣旨に解さなければならない。ところが、画像信号(この定義する「画像情報」とどう区別するのか不明確であるが)は一連のデータにすぎず、長さの概念を含まないから、「画像信号の解像度」の意味が著しく不明確である(当初明細書には「画像信号の解像度」との文言記載はなく、本件補正後においても【請求項1】及び段落【0016】にあるだけである。)。そのため、「解像度」に「画像信号の」との修飾語を付加することの目的を把握することすら困難であり、特許請求の範囲の減縮(特許法17条の2第4項2号)に該当すると認めることはできない(他の補正目的に該当しないことはいうまでもない。)。すなわち、本件補正は特許法17条の2第4項の規定に違反している。
もっとも、形式的には「解像度」を限定していることから、特許請求の範囲の減縮に該当するかどうかをさらに検討する。「画像信号の解像度」の意味が不明確であることは上述のとおりであるが、画像形成装置では露光走査に供するためのビットマップデータを生成するのが通常であるから、このビットマップデータが「画像信号」であり、画像形成速度が異なる場合のビットマップデータが同一データであるとの趣旨かもしれない。そうすると、同一のビットマップデータを生成し使用する結果、「解像度が一定」となる旨限定することになるが、同一のビットマップデータを生成し使用することの課題は、補正前請求項1に係る発明の課題と同一とはいえない。補正前請求項1からは、露光走査する際の走査速度を一定とし、画像形成速度を異ならせることの課題(明細書の「画像形成装置は、完全に2系統の速度体系を備える必要が有り、コストアップにつながっていた。」(段落【0014】との問題点を解決することが課題である。)しか把握することができず、同一のビットマップデータを生成し使用することとは関係がない。したがって、「画像信号の解像度」につき、上記解釈をするとしても、特許法17条の2第4項にいう特許請求の範囲の減縮には該当しない。
百歩譲って、本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当するとしても、上記のとおり請求項1の記載は著しく不明確であるから、特許法36条6項2号に規定する要件を満たさず、請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。すなわち、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
以上のとおりであるから、特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての判断
1.本願発明の認定
本件補正が却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年6月30日付け手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「画像情報に応じて像担持体上に露光走査する工程を含む画像形成プロセスを備えると共に、解像度が一定の画像形成プロセスの画像形成速度を複数種類有した画像形成装置において、
前記画像形成速度にかかわらず、前記露光走査する際の走査速度を一定とするとともに前記画像形成速度が標準速度の場合には副走査方向に1走査分の露光走査を行い、画像形成速度が前記標準速度に対して(1/N)倍の速度の場合には、同じ画像情報について副走査方向にN走査分繰り返す露光走査を行うことを特徴とする画像形成装置。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-76130号公報(以下「引用例1」という。)には、次のア〜オの記載が図示とともにある。
ア.「ユーザーの要望に応じて,画素密度や,印字速度を選択できるようにすることにより,利便性の向上を図る。」(【要約】の【目的】欄)
イ.「感光体上に静電潜像を形成し,該静電潜像をトナー現像した後,記録紙に転写する電子写真方式の画像形成装置において,高画素密度での画像形成を指定する高画素密度指定手段と,前記高画素密度指定手段を介して高画素密度が指定された場合に,前記感光体の線速および転写位置における記録紙の搬送速度を低下させる制御手段とを備えたこと特徴とする画像形成装置。」(【請求項1】)
ウ.「図2は,光書き込みユニット103の要部斜視図を示し,レーザービームを出力するLD(レーザーダイオード)ユニット201と,LDユニット201から出射されたレーザービームを後述するポリゴンミラー205方向へ導く第1ミラー202および第1シリンダレンズ203と,レーザービームを走査する偏向ミラーであるポリゴンミラー205およびポリゴンミラー205を回転駆動するポリゴンモータ204とからなる回転偏向器206と,レーザービームを感光体ベルト102面に等直線ピッチで走査するように変換補正するfθレンズ207と,レーザービームを感光体ベルト102へ導く第2ミラー208および第2シリンダレンズ209とから構成される。」(段落【0020】)
エ.「高画素密度の印字を行いたい場合に,ユーザーがオペレーションパネル406上に設けられた所定のON・OFFスイッチSWを押下すると,CPU407は高画素密度の印字モードであることを認識し,制御バス408を介して,プログラマブルカウンタ405で構成される分周回路の分周比を変更し,基準クロックを分周することにより,駆動系メインモータのみの回転速度を落とす。換言すれば,ポリゴンモータ204の回転速度(回転数)はそのままで,感光体ベルト102の線速と,搬送系全体の速度を低下させる。」(段落【0031】)
オ.「ユーザーがオペレーションパネル406上に設けられた倍速印字SW1を押下すると,CPU407は倍速印字モードであることを認識し,制御バス408を介して,プログラマブルカウンタ405で構成される分周回路の分周比を変更し,基準クロックを分周することにより,駆動系メインモータのみの回転速度を2倍程度に上昇させる。換言すれば,ポリゴンモータ204の回転速度(回転数)はそのままで,感光体ベルト102の線速と,搬送系全体の速度を上げる。」(段落【0067】)

