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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B41C
管理番号 1146976
審判番号 無効2005-80260  
総通号数 85 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-08-29 
確定日 2006-11-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3556204号発明「印刷ブロックを製造する方法及び装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
平成14年 5月23日 本件特許出願(特願2002-148852号)
(優先権主張 平成13年 5月25日)
平成16年 5月21日 本件特許登録(特許第3556204号)
平成17年 8月29日 本件無効審判の請求
平成17年12月26日 答弁書
平成17年12月26日 訂正請求書
平成18年 2月 9日 弁駁書
平成18年 4月21日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成18年 4月21日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成18年 6月12日 上申書(請求人)
平成18年 6月12日 上申書(被請求人)

2.訂正の可否に対する判断
(1)平成17年12月26日付け訂正請求(「本件訂正請求」という。)の内容
[訂正事項a.]
旧請求項1の記載
「レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックの製造方法であって、前記印刷ブロックブランクの材料がトラックに沿って照射によって除去され、
一つの同じトラックに沿って、各々の場合において、異なる深さに位置するレリーフ領域が、照射への対応する複数回の繰り返し暴露によって製造され、
前記照射への暴露が、同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビームによって行われることを特徴とする方法。」を、
「レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックの製造方法であって、前記印刷ブロックブランクの材料がトラックに沿って照射によって除去され、
一つの同じトラックに沿って、各々の場合において、異なる深さに位置するレリーフ領域が、照射への対応する複数回の繰り返し暴露によって製造され、
前記照射への暴露が、同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビームによって行われ、
更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去することを特徴とする方法。」と訂正する。

[訂正事項b.]
旧請求項7を削除する。

[訂正事項c.]
旧請求項19を請求項18と項番を改め、旧請求項19の記載
「印刷ブロックを製造する装置であって、
印刷ブロックブランクを保持するマウントと、
前記印刷ブロックブランクの表面を、少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射に対して暴露して、これによって前記印刷ブロックブランクの領域を除去する、光学装置と、
ビームオン及びビームオフ制御コマンドを含むデータファイルの使用によって、前記トラックに沿ったその経路上での前記少なくとも単一のビームの強度の変化を制御する、制御装置と、
を有しており、
前記制御装置は、各々が前記トラック全体に沿った前記印刷ブロックブランクを加工する役割を果たし且つ同じトラックに沿って時間遅れで異なるビームによって加工することができるビームオン及びビームオフコマンドを各々含む複数のデータファイルを提供するように構成され、
前記光学装置は、各々が一つの別個のデータファイルによってのみ制御可能な複数のビームを発するように構成されていることを特徴とする装置。」を、
「レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックを製造する装置であって、
印刷ブロックブランクを保持するマウントと、
前記印刷ブロックブランクの表面を、少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射に対して暴露して、これによって前記印刷ブロックブランクの領域を除去する、光学装置と、
ビームオン及びビームオフ制御コマンドを含むデータファイルの使用によって、前記トラックに沿ったその経路上での前記少なくとも単一のビームの強度の変化を制御する、制御装置と、
を有しており、
前記制御装置は、各々が前記トラック全体に沿った前記印刷ブロックブランクを加工する役割を果たし且つ同じトラックに沿って時間遅れで異なるビームによって加工することができるビームオン及びビームオフコマンドを各々含む複数のデータファイルを提供するように構成され、
前記光学装置は、各々が一つの別個のデータファイルによってのみ制御可能な複数のビームを発するように構成され、
更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去することを特徴とする装置。」と訂正する。

[訂正事項d.]
請求項8?18及び19?32を請求項7?17及び18?31と項番を改めると共に、これに対応して各請求項の引用番号を訂正する。

[訂正事項e.]
前記請求項記載の訂正に伴い、明細書の段落番号0001の記載における「請求項1及び21」を「請求項1及び18」に、段落番号0006の3行目「請求項21」を「請求項18」に訂正する。

(2)判断
[訂正事項a、cについて]
これらの訂正事項に関する記載としては、まず、旧請求項7に
「前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の方法。」なる記載がある。
次に、段落【0008】において「本発明によれば、印刷ブロックブランクの表面にレリーフを形成するにあたって、比較的平坦な凹部が、印刷ブロックブランクを照射に1度だけ暴露することによって得られ、一方、より深い凹部は、印刷ブロックブランクの対応する点を照射に対して複数回暴露することによってブロックされる。より深いレベルの領域を作成するための印刷ブロックブランクの照射へのこの複数回暴露は、時間遅れとともに又は連続的に行われ、低層領域が、あたかも繰り返して彫られたかのようにして得られる。」との記載から、「比較的平坦な凹部」が一度だけの暴露で得られること、
段落【0041】の「図1において、参照番号1は、ポリマ材料から形成される印刷ブロックブランクを指す。フレキソ印刷ブロックを作成するために、例えばレリーフが、例えば3つのフォーカスされたレーザビーム3、4、及び5の助けによって印刷ブロックブランク1のポリマ材料の領域を焼き払うことによって、印刷ブロックブランク1の表面2に彫られる。・・・。この目的のために、レーザビーム3、4、及び5は、表面2の上を矢印6の方向に伸びるトラックに沿って、連続して移動される。レーザビーム3は先頭レーザビームであって、印刷ブロックブランク1の表面2に最初に作用する。」の記載から、レーザビーム3が先頭レーザビームであること、及び
段落【0044】の「本発明の改良によれば、レーザビーム3、4、及び5は、異なるパワーレベルを有することができる。例えば、先頭のレーザビーム3は、他の2つの引き続くレーザビーム4及び5よりも低いパワーを有することができ、最初にレーザビーム3によってレリーフのエッジを比較的低いパワーで良好に規定することができる。」の記載から、複数のレーザビーム3、4、及び5のうち、レーザビーム3は比較的低いパワーのものであって、先頭に位置するものであること、が把握できる。
そして、このレーザビーム3、4及び5のパワーオン、パワーオフの制御については、段落【0047】?【0052】の記載と【図1】?【図5】の説明の記載によりその詳細を把握することができる。
すると、これらの訂正事項は、前記の旧請求項7に係る特定を追加の特定として旧請求項1或いは旧請求項19に加えるものであって、この際に、レリーフの表面側部の境界、すなわち、レリーフのエッジを規定するビームが、先頭に位置するレーザビーム3であることを明示すべく、「第1のビームが」と補う訂正を行うものである。
してみるに、これらの訂正事項による訂正は、旧請求項1或いは請求項19の記載を限定減縮すると共に、「前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」ビームが、「第1のビームのみ」であることを明らかにするものであるから、特許法第134条第2項第1号規定の特許請求の範囲の減縮及び同第3号規定の明りようでない記載の釈明を目的であるものと認める。

[訂正事項bについて]
この訂正事項は、単に、旧請求項7を削除するものであり、特許法第134条第2項第1号規定の特許請求の範囲の減縮であると認める。

[訂正事項dについて]
この訂正事項では、前記訂正事項a、cにより旧請求項1或いは旧請求項19を引用する請求項の項番を対応して項番表記を改めるものであり、特許法第134条第2項第3号規定の明りようでない記載の釈明に相当するものではあるが、対応する新たな請求項1或いは請求項18の記載は減縮を目的とした訂正がされており、これらを引用する請求項自体も同様に減縮を目的とした訂正がなされたものと認められる。
よって、当該訂正事項dによる訂正は、特許法第134条第2項第1号規定の特許請求の範囲の減縮及び同第3号規定の明りようでない記載の釈明を目的であるものと認める。

また、前記各訂正事項による訂正は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求を認める。

3.本件発明
本件特許第3556204号の請求項1?31に係る発明は、平成17年12月26日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?31に記載された次のとおりのものである。
以下、各々の発明を請求項番順に「本件発明1」?「本件発明31」といい、これらすべてを含めて扱う場合には、「本件発明」ということとする。

【請求項1】レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックの製造方法であって、前記印刷ブロックブランクの材料がトラックに沿って照射によって除去され、
一つの同じトラックに沿って、各々の場合において、異なる深さに位置するレリーフ領域が、照射への対応する複数回の繰り返し暴露によって製造され、
前記照射への暴露が、同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビームによって行われ、
更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去することを特徴とする方法。
【請求項2】前記複数のビームは、前記トラックの長手方向に交差する方向に相互に並んで配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記複数のビームは、前記トラックの長手方向に沿った一方向に相互に並んで配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】異なる深さのレリーフ領域が異なるパワーのビームによって除去されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】異なる深さのレリーフ領域が異なる波長のビームによって除去されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】前記印刷ブロックブランクの前記表面の直ぐ下に位置するレリーフ領域が、より低層のレリーフ領域を除去する役割を果たすビームよりもパワーが小さく且つ/又は波長が短いビームによって除去されることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域が、エロージョンを生じさせる波長に対するスペクトル感度に適合されていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】照射への前記印刷ブロックブランクの前記暴露が、レーザ照射、例えばフォーカスされたレーザ照射を使用して行われることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】前記ビームが前記印刷ブロックブランクに対して動かされることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】前記印刷ブロックブランクが固定位置ビームに対して動かされることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】ポリマ材料を有する印刷ブロックブランクが照射されることを特徴とする請求項1から10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】ポリマ材料から構成されたプレート状の印刷ブロックブランクが、回転可能に搭載されたシリンダの表面上に置かれていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】印刷ブロックブランクを形成するために、ポリマ材料が回転可能に搭載されたシリンダの表面に引き出されるか又は塗布されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】対象のトラックに沿った前記印刷ブロックブランクの照射への前記暴露がデータファイルの関数として行われ、前記データファイルの各々は、異なる深さに位置する除去対象の前記レリーフ領域の一つに割り当てられていることを特徴とする請求項1から13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】前記データファイルが、
2次元基本レリーフパターンの構築及び電子的記憶と、
前記基本レリーフパターンから異なる距離に位置してレリーフ領域を識別する一つ又はそれ以上の境界であって、前記基本レリーフパターンからの前記距離が増すと、より深くに位置されるように意図されている境界の構築と、
前記取り囲まれた基本レリーフパターンを通るトラックの描画と、
前記トラックの前記境界に基づいた前記基本レリーフパターン及び前記レリーフ領域における境界の探索と、
前記発見された境界に基づいたビームオン及びビームオフコマンドの決定と前記基本レリーフパターン及び前記低層レリーフ領域に対するそれぞれのデータファイルへの分類と、
によって生成されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】前記問題のデータファイルが前記ビームを変調するために使用されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】前記それぞれのデータファイルには、各々の場合に前記ビームを変調するための異なる制御電圧が割り当てられていることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックを製造する装置であって、
印刷ブロックブランクを保持するマウントと、
前記印刷ブロックブランクの表面を、少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射に対して暴露して、これによって前記印刷ブロックブランクの領域を除去する、光学装置と、
ビームオン及びビームオフ制御コマンドを含むデータファイルの使用によって、前記トラックに沿ったその経路上での前記少なくとも単一のビームの強度の変化を制御する、制御装置と、を有しており、
前記制御装置は、各々が前記トラック全体に沿った前記印刷ブロックブランクを加工する役割を果たし且つ同じトラックに沿って時間遅れで異なるビームによって加工することができるビームオン及びビームオフコマンドを各々含む複数のデータファイルを提供するように構成され、
前記光学装置は、各々が一つの別個のデータファイルによってのみ制御可能な複数のビームを発するように構成され、
更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去することを特徴とする装置。
【請求項19】前記ビームは、前記トラックの長手方向に交差する一方向に相互に並んで配置されていることを特徴とする請求項18に記載の装置。
【請求項20】前記ビームは前記トラックの長手方向に沿った一方向に相互に並んで配置されていることを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項21】前記ビームがレーザビームであることを特徴とする請求項18から20の何れか1項に記載の装置。
【請求項22】前記印刷ブロックブランクが、その長手軸の周りを回転可能なように搭載されたシリンダとして構成され、その表面上に弾性材料、例えばポリマ材料を有していることを特徴とする請求項18から21の何れか1項に記載の装置。
【請求項23】前記シリンダの前記長手軸の方向に変位可能に配置されたキャリッジが存在し、前記キャリッジが前記光学装置の少なくとも一部を担持することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項24】前記シリンダがその長手軸の方向に変位可能であり、且つ前記光学装置が固定位置にあることを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項25】前記ビームの強度を制御するために、前記データファイルを介して少なくとも間接的に駆動可能な変調器が設けられていることを特徴とする請求項18から24の何れか1項に記載の装置。
【請求項26】対象の変調器は少なくとも一つのアナログスイッチに接続され、それを通じて制御電圧が前記変調器に供給可能であり、且つ前記アナログスイッチは前記データファイルによってスイッチング可能であることを特徴とする請求項25に記載の装置。
【請求項27】変調器が複数のアナログスイッチの出力に接続され、前記複数のアナログスイッチの各々は、一つのトラックに沿った彫り加工のために必要とされる前記複数のデータファイルのうちの一つによってスイッチング可能であり、且つ前記アナログスイッチは、各々が異なる制御電圧をスイッチングすることを特徴とする請求項26に記載の装置。
【請求項28】複数の変調器が存在し、その各々に対して一つのアナログスイッチが割り当てられ、これらのアナログスイッチの各々は、一つのトラックに沿った彫り加工のために必要とされる前記複数のデータファイルのうちの一つによってスイッチング可能であり、且つ前記アナログスイッチは、各々が異なる制御電圧をスイッチングすることを特徴とする請求項26に記載の装置。
【請求項29】前記変調器が音響光学変調器であることを特徴とする請求項25から28の何れか1項に記載の装置。
【請求項30】前記変調器が偏向器又はビーム偏向器であることを特徴とする請求項25から28の何れか1項に記載の装置。
【請求項31】前記ビームがフォーカスされたビームであることを特徴とする請求項18から30の何れか1項に記載の装置。

4.請求人の主張
請求項1乃至3、6乃至10及び18乃至21に係る発明は、甲第1号証、又は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、いずれも無効とすべきである。
また、請求項4乃至6に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、いずれも無効とすべきである。
また、請求項11乃至14、22、23、25、26及び31に係る発明は、甲第1号証、或いは甲第1号証及び甲第2号証、或いは甲第1号証及び甲第3号証、或いは甲第1号証乃至甲第3号証に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、いずれも無効とすべきである。
また、請求項15乃至17、24及び27乃至30に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証、又は甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの特許は特許法第123条第1項第2号の規定により、いずれも無効とすべきである。

[証拠方法]
甲第1号証 特開平05-016318号公報
甲第2号証 特表平11-500962号公報
甲第3号証 特開2001-121833公報
甲第4号証 「Converting & Printing(印刷と加工技術)」
株式会社加工技術研究会(1996.11.18)発行,
一部抜粋(表紙、p293、裏表紙)
甲第5号証 特開平05-024169号公報
甲第6号証 特開平06-234086号公報
甲第8号証 出願人である被請求人が平成16年3月16日付けで提出した意見書

5.被請求人の反論
訂正された本件発明は、その請求項1において、印刷ブロックを製造する方法が、「第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」ことを特徴とする。
また、本発明に係る印刷ブロックを製造する装置も、光学装置が複数のビームを発するときに、「第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」ことを特徴とする。
この結果、本発明によれば、「効果的なことに、表面端でレリーフを固定する印刷ブロックブランクの材料の領域は最初に剥離され、このようにして印刷ブロックブランクがまだ比較的低温である間にレリーフ輪郭が確立されることができる。これが行われた後にのみ、印刷ブロックブランクからの材料の更なる除去が行われて、低層領域を形成する。この手順において、非常に正確な境界がレリーフの表面端に得られる。」(段落番号0014)すなわち、「照射への対応する複数回の繰り返し暴露」あるいは「複数のビーム」によって順次材料の除去が行われるが、本発明の特徴は、第1のビームによるレリーフの表面側部の境界となる材料の領域の除去がまず最初に行われ、これに続く更に低層領域の除去を行う照射への暴露あるいはビームは決して前記境界領域には触れないのである。この結果、最初に形成されたレリーフの表面側部の境界は正確に保持され、深い凹部を作った場合においても、この微細な精度が保たれるという効果がある。
訂正された本件発明は、審判請求人の提示した甲各号証とは異なり、これらいずれの甲号証にも開示あるいは示唆されていない特許性のある発明であり、審判請求人の主張は理由がない。

6.甲各号証の記載事項
甲第1号証?甲第6号証及び甲第8号証には、それぞれ下記の事項が記載されている。

(1)甲第1号証:特開平5-16318号公報の記載事項
当該甲第1号証は、本件特許の優先日(平成13年5月25日)より前である平成5年1月26日に公開されたものであって、以下の記載がある。

【発明の名称:レーザ製版装置】
ア.【特許請求の範囲】
「【請求項1】 版胴の版にレーザ源よりレーザビームを照射してグラビア版を製版する様に成した製版装置に於いて、上記版胴の回転方向或は版胴の回転軸方向に沿って配設した複数のレーザ源を有し、上記複数のレーザ源で上記版の画素を多数回製版して、版の製版時間を短縮して成ることを特徴とするレーザ製版装置。」

イ.段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明はグラビア印刷等に用いる版胴に係り、特にレーザで製版するレーザ製版装置に関する。」

ウ.段落【0004】「版2の材料としては比較的融点の分布範囲が狭く、硬化時には硬さがあり、融解時には樹脂が低温で飛散又は昇華する熱可塑性樹脂がよく、例えば、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂にカーボンを20%程度含有させたもの等を用いている。」

エ.段落【0007】「半導体レーザ10を出たレーザビームはコリメートレンズ12で平行光に成され、焦点レンズ13を介して版2表面位置に焦点を結ぶ様に照射される。」

オ.段落【0013】「版胴1の円筒部の外周に沿って合成樹脂の版2を巻付けて固定する。版胴1の左右には金属製のキャップ3L,3Rが嵌着され、左右キャップ3L,3Rに一体に形成した軸4L,4Rが左右側壁64L,64Rに回動自在に枢着されている。軸4Rは複数のプーリ6‥‥とベルト5‥‥を介してベース11上に固定された版胴回転モータ7に連結されて、これらプーリ6及びベルト5を介して版胴1に巻回した版2は矢印A或はB方向に回転する。」

カ.段落【0015】ボールねじ26には移動子27が螺合され、この移動子27とレーザブロック取付台28がアーム29で固定され、レーザブロック取付台28上にはレーザブロック21が配置され、このレーザブロック21が案内部22に沿って版胴1の軸方向に移動することで、レーザブロック21内の半導体レーザ10から照射されたレーザビームは版胴1に巻回した版2のX及びY軸の全方向に対向して窪み15を形成することが出来る。

キ.段落【0018】「【発明が解決しようとする課題】叙上の従来構成によると1本の半導体レーザによって、版2に所定の凹状パターンを形成させて版全体を製版していた。」

