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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G02F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1146324
審判番号 不服2004-17185  
総通号数 84 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-10-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-19 
確定日 2006-11-01 
事件の表示 平成11年特許願第104197号「垂直配向型ECBモード液晶表示素子」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月20日出願公開、特開2000-292815〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年4月12日の出願であって、平成16年7月8日付で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年8月19日付で拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同年8月27日付で特許法第17条の2第1項第3号の規定による手続補正がなされたものである。

2.平成16年8月27日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年8月27日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、請求項1を下記のように補正することを含むものである。
「【請求項1】電極を表面に形成し、所定間隔で互いに対向配置された一対の基板と、前記一対の基板間に配置される液晶層とを有し、前記液晶層に電圧が印加されていない状態で液晶分子が基板面に対して垂直に配向する性質を有する垂直配向型ECBモード液晶表示素子において、
前記液晶層は屈折率異方性が約0.2以上の液晶で構成され、前記基板と前記液晶層との界面に存在する液晶分子にプレティルト角が与えられており、該プレティルト角が、前記基板面に対して85°〜60°の範囲に設定され、かつ前記一対の基板との両界面間で液晶分子に前記基板と平行な面内の方位角方向のねじれ角が与えられており、前記ねじれ角が180°〜270°の範囲に設定されている垂直配向型ECBモード液晶表示素子。」

上記補正は、補正前の請求項1の「液晶層」をさらに限定しようとするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正後の請求項1(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。

(2)刊行物記載の発明
原審の拒絶理由に引用した刊行物1:特開平1-269921号公報には、下記の事項が記載されている。
「(具体例1)
透明電極(7a)、(7b)としてI・T・Oが200本縞状にガラス基板(9a)、(9b)上に形成されている。このように透明電極(7a)、(7b)が形成されたガラス基板(9a)、(9b)上に一塩基性クロム錯体層(図示せず)が形成され、更にポリイミドが配向層(5a)、(5b)として着膜されラビング処理されている。そしてこのガラス基板(9a)、(9b)のラビング方向が270°になるように位置合せし、ガラス基板(9a)、(9b)間隔dが7μmになるように・・・制御され、エポキシ樹脂によって周囲が封止されている。さらにこのガラス基板(9a)、(9b)には2枚の偏光板(11a)、(11b)が第2図に示されているようにガラス基板(9a)、(9b)のラビング処理方向からそれぞれ30°捩れた状態で設置され液晶セルと成っている。」(5頁左下欄5行〜右下欄2行)、
「このような構成の液晶表示装置(1)の動作を示すと、電圧が印加されていない状態では第1図中のb領域に示すように液晶分子の長軸がガラス基板(9a)、(9b)に対して垂直ないしほぼ垂直になるため白色あるいは透明な表示となる。また電圧が印加されると液晶分子はガラス基板(9a)、(9b)間で270°捩れた螺旋構造となり、ガラス基板(9a)、(9b)に対して水平ないしほぼ水平になるため、光の複屈折効果による青色と黒色染料の合成色で黒色のノーマリホワイト表示を行うことができる。」(5頁右下欄10〜20行)、
「(具体例2)
ガラス基板(9a)、(9b)の間隔dを8μmとした具体例1の液晶セルに、複屈折率Δnが0.10のビシクロヘキサン系ネマティック液晶中にカイラル剤をナチュラルピッチpが11.9μm(d/pが0.68)になるように混合した液晶組成物(3)を注入し封止した。更に偏光板(11a)、(11b)を具体例1と同様に設置し液晶表示装置(1)とした。」(6頁左上欄8〜16行)、
「(具体例3)
具体例2の液晶セルに、ビシクロヘキサン系ネマティック液晶組成物中にカイラル剤をナチュラルピッチpが11.1μm(d/pが0.72)になるように混合し、黒色2色性染料を3wt%混合した液晶組成物(3)を注入し封止した。更に2枚の偏光板(11a)、(11b)の吸収軸をラビング処理方向と直交するように設置し液晶表示装置(1)とした。この時、電圧無印加状態でのチルト角は約85°であった。このような構成の液晶表示装置(1)では・・・印加電圧-透過率特性は急峻でヒステリシス生じなかった。」(6頁右上欄8行〜左下欄4行)