3.引用例1記載の発明の認定
記載イにはポリゴンモータの回転速度についての記載がないけれども、記載エのとおり「ポリゴンモータ204の回転速度(回転数)はそのままで感光体ベルト102の線速と,搬送系全体の速度を低下させる。」としてもよいことは明らかである。
記載オにおける「倍速印字モード」と倍速でないモードを比較すると、倍速でないモードの画素密度は倍速印字モードの画素密度に比して、縦横ともに2倍である。すなわち、記載エでは、「高画素密度の印字モード」と高画素密度でないモードが区分され、記載オでは倍速でないモードと「倍速印字モード」が区分され、それぞれ前者のモードが後者のモードよりも、高画素密度かつ低速であると認めることができる。そうである以上、高画素密度でないモードと、同モードに比して縦横2倍の高画素密度の印字モードが引用例1には記載されていると認めることができ、高画素密度の印字モードにおける感光体ベルトの線速が、高画素密度でないモードにおける線速の1/2であることは自明である。
したがって、引用例1には次のような画像形成装置が記載されていると認めることができる。
「ポリゴンミラー及びそれを回転駆動するポリゴンモータを含む光書き込みユニットにより感光体上に静電潜像を形成し,該静電潜像をトナー現像した後,記録紙に転写する電子写真方式の画像形成装置において,
高画素密度でないモードと、同モードに比して縦横2倍の高画素密度の印字モードを選択する手段を有し、高画素密度の印字モードが選択された場合に,前記ポリゴンモータの回転速度は高画素密度でないモードと同一とし,前記感光体の線速を1/2に低下させる制御手段とを備えた画像形成装置。」(以下「引用発明1」という。)

4.本願発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
以下では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
引用発明1の「感光体」及び「光書き込みユニットにより感光体上に静電潜像を形成」は、本願発明の「像担持体」及び「画像情報に応じて像担持体上に露光走査」と異ならない。また、「感光体の線速を1/2」にすれば「画像形成速度」が1/2になるから、本願発明と引用発明1は「画像情報に応じて像担持体上に露光走査する工程を含む画像形成プロセスを備えると共に、画像形成プロセスの画像形成速度を複数種類有した画像形成装置」である点で一致する。
引用発明1においては、高画素密度でないモードと高画素密度の印字モードにおけるポリゴンモータの回転速度は等しいから、両モードにおける「露光走査する際の走査速度」も等しい。すなわち、「前記画像形成速度にかかわらず、前記露光走査する際の走査速度を一定とする」点においても、本願発明と引用発明1は一致する。さらに、引用発明1の「高画素密度でないモード」は本願発明の「画像形成速度が標準速度の場合」に相当し、「画像形成速度が標準速度の場合には副走査方向に1走査分の露光走査を行」う点及び「画像形成速度が前記標準速度に対して(1/N)倍の速度の場合」がある点でも本願発明と引用発明1は一致する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「画像情報に応じて像担持体上に露光走査する工程を含む画像形成プロセスを備えると共に、画像形成プロセスの画像形成速度を複数種類有した画像形成装置において、
前記画像形成速度にかかわらず、前記露光走査する際の走査速度を一定とするとともに前記画像形成速度が標準速度の場合には副走査方向に1走査分の露光走査を行い、画像形成速度が前記標準速度に対して(1/N)倍の速度の場合がある画像形成装置。」である点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点〉本願発明では「画像形成速度が前記標準速度に対して(1/N)倍の速度の場合には、同じ画像情報について副走査方向にN走査分繰り返す露光走査を行うこと」との構成を有し、「解像度が一定の画像形成プロセスの画像形成速度を複数種類有」するのに対し、引用発明1はこれら構成を有さない点。