ク.段落【0019】「然し、現在、超高出力半導体レーザとして実用に耐え得るパワーは1W程度であり、この程度の超高出力半導体レーザ1個を用いて、グラビア印刷装置に用いる版を作製すると、例えばA4サイズの版を所定の濃度とした所定の深さd或は所定の面積Sの凹版パターンを得る場合に1?2時間もの時間を必要とする問題があった。」

ケ.段落【0020】「本発明は叙上の如き問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは短時間で版を作製し、この版を用いてグラビア印刷を行なう版胴を短時間に得ることの出来る製版装置を提供しようとするものである。」

コ.段落【0021】「【課題を解決するための手段】本発明の製版装置はその例が図1に示されている様に、版胴1の版2にレーザ源10Aよりレーザビームを照射してグラビア版を製版する様に成した製版装置に於いて、版胴1の回転方向或は版胴1の回転軸方向に沿って配設した複数のレーザ源10A,10Bを有し、複数のレーザ源10A,10Bで版2の画素を多数回製版して、版2の製版時間を短縮して成るものである。」

サ.段落【0022】「【作用】本発明の製版装置は版胴1の版2と対向して複数の半導体レーザ10A及び10Bを並べて順次に同一画素のドットを製版する様にし、複数の半導体レーザ10A及び10Bでの個々の製版時の窪み15の深さd又は面積Sを選択したので、1本の半導体レーザで製版する時よりも製版時間を短縮することが出来る。」

シ.段落【0023】「【実施例】以下、本発明のレーザ製版装置を図1乃至図5によって詳記する。」

ス.段落【0025】「図1に於いて、ベース11上には左右側壁64L,64Rで構成された版胴回転部62及びこの左右側壁64L,64Rの段部に載置されたレーザブロック移動部63が設けられている。」

セ.段落【0026】「このレーザブロック移動部63上には版胴1の軸方向(X軸方向)に沿って案内部22が2本配設され、この案内部22のレール上を摺動する様にレーザブロック取付台28が橋絡され、このレーザブロック取付台28上に複数のレーザブロック21A及び21Bが版胴1のX軸方向に沿って並べられて固定されている。」

ソ.段落【0028】「よって、複数のレーザブロック21A及び21Bは版胴1のX軸方向に移動自在と成される。」

タ.段落【0030】「図2で入力操作部30は停止、リセット等のステータス信号31をマイクロコンピュータ(以下CPUと記す)32に供給する。CPU32は正転又は逆点パルスをレーザブロック移動用モータドライバ33と版胴回転用モータドライバ35とに供給し、レーザブロック移動用モータ24と版胴回転用モータ7とを回転駆動させる。2つのレーザブロック21A及び21Bを並べた状態で、版胴駆動用モータ7で版胴1をA又はB方向に回転させながら、半導体レーザ10Aで画像データ41に対応した窪み15Aを製版する。」

チ.段落【0033】「この一画素分の距離移動している時間、即ち版胴開始位置に到達するまでの時間68の経過後(図3Aの2本目のグラフ参照)に半導体レーザ10Bをt/2時間オンさせて半導体レーザ10Aで製版した版の深さdを更に深くするか、面積Sを大きくする様に所定の大きさの濃淡に応じた窪み15Aを形成する。」

ツ.段落【0037】「図2に戻って説明するとデータRAM38にはイメージスキャナ等で取り込んだデジタル画像データ41が格納されている。CPU32は製版すべき画素の画像データをデータRAM38より読みだし、これをグレースケール変換回路42に送る。グレースケール変換回路42は画像の濃淡をレーザー照射時間の長短に変換する役割を持つ。このグレースケール変換回路42の出力によりレーザードライバ43を介して半導体レーザ10A及び10Bを駆動する。」

テ.段落【0039】「上述の実施例では複数のレーザブロック21A,21Bを版胴1の軸方向に並設した場合を説明したが、図4は本発明の製版装置の他の実施例を示すもので、版胴1の同一円周上に90度の角度を離して第1のレーザブロック21Aと第2のレーザブロック21Cを配設したものである。」

ト.段落【0042】ボールねじ26Aには移動子27Aが螺合され、この移動子27Aとレーザブロック取付台28Aがアーム29Aで固定され、レーザブロック取付台28A上にはレーザブロック21Cが載置され、このレーザブロック21Cが案内部22Aに沿って版胴1の軸方向に移動することで、レーザブロック21C内の半導体レーザ10Cから照射されたレーザビームは版胴1に巻回した版2のX及びY軸の全方向に対向して窪み15を形成することか出来る。

イの記載には、当該甲第1号証記載のレーザ製版装置が、グラビア印刷等に用いる版胴にレーザで製版するレーザ製版装置であると記載されている。

キ、クの記載には、従来のレーザ製版装置が、1本の半導体レーザによって、版全体を製版するために、長い製版時間を要することに問題があると記載され、ア、コ、サの記載から、当該甲第1号証記載のレーザ製版装置は、版胴の回転方向或は版胴の回転軸方向に沿って配設した複数のレーザ源を有し、これら複数のレーザ源で版の画素を多数回製版することで、版の製版時間を短縮可能とするものであることが把握できる。

エ?カ及びスの記載から、版胴は、ベース上に左右側壁で構成された版胴回転部にY軸方向に回転自在に支持されていることが把握できる。

また、同様にエ?カ及びセ、ソの記載から、版胴のX軸方向に沿って並べられた複数のレーザブロックが、左右側壁の段部に載置されたレーザブロック移動部に設けられており、これらレーザブロックは版胴のX軸方向に移動自在であることが把握できる。

タの記載から、CPU32はレーザブロック移動用モータ24と版胴回転用モータ7に正転又は逆転パルスを送り、レーザブロックを並べた状態で移動させるとともに、版胴を回転駆動させることが把握できる。

チの記載からは、当該レーザ製版装置において、半導体レーザは素材表面を複数回走査されるものであって、窪み形成に関して、1回目の走査におけるレーザビーム照射で形成された窪みを、二回目の走査におけるレーザビーム照射で深さdを更に深くする方式と、面積Sを大きくする様にされる方式とが存在することが把握できる。

ツの記載から、CPUが製版すべき画素の画像データをデータRAMより読みだし、これをグレースケール変換回路に送り、グレースケール変換回路が画像の濃淡をレーザー照射時間の長短に変換し、この出力によりレーザドライバを介してレーザを駆動していることが把握できる。

(2)甲第2号証:特表平11-500962号公報の記載事項
当該甲第2号証は、本件特許の優先日(平成13年5月25日)より前である平成11年1月26日に公開されたものであって、以下の記載がある。

【発明の名称:レーザ彫刻機】
ア.【要約】「レーザ彫刻機(4)は、素材表面に所望の断面を形成するため、変調レーザビームにより素材表面(22)を彫刻するのに用いられる。断面の微細な構造は、比較的高い変調周波数の音響光学変調器(12)により変調された第1のレーザのレーザビームにより形成され、一方、所望の断面の深い領域は、第2のレーザ(10)のレーザビームにより形成される。そのために、一方では変調器(12)が、他方では第2のレーザビーム源(10)が、相互に関連してはいるが別々の制御信号(S3,S2)により駆動される。変調器(12)と第2のレーザビーム源(10)からの2つの垂直偏光レーザビームは、選択ミラー(14)によりそれぞれ透過および反射され、そして加工すべき素材表面(22)に光学系(18)を経由して共通に与えられる。」

イ.【特許請求の範囲】
「1.第1のレーザビーム源(8)と、該第1のレーザビーム源(8)のビーム経路中にある変調器(12)と、素材とは互いに動く関係にあり素材表面(22)から間隔を置いて配置された光学系(18)と、前記変調器(12)を第1の制御信号(S3)で駆動することにより、前記素材表面(22)上に入射する前記変調器の出力レーザ光が前記第1の制御信号(S3)に従って変調されると共にそれに応じた深さに前記素材表面(22)を加工するようにした制御装置(6)と、該制御装置(6)により第2の制御信号(S2)で駆動される第2のレーザビーム源(10)とを備える、素材表面(22)を彫刻するためのレーザ彫刻機(4)において、
前記第2のレーザビーム源(10)からの出力レーザ光が、前記変調器(12)からの出力レーザ光と共に前記光学系(18)の前の1つの共通のビーム軸上に導かれること、及び、
前記第1の制御信号(S3)が所望の断面の微細な構造を決定する一方で、前記第2のレーザビーム源(10)に供給される前記第2の制御信号(S2)が前記断面の深い箇所に対応するよう、前記第1及び第2の制御信号(S3、S2)が形成されること、
を特徴とするレーザ彫刻機。
2.前記第1及び第2のレーザビーム源(8、10)はそれぞれ実質的に垂直な偏光ベクトルを有する直線偏光の光を出力すること、及び、前記変調器(12)からの出力レーザ光と前記第2のレーザビーム源(10)からの出力レーザ光とは選択ミラー(14)又はブルースター窓(B3)に異なる側から与えられ、その透過光と反射光が前記光学系に共通に与えられることを特徴とする請求項1に記載のレーザ彫刻機。
3.前記第1及び第2のレーザビーム源は異なる波長のレーザ光を出力し、これら2つのレーザビームは波長選択ミラーを介して前記光学系に与えられることを特徴とする請求項1に記載のレーザ彫刻機。
4.前記第1の制御信号(S3)と前記第2の制御信号(S2)とは、加工される前記素材表面(22)の所望の断面に対応する1つの制御信号から減算的に得られることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のレーザ彫刻機。
5.前記変調器は音響光学変調器(12)であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のレーザ彫刻機。
6.前記変調器は前記第1のレーザビーム源(8)のQスイッチとして形成されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のレーザ彫刻機。」

【発明の詳細な説明】
ウ.4頁3?20行「この発明は素材の表面を彫刻するためのレーザ彫刻機に関する。このレーザ彫刻機は第1のレーザビーム源を有し、この第1のレーザビーム源のビームの通路内に変調器と、この変調器に続いて光学系を備え、この光学系は前記素材の表面から間隔を開けて保持されている。前記光学系と前記素材とは互に関連的に動かされ、制御装置は第1の制御信号によって前記変調器を駆動する。その結果、前記素材の表面に衝突する出力放射は前記第1の制御信号によって変調され、それに応じた深さに前記素材の表面が削られる。そして、第2のレーザビーム源は第2の制御信号を持った前記制御装置によって駆動される。
こうしたレーザ彫刻機のいくつかが既に知られている。レーザビーム源は一般的に炭酸ガスレーザで構成され、この炭酸ガスレーザは制御信号を持った制御装置によって駆動される。そして、前記制御信号は素材の表面の所望の加工断面に依存する。前記素材の表面は前記光学系と互に関連的に動かされる。前記素材は一般的に、例えば、ゴム或いはプラスチック製の円筒体である。この円筒体はレーザ彫刻機の中に固定され、このレーザ彫刻機の中で回転され、同時に、その回転軸に平行して横方向に移動する。従って、前記光学系によって前記素材の表面にその焦点が合わされたレーザビームは前記素材の表面を走査し、前記制御信号に従って対応するビームの強度を変えて、その強弱に応じて前記素材の表面を深くもしくは浅く除去する。」

エ.4頁21行?5頁1行「図1は部分的に従来技術に対応したレーザ彫刻機を示している。
素材2はゴムから成る又はゴム表面22を有する円筒体である。前記素材2は回転され、矢印の方へ横方向に動かされる。
静止したレーザ彫刻機4は信号発生器及び制御装置として、インターフェースを有するPC(パーソナルコンピュータ)を含んでいる。制御装置6は第1の炭酸ガスレーザ8へ制御信号1を伝達する。この制御信号1は第1の炭酸ガスレーザ8が出力レーザ放射を音響光学変調器12へ印加するようにさせる。前記第1の炭酸ガスレーザ8の出力レーザ放射は直線偏光され、一定不変の振幅を有している。」

オ.5頁2?19行「制御装置6のインターフェースIFを介して、制御信号S3は前記音響光学変調器12へ印加され、その結果、前記第1の炭酸ガスレーザ8からのレーザビームは、前記制御信号S3の強弱に伴って変化するよう、前記音響光学変調器12によって前記制御信号S3の信号の変化に従って変調される。
音響光学変調器12の構造と用途は既に公知であり、音響光学変調器12は水晶と圧電素子を含んでいるのが特徴的である。そして、圧電素子が駆動されると、音波が水晶へ送られ、それに伴い、前記水晶の光学的特性が影響を受ける。前記音響光学変調器を通過したレーザビームは前記音波の周波数に従って回折される。即ち、前記音響光学変調器12からの出力ビームのパワー若しくは強度が変調される。それにより、前記音響光学変調器から現れる有効なビーム1は前記音響光学変調器による1次回折のビームになる。
前記音響光学変調器12からの出力レーザビームは光学系18を通過し、この光学系18にてビームの放射の焦点が素材の表面22の上に合わされる。
その結果、前記素材の表面22に衝突するレーザビームのパワーは制御信号S3に従って変化する。そして、このレーザビームは前記素材の表面22を一定速度で走査するので、前記制御信号S3に対応した断面が前記素材の表面22に現出する。強いビームパワーは大きな刻削深度を引き起こし、弱いビームパワーは小さな刻削深度を引き起こす。」

カ.5頁20?26行「ドイツ国公報DE 42 12 390 A1にて知られるように、前述したようなレーザ彫刻機は次のように構成される。即ち、レーザビーム源からの2つのレーザビームは素材の表面に至る別々の光路を介して素材の前に向けられている。この構成により前記素材の表面に数々のビームの正確な重複により凝縮されたビーム点や、あるいは数々の部分的なビームが一部は重複したり或いは全く重複のない一定の形態に結合された多要素ビーム点が現出するように為される。 」

キ.6頁5?12行「ドイツ国公報DE 37 14 504 A1は異なる波長の二つのレーザビームを利用したレーザ彫刻機を開示している。前記異なる波長の二つのレーザビームは一つの加工点へ共にもたらされる。
素材の表面22の上に所望の加工断面を得るために制御装置6の支援の下で動作する第1のレーザ8の動作を直接変調することは公知である。しかしながら、代表的な炭酸ガスレーザは最高限度変調周波数がキロヘルツ程度に限られる。そのために、少なくとも所望の断面が非常に細かい構造を持つときには、素材の表面の素速い加工ができなくなってしまう。」

ク.5頁27行?6頁2行「本発明は前述した類のレーザ彫刻機を提供することを目的とし、本発明に係るレーザ彫刻機は、素材の表面を素速く加工しながら、一方で、繊細な輪郭線を形成することができ、他方で、一定の最小限度の刻削深度を得ることができる。」

ケ.7頁3?末行「この問題は以下に説明する類のレーザ彫刻機における本発明により解決される。即ち、第2のレーザビーム源からの出力レーザ放射は変調器からの出力レーザ放射と共に光学系の前の共通のビーム軸にもたらされ、第1及び第2の制御信号は、第1の制御信号が所望の断面の繊細な構造を特定し、一方、第2のレーザビーム源に供給される第2の制御信号は前記断面の深い部分に対応すると言った態様で形成される。
レーザビーム源を駆動するために用いられる制御信号は矩形波ではなく傾斜する立ち上がり端を有する。即ち、それら(制御信号)は最高値と最低値との間でレベルが次第に変る。繊細な構造の端部を形成するためにのみ変調器のための第1の制御信号の信号レベルの中には急速な変化がある。それ故、変調器からの出力レーザ放射も同じように急変する。而して、変調されたレーザビームは繊細な輪郭線を素材の表面に形成する。レーザビームが、その後、素材の表面を横切って、さらに案内されると、前記レーザビームのパワーが増加する。それに応じて、素材の表面に作られる断面はだんだん深くなる。一方、彫刻される領域の最初の部分が変調器によって放射されたレーザビームによって独自に形成されると、次いで、第2のレーザビーム源からのレーザビームが加えられる。この追加のレーザビームは素材の表面に衝突するレーザビームの全パワーを大きくさせる。即ち、その程度は好ましくは変調器からの出力レーザビームのみにより伝達されたパワーよりも数倍大きくさせる。
繊細な輪郭は音響光学変調器の比較的高い変調周波数に基づいて作られる一方で、所望の断面の深い領域は前記第2のレーザビーム源を結合させることにより形成される。深い領域は比較的長く(素材の表面の走査線に沿って見えるように)なっている断面部分内でのみ作られるので、キロヘルツ程度の最高変調周波数は第2のレーザビーム源にとって十分である。」

コ.8頁1?7行「従って、この発明における応用は、一方で、音響光学変調器の高い最高変調周波数を利用する。他方で、断面の深い領域を作らなければならないときに、第2のレーザビーム源を結合させた最大レーザパワーによってその制約を補う。
本発明は基本的に二つの別々のレーザ、例えば、炭酸ガスレーザを有することで実現可能である。実用的な実施例にあっては、二つのレーザ管を持った一つのレーザが利用され、一つのレーザ管は一定振幅のレーザビームを伝達し、一方、他のレーザ管のレーザビームは音響光学的変調器を介して案内される。」

サ.8頁21?末行「この技術分野における既知の方法によれば、そのようなレーザ彫刻機の制御装置は、主にPC(パーソナルコンピュータ)とそれに対応するインタフェースIFとによって構成されている。彫刻すべき素材表面の所望の断面データがメモリ内に格納されている。これらのデータはPCによって処理され、制御信号に変換される。ここで、制御信号とは2つのレベル間で時間的に変化する信号であり、その信号レベルは基本的には素材表面上の走査ラインに沿った所望の断面に対応している。」

シ.8頁末行?9頁15行「この制御信号は、本発明に従えば、音響光学変調器に供給される第1の制御信号と、第2のレーザビーム源に供給される第2の制御信号とに分割される。上記変調器から出力されるレーザパワーは、第2のレーザビーム源から出力されるレーザパワーと同様、当該制御信号の有する振幅に本質的に比例する。第1の制御信号と第2の制御信号とを加えると、PCから最初に提供された制御信号が得られる。第1及び第2の制御信号は、PCで作られた制御信号を適当に引き算分離した結果として得られる。
上記変調器は、レーザの後段に配置された音響光学変調器であることが好ましい。しかしながら、それと同様な動作モードは、その他の変調器を使用しても達成される。また、レーザ共振器内のQスイッチを使用しても、素材表面を加工するためのレーザ光に所望の変調をかけることが可能である。
第1のレーザビーム源と第2のレーザビーム源とは、必ずしも同じ波長のレーザ光を出力する必要はない。第1のレーザと第2のレーザとで異なる波長を用いてもよい。その場合は、レーザ彫刻機の光学系の前段に波長選択ミラーを配置する。」