上記によれば、具体例3の液晶表示装置は、具体例2の液晶セルにおいてカイラル剤をナチュラルピッチpが11.1μm(d/pが0.72)になるように混合したものであり、具体例2の液晶表示装置は、具体例1の液晶セルにおいて間隔dを8μmとしカイラル剤をナチュラルピッチpが11.9μm(d/pが0.68)になるように混合したものであって、配向処理については具体例1と同様であって、チルト角は配向処理により決まるものであるから、結局具体例1ないし具体例3の液晶表示装置においては、電圧無印加状態でのチルト角は約85°であると認めることできる。
また同様に、具体例1ないし具体例3の液晶表示装置においては、ラビング方向が270°であると認めることできる。
これと上記摘記事項とから、刊行物1(主として具体例3)には、
「ガラス基板(9a)、(9b)上に透明電極(7a)、(7b)を形成し、間隔を8μmとしてガラス基板(9a)、(9b)を対向配置した液晶セルに複屈折率Δnが0.10のビシクロヘキサン系ネマティック液晶中にカイラル剤を混合した液晶組成物(3)を注入し、電圧が印加されていない状態で液晶分子の長軸がガラス基板(9a)、(9b)に対してほぼ垂直になり、電圧が印加されると光の複屈折効果による表示を行う液晶表示装置において、電圧無印加状態でのチルト角は約85°であり、電圧が印加されると液晶分子はガラス基板(9a)、(9b)間で270°捩れた螺旋構造となる液晶表示装置」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「ガラス基板(9a)、(9b)」および「透明電極(7a)、(7b)」は、本願補正発明の「一対の基板」および「電極」に相当する。
(イ)引用発明の「カイラル剤を混合した液晶組成物(3)」は、本願補正発明の「液晶層」に相当し、該液晶組成物に、「一対の基板との両界面間で液晶分子に前記基板と平行な面内の方位角方向のねじれ角が与えられて」いることは、刊行物1の上記記載事項からみて、明らかである。
(ウ)引用発明の「電圧が印加されていない状態で液晶分子の長軸がガラス基板(9a)、(9b)に対してほぼ垂直になり、電圧が印加されると光の複屈折効果による表示を行う液晶表示装置」は、本願補正発明の「電圧が印加されていない状態で液晶分子が基板面に対して垂直に配向する性質を有する垂直配向型ECBモード液晶表示素子」に相当する。
(エ)引用発明の「電圧無印加状態でのチルト角は約85°」が、本願補正発明の「プレティルト角が、前記基板面に対して85°」に相当することは明らかである。

よって、両者は、
「電極を表面に形成し、所定間隔で互いに対向配置された一対の基板と、前記一対の基板間に配置される液晶層とを有し、前記液晶層に電圧が印加されていない状態で液晶分子が基板面に対して垂直に配向する性質を有する垂直配向型ECBモード液晶表示素子において、
前記基板と前記液晶層との界面に存在する液晶分子にプレティルト角が与えられており、該プレティルト角が、前記基板面に対して85°に設定され、かつ前記一対の基板との両界面間で液晶分子に前記基板と平行な面内の方位角方向のねじれ角が与えられており、前記ねじれ角が270°に設定されている垂直配向型ECBモード液晶表示素子」
である点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:
本願補正発明は、前記液晶層は「屈折率異方性が約0.2以上の液晶で構成」されているのに対して、引用発明は、複屈折率Δnが0.10の液晶である点。

(4)判断
上記相違点につき検討する。
垂直配向型ECBモード液晶表示素子において、液晶層の屈折率異方性Δnが0.1以下あるいは0.2以上のものを用いることは、この出願前周知(例えば、特開平7-333617号公報および特開平8-6050号公報参照)である。
また、液晶層の屈折率異方性Δnが0.1以下のものでプレチルト角を70°≦θ<90°とすることは従来周知である。例えば、特開平10-20346号公報(「液晶の屈折率異方性Δnを0.043に設定する。・・・Δnの許容範囲としては・・・好ましくはΔn≦0.1の範囲である。」(【0024】参照)および「プレチルト角θ=81°、71°、67°」(【0030】、【0031】参照)及び原審の拒絶理由で引用したWO97/12275号パンフレット(「液晶の屈折率異方性Δn=0.074、プレチルト角はθ01=75度」第8頁7〜9行参照)を参照されたい。
そうしてみると、液晶層の屈折率異方性がプレチルト角と相関があるとは必ずしもいえないから、引用発明の液晶層として周知の屈折率異方性が0.2以上のものを採用することは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明から予測し得る程度のものであり、格別とはいえない。

よって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年8月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成16年2月5日付手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、次のものである。
「【請求項1】電極を表面に形成し、所定間隔で互いに対向配置された一対の基板と、前記一対の基板間に配置される液晶層とを有し、前記液晶層に電圧が印加されていない状態で液晶分子が基板面に対して垂直に配向する性質を有する垂直配向型ECBモード液晶表示素子において、前記基板と前記液晶層との界面に存在する液晶分子にプレティルト角が与えられており、該プレティルト角が、前記基板面に対して85°〜60°の範囲に設定され、かつ前記一対の基板との両界面間で液晶分子に前記基板と平行な面内の方位角方向のねじれ角が与えられており、前記ねじれ角が180°〜270°の範囲に設定されている垂直配向型ECBモード液晶表示素子。」(以下、「本願発明」という。)

(2)引用例記載の発明
原査定の拒絶理由に引用した刊行物1:特開平1-269921号公報には、上記2.(2)刊行物記載の発明で摘記した事項が記載されている。

(3)対比・判断
本願発明は、上記本願補正発明と比べて、「液晶層は屈折率異方性が約0.2以上の液晶で構成されている」点(本願補正発明と引用発明との相違点)を欠くものである。
してみると、本願発明は、上記2.(3)対比における一致点で検討した通り、刊行物1に実質的に全て記載されている。

なお、意見書等において、請求人は、上記刊行物1(拒絶理由に引用された引用文献1)と本願発明の相違点について言及しており、その中で特許法第29条第1項第3号の同一性を含めて検討していることは明らかである。

(4)むすび
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-21 
結審通知日 2006-08-29 
審決日 2006-09-11 
出願番号 特願平11-104197
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G02F)
P 1 8・ 121- Z (G02F)
P 1 8・ 575- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右田 昌士  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 向後 晋一
瀬川 勝久
発明の名称 垂直配向型ECBモード液晶表示素子  
代理人 高橋 敬四郎  
代理人 高橋 敬四郎  

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