5.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-151799号公報(以下「引用例2」という。)には、次のカ〜コの記載がある。
カ.「操作パネル28によりサマリー印字が指示されたとき、プリンタの状況や各種設定項目の設定状態などを知らせるための印字に必要な情報を、CPU22が中間記述言語によって作成してRAM25のページバッファにページ構成を行なう。同時に、印字に必要な文字情報をROM23またはフォントROM26から読み出して、RAM25上のフォントファイルにビットマップ情報として展開しておく。」(段落【0033】)
キ.「このとき、ビットマップ情報はプリントエンジン11の持つ通常の印字において使用される解像度の1/n(nは1を越える数値)の解像度で展開される。例えば、プリントエンジンの持つ解像度が600dpiのとき、1/2の解像度の300dpiで展開する。」(段落【0034】)
ク.「パーシャルビットマップメモリのデータを順次読み出して、ビデオデータとしてビデオ制御部31を通してプリントエンジン11に送出するが、このビットマップはプリントエンジン11の持つ解像度の1/nの解像度であるため、主走査および副走査に対してデータをn倍に変換して送出する。」(段落【0036】)
ケ.「上記n倍の変換は、中間記述をもとにパーシャルビットマップに変換する際ににn倍にしてもよい。つまり、パーシャルビットマップデータをプリントエンジン11に必要な解像度で作成する。」(段落【0037】)
コ.「300dpiのビットマップデータの例を図3に示す。さらに、このデータをビデオ制御部31または中間記述をもとにパーシャルビットマップメモリに書き込む際に単純にn倍(この例では2倍)した後のビットマップデータは図4に示すようになる。」(段落【0043】)
また、引用例2の【図3】と【図4】を比較すれば、【図3】の個々のデータが縦横2回ずつ繰り返されたものが【図4】であり、【図4】は【図3】に対して縦横2倍の高画素密度となっている。すなわち、記載カ〜コ並びに【図3】及び【図4】によれば、引用例2には、縦横2倍の高画素密度を得るために、個々のデータを縦横2回ずつ(主走査方向及び副走査方向に2回)繰り返す技術が記載されている。
引用発明1における「高画素密度でないモード」及び「高画素密度の印字モード」は、画素密度に関する限り、引用例2記載の300dpiのビットマップデータ(【図3】)と600dpiのビットマップデータ(【図4】)の関係と同じであるから、引用発明1において、引用例2に記載された縦横2倍の高画素密度を得る技術を採用することは当業者にとって想到容易というべきである。
次に、引用発明1に引用例2記載の技術を採用すれば、相違点に係る本願発明の構成に至るかどうかを検討する。引用例2記載の技術では、同一データを副走査方向に2回繰り返すのだから、「画像形成速度が前記標準速度に対して(1/N)倍の速度の場合には、同じ画像情報について副走査方向にN走査分繰り返す露光走査を行うこと」との構成に至ることは明らかである。ところで、本願発明では「画像形成速度が前記標準速度に対して(1/N)倍の速度の場合には、同じ画像情報について副走査方向にN走査分繰り返す露光走査を行う」のであるから、副走査方向における単位長さ当たりのドット数はN倍になる。それにもかかわらず「解像度が一定」としているのであるから、同一データに起因し、繰り返し記録されるドットを1ドット扱いするものと解さなければならない。そうであれば、引用例2記載の技術では同一データを主走査方向及び副走査方向に2回繰り返すことにより、主走査方向及び副走査方向の現実のドット数は2倍になるけれども、同一データを繰り返し記録しても1ドット扱いする立場では、主走査方向及び副走査方向のドット数は変わらない。そうである以上、引用発明1に引用例2記載の技術を採用した場合には、高画素密度でないモードと縦横2倍の高画素密度の印字モードの解像度は同一であるから、「解像度が一定の画像形成プロセスの画像形成速度を複数種類有」することになる。すなわち、引用発明1に引用例2記載の技術を採用すれば、相違点に係る本願発明の構成に至るといわなければならない。
そうである以上、引用発明1に引用例2記載の技術を採用することにより相違点に係る本願発明の構成に至ることは当業者にとって想到容易であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用例2記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

6.予備的判断
本件補正は却下されなければならないが、仮に本件補正が却下されないとし、さらに「画像信号の解像度が一定」との文言について、画像形成速度が異なる場合のビットマップデータが同一データであると解した場合に、進歩性の判断に影響を及ぼすかどうか検討を加えておく。
引用例2の記載ケには「パーシャルビットマップに変換する際ににn倍にしてもよい。」とあり、n倍に変換したビットマップデータであれば、引用発明1に引用例2記載の技術を採用しても「画像形成速度が異なる場合のビットマップデータが同一データ」にはならない。しかし、引用例2には「してもよい。」と記載されているのだから、パーシャルビットマップに変換する際にn倍にしない場合も想定されている。その場合、記載クの「主走査および副走査に対してデータをn倍に変換して送出」をどのように行うのか、引用例2のみからは明らかでないけれども、本願出願前に頒布された特開平6-315083号公報に「展開した同一ラインの1ドットの画像データをN回ずつ、更に、同一ラインの画像データをN回ずつ読み出す画像データ書込み読出手段200と、読み出された画像データに基づき作像する作像手段3とを備えた」(【要約】の【構成】欄)と記載されているような「画像データ書込み読出手段」を採用すれば済むことであり、このような「画像データ書込み読出手段」を引用発明1に採用する場合には、画像形成速度が異なる場合のビットマップデータが同一データであることに帰する。
したがって、本件補正を採用し、「画像信号の解像度が一定」との文言について上記解釈をするとしても、進歩性の判断には影響を及ぼさない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく本願は拒絶を免れない。
 
審理終結日 2006-08-24 
結審通知日 2006-08-29 
審決日 2006-09-19 
出願番号 特願平10-280577
審決分類 P 1 8・ 572- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 藤本 義仁
島▲崎▼ 純一
発明の名称 画像形成装置  
代理人 世良 和信  

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