ス.10頁3?末行「制御装置6は、第1のレーザ8が直線偏光かつ一定パワーのレーザビームを音響光学変調器12へ与えるよう、第1のレーザ8に対して制御信号S1を出力する。音響光学変調器12は、素材表面22の所望の断面の微細な輪郭を定める制御信号S3を制御装置6から受け取る。音響光学変調器12から出力された上記と同じ直線偏光のレーザビームは選択ミラー14を透過し、光学系18を介して素材表面22上へ導かれる。
第2のレーザ10はPC6から制御信号を受け取って、直線偏光されたレーザビームを出力するが、この第2のレーザ10から出力されたレーザビームの偏光ベクトルは変調器12から出力されたレーザビームの偏光ベクトルに垂直である。これらの偏光ベクトルが図1中にそれぞれ短線と点で示されていることからわかるように、選択ミラー14は変調器12から出力されたレーザビームを透過させ、第2のレーザ10から出力されたレーザビームを反射させる。その結果、互いに垂直な偏光ベクトルを有する2つのレーザビームが1本の共通のビーム経路内で1つに統合され、光学系18を介して素材表面22へ到達する。
制御信号S1は一定の振幅を有し、従って第1のレーザ8から出力されるレーザビームもまた一定のパワーを有するけれども、第1の制御信号S3と第2の制御信号S2とは、素材表面22上におけるレーザビームの走査ラインに沿った所望の断面に対応して時間的に変化する。変調器12と第2のレーザ10とから出力されるレーザビームのパワーは、それぞれ制御信号S3,S2の振幅にほぼ比例する。
図2のA)には、素材2の表面22の断面が示されている。素材表面上におけるレーザビームの走査ラインに沿った断面形状の変化過程は、レーザビームが素材表面を横切って移動する走査スピードと関係している。」

セ.10頁末行?12頁2行「よって、素材表面22内の断面形状の局所的な変化は、音響光学変調器12に供給される(第1の)制御信号S3の時間変化の割合と、制御装置6から第2のレーザ10へ供給される(第2の)制御信号S2の時間変化の割合とに対応する。制御信号S1,S3,S2は図2のB),C),D)に示されている。
素材表面22上におけるレーザビームの走査ラインに沿った断面形状の変化過程と、制御信号、特に制御信号S3,S2、の時間変化との関係が上述の通りであるため、図2A)に示される断面中の個々の場所を制御信号の変化過程中における時刻t1からt6と関係づけることができる。
第1のレーザ8に供給される制御信号S1は、レーザ8が一定パワーのレーザビームを音響光学変調器12へ出力するよう、一定の(最大の)振幅を有している。
以下では、音響光学変調器12へ与えられる第1の制御信号S3の変化過程(図2C)について考える。時刻t1で、制御信号S3のレベルが或る一定値へ急激に立ち上り、それにつれて変調器12からのレーザビームのパワーが突然増大するため、結果的に、素材表面22には急な段差が形成される。時刻t1と時刻t2との間では、制御信号S3のレベルが徐々に最大値まで上昇し、それに応じて素材表面22の断面が徐々に深さを増していく。時刻t2で、制御信号S3が最大レベルに達し、従って音響光学変調器12から出力されるレーザビームが最大パワーに達すると、制御信号S2のレベルが上昇し始める。制御信号S2のレベルと制御信号S3のレベルとの合計値に従って、選択ミラー14で1つに統合されたレーザビームのパワーが素材表面上で増大し、その結果、断面の深さが増していく。時刻t3では、制御信号S2のレベルがその最大値に達する。
これは最大の断面深さTGに対応する。合計の断面深さTGは、2つの制御信号S2,S3の最大振幅を加えた結果として得られる。
時刻t4では、制御信号S2のレベルが下がり始め、それに応じて素材表面内の断面深さが減少し始める。時刻t2と時刻t5との間では制御信号S3がその最大レベルを維持し、時刻t5で制御信号S2が再びゼロレベルに戻ると、その後、制御信号S3は減少し始め、時刻t6で制御信号S3のレベルがゼロに落ちる。時刻t6の後は、レーザビームは素材表面上に導かれることはなく、何の彫刻も起こらない。」

ソ.12頁3?下から2行「制御信号S3と制御信号S2とを比較することにより、第2のレーザ10へ供給される第2の制御信号S2は、断面が図2A)中の所定の断面深さXよりも深い時にのみ“作動”させられることがわかる。従って、第2のレーザ10に要求される“変調周波数”は音響光学変調器12の変調周波数よりも低い。よって、変調器12から出力されるレーザビームにより、微細な輪郭が確実に形成される。この変調器12から出力されるレーザビームだと、最大加工深さTM(図2A参照)を得ることができる。それ以上の深さでは、第2のレーザ10が結合される。
図3には、レーザ彫刻機の更なる特別な実施例が示されている。図1の実施例は基本的に2つの別個のレーザ、例えば2つの炭酸ガスレーザ、を使用するものであるが、図3の実施例は2本のレーザ管を有する1つのレーザ30を使用するものであって、2本のレーザ管のそれぞれが直線偏光されたレーザ光を出力し、それら2つの偏光ベクトルは互いに垂直である。レーザ30の出力には、垂直な2成分を有するレーザ光が現れる。このレーザ光は、傾斜ミラーM1,M2で繰り返し偏向させられることにより、図1中のミラー14に相当する選択ミラーM3上に導かれる。直線偏光を有するレーザ光は、図3中に点で示されているが、ミラーM3により光学系18上へ反射される。これに対して垂直に偏光されたレーザ光は、更なる傾斜ミラーM4を介して音響光学変調器12へ達する。そこから出力されたレーザ光は、更なる傾斜ミラーM5,M6を介しミラーM3を透過して光学系18上へ導かれる。ミラーM5上では、ゼロ次回折の最大値がほとんど存在しない。このレーザ光の一部は吸収器20によって吸収される。1次回折の最大値は、その後段のミラーや光学系18を介して素材2の表面へ到達する。
以上に記載した実施例は本発明の保護範囲内で変更可能である。」

ウの記載に明らかなように、当該甲第2号証には、一般的に、例えば、ゴム或いはプラスチック製の円筒体である素材の表面を彫刻するためのレーザ彫刻機に関して記載されている。
そして、当該レーザ彫刻機においては、素材である円筒体が当該レーザ彫刻機の中に固定され、当該レーザ彫刻機の中で回転され、同時に、その回転軸に平行して横方向に移動し、光学系によって前記素材の表面にその焦点が合わされたレーザビームは前記素材の表面を走査し、制御信号に従って対応するビームの強度を変えて、その強弱に応じて前記素材の表面を深くもしくは浅く除去することが把握できる。

エ、オの記載からは、図1を参照して、従来技術として、信号発生器及び制御装置として、インターフェースを有するPC(パーソナルコンピュータ)を含んだレーザ彫刻機4が説明されており、制御装置6からの制御信号S1により炭酸ガスレーザ8の出力レーザ放射が音響光学変調器12へ印加され、同制御装置6からの制御信号S3の強弱に伴って、前記炭酸ガスレーザからのレーザビームが変調されることが把握できる。
また、音響光学変調器の構造と用途は既に公知であること、音響光学変調器から現れる有効なビーム1が音響光学変調器による一次回折のビームであることが記載されている。

カ、キの記載には、当該甲第2号証記載のレーザ彫刻機と同様なものとして、ドイツ国公報DE 42 12 390 A1:レーザービーム源からの2つのレーザビームが別々の光路を介して素材表面に向けられるもの、或いは、ドイツ国公報DE 37 14 504 A1:異なる波長の二つのレーザビームを一つの加工点にもたらす先行技術が紹介されている。
そして、キの記載には、「炭酸ガスは最高限度変調周波数がキロヘルツ程度に限られる」ことから、「所望の断面が非常に細かい構造を持つとき」には、素材の表面の素速い加工ができなくなってしまう。」とあり、レーザ彫刻を行う際に、彫刻を行う対象物に与える断面構造に応じて、適宜の変調周波数を選択すべきであることが指摘されている。

クの記載には、当該甲第2号証記載のレーザ彫刻機における目的が、素材の表面を素速く加工することであると共に、「繊細な輪郭線を形成すること」、「一定の最小限度の刻削深度を得ること」にあると記載されている。

ケの記載には、当該甲第2号証記載のレーザ彫刻機においては、第1のレーザビーム源と第2のレーザビーム源とを備えており、第2のレーザビーム源からの出力レーザ放射は変調器からの出力レーザ放射と共に光学系の前の共通のビーム軸にもたらされ、第1及び第2の制御信号のうち、第1のレーザビームに供給される第1の制御信号が所望の断面の繊細な構造を特定し、一方、第2のレーザビーム源に供給される第2の制御信号は前記断面の深い部分に対応する態様であることが記載され、「繊細な構造の端部を形成するため」に「音響光学変調器の比較的高い変調周波数に基づいて作られる」レーザビームを用い、他方、「所望の断面の深い領域」は「第2のレーザビーム源を結合させる」ことにより、両者の特性を備え得ることが記載されている。

そして、コの記載には、当該甲第2号証記載のレーザ彫刻機においては、基本的に二つの別々のレーザを用いること、実用的には、二つのレーザ管を持った一つのレーザを利用して、一つのレーザ管は一定振幅のレーザビームを伝達し、他のレーザ管のレーザービームは音響光学的変調器を介して案内されるものであることが記載されている。

さらに、サの記載には、レーザ彫刻機の制御装置が、主にPC(パーソナルコンピュータ)とそれに対応するインターフェースIFとにより構成されるものであり、彫刻すべき素材表面の所望の断面データがメモリ内に記憶されており、このデータをPCによって処理して、素材表面上の走査ラインに沿った所望断面に対応し、2つのレベル間で時間的に変化する制御信号に変換することが記載されている。

なお、シの記載には、前記音響光学変調器に代えてレーザ共振器内のQスイッチを使用しても同様の変調が可能であること、第1のレーザビーム源と第2のレーザビーム源とは、必ずしも同じ波長のレーザ光である必要はなく、異なる波長のものを用いてもよく、その場合には、両者のレーザ光を合成するために波長選択ミラーを配置することが記載されている。

また、スの記載には、【図1】を参照しつつ、制御装置6で発生される第1の制御信号S3と第2の制御信号S2とは、素材表面22上におけるレーザビームの走査ラインに沿った所望の断面に対応して時間的に変化するものであること、これら制御信号のうち制御信号S3は、素材表面22の所望の断面の微細な輪郭を定めるものであることが記載されていると共に、【図2】を参照しつつ、第2のレーザ10へ供給される第2の制御信号S2が、断面が図2A)中の所定の断面深さXよりも深い時にのみ“作動”させられるものであることが記載されている。

そして、セの記載には、第1の制御信号S3と、第2の制御信号S2の実際の使用形態に関し、断面形状の変化過程と、これら制御信号の時間変化の関係が例示されており、
それによれば、まずt1?t2において、第1の制御信号S3に基づくレーザビーム照射により、素材表面の深さxより浅い輪郭形成がなされ、
t2?t5において、第1の制御信号S3に基づくレーザビーム照射に加えて第2の制御信号S2に基づくレーザビーム照射が合わされて、最大深さTGに至る深さxよりも深い断面形成がなされ、
t5?t6において、第1の制御信号S3に基づくレーザビーム照射のみにより、素材表面の深さxより浅い輪郭形成がなされること、が記載されている。

また、ソの記載には、音響光学的変調器12を介して照射される第1のレーザビームの変調周波数は高いので、微細な輪郭形成に必要な応答性が確保されること、このビームとは異なり、断面が図2A)中の所定の断面深さXよりも深い時にのみ”作動”させられる第2のレーザビームの変調周波数は低いものであることが記載されている。

(3)甲第3号証:特開2001-121833号公報の記載事項
当該甲第3号証は、本件特許の優先日(平成13年5月25日)より前である平成13年5月8日に公開されたものであって、以下の記載がある。

【発明の名称】レーザー彫刻による凸版印刷版製作に使用する、シリコーンゴムおよび鉄含有無機固体を含む記録材料
ア.段落【0001】「【発明の属する技術分野】本発明は、凸版印刷版製作、特にフレキソ印刷版製作、に使用するレーザー彫刻が可能な記録材料に係り、寸法安定性の良好な基板、およびシリコーンゴムとレーザー放射線吸収体としての鉄含有無機固体および/またはカーボンブラックとを含む記録層、を含む、レーザー彫刻が可能な記録材料に関する。さらに本発明は、上記記録材料をレーザー彫刻することにより凸版印刷版を製作する方法、およびシリコーンゴムと鉄含有無機固体および/またはカーボンブラックとを含む印刷レリーフを有する凸版印刷版、に関する。」

イ.段落【0006】「レーザー彫刻で得られる印刷レリーフの品質を支配する本質的な要素として、特に、レーザー照射下で材料が融解する前にできるだけ遠く気相中に直接拡散する点がある。さもないと版のくぼみの周りに融解したエッジが形成されてしまうからである。このような融解したエッジは、印刷画像の顕著な悪化をもたらし、印刷版および印刷画像の解像度を低下させる。」

ウ.段落【0007】「レーザー彫刻工程を経済的に行うためには、記録材料を極めて急速にレーザー彫刻できるように、記録材料のレーザー放射線への感度をできるだけ高めることが重要である。しかしながら、本明細書では、レーザー彫刻が可能な層は、凸版印刷版として重要な性能、例えば、弾性、硬度、粗度、印刷インク受容性または印刷インクによる膨潤性の低さ、のような性能について、十分な性能を有している必要があることも記憶しておく必要がある。レーザー彫刻に関して材料を最適化するにあたっては、上記のような性能についても何らかの欠陥を有する材料であってはならない。」

エ.段落【0008】「直接レーザー彫刻することによって凸版印刷版を製作するのに使用する材料は、原則として公知である。」

オ.段落【0009】「US3549733は、レーザー彫刻によって印刷版を製作するために使用するポリオキシメチレンまたはポリクロラールの記録材料を開示している。付加的にガラスファイバーまたはルチルを充填剤として使用することができる。」

カ.段落【0010】「DE-A19625749は回転式フレキソ印刷のための継ぎ目のない印刷体(スリーブ)を開示しており、この文献では、エラストマー層は、水酸化アルミニウムを充填剤とした、低温硬化型シリコーンポリマーまたはシリコーンフッ素ポリマーによって形成される。」

アの記載からは、凸版印刷版製作、特にフレキソ印刷版製作において、レーザー彫刻が可能な記録材料を使用されることが把握できる。

そして、イ?カの記載には、レーザー彫刻に用いる記録材料では、レーザー照射下で材料が融解する前にできるだけ遠く気相中に直接拡散することが好ましく、レーザー彫刻を経済的に行うためには、記録材料を極めて急速にレーザー彫刻できるように、記録材料のレーザー放射線への感度をできるだけ高めることが重要であることが、また、直接レーザー彫刻することで凸版印刷版を製作するのに使用する材料は、各種のものが公知であることが記載されている。

(4)甲第4号証:「コンバーティング&プリンティング
Converting & Printing 印刷と加工技術」
「印刷基本技術編」P.293
「I.グラビア印刷 第1章 グラビア製版」
「画像処理とグラビア製版」の記載事項
当該甲第4号証は、本件特許の優先日(平成13年5月25日)より前の平成8年11月18日に公開されたものであり、以下の記載がある。

ア.左欄「2.グラビアの版式と特徴」
「2-1 グラビア製版の版式
4大印刷方式凸版、平版、凹版、孔版(シルクスクリーン)の中で、グラビアは写真凹版とも言われるように凹版方式の一種である。
凹版印刷は字のごとくへこんだ部分にインキを入れ、それ以外のインキはドクターでかき取り圧を加えて被印刷体に転写されるものである。
グラビアの製版法は多様にあるが、大きく分類するとフ食法と彫刻法に分けられる。表1はグラビアの版式をまとめたものである。」

イ.左欄「2-2 製版方式の網点形状と階調表現方法」
「グラビアの異なる製版方式の網点形状とその階調表現方法を図1で表してみる。」

ウ.右欄「表1 グラビアの版式」
┌ コンベンショナル法(カーボンチッシュ使用)
フ食法 ┼ 網コン法(カーボンチッシュ使用)TH法、TS法
└ 網グラビア法(ダイレクト法)
ポーシェル
ブーメランシステム(シンクラボラトリー)
レーザーストリーム(シンクラボラトリー)

┌ ヘリオクリショグラフ(ライノタイプヘル)
彫刻法 ┼ オハイオ(オハイオエングレーバ社)
├ バルカス(大日本スクリーン製造)
└ レーザースター(MDC)

エ.右欄「図1 網点形状と階調表現法」
図1には、彫刻法と題した「ヘリオ・オハイオバルカス」なる方法について、「ダイヤモンドで銅表面をカッティングして網点の大小、深さの深浅の両方の変化により豊かな階調を表現する。」との記載がある。
また、「レーザースター」と題した方法について、「レーザーを使用して合金を蒸発させる。深さの深浅により階調を表現する。」との記載がある。

これらア?エの記載からみて、グラビアの製版法には、「フ食法」と「彫刻法」があること、「彫刻法」には、「レーザースター」という、レーザーを使用して合金を蒸発させ、凹んだ部分の深さの深浅で階調を表現するものが存在していること、が把握できる。

(5)甲第5号証:特開平5-24169号公報の記載事項
当該甲第5号証は、本件特許の優先日(平成13年5月25日)より前の平成5年2月2日に公開されたものであり、以下の記載がある。

【発明の名称:半導体レーザ製版装置】
ア.段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は半導体レーザを用いて映像データの濃淡に応じた窪みの版を形成する様にした半導体レーザ製版装置に関する。」

イ.段落【0013】「【発明が解決しようとする課題】上述の半導体レーザ10にオン時に流す駆動電流Iは寿命を考慮して半導体レーザのフルパワの7?9割程度が出力出来る適度の電流を流し、オフ時には全く電流を流さないか、レーザ保護のため少量の電流を流す程度であった。この様な駆動電流で画像データの濃淡に応じてオン,オフ期間t1,t2 ,t3 を変えると共に版胴1を一定速度で回転させれば、画像データに対応した面積Sの異なる窪みを形成して階調を表現することが出来るが、版2に形成される窪み15の深さdは常に一定であるために、深さ方向の変化が乏しく、グラビア印刷の特徴であるインクの厚み方向による階調表現が出来ない問題があった。」

ウ.段落【0014】「本発明は叙上の如き問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところはグラビアの版の窪みの深さ方向に変化を持たせ、印刷時にインクの厚み方向に変化を持たせて階調表現出来る半導体レーザ製版装置を提供するにある。」

エ.段落【0015】「【課題を解決するための手段】本発明の製版装置はその例が図1に示されている様に半導体レーザを用いて画像データの濃淡に応じて版に窪みを形成する様にした半導体レーザ製版装置に於いて、半導体レーザ10で版2の窪み15を形成しているオン期間の電流値を画像データ41の濃淡に応じて変換させた電流値を記憶する記憶手段44と、この記憶手段44の電流値に基づき半導体レーザ10に流す電流値を設定する電流値設定手段45とを具備し、この電流値設定手段45の出力により半導体レーザ10のオンされる画素分の区間毎に電流値を変化させて画像データに応じた深さの異なる窪みを形成してなるものである。」

オ.段落【0023】「この様な半導体レーザ製版装置を用いて、グラビアの版2を形成する形成方法を図1の系統図を用いて説明する。」

カ.段落【0024】「図1で入力操作部30は停止、リセット等のステータス信号31をマイクロコンピュータ(以下CPUと記す)32に供給する。CPU32は正転又は逆転パルスをレーザブロック移動用モータドライバ33と版胴回転用モータドライバ35とに供給し、レーザブロック移動用モータ24と版胴回転用モータ7とを回転駆動させる。版胴駆動用モータ7で版胴1を回転させ、半導体レーザ10で映像入力信号16のデータに対応した窪み15を版面上に形成し、版胴1が回転したらレーザブロック移動用モータ24を1画素データ分移動させて、版胴1の円周に沿って画面の濃淡に応じた窪み15を作って行く様にCPU32がコントロールしている。」

キ.段落【0025】「データRAM38にはイメージスキャナ等で取り込んだデジタル画像データ41が格納されている。CPU32は製版すべき画素の画像データ41をデータRAM38より読みだし、これをグレースケール変換回路42に送る。グレースケール変換回路42は画像の濃淡をレーザ照射時間の長短に変換する役割を持つ。このグレースケール変換回路42の出力によりレーザドライバ43を介して半導体レーザ10を駆動する。」

ク.段落【0026】「グレースケール変換回路42には予め用意された半導体レーザ10のオン時に流す電流値テーブルを有する。この電流値テーブルは例えば画像データ41の値が階調で255で表される時は1.5A、同様に128で表せる時には1.0A等と画像データの値に応じた定められた電流値がROM或はRAM等の記憶手段44に格納されている。」

ケ.段落【0027】「グレースケール変換回路42の出力は上述の記憶手段44からの電流値を読み出し、この電流値をレーザドライバ43を介して半導体レーザ10に流す様な電流値設定回路45に供給される。即ち、電流値設定回路45では電流値テーブルの値の半導体レーザ駆動電流を作り出す様になされる。」

コ.段落【0028】「上述の構成の系統図での本例の動作を図3及び図4を用いて説明する。上述の1W程度のレーザパワを出力するための例えば、SLD-304(ソニー製半導体レーザ)の駆動電流(mA)とレーザバワ出力(mW)との特性曲線図は図4に示す如き特性を示している。即ち駆動電流が200mA程度或はレーザパワ出力は零であり、駆動電流250mA程度から徐々に出力が立ち上る特性を示している。この半導体レーザの特性曲線46から解る様に駆動電流を250mA乃至2000mA範囲まで変化させれば、パワ出力は0乃至1000mA程度まで変化出来る。」

サ.段落【0029】「そこで、本例ではグレースケール変換回路42にCPU32から供給された画像データ41の濃淡に応じて記憶手段44の電流値テーブルから、その濃淡に対応した電流値を読み出して、電流値設定回路45に供給する。電流値設定回路45では図3Aに示す様に、半導体レーザ10に流す電流をI1,I2,I3 ‥‥の様に作り出して、レーザドライバ43を介して、オン期間の一画素分の時間t3,t1,t2だけ半導体レーザ10に供給して、電流I1,I2,I3を流すことで、この電流値に対応したパワ出力のレーザビーム11が版胴1に巻回した版2の表面に照射されて、窪み15が図3B及び図3Cに示す様に形成される。即ち、電流値I3の様に電流が大きい所では版2に形成される窪み15の深さd2は深くなり、濃度の濃い階調を表現することが出来る。又、濃度の淡い所では電流値I1の様に電流が小さい小パワであるため窪み15の深さd3も浅くなる様になされる。」

アの記載から、当該甲第5号証記載の半導体レーザ製版装置が、半導体レーザを用いて、映像データの濃淡に応じた窪みの版を形成するものであることが把握できる。

イ?ウの記載では、従来の半導体レーザでは、画像データの濃淡に応じてオン、オフ期間を変えて面積の異なる窪みを形成して階調表現を行っているが、窪み深さは常に一定であるために、グラビア印刷の特徴であるインクの厚み方向による階調表現を実現することができなかったことが挙げられ、当該甲第5号証記載の半導体レーザ製版装置では、グラビアの版の窪みの深さ方向に変化を持たせた階調表現を実現することに目的があると記載されている。

そして、エの記載では、当該甲第5号証記載の半導体レーザ製版装置においては、半導体レーザ10で版2の窪み15を形成しているオン期間の電流値を画像データ41の濃淡に応じて変換させた電流値を記憶する記憶手段44と、この記憶手段44の電流値に基づき半導体レーザ10に流す電流値を設定する電流値設定手段45とを具備し、この電流値設定手段45の出力により半導体レーザ10のオンされる画素分の区間毎に電流値を変化させて画像データに応じた深さの異なる窪みを形成するものであることが記載されている。

また、オ?ケの記載では、図1を参照して、CPU32がデータRAM38から読み出して送られた画像データ41に基づいてグレースケール変換回路42において画像の濃淡をレーザ照射時間の長短に変換されること、当該グレースケール変換回路42には電流値テーブル記憶手段が備えられており、画像データ41の階調値に応じて半導体レーザ10に流す電流値が読み出されること、そして、当該電流値は電流値設定回路45に与えられて半導体レーザ10の駆動電流が作り出されることが記載されている。

さらに、コ、サの記載では、図3及び図4を参照して、用いられるレーザパワ出力は駆動電流に応じて変化させられること、表現すべき濃度階調に対応した窪み15の深さに応じて、半導体レーザ10に流す電流I1 ,I2 ,I3を設定して、所望の窪みを形成していることが記載されている。

(6)甲第6号証:特開平6-234086号公報の記載事項
当該甲第6号証は、本件特許の優先日(平成13年5月25日)より前の平成6年8月23日に公開されたものであり、以下の記載がある。

【発明の名称:レーザ製版装置】
ア.段落【0001】「【産業上の利用分野】本発明は、例えば、グラビア印刷機用の刷版を形成するレーザ製版装置に関する。」

イ.段落【0002】「【従来の技術】従来のレーザ製版装置では、版シートが巻き付けられた版胴を一定速度で回転させながらその版シートにレーザビームを照射することで、その版シートに画像情報に対応する凹みが形成されて刷版が製版されていた。」

ウ.段落【0003】「この場合、照射されるレーザビームの照射時間を画像情報の濃淡(濃度)に応じて変化させて、画素単位で開口面積の異なる凹みを形成することにより上記画像情報に応じた刷版が製版されていた。」

エ.段落【0008】「【発明が解決しようとする課題】ところで、上記した従来のレーザ製版装置では、版シートにおける製版範囲の全体を1回の面走査{版胴の1回転で主走査方向の1ラインの製版を行いながら、1ライン(1回転)終了後にレーザ光源を1ライン分(1画素分)の幅だけ副走査方向にずらすことで、次の1ラインの主走査方向の製版を行うという過程を全主走査ラインについて順次行うことにより面走査が完了する。}で行うようにしている。この場合、1枚の版シートに対する総製版時間(1回の面走査に対応する時間)を短くすることが要請されている。」

オ.段落【0009】「しかしながら、上記従来のレーザ製版装置では、小さな開口面積を有する凹み(画素)を製版する場合と、大きな開口面積を有する凹み(画素)を製版する場合とで、1画素当たりのレーザの照射時間は異なるものの、1画素当たりの製版時間(走査時間)が同一の時間になるので、総製版時間が同一の時間になり、全体として時間の無駄が大きいという問題があった。」

カ.段落【0010】「本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、版シート全体の製版時間を短縮することのできるレーザ製版装置を提供することを目的とする。」

キ.段落【0015】「【作用】本発明によれば、版シート22に対してレーザビームLを照射して走査し、画像情報の濃度に応じた凹み58を画素単位に形成することにより刷版を製版する際に、上記画像情報の所定濃度に対応する閾値Shを設定し、1ラインの走査では、濃度を有する全画素に凹み58a?58gを形成して製版し、上記1ライン中に閾値Shを超える画素が存在する場合には、再度その1ラインを走査して製版するようにしたものである。このため、例えば、倍速走査を行うことにより、1ライン中に閾値Shを超える画素が存在しない場合には、その1ラインは半分の時間で製版できる。また、倍速走査であるので、閾値Shを超える画素が存在する場合であっても、従来と同一の時間で製版できる。結果として、版シートにおける製版範囲の全体(全製版範囲)の製版時間を短縮することができる。」

ク.段落【0016】「また、本発明によれば、版シートに対してレーザビームを照射して走査し、画像情報の濃度に応じた凹みを画素単位に形成することにより刷版を形成する際、上記画像情報の所定濃度に対応する閾値を設定し、1ラインの走査では、上記閾値を超える画素にのみ凹みを形成して製版し、上記1ラインの再度の走査では、濃度を有する全画素に凹みを形成するようにしたものである。このため、例えば、倍速走査を行うことにより、1ライン中に閾値を超える画素が存在しない場合には、その1ラインの最初の走査では、その1ラインをとばすことができる。1ラインの再度の走査では、濃度を有する全画素にその倍速走査で凹みを形成する。結果として、版シートにおける全製版範囲の製版時間を短縮することができる。」

ア?カの記載には、従来のレーザ製版装置では、照射されるレーザビームの照射時間を画像情報の濃淡(濃度)に応じて変化させて、画素単位で開口面積の異なる凹みを形成することで刷版が製版されていたこと、この際に凹みの深さを一定とするものであり、小さな開口面積を有する凹み(画素)を製版する場合と、大きな開口面積を有する凹み(画素)を製版する場合とで、1画素あたりのレーザ照射時間は異なるものの、1画素当たりの製版時間(走査時間)が同一時間となるので、総製版時間が同一の時間になり、全体として時間の無駄が大きいという問題があったことが指摘され、当該甲第6号証記載のレーザ製版装置においては、版シート全体の製版時間を短縮することが目的とされていることが記載されている。

そして、キ、クの記載には、当該甲第6号証記載のレーザ製版装置においては、画像情報の濃度に応じた凹みを画素単位に形成することにより刷版を形成する際、上記画像情報の所定濃度に対応する閾値を設定し、2回の走査の内のいずれかの1ラインの走査では、上記閾値を超える画素にのみ凹みを形成して製版し、他方の1ラインの走査では、濃度を有する全画素に凹みを形成するようにすることで、1ライン中に閾値を超える画素が存在しない場合には、その1ラインの走査をとばすことを可能として、結果として、版シートにおける全製版範囲の製版時間を短縮することが実現できるものであることが記載されている。

そして、図1には、1周目の製版による凹みの断面形状(図1A)と、2周目の製版による凹みの断面形状(図1B)とが開示されており、これら図1Aと図1Bとを対比すると、レリーフの表面側部の境界となる版シート22(印刷ブロックブランク)の材料領域の除去は、1周目の製版を行うときのビーム(第1のビーム)による除去と、2周目の製版を行うときのビーム(第2のビーム)による除去とにより、画像情報の所定濃度に対応する閾値に応じた窪みが形成されることが開示されている。

(7)甲第8号証の記載事項
当該甲第8号証は、審査過程において、特開平06-234086号公報を引用文献として提示した平成14年6月20日付け拒絶理由通知に対して、出願人である被請求人が平成16年3月16日付けで提出し意見書であって、以下の記載がある。

3頁「そこで、上記引用文献に記載の発明と本願請求項1および19に係る発明について比較しますと、引用文献には、本願請求項1に係る「同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビームによって」、「複数回の繰り返し暴露」することより、「異なる深さに位置するレリーフ領域が製造」されることにについて何ら開示されておりません。また、引用文献には本願請求項19に係る「同じトラックに沿って時間遅れで異なるビームによって加工することができるビームオン及びビームオフコマンドを各々含む複数のデータファイルを提供するように構成され、前記光学装置は、各々が一つの別個のデータファイルによってのみ制御可能な複数のビームを発するように構成されている」ことについて何ら開示されておりません。
すなわち、引用文献には、異なる複数のビームを用いて、同じトラックに沿って複数回繰り返して加工するという技術的思想がなかったことは明白です。」

7.当審の判断
本件発明1は、前記「3.本件発明」に記載されたとおりである。
そして、これに記載される「第1のビーム」が、「先頭のビーム」の意味であること、「同じトラックに沿って一つずつガイドされる」が、「「トラック」とは走査線であって、「複数のビーム」が同じトラックに位置し得る」の意味であること、について請求人及び被請求人の双方に争いはない(口頭審理調書参照)ものの、
「複数のビーム」及び「最初に除去する」の意味について当事者双方の主張には表現上に違いがある(口頭審理において双方に明確な主張をするように求めた)ので、ここで検討する。

7-1[「複数のビーム」の意味について]
(請求人の主張:平成18年6月12日付け上申書)
「複数のビーム」とは、異なる2以上のハードウェア(以下、「光源」という。)から照射され、同時に照射されることも可能なビームである。
同じ光源から時間遅れで照射される2以上のビームは、同時に照射することが不可能であり、ここに言う「複数のビーム」にはあたらない。
「複数のビーム」という文言は、甲第6号証に記載された発明との差異を主張する意見書(甲第8号証)を提出すると共に、補正により追加されたものであり、本件出願人(被請求人)に甲第6号証に記載された発明を本件特許発明から除外する意志があったことは明白である。

(被請求人の主張:平成18年6月12日付け上申書)
本件発明では、「複数のビーム」は各々ガイドされ、印刷ブロックブランクの同一の領域を異なるタイミングで照射するものであり、第1のビームのみが前記レリーフの表面側部の境界となる領域を最初に除去することを特徴とする。
これに対して、甲第2号証には、2個のレーザビーム源が示されるが、実際に素材に送られるレーザビームは、2個のビーム源からの出力を合成した1本のビームであり、この合成した1本のビームが単一にガイドされて素材表面に送られ、その表面を彫刻するものであるから、甲第2号証は素材を彫刻する1本のビームをどのように作るかという技術を開示したに過ぎないものである。
よって、本件発明の特徴的な構成が甲第2号証に開示あるいは示唆されているものではない。

(当審の判断)
これら双方の主張をみるに、「複数のビーム」とする表現が、「ビーム」を発生させるところの「光源」が独立して発光し得る装置として存在する、との理解において相違はない。
そして、前記のように、「同じトラックに沿って一つずつガイドされる」が、「「トラック」とは走査線であって、「複数のビーム」が同じトラックに位置し得る」の意味であることにおいても、双方の理解に相違はない。

7-2[「最初に除去する」の意味について]
(請求人の主張:平成18年6月12日付け上申書)
「最初に除去する」とは、複数の光源によって行われる走査のうち、第1のビームを照射する光源が当該領域(当審注:後出の「レリーフの表面側部の境界となる印刷ブロックブランクの材料の領域」と解される。)を「最初に」走査し、このときに照射される第1のビームが当該領域(前記に同じ。)を「除去する」の意味である。
本件特許では、「レリーフの表面側部の境界となる印刷ブロックブランクの材料の領域(基本レリーフパターンに触れる部分)」は、第1のレーザのみが除去するが、第1のレーザでしか除去されない部分についてはそもそも除去順序が定義できないので、「最初に」が「除去する」にかかると考えると、単に「あたりまえ」のことを記載している無意味なものとなる。
一方、光源は、除去(照射)が必要な領域のみ自由に移動するのではなく、必ずすべての領域を順次走査するから、光源による走査は全領域が対象となる(ただし、光源による走査中において、当該光源がビームに照射するかしないかは制御される。)。つまり、ビームによる除去は選択的であるために、すべての領域に対して除去順序を定義することができないが、光源による走査は全領域が対象となることから、光源による走査順序の観点からはすべての領域に対し、その順序を定義できることとなる。
以上のとおりであり、「最初に除去する」のうち「最初」とは、複数の光源による走査順序に関して「最初」の意味である。

(被請求人の主張:平成18年6月12日付け上申書)
本件発明の「最初に除去する」とは、第1のビームによって最初に行われるレリーフの表面側部の境界となる材料の領域の除去であり、これに続く更に低層領域の除去を行う照射への暴露あるいはビームは決して前記境界領域に触れないという意味である。
この結果、本件発明によれば、段落【0014】に記載の顕著な効果を生む。
複数のビームが同時に同一領域に作用しないようにして、印刷ブロックブランク表面が比較的低温である間に、最初のレーザビームのみによってレリーフの表面側部の境界となる材料の領域を最初に除去することを意味する。

(当審の判断)
「最初に除去する」に関し、請求人は、複数の光源によって行われる走査のうち、第1のビームを照射する光源が「レリーフの表面側部の境界となる印刷ブロックブランクの材料の領域」(当該領域)を「最初に」走査し、このときに照射される第1のビームが当該領域を「除去する」の意味とするに対して、被請求人は、第1のビームによって最初に行われるレリーフの表面側部の境界となる材料の領域の除去であるとする。
この点、前記で確認したように、「第1のビーム」が、「先頭のビーム」の意味であることについて、請求人と被請求人の間に争いはなく、複数の光源によって行われる走査の順序からみて「最初」に走査が行われるところの「先頭のビーム」である「第1のビーム」により「レリーフの表面側部の境界となる印刷ブロックブランクの材料の領域」の「除去」が行われることと解している点で相違はない。
してみれば、「最初に除去する」とは、複数の光源によって行われる走査のうち、第1のビームが照射する光源が、当該第1のビームが「レリーフの表面側部の境界となる印刷ブロックブランクの材料の領域」を「最初に」走査し、このときに照射される第1のビームが当該領域を「その他のビームに先立って除去する」の意味である点において、請求人と被請求人の双方に解釈に差異はないと認められる。

7-3[本件発明の技術的内容についての確認]
上記当事者双方の主張する内容確認を前提として、本件発明の技術的内容について確認する。

7-3-1 本件発明における印刷方式について
本件発明1或いは本件発明18においては、「レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックの製造方法であって、」或いは「レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックの製造装置であって、」と記載され、印刷ブロックブランクの表面には、「レリーフ」が形成されるものとされる。
一般に「レリーフ」は、「浮彫(ウキボリ):relief(英)」(広辞苑第3版)のこととされ、外面形状を指すものであり、本件明細書の段落【0002】、【0003】においては、従来技術として「フレキソ印刷」が記載され、段落【0004】、【0005】の【発明が解決しようとする課題】においても、本件発明が、特に「フレキソ印刷」のフレキソ印刷ブロックの製造方法に適した装置を提供するものとされ、更に、【発明の実施の形態】に係る段落【0040】?【0050】においても、本発明及び例示的な実施形態と称して、【図3】、【図4】に示される英字の「A」を模した基本レリーフパターン14を形成する例が記載されている。
他方、本件明細書の段落【0001】では、「【発明の属する技術分野】本発明は、請求項1及び21に従った印刷ブロックの製造のための方法及び装置に関している。この印刷ブロックは、例えば、レリーフ印刷又はグラビア印刷ブロックなどとして機能することができるフレキソ印刷ブロック又は非可とう性印刷ブロックであってもよい。」と記載されており、本件発明における「印刷ブロック」が、フレキソ印刷に代表されるレリーフ印刷、すなわち凸版印刷に係るものに限られず、グラビア印刷、即ち凹版印刷に係るものをも包含しているものと把握される。
ここで、グラビア印刷は、版の凹ませた部分にインキを保持し、これを記録体に転写させる方式であり、フレキソ印刷のように版の表面の凸部に保持したインキを記録体に転写する方式とは異なるものであることは明らかである。
しかし、前記のように本件明細書では、印刷ブロックブランクとして、フレキソ印刷とグラビア印刷のいずれをも包含するものとして記載されているのであり、たとえ本件明細書に記載される実施の形態がフレキソ印刷のもののみであるとしても、フレキソ印刷版の製造方法に制限的に解釈すべきではない。
そこで、フレキソ印刷とグラビア印刷の両者ともにレーザ照射により版の表面から凹ませる処理が行われていることに鑑みれば、本件発明1或いは本件発明18の「レリーフ」とは、共通に形成されていると認識し得るところの、「版表面に位置するエッジ部分」を含む断面形状を指すものとして理解されるべきこととなる。
以下、本件発明1或いは本件発明18にいう「レリーフ」については、「レーザ照射により版の表面から凹ませた際に形成される版表面に位置するエッジ部分を含む断面形状」を含むものであると解して検討する。

7-3-2[本件発明における「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」の特定について]
当該特定は、訂正請求により本件発明1及び本件発明18に追加されたものではあるが、前記「2.訂正の可否に対する判断」の「(2)判断」で検討したように、直接的には旧請求項7の「前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の方法。」の記載に根拠を置き、本件明細書の段落【0041】、【0044】及び【0047】?【0051】の記載と【図1】?【図5】の説明の記載によりその詳細が把握できる。
段落【0041】からは【図1】を参照して、例示されたレーザビーム3、4、及び5のうち、「先頭レーザビーム」が「レーザビーム3」であることが示されており、段落【0048】においては【図3】を参照して、一様に黒塗りされた領域の形態の基本レリーフパターン14が例示され、段落【0049】では、前記基本レリーフパターン14の周囲を低層領域15、16、及び17が取り囲んでいることが示され、【図3】に示されるトラックA-Aと基本レリーフパターン又は境界18、19との交点が、レーザビームのターンオン点(ビーム照射の開始点)及びターンオフ点(ビーム照射の終了点)であることが示されている。
そして、段落【0050】、【0051】では、トラックA-Aの開始位置であるX=0からの距離の基づいて前記ターンオン点とターンオフ点を示すデータファイル構成が示されており、レーザビーム3、4、及び5に相当するターンオン・ターンオフを表わすD3、D4、及びD5に着目すると、「先頭レーザビーム」である「レーザビーム3」は、その他のレーザビーム4、及び5に先立って、トラックA-Aを走査されていることから、常に、「レーザビーム3」のターンオン或いはターンオフは、その他のレーザビーム4、及び5に先立っていることとなる。
よって、【図4】において示される領域15の「レーザビーム3」による除去は、その他の領域16及び17のレービーム4、及び5による除去に常に先立って行なわれていること、そして、領域16及び17に係る境界18及び19は、基本レリーフパターン14からは離れたものとなっており、当該基本レリーフパターンの輪郭はレーザビーム3のみにより形成されていることが把握できる。
すなわち、本件発明における「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」の特定は、結果として、レーザビーム3によるレリーフの輪郭形成が最初に行われ、その他のビームは輪郭に触れないことを特定しているのである。
それ故に、本件発明1及び本件発明18では、段落【0014】に記載されるごとくに、「表面端でレリーフを固定する印刷ブロックブランクの材料の領域は最初に剥離され、このようにして、印刷ブロック部落がまだ比較的低温である間にレリーフ輪郭が確立されることができる。これが行なわれた後にのみ、印刷ブロックブランクからの材料の更なる除去が行なわれて低層領域が形成される。この手順において、非常に正確な境界が、レリーフの表面端に得られる」なる顕著な効果を生むものと解される。
換言するに、レリーフ領域は「第1のビーム」である「レーザビーム3」により形成された後には、他のレーザビーム4或いは5の照射の影響を受けることはなく、その輪郭が保持されているという顕著な効果が期待できるのである。
ここで、当該段落【0014】の後半では、前記に引き続いて、「しかし、原則的には逆の手順、すなわち、レリーフの表面端の境界が最後にブロックされることが可能である。」との記載がなされ、前記で確認した各レーザビーム走査とは逆の手順、すなわち、レーザビーム5、4、及び3の走査順として、最後にレリーフの表面端の境界を除去するようになすことも可能性として存在することが指摘されている。
しかしながら、この場合には、領域15に相当する深さを形成するレーザビーム3による除去が未だ行なわれていない状態において、走査順が先となったレーザビーム4、及び5による領域16及び17に相当する深さからレーザビーム3の担当する領域15の深さを除いた深さの領域除去が先だって行われ、その後に始めて、領域15の深さを形成するレーザビーム3による除去が行なわれることとなる。
すると、この場合には、既にレーザビーム4、及び5が照射されたことにより、レーザビーム3により除去しようとする領域は、前記他のレーザビーム照射によって与えられた熱の影響を受けることとなるのは明らかであり、当該段落【0014】の後半の記載は、単に走査順を逆とした場合にも、同様の領域除去を行える可能性があることを指摘したに過ぎず、本件発明による走査手順ではないものと解される。
この点、被請求人は、当該段落【0014】の後半が本件発明に係る記載ではないと口頭審理において主張しており(口頭審理調書参照)、前記の解釈と符合する。

以上のとおりであることから、本件発明1は、「同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビーム」を前提として、これに、前記「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」なる訂正請求により追加された特定を備えていることで、前記段落【0014】に記載されるごとくの顕著な効果を生むものであり、
他方、本件発明18は、「前記印刷ブロックブランクの表面を、少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射して暴露して、」と特定されていることから、「同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビーム」との前提を欠くものではあるが、前記「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」なる訂正請求により追加された特定を備えていることで、本件発明1と同様に、前記段落【0014】に記載されるごとくの顕著な効果を生むものであると解される。

7-4[請求人が提示した甲第1号証?甲第6号証の記載内容について]
以下で検討するように、請求人の提示した甲第1号証?甲第6号証のいずれにも、
「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」との特定を備えることが記載若しくは示唆されていない。
また、レリーフの表面側部の境界を維持する上で、先だってビーム照射が行われたことにより、当該境界に残存する熱の影響を如何に考慮すべきかを、記載若しくは示唆するところもない。

7-4-1[甲第1号証について]
当該甲第1号証は、前記に摘示したケの記載にあるように、短時間で版を作製し、この版を用いてグラビア印刷を行なう版胴を短時間に得ることの出来る製版装置を提供することを目的とする。
そして、前記摘示したコの記載にあるように、図1に示されている様に、版胴1の版2にレーザ源10Aよりレーザビームを照射してグラビア版を製版する様に成した製版装置に於いて、版胴1の回転方向或は版胴1の回転軸方向に沿って配設した複数のレーザ源10A,10Bを有し、複数のレーザ源10A,10Bで版2の画素を多数回製版して、版2の製版時間を短縮して成るものである。
また、前記摘示したサの記載にあるように、当該複数のレーザ源10A,10Bでの個々の製版は、窪み15の深さd又は面積Sを選択するものであることからして、窪みを形成する場合、前記摘示したシ?チに記載される実施例において、ツの記載にあるように、CPU32により製版すべき画素の画像データがデータRAM38より読みだされ、これがグレースケール変換回路42に送られ、グレースケール変換回路42では画像の濃淡をレーザー照射時間の長短に変換し、このグレースケール変換回路42の出力によりレーザードライバ43を介して半導体レーザ10A及び10Bが駆動されることで、窪み形成が行われる。
しかしながら、当該甲第1号証においては、複数のレーザ源10A,10Bで版2の画素を多数回製版するに際して、半導体レーザ10A及び10Bの出力が用いられること、これらレーザが版胴1の軸方向に並設した場合と、版胴1の同一円周上に90度の角度を離して配設されることの記載はあるものの、他方ビームの形成した窪みの輪郭を維持するか否かについての記載はなく、本件発明1におけるごとくの、形成される版の表面側の境界を形成するに際して、「第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」ことを示唆する記載は発見できない。

7-4-2[甲第2号証について]
当該甲第2号証に記載されるレーザ彫刻機は、前記に摘示したアの記載【要約】にあるように、確かに「断面の微細な構造は、比較的高い変調周波数の音響光学変調器(12)により変調された第1のレーザのレーザビームにより形成され、一方、所望の断面の深い領域は、第2のレーザ(10)のレーザビームにより形成される。」構成を備えるものである。
そして、【発明の詳細な説明】にも、前記に摘示したケ、コの記載にあるように、ここで用いるレーザビームとして、断面の微細な構造を形成するための第1のレーザのレーザビームと、所望の断面の深い領域断面の構造を形成するための第2のレーザのレーザビームとを用意し、除去対象とする領域に応じてこれらレーザビームを使い分けられているものであることが記載されている。
ここで、当該甲第2号証に記載されるレーザ彫刻機における前記第1のレーザのレーザビームと第2のレーザのレーザビームは、それぞれ異なるレーザビーム源から射出されるものの、いずれも、同じ光学系(18)から素材表面に照射されるものであって、本件発明1及び本件発明18において特定されている、「同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビーム」、すなわち、同じトラック上を走査されるように、各々が一つずつガイドされる「複数のビーム」を前提とするものではない。
しかしながら、当該第2号証に記載されるたレーザ彫刻機における、第1のレーザのレーザビームと第2のレーザのレーザビームによるレーザ彫刻が、いかなるものであるかについて当該甲第2号証の記載を参照する。

当該レーザビームがどのような照射を行うものであるかは、前記に摘示したスの記載において、【図2】を参照した説明がなされている。
ここで、前記スの記載によれば、「制御装置6は、第1のレーザ8が直線偏光かつ一定パワーのレーザビームを音響光学変調器12へ与えるよう、第1のレーザ8に対して制御信号S1を出力する。音響光学変調器12は、素材表面22の所望の断面の微細な輪郭を定める制御信号S3を制御装置6から受け取る。音響光学変調器12から出力された上記と同じ直線偏光のレーザビームは選択ミラー14を透過し、光学系18を介して素材表面22上へ導かれる。」とあるように、制御信号S3により制御されるレーザビームが専ら素材表面の所望の断面の微細な輪郭を定めるものとして機能することとされる。
そして、前記スの記載によれば、第1のレーザ8から出力されるレーザビームは、制御信号S1によりmaxとされる一定のパワーを出力するものの、第1の制御信号であるS3により音響光学変調器12が制御されており、他方第2のレーザ10から出力されたレーザビームのパワーは第2の制御信号S2で制御されており、それぞれのパワーはそれぞれの制御信号S3あるいはS2にほぼ比例した出力となることが把握できる。
続く、前記セの記載によれば、【図2】のA)に示された断面形状を彫刻するにあたり、まず時刻t1に制御信号S3が急激に立ち上がり音響光学変調器12を介した第1のレーザ8から出力されるレーザビームが素材表面に照射され、時刻t2において最大値になることで当該レーザビーム出力により素材表面に深さXの断面深さが与えられ、当該時刻t2には制御信号S2が上昇し始め、制御信号S2のレベルと制御信号S3のレベルとの合計値に従って、選択ミラー14で1つに統合された前記第1のレーザビームと第2のレーザビームのパワーが素材表面上で増大し、その結果、断面の深さが増していくことが把握できる。
前記スの記載では続いて、時刻t4では制御信号S2のレベルが下がり始めるので、それに応じて素材表面内の断面深さが減少し始め、時刻t5で制御信号S2が再びゼロレベルに戻ると、時刻t2と時刻t5との間では制御信号S3がその最大レベルを維持していた制御信号S3が減少し始め、時刻t6で制御信号S3のレベルがゼロに落ち、時刻t6の後は、レーザビームは素材表面上に導かれないので、何の彫刻も起こらないことが把握できる。
してみるに、素材表面の所望の断面の微細な輪郭を定める制御信号S3により制御されるレーザビームは、前記時刻t1からt2までの過程において、深さXを越える彫刻を行うために合成される制御信号S2により制御される第2のレーザビームに先立って照射されている。
他方、時刻t4からt6までの過程においては、深さXを越える彫刻を行うために合成された制御信号S2により制御される第2のレーザビームが止められた後も、制御信号S3による出力が保持されていることから第1のレーザビームによる照射は継続されており、【図2】A)の彫刻を要しない素材表面に至って始めて照射を止めるものとされている。
これら記載において、【図2】A)の深さXより浅い断面が、甲第2号証にいう素材表面の所望の断面の微細な輪郭であって、深さXを越える断面は、前記輪郭を形成するものでないことは明らかである。
しかし、制御信号S3の立ち上げは、制御信号S2の立ち上げに先だっているものの、その停止は、制御信号S2の停止後となっており、結果として、素材表面の所望の断面の微細な輪郭の形成は、深さXを越える断面を形成する期間の前後に亘っており、
換言すれば、時刻t1?t3においては、素材表面の所望の断面の微細な輪郭の形成が、深さXを越える断面を形成するに先だち行われているものの、時刻t4?t6においては、素材表面の所望の断面の微細な輪郭の形成は、深さXを越える断面を形成した後に行われている。
すると、当該甲第2号証に記載されるレーザ彫刻機においては、素材表面の所望の断面の微細な輪郭の形成が、必ず、深さXを越える断面を形成するに先だって行われるものとはいえない。
したがって、当該甲第2号証に記載されるレーザ彫刻機においては、
素材表面の所望の断面の微細な輪郭の形成を行うレーザビームと、深さXを越える断面の形成を行うレーザビームとを用意して、除去対象となる断面種類に応じてこれらレーザビームを使い分けることで、レーザビームの機能分担を行う技術思想の示唆があるとはいえるものの、本件発明1におけるごとくの「第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」ことが、直ちに示唆されているものではない。

7-4-3[甲第3号証について]
当該甲第3号証においては、前記に摘示したように直接レーザ彫刻することで凸版印刷版を製作するに使用する材料には、各種のものが公知であることの記載はあるものの、レーザ彫刻を行う際に、どのようにレーザビームを制御すべきかの記載は発見できない。

7-4-4[甲第4号証について]
当該甲第4号証においては、前記に摘示したように、グラビアの製版法には、「フ食法」と「彫刻法」があること、「彫刻法」には、「レーザースター」が存在していること、が把握できる。
そして、図1をみる限り、「レーザースター」以外の「コンベンショナル」、「網コン」、「ダイレクト」及び「彫刻法 ヘリオ・オハイオ バルカス」においては、階調変化に応じて凹んだ部分の輪郭が大小となることが明らかに把握できるのに対して、「レーザースター」の場合には、凹んだ部分の輪郭がほぼ同様の大きさを維持しているように看取される。
しかしながら、当該「レーザースター」に係る説明文には、「レーザーを使用して合金を合金を蒸発させる。深さの深浅により階調を表現する。」とされるのみであって、凹んだ部分の輪郭がいずれの階調度においても同じ輪郭が保持されるものであるとの明記はない。
したがって、当該甲第4号証の記載からは、「彫刻法」である「レーザースター」において、レーザビームがどのように制御されるかを把握することはできない。

7-4-5[甲第5号証について]
当該甲第5号証に記載される半導体レーザ製版装置は、前記に摘示したように、従来技術である半導体レーザ製版装置においては、画像データに対応した面積の異なる窪みを形成して階調を表現しているものの、版に形成される窪みの深さは常に一定であるために、深さ方向の変化が乏しく、グラビア印刷が特徴とするインクの厚み方向による階調表現ができない問題(イの記載)に鑑み、グラビアの版の窪みの深さ方向に変化を持たせることを目的とするもの(ウの記載)である。
当該甲第5号証における半導体レーザが複数のレーザビームを備えることも意図しているか否かは、その記載からは明らかでないものの、その実施例記載を参照するに、単一の半導体レーザ10を用いる場合について記載されており、本件発明1における「複数のビーム」を備えるものであるとはいえない。
また、前記に摘示したカ?ケの記載を参照しても、窪みを形成するにあたって、その窪みの輪郭を保持するようにレーザビームが制御されることの記載或いは示唆は発見できない。
むしろ、コの記載からは、窪みの深さに応じてビーム出力を変更するものとされており、用いられているビームのいずれもがレリーフ表面側部の境界の形成を行うものであって、専らレリーフ表面側部の境界の形成を行うビームを設けたものとはいえない。
してみれば、当該甲第5号証に記載される半導体レーザ製版装置は、本件発明1或いは本件発明18におけるごとくの「第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」に相当するものとはいえない。

7-4-6[甲第6号証について]
当該甲第6号証に記載されるレーザ製版装置は、前記に摘示したように、従来技術であるレーザ製版装置においては、小さな開口面積を有する凹み(画素)を製版する場合と、大きな開口面積を有する凹み(画素)を製版する場合とで、1画素当たりのレーザの照射時間は異なるものの、1画素当たりの製版時間(走査時間)が同一の時間になるので、総製版時間が同一の時間になり、全体として時間の無駄が大きいという問題(オの記載)に鑑み、版シート全体の製版時間を短縮することのできるレーザ製版装置を提供することを目的とする(カの記載)ものである。
当該甲第6号証におけるレーザ製版装置が複数のレーザビームを備えることも意図しているか否かは、その記載からは明らかでないものの、その実施例記載を参照するに、画像情報の濃度に応じた凹みを画素単位に形成するにあたり、単一のレーザビームLを版シート22に対して2回の走査を行うこととし、いずれかの1ラインの走査では、閾値を超える画素にのみ凹みを形成して製版し、他方の1ラインの走査では、濃度を有する全画素に凹みを形成するように構成することで、1ライン中に閾値を超える画素が存在しない場合には、その1ラインの走査をとばすことを可能として、結果として、版シートにおける全製版範囲の製版時間を短縮することが可能であるものとされる。
そこで、1周目の走査(A)において濃度を有する全画素に凹みを形成するように構成したものを示す図1において、その2周目の走査(B)で形成される窪みの断面図を表す下側の図を参照するに、ここに示された窪みのうち58h、58iでは、1周目に形成された窪みの輪郭を保持しているように看取できるものの、窪み58jでは、1周目に形成された窪みの輪郭につながって下方向に延長するように形成されていることからして、2周目の走査で照射されたレーザビームが、1周目に形成された窪みの輪郭に触れないものということはできない。
また、同図1における2周目の走査(B)で形成される窪みの平面図を表す上側の図に示された窪みにおいては、前記の58h、58i及び58jのいずれもがその窪みの上下において、1周目に形成された窪みの輪郭に接するごとくの記載がされている。
してみるに、当該甲第6号証に記載されるレーザ製版装置においては、単一のレーザビームLを版シート22に対して2回の走査を行う場合に、2周目で窪みを形成する際に、1周目で形成された窪みの輪郭を保持するように、レーザビームを制御するようにされていることが記載されているものでも、示唆されているものでもない。
したがって、当該甲第6号証に記載されるレーザ製版装置は、本件発明1或いは本件発明18におけるごとくの「第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」に相当するものとはいえない。

7-5 甲第2号証に記載されるレーザビームの機能分担の技術思想を前提とした容易想到性について
前記のとおりであって、請求人の提示した甲第1号証ないし甲第6号証のいずれにも、本件発明1或いは本件発明18における「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」特定に係る記載若しくは示唆するところはなく、また、レリーフの表面側部の境界を維持する上で、先だってビーム照射が行われたことにより、当該境界に残存する熱の影響を如何に考慮すべきかを、記載若しくは示唆するところもない。

しかしながら、前記のように、甲第2号証に記載されるレーザ彫刻機においては、
素材表面の所望の断面の微細な輪郭の形成を行うレーザビームと、深さXを越える断面の形成を行うレーザビームとを用意して、除去対象となる断面種類に応じてこれらレーザビームを使い分けることで、レーザビームの機能分担を行う技術思想の示唆がある。
また、提示された甲号各証の中には、本件発明1における「同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビーム」を前提とするもの、及び、本件発明18における「前記印刷ブロックブランクの表面を、少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射して暴露して、」を前提とするものが存在している。
そこで、当該レーザビームの機能分担を行う技術思想を、これら甲号各証に適用した場合について検討する。

(甲第2号証に提示される先行技術に対する適用について)
まず、甲第2号証のカ、キの記載には、前記に示したように、ドイツ国公報DE 42 12 390 A1:レーザービーム源からの2つのレーザビームが別々の光路を介して素材表面に向けられるもの、或いは、ドイツ国公報DE 37 14 504 A1:異なる波長の二つのレーザビームを一つの加工点にもたらす先行技術が紹介されている。
しかし、これらは、二つのレーザビームを一つの加工点に対して照射させることを前提とするものであって、二つのレーザビームにより素材表面を順に走査することの記載或いは示唆はなく、各々が独立して素材表面を走査することのできる二つのレーザビームを想定した場合に、素材表面をどのような走査順で走査するかを把握することはできない。
してみれば、これら甲第2号証に提示された先行技術に、甲第2号証に記載されるレーザビームの機能分担の技術思想を適用したとしても、本件発明1或いは本件発明18に特定される「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」なる構成を得られるものとはいえない。

この点、請求人は、甲第2号証の第2のレーザは、本件特許発明と異なり、第1レーザと同時に照射されており、「印刷精度のために最も重要な表面」は第1レーザのみが触り、第2のレーザが触らない点では、同様であり、事実、甲第2号証の図2に示されるように、第1レーザによって形成された微細な構造を第2レーザが操作(「走査」の誤記)する区間(t1?t2の区間、t5?t6の区間、t6以降)では、第2レーザ用の駆動信号は「OFF」に保たれているから、甲第2号証においても、「印刷精度のために最も重要な表面」は第1レーザしか触っていない、と指摘する。

しかしながら、前記で検討したように、甲第2号証記載のレーザ彫刻機における、第1レーザによる「レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域」に係る除去が、「印刷精度のために最も重要な表面」は第1レーザしか触っていないことまでは請求人の指摘どおりであるとしても、当該第1レーザによる除去は、それ以外の第2或いは第3のレーザによる除去に先立った「最初の除去」とはいえず、それ故に、当該領域への熱影響を考慮したものといえないことは、前記で検討したとおりである。
よって、請求人のこの指摘をもっても、本願発明1或いは本願発明18が当業者にとり容易想到であるとする主張は採用できない。

(甲第1号証、甲第5号証或いは甲第6号証記載のレーザ製版装置に対する適用について)
他方、甲第1号証或いは甲第6号証に記載されるレーザ製版装置においては、一つのレーザブロック移動部の上に、複数の半導体レーザを装架するもの、或いは、版胴の回転方向で異なる円周上に存在する各々独立したレーザブロック移動部の上に、複数の半導体レーザをそれぞれ装架するものが記載されている。
そして、これらにおける半導体レーザに除去対象となる断面種類に応じて機能分担させる程度のことは、当業者であれば容易に想到し得ることともいえる。

そこで、これらのレーザ製版装置における半導体レーザによる窪み形成について、より詳細を検討するに、これらのレーザ製版装置では、半導体レーザが素材表面を複数回走査されるものであって、1回目の走査におけるレーザビーム照射で形成された窪みを、二回目の走査におけるレーザビーム照射で深さdを更に深くする方式と、面積Sを大きくする様にされる方式が挙げられている。
ここで、面積Sを大きくする様にされる方式では、1回目の走査におけるレーザビーム照射で形成された窪みを更に拡大することとなり、窪みの輪郭が維持されることはあり得ないのであり、残る深さdを更に深くする方式について検討するに、既に指摘したように、1回目の走査におけるレーザビーム照射で形成された窪みの深さを更に深くする際に、窪みの輪郭を維持するか否かについて何らの記載は発見できない。
すると、前記のように、たとえ甲第2号証に記載されるレーザビームの機能分担の技術思想を適用したとしても、窪みの輪郭を維持されるものとはいえないことになる。
そして、これらの甲号証には、レーザビーム照射に起因する熱的影響を考慮することに係る記載若しくは示唆は何ら発見できず、当該熱的影響を考慮した上で、本件発明1或いは本件発明18における「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」なる構成を特定することは、当業者といえども容易には想到し得ないことといわざるを得ない。

また、この点に関し、甲第5号証に記載される半導体レーザを用いて映像データの濃淡に応じた窪みの版を形成する様にした半導体レーザ製版装置について参照するに、これにおいては、映像データの階調に応じた窪みの深さを形成するにあたり、窪み深さに対応させたレーザ出力を用いるものとされている点で、前記レーザビームの機能分担の技術思想を有するとも解されるが、それぞれの窪みは、その深さに応じたレーザ出力が用いられることから、いずれのレーザ出力においても窪みの輪郭を形成するものであって、専ら窪み輪郭を形成するためのレーザ出力を選択することの示唆があるものとはいえない。
以上のとおりであるから、たとえ、甲第2号証の記載からレーザビームの機能分担の技術思想が抽出できたとしても、これを、本件発明1における「同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビーム」を前提とするもの、及び、本件発明18における「前記印刷ブロックブランクの表面を、少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射して暴露して、」を前提とするものに適用したとしても、熱的影響を考慮する観点から、「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」なる構成を特定することは、当業者といえども容易には想到し得ないことといわざるを得ない。

請求人は、甲第1号証において形成される窪みの断面形状が直接的に示す図面が添付されていないものの、甲第4号証には、レーザが形成する窪みの深浅によって階調を表現するレーザスターという装置による方式が開示されており、段階的に深くなる「すり鉢状の窪み」の断面形状が明確に示されており、また、甲第5号証(図3)には、レーザによって形成する窪みが「逆台形」の断面形状を有していることが明瞭に開示されており、本件特許の出願前において、窪みの断面形状を、「すり鉢状」あるいは「逆台形」とすることは周知であると指摘する。
そして、請求人は、1回目の製版で形成された窪みについて、2回目の製版によってその深さのみを深くしつつ、甲第5号証の記載されているように窪みの最終的な断面形状を逆台形とするためには、2回目以降のビームが、「レリーフの表面側部の境界となる印刷ブロックブランクの材料の領域を」除去してはならないことは当業者にとって明らかであると主張する。

しかしながら、窪み深さの深浅により階調を表現する製版方法が既に存在していたことを立証するとの趣旨で提出された甲第4号証には、彫刻法に係る「レーザスター」に関して「レーザーを使用して合金を蒸発させる。深さの深浅により階調を表現する。」との説明と共に、3つの階調を形成すると推察される窪みのいずれもが概ね同径ともみえる円形の窪みとして形成されていると把握される図面が提示されているのみであって、これら異なる階調の窪みの輪郭がはたして同一輪郭を維持することを意図しているものであるのかまで把握することは困難である。
当該甲第4号証に提示される他の「フ食法」に係る「コンベンショナル」においても、「網点の大きさは一定であり階調は深度差により表現する。」と同様の記載が認められるが、その他の「網コン」或いは「ダイレクト」と対比すると、その窪み輪郭が変わっていないように見受けられるものの、窪み輪郭を変えないことが積極的に指摘されるところはない。
もともと、当該甲第4号証においては、階調表現するにあたって、面積の大小による方式と深さの深浅による方式とが存在することを示すためのものと解されるのであり、対比する概念の大まかな差異を示すべく強調した記載を行うことは、よく行われていることであり、当該甲第4号証の説明及び図面をもって、窪みの大きさの変化がないとまで、断定することはできない。
最終的な窪み断面形状が、単に「円形」、「すり鉢状」あるいは「逆台形」であるとするのであれば、2回目の製版において、1回目の製版で形成された窪みよりも若干大きめの窪みが形成されたとしても、その形状は概ね維持されたと言い得ることとなる。
また、他方、1回目の製版で形成された窪みの輪郭に合わせてレーザ照射が行われることを想定した場合、2回目のレーザ照射は窪み輪郭に当たっているというべきであり、2回目のレーザ照射による熱影響が窪みの輪郭に及ばないとまでは到底いえない。
本件発明1或いは本件発明18においては、「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」との特定を備え、当該「第1のビームのみ」が「前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」のであり、後続する他のビームによる熱影響が及ばないものであることは前記で検討したとおりである。
そして、請求人は、このような熱的影響を考慮することが、当業者にとり容易に想到し得ることであると主張するものの、当業者が熱的影響の考慮をどのように行っているかを把握できる証拠は何ら提出されていないのであるから、容易想到性を検討する材料が存在しないのであり、請求人の主張を採用することはできない。

7-6 まとめ
以上のとおりであって、本件発明1が、「同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビーム」、すなわち、同じトラック上を走査されるように、各々が一つずつガイドされる「複数のビーム」を前提として、これに、「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」特定を備えること、また、本件発明18が、「前記印刷ブロックブランクの表面を、少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射して暴露して、」と特定されていることから、「同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビーム」との前提を欠くものではあるが、「更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去する」特定を同様に備えることが、当該技術分野において周知の技術であるはいえず、このように特定することが当業者の技術常識から明らかなことであるともいえない。

そして、本件発明1及び本件発明18は、いずれも前記のように特定されることで、前記段落【0014】に記載されるごとくの顕著な効果を生むものである。
したがって、本件発明1及び本件発明18は、請求人の提示した甲第1号証?甲第6号証に記載されるものであるとも、これらの記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
すると、本件発明1或いは本件発明18をそれぞれ直接或いは間接的に引用する本件発明2?17或いは本件発明19?31についても、同様に、請求人の提示した甲第1号証?甲第6号証に記載されるものであるとも、これらの記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

8.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
印刷ブロックを製造する方法及び装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックの製造方法であって、前記印刷ブロックブランクの材料がトラックに沿って照射によって除去され、
一つの同じトラックに沿って、各々の場合において、異なる深さに位置するレリーフ領域が、照射への対応する複数回の繰り返し暴露によって製造され、
前記照射への暴露が、同じトラックに沿って一つずつガイドされる複数のビームによって行われ、
更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去することを特徴とする方法。
【請求項2】前記複数のビームは、前記トラックの長手方向に交差する方向に相互に並んで配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記複数のビームは、前記トラックの長手方向に沿った一方向に相互に並んで配置されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】異なる深さのレリーフ領域が異なるパワーのビームによって除去されることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】異なる深さのレリーフ領域が異なる波長のビームによって除去されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】前記印刷ブロックブランクの前記表面の直ぐ下に位置するレリーフ領域が、より低層のレリーフ領域を除去する役割を果たすビームよりもパワーが小さく且つ/又は波長が短いビームによって除去されることを特徴とする請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域が、エロージョンを生じさせる波長に対するスペクトル感度に適合されていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】照射への前記印刷ブロックブランクの前記暴露が、レーザ照射、例えばフォーカスされたレーザ照射を使用して行われることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】前記ビームが前記印刷ブロックブランクに対して動かされることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】前記印刷ブロックブランクが固定位置ビームに対して動かされることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】ポリマ材料を有する印刷ブロックブランクが照射されることを特徴とする請求項1から10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】ポリマ材料から構成されたプレート状の印刷ブロックブランクが、回転可能に搭載されたシリンダの表面上に置かれていることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】印刷ブロックブランクを形成するために、ポリマ材料が回転可能に搭載されたシリンダの表面に引き出されるか又は塗布されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】対象のトラックに沿った前記印刷ブロックブランクの照射への前記暴露がデータファイルの関数として行われ、前記データファイルの各々は、異なる深さに位置する除去対象の前記レリーフ領域の一つに割り当てられていることを特徴とする請求項1から13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】前記データファイルが、
2次元基本レリーフパターンの構築及び電子的記憶と、
前記基本レリーフパターンから異なる距離に位置してレリーフ領域を識別する一つ又はそれ以上の境界であって、前記基本レリーフパターンからの前記距離が増すと、より深くに位置されるように意図されている境界の構築と、
前記取り囲まれた基本レリーフパターンを通るトラックの描画と、
前記トラックの前記境界に基づいた前記基本レリーフパターン及び前記レリーフ領域における境界の探索と、
前記発見された境界に基づいたビームオン及びビームオフコマンドの決定と前記基本レリーフパターン及び前記低層レリーフ領域に対するそれぞれのデータファイルへの分類と、
によって生成されることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】前記問題のデータファイルが前記ビームを変調するために使用されることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】前記それぞれのデータファイルには、各々の場合に前記ビームを変調するための異なる制御電圧が割り当てられていることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】レリーフが印刷ブロックブランクの表面に形成される印刷ブロックを製造する装置であって、
印刷ブロックブランクを保持するマウントと、
前記印刷ブロックブランクの表面を、少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射に対して暴露して、これによって前記印刷ブロックブランクの領域を除去する、光学装置と、
ビームオン及びビームオフ制御コマンドを含むデータファイルの使用によって、前記トラックに沿ったその経路上での前記少なくとも単一のビームの強度の変化を制御する、制御装置と、
を有しており、
前記制御装置は、各々が前記トラック全体に沿った前記印刷ブロックブランクを加工する役割を果たし且つ同じトラックに沿って時間遅れで異なるビームによって加工することができるビームオン及びビームオフコマンドを各々含む複数のデータファイルを提供するように構成され、
前記光学装置は、各々が一つの別個のデータファイルによってのみ制御可能な複数のビームを発するように構成され、
更に、第1のビームのみが、前記レリーフの表面側部の境界となる前記印刷ブロックブランクの材料の領域を最初に除去することを特徴とする装置。
【請求項19】前記ビームは、前記トラックの長手方向に交差する一方向に相互に並んで配置されていることを特徴とする請求項18に記載の装置。
【請求項20】前記ビームは前記トラックの長手方向に沿った一方向に相互に並んで配置されていることを特徴とする、請求項18に記載の装置。
【請求項21】前記ビームがレーザビームであることを特徴とする請求項18から20の何れか1項に記載の装置。
【請求項22】前記印刷ブロックブランクが、その長手軸の周りを回転可能なように搭載されたシリンダとして構成され、その表面上に弾性材料、例えばポリマ材料を有していることを特徴とする請求項18から21の何れか1項に記載の装置。
【請求項23】前記シリンダの前記長手軸の方向に変位可能に配置されたキャリッジが存在し、前記キャリッジが前記光学装置の少なくとも一部を担持することを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項24】前記シリンダがその長手軸の方向に変位可能であり、且つ前記光学装置が固定位置にあることを特徴とする請求項22に記載の装置。
【請求項25】前記ビームの強度を制御するために、前記データファイルを介して少なくとも間接的に駆動可能な変調器が設けられていることを特徴とする請求項18から24の何れか1項に記載の装置。
【請求項26】対象の変調器は少なくとも一つのアナログスイッチに接続され、それを通じて制御電圧が前記変調器に供給可能であり、且つ前記アナログスイッチは前記データファイルによってスイッチング可能であることを特徴とする請求項25に記載の装置。
【請求項27】変調器が複数のアナログスイッチの出力に接続され、前記複数のアナログスイッチの各々は、一つのトラックに沿った彫り加工のために必要とされる前記複数のデータファイルのうちの一つによってスイッチング可能であり、且つ前記アナログスイッチは、各々が異なる制御電圧をスイッチングすることを特徴とする請求項26に記載の装置。
【請求項28】複数の変調器が存在し、その各々に対して一つのアナログスイッチが割り当てられ、これらのアナログスイッチの各々は、一つのトラックに沿った彫り加工のために必要とされる前記複数のデータファイルのうちの一つによってスイッチング可能であり、且つ前記アナログスイッチは、各々が異なる制御電圧をスイッチングすることを特徴とする請求項26に記載の装置。
【請求項29】前記変調器が音響光学変調器であることを特徴とする請求項25から28の何れか1項に記載の装置。
【請求項30】前記変調器が偏向器又はビーム偏向器であることを特徴とする請求項25から28の何れか1項に記載の装置。
【請求項31】前記ビームがフォーカスされたビームであることを特徴とする請求項18から30の何れか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、請求項1及び18に従った印刷ブロックの製造のための方法及び装置に関している。この印刷ブロックは、例えば、レリーフ印刷又はグラビア印刷ブロックなどとして機能することができるフレキソ印刷ブロック又は非可とう性印刷ブロックであってもよい。
【0002】
【従来の技術】
従来のCO2レーザの助けを借りてフレキソ印刷ブロックを製造するために、材料を印刷プレート(例えばポリマプレートであってもよい)から直接に焼き払わなければならないことが、既に一般に良く知られている。このようにして、印刷プレートにレリーフを作成する。しかし、このプロセスにおいては、CO2レーザは永続的にパワー変調され、プロセスは比較的遅い。
【0003】
さらに、フレキソ印刷ブロックの製造のために、PCT/EP96/05277は既に、2つのレーザビーム源を順に使用し、第1のレーザビーム源によって微細構造を所望の形状(プロファイル)で得て、第2のレーザビーム源によってその形状内に低層領域を作成することを開示している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
微細で且つ同時に低レベルの領域は、上記で言及した2つの方法によっては、さらなる手段なしには比較的早い処理速度でこのようにして製造されることができない。この目的のためには、パワー変調それ自身が緩慢であり、もし音響光学変調器が使用されると、変調器を破壊しないようにするためにレーザパワーは比較的低いレベルに制限されなければならない。
【0005】
本発明の目的は、非常に微細で且つ同時に深い構造でさえも迅速且つ単純に作成されることができる、印刷ブロック、特にフレキソ印刷ブロックの製造方法を規定することである。さらに、この目的に適した装置が提供される。
【0006】
【課題を解決するための手段】
方法に関して設定された目的に対する解決策は、請求項1に規定されている。一方、装置に関して設定された目的に対する解決策は、請求項18に見られ得る。本発明の効果的な改良は、それぞれの従属するサブクレームに特徴付けられている。
【0007】
本発明に従った印刷ブロック、特にフレキソ印刷ブロックを製造するための方法において、レリーフが、印刷ブロックのブランクの表面に形成される。印刷ブロックブランクの材料は、トラックに沿って照射によって、すなわち、例えば音響光学変調器のような変調器、可動ミラーのような光偏向器などによってオン・オフスイッチングされ、この手段によって強度を変える照射によって、除去される。材料が除去されて、一つの同じトラックに沿って、各々の場合に異なる深さに位置するレリーフ領域が対応する頻繁な照射への暴露によって作成される。そのようにするにあたって、フォーカスされた照射、あるいは、上記の目的のために十分に強烈又は強力である限りは平行照射を使用することができる。
【0008】
これより、本発明によれば、印刷ブロックブランクの表面にレリーフを形成するにあたって、比較的平坦な凹部が、印刷ブロックブランクを照射に1度だけ暴露することによって得られ、一方、より深い凹部は、印刷ブロックブランクの対応する点を照射に対して複数回暴露することによってブロックされる。より深いレベルの領域を作成するための印刷ブロックブランクの照射へのこの複数回暴露は、時間遅れとともに又は連続的に行われ、低層領域が、あたかも繰り返して彫られたかのようにして得られる。
【0009】
レリーフ構造の低層領域は、照射への繰り返し暴露によって彫られるので、ビームのパワーは比較的低くすることができ、使用時のそのビームパワーが変調器の破壊を防ぐために正確に制限されなければならない非常に高速の変調器、例えば音響光学変調器でさえ、ビームパワーのオン・オフスイッチングのために使用されることができる。これより、本発明によれば、比較的微細で且つ同時に深い構造でさえも迅速に構築することができ、依然として良質の印刷レリーフを作成することができる。これはまた、低い構造領域の構築における個別の焼き払い操作の間に、材料の除去が新たに始まる前に印刷ブロック材料が再び冷却し、その結果として印刷ブロック材料がこれらの領域ではそれほど顕著に加熱せず、レリーフが極めて正確な方法で又は形状に忠実に構成されることができると言う事実に関して特に、そうである。個別の焼き払い操作の間に、剥離された材料は排出、例えば吸引されることもでき、これによって次の除去操作時により正確な作業が可能になり、より良い品質の構造が得られる結果となる。
【0010】
本発明の参考例によれば、印刷ブロックブランクの表面の照射は、トラックに沿って繰り返して伝達される一つの同じビームを使用して行われる。この場合、一つのビーム源のみが必要であり、これが製造コスト及び対応する装置の制御を単純化し、これにより低減する。しかし、低層領域を構築するためには、トラックはビームによって数回横切られなければならず、これが加工時間を延長する。しかし、この問題点は、各々が一つの同じトラックに沿って繰り返してガイドされる平行ビームを生成する複数のビーム源を提供することによって、補償されることができる。平行ビームのグループはそれから、他のトラックなどを加工するために、印刷ブロックブランクに対して相対的にブロック単位で(ブロックモードで)オフセットされることができる。そのようにするにあたって、トラックの領域又はグループもまた、ブロック境界を克服するために相互に内部にまとめられ得る。この場合、一つのブロックのトラック間に、常に他のブロックのトラックが存在する。
【0011】
本発明の発展によれば、印刷ブロックブランクの表面の照射は、一つの同じトラックに沿って連続的にガイドされる複数のビームによって行われる。これより、一つの同じトラックが、異なるビームによって連続的に処理される。この目的のために、これらの複数のビームは、例えば,そのトラックの長手方向に交差するような方向に相互に並んで配置されていても良い。トラックを通過した後ごとに、印刷ブロックブランクとビーム群との間の相対的なシフトが生じて、今度は同じトラックがビーム群の中の異なるビームによって加工される、などである。
【0012】
本発明の更なる発展によれば、複数のビームは、トラックの長手方向に沿った一方向に相互に並んで配置されることもできる。この場合にも、一つの同じトラックは、今度は異なるビームによってある時間に渡って連続的に加工される。このとき、トラックの長手方向におけるビーム間隔に対応する時間遅れがある。
【0013】
一つの同じトラックが異なるビームを使用して処理されることができるという事実から、異なる深さのレリーフ領域を、例えば異なるパワー又は異なる波長のビームによって除去することが可能である。このようにして、より良好な品質の印刷ブロックが製造されることができる。これより、例えば、印刷ブロックブランクの表面の直ぐ下に位置するレリーフ領域は、より低層のレリーフ領域を彫る役割を果たすビームよりもパワーが低く且つ/又は波長が短いビームによって除去されることができる。このようにして、構築されるべきレリーフの表面端における境界(印刷輪郭)が非常に正確に作成されることができるが、これは、境界の外側の領域に対しては必ず必要とされるものではない。なぜなら、ここでは印刷が行われないからである。したがって、これらの領域は、加工処理を加速するために、より高いパワーで且つしたがってより迅速に除去されることができる。
【0014】
効果的なことに、表面端でレリーフを固定する印刷ブロックブランクの材料の領域は最初に剥離され、このようにして、印刷ブロックブランクがまだ比較的低温である間にレリーフ輪郭が確立されることができる。これが行われた後にのみ、印刷ブロックブランクからの材料の更なる除去が行われて、低層領域を形成する。この手順において、非常に正確な境界が、レリーフの表面端に得られる。しかし、原則的には逆の手順、すなわち、レリーフの表面端の境界が最後にブロックされることが可能である。
【0015】
本発明の効果的な改良によれば、表面端でレリーフを固定する印刷ブロックブランクの材料の領域は剥離放射の波長にスペクトル的に感度を有するように適合され、これによって、材料のこれらの領域を除去するプロセスは、より優れた精密さを有するレリーフを得るために、さらに良好に制御されることができる。
【0016】
本発明の更なる改良によれば、照射への前記印刷ブロックブランクの前記暴露が、レーザ照射を使用して行われる。これは、この方法によって、必要な照射エネルギーが用意に利用され得るからである。これに関して、フォーカスされたレーザ照射が使用され得る。
【0017】
トラックに沿って印刷ブロックブランクを加工するために、ビーム又はレーザビームが前記印刷ブロックブランクに対して動かされてもよく、又は、前記印刷ブロックブランクが固定位置ビームに対して動かされることによってこれが達成されても良い。あるいは、ビーム及び印刷ブロックブランクの両方が相互に相対的に動かされることもできる。
【0018】
そのようにするにあたって、例えば印刷表面を形成する弾性材料、例えばポリマ材料、シリコーン、又はゴムを有する印刷ブロックブランクが使用される。しかし、印刷領域はまた堅固であってもよく、例えば金属でできていてもよい。
【0019】
これにより、例えばポリマ材料又はその他の適当な弾性材料からなる印刷ブロックブランクが、回転可能に搭載されたシリンダの表面上に置かれることができ、例えばクリップ留めによって、真空による吸引によって、磁石によって等の方法で、その場所に強固に取り付けられる。しかし、印刷ブロックブランクを形成するために、弾性又はポリマ材料もまた、回転可能に搭載されたシリンダの表面に引き出されるか又は塗布されてもよい。例えば、これらはシリンダ上に引き出されたフレキシブルチューブであることができ、あるいは、液体又はポリマ材料はナイフコーティング、噴霧、浸漬などによって供給されることができる。
【0020】
本発明の非常に効果的な改良によれば、対象のトラックに沿った前記印刷ブロックブランクの照射への前記暴露が、各々が異なる深さまで彫られるレリーフ領域の一つに割り当てられた複数のデータファイルの関数として行われる。これにより、印刷ブロックブランク上の材料の領域の除去が、純粋にデジタル制御の下で生じ、照射パワーの変化が非常に迅速に行われて、加工プロセスを加速することができる。データファイルはまた組み合わされて、それらのデータファイルをあたかも引き続いて動作される連鎖状のリンクの形態であるかのように含む全体ファイルを形成してもよい。
【0021】
そのようにするにあたって、ファイルは、本発明の効果的な改良に従って、2次元基本レリーフパターンの構築及び電子的記憶と、前記基本レリーフパターンから異なる距離に位置してレリーフ領域を識別する一つ又はそれ以上の境界であって、前記基本レリーフパターンからの前記距離が増すと、より深くに位置されるように意図されている境界の構築と、前記取り囲まれた基本レリーフパターンを通るトラックの描画と、前記トラックの前記境界に基づいた前記基本レリーフパターン及び前記レリーフ領域における境界の探索と、前記発見された境界に基づいたビームオン及びビームオフコマンドの決定と前記基本レリーフパターン及び前記低層レリーフ領域に対するそれぞれのデータファイルへの分類と、によって作成される。
【0022】
基本レリーフパターンが、例えば原本を走査することによって又はコンピュータのスクリーン上にて設計者からのグラフィックレイアウトによって特定されると、それからトラック幅と基本レリーフパターンに対するトラック経路とが与えられて、印刷ブロックブランクの中で各々異なる深さまで除去されるべき各々の領域に対するデータファイルが、印刷ブロックブランク内に非常に単純な方法によって、実際のところ自動化された手段によって作成されることができ、これも同様にプロセスの作業フローを加速させる。
【0023】
そのようにするにあたって、対象のデータファイルは、ビームを変調するか又はそのオン・オフスイッチングを行うために使用され得る。例えば、これらのデータファイルは、音響光学変調器を制御するために使用されることができる。その助けを借りてビーム又はレーザビームがオン・オフスイッチングされることやその動作モードは、一般的に既知である。
【0024】
異なる強度のビームが通過できるようにするために、音響光学変調器は異なる制御電圧によって駆動されることができる。その点に関して、対象のデータファイルの一つを使用して対象の制御電圧のうちの一つを使用して変調器を駆動するときに、異なる制御電圧を各々のデータファイルに割り当てて順にビームを変調してもよい。問題となっている制御電圧はそれから、データファイルにしたがってスイッチオンされる。このスイッチングされた制御電圧が、それから変調器に印加される。
【0025】
本発明による印刷ブロックを製造する装置、特にフレキソ印刷フォームを作成する装置は、印刷ブロックブランクを保持するマウントと、前記印刷ブロックブランクの表面を少なくとも一つのビームによって一つのトラックに沿って順に照射に対して暴露し、これによって前記印刷ブロックブランクの領域から材料を除去する光学装置と、ビームオン及びビームオフスイッチングコマンドを含むデータファイルの使用によって、前記トラックに沿ったその経路上での前記少なくとも単一のビームの強度の対応する変化を制御する制御装置と、を含む。この装置自身は本発明に従って、制御装置が、各々がトラック全体に沿って印刷ブロックブランクを加工するために使用され且つ時間遅れ方式で処理可能であるビームオン及びビームオフスイッチングコマンド(パターン情報)を各々含む複数のデータファイルを利用可能にするように構成されているという点で、差別化されている。
【0026】
一つの同じトラックに関するパターン情報又はデータファイルのこの時間遅れ動作によって、放射はトラックに沿って一度だけ又は複数回作用して、対応するより平坦な又はより深い領域をトラックに沿って得ることができ、ビームの迅速な制御可能性とビームがトラックの一つの同じ領域に複数回連続して照射されることができるという事実とにより、トラックの長手方向に非常に短いが深く位置する凹部を順に作成し、このようにして印刷ブロックブランクの表面に非常に精密なレリーフを得ることができる。
【0027】
そのようにするにあたって、本発明の改良によれば、前記光学装置は少なくとも一つのビームを発するように構成され、且つ、前記制御装置は、一つのビームが一つの同じトラックを各々の場合に通過し且つ前記トラックを通過するたびごとに新しいデータファイルが読み出されることができるように構成されている。例えば、もし一つのビームのみが存在し、且つ印刷ブロックブランクの表面に深さレベルを得るために3つのデータファイルが動作されなければならないならば、ビームは対象の任意のトラックを3回通過しなければならないであろう。
【0028】
しかし、前記光学装置は、各々が一つの別個のデータファイルのみによって制御可能な複数のビームを発するように構築されることも可能である。この場合、全てのビームは、一つの同じトラックを一つずつ交差しなければならないであろう。
【0029】
この目的のために、前記ビームが前記トラックの長手方向に交差する一方向に相互に並んで配置されて、交差方向における適当な変位の結果として、ビームは一つずつトラックに位置あわせされることができる。
【0030】
しかし、あるいは、前記ビームは、前記トラックの長手方向に相互に並んで配置されてもよい。この場合、ビームは、トラックの長手方向におけるビーム間隔に対応する時間遅れを伴って、データファイルによって駆動される。
【0031】
使用されるビームは、フォーカスされたビーム、例えばフォーカスされたレーザビームであってもよい。
【0032】
原則的に、印刷ブロックブランクはプレート状ブランクであるか、又は円筒状印刷ブロックブランクであることができる。少なくともその表面は弾性的に製造されていて、好ましくはポリマ材料からできているか、又はそのようなものを少なくとも一つ含んでいる。しかし、シリコーン、ゴム、又はその他の材料、例えば金属からできていても良い。
【0033】
プレートの形態に形成された印刷ブロックブランクを加工するためには、プレートは例えば、ビームがトラックに沿ってガイドされ且つそれに平行にある距離に保たれる時に、平坦状に加工されることができる。ビーム源及び印刷ブロックブランクはそれから、互いに平行な面内に配置されることができる。
【0034】
本発明の効果的な改良によれば、前記印刷ブロックブランクが、その長手軸の周りを回転するように搭載されたシリンダとして構成され、その表面上には弾性材料、例えばポリマ材料が置かれている。これは、プレート状の形状で且つその表面の周りに置かれることができる。シリンダ表面上にプレートの形態で取り付けられるならば、このプレートはまた、平坦な印刷プレートとして使用されるために加工後にシリンダ表面から取り除かれることができる。しかし、弾性又はポリマ材料はまた、円筒状サポートの表面上に引き出されるか、又は異なる様式で、例えば浸漬、ナイフコーティング、又は噴霧プロセスなどによって塗布された後に、そこに固定されたままであっても良い。この場合、シリンダ全体が、後に印刷シリンダとして使用される。
【0035】
印刷シリンダを加工又は照射して表面レリーフを製造するとき、表面レリーフを回転すると同時に、光学装置の少なくとも一部を担持してシリンダの長手軸の方向に変位可能に配置されているキャリッジを移動することができる。このキャリッジ上に存在し得る部品、例えば、レーザビーム又はレーザビーム源を偏向するチルトミラーは、その上に直接に搭載されても良い。シリンダをその長手軸の周りに回転させるときに、シリンダをその長手軸の方向にも同時に変位させて、印刷ブロックブランクの表面を一定位置の光学装置によって加工することもできる。この改変は、光学装置自身が、多数のビームを生成する多数のビーム源からなっていて、これにより振動による調整ずれが比較的大きいなら、効果的である。
【0036】
強度の制御又はパワーの制御、すなわちビームのオン・オフスイッチングのために、データファイルを介して制御可能な変調器が設けられていることは既に述べている。そうするにあたって、これらは、好ましくは、高速で駆動可能な音響光学変調器であることができる。
【0037】
同時に、変調器のうちの特定の一つは少なくとも一つのアナログスイッチに接続され、それを通じてパターン情報に対応する制御電圧が前記変調器に供給されることができ、前記アナログスイッチは前記データファイルによってスイッチング可能である。この手段によって、加工ビーム又はレーザビームの非常に正確なデジタル制御が可能である。
【0038】
これにより、例えば、本発明の改良によれば、変調器が複数のアナログスイッチの出力に接続され、前記複数のアナログスイッチの各々は、一つのトラックに沿った彫り加工のために必要とされる複数のデータファイル(パターン情報)のうちの一つによってスイッチング可能であり、且つ前記アナログスイッチは各々が異なる制御電圧をスイッチングする。データファイルに依存して、且つこれより選択されたアナログスイッチに依存して、パターン情報に対応した異なる制御電圧が、このようにして変調器に到着し、選択された制御電圧に依存して、変調器はより大きな又はより小さな強度又はパワーを有するビームを発する。
【0039】
しかし、本発明のその他の改良によれば、複数の変調器が存在し、その各々に対して一つのアナログスイッチが割り当てられ、これらのアナログスイッチの各々は、一つのトラックに沿った彫り加工のために必要とされる複数のデータファイルのうちの一つによってスイッチング可能であり、且つ前記アナログスイッチは各々が異なる制御電圧をスイッチしてもよい。
【0040】
【発明の実施の形態】
本発明及び例示的な実施形態は、以下に、図面を参照して詳細に記述されている。
【0041】
本発明の下地になっている操作の原理は、図1を参照して以下に詳細に記述されている。図1において、参照番号1は、ポリマ材料から形成された印刷ブロックブランクを指す。フレキソ印刷ブロックを作成するために、例えばレリーフが、例えば3つのフォーカスされたレーザビーム3、4、及び5の助けによって印刷ブロックブランク1のポリマ材料の領域を焼き払うことによって、印刷ブロックブランク1の表面2に彫られる。3つより多く又は少ないレーザビームを使用することができる。この目的のために、レーザビーム3、4、及び5は、表面2の上を矢印6の方向に伸びるトラックに沿って、連続して移動される。レーザビーム3は先頭レーザビームであって、印刷ブロックブランク1の表面2に最初に作用する。その後、同じトラックに沿って時間遅れを有してレーザビーム4が続き、その後には、再び同じトラックに沿って時間遅れを有してレーザビーム5が続く。レリーフを形成する目的で印刷ブロックブランク1の表面に刻まれるべき凹部の深さに応じて、レーザビーム3のみ、レーザビーム3及び4、又は全レーザビーム3、4、及び5が使用される。凹部が比較的平坦であるべきならば、レーザビーム3のみがオンされて、印刷ブロックブランク1の表面2の下の部分Aのみが除去される。レーザビーム4及び5は、そのときにはオンされない。反対に、より深い凹部が望まれるならば、レーザビーム4及び5もまた使用される。この場合、印刷ブロックブロック1の上部部分Aは再び、レーザビーム1の助けによって最初に焼き払われ、短い時間の後に、部分Aの底部の下に位置する部分Bがレーザビーム4の助けによって焼き払われる。更に深い凹部に対しては、レーザビーム4の使用後に、部分Bの底部の下に位置する部分Cがレーザビーム5の助けによって焼き払われる、などである。このように、レーザビーム3,4、及び5によって、比較的深い凹部が形成されるべきレリーフ領域が連続したステップで一つずつ順に複数回照射され、以前に得られた凹部の底部を焼き払うか又はさらに彫る。
【0042】
この原理の効果は、一つの同じ領域の底部を複数のレーザビームを使用して繰り返し除去するために、ビームパワーを比較的小さく維持することによって、結果として、レーザビームのオン・オフスイッチのために比較的高速のスイッチング特性を有するが過度に高いパワーを処理することができない光学的スイッチング素子を使用してもよい。このようにして、微細で且つ非常に深い構造を同時に形成することができ、この結果として印刷ブロック(印刷プレート、印刷ローラなど)の製造における品質の所望の改良が実現される。使用されることができる上述のタイプのスイッチング素子の例は、音響光学変調器、ミラーのような偏向器又はビーム偏向器などである。
【0043】
例えば、図1における印刷ブロックブランクは、平坦状に加工されるプレート状のブランク、又は例えば回転可能に搭載されたシリンダの表面に配置され且つそこから再び取り外されることができる円筒状の印刷ブロックブランクであってもよい。しかし、シリンダ自身もまた、その表面が例えばポリマ材料によってコーティングされるならば、印刷ブロックブランクと呼ばれることもできる。
【0044】
本発明の改良によれば、レーザビーム3、4、及び5は、異なるパワーレベルを有することができる。例えば、先頭のレーザビーム3は、他の2つの引き続くレーザビーム4及び5よりも低いパワーを有することができ、最初にレーザビーム3によってレリーフのエッジを比較的低いパワーで良好に規定することができる。凹部の低層領域はそれから、より強力なレーザビーム4及び5を使用して焼き払われることができる。このようにして、例えば、レーザビーム3としては100ワットのCO2レーザを使用し、レーザビーム4及び5としては200ワットのCO2レーザを使用することができる。
【0045】
レーザビーム自身は、レンズ7、8、及び9の助けを借りてフォーカスされる。この目的のために、これらのレンズは例えば同じ面内に配置されるが、レーザビームによって焼き払われるべき領域の深さに応じて異なる焦点長を有している。図1において、レンズ7が最も短い焦点長を有し、レンズ9が最も長い焦点長を有する。もちろん、異なる面内にあって同じ焦点長を有するレンズもまた、所望であれば使用することができる。正確度がより低いレリーフでは、ほぼ同じ焦点長を有するレンズもまた、印刷ブロックブランク1から同じ距離に配置されることができる。また、所望であれば、個別のレーザビーム3、4、及び5に対して、異なるビーム径を使用することも可能である。
【0046】
図2は、図1に示された原理の変形を示している。ここでは、印刷ブロックブランク1の上部領域10とこの上部領域10に作用するレーザビーム3とが、スペクトル的にお互いにマッチしている。この目的のために、印刷ブロックブランク1の表面が、上部領域10において、レーザビーム3の波長に特に感度を有する対応する材料によってコーティングされている。この場合、レーザビーム3は、例えば波長が1060μmであるYAGレーザによって作り出されることができる。ビーム自身は、50?100ワットの範囲のパワーを有することができる。そのようなレーザによって、焦点において約10μmのビーム幅が得られて、印刷ブロックブランク1の表面領域に極めて微細な構造を形成することができる。しかし、この目的のために、領域10における材料は、レーザビーム3によって容易に焼き払われることができるように選択されなければならない。残るレーザビーム4及び5はここでも、各々200ワットのCO2レーザによって生成されてもよく、レリーフのエッジからある距離における低レベル領域を焼き払うことができる。ここでは、そのような高精度は必要とされず、焦点領域におけるビーム幅として30?35μmが許容可能である。
【0047】
図1及び2において、レリーフ構造が台座(ペデスタル)のような形状を有していることが見てとれるかも知れない。この目的のために、トラック6の方向におけるレーザビーム3、4、及び5は、トラック6の方向における異なる点でオフされる。これによりステップ状の台座形状が形成されて、側面の傾きは、フォーカスされたレーザ照射の経路にほぼ一致する。台座の側面には、図1及び2では参照番号12及び13が付けられている。
【0048】
図3は、一様に黒塗りされる領域の形態の基本レリーフパターンを示している。この基本レリーフパターン14は印刷されるべき領域であって、その周囲が低層領域15、16、及び17によって取り囲まれていなければならない。印刷ブロックブランク1の材料は、したがって領域15、16、及び17では焼き払われなければならない。結果として得られる構造は、図4に見ることができる。この場合は、図3における線A-Aに沿った断面である。
【0049】
図3に示されている基本レリーフパターン14は、レーザビームをオン・オフスイッチングするために使用される。基本レリーフパターンは、最初にコンピュータスクリーン上に表示されて、それから電子メモリ内に一時的に記憶されることができる。トラックがそれから配置され、レリーフが彫られるときにはその上をレーザビームがガイドされる。図3における線A-Aがそのようなトラックであると考えても良い。基本レリーフパターン14は、境界18、19を有して正面又は背面に、すなわち内側又は外側に設けられることができ、これによって印刷ブロックブランク1の材料が焼き払われるべき領域15、16、17を規定する。図3のトラックA-Aと基本レリーフパターン又は境界18、19との交点には、レーザビームのターンオン点及びターンオフ点があり、領域にしたがって分類され組み合わされてデータファイルを形成する。
【0050】
例えば、もし図3の線A-Aに沿って矢印6の方向に、より正確には図1のレーザビーム3、4、及び5とともに移動すると、トラックA-Aと基本レリーフパターン14との最初の交差点は、レーザビーム3に対するターンオフ点X3になる。これは図5に示されている。境界18とトラックA-Aとの交差点がレーザビーム4に対するターンオフ点X4となり、境界19とトラックA-Aとの交差点がレーザビーム5に対するターンオフ点X5となる。点X4及びX5はまた、図5にも描かれている。図3のトラックA-Aに沿って更に矢印6の方向に移動すると、レーザビーム3、4、及び5に対するターンオン点、及び再びターンオフ点が現れるなどして、最終的にレーザビーム3、4、及び5をオン・オフスイッチングするための図5に示される3つのデータファイルD3、D4、及びD5が得られる。
【0051】
データファイルD3、D4、及びD5は、各々「1」及び「0」の値を有しており、音響光学変調器を駆動する作用をする。音響光学変調器は、レーザビーム3、4、及び5をスイッチングするために使用される。図5におけるトラックの始めがX=0にあるとすれば、レーザビーム3を使用するトラックの1回目の通過時において、部分Aの上方の領域17、16、及び15が、レーザビーム3がX3にてオフされるまで焼き払われる。トラックの2回目の通過時には、レーザビーム4がX=0にてオンされ、X4でオフされて、この第2のレーザビーム4によって領域17及び16で部分Bが焼き払われる。トラックの3回目の通過時には、レーザビーム5がX=0にてオンされ、X5でオフされて、部分Cの上で領域17のみが焼き払われる。このようにして、位置X=0から見ると、レーザビーム3が最も遅くオフされて、レーザビーム5が最も早くオフされる。図3における基本レリーフパターンの右手の分岐枝を通過した後、レーザビーム3、4、及び5はそれから再びその順序でオンされる、などである。
【0052】
ターンオン及びターンオフ点又はデータファイルは、境界18及び19を生成しトラックA-A及びトラック方向を決定した後に、適切なコンピュータプログラムの助けを借りて自動的に生成されても良い。
【0053】
図6は、本発明にしたがった印刷ブロック、例えばフレキソ印刷ブロックを製造するための装置の構造を示している。
【0054】
この装置は、加工台20を有するレーザ彫り加工器を含んでいる。加工台20の上に回転可能に搭載されているのは、彫り加工の対象となる印刷ブロックブランクであって、この場合には中空シリンダ状に構成されている。この目的のために、印刷ブロックブランク1は中央シャフト20aを有しており、これには、加工台20の上に設けられたベアリング20bに組み込まれている。印刷ブロックブランク1は、モータ21によってその中央軸の周囲を回転することができる。エンコーダ22又は回転パルス発生器が、印刷ブロックブランク1のそのときの回転位置に対応したパルスを生成する。キャリッジ23が、印刷ブロックブランク1の軸に平行なガイド24上を移動される。ねじ軸25がこのキャリッジ23をガイド24に沿って駆動する役割を果たし、このねじ軸25はドライブ26によって一方向又は反対方向に回転されて、キャリッジ23をそれにしたがって移動させる。
【0055】
キャリッジ23の上に搭載されているのはレーザ27であって、これがレーザビーム28を発する。このレーザビーム28は、必要ないときにはシャッタ29によってブロックされる。レーザビーム28は、ビームをオン・オフスイッチングする変調器を通過し、且つ偏向ミラーによって例えば90度だけ偏向され、レンズシステム32によって円筒状印刷ブロックブランク1の上にフォーカスされる。このフォーカスされたレーザビーム28の助けを借りて、印刷ブロックブランク1の上部領域が部分的に焼き払われ、印刷ブロックブランク1の表面にレリーフが彫られる。この目的のために、円筒状印刷ブロックブランクは、その表面がポリマコーティングされており、レリーフの形成後にフレキソ印刷ブロックが得られる。
【0056】
このユニットの動作制御のためにマシン制御システム33があり、これは制御リードを介してレーザ27、変調器30、回転ドライブ26、モータ21、及び回転パルス生成器22に接続されている。
【0057】
図6の装置は更にCADシステム34を含み、これは、マシン制御システム33を駆動させる役割を果たす制御コンピュータ35に接続されている。
【0058】
このCADシステム34の助けを借りて、設計者は、関連したモニタスクリーンの上にパターンを、例えば図3に示される基本レリーフパターン14を描くことができる。適切なコマンドを使用して、設計者はそれからCADシステム上で、基本レリーフパターン14に関して境界18及び19を規定することができ、この境界が、印刷ブロックブランク1の表面上で基本レリーフパターンの外に除去されるべき領域を決定する。設計者はまた、図3におけるトラックA-Aを決定することもでき、それに沿って印刷ブロックブランク1が後に彫られることになる。この後、CADシステム34は図5に示されるパターン情報又はデータファイル、除去されるべき領域の数に合致したデータファイルの数を計算する。既に述べたように、これは、連続して使用された複数のレーザビームを使用して、実行されることができる。パターン情報又はデータファイルD3?D5はそれから、CADシステム34によって制御コンピュータ35に転送され、そこで、加工時にマシン制御システムに最終的に供給されるように記憶される。マシン制御システムは、印刷ブロックブランク1の中央軸周りの回転、レーザビーム28を印刷ブロックブランク1の表面上の所定のトラックに沿ってガイドするためのキャリッジ23の対応した変位、及びここでは音響光学変調器として構成されている変調器30を使用したデータファイルD3からD5によるレーザビーム28のオン・オフスイッチングを、確実に行う。
【0059】
マシン制御システムの内部構造が、より詳細に図7に示されている。図6における要素に相当する要素には同じ参照番号が付されており、ここでは再び説明されない。
【0060】
このマシン制御システム33は、中央制御ユニット36と共に複数のアナログスイッチ、この場合には3つのアナログスイッチ37、38、及び39を含んでいる。出力側では、アナログスイッチ37から39の各々は、変調器30の制御入力に接続されている。対照的に、入力側では、各アナログスイッチ37から39は、リード41、42、及び43をそれぞれ介して、中央制御ユニット36から異なる制御電圧を受領する。これより、アナログスイッチ37?39のうちの一つの動作開始に応じて、異なる振幅の制御電圧が変調器30に到達し、アナログスイッチ37?39の選択にしたがって、レーザビーム28の強度又はパワーが変調器30によって制御されることができる。アナログスイッチ37?39の各々の選択又は駆動は、制御リード44、45、及び46を介して行われ、それらを通じて中央制御ユニット36は各場合にデータファイルD3、D4、D5のうちの一つをアナログスイッチ37?39のうちの一つに送る。
【0061】
引き続いて、図4に示されるパターンが、実際に単一のレーザ27のみを使用して印刷ブロックブランク1の境界線に沿って彫られるものとする。
【0062】
この場合、例えば印刷ブロックブランク1が3回転するか、又は、トラック上を3回通過することが必要である。トラックの1回目の通過時において、図4における部分Aの上方の表面領域は、比較的低い照射を使用して彫られる。この目的のためには、データファイルD3がアナログスイッチ37の制御入力に到達し、それがそれから、データファイルD3を保持しながら比較的低い電圧を接続して、このスイッチングされた低電圧を変調器30の制御入力に伝達する。トラックの次の通過時には、データファイル4がアナログスイッチ38の制御入力に到達し、これが今度は、例えば図4における領域Bのエロージョンのために、データファイルD4にしたがって高い電圧をスイッチングして、このスイッチングされた高電圧を変調器30の制御入力に伝達し、今回はレーザビーム28が印刷ブロックブランク1の表面に高強度で到達する。トラックの3回目の通過時では、制御は、第3のアナログスイッチ39の制御入力におけるデータファイルD5の使用を通じて実行され、これが同様に、変調器を制御するための高電圧を駆動することができる。
【0063】
上述の動作は、次の平行トラックのためなどに繰り返されても良い。上記のシステムはもちろん、彫り加工時間を短縮するために複数も設けられることができる。その場合には、トラックの各々の通過時において、キャリッジ23が静止している。らせん状の経路に沿った彫り加工もまた可能であり、ブロック境界を避けるためのインターレースモードでの動作も更に可能である。
【0064】
図8は、本発明に従ったレーザ加工システムの第2の実施形態を示している。図6及び7における要素に相当する要素には、ここでもまた同じ参照番号が付されており、再び説明されない。
【0065】
図6及び7にて例示された実施形態から異なる点として、この場合のキャリッジ23は、お互いに並んで配置された3つのレーザ27a?27cを有している。これらのレーザの各々には、専用シャッタ、専用変調器、及び専用レンズシステムが割り当てられている。ここでも音響光学変調器として構成されている変調器30a?30cの各々に割り当てられているのは、マシン制御システム33内の専用アナログスイッチであり、その各々が図7におけるアナログスイッチ37?39に対応している。これらには、同様に同じ又は異なる入力電圧が供給されて、異なるパワーのフォーカスされたレーザ放射を提供することができる。
【0066】
円筒状印刷ブロックブランク1をその長手軸の周囲に回転させ、且つキャリッジ23が同時に図8の右から左に変位されると、フォーカスされたレーザビーム28a?28cが、印刷ブロックブランク1の表面上のねじ付きリニアトラック上を移動する。そうするにあたって、フォーカスされたレーザビーム28aが先行し、最初に、図4における領域Aに対応する表面領域を彫る。次に、フォーカスされたレーザビーム28bが同じリニアねじ付きトラックに沿って移動し、そのようにして図4の領域Bに対応する領域を彫る。その後、同じトラックがフォーカスされたレーザビーム28cによって交差され、トラックに沿った図4における領域Cに対応した領域を彫る。この場合もまた、フォーカスされたレーザビームのパワーは、例えば異なる振幅の電圧を音響光学変調器の制御入力に供給してそれらを対応するデータファイルにしたがって駆動することによって、図7に示された例示的な実施形態に合致するように制御されることができる。ここでもまた、円筒状トラックのみがスキャンされるようなブロックの動作も可能である。
【0067】
本発明の装置の第3の例示的な実施形態が、図9に描かれている。ここで再び、図6?8における要素と同一の要素には同じ参照番号が付けられており、再び説明はされない。ここで、図8における実施形態とは対照的に、キャリッジ23は固定位置に設けられている。すなわち、これはもはや、円筒形状をした印刷ブロックブランクの長手方向に沿って変位可能ではない。逆に、印刷ブロックブランク1がここでは、シリンダの長手軸方向に変位可能に搭載されている。この目的のために、ここではガイド24上に配置され、例えばねじ軸25によって駆動される。このねじ軸自身は、回転ドライブ26によって一方向又は反対方向に回転される。この配置は、非常に多くのレーザが、印刷ブロックブランク1を同時に加工するために使用されるときに有効である。なぜなら、この場合、この多数のレーザを、可動キャリッジの上で十分に安定し且つ振動を生じさせずに並進移動させることが不可能だからである。
【0068】
本発明に従った第4の例示的な実施形態が図10に示されている。この場合、3つのフォーカスされたレーザビーム28a、28b、及び28cが、円筒状印刷ブロックブランク1の円周方向に設けられたトラック上に同時に到達する。そうすることで、これらの3つのフォーカスされたレーザビーム28a?28cは、この円周方向に相互にオフセットされている。これらは3つのレーザ27a、27b、及び27cの助けを借りて生成され、これらのレーザは、例えばキャリッジ23の上に相互に積み重ねられて配置され、3つの音響光学変調器30a?30cによって駆動又は変調されることができる。焦点合わせは、3つのレンズ32a?32c、ビームの上端及び下端に設けられた偏向ミラー31a?31cによって実行される。ここでもまた、これら3つのレーザビームは、図5に示されるスキームに従って音響光学変調器30a?30cによって制御されることができる。
【0069】
【発明の効果】
本発明によれば、非常に微細で且つ同時に深い構造でさえも迅速且つ単純に作成されることができる、印刷ブロック、特にフレキソ印刷ブロックを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】その表面にレリーフを製造するための印刷ブロックブランクの加工における本発明の原理の図である。
【図2】印刷ブロックブランクの表面がスペクトル的に適合されている場合における図1に示される原理の図である。
【図3】基本レリーフパターンからの距離が大きくなるとより深くなるレリーフ領域を識別する境界を有する基本レリーフパターンの図である。
【図4】図3の線A-Aに沿った断面図であり、印刷ブロックブラックの表面における仕上げ後レリーフの構造を説明する図である。
【図5】図3に線A-Aに沿って示された基本レリーフパターンから生成された3つのデータファイルである。
【図6】印刷ブロックを製造するための本発明の第1の例示的な実施形態による装置である。
【図7】図6に示される装置の正確な構造である。
【図8】印刷ブロックを製造するための本発明の第2の例示的な実施形態による装置である。
【図9】印刷ブロックを製造するための本発明の第3の例示的な実施形態による装置である。
【図10】印刷ブロックを製造するための本発明の第4の例示的な実施形態による装置である。
【符号の説明】
1 印刷ブロックブランク、2 表面、3,4,5 レーザビーム、6 トラック、7,8,9 レンズ、10 上部領域、11,12,13 台座の側面。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-09-05 
結審通知日 2006-09-07 
審決日 2006-09-20 
出願番号 特願2002-148852(P2002-148852)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (B41C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 江成 克己  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 國田 正久
長島 和子
登録日 2004-05-21 
登録番号 特許第3556204号(P3556204)
発明の名称 印刷ブロックを製造する方法及び装置  
代理人 吉田 研二  
代理人 吉竹 英俊  
代理人 石田 純  
代理人 吉田 研二  
代理人 松岡 直之  
代理人 石田 純  
代理人 有田 貴弘  
代理人 吉田 茂明  

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